複雑・ファジー小説

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駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜
日時: 2012/03/24 21:51
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=6161

ここに書くのは『2の2くえすと』以来ですが……覚えていますでしょうか。

こんばんわ。こんにちは。おはようございます。山下愁です。
上記のスレッドは企画で参加してもらった人がいます。現在でも企画は進行していますが、参加はご遠慮ください。

さぁ、この小説には私の小説『黒影寮は今日もお祭り騒ぎです』を読んでくれている人が参加しています!
えーとですね、私の技量が半端なく悪いので、そこら辺はあしらず。
申し訳ないです馬鹿作者のダメ作者で。

と言う訳で。
黒影寮は今日もお祭り騒ぎです! の劇場版パート2です。
タイトルスレッドがおかしいですが、まぁ興味のある方はどうぞ見てください。


それではここでの注意ですね。

1 キャラがわからないから見れない? 大丈夫です、優しく解説しましょう。
2 駄作が嫌? それならUターンしてください。神作に期待しないでください。
3 山下愁誰? 私ですダメ作者です。
4 誹謗中傷しに来た? 帰ってくださいお願いします。
5 荒らしに来た? もちろんお帰りをお願いします。

まぁいつも通り。


それではお楽しみいただければ幸いです。
目次? そんなんねぇよ。

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.8 )
日時: 2012/03/26 17:41
名前: 北大路 ◆Hy48GP/C2A (ID: vlinVEaO)



翔が居ない黒影寮・・・想像つかんw
地獄、命が沢山あるなら行ってみたいなあ←

とりま、自分の出番が思っていた以上に多くて嬉しかったでs(ry

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.9 )
日時: 2012/03/26 21:19
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

北大路様>>


翔がいない黒影寮とか考えられないかなww
だって一応メインキャラの1人だからねもうね本当ね。翔には地獄に帰んないでほしいかな。

こんなのが本当に地獄だったら怖いかなぁっと……。
上川純さん。純☆純です!
いや、そう呼ぶと逆に怖いというか変換が面倒くさい。やっぱ純で。

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.10 )
日時: 2012/03/26 22:01
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第4章


 地獄の町のどこかしらの店に入った一行は、とりあえずコーヒーを大量に頼む事にした。
 ウエイトレスは苦笑いしながら厨房へ引っ込んだ。
 何だか現実のスター○ック○コーヒーに似ているのは気のせいだろうか?

「ここは地獄で有名なコーヒーチェーン店のヘルファックスコーヒーよ」

「何だかイントネーションが似てますね」

 注文したカプチーノをすすりながら、銀は苦笑いを浮かべる。
 純はキョトンとした表情をして、首を傾げた。

「何とイントネーションが似ているの? 私、あまり地獄と天国から出ないのよね」

 ま、名前はそれらしい奴にしたんだけど、とあとから純が付け足す。そしてカフェラテを一口飲んだ。

「さて、どこから話しましょうか。まずは東翔の位から言おうかしら?」

「位? 何それ、ランクみたいなものなのか?」

 興味を示した空華は、ブラックコーヒーを置いて純に訊く。
 純は首肯して答えた。

「えぇ。炎の死神にも操れる炎の量で位が変わってくるのよ。
 まず1番下っ端が炎(ファイヤー)。ここまではいいわね。
 次に赤炎(レッド)が来るわ。炎の少し量が増えたぐらいかしら。
 次は紅炎(クリムゾン)ね。赤炎からさらに量が増えているわ。
 そして業火(ゲヘナ)。紅炎からレベルアップしてる。
 最後に獄炎(ヘルプロミス)っていう炎ね。これが最高ランクになるわ——本来なら」

 最後に本来なら、という意味深長な言葉を残して純は台詞を切った。カフェラテをのどに流し込み、説明を再開する。

「東翔の炎は、このランクのどれにも属さない」

「……それってどういう」

「言った通りの意味よ。東翔が出てきたから、地獄は変わってしまったわ。彼が獄炎よりも上のランクを出しちゃったのよ。地獄も天国も神も仏も悪魔も天使も全てを焼き尽くす炎——地獄業火(インフェルノ)を確立させてしまったの」

 コーヒーを吹き出すかと思った。
 黒影寮は一斉に気管へコーヒーを詰まらせ、思いきりむせかえる。テーブルにカップを叩きつけ、げほごほとむせた。
 ただし、昴と空華だけは何食わぬ顔で聞いていた。

「あら、どうしてお2人さんだけは素知らぬ顔で聞いているのかしら?」

「俺は……別に」

 昴はフイ、と視線をテーブルに移し、沈んだ声音で言う。
 空華はちゃんと理由を説明した。

「いや、この前にさ。翔に出くわしたんだよ、仕事中の」


 〜空華視点・回想〜

 あの時、俺様は宿題をやっててさ。少し小腹が空いた訳よ。だからコンビニまで気分転換に行こうかな、なんて考えて。
 それで夜の森を歩いていたら、奥が明るく光ってる訳。何だろうと思って覗いたら、翔が何かやってた。
 青い炎に話しかけているんだ。いやぁ、さすがにびっくりしちゃって声は出なかったけど。
 すると、翔はその青い炎へ赤い鎌を近づけたのさ。

「————うわ!」

 青い炎は赤い炎に焼かれてなくなっちまった。それを見て、翔は。

「あー、失敗。魂焼いた。くそ、ちょっと浄化するだけが……やっぱりアカツキとかに任せるべきだったか」

 なんてつぶやいているものだからね。
 浄化できる炎……死神は地獄からの使者で来るとか聞いた事ある俺様だから、それを思い返した。さっきの炎のランクを聞いて思い出したよ。
 死神が使える炎はせいぜい獄炎——ここまでが悪しきものを浄化できる炎なんだ。だけど、翔は違う。
 奴が使える地獄業火。あれは善きものも悪しきものも全てを焼きつくす、まさに同族にとっては恐怖の存在さ。


——と、ここまでが俺様の推理と回想。ご清聴ありがとうございました」

「すごいね、9割正解。だけど1割違う。死神どもは翔の炎を恐怖の存在なんかじゃ見てないさ。羨んだんだ」

 純は飲み終わったカップを置き、説明をする。

「そんな炎が使えれば、閻魔様になる事だってできる。閻魔になるとね、好き勝手に人を生き返らせたり同族を殺したりできる訳。死神から閻魔になる事だって珍しくないんだからね」

「じゃあ、菊牙さんが……」

「ハァ? 菊牙って誰? リトラス、あんたの仕事仲間?」

 近くでコーラフロートを飲んでいたリトラスは、純の質問に首を横に振った。

「任務対象にもいないよ、そんな人」

「地獄の王の名前は『オルシアン・ルテ・アラスベルク』っていうんだ。まぁ、前任だけど」

 全員の動きが止まる。
 前任と言う事は、菊牙は閻魔の座を誰かに明け渡したという事になる。

「ま、別にいいんじゃない? それよりも、今は次の炎の死神に会おうか。アカツキは家にいるかな?」

「いると思うよ」

 白刃が持っていた鏡から突如姿を現したのは、翔の従弟でもある紫月だ。
 紫月の姿を見た純とリトラスは、目を丸くする。

「紫月じゃないか! あんた、鈴について行ったんじゃないのかい?」

「ついて行った結果がこれ。多分いるよ、姉さんなら」

 紫月は顔をしかめ、そして言う。

「アカツキは、僕の姉さんだよ。実のね」

***** ***** *****〜銀視点〜

 何かもう作者が疲れたらしいので、私視点になりました。
 と言う訳で、紫月さんの実家に来ました。大層な家です、一軒家です!

「姉さん、いるー?」

「その声は紫月! 翔君はどこへやったーっ!」

 突如、炎が飛んできました。紫月君はそれに電撃を当てて相殺します。
 玄関から出てきたのは、黒いコートを着た、赤い髪の女の子です。何だか羅さんみたいな感じの女の子が、紅蓮に輝く鎌を持ち紫月君にずかずか近づきます。

「あれ、誰この人達」

 おそらく、この人が件のアカツキさんでしょう。
 アカツキさんは私達を見て首を傾げました。

「ねぇ銀。ちょっと鏡をアカツキの方へ向けてくれる?」

「ハイ、いいですけど。鏡越しからアカツキさんと会話するのですか?」

 鈴は何を考えているのでしょうね。
 まぁいいでしょう。私はとりあえず、鈴の言う通りに鏡をアカツキさんの方へ向けました。

「俺は神威鈴。紫月を召喚する銀の鈴だ」

「……神様を調伏する鈴か。一体何? あたし、今すごく機嫌が悪いんだ。何か言えば即燃やす、その女もろとも」

 アカツキさんは私に鎌を向けてきました。それを阻止せんと、紫月さんが前に立ちます。
 鈴は構わずに話し続けました。

「翔が処刑されるんだってな。お前も助けたいんだろ?」

「助けたいけど……城の中には入れない。翔君は城の北塔に幽閉されてるって聞いたし……あたしには助けられない」

「俺についてくれば助けられる」

 紫月さんの表情がやけに暗くなりました。

「どういう事? まさか、あんたに調伏されろって?」

「ま、そう解釈するならどうぞ。だけど、それで助けられる可能性は上がる。どう? 一緒に来ない?」

 アカツキさんは調伏されるように訊かれますが、渋っている様子です。
 そこで、鈴がトドメの一声。

「俺は基本的に自由にしてるからな。ちゃんと俺と銀の命令が聞けるなら、紫月と同じように鏡の世界を行き来できる——つまり、翔に会いたい放d「よし、そっちの鏡の世界にはどうやって行けばいい?」

 30秒で調伏される事を選びました、それほど偉大なのですね。
 純さんはぱちぱちと感心したように拍手をしました。

「じゃあ、次は天国に行きましょうか? とある人達を迎えにねー」

「とある人達って、誰?」

 怜悟さんが純さんに問いかけました。
 純さんはニッコリとした笑顔で答えます。

「異端者のメディ・ゴーゴストさんを」

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.11 )
日時: 2012/03/26 22:29
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第5章


 天界。
 天使やよい事をした人達が住まうこの明るい場所——神様の場所でもある。
 どうせなので天使悪魔神様鬼を全て召喚してやれー、と鈴が言ったので、全員が召喚された。

「うわー、天界懐かしい」

 ディレッサはぼりぼりと頭を掻きながら言う。雲の床——ではなく、白を基調としたタイルをカツカツつま先で叩く。
 ヴァルティアも神様なので、「懐かしい……」とつぶやいていた。

「さっさと行くよ。異端者の情報はアサギからもらわないと」

 純はリトラスを引き連れて、町をずんずん歩いて行く。
 その後ろにアカツキ・紫月と続き黒影寮と続く。

「天音さん。天音さんももしかして、天界から?」

「ハイ。天界から来ましたよ? 鈴さんに調伏されたというか、一緒に来いと言われたんですよ」

 銀は改めて鈴のすごさを知った。
 一行は、とある1つの古い薬屋さんで止まった。

「アサギ。いる?」

「いません」

「いるじゃん」

 暗い店内に軽くツッコミを入れつつ、純は薬屋に入る。
 カウンターに座っていたのは、首の辺りで切れた黒髪に緑色の瞳を持つ女性だった。白いワイシャツに緑色のネクタイを緩く縛っている。
 彼女・アサギは軽くため息をつき、

「異端者なら私の担当じゃないわよ」

「じゃあ誰の担当よ。早くしなきゃ、翔君が処刑されちゃう!」

 アカツキは脅しをかけるようにアサギへ鎌を突きつけた。
 アサギは対して驚きもせず、

「ラピスル・レムラちゃんとアオイちゃんに任せちゃったわ。私、関係ない☆」

「うん、関係ある。どうせ鍵はあんたが所持してんでしょ、協力しなさい」

「えー。一介の薬屋にどうしてそんな事を言うの? ていうか、私が作れる薬は炎が出る薬とか翼が生える薬だからね?」

 アサギはどうしても行きたくないらしい。
 そこで、天音がアサギのネクタイをいきなり引っ張った。

「つべこべ言わずについて来てくださいアサギさん。一刻を争うんです」

「……そー言えば、翔って東翔よね。死神が処刑なんて珍しいじゃない。あの子の仕事じゃなかったの?」

 アサギは天音の腕を振り払うと、純に問いかけた。
 純は面倒くさそうに、「そうみたいね」と言った。

「じゃあ、神様も簡単に承認しちゃった訳ね。何をしてるんだか、まったく」

「ちょっと待ってください! 天界も承認しないと、死神の処刑は実行されないのですか?」

 銀がアサギに問う。
 アサギは銀の方へ緑色の瞳を向け、首肯した。

「おそらく、適当に承認したのね。王族だからって呆れるわ。確か前任は『シェン・ルテ・アラスベルク』じゃなかった?」

 今は知らないけど、と言った瞬間、黒影寮がUターンし始めた。

「え、どこに行くの?」

 リトラスが問いかけると、全員は声をそろえて、

「「「「「王族とやらに喧嘩を売ってくる」」」」」

 と答えた。
 それを慌てて止める純とリトラス。その中にアカツキも交じっていたからさぁ大変☆

「どうしてアカツキまで行こうとするの?! あんたも処刑されるよ?!」

「翔君と死ねるならそれもまたよきかな!」

「何でそこまで昔口調! もう、逃げたい! 大地はどこに行ったの!」

 さっきから出番がないじゃない、と純が叫ぶと、ショーケースを見ていた大地はボケーとした声を上げた。

「え、何?」

「このおバカ野郎が!」

 純は大地に向かってドロップキックを放つ。そして黒影寮もリトラスを使って全力で止めた。

「普通の人間が行ったところで、城にも入れずに殺されちゃうわ。その為に天界に来たんだから」

「……それで、何とかなるのか?」

 昴は純へ目線を向ける。
 純はため息をつくと、

「面倒だけど最後まで付き合ってあげる。異端者を迎えに行くから、空の庭まで行くわよ」

 と、その時。
 トントンとアサギの薬屋にノックが響き渡る。入ってきたのは白いスーツを着た天使だった。

「この店に手続きをしないで入国したものがいる。心当たりは——」

 天使は黒影寮全員に目を向けると、剣を構えた。何で?

「捕えろ!」

「ちょっと何でぇぇぇ!」「アサギも来なさい!」

 全員は薬屋を飛び出すと、目の前にあった馬車に乗り込んだ。
 馬車って人力で動かせるっけ?

「動かせないに決まってるだろ、どうするんだよ!」

 馬車の壁を叩く蒼空。
 すると、蓮が馬車から下りて全員に行った。

「あいつらが来たら追い払え。俺が何とかする」

「何とかって、人力でどうにかなる代物じゃないわ! どうするの、これは天馬用よ?!」

 アサギが叫ぶと、蓮が姿を変える。
 人の体から馬の体へ——それはまさしく、白い翼を生やしたペガサスだった。

「これつなげればいいか。昴、やって」

「任せろ、適当でいいな!」

「お前が掴んでいてくれるならな! 行くぞ!!」

 蓮は翼を動かして青い空へ飛び上がる。
 下からは、天使の悲鳴が聞こえてきた。

Re: 駆け抜けろ、地獄と天国と幽閉された死神〜黒影寮☆劇場版〜 ( No.12 )
日時: 2012/03/27 18:49
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

劇場版 第6章


 空の庭。天界から遥か彼方に浮かぶ島である。
 そんな空の庭にいるのは、1人の死神と1人の天使と牢屋に入れられている少女だった。

「メディさーん。そんなに睨んだって、出してあげませんよ? さっき勉強をさぼったバツですよ」

 純白のローブを羽織った天使——アオイが牢屋にいるメディ・ゴーゴストに言う。
 天界を乱そうとした異端者・メディは現在空の庭に隔離されている。見張りとしてアサギがたまに見ていたのだが、面倒になったのかアサギは2人の少女に任せる事にしたのだ。
 それがアオイとラピスル・レムナだったという訳である。

「……どぉして勉強をさぼっただけで……」

 メディは恨めしそうにアオイを睨みつける。
 アオイは少し顔を引くつかせたが、負けじと言い返した。

「あなたはシェン様を崇めない天使だから、異端者としての烙印を押されたのですよ? シェン様を知り、崇めるのが我ら天使の役目です」

「地獄を崇めたっていいじゃない……」

 メディは思い切り舌打ちをする。本当に機嫌が悪いようで。
 ラピスルは茶髪をゆらゆらと揺らして、

「どうして死神の私がこんな綺麗な場所にいるのかな? 地獄の眷属だけど……」

「いいじゃないですか。シェン様はいいって言ってくれていますし」

「まぁ、天使の仕事ができるからいいかな。私、天使になりたかったの」

 すると、空の庭にガチャリという錠が外れる音が聞こえた。
 何だろうと思った少女達は、顔を上げる。
 ゲートが開き、現れたのは——

「ヒヒン」

 馬車を引いたペガサスだった。
 ラピスルは無言でゲートを閉めた。そしてニッコリとした笑顔で、

「見間違いですよね☆」

 なんて言う。
 アオイも見間違いと決めつけた。メディも。
 すると、またゲートが開いた。

「今度は——け、ケルベロス?」

 3つの頭がついた犬が、ラピスルを見上げていた。
 ゲルべロスと言えば地獄の眷属の1つ。地獄の城の番犬をする、あの凶暴な犬ではないか。

「見間違いです」

 ラピスルはまたしてもゲートを閉めて、ニッコリと見なかったふりを貫いた。
 すると、再びゲートが開く。

「今度は誰ですか! サイクロプスですか?!」

 ラピルスは振り返る。
 そこに立っていたのは、1つ目の青い色をした巨人だった。名前はサイクロプス。手先が器用な巨人族であるが、

「本当にサイクロプスだったぁぁぁぁあ! 怖いぃぃ!」

「おい、さすがに怖がってるぞ。止めておいた方がよくないか?」

 サイクロプスは馬車に向かって話しかける。
 いいんじゃない、とどこか知った声で答えが返ってくる。同時に、サイクロプスは銀髪の人間へ戻った。

「え、え?」

 混乱しているラピスル。
 馬車から下りてきたのは、アサギと純とアカツキと同僚のリトラスと大地と——あとは誰?

「あぁ、この人達は黒影寮。東翔を救いに来たんだって」

 アサギは軽くラピスル達に事情を説明した。

***** ***** *****

「——で、皆さんは東翔さんの処刑を止める為にこちらの世界にやってきたのですか? 大変ですね」

「待て待て。君は大天使でしょうが、普通に城に入れるんでしょうが!!」

 純が思い切り突っ込んだ。
 アオイは何が何だか分からないと言った様子で首を傾げる。

「お願いです、力を貸してはくれませんか?」

 銀はラピスルの手を掴んでお願いした。
 ラピスルは苦笑いで、

「うーん、この仕事があるからね。メディさんを見張っていないといけないし……」

「その事なんだけど。メディ・ゴーゴストの力が必要なのよ」

 アサギの台詞を聞いて、ラピスルとアオイは顔を上げた。

「メディの『異端者の力』——確か、睨んだだけで人を動かせなくなる力よね。その力を使って天使どもを黙らせてほしい訳よ、下手に戦ったら殺しちゃうかもでしょ——特にアカツキが」

「え、翔君を助ける為ならその手段もいとわないよ?」

 アカツキは鎌を持ち上げて首を傾げた。
 アサギは全力でそれを否定する。

「何で天使を殺そうとするの。いい? 天使の試験は死神の試験と同等に難しいの。簡単に天使の数を減らしちゃ可哀想でしょうが、神様が」

「えー」

 可愛らしくぶすくれるアカツキ。
 ラピスルはため息をつくと、

「じゃあ、私も協力しましょう。翔さんが処刑されるのは小耳にはさみましたが——許せませんので」

 続いてアオイも。

「私も協力する!」

「ちょっと待った! あんたはイケメン如きの為に協力しなくていいよ!」

 協力する——と言ったところで、羅に全力否定された。
 どうして?! とアオイが言うと、

「だってこのまま行けばあの少女容姿イケメン死神は処刑されて、銀ちゃんはあたしのもの! イケメンが1人でも減ればハッピーだもんね!」

「翔君は処刑させないもん! だったらあたしに頂戴よ!」

「いいよやるよあんなイケメンなんていらないもん!」

 羅はさりげなく銀とアオイを抱きしめながら言う。翔はものか、ものなのか。
 銀はため息をつくと、アオイに「少しごめんなさい」と断った。

「……羅」

「ハッ! そのお声は鈴様?! 出てきたの?!」

「銀が悲しむ事はしたくないんだけど……銀は翔のものじゃないし、翔は黒影寮の寮長だし、ていうかここまで来たのは全部翔の為だし——協力しないと嫌いになるよ?」

「ごめんね鈴様、あたし協力する事にした」

 羅は顔を青ざめながら答えた。
 軽く脅してるじゃん。

「……別にいい。協力しても」

「そぉ? 協力してくれるんならいいわ。ただし少しの間出すだけだからね? 神様に内緒だから」

「……ん。メディ・ゴーゴスト・エリファンスの名に懸けて」

 ん? と黒影寮は動きを止める。
 何だかメディ・ゴーゴストのあとに余計な名前が続いていたような……。

「……これが、私の名前」

「そうだぜ。神様にも死神にも天使にも色々名前があるもんだ」

 鈴が鏡の中から言う。
 何でも、鈴は「自分についてこい」と言う際に、神様達が自分の本当の名前を預けるのだそうだ。約束と共に。
 その約束とやらは、自分達を使い人を守る・人の笑顔を守る事。
 神様達にとって、本当の名前は簡単に人に教えない大切なものなんだとか。

「ま、あたしも調伏される側だし、絶対『翔君と会わせる』っていう約束は守れよ? 神威鈴」

「はいはい……」

 鏡の中からため息をつく鈴。
 銀は興味本位で訊いてみた。

「アカツキさんも本当の名前を鈴に渡すのですか?」

「渡すよ。だから、銀ちゃんも耳の穴をかっぽじって聞いてるように。1回しか言わないからね」

 アカツキは決心したように、その名を告げた。

「アカツキ・レジェ・ルシアン——黒羽朱月のもう1つの名前」


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