複雑・ファジー小説
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- 罪とSilencer 【リメイク前】【早く読みたい人用】
- 日時: 2014/08/13 10:56
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
————甘すぎた。犯罪者といえども、人間だと思っていたのが悪かった。次からは厳しくしていこう……————
・今年の8月15日のコミックマーケットの西ーう11bのサークル『電脳教団』で罪とSilencer外伝を出展
注意書き************
・荒し厳禁。アドバイスや感想は大歓迎。というかめっちゃうれしいです。
・フリガナを括弧で表すので注意。
・前作(罪とDesert Eagle)読んでいない人でもわかるようにします。
********************
おはよう、こんにちは、こんばんわ、初めての人は初めまして、檜原武甲です。記念すべき第一作目の世界から三年後たった話、『罪とSilencer(ツミトサイレンサー)』です。主人公も変えて、楽しくなるようにします。
コメントをくれたらうれしいです。なお、「小説家になろう」にも連載する予定です。
では、お楽しみください。
☆簡単に読みたい人用に第一章のまとめを投稿しました。>>78
ストーリー
プロローグ >>2
表紙絵>>91
第一章「ナースにご用心」
第一章用語集>>86
プロローグ>>7
第一話「依頼」>>11
第二話「朝食での来客」>>12
第三話「食事中」>>18
第四話「移動中」>>25
第五話「戦闘中」>>26
第六話「隻眼とじゃじゃ馬 序幕」>>29
第七話「隻眼とじゃじゃ馬 中幕」>>30
第八話「隻眼とじゃじゃ馬 終幕」>>34
第九話「吉祥恵那という護衛対象」>>36
第十話「三戟紫炎の不安」>>37
第十一話「迷惑な行動」>>38
第十二話「戸惑い」>>40
第十三話「鼠」>>41
第十四話「音更の力と三戟の力」>>42
第十五話「敵の大胆不敵な行動」>>46(前の十五話とつなげて訂正しました)
第十六話「番人」>>47
第十七話「一人で二人、二人で一人」>>48
第十八話「三戟紫炎の本領発揮」>>51
第十九話「受付嬢」>>54
第二十話「クラーク・アルフレッドの思惑」>>56
第二十一話「知名崎宇検らとレオニード・ヴォルフォロメエフ」>>57
第二十二話『冷たい氷と紅い炎』>>58
第二十三話「公視総監直属蜻蛉部隊」>>59
第二十四話『人類最凶と神々の戦い』>>60
第二十五話『クラーク・アルフレッドの願い』>>61
第二十六話『後日談』>>62
第一章まとめ>>78
第二章『生者なき軍隊』
第二章単語集>>85
プロローグ>>63
第一話「夏といえば海ですね!!」>>64
第二話「能力者の異変」>>65
第三話「怪しい敵」>>66
第四話「秤辺 冴里の護衛」>>67
第五話「山高帽の男」>>68
第六話「切り裂きジャック」>>71
第七話「弱点」>>72
第八話「師匠の策略」>>73
第九話「進撃の死者」>>75
第十話「神々からの依頼」>>76
ここまでのあらすじ>>79
第十一話「依頼内容」>>87
第十二話「新たな仲間」>>88
第十三話「とある噂」>>90
第十四話「最凶の殺人者」>>92
第十五話「人間試験」>>95
第十六話「古池陽歌>>96
第十七話「ヘブンズ・シックスと名乗る病所健太の居場所」>>98
キャラ情報
第一回>>16
☆知名崎宇検の実戦レポート
ヒナキ ツバキ&ヒナキ サクラ(バンノウタイプ)>>35
ウミナリウミ&タテツキケン>>52
サカキカズ&ユイガシロコウナ>>77
☆絵(大体の絵は朔さんに描いてもらっています。本当に感謝です)
表紙1>>24
表紙絵2>>91
『音更遥』の絵>>74
☆来てくれた人☆
狒牙
フォンデュ
とろわ
遥
朔
秋桜
- Re: 罪とSilencer 第二章第二話更新 ( No.66 )
- 日時: 2013/04/29 21:37
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第三話「怪しい敵」
冴里は少し怯えているみたいだ。いきなり能力が復活したと思っていたら、その能力に歯止めが無くなっていたら僕だって怖い。
「敵がいつ襲ってこないようにここ三日間は『禁止令』を使っている。そろそろ限界が……」
「無理するなよ、清水先生。すぐに俺らが引き取るから」
「師匠、『禁止令』とはなんですか?」
「ここにいる清水先生の特殊能力だよ。簡単と言えば敵、味方を同じ法で縛る能力みたいなものだよ。味方のためにもならないし、敵のためにもならない……」
「そして、今。私はこの天満宮で『戦闘を行ってはいけない』という法を発布している。しかし、そろそろ私の精神の限界だ」
「なんかスイスみたいな能力ですね。永久中立国みたいな」
「「…………」」
「……すみません」
二人とも大仏みたいに真顔になっている。冗談がわからなかったらしい……残念。
「冴里さんをよろしく頼むよ。知名崎先生」
「わかったよ、じゃぁな。冴里、ついてこい」
師匠はくるりと清水さんに背中を見せると渋々とエレベーターに乗っていってしまった。いつもはお別れのときはもっと元気なんだけどな
「師匠、不機嫌そうだな……冴里さん、行きましょう」
冴里は僕の隣に立つとこっそりと師匠の怒りの原因を教えてくれた。
「知名崎センセは清水センセと矢向が嘘をついていることに怒っているのさ。どんな嘘かは調べたくないけど」
なるほど、なんか隠し事をしているのか。気になるけど——
「冴里をよろしくお願いします」
——普通の人のように見えてうっすらと感じる殺気は玄人を表しているからな……今は駄目だ。次の機会だな。
地上に出ると師匠が黒塗りの自動車(運転手付)を用意してくれていた。僕らはこれに乗って用意された政府施設に向かう。師匠というと「先いっとる!!」バイクで出かけてしまった。敵の気配を探しに行ったと信じたい。
「紫炎サン。不味いです」
自動車で1km移動したところで焦ったように冴里がしゃべり始めた。
「どうした?」
「このまま、進むとヤバイ敵がいるよ。知名崎センセは大丈夫か
な……」
「何でわかるの?」
「だって、ちま————こっちに来ています!!」
「えッ!?」
その瞬間だった。窓からナイフを持った手が現れて、僕の喉を掻ききろうとした。
「ッ!」
間一髪で避けたが、
「ガハァ……」
ナイフは運転手の喉へと刺さってしまった。ナイフを抜いてあげたくても運転手の様子を見ている暇はない。あと少しで曲がり角と言うのにッ————しかたがない。
「どうするの?」
「飛び降りる」
「えぇ!?」
ドアを開けると冴里を抱え込みながら道路に飛び出した。地面に激しく当たり、服が破ける、顔に傷跡ができる。が、なんとか冴里を守ることはできた。
「なんとか助かった……」
任務の達成感に浸っている中、自動車の爆発音が響き渡る。
そうだ! 敵がいたな……
「血塗れにしましょう」
ふらりふらりと歩いてくるその敵は大きなナイフを持った——
「なにあれ。ボク初めて19世紀の格好をした人を見たよ」
片眼鏡をした山高帽をかぶっている黒いコートの男だった。
- Re: 罪とSilencer 第二章第三話更新 ( No.67 )
- 日時: 2013/05/07 20:46
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第四話「秤辺 冴里の護衛」
「血塗れにすることが私の使命であり……人生なのですよ……」
今さっき、運転手の血がこびり付いている大ぶりのナイフがとても気になる。……そんなことよりも!!
「こちら、『ベンケイ』。敵襲アリ。援護班はすぐさまポイントBに向かってくれ…………オイ! 応答しろ!」
耳についているインカムを使って仲間に援護を要請するが、返事がない。まさか……ねぇ。
「君らの作戦は私たちには筒抜けだよ。コードネーム『ヨシツネ』には仲間が数人襲いに行っている……大人しく、渡しなさい」
100mぐらい離れたところに立っている男がゆっくりと歩いてくる。隙があるようだが、実際はまったくない。多分、僕を罠に送ろうとしているんだろう。だが、敵に怯える僕じゃない。
「嫌だ!! 冴里……後ろに居ろ。もし敵が近づいて来たら能力を使って天満宮へ逃げろ!!」
「ボクもサポートするよ。敵の行動はボクには読める」
「いや……止めとけ……」
敵を凝視していると、冴里は叫んだ。
「避けて!!」
すぐさま、僕は飛んだ。戦闘で避けてと言われたらやはり手榴弾を連想してしまう。冴里と共に地面へと飛び込んだ。
「ん?」
爆発音が鳴り響くと思っていたら、鳴り響かなかった。熱風もない。
「ナ……ナイフが飛び出ている! 紫炎サン、逃げよう」
僕が立っていた空間に男が持っていたナイフが浮かんでいた。男の手にはナイフはない。瞬間移動か?
「そ、そうだな」
すぐに立ち上がり、ジグザグな路地へ進む。男が追ってくると思ったら、ついてこない。狭い通りでは僕の能力で戦うのは難しいから、幸運を得たかな……
「こっちだ。もうすぐ、合流地点だ」
合流地点は開けた空き地だ。ヘリが着陸できるぐらい広いから、合流地点となっている。大急ぎで駆け付けると、空き地の真ん中には
「待っていました……。衛星ってすごいですね」
さっきの山高帽のナイフ男が空き地の真ん中に立っていた。
「なんであいつがいるんだよ。冴里、あいつを仕留めない限り進めない。手伝ってくれ,元犯罪者だろ?」
「その言葉には文句があるが、しょうがない、いいよ。アイツの心の中読んでやるさ」
紫炎は掌からサイレンサー装着H&KMk23を、冴里は手渡されたコンバットナイフをすこし慣れた手つきで持つと、山高帽の男と対峙した。
- Re: 罪とSilencer 第二章第三話更新 ( No.68 )
- 日時: 2013/06/02 19:31
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第五話「山高帽の男」
山高帽の男は戦闘に怖がる様子もなく、逆に微笑をたたえ、クククと笑っていた。
「私を誰も捕まえることはできなかった。未熟な貴方には私を捕まえることはできない」
冴里が相手の思考を読み取っている間、時間稼ぎに返事をする。
「捕まえるんじゃない。殺すんだ」
「へぇ、昔は殺さない主義だったそうだが」
「今はその主義もなくなり、10代の青年が犯罪者を負うことはない。大人がちゃんと仕事をするんだ」
「怖い、怖い。新時代でも僕を捕まえられるかな。いや、殺せるかだったな」
自分の間違いにケラケラ笑う、山高帽は深呼吸をした。
今がチャンス
僕はすぐに銃を構え、胴体を狙って引き金を引いた。サイレンサーがついているから、近隣の住民にもわからずにことを片付けることができるはず。
「(当たれ……)」
そう思って発射された弾丸は——
キィーン
と山高帽の体に弾かれた。胸に固い金属……防弾チョッキを仕込んでいるのか? でも、あの音は弾丸をはじいた音にも聞こえる……
「おやおや、私は油断していましたね。では、参らせていただきます」
「右に避けて」
山高帽がしゃべり終わるのと同時に、冴里は叫んだ。もちろん、避けないはずがない。
僕が立っていた空間にナイフがスゥーと現れた。下手したら体の中からナイフがご登場となるだろう
「冴里、君も気を付けろよ」
「わかってる。左に避けて!」
真剣な声で呼びかけられるとすぐ左へ飛んだ。ナイフがすれ違い様に空中に出てくる。
「惜しいですね。ちょっと気になったのですが……さっき、私の体に当たったのはパチンコですか? どうも、この世界の銃って感じがしなかったのですが」
「くぅ、なめやがって。ちゃんとした銃だ! 文句あんのか!」
「いいえ。文句はありません」
山高帽の男は落ち着いた物言いで、自分のナイフを触ると、ニコッと笑った。
「ただ、弱すぎると思ったので」
なるほど、拳銃では弱いというのか。ならば!
「じゃ、ちょっと待っていろよ! いいものを見せてやるさ」
拳銃を掌に戻すと、山高帽目掛けて走った。
「何を見せてくれるのでしょうか。楽しみです」
山高帽はナイフを空中に出現することなく、投げつけてきた。玄人並みのナイフの速さだが、
「遅いぃ!!」
ナイフを躱し、そのまま敵目掛けて走る。ナイフを投げる隙も与えない!
「ッ! 古風の(アンティーク)……」
山高帽がジリジリと下がりながら、何かつぶやいている。死に際の一句でも喋っているのか知らないけど、お前はここで殺す。
「軍隊式……自営団!」
掌からショットガンであるレミントンM870を取り出し、山高帽の顔面を狙った。
「逃げて!!」
静かな印象を持つ冴里だが、今は興奮しているのだろう。敵の攻撃をスレスレで躱すだけで大はしゃぎしているようだが、止まることはない。ショットガンの引き、弾丸が発射される衝撃を体で押さえているその時だった。
「……小刀!」
弾丸の衝撃と同時に脇腹、頬をナイフが掠っていった。山高帽の顔は——
「鉄仮面だと?」
鉄仮面になっていた。所々に弾丸が埋まっている、実に不気味な仮面になっている。
「私のナイフをここまで躱したのは貴方が初めてですね。礼として名乗ってあげましょう」
鉄仮面をつけた山高帽の男が嬉しそうにしゃべり始めた。
「私の名はジャック。人々は畏れて『切り裂きジャック』と呼びます」
「!! ……公士、三戟紫炎。参る」
切り裂きジャック……100年前ぐらいに暗殺されているはず。どうやら、戦いながらMI6にでも連絡を取らないといけないのかもしれない。切り裂きジャックは能力者で能力を使い、人を殺したから、イギリスで殺された。もし、本物だったら……誰かが、こいつを復活させやがったということだ! こいつは不味いことになってきやがった。
- Re: 罪とSilencer 久しぶりに更新 ( No.71 )
- 日時: 2013/06/02 19:38
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第六話「切り裂きジャック」
切り裂きジャックという人間を知っている人は多いのではないだろうか。切り裂きジャックは19世紀終わりにロンドンで猟奇的殺人事件を起こしたことでミステリーが好きな人なら誰だって知っているだろう。知らない人には説明する。切り裂きジャックは1888年8月31日から11月9日の間、ロンドンで売春婦5人を惨殺した。新聞社に犯行予告を送ったりとして、一躍有名になってもいる。殺害方法もまた、奇抜で、解剖や臓器の摘出など……もちろん、連続五回バラバラ殺人事件で済んだのは……のちのMI6を作り出すきっかけとなった男達のおかげだった。死体は、厳重に保管されていたはず……
「三戟紫炎? どうした、固まっておるぞ? まるで的のようだ!」
ジャックの手からナイフが名乗る前よりも早く撃ちだされてくる。いや、僕がビビっているだけか?
「うるせぇ。お前は100年前には死んだはず。いったいなんで生きているんだ?」
「さぁ? 私を倒したら教えてあげてもいいよ」
ナイフを体すれすれで躱す。奴と戦った時の記録を思い出せ……奴が能力を最大限発揮すると鉄仮面を装着するのは思い出している。どうやってジャックを倒したかを思い出さなければ……
「えっと……」
ナイフを躱しては、時々入る冴里の指示でいろんな方向に飛ぶ。そのうちに思いだし始めた。
彼はイギリス最強と言われた刑事に顔面を焦がされ、腹部を吹き飛ばされて殺された……この僕にそのような強さはない。まぁ、強い武器はあるが。
「これはどうだ」
熱追尾式ロケットランチャーを左手から苦し紛れに発射させた。手が焦げかけるけど、ここで倒さないと敵の増援が来るかもしれない。
「どうやって、そんなものを!?」
ジャックはいきなりロケットランチャーが飛んできたことに驚いていて、うまい具合に顔面に炸裂した。轟音が響き渡る。
「やったか……?」
爆発音とともに熱風と煙が充満している。これじゃぁ、倒れたか確認できない。まぁ、粉々になっていたら確認の使用もないのだが……
少し安堵していたが、冴里の声で元に戻された。
「気を付けて! まだ死んでない!」
煙の中から一本のサバイバルナイフ飛んできて、右腕に突き刺さった。鋭い痛みが右腕にはしる。
「あれでもまだ生きているのかッ!? 油断したッ!」
煙がだんだんと晴れていくと、ミサイルの影響でできたクレーターの真ん中に顔から煙を出している男、ジャックが立っていた。
「それぐらいじゃ、私の体を貫くことはできません」
切り裂きジャックはイギリス最強の刑事に殺された。そう、200人以上の警官の犠牲を伴って……。彼の体は能力で固い金属で守られていた。だから、炎使いだった最強の刑事は腹部の金属を溶かして、殺したのだった。だから、ミサイルで一番薄い顔面に打ち込んだのに……
「まだまだですね。しかし、私と戦ったことがあるようで……私に記憶はありませんが」
顔に半分ついている鉄仮面がゆっくりと元通りになっていく。能力発動時は鉄仮面装着で体が金属になる。さらにナイフを永続的に取り出し、視界のどこにでも出現する能力だから昔は最凶だったらしい。徐々にジャックについて思い出してきた。そして、今戦っているはずの師匠の言っていたことを思い出した。ジャックの倒し方を、師匠は言っていた。
「右腕のナイフ抜こうか? アイツは油断しているから今が好機かも」
ぶっきらぼうに言っている冴里の声に元気よく返事をする。
「大丈夫だ。あいつの倒し方を思い出した」
僕は右腕の痛みを堪えながら、立ち向かった。
- Re: 罪とSilencer 第六話「切り裂きジャック」更新 ( No.72 )
- 日時: 2013/06/13 21:08
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第七話「弱点」
すぐさま、掌からジャックの顔にロケットランチャーで目標を定めると発射した。熱追尾式のため、この近距離なら逃げ切ることはできない。
「また、同じ手ですか! しつこいですね!」
ジャックはもちろん、さっきと同じく顔面の鉄仮面を犠牲にしてダメージを無効にするだろう。さて、この時できた爆発による煙で視界が遮られる。さっき、ジャックはナイフを投げて僕の右腕に怪我を負わせた。ナイフを的確に当てたということは……奴は僕の居場所を知っていたということだ。なら何故、ナイフを空中移動させて僕を攻撃しないのか。その方が、一番効き目があって、僕は即死するかもしれない。
「なんで、能力を使って僕を殺さなかったか」
独り言をつぶやきながら煙幕弾をすぐさま投げつける。
能力を使わなかったのは、ダメージが強すぎて彼の能力が一時的に破壊されたからじゃないのだろうか。破壊されて修復までほんの数秒、時間がかかる。その間に、牽制として手で持っていたナイフを油断していた僕に投げつけたのではないか。まぁ、投げつけただけというのは僕を敵だと見なしていないかという考えもあるが……一か八か。
静かに煙幕に紛れて背後に回り、首の付け根部分へサバイバルナイフを近づける。敵は能力も使えないし、周りも見えていない。今が好機!
「おッ! 」
ジャックが殺気を感じて後ろを振り向くが、それはもう遅い。すでに首へナイフを近づけている。後は鉄仮面で覆われていないところを掻き切るだけだ。
「まだまだぁ! 私はそれぐらいじゃやられない!」
手を伸ばすが、ジャックは僕の手を掴んだ。まるで氷のような冷たい手だった。生き返ったのだから温かくなってもいいのではと思いながらも、懸命に振り放そうとする。固くてなかなか離せん。やっぱり、何か武道でも習っていたのだろうか。僕の攻撃時間は短い。そろそろ、ジャックの能力も回復してしまう。
「さて、今すぐ腕から足まで中から串刺しにしてあげます」
ジャックの手の強さが一層強くなった時、悲劇が起きた。
一発の銃声がして、僕の手を掴んでいるジャックの右手が弾け飛んだ。僕の体に当たらないように計算された狙撃だった。
煙幕はもう薄くなっていて、周りの風景が見えるようになっていた。僕の思考を読んで、どんな戦いになっているのかを知っているはずの冴里は唖然と空中を見ていた。その先には白い服を着て青い髪の毛の今さっき別れたばかりの男が工事現場の足場の上で狙撃銃を構えていた。もし、無線で会話することができたら「すぐさま逃げろ」と言っているだろう。戦っている相手が『切り裂きジャック』と知ったら逃げないと最悪な事態が起きる。冴里は今、意識を矢向社に向けているということは彼が傷ついたら————
「いきなり、撃つとは卑怯ですね。死になさい」
姿が見えているということは能力を使うことができる。そのことを伝えたかったのだが……時はもう遅い。
矢向がナイフで刺されて崩れ落ちるのと同時に
「あぁぁぁぁぁ!」
冴里も同時に倒れる。倒れていく姿を片目で見ながら、数時間前の会話を思い出した。
「いいか? 敵に遭遇したら極力逃げろ。回収地点までは逃げろ。回収チ
ームが来たらすぐに冴里を預けないといけないぜ。記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)は便利な能力だが、下手をすると傷ついた時の意識を受信して……本人以上のダメージを負うという欠点があるから。本人も気づいていると思うが……何年かばかし使ってなかったから慣れてないだろうし、前よりも強力になっているらしいから。だから、護衛の時は一対一じゃないと駄目だぜ」
とカッコよく師匠が言っていた。
「おやおや、これで死なれたら困りますよ。冴里さん」
ジャックはやれやれと肩をかしげると、ナイフを構えた。
冴里に失礼だけど荷が下りた。存分に過激な作戦を使うことができるぜ。
アドレナリンが体中に回って、少し師匠みたいになったかもしれないな。
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