複雑・ファジー小説

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罪とSilencer 【リメイク前】【早く読みたい人用】
日時: 2014/08/13 10:56
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

————甘すぎた。犯罪者といえども、人間だと思っていたのが悪かった。次からは厳しくしていこう……————

・今年の8月15日のコミックマーケットの西ーう11bのサークル『電脳教団』で罪とSilencer外伝を出展

注意書き************
・荒し厳禁。アドバイスや感想は大歓迎。というかめっちゃうれしいです。
・フリガナを括弧で表すので注意。
・前作(罪とDesert Eagle)読んでいない人でもわかるようにします。
********************

 おはよう、こんにちは、こんばんわ、初めての人は初めまして、檜原武甲です。記念すべき第一作目の世界から三年後たった話、『罪とSilencer(ツミトサイレンサー)』です。主人公も変えて、楽しくなるようにします。

   コメントをくれたらうれしいです。なお、「小説家になろう」にも連載する予定です。
 
  では、お楽しみください。

☆簡単に読みたい人用に第一章のまとめを投稿しました。>>78


              ストーリー

 プロローグ >>2
 表紙絵>>91


第一章「ナースにご用心」
第一章用語集>>86
 プロローグ>>7
第一話「依頼」>>11
第二話「朝食での来客」>>12
第三話「食事中」>>18
第四話「移動中」>>25
第五話「戦闘中」>>26
第六話「隻眼とじゃじゃ馬 序幕」>>29
第七話「隻眼とじゃじゃ馬 中幕」>>30
第八話「隻眼とじゃじゃ馬 終幕」>>34
第九話「吉祥恵那という護衛対象」>>36
第十話「三戟紫炎の不安」>>37
第十一話「迷惑な行動」>>38
第十二話「戸惑い」>>40
第十三話「鼠」>>41 
第十四話「音更の力と三戟の力」>>42
第十五話「敵の大胆不敵な行動」>>46(前の十五話とつなげて訂正しました)
第十六話「番人」>>47
第十七話「一人で二人、二人で一人」>>48
第十八話「三戟紫炎の本領発揮」>>51
第十九話「受付嬢」>>54
第二十話「クラーク・アルフレッドの思惑」>>56
第二十一話「知名崎宇検らとレオニード・ヴォルフォロメエフ」>>57
第二十二話『冷たい氷と紅い炎』>>58
第二十三話「公視総監直属蜻蛉部隊」>>59
第二十四話『人類最凶と神々の戦い』>>60
第二十五話『クラーク・アルフレッドの願い』>>61
第二十六話『後日談』>>62

第一章まとめ>>78

第二章『生者なき軍隊』
第二章単語集>>85
プロローグ>>63
第一話「夏といえば海ですね!!」>>64
第二話「能力者の異変」>>65
第三話「怪しい敵」>>66
第四話「秤辺 冴里の護衛」>>67
第五話「山高帽の男」>>68
第六話「切り裂きジャック」>>71
第七話「弱点」>>72
第八話「師匠の策略」>>73
第九話「進撃の死者」>>75
第十話「神々からの依頼」>>76
ここまでのあらすじ>>79
第十一話「依頼内容」>>87
第十二話「新たな仲間」>>88
第十三話「とある噂」>>90
第十四話「最凶の殺人者」>>92
第十五話「人間試験」>>95
第十六話「古池陽歌>>96
第十七話「ヘブンズ・シックスと名乗る病所健太の居場所」>>98

キャラ情報
 第一回>>16 
☆知名崎宇検の実戦レポート
ヒナキ ツバキ&ヒナキ サクラ(バンノウタイプ)>>35
ウミナリウミ&タテツキケン>>52
サカキカズ&ユイガシロコウナ>>77

☆絵(大体の絵は朔さんに描いてもらっています。本当に感謝です)
  表紙1>>24
  表紙絵2>>91
『音更遥』の絵>>74


☆来てくれた人☆
狒牙
フォンデュ
とろわ


秋桜

Re: 罪とSilencer  第二十四話更新。宇検の正体明らかに! ( No.61 )
日時: 2013/04/08 21:22
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
参照: 今回は異常に長い話です。

第二十五話『クラーク・アルフレッドの願い』
日本、新潟県4月3日14時

『あれ? 通信が途絶えちゃった。 ま、オレの望みをかなえるとしよう』

携帯を閉じると、すぐに二人を置いて隣の部屋に向かってしまった。やつは一体何を叶えようとしている?

「動いちゃ駄目。次は心臓を止めるわ」

目の前の女が見張りで立っている。

「あの子の願いをかなえさせなさい」
「どうせ……日本全土焦土化とかだろ……どうやってやるかは知らないが」
「本当に何も知らないのね。ま、いいわ。そこで寝てなさい」

女は呆れたように言うとすぐそばにある椅子に座った。すると頭の中で
聞き覚えのある声が響いてきた。

【聞こえるか? 鳥栖蜻蛉だ】
「「っ!!」」

頼むからテレパシーに着信音ぐらいはつけてほしい。思わず驚きの声を上げるところだった。良かった、女はクラークが入っていった部屋の方を見ていて、気が付いていない。

【ロシアの情報部隊との交戦がついさっき終わった。敵の司令官は『神々ゴット・イン・ゴット』によって殺された。その時の有力な情報によると「クラークを助けるな」らしい。今、知名崎チームが向かっているから頑張って耐えてくれ】
「(って言われても耐えるどころか、僕たちは引退気味なんですけど)」

足は動かないし、僕だけ右腕も動かない。左腕だけでどうやって仕事をしろと言うのだ。いっそのこと株でもやるか?
 クラークが部屋から出て来たようだ。動けないから声しかわからない……

『吉祥恵那、オレの望みをかなえてくれるとは本当か?』
「別にそれぐらいなら大丈夫ですよ」

…………は?

『では、オマエ。俺の能力を治してくれ』
「はい。いいでしょう」

能力を治す? いったい何が起きている?

「お……おい! 能力を治すとはどういうことだ!?」

クラークは返事をしない。

「クラーク!! 聞こえているのか!」
「聞こえないわよ。彼は聴力を失っているから」

代わりに目の前の女が返事をした。聴力を失っている?

「聴力を失っているってどういうこと? なにがあったの?」
「音更謡さん、クラークの能力について何も知らないの? 前に40人ばかしの貴女達の先輩たちを殺した時のことを知らないの?」
「ん……覚えてない」

謡、数日前に書類を読んだだろ。つうか忘れるのが早すぎだろ。

「全員、粉々になったと聞いた」

「紫炎君、それが彼の能力『道開き(レッツ・ブレイク)』よ。『道開き』は声で物を壊す能力。ガスマスクで声にノイズを入れないとすべて壊れていってしまう。私たち『完負パーフェクト・レス』は人のためにはならない能力者の集まり。マイナスの能力でコントロールできない人が多い。私だってマイナスの能力者。いろんな機関が危ないから殺しに来るから応戦している、そしてテロリスト入りって訳」

「聴力がないって……まさか」

「謡さん、そう彼は自分の『道開き』での人生最初の被害者。産声で周りの人間を死滅かつ聴力を失ったところを私たちのリーダーが助けて育てていた。そして、社会に戻る日が来た。今日よ」

「しかし、ちゃんと罪を償ってもらわないと————」

「残念ながらクラークは姿を変えて生きていくことになるわ。たとえ過去に人を殺したことがあったとしてもそれは能力が原因だから。だから償わないわ。」

そこまで言うと女は僕の視界から消えた。どうやらクラークの傍に移動したらしい。

『さぁ、治してくれ!!』

クラークが頼むと言わんばかりに叫んでいる。

「わかりました。『医学の女神メディシン・ナース』」

クラークを助けてはいけないという言葉がふと頭の中で響いた。違和感があるのは謡も同じようだ。もし、クラークの能力が無くなったら彼は真っ先にマスクを取り大声をあげて自分の声を聴くだろう。それは別にいいことだ、彼の能力が治っているのなら。もし、『医学の女神』が治療する能力じゃなかったら?  病院では師匠の傷を治したけど、それは条件に当てはまっていて、元からの能力は治せなかったら? それを神々は知っていて、止めようとしたのでは? 治療できなかったら、能力が発動してここにいる全員バラバラで死んでしまうのでは?

 謡も同じことを考えていたようだ。これは不味い、止めなければ。

「止めろ!! クラーク!」

必死に呼びかけるが喜びのあまりクラークは聞こえていない。嬉しそうな含み笑いをしながらガスマスクを取り、大声を上げた。

「やった……ってうわぁ!!」

クラークが口元からどんどん粉々になっていく。

「クラークさん? きゃぁ!!」

どうやら、見たところ失敗のようだ。早く抑えないと、周りがボロボロになって……被害が広がってしまう!

隠匿サイレンサーを使う! クラークの声を閉じ込めるよ」

謡が能力を使って抑えようとしているけどクラークに一番近くて、驚いて座っている恵那を助けなければ。これは不味い。

「恵那さん、謡の方へ」

左腕を伸ばして服をつかみ、引っ張る。くそっ、僕の足が崩れていく。

「紫炎さん!」

謡が急いで僕を謡の方に引っ張る。ズルズル服が床に擦れながらなんとか助かった。両足は持って行かれたけど……

「よし、クラークの声を収めたよ。ウチが居なかったら紫炎君も恵那さんもバラバラだね」

謡が両手でボールを持つパントマイムをしているように見えるが、あの手の中にはクラークの悲鳴が入っているのだろう。自分の力でバラバラになったマイナスのクラーク・アルフレッド。彼の遺体はないし、周りには人体には影響のないほどの声で割れたガラス片だけ。かわいそうなやつだったな……でも、まず謡に感謝だ。

「本当に謡の隠匿があって助かったよ。音を防ぐ能力がクラークへの対抗策だからな……クラークが自滅しただけで済んだ……」

両足がない分元気がない……ん? なんで僕は死んでない? 痛みはないし……

「しゃべらないで! 酷い出血……能力を使っています」

なるほど、能力か。恵那さんの能力も調べないとな……

「紫炎君! あの女がいない!! って紫炎君!?聞こえている!?」

仲間の叫びを聞きながら眼を閉じてここまでのことを振り返ってみた。もし、謡と一緒にここに居なかったら新潟はふっとんでいただろう。そして、マイナスの連中『完負』についてもただのテロリストではないとわかった。だけど、まずは病院だ……

 こうして、クラークとの戦いは終わった

Re: 罪とSilencer  第二十五話更新。第一章終盤 ( No.62 )
日時: 2013/04/12 21:34
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
参照: 第一章終わりです。

第二十六話「後日談」

結局、俺は引退をして株をやっているわけでもなく静かに病室にいた。完負の新潟のアジトに有った情報で今、僕たちの同僚が張り切って駆除作業をしているはずだ。この日本に住み着いたテロリストを排除するために、テロリストの繋がりをプチプチ切っているだろう。

「はぁ……両足が元に戻るなんて夢のようだ」

吉祥恵那さんの能力を再検証してみたところ、『様々な傷を治す能力』ではなく『怪我をした相手の体を健常な過去の体へと遡る能力』だった。だから、毒のダメージを受けた宇検は治り、元々備わっていたクラークはマイナスの能力を治すことはできなかった。治せなかったと言っても恵那さん曰く「クラークさんが目の前でゆっくりとバラバラになっていった……ごめんなさい」と言っているのだから効力は遅くなったのだろう。声の速さだったら今頃冥土にいるだろう。

「恵那さんは僕らの組織に入ると決心したそうだし……」

その後、恵那さんは両足を失い、腕が折れた僕と胸を複雑骨折した師匠の二人を治した後自分の身を守るためにも僕らの組織に入ると決めたそうだ。親は反対したかもしれないが、今、医療部隊で働いているのだから許可は得たのだろう。

「謡は適当なことほざいてどっか行ったし……」

謡のことを呟いていたら病室の扉が思いっきり開いて

「ドーンとやってきました!! はい、フルーツバスケット」

「……病人だぜ?僕」

謡は両手を傷つけながらも、クラークの声を影響のないぐらいに抑えて、なんとか新潟を救った。その後、病室で眠っている僕を見た後どこかに行っていたらしい。今は目の前で元気そうにメロンを食べているのだが……それは僕のでは?

「さっき通りかかった際、宇検さんが元気よく中庭で子供たちと鬼ごっこをしていたけど……あの人は治ったの?」

「師匠……恐るべし」

「それとね。宇検さんとポケモンで遊んだんだけど、すごいのは全員『はかいこうせん』を覚えてたよ。やっぱ戦うのが好きなんだね! ちなみに恵那は回復系統の技だらけ! この前言ったオンライン対戦の人たちだったよ。 世の中って狭いね」

「わかったから、落ち着けって……」

師匠つまり知名崎宇検は胸を複雑骨折したが恵那さんのおかげで元通りに戻った。つうか、前よりも活発になった。あの人には疲労とか存在しないのか? 師匠があの有名人『出遅れた最強』と呼ばれていたことには驚きだが、やはり『神々』とは腐れ縁なのかもしれない。

「ま、ゆっくり休んで次の仕事がんばろう!」

「え? これで謡ともお別れじゃないの?」

「実はですね。ウチは宇検さんに紫炎君の給料をちょっと貰って紫炎直属アシスタントになりました!」

「給料をかえせぇ!! って痛たたたたぁ……」

「大丈夫?」

ま、ちょっとばかし頑張ったから少し横になろう。クラークよ、安らかに眠れ……そして神々、もし会ったら僕たちの学校を壊した罪を償ってもらう……だから、仕事に励むためにも横にならなければ……
                        
第一章『ナースにご用心』終

Re: 罪とSilencer  第二十五話更新。第一章終盤 ( No.63 )
日時: 2013/04/14 22:44
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

第二章『生者なき軍隊』


プロローグ

夏。ロシアの特殊部隊が北海道制圧を試みていることを知らない一般住民は特に海外のことも気にせず、それぞれおもいおもいに夏を楽しんでいた。
 蝉が鳴く東京都内にある涼しい冷房の中、主に若い年層の男女がゲームを楽しむ、ゲームセンターの中に人盛りができている。

「やばいよ。あの人、40人抜きだって……」

「まじで!? すげぇな……俺だったら勝てるかも!」

「やめとけって、あの列見ろよ。常連ばっかだぜ?そ
こに混じるのは恥ってやつだよ」

人盛りの真ん中に対戦型の格闘ゲームがあった。そこには眼鏡をかけた中年男と金色の目をした少女が男は熱く、少女は冷静に戦っていた。

「何故! 攻撃が当たらない!」

異常なほど筋肉が発達している男が女忍者を襲っているが、その攻撃は紙一重で躱されている。チャージ攻撃をした隙に忍者が強烈なカウンターを決めて体力を削っていった。決着はすぐつき、最後は奥儀で倒すというのは普通のプレイヤーと変わらないだろう。

「くっそぅ!! 負けた……もう金はない……」

「お金がないなら早く帰れば?」

男が悔しそうに呻くと悔し紛れにゲームボードを思いっきり叩いて出て行った。それを少女は気にせずに次の挑戦者を呼び寄せる。

「(つまらないな……もっと強い人が来ればいいのに……)」

挑戦者が譲りあいをしている様子を見ながら、呟いた。そう、呟いた瞬間だった。

【つまらないなら……吾輩の元へ来い。君を吾輩は必要としている……過去の君を……】

低い男の声が耳に入った。それと同時に少女の視界の片隅に黒いコートが映る。周りは熱狂している観客がいたはずなのに、何故か黒いコートは、はっきりと見えた。

「(な……なにあれ! 気味が悪い)」

黒いコートが視界から消えた時、

「さぁ、勝ってやるぞ!!」

「この人上手だな」

「プロかな」

「このゲームなら二番目のキャラクターがいいな」

「早く負けてしまえ」

「順番、早く回ってこないかな……」

周りの観客や挑戦者などなどの人間の思考が少女の頭に流れ込んできた。膨大な思考に太刀打ちすることもできず、ゲーム機の椅子から床へと倒れる。

「『記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)』……なんで戻ってきた……」

驚きの表情を浮かべながら少女、否、秤辺 冴里ショウベサオリの意識が途絶えた。この少女が大事なキーワードになるとは誰もこの時点では知らない。

Re: 罪とSilencer  第二章『生者なき軍隊』更新 ( No.64 )
日時: 2013/04/18 22:57
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

第一話「夏といえば海ですね!!」

「夏と言えば海だろ! よっしゃー俺はビーチバレーだ!!」

何故、師匠の声が最初に書かれる? どうも、三戟紫炎です。病院で一か月過ごして気分転換に海に来ています。相変わらず肋骨を折っている師匠は元気ですが、僕は少し弱っている気がする。

「ビーチバレーしようぜ!」

「お、いいぜ! お前、この人のパートナーに——」

「俺一人で大丈夫だぜ。かかってこいよ」

「いったな。よし、絶対に勝ってやる」

どうやら師匠は三対一のビーチバレーでやるみたいだ。どうせ、一般人相手なら師匠が勝つだろうけど、問題は水着だろうな。激しく動きすぎて紐がほどけるかもしれない。

「どうしたの? 何見ているの?」

気づけば、飲み物を持って元同級生の音更謡(オトフケ ハルカ)が立っていた。

「な、なんでもない」

水着に目を向けてしまうのは男に生まれた世の定めだと思う。
師匠も謡もセパレーツタイプの水着を着用している。本当に目に毒だから日光浴みたいに寝よう。

「宇検さんって何歳なの?」

「32……33だったような……」

「なんで、結婚しないの?」

そういえば師匠が見合いとかしたという話は聞いたことはない。もう、いい年なのに同年齢の男と一緒にいる様子をみたことがないな……たぶん、

「あまりにも強すぎるから、男友達がいないのだろ————」

僕が師匠の悪口を言おうとした瞬間、ピーチボールが僕の顔面にぶつかり、破裂した。

「紫炎! なに人のことを馬鹿にしているのかぁ!」

師匠が笑いながら叫ぶ声が聞こえてくる。砂浜に寝そべっているから姿は見えないけど、わかることは【少し】怒っているということだ。激怒していたら骨折では済まないだろうな。

「紫炎君、大丈夫?」

それに比べてこうやって顔色を見てくれる謡は優しい。師匠も優しかったらよかったのに……

「う……あれ? ビーチバレーをしていた三人の男は?」

「恐れをなして逃げた。まったく最近の男は腰抜けだぜ」

腰に手を置いてワハハと笑っている師匠もどうかと思う。

「いや、師匠が異常に強いだけです。本当に馬鹿みたいに強いだけです」

「そうか?」

「まるで男のようにつ————」

気が付いたら足をすくわれて腰を思いっきり打ち付けられた。再び太陽と直視することになるとは……背中が砂浜の熱で焼けてひりひりする。
今日は風呂に入れないかもしれない。

「まったく、いっとくけど俺にも男友達がいるんだぜ?」

「え、本当ですか!? 宇検さんに?」

「…………」

砂浜を擦る音が聞こえてきた。どうやら、謡も同じ目にあったようだ。

「テメェら、俺が婚期逃すのではと思っているんだろ? 許せねぇな」

寝そべっている僕らの前で仁王立ちをする師匠は迫力があるが、水着はちょっと……さすがにもう三十代だから露出を控えめにしたらどうかと思う。

「次の任務はその俺の男友達関係の依頼だから、楽しみにしとけよ。さぁ、立ち上がってバレーしようぜ」

 僕は知名崎宇検の男友達なんてどんな奴だろうと考えながら、恐怖に
なるであろうビーチバレーと進んでいった。海に行って訓練並みのスポーツをするなんてもう師匠とは遊びたくないと決意する数時間前であった。

Re: 罪とSilencer  第二章第一話更新 ( No.65 )
日時: 2013/04/25 23:07
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

第二話「能力者の異変」

 目の前に大きな鳥居が立っている。何メートルあるんだろうと、じっと見つめた。10メートルぐらいかな……

「よし、着いたな。ここが氷川天満宮だ」

日本有数の神社である氷川天満宮は学問の神様を祭っているため多くの人が訪れる。そして、政府の能力者用シェルターでもある。ここの神主は僕と同期の人間だそうだ。数少ない同期だから知り合いだといいな。

「この本殿から地下へ行く。そこで神主に会って、俺の友達を紹介してやるよ」

「それはどうも。今回の任務をまだ知らないけど」

「神主が依頼人の代表だから、そいつから聞いてくれ。しっかり聞いて謡に伝えてくれや」

「なんで謡はいないんですか?師匠」

「謡は一応、部外者だからね。簡単には政府施設に案内できないのさ」

 本殿の玄関に行き、巫女さんに警察手帳を見せると何も言わずに通してくれた。そのまま、靴を持って進み箪笥の扉をずらすとエレベーターがあった。ずいぶん、ハイテクだな。

「靴を履きなおして中に入れ」

師匠に言われた通り靴を履き、エレベーターに入ると自動で動き始めた。どうやら隠しカメラがあるみたいだ。

エレベーターから出ると病院みたいなところに出た。受付の前に青い髪で青い眼をした水干姿の若い神主らしき人が立っていた。その後ろに立っているのは執事……じゃないな。スーツをしっかり着こなしているけど、神社に執事はおかしいだろ。

「お久しぶりです。先生」

「おう、テメェも元気にしていたか?」

神主が微笑みながら師匠と握手していた。でも疲れかな……お互いのこめかみに血管が浮いているような……そうか、お互いに握力検査してるのか。相変わらず師匠には敵が多いな。

「ひさしぶりだな」

「生きていたか……テメェ」

「そちらは、お弟子さんの三戟紫炎君ですね。私は清水正(シミズ タダシ)と言います。以後よろしく」

律儀にお辞儀をしてくれた。もちろん、僕もお辞儀をして返す。

「言い遅れた。自分は矢向 社(ヤムカイ ヤシロ)と言う」

水干姿の青年が額に浮かんだ汗を拭ってから、落ち着いた冷めた声で挨拶をした。

「失礼ですが、僕と同期の人ですか?」

今、一番聞きたいことはこのことだった。学校のちょうど半分が殺されてしまったため同期の人間も少ない。元仲間に会いたいという気持ちは僕たち以外にも持つ人間がいるだろう。

「う……まぁ……そうだね」

苦笑いしながら矢向が言う。そこまで嬉しくないみたいだが、僕がなんか悪いことしたかなぁ……

「級友に会えて嬉しいのは分かるが、厚木……いや、知名崎先生は忙しいから早速本題に入る」

清水先生が緊迫した顔つきでハキハキと僕たちに注意する。さすが元先生だ。

「会いたい人がいるからついてきてくれ」

早歩きで廊下を歩き始めた。僕以外はしっかりついてきているが、僕は少し出遅れた。昔はこんなに早く動いたのかな……清水先生には習ったことがないからわからないな。

「昨日の夕方頃。矢向の友人である『秤辺 冴里ショウベサオリ』が病院に搬送された。主に目立った外傷もないし、精神的な傷もない。その前に言っとくことがあったな……冴里は昔、犯罪組織に手を貸していたことがあった。自身の能力『記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)』を使って。この能力は自分の記憶や自我を犠牲にして、相手の過去や思考を読み取る力。犯罪組織に嫌気がして私と矢向は冴里を助けた。その時、能力を使いすぎて冴里は昏睡状態になり……能力と自身の記憶を失った。永久に失った。しかし、病院から退院した冴里には能力が戻ってきた。この前、知名崎先生の依頼で過去の状態に戻す能力者がいただろう?なんだっけ……」

「吉祥恵那さんです」

「そうだった。その能力系統なら記憶も戻ってこないとおかしい。でも戻ってはいないそうだ。新たな強力な能力者がやってきたということだ。その能力者に冴里は話しかけられたらしい。『つまらないなら……吾輩の元へ来い。君を吾輩は必要としている……過去の君を……』と言ったそうだ」

秤辺 冴里という札がかけられている部屋の扉をノックして僕らは這入った。静かな白の色で染められた部屋の真ん中に椅子に腰かけている鳶色の短い髪に、金目の少女がいた。無表情なのがもったいないが、今回の能力者はストーカーなのかもしれない。

「そこのアンタ、犯人がストーカーだってまだ決めつけないでくれる? それでも専門職の人?」

 金眼の少女、秤辺 冴里はすぐさまこの三戟紫炎に毒を吐いた。……そ、それぐらいではへこたれはしない! 一応、何人か守ってその分敵を消してきた。ちゃんと腕前もある!

「無理しなくてもいいよ。ボクには清水センセや、社がいるから」

…………僕は隠居した人よりも頼りないのか?

「ハァ……冴里。これ以上紫炎をいじめないであげてくれ。あいつは君の能力を理解できたから」

矢向が肩をがっくりさせて落ち込んでいる僕の肩を気にするなと言わんばかりに軽くたたくと冴里を注意した。僕の心を読んで『ストーカー説』を否定したのか。『記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)』……スパイが持っていたら大変なことになる能力だな。

「ボクの能力が前より負荷が無くなっているみたい……」

やはり、本人である冴里も少し焦っているみたいだった。


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