複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
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The world of cards 8/30一時保留
日時: 2013/09/01 21:16
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: P0kgWRHd)
参照: (`・ω・)<面白いって、思ってくれてたら、嬉しいな

         54人のプレーヤーと54枚のトランプカードの、殺戮記録。


〆今まで以上に遅い更新頻度になってしまいますが、よろしくお願いいたします。

〆柚子です。柑橘系です。柑橘類です。
 若輩ながらもまたーり書ければなぁと思っている次第!


〆注意
:更新遅め
:どんな順番でキャラが出てくるか、謎←


〆目次

Prologue⇒始まりの足跡「>>001
一章
第一話⇒カードの行方「>>002-004
第二話⇒赤の一枚「>>005->>007」「>>010」「>>013->>015」「>>019」「>>022
第三話⇒スペードとか、友情とか、支配とか「>>024-025」「>>030」「>>032-033
第四話⇒エグレウス・ジ・アセスリエン「>>035-038」「>>039-042
第四話狭間五話往き⇒その裏に「>>043
第五話⇒右手に法を、左手に裁きを「>>044-046」「>>052-054」「>>055-056」「>>059-061」「>>064
第六話⇒そして影は動き出す「>>065-066」「>>068-070
第七話⇒先が見えないこの道で「>>071-074」「>>075-079」「>>081」「>>085」「>>089」「>>094-095
第八話⇒休戦「>>097」「>>099-103」「>>109」「>>112-113
第九話⇒消えかけた日常「>>114-116


番外編⇒赤色の一枚のあとで。文字数は500超えればグッ!「>>023
謝辞⇒参照2100突破! 皆様に感謝の言葉を!「>>080

〆参照記念シリーズ
100記念小話⇒ジョーカー的二枚の私生活「>>034
200記念座談⇒突発座談会「>>047」(出演:香住、月、朔夜、菫)
300記念座談⇒突発座談会PART2「>>067」(出演:樹絃、恭助)
400、500記念⇒告知「>>098

〆お客さん
水色水色さん/秋桜さん/金平糖さん/狂音さん
三月兎さん/マスさん/伯方の塩(メフィストフェレス)さん
デミグラスさん/狒牙さん/瓏爛さん/秋桜さん
Whiteさん/えみさん


〆キャライラスト
*由比 天照&ルーンレッドスカーフ*
⇒「>>016」ななしの様に描いて頂きました!

*紀氏 樹絃*
⇒「未掲載」たろす@様に描いて頂きました!(参照の文字数オーバーとかorz)

*根幹*
⇒「>>096」ゆーり様に描いて頂きました!

*スペードキャライラスト*
⇒「>>」金平糖様に描いて頂きました!(未掲載)


〆お知らせ
削除レス総数⇒4

〆更新履歴
2012
07/10 シリアス板にてスレッド設立
07/11 複・ファジにスレッド移設
07/14 参照数100突破
07/25 参照数200突破
07/31 参照数300突破
08/05 参照数400突破
08/11 参照数500突破 スレッド設立一ヶ月目
08/20 参照数600突破
08/24 参照数700突破 返信数30突破
08/30 参照数800突破
09/04 参照数900突破
09/08 参照数1000突破 読者様各位有り難う御座います!
09/11 参照数1100突破 スレッド設立二ヶ月目
09/15 参照数1200突破 
09/20 参照数1300突破
09/27 参照数1400突破
10/03 参照数1500突破 返信数60突破
10/07 参照数1600突破
10/13 参照数1700突破
10/21 参照数1800突破 返信数70突破
10/26 参照数1900突破
11/03 参照数2000突破 読者様各位有り難う御座います!
11/11 参照数2100突破 スレッド設立四ヶ月目/謝辞更新
11/18 参照数2200突破
11/25 参照数2300突破 返信数90突破
12/01 参照数2400突破
12/12 参照数2500突破 
12/21 参照数2600突破 返信数100突破

2013
01/01 参照数2700突破 掲載日1/2
01/07 参照数2800突破
01/14 参照数2900突破 
01/23 参照数3000突破 大台に乗りましたねぇ……。
02/03 参照数3100突破 更新してなくてすいませんorz
02/?? 参照数3200突破
03/14 参照数3300突破
09/01 参照数3800突破



*
〆スペシャルサンクス
>>ウィキペディア
>>Yahoo!翻訳
>>銃専門解説サイト
>>ライトノベル研究所
>>you!!

Re: The world of cards  09/04更新 ( No.37 )
日時: 2012/09/06 23:23
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「やっ、やめろっ! 紳士のそんな所を触るでないっ、香住とやらぁぁああ!!」

 目分量Cサイズ強の香住の胸に押し潰されながら、アセスリエンは顔を真っ赤にし抗議する。男性陣はその様子を、羨ましいと言わんばかりにじぃっと見つめていた。
 それを見た朔夜は「変態」と二人に聞こえるように言う。アセスリエンを愛でることに必死な香住と、抗議をするアセスリエンには届かず、月と菫の耳にぐさりと刺さった。
 瞬間的に二人は愛娘を見る父のような表情になり、「いい成長っぷりだな」「流石北海道の救世主、男性の救世主にもなれそうだ」などと呟く。

「あ、そうだ。胸ばっかり見てないで聞きたい事があったんだよ、俺。
 あの兎って、どっから出て来たんだ? 俺達が部屋に入ったときは、誰も居ないはずだったんだけど」

 くだらない事を、下らない表情で呟いていた月が、何か思い出したのか、月は菫に問いかける。月に何かを問われると思っていなかった菫は、目を丸くして月を見た。ぱっと菫と視線があった月は動揺したが、何故かどや顔で菫の顔を見返す。
 ブッと、菫がふきだす声が朔夜たちの耳に聞こえた。

「と、取り敢えずトリックだよな、知りたがってるの。アセスリエンは、ずっとこの部屋に居たぞ。
 俺らが入ってきたとき、アセスリエンはソファのクッションの下で身を潜めてた。気づかなかったのは、無意識のうちに目の前のパソコンに集中してたから、これがアバウトな答えな」

 まだ何処か笑いを堪えている風で、時折急に肩をぴくぴくさせたりしていた。月は菫にふきだされた時、既にどや顔はやめていた。菫の話をしっかりと真面目に、一字一句間違えないような優等生のような顔つきで聞いていた。
 それでも分からない事があったらしく、補足説明をもらおうと口を開く。

「それって……」
「分かりやすく伝えると、入ってきて最初に白と黒の部屋で白と黒だけのものを私たちは見ましたよね。クッションの一部が膨らんでいても、誰も気づかなかったですし。
 まずそこが、落とし穴です」

 月の言葉を遮るように、朔夜の言葉が入る。けれど月はそれには何も言わずに、同じく真剣な表情で朔夜の話に耳を傾けていた。“落とし穴”と聞いたときに、眉をぴくりとさせるのを朔夜は見逃しては居なかった。月の後ろにいた菫は、微笑ましそうに香住とアセスリエンを見ている。

「実は、このパソコンは友人に頼み込んで作ってもらった特注品で、遠隔操作で強烈に発光する仕組みになってます」

 こんこんと人差し指の爪で、ディスプレイ画面のちょうど下にある小さな液晶をノックする。

「これで私たちが目を隠している間に、アセスリエンがクッションの下から出てきて、叫びながらパソコンの横に現れる……。そういう仕組みです。
 アセスリエンの声がパソコンから聞こえたのは、ちょうどスピーカーの下に最新の超薄型ボイスレコーダーを付けていたからです。
 あらかじめ何があっても言いように、この部屋は設定されてるんですよ」

 他にも色々とこの部屋に関する設備を月は教えてもらっていた。

Re: The world of cards  09/07更新 ( No.38 )
日時: 2012/09/07 21:39
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「……大方分かった。兎の活用法も一通り。それで、俺達は次何しに行くんだ? 俺としてはアイツのために成ることをしてやりたいんだけど……。
 無理くさいか。まぁ、菫と朔夜ちゃんに任すけど」

 朔夜にちゃんづけをし、一緒に星が飛んできそうなウィンクを朔夜に見せる。当の本人は気づいているのかいないのか。月には分からないように、朔夜はすっとスルーした。
 男が嫌いと言うわけではない。ただ、何のためのその様なことをするのか分からないのだ。

 ——時間の無駄じゃないのかしら。

 既に他の話に移ってる月をちらりと見やり朔夜は小さく息を吐く。あれが月の女に対する時間の使い方の一部なんだろうと思い、アセスリエンの説教を聞いている香住に視線を送った。苦笑いをしながら、アセスリエンの話をちゃんと聞いている、男子に人気のありそうな子。
 元気で子供らしくて、可愛くて。僻(ひが)むつもりは無いけれど、
私とは正反対だと思ってしまう。

 あんなに無邪気な笑顔を、私は何処においてきたのかしら。

 目の前で人間の言語を話す兎と、笑顔を見せる逃走した農奴。大雨が降り続ける日に出会った、菫と私。香住の話に感銘を受けたのか、共に行動をしていたチャラい月。菫も月もそれなりにはカッコいい。香住は、年不相応の無邪気さがある。

 私には、可愛いところなんてなさそうね。
 朔夜は小さくため息をついてから、付けっぱなしのパソコンのキーボードをかちゃかちゃと弄る。遠い香住とアセスリエンには聞こえない位小さな音。

「——それじゃぁ、まず日用品買ってって感じだな。食料とか。支払いは俺に任せてくれて良いから、菫」

 テーブルの隅においてあった、黒いメモと白いインクのペンを持ち月は、買う物を記し始めた。最初に自分と香住が此処で暮らしていく上で必要なものを。その後に生活していくうえでなくてはなら食べ物を書いていく。

「なっ、ちょ、ちょっと待てよ! 支払い位俺がやるって、月のが俺より年下だろっ?
 年下に払わせるほど俺はひでぇ奴じゃないぞ!」

 菫のその言葉に、朔夜のキーボードの音、アセスリエンの説教、香住の笑い声、月の動かすペンがほぼ同時に静止した。菫は、自分が何か変な事を言ったのではないかと、一人であたふたしていた。

「そういえば、あたし月以外の年齢しらないかも」

 最初に口を開いたのは香住。それに同調するように、全員が「そうだな」や「そういえば」と言う。菫は安堵したのか、胸をなでおろした。

「じゃぁ、あたしからいくね。名前は、濱織 香住。北海道興部町出身の、えーっと……十八歳です、コレからよろしくっ」

 外見は大人びている香住の口元には、無邪気な笑顔が映える。

「俺は、木月 月。北海道占冠出身の、二十二歳だ。金のことは、任せとけ。北海道民は金が無いとか政府の狗は言うが、実際は逆だ。
 売買して入ってくる収入は、全て俺達に直で来るからな。道民は小さなガキと年寄り以外、結構裕福な家庭が多い。
 だから金のことは、俺に任せとけ」

 月の年齢を聞き、菫は耳を疑う。身長は、菫とほとんど変わらない。声のトーンも、月は低すぎず高すぎず、高校生と偽っていても分からない。意味深に月が菫を見つめる。月が何を言いたいのか、菫は言葉で聞かなくても察せられていた。『金のことは任せとけ』静かに、しっかりと、月の言葉を菫は反芻する。
 心の中で、年下扱いしてスイマセン。と呟きながら。

Re: The 略 09/08更新 参照1000突破感謝です! ( No.39 )
日時: 2012/09/09 11:28
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「私は玖月 朔夜です。中学生ですけど、よろしくお願いします」

 しなやかに浅く一礼をする朔夜の姿に、思わず全員が目を奪われた。ゆれた美しく、長い黒髪。ふんわりと前後した黒のスカート。なめらかで肌理(きめ)細やかな細く白い腕。全てが、美しい高級品のようだ。
 一瞬。たった一瞬が、数秒にも数十秒にも感じられる。

「……次、あなたじゃないのですか?」

 顔を上げ不思議そうな顔を浮かべていた朔夜が、切れ長の瞳を左にスライドさせ、菫を捉える。見惚れていた菫は、慌てて目線を朔夜から外し、香住と月に目線を送った。そして苦笑交じりに口を開く。

「俺は、霧月 菫。よろしくな、一応高校一年生やって“た”んだ」

 菫の過去形の発言に、月や香住は首を傾げる。高校一年生だとすれば、現在菫は十六歳。ただやっていたのが、数年前のことであれば十六歳ではない。
 二人が思考をフル回転させている最中に、菫は立ち上がりぐーっと体を伸ばす。最初に背中を伸ばし、その後に前屈をする。眠気が少し出てきたのか、最後に欠伸をしていた。

「お前、今何歳だ? 高一やってたって、今何してんだよ」

 もっともな感想が、月の口から飛んでくる。菫は「普通に十六歳だけど……?」と呟いた。ソレを聞いて、月が出会ってから初めて盛大なため息を吐く。
 香住だけに、月のため息の意味が伝わった。菫と朔夜には分からないようで、二人とも月の顔をじっと見つめる。目線で「どうかした?」と聞いているのか、月は怪訝そうな表情を見せた。

「あたしが、説明するよ。月は、食器棚とか冷蔵庫に何があるのか確認してて」

 分かったと、月は端的に告げて少し不機嫌そうにキッチンへと向かう。何となく重たい雰囲気から逃げるように、アセスリエンは月に付いてキッチンへ移動した。
 月とアセスリエンがキッチンに着いたのを見て、香住はキッチンに向いていた瞳を、菫たちに合わせる。最初に放ったのは「ごめんね」という言葉と、矢張り無邪気さが残る苦笑いだった。

「月に、悪気は無いの。ごめんね……。ただ許せないだけなんだべなって、あたしは思ってる。
 元々月は規則とか規律には絶対に背かない人だったんだよ、月は。それに炭鉱組みの兄貴分でもあったんだよねー、月。
 だからきっと、許せないんじゃないかな。高校、きっと中退したんでしょ? 許せないんだべさ、それが。ため息ついた原因、それじゃないかな」

 最初は私とも喧嘩ばかりだったんだよ。そう付け加えて、ニッコリと笑う。最初に見せた申し訳なさそうな苦笑いと、最後の満面の笑みとのギャップに落ちてしまう男は少なくは無いだろう。
 冷静に朔夜はそう分析していた。菫も何処か照れながら、受け答えしているようにも見える。

「終わったぞ」

 キッチンから月の声が聞こえる。

「それじゃぁ、行くべ。朔夜ちゃん、菫くん」

 立ち上がりながら、香住は言った。

Re: The 略 09/08更新 参照1000突破感謝です! ( No.40 )
日時: 2012/09/11 16:51
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)
参照: 小説図書で。五話更新ではなく、四話更新中だった件……。

 歩いて一時間弱、走って五十分強の場所に建設された大型スーパーセンターが、四人の視界に入る。自動車が普及しているはずなのにも関わらず、このスーパーセンターには駐車場や駐輪場は無い。鉄道なども普及して入るが、最寄の駅までは徒歩で二十分前後かかる。
 周りには住宅街が立ち並んでいるため、このような配慮をしていると市の方から数回ほど通達があったのを、菫は覚えている。けれど実際にはそういった理由ではなく、万が一に備えての仕組みであると、昔何かのテレビでジャーナリストが発言していた。

 遠くからでも分かる大きさ。スーパーセンターには似つかわしくない、独特の威圧感が此処にはあった。香住はごくりと緊張で締まった喉に、唾液を滑らせる。

「まるで誰も寄せ付けないRPGゲームのラスボスに挑むような感じだな」

 乾いた笑いをしながら月は言った。思わず香住も頷いてしまう。それに否定的だったのは、菫と朔夜だ。良く来るというスーパーセンターに今更恐怖心とか無いかと思えば、最初から緊張した事は無いと言っていた。
 月と香住は半信半疑であったが、近づく大型スーパーセンター【スーパーA(えい)】へと、意識を移していった。何か起きるのかも分からないため、慎重に歩を進めていく。

「何してんだよ、何もねぇってば。早く行こうぜ、買う物いっぱいあるしな!」

 呆れた口調に、朔夜も「そうですよ、急ぎましょう」と同調した。二人は気が進まなかったが、菫たちの言うように何もないから、と納得する。時間は午前四時四十四分を回ろうとしたところだ。
 スーパーAは二十四時間営業だから心配することは無い。と事前に告げられていたため、何も迷うこと無しにスーパーAの敷地内内へと足を踏み入れた。

『ビービービー!! 侵入者発見! 侵入者発見! タダチニ隊員ハ出動セヨ!
 ビービービー!! 侵入者発見! 侵入者発見! タダチニ隊員ハ出動セヨ!
 場所ハ、エリアB! タダチニ捕獲シ、連行セヨ!! ビービービー!!』

 初めて聞いた警報サイレンに、菫と朔夜は唖然となる。今まで一度も起こったことの無い現象であったからだ。その様子を見て、月と香住はそれぞれ次に起こり得る展開を予想し、臨戦体制をとる。
 
「かかれぇぇええええ!! その二人は逮捕状が出ている被疑者だ!! 貴様らぁああ! 死ぬ気で捕まえろ!!」

 スーパーAのありとあらゆる出口から、武装した警官達が現れる。中には自衛官の姿も見受けられた。菫は思わず「んだよあれ!!」と叫び、月同じように臨戦態勢をとる。それは朔夜も同じだった。

「香住! 前線はお前に任す! 俺が止めてやるから、だから全てを朱に染め上げて来い!」

 Tシャツの裏から肌とズボンの間に挟んでいた大きく長い刀を取り出しながら、月は叫ぶ。返事をしないままに、香住は敵の前線へと躊躇無く突っ込んでいく。その様子を平常に見ていられるのは、月だけだった。菫と朔夜は、女に何をさせているのだと言いたそうな様子で月を睨む。
 月は、香住から視線を外さず二人の鋭い視線を感じながら口を開いた。

「——見ておけ。……あれが俺ら道民を救ってくれる少女の姿だ」

 ぽつり。まるで世界の平和が訪れたことを喜ぶ人のように、香住を見た。月には香住が光に突っ込んでいく、英雄のように写っているのだろう。菫と朔夜には、広い敷地内の一角へ走っているだけにしか写っていなかった。
 けれど反論をしようと開けた口は自然と塞がり、どうしようもない感情を押し付けたままに香住の背中を見つめていた。その中で、香住は大きな声を上げる。

「深淵から来た凶暴な神よ、私を——喰らえ!!」

 その瞬間香住の体は常人離れした跳躍力を見せる。蹴ったコンクリートは蹴られた場所を中心に、ぼこりと凹んだ。驚く菫と朔夜をよそに、月は「きたか……。こっちは守ってやる」、しっかりとそう言い香住に対して臨戦態勢をとった。

Re: The world of cards 09/09更新 ( No.41 )
日時: 2012/09/11 21:48
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「アハッ……アハハハハハハハッ!! 馬鹿の一つ覚えみたいねぇ……。そんなんじゃあたしの事、捕まえられないわよ?
 ——“チェック=エンド=チェイス”」

 豹変した。

 それ以外に今の香住を、分析することは出来なかった。ただ殺生を止めようとしそうな少女が、冷酷無慈悲に、飛び散る赤が綺麗だというように、長く伸びた爪で人間の束を蹴散らしていく。深く防弾チョッキを着けた胸に、穴を開ける。
 じんわりと滴る、赤い血。大勢の苦痛に歪み路上に倒れる警官たちを、香住はこれでもかと言わんばかりに止めを刺し、喉と耳を喰らっていく。意識がある内に首を喰われた者や、耳を殺ぎ落とされた者は、ただ悲痛な悲鳴を上げるばかりだった。

「あれが、香住……なのか?」

 信じられないと言う様に、菫は乾いた喉に少量の唾液を滑り込ませる。上下した首には、どっと冷や汗が浮き出ていた。朔夜はうっすら冷や汗をかいているものの、菫以上の動揺は見せずにしっかりと臨戦態勢を整える。
 何が起きても良いように、その瞳は香住だけでなく、血を流し悶絶している警官たちや、香住に無謀にも挑んでいく自衛官や警官の全てに注がれた。

「ンン……。やっぱり美味しいわね、生の肉と血の鉄の味って。あァあ、あたしもコッチの世界で一生食べて暮らしていたいわァ。
 あの小娘ったら、いつもいつもへらへらしてるんだから」

 言葉を発している最中にも挑んでくる警官たちを、『香住』は容赦なく蹴散らしていく。殴り、蹴り、鋭敏な刃物のような爪で肉を裂き、食べ、体を突き刺す。そこには躊躇の一つも見られない。
 『香住』が警官たちの返り血に塗れ、『香住』を中心に気味悪いほどの屍が転がっていくのに反比例し、『香住』を捉えようとする警官たちは減っていく。月にとってそれは良い事でもあったが、悪いことでもあった。

「全員、香住を殺す覚悟持っておけ。そうじゃないと、俺たちが喰らわれておしまいだ」

 端的にそう告げ、握っていた長刀を更に強く握り締める。柄と手の皮膚が接触している部分は、赤く赤く変わっていく。何も言わずに、菫と朔夜も同じように、全ての集中力を『香住』へ向けた。『香住』を殺すことは無理でも、できる限りその行動を受けとめる。その覚悟は確かに全員にあった。

「先に言っておく。此処からは、俺たちが全滅するか、香住から元凶を剥ぎ取るか、香住の意識を戻すか。そのどれかだけ考えておけ。
 何があっても、動じるな。全神経を香住に注げ。下手すりゃ本当に俺たちが喰われるぞ」

 次から次へと喉を喰らい、耳を殺ぎ、心臓に長い長い爪を衝きたてる『香住』への視線を、月は一度も逸らしはしない。忠告をしている最中も、喉を喰らっているときも。どんな瞬間も全てを記憶するかのように、瞬き一つしなかった。
 それは朔夜や菫も同じで、視線を逸らそうとはしない。例え残酷な場面だとしても、その全てを見続ける。初めに見た、人間離れした跳躍力。今もまた人間離れした肉体強度と、精神状態、運動能力を手に入れていた。
 誰も反応できないコンマ数秒という短い時間で、何人もの屍が増えていく。

 そしてついに、生存者数が『香住』を含めた十五人となった。


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