複雑・ファジー小説

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【第1章完結】死神Days☆
日時: 2013/09/21 14:05
名前: 聖木澄子 (ID: EwVeSaUz)

☆——祝・参照5000突破ありがとうございます!——☆
6000まで残るところあと600をきっております。皆様閲覧ありがとうございます!

初めまして。聖木澄子(ひじりぎ・すみこ)、と申します。

小学校高学年〜中学二年生の約3年で書き上げたオリジナル小説「死神Days☆」へとようこそ。
聖木の処女作なため至らぬところもあるとは思いますが、是非ご一読頂ければと思います。

基本ジャンルはギャグ・ラブコメ・バトルですが、時たまシリアスや一部グロテスクな表現があります。ご注意を。

感想・批評等頂ければ物凄く喜びますので、お気軽にどうぞ!

☆Twitterのアカウント⇒柊 霞【@E_Erisie】ID変えました
 何か御座いましたらこちらまで。更新通知もこちらで行っております。尚、フォローの際はプロフィールをご一読頂くようお願いいたします。読まずに気分を害されたとしても責任は負いません。

それでは、貴方様にとって有意義な時間になりますように。

☆目次
・序話 >>1
・第1章 綴られ始めた物語シナリオ
 - 第1話 邂逅 >>2
 - 第2話 蒼色の彼女 >>3
 - 第3話 感情の在り処 >>4
 - 第4話 町並みと威圧感 >>5
 - 第5話 少女こそ >>6
 - 第6話 選択と血の匂い >>7
 - 第7話 彼こそが元凶 >>8
 - 第8話 殺伐さと温かみ >>9
 - 第9話 神、とは >>10
 - 第10話 刀の光 >>11
 - 第11話 魔の術 >>12
 - 第12話 かく在れ >>13
 - 第13話 感触 >>14
 - 第14話 歴史とは行為の積み重ねである >>15
 - 第15話 「男が廃る」 >>16
 - 第16話 スローモーション >>17
 - 第17話 馬鹿妹 >>18
 - 第18話 歯車は廻り始めた >>19
・第2章 照らされた道(ロード)辿る者

第14話 歴史とは行為の積み重ねである ( No.15 )
日時: 2013/06/01 23:02
名前: 聖木澄子 (ID: b5YHse7e)

「全く、いつまでもシスコンなんだからこの馬鹿兄貴、阿呆兄貴」
「いてて。言い忘れていたが光、僕の妹をとるのならば相応の報いというものを覚悟しておきたまえ」
「凄く今更なセリフだし、あんまり決まってないわよねぇ〜」
 マリアさん、口調はほんわかだが言ってることは痛い。俺の自己紹介が終わり、仕切りなおしといったところである。そこで、「ぱんぱん」とクラップ音。
「はいはい、茶番は終わりにしてだね。さっさとお仕事をしてくれないかな、ツ・バ・キ・く・ん?」
 ぎろり、とエルが睨みを利かせると、さしものツバキも汗ジトで咳払いをした。どうやらうちの妹、本当にコイツらのトップらしい。今更実感が湧いてきたが、誰だってそうだろう。その日の朝まで一緒に食卓に並んで「チャンネル変えろ」「星座占い見るからダメ」みたいな会話を寝ぼけながらしていた妹が、創造神だなんて聞かされた日には誰だって夢だと思う。
「歴史、だったかね? どこから話せばいいのだ?」
「んー、普通に。伝わってる通り」
「なら君が説明したほうが早いし正確なのでは……それでは僕も仕事をするとしよう」
 再びぎろり。エルの刺々しい言葉が出てくる前に、ツバキは口を開いた。どうでもいいけど、うちの妹ツバキにだけ妙に厳しくないか。
 ……要約すると、この世界の歴史はこういうものらしい。

 かつて、ルルージュという、創造神がいた。
 彼女は統べる神である父の統治が気に入らなかった。人間達はやりたい放題、世界の環境は荒れたい放題。そんな堕落した世界を前にしても父神は決して自ら改革しようとはせず、ルルージュはそれを非常に不満に思っていた。
 ——私はこんな、堕落しきった世界を治めなければならないのだろうか。父上がもし人々に救いを与えていたのならば、ここまで堕ちはしなかっただろう。なのに、何故。
 そう思った彼女は、その身に宿る力を用い、新たな世界——否、"次元"を創った。
 次元とは、複数の世界を内包するいわば大宇宙。それら三つの世界は特殊な方法で行き来が可能であるがゆえに、相互に干渉しあい、堕落や崩壊を抑えようとする働きを持っていた。
 一つ、人間たちが住まう世界、人間界(ミズガルズ)。
 二つ、死神たちが住まう世界、死神界(ヘルヘイム)。
 三つ、神々たちが住まう世界、神界(アースガルド)。
 だが、それらを創った彼女も、代償無しというわけにはいかなかった。三つの世界を内包する一つの次元——その代償は、彼女自身の限りなき生だった。創造神としての不老不死を失い、彼女は転生を余儀なくされた。
 それでも彼女は、転生を繰り返し、人知れずこの三世界を見守ってきた。絶えず死神の女王として君臨し、ある時現れる強大なる災厄へと抗し得る唯一の切り札となり。姿を変え名を変え人格を変え、数多の姿へと身を移しても、その底に秘めた思いは、人々を世界を守り導くという決意は、今も変わらず彼女の胸に在る——。

「とまぁ、こんな感じだ。何か不足はないかね? エル」
「ん……まぁ、76点ってとこかな。上出来」
 ぐっ、と親指を立てるエル。確かに彼の説明は要領を押さえておりわかりやすかった。まあ、覚えていられるかとはまた別の問題なのだが。次いで、彼女は机からぴょんと飛び降りてにっこり笑った。
「さて、それじゃー皆さんお待ちかねっ! 光兄の実力プレテストー!」
 え。実力プレテスト。とは。全くもって予想していなかった展開に、背筋を冷や汗が伝い、顔面が引きつる。何するつもりだコイツ。
「んもう、何呆けてるのーっ。ここらでいっぺん、光兄がどれくらいの実力なのかみとかないと! ほら、定番でしょ?」
 何が定番だ。何の定番だ。「は、はぁ?」と事態が飲み込めない状態で戸惑っていると、今度はぐいぐいと左手を引っ張られる。ああなんかこんなのちっさい頃にされたなぁなんて逃避したかったが、エルが引っ張る力がそれを許してくれない。助けを求めてレオやショウを見やっても、「諦めろ」と目線で送ってくるばかり。なんだこの詰みっぷり、っつーか痛ぇ痛ぇよ痛ぇってばマイシスター!
「って引っ張りすぎだお前ッ! だぁあもうわかったよやればいいんだろやればっ」
「その通りっ。さあ皆で訓練場へれっつごー!」
 連行される、俺だった。

第15話 「男が廃る」 ( No.16 )
日時: 2013/06/08 17:01
名前: 聖木澄子 (ID: qlgcjWKG)

「というわけでぇ——光兄のプレテストのお相手は、我が股肱の腹心アイルくんでーっす! 一応ド素人だし手加減はしてやってねっ」
 訓練場。宮殿の隣にある、エルの執務室同じく白色で彩られた普通にグラウンド二つ分くらいはあるんじゃないかと思しき広大な建物内。入って早々、マイシスターはそんなことをのたまった。うん、まあ、正直言うとコイツの性格からしてなんとなく予想はしてた。
 他にも何名かが自己を研鑽すべく鍛錬している中で、俺は青年、アイル・リローラと向かい合っていた。
 その佇まいは静。己の身の丈以上もある巨大な刀のようなものを片手に、相当な重量があるだろうに涼しい顔でこちらを見据えている。
「ああちなみに、光兄は初見だろうし解説解説。——アイルの武器は龍頭大刹刀(りゅうとうだいさつとう)の<羅刹(ラセツ)>。中国の武器で、全長は190センチってとこかな。それだけの大きさだ、勿論重量も半端無い。けど、それを扱いきる強者が彼だ。光兄も、おちおちしてると腕の一本は奪(と)られるよ?」
 言葉と共に、にこにこがにやにやへ。おいおいマイシスター、それは冗談になってないですよと心の中で呟く。
 だが反対に、それに高揚している自分もいた。一応これでも、それなりの修羅場は潜ってきた身。そこらの高校生と同じにされてはたまらない。エルはああ言ったが、パッと見あれを自由自在に扱うにはアイルはどう見ても細すぎる。服の上からでも鍛えているのは分かるのだが、その体躯でその重量を御しきれるかと問われれば応とはいえまい。振り回されるのは彼の体のほう、俺の刀のほうがおそらく小回りも制御も利く、付け入るのならばその隙だ——。
 心中で目算をつけ、刀を抜き放って鞘をエルの傍らのレオへ放る。足元にあっても邪魔なだけだ。構え、いつでも動き出せるように腰を落とす。
「先手は、譲るぜ」
 のちのち思えばこのとき、その自覚はなかったものの彼を無意識のうちに侮っていたのかもしれない。永久を生き数多を退ける創造神をして"強者"と言わしめた実力が、たかが武器一つの重みで振り回されるほどのものとの目算、浅慮としかいいようがなかった。言葉を受け、銀髪の青年がこくりと頷く。
「それでは、俺から行かせていただきましょう」
 ——動。認識できた瞬間には、既に彼の体は目の前にまで迫っていた。だが体に染み付いた構えだけは——意志は追いついてこなくとも——その一撃に従順に対応し甲高い金属音を響かせた。そしてそれに追いつくように、腕から脊髄まで一直線に通じる衝撃がやってくる。
「お、もッ——……!?」
 腕が痺れるなんてものではない。己が丈よりも大きな武器を片手で軽々と扱い、アイルは俺へと思い切り斬り付けたのだ。いや、エルの言いつけ通り手加減はしたのだろうが、それでもこの威力。腕が木っ端微塵に弾けそうになる重みに、ぎりぎりと関節が軋む。受け止めた、なんてレオの驚いた声も必死に手足を動かす脳髄には届かない。
 それでも残る力を一滴残らず振り絞り、先ほどの高揚なんてどこへやら冷や汗をかきつつ振り払う。その力に逆らわず、彼はバックステップで距離をとった。その姿に一合の斬りあいによる乱れは全く見えない。対して俺はどうだ。
 腕には未だ痺れが残り、動かすのもかろうじてといった状態。次あの斬撃をまともに受ければ数日は使い物にならなくなる。いかにして受けず、流し、その間隙に一撃を叩き込むか。それが、勝敗の分かれ目だった。
「へーきかい、光兄。なんならやめてもいいよう?」
 レオたちと並び完全に傍観者となっていた妹の言葉。見ずともわかる。今あいつは絶対、にやぁと俺譲りの笑みを浮かべているに違いない。
「おいおいマイシスター、そんなあからさまな挑発に乗るわけ——あるだろうがこの野郎。俺をなんだと思ってんだ、お前の兄だぞ?」
 目線だけはアイルに投じたまま。声だけでそう返し、口元に笑みを浮かべる。ああそうだ、俺はあいつの、創造神の兄。
「誰より負けず嫌いのお前の兄が。途中で勝負を投げるわけ、ないだろ」
 たとえ勝ち目などなくとも。ここで諦めれれば兄が、何より男が廃る。口に笑みを貼り付け、俺は床を蹴っ飛ばし大刀の剣士に突撃した。

第16話 スローモーション ( No.17 )
日時: 2013/07/22 15:35
名前: 聖木澄子 (ID: qlgcjWKG)

 かたや、龍をあしらった大刀を地に立て、冷静な面持ちで隙無く佇む青年。——あたしの股肱の腹心。
 かたや、一般人にしてはだいぶ構えがサマになっている、切り込む機を油断無く窺う青年。——あたしの実の兄。
 その二人の戦いは、なかなか見応えのあるものになるだろうとあたしは考えていた。スペックだけを鑑みれば、かたや戦闘のプロかたやただの一般人で明らか光兄の方が分が悪いのだが、そういうこととはまた別の見応えである。実力の伯仲した者同士の戦いは手に汗握るものがあるが、磨けば確実に眩い光を放つであろう原石の初戦というのもなかなか面白い。何より、その原石の見せる片鱗が素晴らしければ素晴らしいだけ、後々に期待が持てる。その点、光兄はまさに文句なし、きちんと鍛え上げれば聖五位にまで匹敵する可能性を秘めていた。
「らぁあああッッ!!」
 雄叫びを上げつつ、光兄が地を蹴り駆け出す。その足取りはまだ慣れきっていない刀のせいで若干おぼつかないが、先ほどまで非日常とは無縁だった人間にしては大したものだろう。切りかかる。
 キィンッ
「ッ、!!」
 先ほどよりは軽めの金属音。どうやらフェイクらしい、切りあいは無駄だと悟ったか光兄は大刀を操る本体——即ちアイル本人を崩すことに行動をシフトしたようだった。うむ、その切り替えの速さや一手段に固執しないところは大変素晴らしい。切りかかりざますぐ刀を引き、しゃがんで足払いをかける。が、一瞬先に動きを察知しその場で跳躍したアイルにより避けられる。そこまで織り込み済みといわんばかりに今度は下からの蹴り上げ。逆立ちの要領でアイルへと突き出された光兄のしなやかなキックは大刀によって阻まれたが、いかんせん空中なだけあって勢いは殺しきれなかったらしい。アイル、若干浮いたあと後方に着地。——可能性アリとは言ったが、にしても"戦闘"に慣れすぎじゃないか、光兄……?
「なかなか、やりますね。光様」
「まあ、色々あってな。っていうかその様っていうのやめてくれ。同い年だろ? 様付けはどうもむず痒くてかなわねぇ」
 体制を再び整え、あたしの疑問を口に出したアイル。はぐらかすように光兄はがしがしと無造作に頭を掻き、そう答えた。……色々、ねぇ。
 実の妹とはいえ、あたしも光兄のしてきたこと全てを知っているわけではない。せいぜいあの時——三年前、彼の放っておけば死にかねないような表情から『人様にはいえないようなこと』だろうと感じたくらいだ。その気になれば創造神、世界を捻じ曲げることすらできる存在だ、一個人の過去を探るくらいどうってことはない。だがそれは"人"として在るには不要な行動だったから、あたしは今までそんなことはしたことがなかった。それは光兄に対しても同様であり、何より本人が話したがらないことを探るなんてことは兄に対する侮辱にもほどがある。
 少しの思案の後、アイルは口を開いた。どこかぎこちなく、こくりと頷く。
「……、そう、ですか。そう仰るのでしたら、これからは光、と呼ばせていただきます」
「おう、助かる。さてじゃあ、次の先手はアイル、お前に譲るぜ?」
 からからと屈託無く笑う光兄だが、その目は油断なさげな光を放っている。強い者を相手にしても引け腰にならないその肝の太さも、あたし的には高得点である。
 戦闘において大事なもの。それは、技量より何より、ハッタリをかませるだけの演技である。どんな剣技も魔術も、人が作ったものである以上必ず"抜け道"というのは存在する。それをいかに押し包みひた隠し、例え見破られたとしても『まだ自分には隠し玉があるんだぞ』という態度をとることで相手の戦意を削ぎ自分の勝機を作り出す。それができるか——それが戦闘におけるプロの一つの条件だ。
 そういう面に立ってみると、光兄は将来有望としかいいようがない。あの度胸は賞賛に値する。
 内心のあたしの賛辞も二人はいざしらず、アイルは「それではお言葉に甘えて」と羅刹を構える。ただ彼が構えただけなのに、ずん、とその大刀の質量が何倍にも膨れ上がったかのような錯覚を覚えた。光兄もそれは例外ではなかったらしく、いったん笑みを引っ込め、神妙な面持ちで体制を整える。
 いきます——と。銀髪の青年が呟いたときにはもう既に元いた位置から掻き消え、光兄へと迫っていた。刃が空を裂く悲鳴じみた音。そしてそれを、若干体勢を崩しかけながらも半歩斜め前に踏み出すことで回避した光兄。驚愕するアイル。光兄——歯を食いしばりながらも体勢を無理矢理持ち直させ、刀を彼の首にむけ一閃させる。アイル——歴戦の戦士としての本能が命の危機を察したか、今までの斬撃が霞んで見えるほどのスピードで大刀を振りぬく。兄が目を見開き硬直する。迫る刃。ここだけスローモーションになったかのように流れる一連のやり取り。
 遅くなった時の流れを引き戻すかのように。あたしは地を蹴り、二人の時間に介入した。

第17話 馬鹿妹 ( No.18 )
日時: 2013/08/02 17:50
名前: 聖木澄子 (ID: qlgcjWKG)

 きん、と。
 彼女が介入した時に生じた音。それは、たったそれだけの、小さな金属音だけだった。
「——ッ、……ぁ!?」「エ、ル——さま?」
 俺とアイル。今まさにアイルの刃が俺の首を掻っ攫おうとしたその瞬間、彼女はその隙間に大きな鎌の先端を滑り込ませていた。金属音は大刀と大鎌が触れ合った際の音で、鎌と俺の首との間にはほとんど無いといってもいいような隙間しか存在しなかった。——戦闘の高揚でつい忘れていた危機感という奴が、今更になって悪寒を運んでくる。
「やりすぎだよ、アイル」
 にこりと笑い、大鎌を危なげなくひょいと持ち上げるエル。そうすることでつかの間静止した時間が再び流れ出し、アイルも刃をどこか居心地悪そうに引っ込め、俺も彼の首筋へと放ったまま中途半端な位置で止まっていた刀をおそるおそる下ろした。ギャラリーのほうからはほっと息を吐く気配がした。
「光さ——光、申し訳ありません。つい、反射で……うっかり」
 歯切れの悪い謝罪の言葉。俺は知らず力んでいた体からゆっくりと力を抜き、「いいよ」と短く答える。
「首を狙ったのは俺もだしな。お互い様だよ。それにしてもエル、お前よく動けたな……いや、感謝してるけど」
「誰だと思ってんの、エルさまだよ? いやぁでも流石にたまげたねー。アイルが反射で動かざるを得ないくらい、光兄に力があるなんて」
 褒め言葉、だろう。いや、とかぶりを振り、レオに預けていた鞘を受け取って刀身を収めつつ苦笑する。
「ただの偶然だ、あんなの。たまたまああやって首を狙えただけで、再戦すれば確実に負けるっつーの」
 そう。あれはしょせん、ただのプレテストだ。アイルが初めから殺す気であれば、今頃俺の首ないしは四肢のどれかは確実に切り離されているはずである。彼がそうするだけの機会などいくらでもあった——そうしなかったのは、ひとえに彼がエルの命令を忠実に守っていたからだ。そんな実力者ですら、まだ"高位"。その上を行くものがこの場には五人もいる。手っ取り早い話、ここで俺が一つでも粗相をしでかせば、いつだって首を飛ばせるということだ。
 ……今更だけど俺、結構ヤバい世界に踏み入れちゃったんじゃね?
 物凄く今更のように自覚し微妙な顔をする俺。それを見、内心を悟ったかレオがくすりと笑う。
「心配しなくても、誰も貴方の首を落とそうなんて考えてないわよ」
「いや、そういうけどよ……お前らにとっちゃ俺は、会って数時間も経ってない余所者だろ? そんなに簡単に警戒をといていいもんなのか?」
「余所者じゃないわ、もうれっきとした仲間よ。それに、エルがあんなに打ち解けた顔で話すのよ、疑うわけないじゃない」
「……なるほど」
 言われてみれば、そうだった。
 エル——薫は昔から、鼻の利く少女だった。ファーストコンタクトでほぼ確実に相手の"危険性"を看破してしまう。この場合の"危険性"とは、相手が自分の敵に回る可能性があるか、回ったとしても脅威になりうるかどうか、ということだ。彼女が良い反応を示さなかった相手は——だからこそ、という逆説も無きにしも非ずではあるが——、俺の知る限りでは全て彼女の敵となった。無論、この時点では彼女が創造神であるということは知るよしもないため、社会的な敵、に限られるが。そして例外無く、哀れ気性の激しい妹の敵となった人間は屈服させられるか徹底して潰されるか和平を飲まざるをえない事態へと追い込まれた。俺の妹を敵に回したのが運のツキ、ということである。……"気に喰わないから潰したんじゃないか"って? それは無い。彼女は激昂しているようでいて周りはちゃんと見ている、薫が再起不能に追い込んだ輩は全員周りの人間に迷惑をかけていた。己の感情のみで動くようなタマでは絶対に無い。
「あっそうだ、光兄!」
 と、俺の回想を破ったのは当の妹だった。割とヴァイオレンスなことも平気でやってのける妹——そこだけは兄として似てほしくはなかった、というのは余談である——だが、平常時は年相応の表情だ。「なんだ?」と返すと、彼女は定番といわんばかりに舌をぺろっと出しウィンクしてからの頭をこつん。
「儀式先にやろうと思ってたんだけど忘れてた。ごめんねてへぺろ☆」
 ——あざとい、流石あざとい。まあ、俺としては儀式とやらが前後しても別に構わないのだが、……なんかちょっとイラッとしたので。
 ごつんッ!!
「〜〜〜〜〜〜っったぁッ!?」
「しっかりしろ、馬鹿妹」
 嘆息しつつ、硬い拳骨を脳天に一つ。悶えるエルを尻目に、死神たちは微笑ましげにその光景を眺めていた。

第18話 歯車は廻り始めた ( No.19 )
日時: 2013/09/21 14:00
名前: 聖木澄子 (ID: EwVeSaUz)

「マジさーせんっした。完全に忘れてました。……その、観戦に夢中で」
「マイホームかこの野郎。観戦にのめりこみすぎて宿題の存在忘れてて翌日ひぃひぃ言ってんのは誰だったかなあなあ妹よ」
「それは光兄もでしょ!」
「俺はいいんだよ、もう諦めてるから」
「諦めたらそこで試合終了だよ受験生!?」
 ところかわって、エルの執務室。そんな茶番を繰り広げ——周囲の五人は微笑なり苦笑なり思い思いのリアクションである——、こほんとエルが咳払いする。
「とりあえず、ね。今のままじゃ光兄はまだ、"人間の霊魂"のままなんだ。だから、儀式を通じてそれをちゃんと"死神の霊魂"へと変化させなきゃいけないの。光兄はあたしがかける問いにYesを返すだけでいいから。オーケイ?」
「お、おう」
 戸惑いながらも頷くと、エルは一つ深呼吸。彼女が目配せすると、他の五人は事前に示し合わせていたかのように移動する。
 エルが俺の正面。そこから時計回りに、マリアさん、ショウ、アイル、レオ、ツバキ、と俺を中心とした正六角形の頂点に寸分の狂いも無く彼ら彼女らは並び立った。その表情は既に今までの柔らかなものではなく、いずれもどこか緊張感を漂わせる静かなものだった。
「——いくよ」
 ぱん、と。エルが拍手を一つ打った瞬間、部屋の照明が一瞬で落ち、息を詰める間もなく——

 ——俺を中心とした"陣"が浮かび上がる。

「——ッ……!?」
 予想外の変化に反射的にその場から飛び退ってしまいそうになる。けれど真正面にいる妹——否、創造神の落ち着いた眼差しがかろうじてそれを押さえ込んだ。
 この部屋にいる七人、その全ての足元に虹色に光り輝く円が浮かび上がっている。そしてそれらを結びつけ一つの陣として成り立たせているのは、おそらくは英語であろう筆記体で書かれた圧倒的な量の文章。そしてそれらがまた円を形作り、結果として足元には幾重にも広がる円陣ができあがっていた。
 そしてそれと呼応するかのように、目に見えない大気、より正確を求めれば魔力が道筋を辿って渦巻く。そう、描かれた陣は道筋だ。魔力に指向性を持たせ思い描いた理想を実現させるための過程、それらが示された縮図。それらがエルの合図を受けていっせいに輝いた。部屋の白い壁紙が光を受けて虹色に染まっていく。
「——光兄。力っていうのは、必ず責任が伴うものだ。その力が強大であればあるほどそれは正しい方向に用いなければならない。万が一それを誤った方向に使ってしまった場合、……相応の報いを受けなければならない。それは、分かるよね」
 力に対する責任。そして使い方を間違えたときの報い。……嗚呼それは。それは、三年前に嫌というほど思い知らされたこと。
 俺はあの時、一度『使い方を間違えた』。そしてその報いは、一生負うべき罪として返って来た。俺はその時、彼らとは違って刀という力を持っていた。なのにそれを、俺は用いてはいけない方向に使ってしまったのだ。だからそれは当然の報いであり、受けるべき呵責だった。
「……ああ。痛いほど、知ってる」
 僅かに表情へとでかけた沈みも、一瞬後にはすぐ払拭する。俺のこういうところが妹にも受け継がれてしまったのかもしれない、という思いが首をもたげたが、それを阻むようにエルは再び口を開いた。
「なら大丈夫。これから兄(にい)が受け取る力っていうのは、そういう類のものだから。本気で伸ばせばどんな魔物だって屠れるようになるけど、その矛先を間違えたら……わかるね。何の力も持たない一般人なんて、一瞬で何十人も殺せる。そういう"もの"だ」
 脳裏に広がるイメージ。あの頃の俺が、血まみれの抜き身を晒した紅蝶蘭をぶら下げ、何十人もの屍を前に呆然としている構図。その屍の中には、今目の前にいる妹や、周囲にいる死神たち、そして両親に俺の親友もいる。だぶる忌まわしき記憶と現在。重なったそれらは俺の脳裏に染み付き、『贖罪を』と気が狂いそうなほどの声をあげ続ける。
 だがそんなイメージを拭い去るかのように、陣が更なる光を発した。それは最早目に痛いほどの光量を持っていて、反射的に瞳は直射を拒否する。そんな中、六人の声が寸分の狂いもなく同時に唱和する——。

『我ら汝を死神と認めん。さらば、等しき生と祈りを以って、あらゆる魂に救済を』

 等しき生と祈り。それは即ち、俺の命と願いの限りを賭して、成すべきを成せ。あるいは、全てを賭して贖罪を遂げよ。そのどちらともわからぬ言葉は更なる光量の増大を促し、それはやがて俺の視界を瞬く間に灼いた。
「……っ、ぁ……」
 おそるおそる、瞳を開く。そこにはもう眩いばかりの光を放つ円陣は跡形も無く、もとの白い部屋だけが残っていた。儀式とやらは終わったらしい、と自覚したはいいもの特に変化した感じはしない。死神の霊魂へと変化させる、とかいっていたが、これで本当にさせられたんだろうか。少し不安になりつつ妹をみやると、彼女は答えた。
「大丈夫、終わったよ。これで光兄は、位はないけれど立派な死神だ。そこにおいては貴も賎も上も下もない。ま、実力においてはこれからの努力と成長に期待……だけどね♪」
 にっこりと笑う彼女——そしてこれが、俺の死神になるまでの一連の経緯であり、これから遭遇することになる全ての喜怒哀楽の発端となる出来事だった。

第1章 綴られ始めた物語(シナリオ) fin.


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