複雑・ファジー小説
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- 1/2
- 日時: 2013/06/01 18:56
- 名前: トー (ID: gwrG8cb2)
トー、と申します。
短い物語になると思いますが、地道に書いていきたいと思います。
読んでいただければ嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いします。
登場人物
・僕(ぼく)
この物語の主人公。僕目線で書いていきたいと思います。
・彼(かれ)
僕が行きつく建物の持ち主。ブロンドの長髪に青い目。左目に眼帯。
書き始め
2013/05/11
- Re: 2/1 ( No.4 )
- 日時: 2013/05/13 19:08
- 名前: トー (ID: gwrG8cb2)
最後に残っていたのは、赤色の、真四角の家だった。その部屋にだけ窓がなくて、明かりがついているかどうか分からなかった。
ドアを開けたら、中は青色をしていた。青色の光で照らされていたからだ。床とか壁は灰色で、とても冷たい。コンクリートだと思う。
その部屋にも何もなかったけど、ドアから少しあるいたら、たくさんの赤い棒が並んでいるのが見えた。その奥は黒くてよく見えなかったけど、何かがいるんだな、って思った。
その棒が並んでいるところにもドアがあった。それには大きな赤い鍵がかかっていたけど、たぶんさっき拾った鍵で開けられるんだと思った。何故なら、そのドアにかかってる大きな赤い鍵に、文字が浮かんでいたからだ。
ドアを開けますか?
ドアを開けない。
ドアを開ける。
目玉を動かして、文字が光るのを結構な時間、眺めてた。迷っていた。彼は此処にいないけど、もしかしたらまた、殴るかもしれない。僕が此処で何かをしたら、その罰だって殴られるかもしれない。
あの女の子のことを思い出した。あの子には悪いことをした。後で電気を点けてあげよう。
僕は目玉を動かして、『ドアを開ける。』を見つめた。すると、どんっと言う音がして、文字がぱぁっと弾けていった。僕の腕は勝手に動いて、さっきの鍵を大きな赤い鍵の鍵穴にゆっくりと差し込んだ。
時計回りには回せなかった。ゆっくり反対側に回したら、小さなかちゃんって言う音を出して、鍵が消えて、見えなくなった。
ドアが一人で開いた。僕は怖かったけど、その中に入って行った。奥にいる何かにドアが開いたことを教えてあげたかった。
少しだけ入ったら、それ以上前に行けなかった。透明な壁があるみたいだった。
「ドア、開いたよ?」
僕はゆっくりと言った。でも、其処にいる「何か」は何も言わなかった。聞こえなかったのかな、って思って、僕はもう一度言った。
「ドア、開いたよ……もう、出ていいんだよ?」
かさっと音がした。僕はちょっとだけ嬉しくなった。初めて、僕の言葉を聞いてくれたから。嬉しくなって、もっと近づいて、よく見ようとしたら。
真っ黒い中に、ぽつんと一つだけ、真っ赤なビーズみたいな何かがあった。それは浮いているように見えたけど、あの黒いのは全部「何か」なんだと思った。その何かは、かさかさって音を立てて、体を床にこすったりしていたけど、僕に気がつくと、赤いビーズを、僕の方に向けてきた。
目、だった。そのビーズは、それの目だった。
怖くなって走り出したら、それは僕を追いかけてきた。赤い家を飛び出して、しばらく外を走っていたけど、ずっとずっとそれは追いかけてくる。何か叫んでいる。黒い、腕みたいなものを伸ばして、僕を捕まえようとする。怖くて、走ってる途中で僕は泣きだした。だけど、それはどんどん速くなって、僕に追いついてくる。とにかく逃げたくって、僕は、ピンク色の横長い家に入った。
家の中は電気がちゃんと付いていて、女の子はまださっきの場所に座っていた。僕は、外が見たくなくて、その中にある窓を全部カーテンで閉めてしまった。そして、もう走れなくなって、女の子のそばに座ってしまった。
外で、かさかさっていう音がしている。あれが僕を探しているんだと思ったら、怖くて、また泣き出してしまった。でも、声を出したら見つかっちゃうから、なんとか声を出さないようにした。寒くもないのに、体が震えていた。
音が、小さくなっていく。あれが出す音が小さくなってくる。だけど、だんだん大きくなってくる……それの繰り返しだった。僕は何度もびくびく飛び上がって、目を閉じた。そのたびにかさかさって言う音は小さくなっていく。安心したと思ったらまた近づいてくる。それの繰り返し。
ぴたっと音が止んだ。僕がいる、家の前であれは動きを止めた。僕はもう泣いていて、声が出てしまっていた。もう死んじゃうのか、って思って怖くなって、思わず女の子の体に触ってしまった。
とっても冷たくて、濡れていた。僕は驚いて、声を出してしまいそうになった。
女の子の首が、ぐりんっと僕の方を向いた。顔が、青かった。茶色の見張った目が、僕を見つめて、白い色の口が、何かを呟いた。
その時に、部屋の電気が消えた。誰も触ってないのに。すると、女の子は眉を曲げて、目をもっと見開いて、大きな口を開けた。
大鐘みたいな声だった。ぐわんぐわんって僕の頭も痛くなった。かさかさって音が家の前で大きくなった。見つかった。
殺される。
「お願い、もうやめて! 泣かないで、お願い! お願い!」
大きな声で、僕はそういうのに、女の子は聞いてくれない。ぐわんぐわんって声がもっと大きくなって、家が揺れ始めてた。
僕は夢中で、女の子の口に手を入れた。僕の手が一つ、全部入った。女の子の声が、少しだけ小さくなった。
「もうやめて、泣かないで! 見つかっちゃうよ、見つかっちゃうよぉ!」
何回も何回もお願いした。もっと強く女の子の口に手を押し込んだ。女の子の声はだんだん小さくなっていった。でも、かさかさって言う音はだんだん大きくなっていく。
見つかる、捕まっちゃう、殺されちゃう。どんどんどんどん強く押し込んで言った。
「お願い、見つかりたくないの、痛いの嫌いなの! お願い、泣かないでよぉ!」
そうしたら、ぷつんって女の子の声が消えた。そのとたん、女の子は上を向いて目が白くなって、だらんとした。僕が慌てて手を抜いても、女の子はぐったりしているだけだった。
外の音も止まなかった。かさかさが、がさがさって大きな音になっていた。ドアを叩く音も、何か叫んでいる音もした。
僕が怖くなって女の子をもう一度見たら、女の子は体をひくひくさせていた。その時は、まだ生きていたんだと思う。急にこの子が死んだら、って思った。僕は怒られるかな?
悪いことをしたら、殺されるんだったっけ。
「ねぇ……?」
女の子に触ったら、女の子の服が消えて、裸になった。
青くなった女の子の肌には、たくさんの怪我の跡があった。僕は混乱して、何が何だか分からなくなって、其処に固まった。
女の子の体から目を離せない自分が怖かった。僕がこの子に何をしたんだろう。何も分からないけど、胸が痛い。お腹が、痛い。
どんどんって言う音が強くなっていく。怖い。捕まったら殺される。だって僕はこの子を殺してしまったから。この子が死んだのに、僕が死なないのはおかしいことだから。
悪いことをした子は、死刑になるんだったよね。
女の子の顔がどんどん崩れて、ぐずぐずになった。其処にぽっかり穴があいて、黒い、どろどろの液が流れ出した。それと一緒に、黒い大きなナメクジがいっぱい出てきて、僕の体にまとわりついてきた。
何も出来なかった。僕はただ、女の子の体を見つめて、心臓がどきどきするのを怖がることしかできなかった。家の外の音がどんどん大きくなっていく。怖い。怖い。捕まったら殺される。だって、悪いことをした子は死刑なんだもん。僕は悪いことをしたから、しななきゃいけない。
いっぱいいっぱい、痛いことをして、死ななきゃいけない……。
- Re: 2/1 ( No.5 )
- 日時: 2013/05/13 22:18
- 名前: トー (ID: gwrG8cb2)
外で、ばしゃって言う水が床に落ちる音がした。そのとたん、がさがさ言う音も聞こえなくなって、ドアを叩く音も聞こえなくなった。でも、まだ黒いナメクジは僕の体に這い上って来る。体が動かないから、取ることもできない。数はどんどん多くなっていって、女の子の体も黒くなっていく。
女の子の体から目が離せない。もう嫌だって叫んでるのに、首が動かない。怖い怖いって叫んだのに、ナメクジはどんどん口の中に入って来る。
ぬるぬるした黒い液は、辛い味がした。
その液を飲み込んだら喉が熱くなった。目の前がちかちかして、体が熱くなって、汗が出てきた。手がぬるぬるして、何も掴めなくなった。急に眠くなってきて、黒くなったピンク色のじゅうたんに寝た。
ドアがまた叩かれてる。五月蝿いな、って思って目を開ける。鍵がかかってるのかな? あれは入れないのかな? もう、死んじゃっても良いかな、って思う。だって、僕はもう寝ちゃうから、気付かないうちに死んじゃえるかもしれないから。
そうしたらいいなって、思ったから。
いつの間にか寝てしまってたらしい。目を開けたら、電気が点いていた。そして、彼がいて、びしょびしょに濡れていた。その水は黒かったみたいで、彼の服は黒くなって、垂れる水も、黒かった。
僕はその時寝ぼけていたんだと思う。彼が僕に悪いことをすることを忘れていたから。「どうしたの?」って彼に聞いたら、彼は驚いたように目を見開いて、僕のお腹を殴り始めた。
一瞬、僕は泣きだしそうになった。僕のことを、ちゃんと考えてくれて、ちゃんと守ってくれる人はここにはいないんだって。僕は独りで頑張らなきゃいけないんだって。彼も、僕のことなんか嫌いで、殺そうとしているんだって。
でも、違った。彼は、泣きそうな顔をして、僕を殴っていたから、本当はしたくないんじゃないかな、って思った。それで、何で殴ってるのか聞こうかとしたら、彼は僕に聞こえるように言ってくれた。
「吐いて。飲み込んじゃ駄目だよ。早く吐き出して」
多分、さっき口の中に入って来たナメクジのことを言っているんだ、と思った。彼はずっと僕のお腹を殴っているから、僕も気持ち悪くなった。苦くて酸っぱい味がし始めて、喉に何かが上がってくるのが気持ち悪かった。唸って、「もうやめて」って言ったけど、彼は止めてくれなかった。
べどべどした、辛い何かが口の中まで戻って来た。此処で吐いたら駄目だって思って彼を見て首を横に振ったけど、彼は笑って「大丈夫だから」って言った。目の前が何も見えなくなった。泣いていたからだ。お腹がもっと痛くなって、気持ち悪くなって、下を向いた。吐き気がして、手を口に当てたけど、どうにも出来なかった。
僕が吐き出したのは、真っ黒い液だった。それと一緒に大きなナメクジがたくさん落ちてきた。ぼとぼと音を立てて僕の口から出てきたナメクジは、うねうね動いて、彼の体に上って行った。怖くなってそれを取ろうとしたら、彼が僕の背中を撫でてくれた。彼は自分で取れるから大丈夫なのかな。
いっぱいいっぱい黒い液が出てきた。息が苦しい、って思ったら、鼻からも黒い液が出て来ていた。ちっちゃなナメクジも出て来て、黒い液の水たまりの中でうねうね動いていた。
それが、ずっと続いた。僕が苦しくなって、吐くのをやめたら、彼がまた背中を撫でて僕に吐かせようとする。もうやめたいのに、液はどんどん出て来る。止めようと思っても、ナメクジは僕の口の中から減っていかない。僕の口の中でたくさん動いて、外に出ようと必死でいる。
全部吐き出すのにすごい時間を使ったと思う。僕は、一日経ったのかな、って思うほど長い時間吐いていた気がする。全部吐いてしまった後は疲れて眠くなって、彼と一緒に帰らなきゃと思うけど、体が動かなかった。
彼は僕が全部吐いてしまったら、お腹を殴るのをやめてくれた。そして、僕の頭を撫でてくれた。「良かった」って言ってくれた。
「ごめんね。辛かったよね」
彼は泣きそうな顔のままだった。僕が無理矢理笑って「大丈夫だよ」って言ったら、もっと泣きそうになった。
「私が……君を、殴ったりしたから」
彼が、僕を殴ったことを思い出した。でも、泣きそうになってる彼から逃げようとは思わなかった。だって、僕は彼が好きだから。彼に泣いて欲しくない。
彼だけが、僕の話を聞いてくれる。僕がいることを教えてくれる。お話しして、守ってくれる。ここでは、彼だけ。
とっても嬉しい。もう、こんな怖いことしたくない。
「ごめんね」
彼が、僕を抱きしめてくれる。びしょびしょに濡れてるからすごく冷たかった。でも、僕は濡れなかった。何でかなって思ったけど、今は、どうでも良かった。
彼に全部を話した。何回も何回も怖くなって止まってしまうけど、彼は全部話を聞いてくれた。此処に着いたこと、たくさんの家の中に入って、会った人、あったもの、さっきの黒い何か。女の子のこと。肌が青くなって裸になって、僕はそれを見て動けなくなって、ナメクジがたくさん口の中に入って来たこと。
彼は僕の話を最後まで聞いてくれると、ぎゅって僕を抱きしめてくれた。「怖かった?」って聞いてくれた。僕は泣いてしまって、しばらくいっぱい叫んだり、彼に頭を撫でてもらったりした。安心して、また眠たくなった時、彼は女の子を見て、顔をしかめていた。
「ごめんなさい」って言ったら、彼は「君が悪いんじゃないよ」って言ってくれた。「君は何も悪くないよ。これは悪い夢なんだ」って。でも、僕は女の子の口の中に自分の手を押し込んでしまった。それで、女の子は息が出来なくなって、死んじゃったんじゃないか、って話したら、「そうかもしれないね。でもこれは夢みたいなものだから、次に来たときは女の子もまた元に戻ってるよ」って、彼は言った。僕はよく分からなかったけど、彼は僕のことを許してくれたから嬉しかった。
「帰ろうか」
僕の手を掴んで、彼は歩きだした。家の電気を消して、ピンク色の家から出て、四角をくぐって、ずっとずっと歩いた。振り返ったら、あの四角と、他の家に点いていた電気が遠くに見えた。
あれは追いかけてこないかな。そう思ったら怖くなった。ぎゅって彼の手を強く握ったら、彼は僕を見て、ぎゅって握り返してくれた。濡れて、冷たくなった手が、ちょっとだけあったかく思えた。
縦長の、木の家が見えた。「コンラッド・モーガン」って書かれた、ちょっとだけ傾いた看板も見えた。電気は綺麗に点いていて、僕は早くあそこに行きたいな、って思った。
あそこは、誰も追いかけてこないし、僕を許してくれるから。
彼はまた笑っていた。僕も嬉しくなって笑った。彼が本当に笑ってるのは珍しいと思ったから。
手を繋いで、彼と歩けるのが、とっても嬉しかった。
- Re: 2/1 ( No.6 )
- 日時: 2013/05/19 21:04
- 名前: トー (ID: gwrG8cb2)
僕は、僕が何時もいる部屋の中にいる黒い影を追いかけてみようと思う。
あの四角の中にいた黒い何かにすごく似ている気がするからだ。あれは怖かったけど、もう何処にもいないみたいだ。彼に内緒で、またあの場所に行ってみたら何処にもいなかった。元の赤い棒が並んでいるところにもいなかった。女の子も元通りになっていたけど、肌が青いのは元に戻っていなかった。
僕が何時もいるところは、長い机と椅子のところだ。其処で何時も彼が僕に文字の読み書きを教えてくれる。この前まで彼に近づけなかったからまだあんまり上手になってないけど、ちゃんと出来るようになるからって、彼が言ってくれる。
本は嫌いだけど、絵本は好きだ。たくさん動物が出て来るし、僕とおんなじくらいの子どもも出て来るし、僕とおんなじことを考えてくれるから嬉しいし、楽しい。彼も一緒にそれを読んでくれるから、僕の考えを聞いてくれたりもしてくれる。
其処に何時もいるのが黒い影。多分目だと思う赤い丸をぱちぱち点滅させてふらふらしてる。でも言葉は聞こえない。彼がそう教えてくれた。彼も何度も話しかけてるけど、黒い影には聞こえてないみたいだって。
この部屋はずっと奥まで続いているみたいだ。ずっと四角い大きな箱が続いていて、先は黒くなってよく見えない。其処の奥から黒い影が出て来るから、多分何処かに続いているんだと思う。
また彼に止められるかな。また怖い目に遭うかもしれない。だけど行ってみても良いと思う。もしかしたら、彼の名前が見つかるかもしれない。
彼が、教えてくれた。何で名前を教えてくれないか。
彼も、自分の名前を忘れてしまったから。
名前はとっても大切だけど、呼ばれなかったり、必要じゃなかったら無くなってしまうんだって。彼は、此処にいる人たちと話せないし、名前を使って此処にいるよって言わなくても済んでいるから無くなってしまったんだって。
だから探しに行く。彼が、また、あんな悲しい顔しないように。
黒い影はゆっくりと歩くから、僕でも着いて行ける。彼が見ていない間に行かないと、迷惑をかけるかな。椅子に座っていた影が立ち上がる。ゆっくりふらふら何処かに行くから、僕もその跡を着いて行く。
しばらくはふらふらしてた影だけど、だんだん暗くなってきたら足とか手が見えて来て、ぺたぺたって言う足音も聞こえるようになった。頭もだんだん膨らんで来て、形が変わって、大きな赤いりんごの形になった。
それはいつの間にか持っていた本を箱の中に入れて、また歩き出した。僕はちょっと止まって後ろを向いてみた。ずっと奥まで続いていて、先は黒くて見えなかった。そんなに歩いたかな、って思ったけど、置いて行かれそうだったから走って追いついた。
また歩いてちょっと経ったら、それは急に止まった。僕も止まってそれがみているところを見てみた。
今まで細い廊下みたいだったけど、其処は広くなっていて、今まで付いてきたあれみたいな細い手と足の頭でっかちがたくさんいた。体はおんなじようだけど、頭は色々で、馬とか猫とか、犬とかがいた。その中に、ラビちゃんとクロくんがいたから、僕は慌てて手を振ったけど、気付いてくれなかった。
僕はちょっと落ち込んだけど、その中に入っていってみた。たくさんいろんな頭があって、りんごとかなしとかぶどうとか、カブトムシとかトノサマバッタとかがあった。時々、何か分かんないのがあったり、目がついているだけのもふらふらしていた。
其処は、丁度まん丸になっていて、その周りにノートがたくさん積んであった。一つだけ取ってみたら「日記」って書いてあった。すると、其処の下に、文字がじわっと染み出してきた。
この日記を読みますか?
日記を読まない。
日記を読む。
目玉を動かしたら、文字はちゃんと白く光った。僕は『日記を読む。』を見つめた。じわっと文字がぼやけて消えてなくなってから、僕はノートを開いた。
ちっちゃな文字が端っこから端っこまでびっしり書かれていた。僕には読めるカ所が少なくて、良く分からなかった。途中から読むことも難しくなって、ノートを閉じて、元の場所に置いた。
誰の日記なのか書いてなかった。ちゃんと名前は書いておくべきだと思う。これじゃあ誰のだったか忘れてしまう。
また文字を習ったら来てみよう。そうしたら読めるようになってるかもしれない。
僕は元の道を戻ろうかと思ったけど、元の道は頭でっかちの奴らがいて通れなかった。だから、仕方がないからまん丸のこの場所の向こう側にある道を歩いていった。
そこは両側に箱は無くて、水が流れてるような音がした。でも、そっちの方を覗いてみても水は無くて、おかしかった。それでずっと歩いていても何もなくて、ちょっと疲れてきた。足が動かなくなって、座った。ちょっと濡れている。
もう、ずっと行っても何もないかもしれない。僕は今まで歩いてきた道を見たけど、凄く長かった。戻るのも凄く時間がかかるし、あれがきっと道をふさいでいる。何処にも行けない。もう、戻れないかもしれない。
ちょっとだけ怖くなったけど、僕は何でか泣かなくて済んだ。座ってたら足は動くようになったから、立ってまた歩いてみる。
もっと先が見てみたいって思った。あの、女の子がいた、沢山家があるところでも、本当はそう思ってた。だから一人で行ってみた。その時は、もう大丈夫だったから。
周りは暗くてよく見えなかったけど、道に何か落ちてるのが見えた。取ってみたら真っ白な花で、真ん中に鈴みたいなのが付いていて、りんりんって鳴った。面白かったから、それをずっと握って歩いていった。
そうしたら、ずっと遠くに光ってるところを見つけた。それと一緒に、彼の声もして、僕が大きな声で彼を呼んだら、光ってるところも大きくなってきて、彼が見えるようになった。
僕は笑って、「一人で行けたよ!」って言ったら、彼はちょっとだけ悲しそうにしたけど、すぐに笑って、「凄かったね」って言ってくれた。
彼に見せたくて、花を見せたけど、真っ白だったのに黒くなっていて、どろどろになっていた。僕がなんでだろう、って思っていたら、鈴のところから大きな黒いナメクジが沢山出てきた。あの時みたいに僕の口の中に入ろうとしたけど、彼がすぐに取ってくれて、花も、水みたいになってばしゃって床に落ちた。
「大丈夫だよ」
彼は僕に笑いながらそう言って、僕の頭を撫でてくれた。
「私が、君を絶対に守るからね」
僕は、嬉しかったけど、ちょっとだけ彼が悲しそうな顔をしたから、驚いて、ぎゅって抱きついた。
僕は彼に守ってもらうから、僕も彼のことを守らないといけないと思った。だから、ちゃんと勉強して、彼のことももっともっと知りたかった。
後で思い出した。あのノートに書いてあったところで、読めたところがあった。そこだけ、文字が変で、僕とおんなじみたいな文字だった。だから読めたのかもしれない。
「かれは わたしを 守ってくれるって やくそくしてくれたの」
僕が来る前に、彼は、此処に子どもがいたって言ったから、多分その時の事なんだと思う。
僕も、彼に守ってもらえるから、この子とおんなじ。会ってみたいな、って思った。
- Re: 2/1 ( No.7 )
- 日時: 2013/05/30 22:45
- 名前: トー (ID: gwrG8cb2)
僕は、文字を読めるようになった。
まだ、書くのは難しいけれど、もう少しで文章も上手に書けるようになると、彼が言ってくれた。実際、彼が勧めてくれた本が気持ち良く読めて、とても嬉しい。彼との距離も縮まったような気がする。もっと、色々な話ができるようになった。
テープレコーダーの日記も、もう少ししたら文字で書き写したいと思う。文字の練習もして、彼を驚かせてやりたい。テープレコーダーの使い方も分かってきたから、彼との会話や、色々なところに僕一人で行く時などに、記録用としても使いたいと思っている。此処まで頭が良くなったのも、彼のお陰なのかな。
前よりも、僕の身の回りのことが良く見えるようになったと思う。本棚にある本を読むのに今は夢中だ。色々な本があって、殆ど僕が読める日本語だけど、時々英語などの外国語があったりする。彼は全部の国の言葉が読めるらしくて、僕に訳して話してくれたりする。此処にある本は全部、彼は読んでいるようだ。
本が増えることもあった。時々、ぱらぱらっと音がして、上から本が落ちて来る。それは、古い本だったり、新しい本だったりする。彼はそれを見たら、何時も嬉しそうにする。だから僕も嬉しくなる。新しい本が読めると言うのも、嬉しいけれど、やっぱり彼が笑ってくれるのが一番嬉しい。
彼が誰なのか。それはまだ分かっていない。名前も、年齢も、前は何処に住んでいたのかも、家族のことも、此処のことも、何も話してくれない。ただ、寂しそうな顔をするだけ。
僕自身のことも、あまり分かっていない。そう言えば、名前も分からない。年齢も、何処に住んでいたのかも、家族のことも。何故、此処に来たのかも。彼がなにも聞いてこないのが不思議でたまらない。
でも、唯一手がかりがあるのは、以前、僕と同じくらいの年の少女がいた、あの家の沢山ある、住宅街のようなところだった。あの場所は怖い思い出があるにも関わらず、僕は何度も足を運んでいる。
恋しい。懐かしいのだ。僕は確かにあの場所を知っている。あの女の子のことも、僕を追いかけてきた怪物のことも。全てが懐かしくて、恋しくて、何度も会いたくなる。しかし、あの怪物にはもう会えなかった。最初にいた檻の中にもいない。あの時、彼が僕を助けてくれた時……外でした、水が弾ける音が、怪物のものだったのではないのか。
あの怪物は、彼が殺したのか。
あの時はそんなことも考えなかった。考えられる状態じゃなかった。僕は、無知で、何も考えることが出来なかったから。唯一出来たのは僕の生死と、彼の喜ぶ姿。どうやったら彼は喜んでくれるか、笑ってくれるか。そして導き出したのが、読み書きを覚えること。本が好きになること。そうすればきっと、彼は僕のことを認めてくれる。
僕は今、あの住宅街のようなところに来ている。此処に来て、何度も後ろを振り返ってみる。「コンラッド・モーガン」の、斜めになった看板はもう見えないが、彼は、何時もあの建物のドアのところから、僕を見ているんだと思う。前、一度だけ振り返った時に、彼が小さく見えた気がした。
そして、僕を危険から救ってくれる。約束通りに。だから、僕は安心して此処にいられるんだと思う。僕は守られている。そう分かると、とても安心する。
まず、ピンク色の家から入る。あの女の子がいる家だ。今日も、女の子は何時もと同じところで蹲っていた。一度僕が殺したことを忘れているらしい。僕が近付いても、何も気にしないからだ。顔を見てみても、前と変わったことは無かった。仕方なく、何も出来ないで彼女の家から出た。電気は、ちゃんと点いたままにしておいた。
次に、彼女の家の隣にある、オレンジ色の家に入る。此処には誰もおらず、テレビや台所があるなど、人が住んでいた跡が見えるところだ。此処が、一番懐かしく感じる。特に、二階にある部屋の机だ。其処に置いてある白紙のノートに、何かを書きたい衝動にかられる。でも、何を書けば良いのか分からない。書く道具すらもない。諦めて、オレンジ色の家を出た。
そして、その横にある、小さな、紫色の家。此処にある度の家よりも小さく、何も無い部屋だが、一番愛おしく、落ち着く空間だった。開け放たれた窓からジャスミンの匂いがする。
開けてある窓の外は、何故か曇って見えなかった。手を伸ばすと、すぐそこに壁があった。清々しい風が通り抜けているのに、此処は外に通じてはいない。不思議な感覚だが、此処は、そう言う所であると、段々と認識できるようになって来た。この挑戦も、これで何度目だろうか。
それでも、指を壁に這わせていると、何か凹凸の部分に指が触れた。壁の表面は布のような手触りで、多分、何かの上に布をかぶせているんだと思う。
布が取れないかと色々なところを触る。でも、何処にも端は無かった。どうしようもなくなったが、これで此処に、何かの突破口がある確率が高くなった。
他の部屋は特に何も無かった。茶色の家の沢山いる人も、僕を見てはくれなかった。頭がないと思っていたが、良く見ると、顔が、ぐるぐると鉛筆で塗りつぶされたようになっていた。ぼんやりと顔がぼやけていて見えないものもあった。前に見たときよりも、大分色が鮮明になっているような気がする。又来た時には、見え方が変わっているかもしれない。
赤い部屋に入る。僕を追いかけてきた赤い目の怪物がいた部屋だ。今では大きな南京錠があの時のままぶら下がっているだけで何もいない。あの怪物が何処に行ったのかも分からないが、ここはドブの臭いがした。
あの時、彼が濡れていた時も此処と同じ臭いがした。あの怪物も、こんな臭いがしていたんだろう。
怪物がいた赤い檻の中に入った。暗くてよく見えないが、隅っこに黒い髪のようなものが散乱していた。それを良く見ようと思って近づくと、其処に黒いドアがあることに気付いた。
ドアノブに触ると、簡単にそれは開いた。僕は思い切って中に入ってみることにした。此処の世界にある道は、どれも彼のいるあの部屋へと繋がっていると分かっていたからだ。
暗い一本道だった。何の音もしない、僕の足音や呼吸が反響して何度も何度も聞こえてきた。ふと振り返ってみると、ドアは消えていた。僕は先に進んだ。
少し行くと、一か所だけ、スポットライトが当たっている場所があった。そこには何かが転がっていて、僕は近くまで行くと、怖くなって目をつむってしまった。
それは僕だった。僕の死体だった。目と口を大きく見開いて、舌を出して、歯をむき出しにして、黒い大きなナメクジを吐きだせずに口の中で詰まらせて死んでいる僕の死体。うつ伏せになって倒れているその背中から大きな植物が育っていて、その不思議な木には、見たことのない緑色の果実が生っていた。それに手を伸ばして、歯を立てて見る。
それは脆く、すぐに噛み切れた。中からは赤い果汁が染み出してきて、中身はぐちゅぐちゅと潰れていった。その味は苦く、舌先が痺れるような辛みもあった。そして、頭の中が揺れて、地面に腕を突いて、何とか頭痛に耐えた。
- Re: 2/1 ( No.8 )
- 日時: 2013/05/30 22:46
- 名前: トー (ID: gwrG8cb2)
さっきは何があったのか分からないけれど、僕は又前みたいになってしまったみたいだ。言葉がうまく出てこなくて、良く喋れなくなっているみたいで、怖くて、堪らない。僕は又馬鹿になってしまったようだ。前まで楽に読めた本が全く読めない。彼が何を話しているのか分からなくなったようだ。彼はちょっとだけ笑って「大丈夫だよ」って言ったけど、多分僕はまた悪い子になってしまったようだ。なぜなら、彼が悲しそうな顔をしたから、僕は一生懸命彼に抱きついたけど、あんまり笑ってくれなかったからだ。
僕が馬鹿になったから、多分彼は悲しいんだと思う。だって、彼が僕に文字を教えてくれたし、本を教えてくれたからだ。だから僕は又嘘をついてしまったんだと思う。多分、あの時のあの赤いのを食べたら、また元通りになれると思うと思った。