複雑・ファジー小説
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- お狐様と指切り〜和風嫁入り奇譚〜
- 日時: 2013/10/30 22:47
- 名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
初めまして、桜詞と申す者でございます(´・ω・`)
今回初めての投稿となりますので、お手柔らかにお願いいたします(内心ビビリまくり)
妖の出てくる、現代パラレルなお話をば少々……
私の名前でお分かりの方もいらしたでしょうか?
実は私……
廓詞が大好きなのです!!!!(((o(*゜▽゜*)o)))←あっどうでもいいって石投げないでッッ
と、言う事で現代に近い科学技術を保有した時代の、江戸の風潮の残ったパラレルワールドが舞台となっております。
皆様「吉原」という単語を一度は耳にしたことがお有りかと思います、
遊郭、遊女、花魁、太夫、身体を売り金を稼いだ女達の一生が凝縮された舞台。「廓」
身分の高い遊女「太夫」の称号を持つ一人の女と、神様のお話。
切なくダルく、少しずつ、無理のない範囲で進めて参りたいと思います(^ω^)
突発的ですので、完結の目処は立っておりませんので、中途半端な野郎がご不快な方(当たり前だ)はご遠慮頂いた方がよろしいかと思います。
それでも「まあよかろう」と仰るそこのお方様!!
ありがとうございます・゜・(ノД`)・゜・
コメント等大変喜びますので、どうぞ応援してやってください(´・_・`)
批評やご指摘、お待ちしております!!
※スレ主は大変メンタルが脆弱なので、イジメのように酷な批評はやめてあげてください……
〜登場人物〜
【貴椿:きつばき】
遊女の中でも最上の称号、「太夫」を冠する花魁。
吉原の最高妓楼「宵月喜楽楼」の看板遊女。
年齢:19歳
身長:167cm
艶のある黒髪に虹彩の複雑な黒目。
お天気雨と呼ばれる「狐の嫁入り」の際、中庭にて白い狐を保護する。その後狐の世話をしながら生活を送る。
おおらかな性格で、自分の美貌や教養に見合うだけの自信は持っているが、過信したり溺れる事もなく何事も事実は事実として受け止める聡明さを持つ。
他人を揶揄って楽しむのが案外好き。
一見大らか過ぎて流されているようにも見えるが、強い芯がありそれを曲げることは決してしないが、状況や環境によって柔軟に対応する度量の広さの持ち主。
【紫紺:しこん】
狐の嫁入りと共に置屋の中庭に現れた白狐。
貴椿に連れて行かれ、その後貴椿の飼っている狐として日々を送る。
人に化けたり色々なものに化けることができる。普段はただの薄い毛色の狐だが、本来は9本の尾を持つ。
普段は人型を取ることはないが、指先を必要とする作業を要する時や、貴椿に迫りたい時には人外とひと目で分かってしまう美貌を持つ。
おあげが好き。
【野分:のわき】
番頭新造と言う、売れなかった遊女がなる太夫の世話役をわざわざ買って出た粋狂な女性。昔は売れっ子の花魁で、太夫の一つ下の格である「太夫格子」まで努めたが、途中身請けされ吉原を抜けるも、夫の死後また吉原に戻ってきた。
年齢:32歳
身長:157cm
全体的に薄い色合いで、栗色の髪と瞳。
おっとりとした見た目に反して姉さん肌で、筋金入りの女前。
【鶯:うぐいす】
貴椿の妹分。太夫である貴椿を心より尊敬する同じ妓楼内の仲間で、同時に貴椿の良き友でもある。
太夫格子であり、上級遊女に位置する。
貴椿太夫に続いて、「宵月喜楽楼」の看板を務める花魁で、得意な芸事は本人の名からも連想出来る通り歌舞である。
年齢:18歳
身長:150cm
栗色の髪に黒く大きな瞳。小動物のような見た目だが、その内はなかなかに強かで辛辣な一面もある。
【榊:さかき】
宵月喜楽楼の厨房を預かる、料理番の青年。
遊郭に関わっている人間とは思えぬ程に純情で、妓楼内の遊女達の癒しスポット。
料理に対する姿勢は真剣そのもので、少しの手抜きも絶対しない。宵月喜楽楼内全員の好みを把握しており、最上級の妓楼に恥じない料理を出せる唯一の人物だと楼主に腕を買われて吉原にきた。
年齢:21歳
身長:170cm
少し長めの黒髪を後ろで一つに纏めている。顔立ちは整っているものの、本人の醸し出す癒しオーラにより、幸か不幸か「可愛い」と言う評価しかして貰えない。
【東雲:しののめ】→ポンタ様より(*´ω`*)
宵月喜楽楼に出入りする髪結い師。右目に眼帯をし、腰まである黒髪をゆるく束ねて簪を刺している。赤い着流しを好んで着用する色男。
吉原内で唯一貴椿の髪結いの権利を持つ腕の良い髪結い師だが、その実は狐や幻術を得意とする妖の天敵である、雲外鏡と言う鏡の妖。元は九郎助稲荷社に祀られた神鏡だったが、長い年月によって命を得たらしい。
身長:186cm
年齢:ウン百歳
紫紺は天敵である東雲に対して敵意があるが、それだけではなさそうな様子の紫紺を見てからかうのが好き。
【譲葉:ゆずりは】→魁人様より(*´ω`*)
引込と呼ばれる、禿の中でもエリートに分類される教育を受ける童女。楼主や女将からの期待を受け、本来禿の仕事である筈の姉女郎などの世話から離れて、茶道や香道、学問についての教育を受けている。
黒く長い髪に、穏やかな顔つき、少し垂れた黒目がちな大きな眼の相当の器量良し。容量もいい為、お客や他の妓楼の女郎たちからも可愛がられている。
年齢:10歳
身長:132cm
姉妹関係にある姉女郎の貴椿を尊敬してやまない。引込禿としての英才教育のせいか、雰囲気や仕草は淑やかだが感情的な部分や、人見知りの部分を隠し持っている。
姉女郎が同じ貴椿である、菊莉葉とは歳も同じで良きライバル同士。
※物語に登場次第、人物は追加してまいります(*´ω`*)
●○●プロローグ●○● >>1-6
●○●約束の始り●○● >>7-14>>16-18
●○● 第二章 ●○● >>19-20
- 【其ノ一、約束の始り】 ( No.12 )
- 日時: 2013/10/29 17:54
- 名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
「言ったであろ?借金を支払わず逃げた者は前科一犯、とどのつまりは犯罪者になってしまうんでありんす」
幼子を諌めるようにそう口にしながら、熱い湯を湯呑に注いで湯の温度を下げ茶碗を熱すると、茶碗に入れた湯を茶葉の入った急須に入れる。食器に触れた時の温度差や熱すぎる湯は茶葉の渋みを出しすぎる為、一度こうやって湯の温度を下げその湯は同時に茶碗を熱する。昔からあるこのふかむし茶と言う淹れ方は、まだ見習いの禿であった頃、貴椿の姉女郎が教えたものである。
「犯罪者は国から追われる身。吉原で働いていると言っても、所詮は色売り。吉原の名の庇護下から出て犯罪者の烙印を押されれば、世間は冷たいものよ」
そして刑務所に入った女は、もう吉原で働くことも出来ず残った借金のカタに内蔵をバラされて売られたとも聞く。滅多にそんな事はないが、恋しい間夫と添い遂げるため外に出ようと藻掻いた遊女の末路だ。だが自分で選んでここに居る以上、逃走しようなどと思う遊女の方が稀で、実際にここ何年もそんな話は聞かない。
急須を揺すらず回さずに蒸らすことで雑味のない味に仕上がった筈の緑茶を、まだ十分に熱の残る茶碗の中に少しだけ注ぐ。薄い最初の方を一気に注げば片方は薄く、味の濃い後半の渋い茶が出来上がってしまう。それゆえに少し注いで次の茶碗、それに注げばまた次と交互に少しづつ淹れるのはマナーだ。
「そんなものか、人間はいつの世も憐れよの」
興味があるのかないのか、貴椿の話を聞いているのかいないのかも分からない紫紺の様子だったが、どうやら話はきいていたらしい。目の前のお盆から箸を取り、器用に操る様子はよく様になっている。おあげを満足げに嚥下したところで、貴椿は淹れた茶をそっと右側から差し出して、自分も近くに腰を下ろす。何も言わずすっと茶を口にする紫紺と1週間生活して、貴椿が先ず感じたことは「世話を焼かれ慣れている」ということだ。
狐の社会など人である貴椿には分かるまいが、紫紺の立ち居振る舞いには誰かの上に立ってきた貫禄と態度が滲んでいる。
「そうじゃの……。
やはりお稲荷様からすれば人は愚かに映りんすか?」
「そうだな……
妖も人も神も、性根はそう変わらん。欲もあれば情もあろう。人は愛しすぎる」
愛すぎる。
人の恋情とは、異形にとっては未知の感覚なのかもしれない。
「まるで火のようかぇ?」
「理解はできん。だが多くの妖は羨み、神は妬み慈しむ」
「羨ましいと思いんすか?」
窓枠を背もたれにそう問う貴椿を見遣ると、紫紺は一瞬瞳を伏せて2枚目のおあげに手を伸ばす。
「……長く人の世に寄り添い、願いや想いを視てきた。
人は愚かな幼子で、この世の心理も見えん生き物よ。だが同時によく働き、様々なものを生み出す。」
そして大きく口を開けて、一口サイズに切られたおあげを一気に3つ程頬張り咀嚼する。ゴクリと白い喉が動き、最後の馳走を狐は嚥下した。
「厭うてはいない」
「そうでありんすか」
「そうだと思った」と言いかけた言葉を咄嗟に言い換えて、自ら淹れた茶を飲んだ。
———嗚呼、良い昼だ。
優しく微笑んで閃かせる桜の花弁を窓から眺める貴椿に、紫紺は何も言わず茶を含んだ。ふっと浮かんだ口元の優しさを、まだ貴椿は知らない。
- 【其ノ一、約束の始り】 ( No.13 )
- 日時: 2013/10/29 17:54
- 名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
「貴椿太夫、髪結い師がおいでなんした」
おあげを綺麗に平らげて人型から狐へと戻った紫紺は、貴椿の膝の上を陣取りその毛並みを櫛で整えて貰っていた。その表情は穏やかで、寛いだ様子がありありと現れている。貴椿はその毛並みに癒されるように母のような優しさで毛づくろいをし、紫紺は心地よさそうに瞳を閉じている。
襖の外から掛かった野分の声を、紫紺はもっと前から分かっていたのだろう反応は見せず、貴椿もそろそろだと分かっていたので別段驚くこともなかった。
「あい、お通しなんし」
下で待たせているのだろう、野分は一度階段を下り髪結い師を伴い戻ってきて、やっと襖を引いた。
現れた人物に、貴椿はいち早く声をかける。腕の中の狐の毛が膨らんだのを、宥める様に撫でながら。
「ようおいでなんした、ご苦労さんでありんす。お上がりなんし」
先程までの少し崩れた廓詞ではなく、どこから聞いても隙のない音に野分は安心したように微笑んで、廊下から襖をそっと引いて行った。
ばれてるな、と紫紺と二人で居るときの言葉遣いを思い起こし、野分の目は誤魔化せないと内心苦笑するがそれはおくびにも出さない。目の前に、客ではあらずとも人が居るのだから。
「じゃあお言葉に甘えて。
何だ、今日は太夫の膝で毛繕いか?世の男共全員の嫉妬の的だな」
貴椿に軽く会釈をすると、特徴的な外見の男は紫紺に声をかける。いきなり部屋の主に話しかけるよりも早く狐に声を掛ける男の態度は、それこそ「世の男共の嫉妬の的」である。
前髪を緩く後ろに纏め、髪は髷(まげ:頭頂部分で膨らませて作る髪結いの際用いる部位のこと)や髱(たぼ:うなじ上部分で膨らませて結い上げる部位のこと)は作らず、腰まである長い髪を左側に緩く紐で結んでいる。前髪部分に簪を幾本か刺している様子は、男か女か一瞬戸惑う。その顔はよく整っていて、どことなく誰かを彷彿させる。
「あまり口さがなく仰りぃすと、また仕置かれなんすよ」
ぶわりと警戒や不快感で総毛立つ毛を相変わらず宥めながら、片方を眼帯で覆っている男を見遣る。赤い着流しに緩く結んだ長い髪と刺した簪、その派手さを着こなす美顔に右目に掛けられた眼帯と長身。髪結い師と呼ばれる、複雑で精巧な遊女たちの髪型を作り上げる腕の良い職人だ。名を東雲と言い、貴椿の髪結いを許された唯一の髪結い師である。
「そりゃ堪らん。また姿を解かれたら俺は出入りもできなくなって仕事がなくなる」
おどけた様にそう言う東雲は、貴椿が紫紺を拾ったその日、勿論紫紺とも顔を合わせている。一尾の狐となって普通の狐よりも少し色が薄い程度に擬態した紫紺を見て、唐突に一言。「天狐様とは珍しいもん見たな」と。
長く付き合いのあった貴椿は、東雲とはただの髪結い師として接してきた。だが唐突にそう口にした東雲と、警戒で唸る紫紺、勘の良い貴椿には分かってしまう。「人間ではない」。
東雲の正体は、妖。それもどんな妖の姿も見破る術を持つ、雲外鏡と言われる妖。それは化かしの狐にとって天敵どころではなく、最早相性悪くも変化の通じない相手である。紫紺は貴椿の膝から飛び降り東雲に向かって怒りに唸り、前屈姿勢となって威嚇した。ビリビリとした空気は貴椿の肌を刺し、東雲を威圧した。唐突に振り向いた紫紺に何かと思っていれば、次の瞬間には首筋に鋭い痛みが走り噛み付かれたのだと気づくと同時、目の前には完全な人型ではなく獣の耳と尾を生やした紫紺、煌びやかで仰々しく曇りひとつない鏡が落ちていた。
それは東雲の本来の姿、百年の時を生き命を得た鏡、神社に祀られ九十九神となった雲外鏡の姿だった。それを知った時の貴椿の心境たるや、首筋の出血も忘れて鏡を手に取った程だ。
「この世は摩訶不思議とは、よう言いんしたものでおざんすなぁ」
肩を竦める東雲を見て貴椿はくすくす笑う。まさか長年幼き頃より知っている髪結い師が、出会ったばかりの異形と同じ同士だなど。だが有り得ない事が起こり、知らない事が当然なのもまた世界だと、貴椿は改めて思うばかりだった。紫紺に噛み付かれたこともそのひとつで、伴侶候補である貴椿からどんな形であれ生気を得ることができれば変化は可能だと言う。傷は東雲を雲外鏡の姿に戻して、取り敢えず気の済んだらしい紫紺に一瞬で消してもらえたが、当たり前だが痛みはあるし着物も汚れる。普段変化する時は口づけにしろと、貴椿はそのあと紫紺に頼んだ。
兎に角そんな出会いもあり元々相容れぬ妖と言う事もあってか、毎日東雲が仕事に訪れる度一悶着あるので、自由な入室を許可していた東雲だが野分に取り次ぎをして貰い、膝の上に紫紺を確保してから入室して貰うようにした。そのお陰で貴椿が宥めている間は、比較的大人しくできるようになった。
「狐は人間が好きな一族だしな、貴椿太夫の器量なら座敷わらしでも守り神でも寄ってくるさ」
それを聞いてやっと落ち着いた膨らみが再び膨張するのを、貴椿は含み笑いをしながら宥める。
「そりゃ騒がしくなりんすな、わっちゃあ今のまんまで十分楽しゅうござんす。
あれ、お天道様がおやすみなんすよ」
はやくしなければ太陽も沈んでしまう、実際にはまだまだ沈む時間でもないが会話を繰り返していても紫紺の機嫌が降下していくだけだ。東雲にそう声を掛けると「早く結っちまおう」と、姿見の前まで移動して掛布を上げて鏡を顕にする。
何故髪結い師をしているのかと随分昔に聞いたことがあった。その時東雲は「アンタが芸妓を習ってる理由とおんなじことだよ」と言った。自ら選んだのだろう職業に、貴椿は誇りを持っていた。そして恐らく東雲も。
道具箱から櫛を取り出す東雲を見て、貴椿も紫紺を抱いてそこに向かった。
- 【其ノ一、約束の始り】 ( No.14 )
- 日時: 2013/10/29 17:55
- 名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
「で、今日のご要望は?」
姿見の前で、紫紺を膝に抱えて座った貴椿の髪の毛に櫛を通しながら東雲は問う。
「新日本髪で頼みんす」
「あいよ。にしても、アンタはよくもまあ律儀に毎日髪結いなんぞするもんだ。
お陰で俺も仕事ができるわけだけどな」
鏡越しにそう言って笑った片目と目が合う。
「来る日来る日に髪結いなんぞ、するがされるが、何方も手数でありんしょう」
「そのされる方のアンタは、何で来る日来る日に髪を結ってるんだ?」
現代の吉原で、本来の日本髪を結う人間は殆ど居ない。と言うのも、日本髪とはそもそも一度結えば最低でも2日、それ以上となると5日程そのままでいられると言う代物だからだ。日本髪には風情があり、ならではの髪艶は何とも言えぬものもあるが、2日頭を洗わない事に耐えられない遊女もしくはそれを不潔とする客、結う手間と結った後維持する為の手間、そして何よりも床入りに不便だからである。
昔の遊女は髪を結ったまま事に及んだ。きちんとした手入れをしなければ、2日以上保つ髪型など解けるはずもないからだ。その上、結った髪に気を配ると言う概念が欠落している現代人に、その配慮を求めても無茶と言うもの。
画して、吉原から日常より日本髪を結うと言う概念は失われた。
「お客は夢を買いにおいでなんす。
その国で外と変わらぬ物を見なんしたら、ここで買うも外で買うも同じ事。地女と比べられちゃあ、そりゃ形無しでおざんす。
所詮は色売り、されどここは吉原じゃ。そんじょそこらの女郎と肩を並べるなんぞ、この街の傾城(けいせい:城が傾くほど金を注ぎ込んでしまう女、またはその価値がある遊女の事を指す。吉原の女郎のみの呼び名)共が嘆きんしょう」
膝の上の紫紺の尾を櫛で梳かす穏やかな横顔は、先程までと変わらない。その瞳に揺れる光だけが「誇り」なのだと、苦界に沈んだ女の矜持を感じさせた。
「だから外では見られない景色を客に見せるために、先ず自分からってことか」
「そんな大層なもんじゃアおざんせん。あいさ吉原は意地と張りの街。
それを忘れんした女郎はただの肉塊、足蹴後ろ指、如何も文句はおっせん。
もしへ意地と張りは吉原の女郎が傾城たる所以でありんす。それを失っちゃあもう傾城とはおっせんわいな」
ふふっと底の読めぬ笑を浮かべながらそう言う貴椿の髪を位置毎に分けながら、東雲は内心脈打つように沸き立つ心を宥めていた。
———嗚呼、映してみたい。ウツシテミタイ。
化生の性が体中を侵す。ぐちゃぐちゃと、理性が混じり合っていく。
———どんな心意気なのか、気になる、どうなってる?どうしてだ?
人の本性を映し、妖の姿を見破る。その性は、存在意義は、他を映すことにある。理由などない、ただ人の心を、妖の姿をその身で暴くことだけが、雲外鏡と言う妖の性なのだ。
「もしへ、あまり怖い顔をしなんすと、白狐に絞られなんすよ」
そう声を掛けられてハッと鏡越しの貴椿の視線を感じると同時、物凄い殺気が貴椿から向けられているのがわかった。
いや、大元は隠れているが、それは殺気と言うよりも妖気で串を握った東雲の手にじわりと汗が滲んだ。上品に笑みを浮かべる女の足元、鏡に映るのは女の上半身だけだ。角度を変えれば異形と目が合うのだろう。その瞬間、右目の眼帯に隠された秘密は粉々に砕け、その身は大気となり散るのかもしれない。
嫌な汗が背を伝う。妖でも人型を取れば汗も流れるのかと、思考の端で静かに考えがよぎる。
九尾の狐、それは天狐。神と成り得る存在だ。狐の業である化かしは雲外鏡には効かない。
———知っているか、東雲。
だが雲外鏡は、妖だ。
———狐と狸はな、我々には逆えん。その変化も幻術も、我らの目には真実しか映らぬからだ。だがな、気をつけろ。
昔ただ一度出会った同じ種族の妖は、東雲に生きる術を教えた老爺だった。
———ただの狐狗狸ならば恐るるに足らない。
その時老爺の顔は見えず、ただ闇が広がるようなイメージしかなかった。
———知らないのなら教えてやろう。気をつけろ、ただの狐狗狸ではない存在に。
その時、フラッシュバックしていた老爺の顔が唐突に消えた。それなのに、重苦しい空気からは抜け出せない。
何故だと視線を動かして、ヒュッと妙な音が出る程、喉が空気を取り込むことを拒否する。櫛を持つ手は汗で濡れ、何故櫛がそこに留まり続けているかさえ不思議な程だ。
唐突に。
その瞳を見る。
———血に闇を溶かした瞳を持つ者。それは我々の存在し得ない場所にいる。
夜の闇、暁の朱。それを混ぜると、何になる?
———それは、神だ———
紫紺。
妖力と命を司る色。
全てを思いのままにする、残酷な主。
すなわち、
神だ———。
- お狐様と指切り〜和風嫁入り奇譚〜【中の奴よりの愚痴?】 ( No.15 )
- 日時: 2013/10/23 18:18
- 名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7709
だはぁああああああああああああああっ
お、お久しぶりでございます………(吐血)
ドタバタラブコメちょいエロに、心情描写を大切に切ない和風ものを書くつもりが、何故こんなことに………
いえね、私が愚かだったんですよ、ええどうせわたしg(ry
だってだって、紫紺が、狐は神様そのものじゃなくてあくまで神様のお使いだなんて盲点で……(この馬鹿め
吉原や花魁、太夫の事を調べるのは中々骨が折れるので、手持ちの資料だけでは心もとないと図書館に趣いたのはよいのですが、流石は知識の宝庫。あるわあるわ資料の山っ
お陰で吉原だけでなく日本伝承なんかにも手を伸ばしましたら、何とお稲荷様と呼ばれているのは日本神話においでなさる神様の事で、それ以外の狐はその神様の御使いであるとか(´-ω-`)
じゃあ妖怪とか呼ばれる狐や、かの有名な中国の妲己、日本では玉藻前。それらは一体なんなのかと……。
恐らくは全くの別物なのでしょうね(´・ω・`)
とりあえずは悪しき化生と、それ以外の善良なものがあると推測まして、だとすれば「人間と変わらんやん」と言う浅はかで単直な結果に至りました。
結局当初から考えている設定に差し支えはございませんが、題名諸々一度考え直さねばならないのか……と悩んでおりましたら、知り合いが「え、パラレルなんやし別に勝手に作ったらええやん」と仰せになりました。
「そ、そうか……」と目が覚めた私。
しょんぼりし過ぎて(あと調べることが多すぎて)更新できなかったクズですが、どうやらなんとか持ち直せたようでございます……( ;∀;)
でも、どうして。
どうしてっっっ!!!
エロにならないの?この二人(´-`)
エロもいれたいっ
挑戦してみたい(やったことない
ので、頑張って更新して行きたいと思います!!
さて、本編では初披露となりますが、>>13より登場している雲外鏡の東雲。実はオリキャラ募集より授かりましたキャラクターなんですね。
初披露と申しましたのは、この作品オリキャラを募集しておるぞ。と言うお知らせにございます。
エントリーシートや注意事項などは参照URLのリク依頼・相談掲示板にございますので、どうぞご興味のある方覗くだけの方も投下してくださる方も大歓迎です(´∀`)
どうぞご覧下さい。
まだ登場してない、皆さんが投下してくださった素晴らしいキャラクター達の詳細がご覧になれますよ!!
というか寧ろ私のようなイモムシめが書くよりも素晴らしい、原案の登場人物たちですので、一読されることをオススメいたしますっ
ではでは、長文失礼いたしました。
次回更新より再び本編をお楽しみください(*´ω`*)
- 【其ノ一、約束の始り】 ( No.16 )
- 日時: 2013/10/29 17:55
- 名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
———そうだ、神……
背筋を流れる嫌な寒気は足元から這い上がってくる妖気のせいだろうか。神?冗談じゃない、これは神気でも霊気でもない。禍々しいものや負の感情を糧とする、妖しか持たぬ妖気だ。
神じゃない。
浮かんだ答に、また全身が泡立つ。
じゃあ、何だ?
何だと言うのだろう。神の瞳の妖気を持つ者。得体の知れないものに恐怖を感じたまま、スッと視線を上げれば不意に視界に飛び込むのだ。
三日月のように嗤う、狐と。
嗤っている。笑うのではない、己よりも圧倒的に劣るものを見る、さながらネズミを弄ぶ猫のような残酷さを孕んで。
射竦められる。視線を外せない。呆然と見るしかない。全身は焦りで湿っているのに、内心で警鐘が煩い程響いているのに。
琴線に触れたのか?
身体にじっとりと汗を掻いて鏡越しの何かに恐怖で瞠目しながら、東雲は固まったように動かない。いや、動けなかった。今居る場所が何処かも、何をしていたのかも、自分の姿さえも分からぬ混乱の中、不意に声が響いた。
「アレ、お止めなんし」
泥濘んだ血沼から、不意に足が外れたように、東雲は重苦しさから解放された。そして我が目を疑った。
「そう諍うもんじゃあおざんせん、こと吉原で争い事を起こしゃア出入りは勿論、おまんまにもありつくが夢物語になりんすよ。
東雲どん、あまり出来心を起こしなんすな。紫紺の堪忍袋の尾が切れおす。
主も短気を起こすものではありんせん。東雲どんはお勤めでおいでなんす。主の気紛れに振り回されちゃあ果たせる勤めも出来んせん」
軽くなった空気は半ば白けたように辺りを満たし、あの最中存在さえも感じられなかったたかだか人間の女風情の一声で、緊迫の糸が緩んでしまった。
しかも今はその狐の尾に櫛を垂直に当てて、半ば、脅しているように見えなくもない。
東雲は拍子抜けしたと同時、また今度は違う意味で息を飲んだ。
「それとも、
おあげはいりんせんか?」
キラリ、必殺技でも繰り出したような鋭い瞳で放った一言の、なんと間の抜けたことか。東雲は思わず口を挟んだ。
「まあその、なんだ。俺も悪かったしな、両成敗ってことで……」
しかもその必殺技で紫紺の耳が情けなく垂れるのだから面白い。たかが人間、されどその人間は貴椿だ。狐の寵愛をその身に受けて、これだけ平然としていられる人間もそう居ないだろう。東雲は感心したような、恐ろしいものを見たような心地でさっさと貴椿の髪を結い上げ、挨拶もそこそこに宵月喜楽楼の置屋を後にした。
「こりゃあ面白くなりそうだ」
遊女達の引き込みの掛け声や、個人的な媚声を背に、九十九の鏡はほくそ笑んだ。