複雑・ファジー小説

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虹至宝【キャラ募集一時終了】
日時: 2015/01/06 11:58
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

これは、7つの至宝の物語。


   ◇  ◇  ◇


どうも、kiryuと申します。


〜お知らせ〜

キャラの募集を一時締め切りました。


〜ルール〜

1、荒らしや勧誘目的のコメントは通報の対象とします。見かけても無視を心がけてください。
2、キャラを応募する際は留意事項をよくご理解頂き、注意事項を厳守の上でご応募下さい。
3、更新速度は、まちまちです。保留中のコメントはお控え下さい。
4、お客様へのコメントの返信は全て"Reply"の項目に返信します。


〜オリキャラ関連〜

留意事項
1、基本的に応募されたキャラは全て採用しますが、不採用になる可能性もあります。
2、キャラは死亡や大怪我をすることがあります。
3、応募回数はお一人様につき2回までとさせていただきます。尚、2回目のキャラは保留となります。

テンプレート


名前:(和名不可)
性別/年齢:
容姿:
性格:
属性:(魔法で使う属性です。何でも可能。2つまで)
武器:(何でも可能。個数指定なし。2種類まで。解説を加えたいなら解説も)
種族:(ハーフの類でなければ何でも可能)
種族解説:(既に応募されたキャラと全く被る場合、この項目は空欄で結構です)
職業:(学生、無職、定年退職可能)
備考:
サンプルボイス:(人称などが分かるように)


〜キャラリスト〜
蒸さん>>1
コッコさん>>3
不死鳥さん>>7
46猫さん>>8
ルファルさん>>11
HIROさん>>12
siyarudenさん>>13


〜Reply〜
>>2


〜目次〜

序章〜この世界〜
>>4 >>6

1章〜猫又少女と未開の遺跡〜
>>10 >>14 >>15 >>16

2章〜殺める者〜
>>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25

3章

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.24 )
日時: 2015/01/04 15:30
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

 風呂を上がったアレンは、摂り損ねた夕食として卵を食べていた。
 卵は予めアレンが風呂場へと持ち込んだもので、風呂に入っている間、熱めのお湯と共に卵を手桶に入れていたのだ。
 湯温は60度。丁度いい具合に黄身が半熟になっていて、宛ら温泉卵である。

『んー、美味い。やっぱ卵は最高だ』

 1人黙々と殻を剥いては、軽く塩を振って食すアレン。
 傍らにナタリアたちの姿は無く、用事があるからと言って先に風呂を後にしていた。

『そういや、ナタリアさんならギルドの仕事があるだろうからともかく、ジェシカの奴は何の用事で出てったんだ?』

 逆に気になるところだが、あまり悠長にしている暇はない。彼は入浴前に、ナタリアから話があると言われている。
 だったら手早く済ませるべきだろうと思い、アレンは卵の殻を剥くスピードを速めた。
 それでも、殻を剥き終えた卵には傷1つ付いていない。彼の卵への愛着振りがどれほどのものか、よく分かることだろう。


    ◇   ◇   ◇


「ナタリアさん」
「お、来たね。じゃあこっちにおいで」

 寝巻きに身を包んだアレンは、ナタリアに連れられて2階へ赴いた。
 その際に通りかかったロビーでは、ジェシカがギルドのメンバー数人と共にトランプゲームをしていた。

「馴染みすぎだろあいつ……」
「あはは、まあ可愛いからねー。おかげでうちの男共は、一斉に釘付けにされちゃったみたいでさ」
「あー……」

 確かに、ジェシカを取り囲んでいる人のうち、少なくとも8割は男である。
 残りの2割を占める女性たちは、そんなジェシカを撫でたりして可愛がっている。姉御肌な人たちだろうか。

「アレンも惚れちゃわないようにねー」
「惚れません。ええ、断固として」

 くすくすと笑いながら言うナタリアに、固い口調で反対するアレン。
 2人はやがて、2階の一室へと辿り着いた。

「とりあえず、ここで話するよ。あ、ここ今夜の君の部屋だからね」
「はい」

 最近手入れがなされたのか、ベッドシーツから各家具まで恐ろしく綺麗になっている。
 全体的に青を基調としていて、ゆったり落ち着くにはピッタリだ。
 さらに窓からは月も窺えて、本当の宿屋のように環境が整っている。

「さてと、じゃあまずは話よりも行動から入ろうかな」
「へ?」

 何だ、話をするんじゃなかったのか。
 かと思っていたら、アレンは突然ナタリアに押し倒された。

「わ……」

 2人はそのまま、ベッドへと倒れこむ。
 そしてナタリアは、若干頬を桜色に染めながら悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「全く、隙だらけだよ。アレン」
「な、何ですかいきなり」

 かと思えば、今度は割りと真面目な表情になった。
 ただし、その頬は紅潮したままである。

「これからは、こういう隙でも作らないようにしてね。暗殺者から追われる立場になったからには、一瞬の油断が命取りだなんて、満更嘘でもなくなるんだから。気をつけること」
「は、はい……」
「よろしい」

 そしてまた笑う。
 宛ら百面相の如くコロコロと表情を変える彼女がどこか面白い。
 アレンは不覚にもそう思ってしまった。
 上司に対して、何と失礼なことを考えてるのだろうか。

「それと、これだけは覚えておいて。私は君に死んでほしくないの。これは私だけじゃなくて、君と出会った人のほとんどがそう思ってるはず。だから、君が死んだらどれだけ多くの人が悲しむか、よく考えること」

 そう言われて、アレンはゼルフの言葉を思い出した。

『ライバルたるお前は俺が倒す、か——』

 何故だろうか。彼のあの言葉だけが、重く自分に圧し掛かっている気がする。

「——胆に命じておきます」
「うん。今はそれだけでもいいから、とにかく死んじゃダメだからねっ」

 笑ったり、真剣な目つきになったり、怒ったり、恥らったりと、とにかく忙しいナタリアである。

「何事も無く事が無事に解決したら、一晩だけ一緒に過ごしてあげるから」
「……えっと」

 すると、ただでさえ暗殺者の件で頭が一杯だというのに、ナタリアはその脳を破裂させる止めの一撃を放った。

「それとも今がいい?」
「……」

 追撃。

「どーせ付き合ってる女の子いないんでしょ?」
「……あの、もういっぱいいっぱいです」

 更に追い討ち。

「お風呂で私の胸見て鼻血出してたもんね〜」
「う……」

 オーバーキルである。
 アレンは何となく泣きたくなってきた。

「ナタリアさん、泣いていいですか?」
「いいよ」
「へ?」

 するとナタリアはアレンの頭を、自分の胸元へと強く抱き寄せた。

「むぐっ」

 気道をふさがれて呼吸が出来なくなるアレンだが、ナタリアはそれに構うこともない。

「それでいいの」
「?」
「アレンってば他人を頼らないで、大体全部自分1人で抱え込もうとするもんね。今日私にこの話をしてくれたみたいに、これからはもっと他人を頼ること。きっとみんな、力になってくれるから」
『ナタリアさん……』
「勿論私でもいいからね? たとえ何も出来なかったとしても、こうして抱きしめてあげることくらいは出来ると思うから」

 ——このひと時でナタリアから教わったことはかなり大きかった。
 彼女が話してくれたことは全て自分には足りていなかったものばかりで、足りていなかったそれらは、教わったことの大きさと同じだけの大きな穴となっていたのだろう。
 そう思うと、彼女には感謝しても仕切れない。

「……ありがとう」

 解放されたアレンは、無意識のうちにそう言っていた。

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.25 )
日時: 2015/01/05 11:57
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

「あれ、ジェシカは?」

 翌朝、昨夜の事を頭の片隅に追いやったアレンがロビーまで来ると、そこにはジェシカがいなかった。
 思わず、独り言紛れに彼女の居場所を皆に尋ねる。

「あぁ、あいつ何か旅に出るとか言ってたぞ」
「旅?」

 そんな彼に返答したのは、トーストにバターを塗っているエネロと——

「えっとねー、何か……猫又装束? って言うのを探すって言ってたよ」

 アイス珈琲を棒でかき回しているナタリア。2人の答えを聞いて、アレンはなるほどと納得できた。
 ジェシカの旅の目的は、盗みを働きながら猫又装束を探すことだと、いつの日だったか聞いたことがある。

「それさえあれば、もうアレンにも迷惑かけなくて済むって言ってたな。お前、どんな気苦労を負ってたんだ?」
「あー……ノーコメントで」

 素直な疑問をエネロに問われ、アレンは少したじろいだ。
 確かに、ジェシカと関わってきた中で負ってきた苦労は誰かに愚痴りたいほどだったが、愚痴るその内容が多少の羞恥モノであり、とても話す気にはなれない。

「あはは、私は何となく同情するよ。あの子、確かに元気一杯で可愛いけど……ねぇ?」

 何も言わずに同情するナタリア。アレンはその態度が、素直に嬉しかった。

「同情してくださってありがとうございます。感涙の極みでございます。えぇ、本当に」
「……? まあ、いいか。とりあえず、お疲れだったなアレン」

 1人置いてけぼりにされるエネロ。
 どこか腑に落ちない様子だが、彼の口からは、一先ずといった風に労いの言葉が零れた。
 アレンはそれを察してか察せないでか、おう、としか言えずにそのまま自分も椅子に座った。
 早速朝食を摂ることに。昨夜は温泉卵もどきしか食べていなかったので、それなりに腹が減っていた。

 と、ここでアレンは殆ど人がいないことに気がついた。

「そういえば、他のみんなは何処へ?」

 パーティーにも普通に使えるであろうこのテーブルを囲んでいるのは、今のところアレンを含めて4人しかいない。
 アレン、ナタリア、エネロの他にもう1人いる、その3人より少し離れたところで静かに朝食を摂っている少女をアレンは知らず、同時にこのあたりでは見かけたことのない顔である。
 この朝の早い時間帯にここにいるということは、昨夜もいたのだろうか。

「みんなならもう仕事に出かけたよ。最近依頼が多いからねー。君やあの子みたいに、お手伝いを頼むこともあるんだよ」
「お手伝い?」

 ナタリアにつられ、アレンもその少女へと目線を向ける。
 すると、ふと彼女と目が合った。

「……」
「……」

 肩甲骨付近まで伸ばされた美しい黒髪。透明感溢れる黒の瞳。均整のとれた身体——
 少女の容姿には全て、上品という言葉が最も相応しい。
 同時に肌で感じ取れそうな儚さと相俟って、迂闊には近寄りがたい——否、近寄ってはいけないオーラが出ている。
 アレンは思わず見惚れてしまった。

「……何?」
「あーいえ、何でも」

 反射的に、アレンは目線をトーストへと戻した。

 発されたのは小さく透き通るような声だったが、言葉の重さは実に重圧である。
 ジェシカの溌剌とした声とは違うものの、心なしかそれは、よく耳に通った。
 声が美しい所為か、発する言葉が重い所為かは、アレン本人にも分からない。

 そうして、気を取り直してトーストにジャムを塗っていると。

「あいつはクラリス・アストライアだ」

 不意にエネロが口を開いた。

「昨日からここに来てるが、お前は……あれか。暗殺者の件でバタバタしてて、聞いてなかったか?」
「あぁ、全然聞いてない」
「そうか」

 ならばと言わんばかりに、エネロは説明を続ける。

「まーナタリアの言うとおり、あいつはここに手伝いみてぇな形で来てる。原因不明とされる魔獣の凶暴化で騒がれる昨今、国の正規軍が動けねぇ今じゃあギルドも大忙しだ」
「だから俺にも連絡が届いたのか」
「そういうこった」

 魔獣の凶暴化は、アレンもそれとなく聞いていた。
 たとえどのような形であろうが、彼らも生物の端くれには違いない。
 なので、そうやって進化したり強くなったりするのは別段珍しいことでもないのだが、ここ最近見られる凶暴化というのは進行速度が例年より早く、少なからず非常事態を招く原因となっている。
 現にこの城下町の門兵も、ここ数ヶ月だけで数十人は負傷、或いは死亡し、交代を続けている。他にも、敵国の威力偵察に向かった国軍が魔獣と遭遇し、そのままやられて骸となることだって、最近では珍しくも何とも無い。

「今はとにかく人手が足りない。だから風来坊のお譲ちゃんにも手伝ってもらうことになったんだよ」
「……は? 風来坊?」
「何だ、知らんってのかよ?」

 ナタリアも例に漏れず、エネロが意外そうな表情を浮かべる。

「クラリス・アストライア……多芸多才な能力を生かして、世界を旅して生きてきた子よ。とにかく色んなことが出来るらしいから、いつしか尊敬の意味を篭めてそう呼ばれるようになったみたいね」
「……嬉しくない」
「?」

 突然、黙っていたその少女"クラリス・アストライア"が口を開いた。

「風来坊なんて、男の子みたいで嫌。せめて、普通に風来人とかがいい」
「あー」

 言われてみればそうだ。
 風来坊の"坊"という字には、人の捉え方次第では男子という意味も篭められる。
 意識する女性からしてみれば、それは少なからず不愉快なのだろう。

「……アレン、だっけ」
「ふぁい?」

 トーストを齧ろうと、アレンが大口を開けたところを見計らい、クラリスは彼の名を呼んだ。
 ——案の定間の抜けた返事が返ってきて、彼女は少し笑う。
 ナタリアはその笑顔が可愛いなと思いながらうっとりと彼女を見つめ、エネロは特に興味を示さずサラダを口に運び、その傍らアレンは間抜けた返事をしてしまったことに慌て、トーストを落としそうになった。
 ただ、アレンを呼んだ理由はちゃんと存在していた。

「今日の依頼だけど、私と貴方がペアになって請けなきゃいけないみたい」
「えっと、そうなのか?」

 トーストの上から落ちそうになったジャムを塗りなおすアレンは、突然の事に少しだけその事の理解が遅れた。
 片やクラリスは珈琲を一口飲んでから、淡々と話を続ける。その恐るべき平衡感覚は並でなく、表面張力するまで注がれているにも拘らず、その珈琲は零れることは愚か、水面が揺れて波紋が出来る事さえ知らない。

「ナタリアさんがそう言うから。でも依頼は少ない。さっさと片付けよ」
「あ、あぁ」

 クラリスの話が終わると、アレンはそっと、抗議の目線をナタリアに向けた。

「何か文句ある?」
「いや、俺今暗殺者に追われてる立場なんですから……」

 とはいえ、それ以上言おうが言まいが、結果は覆らない。ナタリアがそれだけ頑固なことを、アレンは知っている。
 きっと何か全うな理由があるのだろうと自分に言い聞かせ、アレンはその後、依頼の片付けにとりかかるのだった。

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.26 )
日時: 2015/01/06 12:31
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

「そこの少女。モード・オライオンだな?」

 モードが朝日を浴びながら城下町を散歩していると、兵士2名を引き連れた男が彼女を呼び止めた。

「何かしら?」

 振り向いた彼女は細長い骨董品のような煙管を持っていて、風さえ無いこの日差しの下、優雅に紫煙を燻らせている。
 見た目幼い彼女が煙草を吸っているのに気付いた男は一瞬注意しようかとも思ったが、彼が彼女を呼びとめた理由はそれではない。それに、今彼が持ちかけた用事は緊急を要する。こんなことに時間を割いている暇はないのだ。

「わしは、ヒストリア王国の現国会議長"ログナー・オリヴァルト"と申す者である」
「……そう」

 国会議長の名と言えば、国内では誰もが何度も耳にしている。
 あらゆる議題を的確な判断力に基づき、あくまで全てを良い方向へと解決してきた苦労人である。
 その働きぶりと言えば、現国王であるジェラルド14世から表彰を受けたほどだが、その傍らで王の座を狙っているという噂話もあり、様々な"曰く"がついた、謎の多い要注意人物とも言われている。
 しかし、モードはそれに対して、特に興味はなかった。
 元々彼女は異国人。他所の国の出来事などに興味は示さないのである。

「……で? 何よ」
「この度わしは、モード・オライオン宛の王直々の命令書を賜り、そなたの元へと届けに来た。これを受け取れ」

 モードはログナーより、一通の手紙を受け取った。
 上質で肌触りの良い紙が使われた白い封筒には、ジェラルド14世からの手紙であることを示す署名が書かれている。
 さらに隅には、王室より出される手紙であることを証明するための印も押されている。
 モードは一目見て、偽物ではないと確信した。

「その手紙は、返信を要するものである。返信の旨を書いた手紙は、その封筒へ入れて送るがいい。王室より出されたことを証明してある故、どこの郵便局であろうが代金は取るまい」

 モードは黙ったまま、その手紙を懐へとしまう。
 王室からの手紙ともなれば、さぞ重要なことが書かれているに違いない。
 どこかの店でお茶を飲む序に見る、というわけにもいかないだろう。

「返信の期日はいつかしら?」
「最低でも3日後とするが、ジェラルド14世様によれば、願わくは本日中に返信を受けたいとのご要望だ」
「分かったわ。なるべく早く返信するように務めましょう」
「うむ。では、以上だ」

 踵を返すログナーの背を見送り、モードはその足を宿屋へと向け、歩き始めた。

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.27 )
日時: 2015/01/06 14:09
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

 しかし、突然にも程がある。
 これまで何の関係も持たなかったジェラルド14世から、暗躍する暗殺者へ手紙を差し出すとは。
 一体何の用事なのか。モードは激しく気になったが、とりあえず宿屋で落ち着いて読もうと、足を速めた。

 そうして辿り着いた自分の部屋にて、彼女は封筒を開けた。
 中には1枚の大きな手紙が、幾重にも折りたたまれた状態で入っている。
 躊躇うことなく手紙を開けてみれば、そこにはこう書いてあった。


 ——モード・オライオン殿。突然のお手紙、失礼する。
 此度は暗殺者としてのそなたに、1つの依頼を頼まれたく申し上げる。

 我らは5日後の夜に、王城の迎賓室にてダンスパーティーを開く予定でいる。
 それは本来、招待された者のみが参加することの出来る、限定的なパーティーである。
 しかし人数は少数ではなく、幾百人もの来賓が来られる事だろう。

 そなたにはそのパーティーに参加し、とある人物2名を殺害してもらいたい。
 1人は、我らがヒストリア王国の国会議長である"ログナー・オリヴァルト"
 もう1人は招かざる客であると同時に、今回は招いてもいないはずがやって来るであろう人物"グレム・アッシュ"
 上記2名である。

 成功した暁には、報酬として1000000000ゴールドを支払うと約束しよう。


 ——モードはこの文面を見て、少し驚いた。報酬10億ゴールド。まずはこの金額である。
 人間はそもそも、3億もあれば十分に裕福な暮らしが出来る。
 それを10億だ。モードは今までにない巨額の報酬に、一瞬目眩すら覚えた。
 国王からの依頼なので当然の報酬なのかもしれない。

 ——が、モードはそれとは別に、この依頼はどうにも気が進まなかった。

 10億という巨額の資金は手にしてみたいところだが、10億には10億なりの理由があるのが常である。
 これまで請けてきた依頼の中でも、比較的報酬が高めなものには、少なからず様々な危険や対価が付きまとっていた。
 例えば敵陣への単騎突入。例えば変装やなりすまし。例えば潜入捜査からの悟られぬ暗殺——

 きっと今度も何か、危険を伴うに違いない。
 そう思って何気なく手紙の裏面を見てみると、まだ続きがあった。
 気を取り直して、モードは早速続きを読む。


 ——今回の暗殺対象は、間抜けに見えても侮ってはならない。
 そこで私のほうからいくつか、今回の暗殺に関するアドバイスを提供したい。

 ログナーが誰かは、そなたも分かっているはずだ。手紙をそなたに渡した張本人である。
 次に此度の招かざる客こと"グレム"は、この手紙に添付した男の顔写真を見てもらえれば分かるだろう。
 その2人なのだが、彼らは千里眼の使い手であるため、一筋縄ではいかないだろう。
 決してそなたを侮辱しているわけではない。
 これは紛いも無き事実であり、これまでに何人もの暗殺者が命を落としてきた、危険人物なのである。

 そこで、そなたはこの城下町のギルドに来ている"アレン・シュトラウス"という少年を訪ねてみるとよい。
 彼は錬金魔法の使い手であり、あらゆる逆境を乗り越える可能性を秘めている。
 彼に相談を持ちかければ、きっと何かいい方法が見つかることだろう。
 一方で残念ながら、私は人殺しとは程遠い立場にある。そのことに関する直接的なアドバイスは何も出来ない。

 つまり今回は暗殺と言うよりは、普通の殺し屋として活躍してもらいた。
 無論、アレン君にも1000000000ゴールドの報酬を渡そう。これは山分けではない。

 以上。では、健闘を祈る。


 ——手紙を読み終えたモードは、神妙な表情を浮かべていた。

 文中に出てきた"アレン・シュトラウス"といえば、今まさに彼女が追っている暗殺対象だ。
 そのままアドバイスどおりに従って動けば、件の彼に暗殺の手伝いを依頼することとなる。
 別段、モードは彼に手伝いを頼むことに吝かではないが、彼が素直に引き受けてくれるとは思わない。
 それも彼女はつい昨夜、彼を殺しにかかっている。ましてや彼はギルドに携わっている身だ。たとえ正当な理由があっても、人殺しに加担するような真似はしないだろう。

『——まあ、一先ず彼の元へ一度赴いてみるのがいいわね』

 思い立ったが吉日。
 モードは早速、ギルドへと足を運んだ。

Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.28 )
日時: 2015/01/06 17:46
名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)

「失礼するわ」
「いらっしゃいませ! ……って、あれ?」

 モードがギルドへ入ると、カウンターで依頼の確認をしていたナタリアが出迎えた。
 しかし、歓迎されるような雰囲気ではないらしい。仮にも暗殺者が来たので、当然と言えば当然である。

「……どういったご用件でしょうか」
「ここに、アレン・シュトラウスがいると聞いたわ。彼はいるかしら」

 中身の尽きた煙管をしまいながら、ナタリアと目も合わせようとせずに訊ねるモード。
 ナタリアは一瞬で不快感を覚えた。

「生憎、仕事で外出中ですが」
「そう。ならいいわ」

 モードは踵を返し、ギルドを後にしようとする。
 だが、それを呼び止める人物がいた。

「アレンとやらに会いたいんなら、ここで待ってりゃいいんじゃねぇか?」
「ちょ、エネロ……!」

 呼び止めたのは他でもない、黒い翼の生えた背に大きな大剣を背負ったエネロであった。
 その紫色の禍々しい光を発する大剣はエネロが使用している武器の一種で、名を"ダーインスレイブ"という。
 悪魔の名を冠したその剣は烙印でもあり、天使を追放され堕天使となった彼に与えられたものである。
 ただしその威力は非常に強大で、決して侮ってはいけない。
 斬ると同時に砕く力を持つダーインスレイブは、幾つもの戦場であらゆる鎧を粉微塵に砕いてきた。
 なめてかかれば火傷をする一振りである。

「ダーインスレイブに、その黒い翼……貴方、堕天使?」
「そーゆーこった。アイツが来るまでの間なら、この話だけでも十分に暇つぶしが出来るだろ」
「……まあ、そうね」

 モードにしては珍しく、天使が堕落する経緯に興味を示したらしい。

「でもその前に、どうして私がアレンに用事があるのかを話さないといけないわ。そこにいる女が私を疑い深い目で見てるし……少しは弁解しておかないと、今度は私の命が危ないもの」

 だがその話を聞く前に、そう言い放ったモードはナタリアのほうを見ていた。
 様々な修羅場を経験してきたつもりでいる彼女は、多少なりとも感じているのである。
 ナタリアから発される、異様なまでの殺気と覇気を。

「アレンから聞いたよ、モード。彼を追ってる暗殺者なんだって?」
「えぇ、確かにその通りよ。でも、今は暗殺どころじゃない。もっと重要な用事があるのよ」
「ふうん?」

 ナタリアのモードを見る目は、相も変わらずそのままだ。
 彼女から立ち昇っている、魔法の源となる霊力の量も普段とは桁違いで、この場の霊力大気が轟々と震えている。

「ま、確かにそいつを怒らすと、俺でも手がつけらんねぇからな。先にお前がここに来た理由を話してもらおうか」
「言われなくてもそうするわ」


    ◇   ◇   ◇


 それからモードは、先ほどの手紙を見せた上で2人に全てを話した。
 しかし、2人はどうにも腑に落ちない様子でいる。

「いっくら国王からの命令だからって、流石に人殺しはどうかと思うぜ……?」

 その理由は予てより、モードには何となく察しがついていた。
 そして今しがた発されたエネロの言葉により、それは確信へと代わる。
 こうやって困惑するだろうな。予めそう見計らった上で、彼女には1つ用意しておいた言葉がある。

「この国の政治はかなり正当らしいわね。王政でも、決して国会の意向は無視しないって聞いたわ」
「お、おう……それが、どうしたってんだ?」
「それならこの国の王様は、少なくとも悪い人ではないはずよ。人殺しにしても、何かちゃんとした理由が存在してるはず」
「うーん……」

 黙って聞いていたナタリアが唸る。

「まあ、どうしてもって言うなら、ジェラルド14世様に確認を取ることもできると思うけど。返信を要する手紙なのだから、その序に聞く事だって出来るかも知れないわ。この町のギルド長である貴方——ナタリアの頼みなら尚更よ」
「あー」

 それも一理ある。ナタリアからも頼まれたなら、恐らく国王でも快く話してくれるかもしれない。
 だが、そう思ったのはエネロだけで、当のナタリアは反対した。

「私よりも、アレンのほうが信用性あると思う」
「……それもそうか。一応、手紙に取り上げられている人物だしな」
「なら別に、それでもいいのよ」

 すんなりと話が纏まる。
 思わぬ物分りのよさに、ナタリアとエネロは一瞬後れを取った。

 結果的にナタリアはアレンに連絡を入れてギルドに戻ってくるように言い、3人は彼を待つことにした。


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