複雑・ファジー小説
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- 虹至宝【キャラ募集一時終了】
- 日時: 2015/01/06 11:58
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
これは、7つの至宝の物語。
◇ ◇ ◇
どうも、kiryuと申します。
〜お知らせ〜
キャラの募集を一時締め切りました。
〜ルール〜
1、荒らしや勧誘目的のコメントは通報の対象とします。見かけても無視を心がけてください。
2、キャラを応募する際は留意事項をよくご理解頂き、注意事項を厳守の上でご応募下さい。
3、更新速度は、まちまちです。保留中のコメントはお控え下さい。
4、お客様へのコメントの返信は全て"Reply"の項目に返信します。
〜オリキャラ関連〜
留意事項
1、基本的に応募されたキャラは全て採用しますが、不採用になる可能性もあります。
2、キャラは死亡や大怪我をすることがあります。
3、応募回数はお一人様につき2回までとさせていただきます。尚、2回目のキャラは保留となります。
テンプレート
名前:(和名不可)
性別/年齢:
容姿:
性格:
属性:(魔法で使う属性です。何でも可能。2つまで)
武器:(何でも可能。個数指定なし。2種類まで。解説を加えたいなら解説も)
種族:(ハーフの類でなければ何でも可能)
種族解説:(既に応募されたキャラと全く被る場合、この項目は空欄で結構です)
職業:(学生、無職、定年退職可能)
備考:
サンプルボイス:(人称などが分かるように)
〜キャラリスト〜
蒸さん>>1
コッコさん>>3
不死鳥さん>>7
46猫さん>>8
ルファルさん>>11
HIROさん>>12
siyarudenさん>>13
〜Reply〜
>>2
〜目次〜
序章〜この世界〜
>>4 >>6
1章〜猫又少女と未開の遺跡〜
>>10 >>14 >>15 >>16
2章〜殺める者〜
>>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
3章
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.19 )
- 日時: 2015/01/01 22:45
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
アレンがギルドに戻ると、ジェシカは既に目を覚ましていた。
猫の姿でいるという約束は守っているようだが、彼女はこの時点でギルドの仲間と遊んでいる。
それもかなり盛り上がっているようで、中にはジェシカが人間になった姿も見たいと言い出す人もいるらしく、見せる側になっている彼女は何かともったいぶりながら色んな人物の気を惹いていた。
『馴染みすぎだろ、あいつ…………あ』
ここでアレンは、1つ忘れていたことを思い出した。
ジェシカのための布を調達していない。
「はぁ」
もう今日だけで何度目か分からない溜息をつくと、アレンは渋々ギルドを後にした。
「アレン? 今日はここで泊まっていくんじゃないの?」
その寸前に話しかけてきたのは、寝巻き姿のナタリア。
タオルを首に掛けたまま髪を拭いている。
「あ、ちょっと野暮用で」
「ふうん、そう。何でもいいけど、早く戻ってきてね」
「はい」
そして、今度こそアレンはギルドを後にした。
◇ ◇ ◇
「えーっと、ここでいいのか」
裁縫関連の店に行くのは何年ぶりだろうか。
アレンは暫く城下町を歩き回った末、やっとの思いで見つけた店を前にしてまたしても溜息をついた。
幸せが逃げるなんて、迷信に違いない。そう思いながら彼が店の中に入ろうとしたときである。
「——アレン・シュトラウス」
突然響いた低い声が、彼の名を呼んだ。
「——誰だ」
アレンはその場から微動だにせぬまま、そう言葉を発した。
しかし、彼は既に知っていた。この独特の声を持つ人物の正体を。
「しらばくれるなシュトラウス」
「……」
無言で振り返ればそこには、予想通りの人物——金髪黒目の海賊こと、ゼルフ・ニーグラスが立っていた。
「珍しいな、海賊が陸に上がるとは。今日は何の用事だ? 生憎金なら持ってないが」
アレンが警戒心を強めるのには訳がある。
彼は一昔前、ゼルフの率いる魔族で結成された海賊団と戦争を起こしたことがあった。
その際は国民からの依頼により、近頃悪行が過ぎるとされていた彼らを懲らしめるために仕掛けたのである。
当時はそのまま特に死傷者を出すことも無く去っていったゼルフたちだったが、此度はどのような理由でここにいるのだろうか。アレンからしてみれば、復讐以外に思い浮かぶことが無かった。
「今日はお前に、忠告をしに来た」
「忠告?」
「そうだ」
——沈黙が流れる。ゼルフが、忠告をしに来た現実をアレンに受け入れさせるためのものだ。
それを知ってか知らないでか、アレンはただ1つ頷き、説明を促した。
促されたゼルフも1つ頷くと、ゆっくりとこう告げた。
「——お前の命を狙っている刺客がいる」
「……刺客?」
「そうだ。分かりやすく言うならば、暗殺者だな。お前は現在、暗殺者に追われている」
——突拍子も無い話である。アレンは俄かに信じ難く、反応さえも出来ずにいた。
「この話を信じるか信じないかはお前次第だが、あくまで俺は海賊。本来ならば海の上にいるところを、こうしてここまで来て、話をつけた。お前とて錬金魔法の使い手……この意味が理解できるな?」
「……あぁ」
確かに、改めて考えてみるとそうだ。ゼルフは海賊でもあり、同時に敵でもある。
そんな彼が態々ここまでやってきたのだから、事の信憑性はより一層巨大なものへと変化する。
「その話、詳しく聞こうか」
「いいだろう……ならば、立ち話もなんだ。その辺の店に入るとしよう」
そうして2人は長い話になると看破し、丁度裁縫店の隣にあったファーストフード店に足を運んだ。
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.20 )
- 日時: 2015/01/03 11:37
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
アレンにしてもゼルフにしても、よもや敵同士でテーブルを囲むとは思ってもいなかった。
特にアレンなど、ゼルフに戦争を仕掛けた張本人。それもゼルフたちを撤退させた立場にある。
そんな2人の間には、どこか微妙な空気が漂っていた。
ファーストフード店に入ったが、特にゼルフに怯えている人物はいなかった。
「あれ……一般人って、服装が違うでこんなに反応が違ってくるのか」
「……人は目の印象が大きいと聞く。俺は魔族だから、実際どうなのかは知らんがな」
今のゼルフは一般人を装うべく、普段の海賊を風貌とさせる服とは違う服を着ている。
更に目には伊達眼鏡、首にはネックレスと、よくどこかにいそうな若者に変装できていた。
◇ ◇ ◇
ゼルフとアレンはお互いに珈琲だけを注文し、目立たないように奥の席へ移動した。
「それで、聞きたい事とは何だ?」
「あぁ……」
これでようやく話が出来る。
アレンは珈琲を一口飲むと、本題を切り出した。
「まず、その俺を狙ってる暗殺者とやらについて聞きたい。出来る事なら、お前が知ってること全てを」
「なるほど……ならば、まずはこれを見るがいい」
そう言われたゼルフは、何やらポケットから1枚の紙を取り出した。
受け取れと言って差し出されたそれは、女性が1人写っている風景の写真。
写っている女性は、1人の男を射殺している真っ最中だ。
「この写真は、俺の下っ端共に撮らせたものだ」
「ふうん……で、この女の人が、今回俺を狙ってる暗殺者なのか?」
「そうだ。ギルドに携わるお前ならば聞いたことがあるかもしれないが、その女の名は"モード・オライオン"という」
モード・オライオンと聞いて、アレンは訝しげに眉根を顰めた。
その名を持つ女は、ギルドだけでなく殆どの組織や民間において少なからず有名で、狙撃や刺殺など、あらゆる手段を以って暗殺を執行するという凄腕の持ち主で知られる。
ただ、やり方が汚いわけではない。あくまで暗殺なので、誰かを人質にしたりはしないのだという。
「……その女が、俺を?」
「そうだ。お前を殺す動機や理由については俺も知らんが、何にせよこの女は、人殺しの業界ではトップクラスと言える実力を持つ。そしてお前はその女に目を付けられた。つまり、よほどの何かをどこかでやってしまったのだろう」
ゼルフの言う事も一理ある。
暗殺者を雇う際、雇った者の腕前が上等なほど金がかかる。これはある意味常識だ。
そして今回は、その業界においてトップクラスの暗殺者に追われている。
この現実が語ることは、金をかけてでもアレンを殺そうと思う誰かがいる、ということ。
「……俺、何かしたっけ?」
「無意識という可能性もある。今はそう深く考えず、目の前の事に集中しろ」
「……」
必死に過去を思い出そうとしているアレンは、ここで予てより抱いていた疑問が大きなものへと渦巻いた。
何故、敵であるゼルフがここまで自分の助言をしてくるのか——その一点張りだ。
「……なぁ、ゼルフ」
「?」
「俺たち敵同士なのに、何でお前は俺を助けようとする?」
「……あぁ、それか。勘違いするな」
「は?」
「俺の血を滾らせてくれる敵は、今のところお前しかいない。俺がお前を倒すんだ。そこらの暗殺者に殺されて死んでもらっては、成仏しようにもしきれんからな」
予想もしていなかった言葉を発したゼルフは、薄ら不気味な笑みを浮かべた。
しかし、それは悪意のある笑みではなく、何の含みも持たない穏やかなものである。
「……あー、つまり何だ。ライバルってことか」
「あぁ、その言葉があったか。そうだな、俺はお前をライバルだと思っている」
「ほう」
ここで、アレンもゼルフと同じような笑みを浮かべた。
「そこまで言うんだったら、俺が倒すまでお前もくたばるなよ?」
「上等だ、この餓鬼が」
「言ったなこの性悪男がっ」
——このとき、2人の間に何かが芽生え始めていたことは、お互い知る由も無かった。
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.21 )
- 日時: 2015/01/03 16:49
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
その後ゼルフと別れたアレンは、念のため件の暗殺者についてナタリアに報告しようとギルドの前までやってきた。
しかし、彼はまたしても思い出すのであった。まだ、ジェシカのための布を調達していないことに。
「あー! 俺そのために外に出たんじゃねーかー!」
思わず叫んでしまったアレンだが、周囲の人目を惹いていることなど気にもせず、ずかずかと裁縫道具店まで足を運ぶ。
その際に彼と対面した店のスタッフは、物凄い形相で睨まれて怖かったと後に店長に語っている。
◇ ◇ ◇
「ったく、何なんだよ今日という今日は……厄日か」
その日の夜。大きな黒い布を手に、ぶつぶつと独り言を呟く少年が王国の城下町にいた。
「……逃がさない」
ふとそう呟いたのは、その少年を一点に見据える少女。
近くにいても聞こえないほどに小さく呟かれたその言葉は、瞬く間に喧騒とした城下町の活気に飲まれてゆく。
だが、その後木霊した金属の悲鳴は、逆に城下町の活気を丸呑みにするのであった。
「っ!」
独り言を呟いていた件の少年ことアレンは、突如自分に向けられた強烈な殺気を感じ取った。
同時に、先ほどゼルフとの会話で出てきた暗殺者の話を思い出した彼は、懐から素早くダガーナイフを取り出す。
考えるよりも早く取り出したそれをほぼ本能的に背後へと向ければ、耳障りな金属摩擦の音が辺り一体に響いたと同時に、彼の目の前で一瞬火花が散り、思った以上に勢いの強かった"なにか"を弾いたためにひどく右手が痺れた。
「やるわね……アレン・シュトラウス」
続いて訪れた城下町の静寂の中、最初にアレンの鼓膜を揺らしたのは、彼の名を呼んだ涼やかな少女の声。
そしてその声の持ち主が、目の前でナイフを握り締め、向けるべき殺意をむき出しにしている少女のものだと分かるのに、然程時間はかからなかった。
「……お前は……まさか」
「そう。噂をすればって所かしら?」
今目の前にいる可憐な少女と、ゼルフからもらった写真に写っていた少女の姿が、一切のずれもなく重なる。
腰付近まで伸ばした、まるで水流を連想させるかのような水色の髪。何かを失った者が持つようになる、ボンヤリと焦点の定まっていない赤い瞳。見た目の幼さとは裏腹に大人びた声と態度。
「悪いけれど、ゼルフとの会話は聞かせてもらったわ」
「一体、どうやって……」
「分からないのかしら。錬金魔法の使い手と聞いたけれど、頭の中は思った以上に空っぽだったようね」
「……お前喧嘩売ってんの? はっきり言え、はっきり!」
呆れたような表情を浮かべる少女がさり気なく言い放った毒は、見事に効き目があったらしい。
その証拠に、毒はじわじわとアレンの脳内を回っており、今にでも堪忍袋の緒を切らしそうである。
「はぁ……沸点が低いのね、貴方。それくらいの冗談も聞けないというのなら、この先苦労するわよ」
「ご忠告どーも」
その上馬鹿にされたような気がして、怒りを忘れて逆に呆れるアレンであった。
「まあ、最初からあのお店に私がいた、と思ってくれればいいわ。のんびり寛いでいたら、丁度貴方とゼルフが入ってきたんだもの。貴方達の話を聞かない理由が無いでしょ?」
薄ら微笑む少女だが、ゼルフのそれとは違い、彼女の笑みは酷く不気味である。
同時に会話を交わす中で、たった今の間に得れた情報を整理していたアレンは確信した。
この目の前で笑う女こそ、今回自分を殺そうとしている暗殺者——紛うことなき"モード・オライオン"なのだと。
「……俺を狙う理由……いや。お前を雇った奴は、何故俺を殺そうとする?」
試しに、疑問に思っていることをモードにぶつけてみた。
そして、答えにならない答えが返ってきたのは、その疑問をぶつけてから数秒後のこと。
「……私たち暗殺者を雇う人っていうのは、基本的に私情を話さないものよ。それは私たちも同じ。雇い主の私情を聞き出すなんてことはしないわ。さらに言ってしまえば、雇い主は私たちの事情を聞き出すこともない」
「つまりお前ら同士は、互いに何の関係も持たないと……要は知らないってか」
「えぇ、そうよ。少しは物分りがいいようね」
「っ……」
冗談だとモードは言うが、どうにも苛立ちが募るアレン。
だが彼は曲がりなりにも、ギルドに携わる一介の魔術師だ。今こうしている間にも人目は惹いている。下手に事を起こせば、すぐさま王国の兵士に見つかって懲罰房へ投獄されるし、同時にギルドの信頼も下がる。
ここは我慢するしかない。
「……でもまあ、今日は見逃してあげるわ。本当は殺気の時点で死ねばよかったのだけど、今は人目もある」
「見逃さざるを得ない、の間違いじゃないの?」
「……」
間髪入れず発した、少なからず嫌味を含めたアレンの言葉に、今度はモードがその形のいい眉根を顰めた。
暗殺者は元々、戦闘能力の低い者が大半を占めている。
結論から言うと、仕事柄"一撃必殺"をモットーに動く彼女らなので、特に高い戦闘能力は必要とされないのだ。
ただ不意をつく事に長け、それでいて無防備な相手を確実に相手を殺せる技術を持っている。たったそれだけでも、暗殺者としての才能だけでなく、実際に暗殺者として働き生きていくのにも十二分と言ってもいい。
だがその裏には、相手との真っ向勝負に弱いという点があり、今のモードは正にその状態である。
だから彼女は、アレンの言葉に多少の苛立ちを覚えたのだ。
「……次に会った時は、もう容赦しないから」
「なっ、おい!」
突然、モードは足元に魔方陣を展開し、その場から消え去ってしまった。
あまりの素早い出来事にアレンは追いつけず、結局は彼女を逃がしてしまった。
先ほど用いたのは転移魔法の類——彼女は魔法使いとしての実力もそれなりに持っていることとなる。
その後1人残されたアレンは、真っ直ぐにギルドへと戻った。
右手には黒く大きな布を握り締めている。多少シワがついてしまっただろうか。
だが今のアレンには、そんなことに気を使う余地も無い。
これからは死と隣り合わせの生活が始まるのだから。
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.22 )
- 日時: 2015/01/03 21:03
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
やっとの思いでギルドに戻ってこれたアレンを見るなり、その場にいた一同は一瞬固まった。
「どうしたの? アレン」
固まって、最初に沈黙を破ったのはジェシカ。
対してアレンは何も答えず、ただ右手の布を彼女に渡した。
「それ着とけ。穴がまだ開いてないから、誰かに加工してもらうんだ」
「う、うん……」
素直に受け取ったジェシカは何も聞かず、1人ギルドのメンバーを連れて奥の部屋へと入っていく。
残されたアレンはナタリアだけを残し、その他の人物にはこの場を去るように言い、皆はその言葉に従って各自どこかへと散っていった。
「何で私だけ残したの?」
「ナタリアさんになら、相談できるかと思ったんです」
「な、何を?」
「実は——」
◇ ◇ ◇
「……ふうん、なるほどね」
アレンは、先ほどあったことを全て話した。
方や話を聞くナタリアは、その間中ずっと訝しげに眉根を顰めていた。
聞き終えても尚、それが戻ることは無い。
いい眉が台無しですよ——そう言おうかとも思ったアレンだが、やめておいた。
「アレン、ちょっと後で話があるから」
「え、お、俺なんかやらかしました? お騒がせ、みたいな……」
「別に、城下町を騒がせたことは何も言わないよ。しょうがないもん。私が言いたいことは、それとは別よ」
「……?」
いくら首を傾げようが、全く以ってナタリアの言おうとしていることがわからない。
そんなアレンを見て、ナタリアは笑った。だがその笑いには、多分に呆れを含んでいるのだろう。
「とにかく、今はお風呂に入ってきなさい。寝巻きならギルドのやつ貸してあげるから」
「は、はい」
「よろしい。はいこれ、洗面セット」
「あー、ありがとうございます」
何故かカウンターの下に置いてあった洗面器を、アレンはぎこちなく受け取った。
垢すりタオルにシャンプーや石鹸、バスタオルなど、必要なものが全て揃っている。
しかし、一体何故これがカウンターに置いてあるのだろうか。考えていたらいつの間にか、彼は脱衣所で服を脱いでいた。
- Re: 虹至宝【キャラ募集一時終了】 ( No.23 )
- 日時: 2015/01/04 00:15
- 名前: kiryu (ID: nWEjYf1F)
ギルドの風呂は広く、一度に大勢の人が入れるような工夫が凝らされている。
そもそもギルドという建物自体が宿屋並みに大きいので、その気になれば宿泊施設にだってなれるのである。
これにもやはり理由が存在していて、主に緊急時のための避難所として使われるのが大体だという。
「ふぅ」
そんな広い風呂を、アレンは1人で満喫していた——というわけではなかった。
1人だけだが、先客がいたのである。
「アレン」
低くも高くも無い中世的な男性の声で、その先客はアレンを呼んだ。
呼ばれたアレンが反応し、そちらの方に目をやって最初に目に付くのが、その背にはえた黒く立派な翼。
堕天使と呼ばれる種族の彼を"エネロ・フォーリングダウン"という。
「聞いたぜ。暗殺者とやりあったらしいな?」
「いや、やりあってはないな。やられそうになったところを防御しただけだよ」
「そうか」
浴槽で寛ぐエネロと、身体を洗うアレン。それっきり、2人は口を噤んだ。
単なる風呂だというのに、沈黙がやけに重い。何かいい話題はないのだろうか——
だが、アレンとエネロは最近知り合ったばかりなので、これといって良い話題は見つからない。
「まー、俺ァ上がるわ。そろそろ逆上せそうだしな」
「そうか。またな」
「あぁ。っつっても、どーせ同じ場所で寝る事になるんだけどな」
そう言ってエネロは立ち上がり、浴室を後にした。
後ろから見ていたアレンは、翼を乾かすのが大変そうだなと思いながら、その背を見送る。
『さて、俺も湯船に浸かるか』
やがてエネロの姿が脱衣所へと消えた頃、身体を洗い終えたアレンは浴槽へと向かった。
やたら広いこの浴槽には、大の男でも10人は余裕で入ることが出来る。
久々に広い風呂に入ったアレンは、何とも言えない不思議な気分になるのであった。
『なんつーか、泳ぎたい』
しかし、考えていることは間の抜けたそれだったらしい。
そうして1人、ゆったりと寛ぐこと数十分。アレンはいつの間にか、お湯に浸かりながら浅い眠りに落ちていた。
「あら?」
「あれぇ?」
そうして唐突に響いたのは、アレンにとって聞き覚えのある女性2人の声。
しかしアレンは反応せず、そのまま眠り続ける。
やってきた当事者2名こと"ナタリア"と"ジェシカ"は、揃って困惑の表情を浮かべた。
「アレン、いたんだ……」
「おーい、あーれーんー! おきてー! 溺れるよー!」
ゆっさゆっさとアレンの身体を揺らすジェシカ。
「んぁ?」
数回揺らされてようやく気がついたアレンは、寝惚け眼で目蓋を半分開けた。
そして最初に彼の目に映ったのは、アップの状態で視界に入るジェシカの顔。
「ん? ジェシカか……ってうあっ!?」
次いで目撃した2人の湯巻姿に、アレンは大きく後ろへと仰け反った。
しかし、後ろへ仰け反ったのはいいが、彼は壁にもたれていたため、強く頭を打ってしまった。
「いでぇ!!」
良かったのか悪かったのか。一気に目が覚めたアレンは、一瞬で耳まで真っ赤になる破目に。
「な、なな、ななな何でいるの2人とも!」
「あれ、知らなかったの? ここ混浴だよ?」
「そんな突拍子もないことをさらっと言わないでくれっ」
だが、確かに混浴である。
ギルドは本来、魔獣を倒すために生まれた組織なので、どちらかというと軍に近い性質を持っている。
片や軍というのは、男女関係無く寝食を共にする場所。故に、こうして自然と混浴という習慣がついたのもおかしくは無い。
「まあまあ、これも何かの縁でしょ。アレン、布くれたお礼に背中流してあげよっか?」
「ケッコーデス」
「もう、つれないなぁ」
アレンは先ほどから、ずっと壁のほうを向いている。
安座をしたまま腕を組み、相変わらず耳は真っ赤であり、どう問いかけても振り向こうとしない。
しかし。
「アレン」
「はい」
上司と部下。この関係は重要であり、部下は上司に呼ばれたら返事をするのが礼儀。
そこで思わず振り向いたアレンだったが、彼はすぐにその行動を大きく後悔し、同時に氷のように固まった。
「……」
目の前にある、実った2つのたわわな果実。それは今にも果汁が出そうなほどに大きく、美しい。
持ち主は、ナタリアであった。
「もう、アレンってば。もうすぐ大人になるんだから、そろそろ女の子の裸も見慣れないと」
「……見慣れる必要って、あるんですかね?」
数秒後、何とかして搾り出せたその言葉を最後に、アレンは鼻血と共に湯船へ沈んでしまった。
「あ」
「あ」
残った2人の声がシンクロし、暫く沈黙が走る。
「……じ、ジェシカちゃんがお風呂に誘うからっ」
「な、に、2度目なら無理して入らなくてもよかったのに……って、アレンが死んじゃう! はやく助けなきゃ!」
『あぁ……まさか、このような形で息絶えることになるとは、思いも寄らなかったな……』
ゼルフでも、ましてやモードでもない。死因は他ならぬ、ナタリアの大きな両胸。
男として、別にそれなら死んでもいいかなぁ——溺れながら、アレンはそう思った。