複雑・ファジー小説

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Vivo 
日時: 2015/02/19 11:40
名前: 極秘事項 (ID: fd9gqfc4)

一匹の少女と二つの派閥を巡る小さな戦い。


/新着情報

 最終話の更新
 完結しました!ありがとうございました。

/こんにちは、極秘事項と申します。クリックありがとうございます。
 普段は他の名前で同人関連で活動していますが、
 ベースとしてる話の事情で本当の名前を晒すことが出来ないのです。
 ごめんなさい。
 楽しんでいただければと思います。

オリキャラ募集は終了しました。
ご協力ありがとうございました!


Re: Vivo オリキャラ募集中です。 ( No.17 )
日時: 2015/02/11 18:52
名前: 極秘事項 (ID: QT5fUcT9)



第十二話 ロイ


「……クソ、邪魔が来たか。用があるなら手短になッ!」

ヨツバは再び目を開けた。
ロイの動きは振りかざそうとしたままだった。
ヴァローニャは苛立ちを隠せないような声をして、真っ赤なソファから立ち上がった。


「ヴァローニャ、お久しぶりですね……。」

「だ、誰だ!?」

その声と同時にギィ、とそっと窓が開く音がした。
そして、ロイの手にあった武器はヨツバとは別の方向へと落ちていった。
銃声と共に、一人の女が姿を現した。
青い瞳がぎらりと暗闇に輝く。
ヴァローニャはその瞳を見た瞬間、何か思い出したような顔をした。


「お前……モネ、だな。」

それに返答するように彼女はヴァローニャに銃を向けた。
ヴァローニャを守ろうとロイが武器を拾い上げようとすると、銃声が響き、ロイの手首から朱が飛び散った。
それで力が抜けたのか、ヨツバは簡単にロイの腕から抜け出すことが出来た。


「俺に何をしようと無駄だと思うんだけど。君、もう関係ないじゃないか。」

「関係あるわ。私達が此処にいる限り。」

「……は?」

ロイが追いかけようともがくように走りだしたが、再び銃声がロイを襲った。
足に銃弾が当たり、倒れこんだ。
モネは黙ったまま、ヴァローニャの額に銃を打ち込んだ。
ヴァローニャの頭には銃弾が入り込み、彼の表情が一瞬歪んだ。
しかし、彼はにやにやと笑うだけ。倒れることもない。
モネは何かおかしいものを感じた。


「あの時の任務にいたなら、分かると思うんだよね。」

「あの時……!?」

「記憶力ないなあ。オリン、って言ったら分かるかな。」

彼女は一瞬で思いだした。
オリン吸血計画、といわれたものだった。
オリンという女は生まれつき不死身の姿をしており、彼女の血液は飲んでもヒトの生命力と同等のようなパワーを持っているため、生命に影響が出ない。その代わり、彼女の血液を飲んだ者は不死身となるのだ。
人間の姿をした吸血鬼であるヴァローニャはそれを知り、オリンの血液を全て吸うことにしたのだ。
モネはその時、オリンに攻撃をしかける役だった。


「今の貴方は不死身ってことですか。」

「そうだよ。ああ、しまった。サーカス団の子を逃してしまったようだね。今日のところはこれまでといこうか。
……君もその目的で来たのだろう?」

そう耳の中で囁かれると同時に、部屋が一瞬で真っ暗になった。
再びモネが照明をつけたときには誰の姿もなかった。
彼女は溜息をつき、自分の家のほうへと走っていった。


もうすぐ、日が沈む。


そう思うと、胸が高まった。
途中でふらついている状態のヨツバに会った。
ヨツバが彼女のほうを向くと、かけよっていった。


「さっきはありがとうございます。」

「いいのよ。貴方はサーカスの子でしょう?貴方達のサーカス、楽しみにしているわ。」

「貴方も来てくださるのですか?」

「うーん……ちょっと、そこに仕事を頼まれているの。
話は後で。一緒に馬車小屋まで行ってもいいかしら。」


—噴水の広場にて。


マノンと別れた私がサーカスの馬車小屋に戻ってきた時、ヨツバとモネの姿が見えた。彼女がきっとヨツバを助けてくれたのだろう。胸がほうっとしたが、サーカスのことを考えると心臓がバクバクと高鳴っているのが分かった。


「ミカラギちゃん!」

「よかった。無事だったのですね。」

ヨツバは誘拐されたとは思えないほどに元気を取り戻し、サーカス団の二人のメンバーと共に準備をはじめていた。
モネさんは少しだけ元気のなさそうな表情をしていたが、探偵助手であるキリさんと話をしているうちにいつもの冷静な表情へと戻りつつあった。
たった一つの事を除けば、これはいつものサーカス上演前と変わりない。
観客のほうをのぞくと、多くの人々が座席で上演を楽しみに待っていた。その中にはマノンやミルキィの姿もある。


「よし、準備完了!今までで一番多い観客人数らしいわ。頑張りましょう。」

「探偵さんも、きっと今がチャンスだと思います。」

「俺とモネさんはもしものことがあれば、攻撃につくからな。
まあ、その間は楽しんでいるよ。」

オウムは戦闘態勢につけるようにと数本のナイフを隠し持っていた。
モネさんは静かに頷いていた。
そして、リリスが一つのボタンを押すと、タイガーがステージへと走っていった。


「みなさん、こんばんは!
今晩も楽しんでいってくださいね!
今回のサーカスは前回クラウンで行ったサーカスが好評だったということもあり、パワーアップしてまたここに戻ってきました。
多くの機械、そして私達『ウィンクキラー』の美女三人が貴方を魅了して離さないでしょう。
それでは、まずは……動物達の登場です!」

たくさんの機械の音が響き渡る。
動物の形をしたロボットが登場すると、大きな拍手が巻き起こる。
キリンやゾウ、サイが会場の中をぐるぐると歩き、様々な芸を行った。
そして、一通り終わると、リリスがステージへとやってきた。
観客がざわめく、白いドレス姿の彼女は機械式サーカスには不似合いなものだ。


「うふふ、こんにちは。
『ウィンクキラー』の長女担当、リリスでーす!
さっきのは三女のタイガーよ。仲良くしてくださいねっ。
いつも私はこんな風にドレスやワンピースが多いのだけれども、今回のは特別よ。
だって……こんなにいい男達に囲まれるなら、綺麗なほうがいいでしょう?」

可愛らしい姿をした女の子に言われれば、観客の男性はたとえカップル連れであれども目がとろけてしまいそうになる。
彼女がウィンクをすると、拍手が響いた。


「まあ、もっと可愛い子がいるんだけどね。
次はその子たちに登場してもらうわ。私達の自信作!
機械式アイドル〝アルドル〟!」

そう言うと、何体もの人間の姿をした機械がステージに出てきた。
流行りの音楽を流しながら、機械は踊り始める。
観客の何人かが悲鳴をあげるほどに有名なアイドルグループのものだったので、ステージはかなり盛り上がった。
二曲ほど音楽が流れると、突然戦車のようなものがステージへと上がりこんだ。
これも、サーカスの仕組んだもののようで、三人はわくわくしていた。
小声でヨツバが話しかけてくる。


「あれは、三人で突然計画したやつなの。
音楽を妨げるもの、っていうタイトルがちょうどいいかな。」

「へえぇ……。」

少し小さな爆音が踊っている機械の部品を少しずつ崩し始める。
その戦車らしきものはステージ上だけで暴走しているわけではなかった。リリスが再びボタンを押すと、客席から悲鳴のような声が響いた。
戦車は何人かの人間を狙って攻撃をはじめたのだ。
アルドルは全員鉄くずのようになり、ステージが一瞬で静かになった。
リリスとタイガーは静かにステージ上へと向かった。


「あらら、ごめんなさいね。
今日のサーカスは普通のものとは違うことをしたいってみんなで言っていたの。
だから、今回は楽しいサーカスじゃなくなっちゃうかも。ごめんね。」

大丈夫だよー!という男達の太い声が響く。女性の観客も誰も帰ろうとはしなかった。


「じゃあ、今回の特別ゲストにまいりましょう!
名探偵『ハナビラ』さんとその助手さんです。みなさん、拍手でお迎えください!」

拍手と共に、二人がステージへとやってきた。
何かを察したのか、オウムが私に声をかけてきた。


「おい。お前、危ないぜ。モネさんのほうに隠れておきな。」

モネさんのほうへ駆け寄ると、彼女は静かに頷くだけだった。

二人がステージにやってくることで、会場は再び静けさを取り戻した。
キリさんがタイガーからマイクを受け取ると、彼女は口を開いた。


「みなさんは、パーティ会場『コロッセオ』をご存知でしょうか。」


                              続く

Re: Vivo オリキャラ募集中です。 ( No.18 )
日時: 2015/02/11 20:36
名前: 極秘事項 (ID: QT5fUcT9)



第十三話 名探偵『ハナビラ』


その声に観客がざわめいた。
その中にはあの悪い噂も流れ込んでいた。
ミルキィの小説にもパーティの問題について書かれており、それでほとんどの人間は『コロッセオ』のことを知っていた。


「あのパーティ会場は危険です!
私はあの会場へ行こうとした時、黒服の人に襲われました。
その傷が、これです。」

そう言うと、彼女は長い袖をめくった。
そこにはナイフで乱暴に傷がつけたような跡が残っていた。
全員それに驚いた。
そして、ヨツバが姿を現した。


「私も今日、有名なサーカス団の一人が悪い噂を聞いた、という理由だけでその人たちに暴力を振るわれました。」

「私は探偵助手という力を使い、『ハナビラ』と共に調査をしてきました。
すると、その黒服の人たちは『コロッセオ』で行われるパーティの運営者達だったのです!」

「その中の主であるF・ヴァローニャは金銭的な問題から女性問題まで様々な問題を抱えております。彼はとても危険な人間です。
彼はこの国にいるべきではありません!」

そういうと、人々はざわめき始めた。
再び噂話がざわざわと聞こえ始めるが、一人の女性がステージに上がりこんできた。
それに続いて、何人かがステージへと上がりこみ、探偵の二人を囲み始めた。


「何よそれ!ただの貴方達の作り話じゃないの?」

「そうだ!あのパーティを楽しませるために運営の人たちは頑張っているんだぞ?」

「噂話もあるけれど、あんなの嘘よ!噂話を鵜呑みにしているヤツはどうかしているだけだわ!」

そして観客の何人かが叫ぶような声で主張をはじめた。


「お前等は嘘だと言うけれども、そんな噂話ばっかり立っているってことは、危険なんじゃねえの?」

「ヴァローニャは俺達を傷つけるような発言も新聞の取材で行っている!これはあってはならないことだ!」

そして、一人の女が立ち上がると、観客側は静けさを取り戻した。
赤いアイラインはないものの、その素にある表情は知り合った頃とは変わりなかった。
彼女、D・ワンがサーカスに来ていたのだ。


「ワン!まあ、サーカスに来ていたのね!」

一人の女がステージ上から声をかけると、探偵を囲んでいた人たちは何もなかったかのようにステージから降りていった。


「私はそのヴァローニャの元恋人よ。
私が彼と別れたのは、金銭問題と女性問題のことだったわ。
彼は私に何かあるごとに借金をしていたわ。まあ、全部返してもらったけれどもね。別れたあとに調べたら、前の恋人にも借りているみたい。
それから、私が恋人である期間でも彼は何人かの女と会っていたわ……。」

それから、ワンはたくさんのことを語った。
パーティの運営のこと、黒い服の人たちのこと……ワンの知っていること全てがそこで話された。
よく観客を見ると、ヴァローニャが紛れていた。
彼は何も言わず、ただ俯いているだけだった。


「ありがとう……ワン。
私達が知った事を全て、話してくれたような気がする。
そして、貴方の勇気に感謝をします。
私はパーティに忍び込んで、彼の恋人になることが出来たから、色々なことを調べておいていたの。
ああ、本当の名前を忘れていたわね。L・フリージアって覚えているかしら、ヴァローニャさん。」

「貴方はフリージアという恋人を作ったのにも関わらず、とある一人の女性を孕ませましたね?」

二人が指を指す方向にはヴァローニャが座っていた。
全員が彼のほうを向く。
しかし、彼は黙り込んだままだ。
観客は彼を罵倒しはじめた。
彼はそれでも何も言わない。


「L・ガイア、彼女はあの男の恋人だから孕んだら愛人っていう立場になるだけだと思いますけれどもね。
だって、あの子、子供がほしいって言ってたから……。」

キリさんの一言で周囲は黙り込んだ。


「ヴァローニャはあの会場の裏側でフォックスという団体を作り、気に入らない人たちに襲撃をかけていたのです。
そして、彼はそこでフリージア、ガイアだけでなく何人もの女と愛し合いました。彼は最低な人間です。この王国にいるべきではありません。
私達からはそれだけです。」

観客の人々は混乱に陥っていたが、ヴァローニャとその周辺だけは静かにその場に座っていた。
私は正直言えば、二人の言いたかったことだけが全てだとは思えなかった。ヴァローニャと愛し合った女達はきっと、ヴァローニャから誘った人たちだけとは限らない。パーティの異変に気づいていた人たちは何人だっていたはずだ。
ヴァローニャを味方しているわけではない。彼の周辺、そしてパーティに参加していた、知っていた人間全てにもこれは関わっている問題のはずだ。
そして、そのままサーカス団『ウィンクキラー』の三人の締めでサーカスは終わった。
サーカスの間、誰も武器や能力を用いて襲撃をしてこなかったのが唯一幸いの出来事であった。


「キリさんも探偵さんも気にしないでくださいね。」

「大丈夫だよ〜。私達、色々言われたけれども、全部録音してあるからいつか何かあったときの役に立つと思ってとっておくんだ。」

「私は二人の勇気を尊敬しています。」

「ありがとう。」

探偵さんが取り出したのは小さな録音機だった。ポケットに入れておいたら何処にあるのか分からないくらいのものだった。
彼女は珍しく、頬を赤らめて微笑んでいた。
しかし、その時間もつかの間、彼女達は大きな轟音を遠くから聴くと、戦闘態勢を急いでととのえて外へと飛び出した。

そこには、大勢の人々が『コロッセオ』へと向かう足音だけが響いていた。


「私達が言ったから、みんな……。」

探偵の二人は目を潤ませながら、それらを見つめていた。
コロッセオへの悪口を吐き出す者、別のパーティについて言い出す者、パーティについて色々と話し出す者……彼女達の発言は様々な形に変わっていく。
一方、サーカス団の三人は片付けのためにすぐに会場のほうに戻っていった。オウムが付き添い、私はモネさんと『コロッセオ』へと走り出した。
まるで大きな祭りが始まるような感じがする。

『コロッセオ』は大荒れだった。
ただ、裏側に入って出てきた人々は皆、黙っているままだった。
一人の男に聞いてみると、裏にも表にもヴァローニャやそれ関連の人々はいないらしい。
ただただ、主張を人々は『コロッセオ』の壁に書きはじめた。
だいたいはヴァローニャのことであった。周囲に関する主張はほとんど見えなかった。


「私は、ヴァローニャだけじゃないと思うんです。」

「そうね……。貴方がそう思うならば、みんなの前で主張しなさい。」

「でも、私にはそんな勇気がありません。」

「きっと貴方にもあるわ……、この人たちは元々は優しい人間だからきっと聞いてくれるはず。」

モネはそう言うと、集団の中へと溶け込んでいった。
私も言わなくてはならないときが来た。
そう思うと、どきどきしてしまう。
でも、いつ言うのかと言われれば、それは今しかないのだ。
私はみんなの書いた主張をじっと見つめ、自分の主張を心の中で何度も唱えた。
すると、私はいつの間にやら羽を広げていた。体が何故だか、いつもの倍になったような気がする。そして、あの夢の中のように背中が熱い。

私は羽を広げ、空へと羽ばたいていく……。
パーティ会場の裏ではなく、隣の小さな空き部屋に誰かがこっそり入っていくのが見えた。


「う、嘘……。」

それはヴァローニャだった。
私はすぐに空き部屋の近くへと羽を下ろした。
すると、私がパーティに行き始めた頃にいた人たちの何人かもそこに入っていったのが見えた。
これは間違いないと思えた。
しばらくすると、ヴァローニャがL・ソングと共に目立たない姿で店の横に小さな張り紙を張った。
そして、また戻っていく。


「……今しかないのかも。」

私は空き部屋の窓から入り込んだ。


                              続く

Re: Vivo オリキャラ募集中です。 ( No.19 )
日時: 2015/02/12 23:41
名前: 極秘事項 (ID: fd9gqfc4)



第十四話 一匹の少女


部屋に入り込むと、暖炉の薄暗い中に私は隠れた。
彼らはヴァローニャに何かを主張するような感じでいる。
そう感知していた。


「……このまま、この国にいるのは難しいことだと思います。」

「そうだよな。みんなには申し訳ない事をした。」

ヴァローニャは反省しているように見えたが、私は信用できなかった。
ヴァローニャの周囲にいる人間も黙ったまま、ただ彼を見つめている。
私は何かが違うと思うたびにもやもやとした。
違う。ヴァローニャだけじゃないのに。


「ヴァローニャ、今晩、俺が見送りに行こう。
きっと全員お前を狙いに来るからな。」

「そうだな……どうもありがとう、ソング。だが俺は一人で行くよ。
ああ、君たち。暖炉のほうを見なさい。鳥が隠れているね。」

私はぞくりとした。
見つかってしまったのだ。
黒づくめだった人たちが全員私を睨みつけた。


「この鳥は……!」

「そうだ。不死鳥さんだ。
俺のお別れが惜しくて、きっと誰かが入れてくれたのだろうな。
ああ、とりあえず、今晩でこれも解散だ。
あの鳥に危害を加えずに、全員帰るんだ……。」

私は少しだけほうっとしたが、全員すぐに帰ってしまうと、ヴァローニャは見えないように私を少し大きな檻に入れ込んでしまった。
ばたついても檻は朽ちることがない。
ただただ、羽が飛び散るだけで頭の中はパニックになってしまっていた。
ヴァローニャはそっと私にとある液体をふりかけた。
するとそれは私を人間の姿に戻してしまったのだ。
檻から出されると、私は一目散に駆け出して扉を開けようとしたものの彼は目の前で鍵を閉めた。
扉をたたきつけようとも、誰もこの騒動の中で気づけるわけがない。


「ヴ、ヴァローニャ……!」

「俺はヨツバやオリンのようなことはしないって決めたのさ。
お前は信じないようだけどもな。まあ、ソファでゆっくりしていきなよ。」

私は赤い長ソファに座らされた。
ヴァローニャが隣に来ると、一瞬、ソファが揺れた。
これはいつもの雰囲気ではない。自分の感じたことのない……。
私は嫌な感覚を覚えた。ヴァローニャとの距離の近さに体中が震えていた。


「ヴァローニャ。」

「何だい。」

「貴方は私と交わり、自分の血が混じった子を成そう……そう思っているんだよね。」

「そうだね、それもある。まあ、いいじゃないか。
ミカラギ、君は美しい。オリンや他の女とは大違いだ。」

大きな手が頬に触れる。
これから何をされるかは全く予想が出来ない。
とても恐ろしいことの起こる前兆だと思えた。
体が動かなくなりそうだった。


「……こういうことは初めてかな。そうだろうね。俺よりかはかなり幼いように見えるし。
優しくしてやるよ、な?
はじめての相手が不死身の吸血鬼だなんてきっとお前にとっては光栄なことだろうしな。」

「……そんな、ことない。
私は、愛する者だけにこういうことをするんだって決めて……っ!」

強引に唇を重ね合わせられる。
どうすれば分からなくて、ただただ彼の動きに乗せられるままだった。
何度も何度も、何かを刻み付けるように彼は唇を重ねた。
本当は止めたい。頭の中がごちゃごちゃで、私は涙を流した。


「大丈夫かい、ミカラギ。
僕は君を愛しているのに……。」

「気軽に愛している、なんて言うんじゃないよ。」

私はヴァローニャがまた唇で迫ってくるのが怖くて、自分の手を唇に押し付けた。
しかし、ヴァローニャは唇が使えなくとも手が空いていた。
彼の手が私の胸元に触れた。何も感じない。
ただただ、プニプニと私の胸に触れていくのがいやだった。
そして私が一瞬だけ手を離したスキに彼は私の服を脱がした。ばたつこうとも、彼の力のほうが圧倒的だ。


「まだまだ幼いなあ。でも、可愛い……。」

彼が襲いかかろうとした時、突発的な頭痛が起こった。
痛みから私は身を小さくして落ち着かせようとした。しかし、なかなか治らない。
私がばたつくのを見ていたヴァローニャは突然表情を変えた。
私の意識は薄れていった。



—小さな夢の中。


起きてみると、すべてが白で出来た空間にいた。
時折、白は赤や青に歪むように変わっていくが、基本的には白のようだ。
私がじいっとその変化を見ていると、一人の少女が歩いてくるのが見えた。
それは、マノンによく似ていた。


「ミカラギ、マノンからの助けを聞きました。
貴方は仲間を助けるために、自分を変えるために、ヴァローニャのところへ向かったのですね。
歌の女神である私にとって彼のこと、パーティのことはとても悲しいことです。歌により、親睦を深めるだけでなく、一つの争いを生み出してしまったのですから。
ミカラギ、貴方は不死鳥であり、この世界を救う一匹の少女でもあります。そんな貴方に特別なものを与えました。」

「特別なもの……?」

歌の女神は私に近づくと、喉のほうに手で小さな光を当てた。
すると、私は自然に鳥の姿となり、翼を充分に広げることが出来るようになった。


「歌の女神である私でしか与えることのできないパワーなのです。
どうか貴方が自分の主張を伝えられますように。そして、この世界が平和となりますように……。」

そういい、歌の女神は去ってしまった。
私が翼を揺らし、飛んで見ると、翼がまぶしく輝いてるように見えた。
そして、私が地面へと戻ろうとした時、夢から醒めたのだった。


そして、私が目を覚ますとヴァローニャは汗水をたらし、少々パニックになっていた。
私は不死鳥の姿となり、さらに大きなパワーが私の中に入り込んでいるから当たり前だろう。
私は彼に告げた。


「貴方には絶対に負けない。
貴方は私にとって全く尊敬できない……!
不死身の体を得てしまった永遠の罪人になってしまった。
何度でも復活し、何度でも裏切られるだろうね。」

私は空のほうを向いた。
無機質な屋根を抜ければもうそこは夜空でしかない。
私は彼に対する怒りを雲へと向けた。


「その痛みを永遠の生という中で貴方はたくさん受けることになるんだ!私達は許さない!貴方の言動で何人も傷ついてきたんだ!」

彼のほうを向き、睨みつける。
怒りを向けた空から大きな雷が彼を撃ちつけた。
そして、大きな揺れが起こった。
彼は雷の衝撃で地中奥深くへと埋め込まれるようになってしまった。
これで彼が眠ったとしても一年で目覚めてしまう。
再び『コロッセオ』のようなことが起こるのだろう。

雷鳴によって人が集まってきたのが分かった。そして、再び私は空のほうを向いた。


「ヴァローニャは確かに極悪人のような存在でした。
歌の神をも悲しませてしまうほどに。
しかし、『コロッセオ』に参加していた人たち、ヴァローニャの意見に従った人たちがいたからこそ王国を追われた人や殺された者、傷ついた人たちがいたのでしょう。
ヴァローニャだけではたくさんの人を傷つけることは難しい。
彼に従い、集団から避けられることを恐れ、彼がおかしいと気づいても尚続けたからこそ、なのです。
貴方達は逃げているだけです。彼に押し付けているだけなのです。
反省し、二度とそのようなことがないように貴方達は誓えるのでしょうか。きっと、このようなことは何度も起こるはずです。そして、今も何処かで起こっています。
ただ、自分自身で、今これをやったらどうなるだろうかと行動を起こす前に考えるべきです。そうすればもう一度起こることはなくなるのかもしれません。
貴方達は、反省するべきです。」

そう言うと、私の主張は大きな雷雲を多く呼び寄せた。
そして、王国『クラウン』は多くの雷によって崩れてしまったのだった。
多くの人がその中で死に、傷つき、ヴァローニャを恨み、自分を恨んだ。

雷が落ち着いた頃には朝日が昇っていた。
私は多くの体力を消費したことによって人間の姿に戻り、その場に座り込んだ。
外を見ると、雷の落ちた跡や崩れかけた小屋があった。
人々はそれを修復しようと一生懸命になっていた。
どうにか立ち上がると、誰かがこっちを見て手を振っているのが分かった。


「ミカラギ!」

「う、歌の……神様……?」

私は安心しきったのか、誰かが来る前にその場に倒れこんでしまった。


                              続く

Re: Vivo  ( No.20 )
日時: 2015/02/15 20:55
名前: 極秘事項 (ID: fd9gqfc4)



第十五話 ミカラギ(2)


雷の音が聞こえる。
大きな轟音と共に悲鳴が起こる。
人々は逃げ惑い、雷によって出来た炎がたくさんの家を襲った。
こんなにたくさんの国民がいたのか。
人々は誰を恨みながら死んでいったのだろう。

家の周りの木々が雷と共に引き裂かれていく。
風が強くなった。
木は炎となり、民家を襲った。

私はこれでよかったのだろうか。


「ミカラギ!」

「……か、みさま?」

誰なのかがわからない。
何故だろうか、あの歌の神様にそっくりなのだ。
頭の中にマノン、という文字が浮かんだ。
私の視界は急にはっきり見えるようになった。


「神様じゃないよ、マノンだよ!」

「ま、マノン……。」

そう、マノンだ。
私は数日間記憶喪失にでもなったかのよう。
とても頭がぼんやりする。
マノンは私を起こして、おぶってくれた。とても親切な友人を得ていたのだなと思った。
マノンは誰かが手を振っていることに気づいた。


「この前のサーカスの人!」

あのサーカス団『ウィンクキラー』の三人が手を振っていた。
私も手を振り替えすと、マノンはすぐに三人のほうへと歩いていってくれた。


「無事だったんだ!あんなにたくさんの雷があったから落とされちゃったのかと思ったよ。」

「わ、私は平気……みんなは?探偵さんやオウムは?」

私をマノンが下ろすと、三人がふらついている体を支えるようにして一緒に馬車小屋まで歩いてくれた。
マノンが三人と親しげに話している。マノンや私と同じくらいの年齢の三人だからか、話がよく合うようだ。
馬車小屋まで辿り着くと、オウムが立っていた。


「なあんだかスッキリするな。」

「そうだね。もう捕まることを恐れることはないんだから。」

「ミカラギ、それはちょっと間違いだ。俺は元々あんなヘボ集団に恐れなんて感じてない。」

フォックスが解散したことにより、彼は目立たぬただの国民となる。その事に彼は喜んでいた。
探偵さんとキリさんは馬車小屋の中で怪我をした部分を包帯で巻いていた。


「そういえば、オウムって何で追われていたの?」

「んー?俺はな、彼等のパーティのお金についてコッソリ調べていたのさ。それを知られて、ヴァローニャはカンカン。
俺の事を捕まえたら死刑にするとか言っていた気がするけれどもな、全然捕まえにこないからビックリしたよ。」

「違うってば。」

小屋のカーテンから顔を出したキリさんが急に言い出したのでビックリした。
ナマクビかと思ったマノンが悲鳴をあげそうになって、かたまっている。


「彼は新聞記者なんだよ。
ヴァローニャのインタビューを何度もしていて記事にもなっているから丸分かり。
その反面週刊誌ではヴァローニャの悪口やパーティのことについてかなり書いていた。光と闇の面を持っているの。」

「う、ううぅ……それだけはバレたくなかったんだけどなあ。」

オウムが狼狽すると、サーカス団の人たちが笑い出した。
私もマノンも、探偵さんも笑っていた。

ヴァローニャはというと、あの雷によって本当に埋められてしまっていた。救助隊が来ているということだが、こういうことがあったのだからもう二度と彼はこの王国に来ることはないだろう。
この国に私がいる限りは、きっと。


「……そろそろ帰らなきゃ。」

「えー!?私はミカラギちゃんと一緒にサーカスしたいよー!」

「タイガー、ほら。私達は三人だって言ってたじゃない。」

私の前でタイガーはしょげたようになった。
リリスとヨツバがなぐさめると、すぐにタイガーは元気になった。
私達と同い年であるのにも関わらず大人なところはほとんど見せることはない、ただ彼女は武器を持たせると強いという最後まで謎な少女だと思った。


「じゃあね、ミカラギちゃん。」

「はい、また来ます……じゃ、ないんですよね。」

「ミカラギちゃん……。」

そうだった。
三人は色々な国を廻る旅人のような人たち。
また此処にくるとは限らない。


「このめぐり合いは運命だったのよ。
ヴァローニャやフォックスのこと、ミカラギちゃんのことにも巻き込まれたけれども、これも運命。
そう思えば、きっと明日も前に向いていけるはず。そうよね、キリ。」

「もっちのろん!」

物静かにしていた探偵さんが小屋から出てきた。
包帯を巻いたところに関しては痛みがそんなに気にならないようだった。キリさんも一緒に小屋から出てくる。


「じゃあ、さようなら。」

「うん。さようなら。何処かの地でまた会いましょう。」

私が翼を広げて鳥のような姿になると、マノンは驚いたような表情をした。
そういえば彼女には詳しい事を言っていなかった。
森へ帰ってから、色々と話さないといけないことが多いような気がする。
私が大空へと浮かぶと、みんなが手を振ってくれた。

街から森に向かう途中、私は街を見下ろした。
海がよく見える。
街ははじめてパーティに行ったときほど栄えてはいない。
ただ、にぎやかさだけはそのまま残っていた。

またきっと、ヴァローニャのようなパーティをする人たちは出てくるだろうし、まだ残っているだろう。
それでも、このことは忘れて欲しくは無い。
ヴァローニャのような人間が出てきてしまうことがないように、彼等がこのことを忘れない事を願うしかない。

森へ帰ってくると、ミルキィが迎えてくれた。
久しぶりの再会につい飛び跳ねてしまいそうになった。
私が何処かでもやもやしていることにミルキィはすぐに気がついた。
                                

「大丈夫。ミカラギちゃん、話しても私は怖がったりしないから。」

「う、はい……。」

私はミルキィに全てを話した。
私が生まれた頃から不死鳥であること、その力は人間の生命力の数倍であること、その力を街で使ってしまったこと……
ミルキィの顔は曇りつつあったが、私が心配そうな顔をしているのか不安を拭うように頭を撫でてきた。

「ミカラギちゃんがやりたかったことをやって、人が傷ついても街をヴァローニャやその周囲の洗脳みたいなやつから守れたのでしょう。」

「うーん……そういう、英雄的な感じみたいに思えないんだよね。」

「……ミカラギちゃん、ちょっと疲れているんじゃないのかな。」

「え?」

「ねえ、ミカラギちゃんは休息としてとあるリゾート地へ旅行しに行くとしたら着いていく?」

またミルキィの思いつきだろうか。
そう思いながらも私はついつい頷いてしまう。


「さーて、新しい物語をはじめようかー!」

昔々、一匹の少女が居た。
彼女は一つの歪んだ世界を戻した陰のヒロインだと今では語り継がれている。

そして、彼女は新しい物語へと突き進んでいく……。


                             続く?

Re: Vivo  ( No.21 )
日時: 2015/02/15 21:08
名前: 極秘事項 (ID: fd9gqfc4)



続きません。
どうもです、極秘事項です。
この話はこれでおしまいにしようと思います。
意外と長かったけれども、この中に伝えたいことがあります。
まあ、元ネタ喋っちゃいそうなので、このあとがきでは深くお話できそうもないですが……。
例えばいじめってあるでしょう。
いじめって主犯者のせいにされることが多いじゃないですか。
でも、周りが気づいても誰も先生や目上の人に喋らなかったからいじめがヒートアップしただなんてことはよく聞く話だと思います。
だからいじめは主犯者同様何も言わなかった周りも悪いんですよ、みたいな。
……まあ、そんな感じです(笑)
ベースはいじめではないです。まあ軽く似ていますが。
インターネットでもどこでもこういうことはよくあると思います。
もし、そういうことが起こってしまったら、ずっと忘れないように胸にその記憶を持っていてください。そして、ヒートアップしないうちに自分から何かを発する勇気を持ってください……。
それで助かる人はきっと何人もいると思います。

あ、次の作品は書きたいものを楽しく書いていこうと思っております。
カキコにいる少しの間は、名前はずうっと「極秘事項」で私は書いていきたいです。

それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。
また次の作品でお会いしましょう。


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