複雑・ファジー小説
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- Vivo
- 日時: 2015/02/19 11:40
- 名前: 極秘事項 (ID: fd9gqfc4)
一匹の少女と二つの派閥を巡る小さな戦い。
/新着情報
最終話の更新
完結しました!ありがとうございました。
/こんにちは、極秘事項と申します。クリックありがとうございます。
普段は他の名前で同人関連で活動していますが、
ベースとしてる話の事情で本当の名前を晒すことが出来ないのです。
ごめんなさい。
楽しんでいただければと思います。
オリキャラ募集は終了しました。
ご協力ありがとうございました!
- Re: Vivo ( No.2 )
- 日時: 2015/01/25 12:14
- 名前: 極秘事項 (ID: QT5fUcT9)
/世界観(参考)
『クラウン』とは
王冠を被せてしまいたいほどに栄えているといわれている王国。
『クラウン』
→ウォーターロード
クラウンの中心街。森や田舎街に住む者はほとんど行くことがない。
→クラウンフォレスト
クラウンの大きな森。
→「コロッセオ」
F・ヴァローニャが管理しているパーティホール。誰でも出入りが可能となっている。
→バー「クロガネ」
L・ナイトが経営するバー。普段は夜しかやっていないものの、時折ナイトの気分で昼間もやっている。
- Re: Vivo ( No.3 )
- 日時: 2015/01/19 23:08
- 名前: 極秘事項 (ID: AZKtqcEB)
第一話 ミカラギ
昔々、一匹の少女が居た。
彼女は一つの歪んだ世界を戻した陰のヒロインだと今では語り継がれている。
……一匹の少女というのはおかしい表現だろう。
そう、かつて彼女には隠さなければならない秘密があった。
私はミカラギ。
ただの空が飛べる女の子。
空が飛べるといっても私は機械を頼りにしているわけではない。
羽を広げることが出来る。何故なのかは分からない。けれども、今日も一日空を飛びながら某パンのヒーローの如くパトロールもどきをしている。
「ミカラギ!おはよう。」
「おはよう、ミルキィ。締め切りはどう?」
空を飛んでいるとミルキィに会った。彼女は小説家で、私の家の近くに住んでいる。
「無事間に合ったわ。心配してくれてありがとう。
あ、そうだ。ミカラギちゃんに話したいことがあったんだ。」
私は木の上から地面へと移動し、ミルキィの話を聞くことにした。
ミルキィの小説は面白いと一部のファンからは大絶賛を受けている。小説同様彼女の世間話は面白い。だから、私は少しわくわくしていた。
「ミカラギちゃんって、空飛べるでしょう?」
「うん、よく分からないけれども飛べるよ。どうしたの?」
ミルキィは一枚のチラシを渡した。
大きな文字で
『コロッセオ 朝から晩まで歌って踊れるパーティを明後日に開催します。一人でも大丈夫。当日の司会は管理人であるF・ヴァローニャ!興味のある方はぜひ!』
と書かれていた。
「このパーティに行ってみない?私は行けないのだけど……。」
「楽しそう!夜までは居られなさそうだけども、行ってみたいなあ。」
私はパーティに行ったことがなかったので、このチャンスを掴み取りたかった。綺麗な衣装で人々を魅了し、男達に囲まれなかったとしても、友達は出来るかもしれない。そう思い、私は行くことを決心した。
そして、私は友人であるマノンの所へ向った。
マノンは一人庭仕事をしていた。遠くから手を振ると、振りかえしてくれた。
「マノンー!明後日、街で行われるパーティに行ってみないー?朝から晩まで歌って踊れるのよー!」
そう大声で言うと、マノンがゆっくりこっちへ向ってきた。
いつもは走ってやってくるのに、今日は様子がおかしかった。マノンは脚をひきずっていたのだ。
「ごめんねえ、ミカラギちゃん。私……、足を怪我してしまって。だから街へは行けないの。」
「そうなんだ……、分かった。マノンちゃんの分まで楽しんでくるよ。」
マノンの脚は包帯でぐるぐる巻きにされていた。これでは確かに街へはいけない。
そして、私は一人でパーティへ行くことを決心したのだった。
その朝となった。
親切なことにミルキィが森の道の途中まで見送りに来た。
私はほとんど街へ行ったことがないからか、きっと心配しているのだろう。少しだけ不安げな表情を浮かべている。それを安心させられるか分からないが、私は微笑むしかなかった。
「楽しんできてねー。」
「うん、行ってきます。ミルキィ!」
私は翼を広げ、森を離れ、街へと向う。
森の木々は淡々と緑色の行列を成しているが、遠くに見える街や海は魅力的に感じられる。
街のにぎやかさが今にも聞こえてきそうだった。
続く
- Re: Vivo ( No.4 )
- 日時: 2015/01/23 19:19
- 名前: 極秘事項 (ID: QT5fUcT9)
第二話 ライヒ
私は街へとたどり着いた。今日はパレードの日が近いということもあって街は自分が思ったよりもにぎやかに感じられた。ピエロが私に風船を渡してくれた、真っ赤な風船は私を心躍らせた。
この街を人はウォーターロードと呼ぶ。歴史を変える大洪水が起こった場所としても知られているからだ。
パーティ会場は少しほの暗い感じの路地にあった。少し古ぼけており、近くには影の華やかな世界を輝かせる店か数件ほどあるだけだった。中は少しだけ薄暗く、人ごみ会場では座席のチケット配り等で盛り上がっており、多くの人が集っていた。談笑で盛り上がっている人もいれば、一人でうろうろとしている人もいた。
「貴方、パーティははじめて?」
「は、はい。」
背が高く化粧で彩られた表情をした女が私に声をかけてきた。私はパーティがどういうものか分からなかったので、セーターの生地のような長い服を着てきた。しかし、女は白いレースが目立つ黒いドレスのようなものを着ていた。
「ああ、私はオリンよ。急に話しかけてごめんなさいね。L・オリンっていうけれど、オリンちゃんでいいわ。」
「お、オリンちゃんね。よろしく。私はL・ミカラギだよ。」
「へええ、珍しい名前ね。そういえば今日は何か歌いに来たの?」
「えっ、歌は好きなように歌えるの?」
「申し込めばね。私は今から申し込むのだけど一緒に歌わない?」
私はすぐに頷いた。
オリンちゃんと来たときには列がかなり出来ており、歌えないと思ったがギリギリで申し込めた。しかも、申し込んだ後の順番はくじ引きで決められるようだ。
彼女はとても親切だった。たくさん話すほどにオリンちゃんと私にはそれぞれの共通点を見つけた。それは単純なものから誰にもいえないものまで様々だった。
「話せば話すほどとっても楽しいわ。ミカラギちゃんに声かけてよかった。」
パーティがはじまる直前、私達は順番を言われた。
どうやら中間のほうで歌うらしい。
司会者であるF・ヴァローニャが登場すると、参加者はそれぞれ彼の話で盛り上がり始めた。薄暗いステージの上では彼の姿はあまり見えなかった。
どうやら街の中では結構有名な人らしい。楽器や勉強、かつて彼が魅了した女達の話。聞いてみると、彼は結構いい人のようにも聞こえた。
彼女が少し他の人と話している間も何人かに話しかけられた。
料理やドリンクのメニューを見ると少し高級感のあるようなものだった。オリンは赤ワインを頼み、私はオレンジジュースを頼んだ。
あっという間に歌う番が来た。
オリンちゃと私は森でよく歌われる民謡を歌った。緊張で声が震えそうになって、ぜんぜん歌えなかったような気がした。しかし、彼女は私を励ましてくれた。
「凄いねえ、ミカラギちゃん上手だったよ。また一緒に歌おうね。」
「うん。ありがとう。またパーティで会えるといいなあ。」
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「そうね。あ、ねえ。パーティはまたいつあるのかしら?」
「次の満月の日、ってヴァローニャは言っていたわ。」
夜まではさすがに居られない。私はオリンちゃんに別れを告げて外へと飛び出した。
月はとても美しく輝き、夜空には星空が散りばめられていた。
翼を広げようとすると、一人の男の人の影が見えた。
「パーティに行っていたんだね。早く帰ったほうがいいよ、お嬢さん。」
「え?」
「屋根にいるけれど、見えないかな。俺はL・ライヒ。お前は空を飛べるんだね。俺も空が飛べるんだ。」
屋根を見ても上には何もない。私は見えない存在に恐れを感じたが、逃げることはできなかった。何故ならこの街や森を持つ王国、『クラウンキングダム』は人間や私のような半獣だけではなく、幽霊までも住み込んでいるといわれているのだから。本当ならば、きっと彼は幽霊なのだろう。
「私は、L・ミカラギよ。貴方は幽霊なの?」
「それは教えられない。それに、幽霊なんているのかさえ分からないのに。」
「そうよね。ああ、そろそろ帰らないといけないわ。私の姿はあまり人には見せられないの。」
そう言った瞬間、私の体に変化が起こった。
人間の体の私は歪み出した。鳥のような姿に変わり、羽は金色に輝いた。
この姿は誰にも見せることが出来ない。それは幼い頃からいわれてきたことだった。
「君、とっても綺麗だね……。」
「見ないでほしい。私のことは、言わないで。本当は……!」
言いかけた時、誰かが他の店から出てくるのが見えた。すぐに羽をはばたかせて、私は街から遠ざかった。この姿を見せれる人間は限られている。ごく少数だけだ。
何故なら、私は……。
話しかけてきたライヒのことが気になった。しかし、そんなことよりも私は逃げるしかなかった。
次の朝になると、私はオリンや話しかけてきた人達のことをミルキィとマノンに話した。
彼女達はそれに喜んでいたが、ミルキィは私と行くつもりはなさそうだった。彼女は別の街にある小さなマンションで暮らすことになっていたから。
「またパーティに行ければいいな。」
「そうねえ、いつか行ってみたいかも。」
ただ、マノンだけは興味を持っていた。彼女は怪我の進行が少々深刻的な感じになっていたようだが、その話を聞くとそんなことは気のせいだったかのように私達と楽しそうにしゃべり始めた。
次の満月が楽しみなくらいに、私はわくわくしていた。
パーティということもあり、お金はかかるが、貯金に衝撃を与えるほどではない。
それに、パーティに一回行っただけなのに私はたくさんの人と話すことが出来て、とても満足していた。そして、森の人や半獣たちの持っていないような街の話は私にとって大きな衝撃のようだった。
すでに私はあのパーティの虜になりかけていた。
続く
- Re: Vivo ( No.5 )
- 日時: 2015/01/23 20:55
- 名前: 極秘事項 (ID: QT5fUcT9)
第三話 リンネ
その次の満月も私はパーティへ向った。
オリンちゃんとも色々な話をしたが、今日はL・リンネという同じ年くらいの少女と話すことが多かった。
リンネは少しぽっちゃりしており、その分周囲が明るく見えた。それほどに彼女の性格も明るく、優しいものだった。
「リンネと話すのはとても楽しいなあ。」
「そうかな。ありがとうね、ミカラギちゃん。あ、ヴァローニャさんが来たわよ。彼はとっても素敵よね。」
「……彼は1人でこのパーティを盛り上げてしまうからね。凄いと思うよ。」
今日も司会者はF・ヴァローニャ。今日はリンネの積極性のおかげで前のほうの席に座ることができたので、彼がよく見える。ヴァローニャは黒いスーツと特徴的な顔立ちからまるで吸血鬼のように見えた。
彼は壇上に立ち、はじめに1人の女性をステージに連れてきた。長い黒髪で、目元は赤い派手なマスカラをしている。
「彼女は僕のガールフレンド、D・ワンだ。
今回のパーティでは一緒に運営を担当してくれた。彼女に、拍手を。」
彼がワンに手を向けると、彼女はお辞儀をした。それと同時に大きな拍手と祝福の声が響いた。
みんな誰もが「おめでとう!おめでとう!」と言っていた。
「今回も朝から晩まで楽しくやっていきましょう!」
わあっと会場が盛り上がる。そして、はじめに壇上で歌う人が出てきて、人々は歌を楽しみながら踊りはじめた。中には食事や談笑に盛り上がる人達もいた。
私がリンネと話していると、さっきのワンがこっちへ来た。ワンはリンネの友達のようで、彼女と楽しそうに話し始めた。
「ワン、彼女はL・ミカラギよ。」
「まあ、はじめまして。私はワンよ。よろしく。」
「よ、よろしくお願いします。」
「そんなにカタくならなくても大丈夫よ。この中ではみんな仲間なんだから。」
ワンのその言葉に私は感動しそうになった。こんなたくさんの人達が仲間だと思うと、何だか心の中でじんわりするものがあった。
ワンは別の国から越してきて二年ほどしか経っていないようで、この街へ来るのはこの前のパーティがはじめてだったと言っていた。
「そういえば、ヴァローニャにはいつ?」
「この前のパーティの運営を手伝っていた時、花束とかくれたりして……それに、彼はとてもいい人じゃない?だから、パーティが終わった後に告白したの!」
「そうなんだ。凄いなあ。恋人っていいですね。」
私が感心していると、ワンは言った。
「貴方にもきっと出来るわよ。焦る必要はないわ。」
「そ、そうですよね……焦りは禁物。」
そんなことを話しているうちに私は歌う番が来た。今回は1人だ。
知っている歌をどうにかセレクトし、私が歌い始めると人々は私のほうを見た。注目されることが何故だか楽しく感じられた。緊張の中で私は歌った。
歌い終わると、ヴァローニャが急にステージ上へやってきた。
「今回はとても素敵な歌声を聞かせてもらったよ、ミカラギ。ありがとう。」
「い、いいえ……。」
私はとても満足な気分になれた。もうすでにヴァローニャのことは周囲の影響で『とても凄い人』だと思っていた。そんな凄い人に歌が上手いと言われれば、私は最高潮に達しそうになっていた。
そして、また誰もいないうちに私はパーティ会場を立ち去った。
しかし、リンネに話しかける前にいたはずのオリンちゃんの姿がないことに私は気がついていた。帰ってしまったのだろうか。
会場の外へ出ると、満足がいつもより輝きを増していた。そして、屋根の上に誰かがいるような雰囲気を感じた。
「ライヒ、ライヒ。」
小さな声で呼ぶと、誰かが動くような音が聞こえた。誰か来たのだろうかと警戒するが、周囲には誰もいない。屋根の上には一匹のネコが眠っているだけだった。
「ああ、君かい。久しぶりだね、ミカラギちゃん。今夜もパーティかい?」
「ライヒ。貴方はパーティへ行かないの?」
「僕は変わった人間だからね。
ああ、ミカラギちゃん。僕、君のあの綺麗な姿が見たい。僕だけに見せてくれないかな。」
私は彼にはじめて気味の悪さを感じた。
私の鳥のような姿は他人に見せれるようなものではない。実際、誰にも見せたくはない。近くに住んでいるマノンやミルキィにもこの姿について教えることはないくらいだ。
「それは……それは出来ない。」
「気持ち悪いかな?ああ、今度君を連れ去りたい。僕と二人っきりになろうよ。」
「いやだ。絶対に、嫌。」
嫌悪感を示すように屋根を睨みつけ、私は羽を広げて森へと逃げるようとした。
しかし、誰かが私の翼を掴んでいるような感覚を覚えた。
「だ、誰……ッ!?」
「捕まえてやる……。お前は、他の人間と違うのだろう?」
ライヒではない声が耳に響いた。
力は普通の男の人と同じくらいだろうか、なかなか羽を握る力は強い。私はすぐに腕を振りほどき、羽を力いっぱいに羽ばたかせた。
こんなことははじめてだった。何故捕まえられるのだろうか、捕まったらどうなのだろうかと考えるたびに私は不安になった。
しかし、次の朝になれば記憶は曖昧な形になっていた。そして、私のパーティに行く回数は一ヶ月に一度から四度へ変わり、森の人達よりかパーティに参加して仲良くなった人と一緒に何処かへ行ったり、話したりすることが増えた。
歌をいろんな人に聴いてもらう為にたくさん練習するようになった。
私の思考のほぼ半分はパーティによって変わってしまったような気がした。
とても楽しい日々が続くような気がしていた……。
続く
- Re: Vivo ( No.6 )
- 日時: 2015/01/25 09:14
- 名前: 極秘事項 (ID: QT5fUcT9)
第四話 オリン
ある日のことだった。
私が街をふらふらとしていると、オリンちゃんが噴水広場のベンチに座り込んでいるところを見た。
私を見て、オリンちゃんは手を振ってくれたのでベンチのほうへ歩いていった。
「お久しぶりだね。」
「そうね、ミカラギちゃん。私、パーティへはもう行けなくなったのよ。それから、この国から出るつもりでいるわ。」
その言葉に私は衝撃を覚えた。
パーティのことは勿論だが、この国から出た人間は見たことがなかった。
不安な感情が私の心をよぎった。
「どうして?秘密をバラされたの?」
「そうね。バレたのもそうだけども、主催のヴァローニャがパーティの中盤で急に私に声をかけてきたのよ。出ていけ って。お前のような秘密を持った人にはパーティには入れられない って。」
オリンちゃんは少しだけ困ったような寂しいような顔をした。言われたときはきっといやな気持ちでいたのだろう。
秘密を持った私に関しては未だにパーティに入り浸っているし、ヴァローニャが話しかけてくることもある。オリンの秘密がどうやって漏れたのかが分からなかった。
「どうしよう……。」
「今の状況はうまく打開できないというか……どうやって解決すればいいのか分からないんだ。」
「そっか。そうだよね。ありがとう。」
それがオリンとの最後の会話だった。
オリンと話した次の日、私は街の人の噂からオリンが国から出て行ってしまったことを知った。
次の日のパーティへ行く途中、オリンが座っていたベンチには二人の男女が話していた。
男はぼんやりと煙草を吹かしており、女はボロボロのワンピースに身を包んで機嫌の悪そうな顔をしていた。
「なによ、あのヴァローニャってやつ!ドタキャンしたんじゃなくって、あの会場までの道が分からずに2時間も歩いただけよ。それにいつまでも着かないからウソだと思っただけなのに!!
なのに私はドタキャン女だって言われて、今じゃ街中から蔑んだような目をされる!!もうこんな国コリゴリよ!国民共も大嫌い!!」
「そんなに怒ってどうしたんだい。」
女は床を脚で踏みつけ、真っ赤な顔をしていた。こんな顔をした女の人ははじめて見る。隣に居た男は焦っているように見える。
「ヴァローニャのせいよ……。ヴァローニャが私のことを仲間に広げたせいで、街中の人はみんな私をいやな目で見たり、ワンピースを引きちぎろうとしたり泥を投げたり……もう、コリゴリ!いっそ私を殺してほしいくらいよ。」
女は不安定なのか、男のほうを見て泣き出した。しかし、男と私以外は誰も見向きもしない。今日は街が冷たいように感じた。
「ヴァローニャ?あの有名なヤツかい?アイツの言ったことは今じゃ誰でも信じるからな。最近は何だかヴァローニャも調子乗りすぎな気がするけどな。」
そう言った瞬間、男のほうを二人の少女が振り向いた。
二人とも私と同じくらいの背で、確か花屋で働いていたような気がする。私は何度か二人と話した記憶があった。
「そうよね!そう!ヴァローニャも調子に乗り出すし、新聞には彼のパーティのレポートが載るほど!仲間の人数も増えすぎてこっちもパーティに参加しにくくなっちゃうわ。」
「それにホコリっぽくって食べ物が楽しめなくなっちゃうじゃない。全く嫌な話よね。」
「そうだなあ……。」
私は何故だか嫌な気分になった。ヴァローニャのことだけではなく、パーティのことも、仲間のことも、言われている。頭の中は混乱している。
確かにあの怒っている女の人はヴァローニャだけでなく他の人達にも嫌われてしまい、嫌な思いをしている。女は自業自得かもしれないが、オリンと同じような立場にあるような気がした。
私は今回でパーティへ参加するのは最後にしようと決意した。
「ミカラギちゃん!」
「マノン!どうしたの?」
突然マノンが街へとやってきた。
確かに土ぼこりに塗れていた包帯はなくなり、マノンは脚の怪我が治っていた。
私は嬉しそうなマノンを見て、少しだけ安心した。
「今日はパーティなんでしょ?私も行きたくて!」
「そ、そう……。」
私はあの噂話を聞いた後に言われてしまうと、反応に少し戸惑った。しかし、私はなるべく普段と変わらない態度を取り続けることにした。
パーティ会場へと入ると、確かに人で会場はいっぱいいっぱいになっていた。
私は参加者それぞれの顔を見る。さっきの噂話を振り返ってみると参加者がまるで悪魔のようにも見えた。
マノンが私のほうを向いて、手を振っていた。ぼうっとしていたせいか、気がつくのに遅れてしまったようだ。
「マノン、もう申し込んだの?」
「うん!ミカラギはいいの?さっきからぼうっとしてばかりよ。」
「うん、大丈夫。後で申し込むよ。」
確かにパーティは変わりつつあった。
ワンは必ずヴァローニャと一緒に歌うという形になっていた。
恋人同士が歌うことは増えた。座席は知らないうちに指定されるようになり、ヴァローニャがよく声をかけている人は彼が座っている近くに座らせているような気もした。
けれども、私は何故か仲間もヴァローニャも本気で憎むことが出来なかった。
パーティが中盤に迫ってきた頃、私は会場を去った。
外は真っ暗になっていた。気がつくと、マノンが後ろをつけていた。
「もう帰るの?まだパーティは続いているのよ……?」
「でももう帰らなきゃ。明日も色々あるからね。マノンはどうする?」
「私はまだ居るわ。パーティってとっても楽しいのね!」
マノンは手を振って、会場へと消えていった。
そして、誰もいないタイミングで私が翼を羽ばたかせようとした時だった。私はまた誰かに翼を掴まれた。
「ライヒ、ライヒなのね!?」
「そうだよ。僕だ。やっと会えたね、ミカラギちゃん。僕と一緒にいよう。」
「嫌だ……!離して!」
羽のほうを見ると、そこにいたのは一匹の蝙蝠だった。
でっぷりと太った蝙蝠は自分がイメージするライヒとは全く違うもので、私はショックを受けた。
「ミカラギちゃん……。でも、僕は決してあきらめないよ。」
私が体をばたつかせた時、鋭い痛みがはしった。
その痛みは体を貫き、快楽となった。
「だ、め……離して……ッ!」
「ミカラギちゃんは美味しいなあ。この味は珍しいと思うよ。」
感じたことのない感覚が私を包んだ。
私はぼろぼろと涙でいっぱいになりながらも、羽を振り回した。だんだんと鳥の姿になるものの、私は抵抗できなかった。
「あぁあ、おなかいっぱい。ごちそうさん。」
「く……くぅう……。」
何も言えなかった。抵抗も出来なかった。
けれども、ライヒに憎しみと同じくらいの強い感情を覚えた。
翼がうまく動かせない。
目の前はいつのまにやら真っ暗になっていた。
「……丈夫かい……おい……お前!」
目を開けると、誰かが私を起こしていたようだった。
目の前には私よりか年上のように見える背の高い女が立っていた。「貴方は誰……ここは……。」
「ここはバー『クロガネ』だよ。とは言っても従業員の休憩所だけどね。僕はL・ナイトだよ。」
「私はL・ミカラギです。助けてくれてありがとうございます。」
ナイトは黒スーツ姿でミステリアスな雰囲気があった。
ふわふわとナイトの周囲にはクラゲのような白いものが浮遊していた。
ふわふわが私の頬をすりすりとした。とても冷たい。
頬ずりされても羽のようなものが見えないということはどうやら人間の姿には戻っているようだ。
「このふわふわは……?」
「ん?あ、これね。僕さ、元気そうに見えない?亡霊なんだよねえ。
亡霊っていうと完全に透明で声だけってイメージあると思うんだけど、そうでもないよ。僕みたいな人がよく『クロガネ』に来るからね、たくさん。」
確かにナイトに触れようとすると、完全に手がすり抜けた。
とある事故によって体が透明になったナイトだったが、不思議なことが起きて亡霊となったようだ。
「不思議だろうね。でも、ミカラギちゃんも不思議な奴みたいだね。」
もしかして鳥になった姿を見られたのかもしれないと思った。
私が少し目を逸らすと、ナイトはくすりと笑った。
「大丈夫だよ、言わない。だけど、これは知られたら大変だよね。誰もが君の血液を狙うようになるよ。」
「そう、かもしれませんね……。」
もう吸われてしまったとは言えない。
鳥になった姿は見られたくなかったが、ナイトのいわないという言葉に何故か信用が出来た。
今日はナイトいわく休業日らしく、誰も来ないようだ。ナイトと話していくうちに元気が出てきた。
ナイトは画家とバーの営業の両方をしており、彼女の絵は国中で有名だといわれているものが多い。ヴァローニャとも少しだけ会話をしたことがあるようだ。
だが、彼女はヴァローニャの噂を知っていた。
続く