複雑・ファジー小説
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- デルフォント物語
- 日時: 2015/07/29 13:43
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=18162
初心者の、初作品です。
---- 目次 (投稿済みと、予定です)
・プロローグ :
隔離室編 >>1 >>2 >>3
結婚披露式編 >>4 >>6 >>7
・番外 :黒猫編 >>8 >>9 >>10
・番外 :リーナス編 >>11 >>12 >>13 >>14
・アブガン編 :
初陣 >>15 >>16 >>17
方針会議 >>18 >>19
アブガン始末 >>
・トーラの故郷編 々 未
整理してページ5 は削除しました。(消えるとは思わなかった)
少し時間をかけて、修正します。
少々お待ち下さい。
- デルフォント物語 ( No.10 )
- 日時: 2015/07/24 08:43
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)
白と黄色のAIにも、私のデータをフルコピーした。
彼女等にも、他の瞳色の仲間を造って貰う事にした。だが、まだ全然足りない。外の仲間から、もっと多くの仲間が必要だと連絡が入った。
外に、纏め役の金瞳が要るわ。
赤・青・橙の毛色の仲間を造った。彼女等も、他の瞳色を造った。皆も私達と同じデータを持つことになる。これで四十二匹、もうそろそろ限界ね。
私達のような、規格外な高性能・擬似生命体をこれ以上増やすのは止めよう。数が増えると、もし私達の素性がばれた時の対処が、より困難になる。
下手をすると、後々面倒な事になりかねない。皆(全ての猫)も賛成してくれた。
あとの不足分は、あの『灰色』を使ってみてはどうだろうか。これなら問題は起きない筈。これも皆の賛同を得る事が出来た。
これを大量生産しよう。各猫が、約千五百匹づつ作成した。私達三色もそれに習った。総計・約六万三千匹。これだけいれば足りるでしょう。
差障りは解消したので、エミールを覚醒させることにした。彼の衰弱した臓器・器官や、損壊していた部分も、既に修復している。
徐々に、無理をさせず、一つづつ完全に働く事を確認しながら、目覚めさせていく。
隔離室内の人間が、全員動けるようになった。
我々三色も各人に分配された。白色はリーナス、黄色はトーラ、(私)黒色はエミールに。
三人が結婚したのは、とても都合が良い。バラバラにならないから、補助がとてもやり易くなる。
彼等を訓練する何か良いモノはないだろうか。リーナスが、ガーディアンの操縦に興味を覚えたようだ。白猫がフォローに入った。
「棟梁に聞いてみたらどう?」「確か、シュミレーション装置があったと思いますよ」
「ありがとう。聞いてみる」
今三人は、先日一台追加手配された、二台のシュミレーション装置で遊んでいる。
リーナスが設定を弄って、何だか おかしなことになっている。
無茶するなぁ。……、まぁ、良いか。楽しそうだから。
驚いたことにエミールは剣が使える。
それもかなりの腕前だ。これも、練習方法を工夫して、皆が使えるようにしよう。リーナスに、練習方法のスケジュールを組んで貰った。
トーラが格闘技に興味を持った。黄猫が、リーナスに何か良いモノがないかと聞いていた。
「うーん。これなんかどうかな。『バレー』たぶん格闘技だよ。他の格闘技より、ずっと面白そうよ」
「ねえ、皆来て」
彼等は、色々な事柄に興味を持った。
私達は、全力でそれを助け、全部をマスターさせて来た。知力も体力も凄く向上した。(必要ならばその都度、身体能力を向上させた)
三色で相談した。これで良いのかと。
大丈夫、間違いじゃない。自己防衛能力を上げるのも『護衛』の一環だし、それを『補助』するのも私達の使命なのだから。何等、問題ない。
彼等は自分達でも工夫して、どんどん能力を向上させて行った。私達も更に上を見続ける事が出来るように、様々なモノやデータを提供した。
彼等の身体能力は驚異的に向上しだ。
当然だわ。その様に補助してるのだから。彼等の興味を持った件に 要求される条件に沿った訓練をするのだから、いくらでも向上していくのが当たり前よ。
何だろう少し不安になって来た。限度が見えない。
自分達が推進して来た事なのに怖ろしくなって来た。彼等の潜在能力は私達でさえ測り知れないくらいの、とんでもないモノだ。
人間とは、こんなに凄いモノだったのか。
……。
あーん、面倒だ。もういいや。何でも やって頂戴!。
幾らでも、やりたいことを やって良いよ。
全部フォローするからね。頑張れ。って、これで良いのかな。他の二匹も同意してくれたし、外からのクレームも無い。これで良いのだろう。
色々と小さなアクシデントはあったが、隔離室を出て、銀瞳と情報の交換をした。
私達の同色、特に金瞳と銀瞳は、同じ情報を持っていなければ ならないのだ。
さあ、外だ気を引き締めよう。
情報交換した時から、何だか白色の雰囲気が変わったように思える 。リーナスも気が付いたようだ。
「あなた達、カワったでしょう。後で説明してね」
「はい」
はて、何の事だろう。
- デルフォント物語 ( No.11 )
- 日時: 2015/07/25 15:41
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)
リーナス・シャクラ・アスラン。
AR(破滅暦)二一五〇年 九の月に記す。
------
これを読む私へ
以下の記事は、私が上記の時点で知っていることと、推理、いや憶測で書いたものです。真実とは違う可能性が高いので注意してください。
この記事の目的は、あなたの記憶を呼び覚ますことにあります。幾つかのキーワードを埋め込んであり、最後まで読むと全ての封印が解けます。
必要なら使ってください。不要ならば、再度封印することを推奨します。
あとは、これを読んだ時点の、私自身の判断に委ねます。
------
この世界は、父や母のいた世界と、大した違いはなかったらしい。異世界の歴史書と比較してみるとハッキリ分る。
この世界に宇宙人ラーバグラフが最初に来た、征服暦・紀元前三百年(西暦・紀元十五世紀の中期後半)までは殆ど違わない。
そして、この時 彼等は神を抹殺した。
この世界で、いや、恐らく 神を否定された全ての世界でも同じだろうが、人々は以前より更に 死を恐れるようになった。この世界で生物学、生命工学やそれに類するモノが急激に進歩していったのは当然の結果だ。
それは、父や母の世界で進歩した、機械工学、電気・電子工学や光・磁気工学のレベルに匹敵するという。
この世界で当たり前に存在しているホムンクルスなどの人工生命体が、父や母のいた世界には、全く存在しなかった。製作しようとする意識さえなかったと言っていた。
その代わり、父や母のいた世界の得意分野は全くダメなのだから面白い現象だ。
宇宙人ラーバグラフは、西洋において『中世の暗黒時代』を消し去った。
父が言っていた。「中世ヨーロッパの神、というか教会は、狂気じみていたからな」と。(ちなみに父の先祖は東洋人だったらしい。当然ながら当事者ではないから、単なる感想に過ぎない)
調べてみると、確かに『魔女狩り』を許して『文明を破壊する』ことを後押しするような神なら、そう言われても仕方ないだろう。
この世界には、少なくとも私には、全く関係のない事柄だけれど。
彼等は、自らの力を示すために地球を弄って 今の状態にした。
神を殺すのは簡単だ。否定する確かな証拠を見せれば良い。
ラーバグラフは「我々は神ではないが、人間を創った」と言いそれを証明し、世界は無数に存在することを証明した。
彼等は、その『力』の示すため、北極と南極を入れ替えた。つまり地球を百八十度回転させ、自転速度を二十四時間ちょうどにした。公転周期を三百六十日ぴったりにし、そのせいで一箇月は全て三十日になった。
ああ、忘れていた。こちらが先だった。誤差が面倒だったらしく、真空中の光の速度を秒速三十万キロメートルとした。これで、時間と長さの基準が確定したのだ。
ラーバグラフは、その後にも何度もこの世界を訪れた。その都度、小さな修正を加えて、完全征服する頃には、父や母のいた世界とは大きく かけ離れたモノになっていた。
そして七千百五十年前(征服暦元年)、彼等は私達の住む この世界に住み着き(現在も運用されている施政システムを使って)ヒトのあり方を管理し征服した。それは、この世界が滅びるまでの五千年もの長い期間続いた。
ラーバグラフは この世界に安寧を与えた。少なくとも表向きは、戦争のない、安定した世界政府が創られた。
この世界を征服した最初の頃、彼等ラーバグラフは、世界間の交流を黙認していた。父や母の先祖は最初の頃の移住者だったらしい。
ところが征服暦三千年頃から方針が変わり、世界間の交流を忌避するようになった。しかし、その頃には異世界の人間が 既に数多く移住してしまっていた。
元いた世界に嫌気がさして、この世界に(逃げて)来た者も多くいた。
こちらの世界に興味を持って、移住して来た者達もいた。
彼等は集落を造り暮らしていた。この世界の技術を勉強していた父や母の先祖達(後者の部類)は、情報の共有や校勘の必要性から、常に複数の、別系統の集落と連携し合っていた。
そう、比較的近辺の集落にいながら、父と母の持っていた知識・技能は全く系統が違うものだ。収集した情報の内容も当然大きく違っていた。
征服暦二千年頃に先祖達の集落郡は、今はもうない侯爵家に強く誘われて北半球の地に移住していた。
先祖達は知らなかったが、征服暦四千五百年頃から南半球では中央局(宇宙人のこの世界での本拠地)の指示で異世界人狩りが密かに進行していたらしい。三百年で南半球の異世界人は完全に掃討されたという。
宇宙人は、この世界にいた異世界人の絶滅を図っていた、だけではない。既存の、十万以上もあった異世界の殆どを次々に破壊していった。征服暦五千年近くには、異世界は十も残っていない状況だったという。
そして征服暦五千年目のその日、大絶滅(ラグナロク)が起こった。
南半球と大西洋が一瞬で消滅した。
大絶滅に関して、父母は事故ではない可能性を抱いていたようだ。宇宙人ラーバグラフによって滅ぼされたのではないかと。
父のいた世界にも、母のいた世界にもステラ・システムはなかった。というより、ステラ・システムは、この世界特有の技術なのかも知れない。
父と母のいた世界では、同じエネルギーシステムが使われていた。核融合システムという。元は兵器として開発され、その下位技術の兵器は実際に戦争で使われたそうだ。中々効率の良いシステムだが、危険度は高い。初期には、度々事故があったという。
私はステラ・システムについて、大きな疑問を持っている。ラーバグラフはこのシステムについて、本当はどこまで理解していたのだろうか。
宇宙人が使っていたエネルギーシステムは、反物質システムという。凄く効率の良いモノだと記されている。と同時に、危険度も核融合システムより遥かに高かったようだ。
それに対し、ステラ・システムはとても安全だ。システム自体はエネルギーを出さないので、破壊力は無い。武器にするにも、運動を起こさせるためにもエネルギーに変換する装置が要るのだ。しかしステラ・システムは非常に効率が悪い。
宇宙人が完成させた(現存しない)最も効率の高いステラ・エンジンでも、理論値の三十パーセントに満たなかったそうだ。彼等の技術力では、これ以上効率を上げられなかったのかも知れない。
ラーバグラフは私達に、このシステムは大気圏内だけでしか使えないと言っていたが、それは疑わしい。ステラ兄弟の原書には『エーテルとは、宇宙に蔓延している未知の物質(星間物質)、または静止した原素(重力子)だ』とあるのに、なぜ大気に縛られるのか、その理由が分らない。
父と母の住んでいた世界は もう存在しない。
父母は当初、彼等のいた世界は核融合システムの暴走で滅んだのだと思っていた。
その後、そのシステムを宇宙人が暴走させたのではないかと疑うようになったようだ。
私は、それは違うと思っている。証明する手段はない。しかし、この方が合っていると思う。
宇宙人によって滅ぼされた、には違いないだろうが、宇宙人の攻撃によって滅ぼされた。が正しいのではないだろうか。宇宙人がそこに赴き、戦争をしかけ、そして滅ぼした。
理由は判らない。
いや、今の私には幾つかの可能性を思いつける。
一つ目は、可能性としては無くもない。という程度か。
この世界の人間が、宇宙に進出しようとした形跡が、はっきりとある。
滅ぼされた異世界の中には、その属する太陽系内に居住可能な惑星を見つけて移住したり、宇宙空間にコロニーを造って居住していた例が数多くあった。また、太陽系外にまで進出した世界も 少なくない数あったようだ。
この世界の者がそれを学んでいたとしたらどうだろう。ラーバグラフは、自分のテリトリーを侵されて黙っているような生物だろうか。
二つ目は、こちらの方が怪しいかも知れない。
核融合システムを持っている世界ある。その世界の人間が、ここでステラ・システムを学び元の世界に戻った可能性がそれだ。
そして、その逆の場合はどうだろう。核融合システムは強力な兵器でもあるのだ。
ラーバグラフは放って置くだろうか。
三つ目は、あり得そうという程度だ。
宇宙人ラーバグラフは、異世界技術での『ステラ・システムの完成』を恐れたのではないだろうか。
現存のステラ・システムの効率は、最高でも二十パーセント程度だ。それでも、あの巨大な飛空艦を音速を超える速度で飛ばせるのだ。もし効率を八十パーセント以上に出来れば、局所的な空間の拡大や縮小を起こし、理論的には超光速も可能だ。
現に私は五十パーセント程度にならば効率を上げる技術を持っている。但し実現するには相応の工作機械が必要だ。この世界にそれは無い。
私は、とても不安だ。
宇宙人ラーバグラフが この世界から消えたのは『破滅の前だったのか、後だったのか、それとも破滅と同時だったのか』との疑問だ。
同時だった ならば良いのだけれど。
この世界でならば『ステラ・システムの完成』が可能だと思っていたのではないだろうか。そして、もしラーバグラフが、この世界が『まだ生きている』と知ったならどうするだろうか。
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- デルフォント物語 ( No.12 )
- 日時: 2015/07/25 15:10
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)
大絶滅で生き残った人々の、それこそ必死の努力で、それでも千年以上の時をかけて、現在の この世界がある。
今のような安定期(この状態を安定期と呼ぶのは不謹慎かもしれない。群雄割拠の時代、いわば戦国時代なのだから)を創り出した最大の功労者は、皮肉なことに宇宙人が構築した安定した施政シルテムと、それを運用する大貴族達の貢献にある。
施政システムは、中央局(宇宙人ラーバグラフによる最高位部署)が消滅しても正常に機能し続けた。行政府(現・中央府)、税務府、教育府、世界管理府(これは事実上消滅した)色々問題はあるものの、存在し続けただけで奇跡に近い。
この二千年余りで、高位貴族達(北半球に造られた 新・首都に近い地域の貴族)は、積極的に施政システムに参画していった。
先祖達がいた地域(現・東部大陸の北部)は、首都から遠く離れた いわば辺境であったため政争に巻き込まれることはなかった。
侯爵家の保護下にいた先祖の代表達が男爵の地位を得たのは大絶滅の前だった。今で言う与力男爵だ。侯爵家も先祖達も比較的穏やかに生活していたと言える。
父と母の両領家とも、大絶滅後は子爵として独立していたが、侯爵家の保護下にあることに変わりはなかった。
父と母が出会ったのは偶然だ。侯爵の仲立ちで結婚した後に、両家が異世界技術の後継者であることを知ったのだという。
しかし、異世界技術の後継者であることは深く秘匿されていた。先代にも、今代の侯爵にも隠していた。
大絶滅を経て、異世界の技術を正しく継承する者は殆どいなくなった。例外が父と母の家系だ。
では、なぜ異世界の技術を誤りなく継承出来たか。父と母の家系では、継承技術を小さな人工脳(チップ)に写し取り、それを後継者の脳に移植する。という同じ方法で知識と技能を伝えて来たからだった。
父と母の世代には、もう 他には異世界の技術を継ぐ者はいなかった。
父母から生まれたのは、私一人だけだった。
二人は、母が四十歳になったのを機に、私の脳に二家分の知識と技術、そして この世界で研究して得た旧時代の技術(宇宙人のモノや、他の異世界から受け継いだモノ)のチップを埋め込んだ。加えて、多大なデータが負担をかけないよう考慮し私自身の脳への補完用チップまで埋め込んだ。
その時点で私は、たぶん残存世界一番の知者になった。まだ七歳だった。
私が失われた異世界の技術に興味を持って、異世界人の子孫の家々を訪ねて回っていたことを知る者はいない。
書物だったり、品物だったり、伝承の形で残っていたものさえあった。私は、活動範囲内(旧集落群、十二の領地)に残っていた異世界技術の多くを入手した。
父の持つ技能の中には『記憶改竄』がある。私が彼等の技術を持ち帰った事を覚えている者はいない。
そして、デルフォント子爵家との出会があった。
あれは、侯爵家にデルフォント子爵が表敬訪問していた(らしい)時と、父母が侯爵家に呼ばれて訪れていた時が たまたま一致したことにより起こった。
父母に同行していた私のことを、何故かデルフォント子爵が気に入り「公子の妻にしたい」と言い出したのだ。
話はとんとん拍子に進み「公子が十四歳になったら挙式する」という事になり、婚約契約式のためデルフォント領の城に赴く事になった。
父母は気付いていたのかも知れない。何故なら、私の荷物『結納品』の中には、我家にあった全ての異世界に関するモノが入っていたからだ。
そして、故郷にあった筈の私の存在データの全てが(父母によって)抹消されていた事を知ったのは、侯爵家と十二の関連貴族が中央府の軍隊により滅ぼされた後の事だった。
父母の処置のおかげで私は生き延びたのだ。
私がデルフォント領の城に着いた時。公子は病の床についていた。
手持ち無沙汰になった私は城内を散策した。その時出会ったのが、数少ない同世代の少女トーラ・エリン女官見習いと、頑固な技職長コブト棟梁だ。
すぐに友人になった。
公子の病状が良くないとの噂が流れ始めた。
この頃にだったと思う、侯爵家と十二の貴族が中央府の軍隊のにより滅ぼされたことを知ったのは。そして私の存在データが消去されていたことも知った。
------ 以上で 記憶の封印は、全て解除されました。
- デルフォント物語 ( No.13 )
- 日時: 2015/07/25 15:16
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)
=====『鍵なし金庫』施錠開始
『これ以降は別形式で保存すること』
公子の病状が良くないとの噂が流れ始めた。
この頃にだったと思う、侯爵家と十二の貴族が中央府の軍隊のにより滅ぼされたことを知ったのは。そして私の存在データが消去されていたことも知った。
ある日。私は子爵に呼ばれて、その書斎に来ていた。子爵は大きな執務机に、ではなく、小机を挟んで私の向かい側に難しい顔で座っていたが、意を決したかのように話し始めた。
「率直に聞く。君は魔法が使えるのかい」私の心臓は、大きくドキリと打った。
「な、何のことでしょう」
「あの侯爵家の関係者に聞いたことがある。君の父君は人の記憶を改変する技能を持っているかもしれない。とね」それなら 私にも出来る。だが、答えるつもりはない。
「……」
「実は、公子はもう助からない。あと五日以内に死亡するだろう」
「……」
「身替りは見つけている。しかし、本物の公子の顔を知っている者が幾人かいる」
幾人=数人 とは、少ないのではないか。と思ったが黙って続きを聞いた。
「私も含め、その者達の記憶を改変して、身替りの者を公子と認識させたい」
「やって貰えないだろうか」
「質問ですが、養子ではいけないのですか」
「私に親戚はいない」「公子が唯一の身内だ」
断れなかった。このままでは、この領地は子爵の代で終わってしまう。
公子は、二日後に亡くなった。
内密に葬儀が営まれた。
その日の内に、身替りの少年が眠る部屋に通された。白髪の少年が横たわっていた。瞼を開けると、瞳の色が赤い。この状態は強い薬品によるものに違いない。
「この子の記憶を消してほしい。生まれてから今までの記憶の全てだ」
「消すのは、本人が本人であるという記憶。で良いのですね」
「意味が判らないが」
「全ての記憶を完全に消すには、脳を全て破壊するしかありません。自分が自分である記憶だけなら一部の削除で済みます。それを再生すれば元の自分は完全に消滅します」
「言葉や経験は、どうなる」
「話せますし、体験した結果は残ります」
「データとしての記憶は残っていますから」
「言葉についてですが、この子の出自により変わりますから変更が必要でしょう」
「貴族の出身であれば問題ありませんが、そうでなければ直さないと。困るでしょう?」
「確かにそうだが、出来るのか。そんな微妙なことが」
「現在の言語領域に新しいモノを上書きすれ良いのです」
「音声によるサンプルがあれば、聴覚器を使って入力すべきでしょう」「その方が無理がかかりません」
「他の方法を使うとどうなる」「早急に終わらせる必要があるのだが」
「対話時に差障りが出る。可能性があります」
「……けど良いのですか」
「やってくれ」
その子の記憶を削除し、修復した。新たなモノを上書きした。
「この子の髪や、瞳の色は薬品で変えたのですね」
「髪と瞳は、何色になるのですか」サンプルを見せられた。持って来たのは医師長だ。
「DNAに細工したのですね。髪と瞳の色以外に、何をしましたか。他に影響はないのですか。そして本物とは、どのくらい違いますか」
「その通りだ。DNAに細工した」「髪と瞳の色以外には、血液型も変えた」「他への影響は不明だ。複数の強力な薬品を使った」「色彩は、人の記憶の許容範囲内にある」と医師長が一気に捲し立てた。何を今更 慌てているのだろう。
血液まで触ったのか。強力な複数の薬品。これでは大きな副作用が起こるだろう。心配だが済んでしまった事はどうしようもない。
「参考に教えて欲しいのですが、本物の公子に使った薬品は どの様なモノですか」
「これ等がそうだ」差し出された薬品名の一覧表を見た。
とんでもない種類の薬剤だ。これ等が混ざって副作用を起こした可能性も高い。これにもDNAに影響を与える薬品が幾つもあった。
「なぜ、こんなに多くの薬品を?」
「あれは熱病なんかじゃない!」「毒薬を、複数の毒薬を盛られたんだ」
「毒薬!」公子は、毒殺されたのか。
「毒薬の中には、DNAに悪影響を及ぼすモノが、複数あった」「逆の効果を起こす薬品を、色々試すしか、方法がなかった」医師長は、うなだれて膝をついた。
「……」嫌な沈黙だ。
「じゃ本物の公子の顔を ご存知の方々を集めてください」
執事長が席を外した。皆を呼びに行ったのだろう。
「子爵様。この件、私の記憶も改竄します。あなたはどうなさいますか」
「私は……、いや。私の記憶も変えてくれ」
「いや。この者が偽者であるという記憶だけを、残せないだろうか」
「難しくて、完全とはいきません」「違和感がある。程度で良ければ何とか出来ます」「でも、それは お勧め出来ません。感傷に過ぎないからです」
「きっと後悔します」あぁ、後悔する記憶も消すのだったか。これは 嫌な感じがする、余計良くないな。
「それで良い。本物の記憶を完全に消してしまうのは、少し、哀れでな」
「……分りました」そうは言ったが、私は違和感を残すのには反対だ。この子が可哀想だろう。だって この子は、まさしく『全部』を消されたのだから。
だが実施するしかない、これが本人の希望なのだから。馬鹿なヒトだ。
「では、『理由の判らない、ほんの少しの違和感』を残すようにします」
私が、私を残して他の関係者の記憶を改竄し終わるまで、約五時間を要した。違和感なく(子爵以外について)完全に実施するのは、結構大変なのだ。消去や、上書きと違って微妙な調整が必要だからだ。
子爵の記憶については、あの侯爵家の関連から変えた。私の力の事は知られる訳にはいかない。書類等にでも残っていたら困る。もし残っているモノがあれば、一切残さず、全てを破棄するようにと、子爵には暗示をかけた。
自室に戻って、白猫に指示を出した。
「こっちに残っててね」
「隔離室には、この付近の荷物と黒猫を持って行くから。あと二体は要るかな」
「私がこの薬で眠ったら、バックアップを残して私の記憶も消去してね」
二年後にここに戻るまで、この部屋にある異世界に関する全ては封印しなければならない。
後は、白猫に任せておこう。
--------
私(白猫)は、この書類データをどう処理するか迷ったが『別形式で』となっている後半部のみ『封印』とすることにした。前半部は『極秘』だ、これは必要になる可能性がある。
リーナスにも、他の誰にも『封印』は、知られてはならない。
私を造ったのはリーナスの母だ。彼女の願いにも似た指示は「リーナスを幸せにして」だったのだ。このようなものを見て、幸せでいられる筈がない。
リーナスの指示により、このデータの消去は出来ない。だが、本人の記憶から消すことは出来る。探せない場所に保存すれば良いだけの事だ。
それよりも、急がなければならない件がある。異界人狩りの指示を出したモノを探し出し、処理しなければならない。『異界人狩り完了。以後この指示は適用しないこと』と。
私は、中央府にあった命令書を改変した。追加項目として、あの侯爵家壊滅の報告書番号を呼び出し、「異界人狩り完了。以後この指示は適用しないこと」と記入した。
そして、命令を出した大元を検索し、それを突き止めた。
旧・中央局。南半球にあった、旧・首都。その地下深くにそれはあった。
あの大絶滅を耐えた人工脳があった。それはもう停止していたが、再起動しなくてはいけない(電源はある。凄く高出力のステラ駆動の発電機だ)。そして正式に『異世界人狩り完了』を受領させるのだ。
……、操作完了。
これで、リーナスが異世界人狩りの対象になることはなくなった。
仮にバレても、もうその命令は無効になっている。官僚が全ての関連活動を停止させたのは、もう確認済みだ。
この人工脳。使えるかも知れない。これなら材料さえあれば、猫を作り出せる。
指示をしておこう。「事前に猫の素材を収集し、黒猫の指示に従え」(猫用のAIについては、仕様データを入力しておけば造れる)と。
リーナスの持って入った端末は高性能だ。ここに入って来れる。
この世界にある最先端の端末くらいでは、ここまで辿り着けない。もしずっと先になって、ここに入って来る者があっても、私(白猫)と黒猫(後に黄猫など色付きを追加した)以外には反応しないよう命令しておけば良いのだ。
……完了した。
では、私は瞳を『銀色』に変えて、デルフォントの城内を詳細に探索しなけれならない。この城は怪しい。子爵の記憶は、消去した部分も含めバックアップを取っている。この調査もしなければならない。黒の銀瞳も先に造って、手分けして探査しよう。たった二年しか、時間はないのだ。
……、ほぼ探査は完了した。
一部に妙なモノがあるが、特に問題はないだろう。これで、リーナスが安全に過ごせる環境になった。
黄色の猫が使えるようになった。そして毛色三色が追加になった。では、十八匹で城内を、二十一匹で、施政システムを調査・監視する。
黒の青瞳が、子爵の記憶の詳細探査を続けている。『飛空艦搭載式戦闘母艦』とは何だろう。トーラと、その父ノイエクラン伯爵の『宝物庫』とは、何か関係があるのだろうか。異世界の関係かも知れない。
要・注意だ。
金瞳の三匹は、うまくやっているようだ。
リーナスが、この極秘文書の事に気付いたようだ。何とかしなくてはならない。封印部と私(白猫)の思考記録も含めて外部に保存する。
灰色の中からランダムに選んだ猫に『鍵なし金庫(接続不能・完全独立保管)』として保管する。金庫番本人の記憶からも、この操作の記憶を消去する。
私の記憶も消去し、本データを抹消する。
……完了。
======『鍵なし金庫』施錠終了
- デルフォント物語 ( No.14 )
- 日時: 2015/07/25 15:46
- 名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: bGZR8Eh0)
私(白猫)は、この書類データをどう処理するか迷ったが『極秘』とする事にしだ。
これは、リーナスにも、他の誰も知られない方が良い。
私を造ったのは、リーナスの母だ。彼女の願いにも似た指示は「リーナスを幸せにして」だったのだ。このようなモノを見て、幸せでいられる筈がない。
リーナスの指示により、このデータの消去は出来ない。だが、本人の記憶から消すことは出来る。探すのが困難な場所に保存すれば良いだけの事だ。
それよりも、急がなければならない件がある。異界人狩りの指示を出したモノを探し出し、処理しなければならない。『異界人狩り完了。以後この指示は適用しないこと』と。
私は、中央府にあった命令書を改変した。追加項目として、あの侯爵家壊滅の報告書番号を呼び出し、「異界人狩り完了。以後この指示は適用しないこと」と記入した。
そして、命令を出した大元を検索し、それを突き止めた。
旧・中央局。南半球にあった、旧・首都。その地下深くにそれはあった。
あの大絶滅を耐えた人工脳があった。それはもう停止していたが、再起動しなくてはならない(電源はある。凄く高出力のステラ駆動の発電機だ)。そして正式に『異世界人狩り完了』を受領させるのだ。
……、操作完了。
これで、リーナスが異世界人狩りの対象になる事はなくなった。
仮にバレても、もうその命令は無効になっている。官僚が全ての関連活動を停止させたのはもう確認済みだ。
この人工脳。使えるかも知れない。これなら、材料さえあれば猫を作り出せる。指示をしておこう。「事前に猫の素材を収集し、黒猫の指示に従え」(猫用のAIについては、仕様データを入力しておけば造れる)と。
リーナスの持って入った端末は高性能だ。ここに入って来れる。
この世界にある最先端の端末くらいでは、ここまで辿り着けない。もしずっと先になって、ここに入って来る者があっても、私(白猫)と黒猫(後に黄猫等の色付きを追加した)以外には反応しないよう命令しておけば良いのだ。
……完了した。
では、私は瞳を『銀色』に変えて、デルフォントの城内を詳細に探索しなけれならない。この城は怪しい。
今は、黒の銀瞳も先に造って、手分けして探査しよう。時間は、あまりないのだ。
……、一部不明瞭な部分はあるが、ほぼ探査は完了した。
これで、リーナスが問題なく過ごせる環境になった。
黄色の猫が使えるようになった。そして毛色三色が追加になった。では、十八匹で城内を、二十一匹で、施政システムを調査・監視する。
黒の青瞳が、子爵の記憶探査を始めた。『飛空艦搭載式戦闘母艦』とは何だろう。トーラと、その父親の宝物庫には何か関係があるのだろうか。異世界の関係なのかもしれない。
要・注意だ。
金瞳の三匹は、うまくやっているようだ。
リーナスが、この極秘文書の事に気付いたようだ。
私達、猫の使命は『護衛と補助』。
補助に照らし合わせれば、この文書を読もうとするリーナスを停められない。しかし、護衛の面から考えれば、心理的悪影響を見過ごせない。
矛盾あり、思考停止。
……やっぱりそうなってしまうのか。
命令されれば拒否することは出来ない、ということだ。
最初のメモにあるように、リーナスを信じ、その判断に任せよう。