複雑・ファジー小説

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星屑逃避。
日時: 2015/09/19 21:54
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=237

—もし逃げられるのならば、


ども、こんにちは。あるみです。
自由に書いていこうと思っています。
ちなみにメインは異性愛モノなのですが、あんまり書いたことないジャンルなので、今から書いていくのが楽しみです。

/あるみについて
もともと数年前にとある名前で小説カキコにて活動していましたが、受験勉強を理由に引退しました。
現在その名前でわかってもらえるような人はいないということと、改めて活動していきたいということで名前を変えました。

/この小説について
書いていくにあたって、ジャンルにすごく迷いました。
オチをもう決めてしまっているので、そのオチの内容からこのジャンルにしました。もし、ご指摘等あればよろしくお願いします。

/この小説にコメント等をくださった方
・風死さん



/目次

>>01 設定(基本編)
>>02 設定(登場人物編)
>>03 プロローグ1
>>04 プロローグ2
>>05 プロローグ3 (プロローグ終わり)

Re: 星屑逃避。 ( No.12 )
日時: 2015/09/27 22:48
名前: あるみ (ID: JU/PNwY3)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode



本編その5 こんにちは先輩 さよならありす


先輩はここ2週間ほど帰ってきていなかった。
綾川先輩曰く、寮にも帰ってきていないような状況で、組長会議すらできないと毎日のように嘆いている。
一体どこにいるんだろう、ぼんやり考えていても先輩は帰ってこない。

1人で寝て、1人で食事をして、1人で生きている。
虚ろな中で過ごしていく大学生活というのはいかにつまらないものか……。
綾川先輩や他の先輩方に慣れず、同じ年の人には「麗人」という言葉によって壁でさえぎられているようだった。
そんなある日のことだった。


「……暁さん?」
携帯のバイブ音で目が覚めた。暁さんの名前が、携帯電話に書かれていた。
夜中の3時、一体いつまで彼氏とくっちゃべっていたのだろうか。
ああ、羨ましいなと思いながらも通話ボタンを押した。


「もしもし。」

「ん……もしもし、御剣?」

「どうしたんだよ、こんな時間に。」
そう言うと、暁さんの様子がおかしいことに気が付いた。
いつもこの時間だと、さすがの暁さんも眠ってしまう。それに、最近は先輩がいない分、話す時間が増えていたのも確かだったが、やけに距離が近くなったような気がする。気のせいかもしれないけれども。


「うん、なんていうかさ。別れた。」

「へえ、別れ……え゛っ!?待って?どういうこと?」
びっくりだ。仲のいいことはよく聞いていたから、彼女が軽く「別れた」と言えるくらいにすんなりと別れてしまうなんて、勿体なあと思っていた。
しかし、暁さんの泣いているような声は聞こえない。
ただただ、彼女は笑っているだけだ。


「俺より動揺すんなよなあ!
なあ……お前とその、一緒にいる関係になるのはどうだよ?
そのために俺は別れたようなもんだしさ、な?」

「……えっ。」
突然、暁さんの態度が変わった。
驚きと共に喜びがあった。しかし、それは別に恋愛とは一切結びつかないような感情だ。


「別にお前が麗人だから好きってわけじゃねえ。
お前はしっかりしてて、男らしくて……だけども、人一倍不器用だ。俺がしっかり守ってやる。だから……。」
僕はどうすればいいのか分からなかった。
このまま承諾して、付き合ってしまえば、先輩以外には男だと思われる1つの証拠となる。
それに、決して暁さんが嫌いであるわけではないし、本当に男だったら暁さんと付き合っていたのかもしれないと考えていたことはあった。

けれども、先輩が……。
ふっとお風呂のことが頭によぎる。体が震えて、仕方がなかった。
まだ、謝ってもいないのに。まだ、感情すら伝えていないのに。


「……ごめんね。でも、友達では居させてくれないかな。」

「そうか、そうだよな。だと思ってたぜ。
お前、林檎組の組長と同室なんだろ?」

「え、待って……なんで知っているんだよ!?そ、そんなこと……暁さんには関係ないじゃないか。」

「なぜか、俺の家にいるんだがな……。邪魔だから退かしに来てくれないか?」
僕はすぐに住所を聞いて、暁さんの家の最寄り駅を調べた。
そういえば、学校と寮以外でほとんど行き来がなかった僕にとってははじめての1人外出だろう。
普通の切符を買おうとしたら間違えて新幹線の予約をしてしまったり、電車が来たはいいものの寝過ごしてしまったりと、失敗の連続ではあったものの、僕はどうにかして暁さんの家の前までたどり着く事ができた。


「おお、久しぶり。夏休み前のテスト以来って感じだよな。
とりあえず、あがりなよ。」
意外と建ってからあまり時間の経っていない家だなあと思いながらも、僕ははじめて『ともだちのいえ』というのに遊びに行った。くつを脱いだはいいものの、どうすればいいのか分からず右往左往していると、暁さんに笑われてしまった。


「もしかして、こういうのもはじめてか?」

「そ、そうだよ……。」

「麦茶、淹れたから、こっちおいで。」
手を引っ張られ、僕と暁さんはリビングへと入っていった。
そういえば先輩はどこにいるのだろうか。そんなことを考えながら、麦茶を飲みほした。


「先輩のこと、気になるか?」

「え?ああ……。気になるっていうよりか、他の先輩方が組長がいないとやっぱり仕事がうまく流れていかないみたいでさ。」

「まあ、そうだよなー。あの人の携帯、ちょっと見たんだけどさ。結構通知溜まってたよ。」
やはりか、と思った。
綾川先輩が何度携帯に電話をしても出ないとっも嘆いていたからだ。
多分帰ってきたら、先輩の携帯電話はへし折られるのだろう。あくまで予想だけども。


「先輩は俺のベッドで寝ているぜ。」

「!!??」
とんでもない発言だ。爆弾発言。

品が悪いぞとも言いたかったが、それよりも先に足が出た。
暁さんが「落ち着けよ」と何度も言っているものの、僕にはほとんど聞こえていなかった。僕は飛び出すように、リビングを出て、暁さんの下の名前がひらがなでかいてあるドアへと入っていった。
そこには、ベッドですやすやと寝転んでいる先輩の姿があった。僕はうれしくなって、そのままベッドに飛び込んでしまった。
その反動で先輩が起きてしまった。僕は一瞬で目をつむり、眠っているようなふりをした。


「……え、御剣?本物か?」
眠っているふりはうまくいったようだ。起こすようなそぶりはない。


「こうやって、一緒に寝ることもなかったよな。
ごめんな。本当に……、お前が女だなんて思いもしなくて……。」
申し訳なさそうな声と共に、頭にあったかいものが乗っかった感覚がした。
頭を撫でられているんだなと思うと、心もあたたかくなる。喜びで胸がいっぱいになる。例え、僕が女だと分かっているとしても、相変わらず先輩は優しい。


「お、おい、御剣!……って、あれ?起きてたんすか。」

「しーっ。」

「う、うぃっす……。」
本当に寝ていると思っているらしい。
暁さんが苦笑気味の声で返事をすると、扉の閉まる音がした。
先輩は僕の頭をなでながら、ベッドの毛布の上にそのまま乗っかっている僕に毛布を巻いた。
僕はこれ以上だますのが少しだけ申し訳なくなって、目を開けてみた。黙って、目と目だけが見つめあう。先輩の表情じゃなくて、目をじっと僕は見つめていた。


「御剣……。」

「僕がどんな性別だろうと、先輩は先輩でいてくれるのですね。」

「あ、当たり前だろ……、寮の仲間じゃないか。
それに、だましていたのにも理由がないわけじゃないみたいだし。」

「先輩は知っているのですか?」
問いてみたけれども、先輩は僕の目から反らして、別の方向を向いた。その目は少しだけ切なさを残していた。


「本当のことを、言ってください。」

「御剣って苗字は聞いたことがあったんだ。ニュースかなにかで、小さいころに撮られたらしい写真と一緒に。
……御剣、本当のことを言ってくれないか。御剣 繚じゃないんだろ?」
政府に狙われた存在である僕を知っている人がいるとは思わなかった。そういえば母さんはニュース番組や歴史書,新聞を読ませることは一度もなかった気がする。
けれども、先輩には真実を言おうと思った。
決して、信頼しているわけでもないし、守ってほしいわけじゃない。けれども、はじめて好きになった相手には言っておいたほうがいいのかな、なんて変なカンのようなものが僕に渦巻いた。


「僕は……いや、私は「おい!御剣!」
突然、また扉が開かれた。
僕はびっくりして、ベッドから落ちそうになった。それを先輩は優しく支えてくれた。少しあたたかな腕に包まれながら、顔を真っ青にした暁さんのほうを見た。


「抱き合っている場合じゃねえんだよ!
ありすが……あ、あ、ありすが……突然しんじまったって!今、電話が……。」
僕はそれを聞いた途端、先輩の手を引いて、飛び出していた。
とりあえず急いで寮に戻らなきゃいけない。電車を使わなくても本当は暁さんの家は近かったのが、運の尽きだろうか。黙って、寮のほうに走り出していた。


「おい、おい!御剣!落ち着……。」
先輩のほうを振り向けなかった。
ぽろぽろと零れ落ちる涙が止まらなくて、どうしようもなかった。
性別がバレてしまったとしても、僕にはまだ『男』という意識が抜けていなくて、強がっていた。


「泣いたっていいんだよ。大事な友達が死んじゃったんだからな。」

「せ、せんぱ……い。」
振り向いても、先輩の顔が見えなくて、どうすればいいのか分からなかった。
優しい手が僕の頭に乗っかった。そっと、髪の毛を撫で上げて抱きしめてくれた。
最初はなにがなんだか分からなくて、どうして抱きしめられているかさえも分からなかった。それくらいに混乱していた。


「う……?」

「ほら、落ち着いて。僕以外には男だって思われているんだろ?
ありすちゃんの前でも最期まで御剣らしく、いろよな。」

「ありす、じゃないです……彼女は……彼は……
和央 リコっていうんです。
誰にも言わないで……。でも、どうか、先輩だけでも覚えておいて……ください。」
先輩は黙ってうなずいた。
僕はそのままずっと泣いていた。だから、あんまり気づいていなかったのだろうけど、先輩も多分震えていたし、泣いていた。


—視点は泣いている2人から、数時間前の寮へと流れ行く……


寮の少し向こうには化学コースが使うことの多い実験棟がある。

そこには、1人の美少女(?)ありすが実験の講義の途中で、忘れ物を取りに寮まで戻ろうと走っていた。
しかし、彼女の脚にはヒール、服装はゴスロリ……なんとも走りにくく、動きにくい容姿だろう。

ありすは若干察していた。おかしいとも思っていた。確かに寮を出る前に忘れ物がないかは確認していたのだ。もしかすると、自分を狙っている政府の人たちがありすを1人だけにするように仕向けているのではないかとも考えた。
しかし、普段から若干自分が抜けている性格であるとは思っていたありすはあまり気にせず、とにかく走っていた。

ありすは小さなツバキの木が植わっているところで、誰かが自分のあとをつけていることに気が付いた。そして、あたりを見回した。


「和央 リコ……お前の事だな?手を、挙げろ。さもなければ、撃つぞ。」
喪服に身を包んだ男が1人、ありすに声をかけた。
そして、向けられたのは本物の銃。
しかし、ありすは震えながら、首を横に振った。
そうだ、私は和央 リコじゃない、星永 ありすだと思いながら。


—最期まで、私は偽って生きよう


そんなウソも一瞬で見抜けられてしまった。
ありすは背後に誰かがいるのに気づき、それを仲間だと察して4人分の右腕を掴んだ。
そして、4人の血液の流れを急速に逆流させた。
一瞬でその4人はありすの背後で倒れこんだ。急速に逆流させたことで体がパニックを起こしたのだ。


「何故、4人も同時にお前の後ろで倒れこむか……、偶然だとは思わねえぞ?」

「うるさいわね、私は忙しいのよ。化学実験の忘れ物、取りに行ってもいいかしら?」
それと同時に、銃を持っていた手首をつかんだ。
しかし、つかむのが遅かったのだろう。
ありすの心臓めがけて、銃弾が放たれた。
大きな銃声が鳴り響き、ありすは心臓に大きな衝撃を覚えた。

そして、一瞬で心臓に異物が入り込んだことを察した。


「わ、私……死んでしまうのね……。」

「偽っても、無駄だぞ?」

「は、はは……。僕は、もう、ここでおしまいだ。」


—御剣 百花。あなただけはどうか生きていてくれ。


そう思いながら、星永ありすという仮面を持った和央リコはそっと目を閉じた。

ありすが死んだ日、御剣は知らないままでいた。
この日から、特殊能力を持つ『何か別の者』たちが政府の秘密部隊によって駆除されはじめていたことを。
そして、『何か別の者』と秘密部隊の闘いがはじまりを迎えていたことを。


                              続く


そろそろオリキャラ募集の詳細を編集しようかなと思っている最近です。実はひっそりと募集かけてます。

Re: 星屑逃避。 ( No.14 )
日時: 2015/10/02 10:56
名前: あるみ (ID: JU/PNwY3)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode

本編その6 休暇


「先輩、明日から夢の4日連続休暇ですね。」
僕は布団の中で伸びをしながら、先輩に言った。
明日からの休暇は何をしようか。課題も大して出ていなかったため、やることはほとんどない。暇だから、先輩の仕事の手伝いでもしようかなと思っていた。


「旅行に行かないか。」

「……は?」

「息抜きだよ、息抜き。」

「い、息抜き……ですか。いいですよ。僕はこの4日間寝て過ごそうかなとか思っていたんで。」
怠惰な休暇を過ごすところだったな、と笑われてしまった。
恥ずかしくて、顔が熱くなっているのに気が付いて、頭まで布団にもぐりこんだ。
僕はそのまま眠ってしまったようだ。

もう一度、目を開けたころには先輩が起きていた。備蓄していた食料でハムエッグを作ってくれていて、正直言うとめちゃくちゃおいしかった。


「先輩、これ、美味しいですね。料理、得意なんですか?」

「いや、いつも御剣にやらせていたじゃないか。たまには僕もやってみたくてね、料理。」
トーストされた食パンにかぶりつきながら、僕は先輩の話を聞いた。
どうやらひなた町から少し遠い場所にある海へ行き、その海近くにある水族館に行きたいらしい。


「御剣、他にも行きたいところある?」
僕は少しだけ考え、そういえば映画館へ行こうと約束していたなということを思い出した。


「映画館に行きたいです。海の近くにありますかね……。」

「……うーん、多分ないなあ。」
携帯電話片手に先輩は苦い顔をした。苦い顔っていうか、真剣な顔なのだろうけれども。
確かにそこの海近くに映画館があるということは聞いたことがなかった。


「じゃあ、明日にしましょうか。」

「明日……?」

「明日も旅行にしましょう。どうせなら、寮じゃないどこかに泊まったって……。」
そこまで言って、自分の口を手でふさいだ。
しまった、何言ってるんだろう。
先輩とはそんな関係じゃないのに、なんでこんなことを言ったのか不思議で仕方がなかった。


—そうだった。先輩が好きなんだ、僕。長く一緒に居たいと思うのは当たり前だよな。


「それも楽しそうだな〜……なんて思って、予約は取っておいてるよ?」

「さ、さすがです……。」
意外な返答がかえってきて、どう反応すればいいか分からず、目を反らした。
顔がかあっとまた熱くなった。
さっきの僕は何を言っていたのだろう。


「荷物の準備、してきますね。」
小さなリュックサックに1日泊まれる程度の服やらなんやらを詰め込んだ。
僕はリュックを担ぐと、先輩は小さなブランド名の書かれた袋を渡してくれた。


「数か月後の話なんだけど……もしよければ、着てくれないかな。」

「えっ。数か月後ってどういうことですか?」
どうやら12月ごろにプロムというものがあるらしい。
男女でダンスを踊るというイベントということはありすから聞いていたので、気恥ずかしくて参加する気はないと思っていた。が、渡されたからには一度は着なくてはならない。
ちなみにプロムは予約も特になく、誰かが忍び込んだとしても分からないらしい。それを聞いて、僕は少しほっとした。
渡されたのは白いドレスコード、と化粧道具。
はじめての化粧道具に僕は喜んだ。先輩に手伝ってもらいながら化粧をし、ドレスに身を包んだ。


「……ほ、ほええ。」
女の子になった僕は、僕じゃないような気がした。
先輩に見てもらっているというだけでなんだか照れくさい。しかも化粧まで手伝ってもらった。今度は自分でやろうかな……。
きらきらと輝くまつげ一本一本から、ネイルが施された脚の爪の先まで女の子だ。これこそ、多分、御剣百花なのだろう。


「このまま行ってみる?」

「このまま行ったらバレるにきまってるじゃないですか!」

「そういえば、本名を聞いてなかったな。名前は?」
改めて聞かれると、どきどきする。っていうか、こんなに話したのは久しぶりだと思う。


「私は、御剣百花です。」
震えそうになるのを耐えながら、僕は本当の名前を名乗った。
先輩は何も言わなかった。
その目が何を見ていたのか、何を考えていたかは分からない。
とりあえず、ドレスコードを脱ぎ、化粧を落として元の僕に戻った。


「やっぱり麗人といわれるだけあるよな。」

「えっ。」

「なんでもないよ。ほら、行こう。」
ゆっくりと2人で並んで歩いていく。
少し重たい荷物でも、先輩が一緒にいれば大したことはない。
学校の外にはほとんど出ていなかった私は、珍しくひなた町に止まってくれる少し古ぼけた電車へと乗り込んだ。ここから、大きな街へと出て、そこから水族館のほうへと行くらしい。


「ここから遠くまで行くの、はじめてなんです。」

「確かにここから日暮海浜公園はサークル入ってた時以降行ってないな。
まあ、ああいうとこって友達大人数で行ったり、カップルが行くような場所だからさ。」
それを言われてしまうと、照れくさくなって、そっぽを向いてしまった。あの穏やかな町とは少し違った、高層ビルの多い景色が近づいてくるのが分かった。
そのまま、くだらない話とかなんやらをたくさんした。内心どきどきしているのを耐えながら、僕は平生を保っていた。

終点だと言われ、僕と先輩は慌てて荷物を持ち始めた。
もう、ひなた町ではない。大きなオフィス街がそこには広がっていた。
スーツを着こなす多くの人たちが、誰もが、慌てたように早歩きでゆったりと歩く僕たちを抜かしていった。
それにしても電車に乗るために上らなくてはならない階段やらなんやらが多くて、どこで乗り換えるんだか分からない。


「この線に乗るよ。日暮海浜公園方面……。うん、これ1本でいける。」
僕たちは少し空いている電車へと乗り込んだ。一度も乗ったことのない電車と景色に、僕は驚くばかりだった。
ビル街は、工場や配達関連の建物、ごみ処理場へ……。
そして小さな遊園地が見えたところで、日暮海浜公園の最寄りにたどり着いた。
駅にはある程度人がいた。秋まっしぐらに入り込んでいるこの季節にも人がいるとは思わなかった。


「潮のにおい、する?」

「しますね。あ……っ!」
改札を出ればすぐに海が広がる。
波の音、人の声、潮のにおい……。
秋に傾いているのにかかわらず、この炎天下、人が来るのも当たり前だろう。


「綺麗ですね。はじめて見ました。」

「海、行った事なかったの?」

「はい。」
親にも連れて行ったもらったことがなかった。
そういえば、私の両親はほとんど外に出してくれなかった。
高校時代までは親の支配下にいた自分がやっと解放されているのだと思うと気分がよかった。
さんさんと照る太陽は体を焦がしつけるようだ。
先輩が急にいなくなったと思うと、フランクフルトをくれた。外で食べるお肉もおいしいなと思いながら、ほおばった。


「おいしい。」

「おいしいね。」

「あっ……すみません。敬語、使わないといけないのに。」

「僕たちのことなんて誰も見てないんだから、気にしなくて大丈夫だよ。」
少しだけ、体が近づく。
僕は肩をびくつかせて、そっと離れた。
そして、先輩は波のほうへと走っていった。僕も追いかける。
その時、また心臓がどきどきしているのを感じた。

—ああ、正直に生きることができたならば、僕はここで幸せだと言うことが出来るのに。
 素直に感じることが、出来るのに。


「先輩!」

「冷たいだろ!」

「つ、冷たいっ!あ……え……
先輩!?」
かけられた海水は思ったよりもしょっぱくて、びっくりした。

海水をかけられたと同時に、先輩は倒れた。
ばしゃあん、という波の音と共に僕も先輩のほうへと倒れた。
ちょうど、先輩の隣に倒れこんだ。


「気持ちい?」

「つ、冷たいですね……。」

「まあ、そうだよな。」
苦笑してみせると、先輩も苦笑した。
海浜公園を出ると、すぐ近くに大きな建物が見えた。
イルカのイラストが大きく描かれていて、これがすぐに水族館だと分かった。


「イルカのショーは行った事ある?」

「そういえば、ないですね。」

「僕なんかと2人って、そういえば大丈夫?
外に出るのもはじめてだって言ってれば、みんな呼んでたと思うし……。」

「は、はい。大丈夫です。」
本当はここで、先輩となら2人きりでもどこへでも行きますよと言いたいところだが、服装は男だし口調も態度も男に見せかけている僕としては言えない。
しかも、なんかチラチラ見られているし……。
僕が先輩のほうを向くと、何を察したのか頭を撫でられた。


「気にすんな。」
なんて優しいのだろう。
というか、そんなに僕は悲しそうな、寂しそうな目をしていたのだろうか。
僕はまたゆっくり、先輩と歩き出した。

はじめてのものに新鮮な感覚を覚え、
先輩と2人でいられる喜びを感じながら。

—楽しそうな2人から、視点は聖サニーサイド学院高等部13年生のとある教室の一角へ。


談笑とおふざけ、噂話に埋もれているこの教室は思ったよりも退屈だ。
こんな世界にいたら、政府の秘密部隊に狙われているなんて感覚を失ってしまいそうになる。能力の事を忘れてしまいそうになってしまう。
だからこそ、ウォークマンを付けている。
しかし、突然、僕の耳に、特に大きな声というわけでもなかったはずなのに噂話が入ってきた。


「おい、『何か別の者』ってこの学園にもいるらしいぜ。」

「まじかー。
この前、1人捕獲されたんだろ?捕獲されたら、どうなるんだろうな。」

「殺されるんだろうな。」

「だよなー。
でも、高校じゃなくて大学の学生に1人いて、それが捕獲されたんだろ?ここにいるわけないじゃん。」
本当はここにいる。
でも、そんなこと言ったら僕は秘密部隊に捕獲されてしまう。ただ、黙って、僕はその人たちのほうを見ていた。
すると、その集団の中のノリのよさそうなヤツがこっちを向いた。


「お前はどう思うんだよ。頼弥、詳しそうじゃん。」

「……え、何?……音楽聞いてて聞こえなかった。」
あえて答えない。
みんなと逆の考えをしている俺はきっと変人だとか言われて笑われてしまうだろうから。
そして、俺のいる教室は再びいつものくだらないことに埋もれた世界へと戻っていった。


                              続く

Re: 星屑逃避。 ( No.15 )
日時: 2015/10/25 17:16
名前: あるみ (ID: 4GQsJGb4)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=237

本編その7 文化祭は子守で手一杯マン


旅行に行ってから1カ月が経った。
先輩はそろそろ就職活動のようで、ゼミと就活でドタバタしていた。僕に組長の仕事が回ってきたくらいに、先輩はかなり忙しくなっていた。僕もそうなるのだろうかと思うと焦ってしまいそうになるものの、まだ
将来の事など何も決まってはいなかった。

そんな先輩と久しぶりに部屋で2人きりになった。
少し緊張する。


「こうやって2人になるのも久しぶりだよね。」

「そうですね……。」

「そういえばそろそろ文化祭……、ってあと1週間もないんだったな。」
そういえばあまり感覚はなかったものの、そろそろ文化祭といってもおかしくない時期にさしかかっていた。
コースの1年生のほとんどは屋台やアトラクション,ゼミの展示を見てまわることを予定に入れていたし、大学内でカップルになった人たちは2人で行動しよう、と楽しそうにしていた。
そういえば、僕は暁さん以外に友達がいなくなってしまった。少しだけ寂しい。ありすの存在は思ったよりも大きかったと今になって思う。


「そういえば、ゼミの発表はどうなったんですか。」

「ああ、どうにかなりそうだよ。御剣は学年で発表とか……あ、そうか、1年は何もないんだったな。」
少ししょげたようになったが、僕が先輩の方に触れるとすぐに僕のほうを見た。
顔が突然近づいてきて、驚いて、僕は顔が熱いなあと思いながら目を反らした。
そういえば、長いまつげが可愛らしくて、それでも男らしい一面を持った先輩は僕にとって理想なんじゃないかって思うようになった。だからこそ、先輩のまつげを見る度に、何だかどきっとしてしまう。


「びっくりした?」

「びっくりさせないでください……。」
先輩はにっと笑うと、僕の頭をくしゃっと撫でた。
余計に僕の顔が熱くなるのを感じた。


「そういえばクリスマスも近いんだよな。っていうか、僕まだ彼女いないしー!」

「……先輩、クリスマスはプロムですよ?」

「げげっ。」
切り替えるようにしてプロムの話題を入れ込むと、先輩は気まずそうな顔をした。


「あ、先輩って気になる人とかいるんですか?いるんだったら今のうちに誘っておいたほうがいいんじゃないんですか?」
聞いている身としては自分だったらどうしようと思って、照れくさくなって下を向いたまま聞いてしまった。
しかし、その質問にはすぐに返答がかえってきた。思ったよりも早い回答だ。

「いるわけないだろ……。」
ちょっとほっとしたけども、ちょっと複雑だ。
先輩の顔を見ないでおいてよかった。そう思いながら、僕はその場に寝転がろうとした。
すると、突然大きなノック音が響いた。


「柚木ー!麗人君ー!」

「あ、綾川先輩!?」
突然の来客に僕と先輩は開いた口がふさがらないようだった。
というか僕そんな名前で呼ばれていたのか……。


「ど、どうした……?」

「頼みがあってきたんだ!
文化祭中、組長とその相方の麗人君に……
ベビーシッターをしてほしくて!」

「「べ、ベビーシッター!?」」
僕たちはさらに慌てた。
赤ん坊の抱き方すら知識のない僕たちにベビーシッターなどできるわけないのだ。


「赤ん坊を預けるんじゃなくて、12歳の双子なんだけどね!どうも寮でうまくいっていないみたいでさ。」

「な、なんだ……驚いた。というか、中等部の人って寮にいたっけ。」

「それが、大学部まで飛び級で来ちゃったらしいんだよね……。」

「「飛び級!!??」」
そういえば噂でうっすらとは聞いたことはあった。
しかし、本当だとは思ってもいなかった。
確かにまあ飛び級で大してレベルの高いわけでもないこの学校に来てしまえば、知識のレベルが合わずに困ってしまうのも当たり前だろう。
僕たちはとりあえずその双子のいる部屋に行くことにした。


「頼弥君、双子ちゃん!入るよー!」
葡萄組というわけで、なんとなく遠くにある組のイメージがあったものの、意外と近い部屋に彼らの部屋はあった。そういえば、夜まで結構騒がしい部屋があったという報告を受けた覚えがある。
そこにはとんでもない光景が広がっていた。

ヘッドホンを付けて現実逃避でもしているかのような青年と、きゃっきゃとはしゃいでいる双子ちゃん。辺りはあまり片づけられていないようだ。
その光景はまるで育児放棄のようだった。ほぼ放っておいているといわれてもおかしくないくらいだ。


「……え、どういうこと。」

「は?」
頼弥君と呼ばれた青年はヘッドホンを全く外す様子がない。人の話を聞くときくらいはヘッドホンを取ったっていいだろうとは思うけど……。僕の前には双子ちゃんがきらきらとした目で見つめていた。


「おにいさん!」

「こら、知らない人に気軽に声かけるなって母さんに言われたろ?」

「だ、だってえ……サチコサンがさっき、ここの人はみんないい人だって言ってたもん。」

「ここでは知らない人は誰もいないと思ってて大丈夫。みんな、守ってくれるよ。」
先輩が2人をなだめると、ほっとしたのか2人は僕たちの周りを走り始めた。ちなみに綾川先輩は頼弥君を連れてどこかへ行ってしまった。多分説教でもされているのだろう。


「文化祭だけ、だよな……。」

「まあ、そうですよね。でも、頼弥君に頼むのはなんだかこの2人に悪いような気がして……。」

「もしかして、卒業するまでずっと、ってことか?」

「いや、ですか?」
先輩のほうを見つめると先輩は苦々しい顔をした。少しだけ迷っているのだろう。


「文化祭のあとに考えよう。」
多分断られるだろう。僕たちが長い間ベビーシッターなんてやっていたら就職活動はどうなるだろう、勉強時間は少し削られてしまうだろう。そう考えると、やはりやめたほうがいいのかもしれないとも思えた。


「ねえねえ、あそぼう!」

「何して遊びたい?」

「うーん……、お外行きたい!鬼ごっこしたい!」

「おにごっこー!」
僕たちは2人を連れて、寮の外へと出た。
空は思ったよりも青く、澄んでいる。双子はきらきらとした目をしながら僕たちを追いかけ始めた。どうやら僕たちが逃げる役らしい。
なるべく遠くへ行かせないようにと遅く走っていたら双子の姿が見えなくなった。
そして、突然、僕の肩に何かがふれた。


「えっ!?」

「つーかまえた!」

「おにいさん遅いよー!」
さっきまで見えなかったのは身長のせいだろうか。そんなことを思いながらも、先輩が不審そうな目をしていたのを見ると、そういうわけでもなさそうだとも思えた。
僕たちが鬼ごっこの続きをしていると、頼弥君と綾川先輩が歩いているのが見えた。


「綾川先輩!」

「あっ、さっきのおねえちゃん!」
2人が指を指したと同時に一瞬にして消えたのを僕は見た。
こんなあからさまに能力を出してくる「何か別の者」がいただろうか。けれども、よく見ていないと分からないくらいにそれは違和感を感じない。


「ほーら、つかまえたっ。」

「おおっと、びっくりしたー!」
綾川先輩がゆっくりと2人を肩からおろしてあげると、頼弥君の様子がおかしいことに気が付いた。そして、先輩がまだ不可解な顔をしていたのを見た。


「……こら……能力を出しちゃいけないってお母さんに言われたでしょう……?」

「ごめんなさあい。」

「うさが能力出すと、僕も能力出ちゃう……。」

「……落ち着いて……対処すれば大丈夫……です。」
その耳で聞いた「能力」で僕は2人が能力を持つ「何か別の者」であることを確信した。
頼弥君が双子の男の子のほうの頭をなでると、にこにこと彼は微笑んだ。頼弥君のほうは全然うれしそうじゃないのに、双子は2人ともにこにこしながら彼を見つめていた。なんだか不思議だ。



「2人とも、もしかして御剣と同じ……。」

「そうですね。おそらく、僕と同じ存在なのでしょう。」
きっと、共通項を持っていると分かった人間には安心して心を傾けられるのだろう。
双子が微笑んでいるわけもわかったような気がした。
もしかすると、頼弥君も同じように「能力」を持った「何か別の者」なのだろう。
頼弥君のほうを向くと、僕に気が付いたのか僕のほうを向いた。その目は僕を睨みつけているようだった。警戒でもされているのだろうか。


「文化祭の時は……あの人たちのところで……いい子にしているのですよ。」

「はあい。」

「頼弥おにいちゃんは行かないの?」

「僕は……高校のほうが……忙しいので。」
頼弥君が手を振ると、2人は僕たちのほうへと走っていった。今度は能力を使わないで、こっちまでやってきてくれた。
2人は横に並んで、僕たちの目の前で自己紹介してくれた。


「僕は白馬おいぬです!うさのことは僕が守ります!」

「私は白馬うさです!おいぬの双子の姉です!」

「おうおう、元気だなー。」

「よろしくねー。僕は御剣 繚っていいます。彼は、島野 柚木です。」

「「よろしくお願いします!繚お兄ちゃん!柚木お兄ちゃん!」」
こんなにいい子なのならば、きっと文化祭のベビーシッターなんて難しいものじゃないだろう。そう思っていた。
裏で、大きな計画が動いているとは知らず……。


—楽しそうな光景からぼんやりとしたスポットライトの前の2人に移りゆく……


「ボスゥ〜、俺たちやりましたよぉお〜。」

「……だからって僕の膝に顔をうずめないでくれないかな、原田。」

「ほら、原田さん。任務報告の時間ですよ〜。ボスの膝から離れましょうね〜。」

「俺を老人ホームのじじぃ扱いするなっつうの。」
いや、お前がそうさせてるんだろ。
そう思いながらも、必死になってボスの膝から原田さんを離した。
原田さんは政府の秘密部隊に所属している銃の名手。仕事の時はかなり真面目で今のところすべての任務を成功に収めているすごい人だ。その様子を見て、私も秘密部隊に所属することになったのだけども……。


「ボスゥ〜、任務報告終わったらハスハスさせてくださぁあい。」

「いい加減にしてくれないかな。」

「ボスが……ボスがはたいてくださった……こんな俺を……こんな……ッ!」

こんな人とは思ってもいなかった。
なんでビンタされてるのに嬉しがっているのかわけがわからない。とりあえず、いわゆる「変態」なのだろう。


「……任務は私が代わりに。今回の星永 ありす、いえ、和央 リコの件でしたね。見事、原田さんの射撃により殺害,捕獲を成功させました。」

「よくやった。……2人にはもう一度あの学校での任務に入ってもらう。あの学校には4人の「何か別の者」がいると断定された。僕の中でね。……その4人の捕獲を頼む。」

「了解しましたぁあ。」

「……了解です。」
「捕獲」なんていうのはかなり残虐的な行為なのに、ボスの微笑みはまるで月のようだ。ボスの髪の色が金髪だからだろうか。
僕はボスの体にくっついた原田さんを引きはがしてから、すぐに部屋を出た。部屋を出た途端に原田さんの態度はいつもの真面目なものへと戻っていった。

……相変わらず、変な人だなあ。


「なんか俺に関して思った事でもあるか?」

「い、いえ……な、ないです。」


                              続く

Re: 星屑逃避。 ( No.16 )
日時: 2015/11/12 22:21
名前: あるみ (ID: J8.0KGEQ)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode



本編その8 文化祭は子守で手一杯マン その2!


「うさ、僕から離れないでね。」

「うん、おいぬ!」
手をつないで歩いていく幼い双子に、僕は自然と微笑みが出てしまうほどであった。
今日はとうとう文化祭だ。
今日までは、頼弥君と一緒に寮の部屋や外で遊ぶことで双子と馴染もうと先輩と必死になっていた。しかし、頼弥君を見る度に、頼弥君の顔は少々苦しそうな表情になり、僕を睨みつけていた。彼とは相変わらずの関係だ。
お互いに慣れない子守に不安を抱えていたものの、今はお互いに、薄いかもしれないが信頼がうまれかけていた。


「あの双子、お互いに守りあいながら育ってきたんだろうな。」

「……先輩は僕らみたいな「何か別の者」の存在が邪魔だとは思わないのですか。」
小声で尋ねてみると、先輩は黙り込んでしまった。
おそらくどちらでもないのだろう。

調べてみた時、何か別の者に対して、今までマスコミが公表してきたものは意外と多くあった。何故、何か別の者が産まれてきたのかはもちろん、何か別の者の影響等も公表されていた。
事実かどうかは定かではないものの、偏見の目で見られてもおかしくはない存在だとは気が付いた。そして、いつか政府の秘密部隊の手によって消される存在であることも知った。知ったからこそ、先輩を巻き込みたくはないし、毎日を大切にしなくてはならないと思うようになった。

先輩にとって同室の、友達よりも長く深く一緒にいる僕はおそらく特別な存在であろう。だからこそ、答えられなくてもおかしくはない。

うさが一瞬転びそうになるのを、おいぬが支えた。


「でもああいうの見てるとさ、必死に生きてるんだなって思えるんだよな。もう、偏見とかどうでもよくなる。
御剣だって、そうじゃないのか?」

「……まあ、おそらく。」
そう言ってもらえて、なんだかうれしかった。幼い子どもが僕たちに与えるものはすごいとはじめて思えた気がする。


「おにいさーん!これほしいー!」
うさが指を指すと、おいぬもぴょんぴょん跳ねながら指を指した。
見ると、高等部の1年生の有志団体がりんご飴を売っていた。そして、そこにいたのは……


「頼弥じゃん。おっはよ。」

「……おはようございます……あ、いらっしゃいませ。」
頼弥君はほぼ一日中この店のシフトに入っているらしい。相当大変そうだなと思うものの、ほとんど無表情であるために気持ちを分かろうとしても分からない。
りんご飴を4人分注文すると、頼弥君はゆったりと4つ分のりんご飴を調理係の女の子から受け取っていた。僕が目を合わせようとすると、頼弥君はすぐに僕から目を反らし、イヤホンを耳に付けた。


「おいしーい!」

「美味しいねー。」
横目でちらりと先輩のほうを見た。
すでに2人とも懐いているようでまるで先輩がお兄さんのように見えた。
うさに関しては先輩におんぶをねだっていて、見ている側としては少々複雑な気分になっていた。
うさのほうを見ると、うさがにこりと微笑んだ。


「うさちゃん?」

「お兄ちゃん、嫉妬してるんだー。」

「えっ?」
その言葉に一瞬戸惑う自分が嫌だった。
こんな時にさえも僕自身の恋心が影響に出てしまうとは思いもしなかった。結構気を遣っていたはずなのにな……。
しかし、先輩はおぶっていたうさをおろした。


「お兄ちゃんにはもうお姫様いるんだからなー。」

「Hou la !そうなのー!?やっぱりお兄ちゃんいめけんだもんね!」
はしゃいでいるうさを見て、僕はほっとした。
先輩の一言がなければ色んな意味でとんでもないことになっていたに違いない。
うさのほうを見て、じとっとした目でおいぬは論した。


「イケメン、だろー?」

「えっへへー。あ、お化け屋敷!うさ、あれ入りたいよー!」
あの見た目はないだろ、というくらいに禍々しい雰囲気が醸し出されている。通り過ぎる度にうさぐらいの子どもが泣いているのを見るくらいにそれは怖そうに見えていた。
しかし、うさもおいぬも平気そうな顔をで並ぶ。先輩と僕もそれに続いて並び始めた。
セーラー服を身に着けたスタッフが説明をはじめ、僕たちが入る時間が来た。4人で同時に入ろうとすると、セーラー服のスタッフは僕たち2人を外に連れ出た。


「恐れ入ります、お客様。このお化け屋敷、2人までしか入れないもので。」
子どもだけで行ってしまって大丈夫なのだろうか、僕らは不安を感じた。というか、このスタッフも子ども連れであることを知っていたのだから子どもから手を放してしまうようなことはしないはずだ。
僕はなぜか我慢できなくて、お化け屋敷の出口で待っていようと出口のほうへと走りこんでいった。

そして、僕を先輩が後ろから追いかけていった

と、僕が思い込んでいた。

出口へと向かうと、突然後ろから手で口をふさがれ、カチャっという音が僕の耳に響く。
嫌な予感しかしない。


「やっと会えたな、御剣 百花。」

「……。」
そこにいたのは、僕に銃を向けた見知らぬ男。
とうとうバレてしまったのだ、政府の秘密部隊に。
ああ、ここで終わりなのだろう。
このまま、僕はしんでしまうのだろう。ありすと同じように……。
でも、せめて、僕はあのことを言っておきたかったな、なんて思いながら地面をじっと見つめていた。
耳に銃弾の音が響き、そのまま目をつむる。

しかし、僕の予想をはるかに超えた事態が起こった。


「お、おい……っ!コイツら意識がなかったわけじゃないのか!どういうことだ!春!」

「わ、私にもはっきりとはわかりません!」

「Arrêtez-le!お兄ちゃんを傷つけないで!」

「お兄ちゃんは何も悪くないよ!」
そこには銃を持ったうさとおいぬが立っていた。その途端、口を押さえつけられていた手が離され、僕は自由の身となった。安心感で体が少しふらついた。

銃声が響いたことで、会場が混乱しはじめてきた。お化け屋敷の出口から慌てて出ていく人が出てくる可能性だってあるはずだ。
僕は急いで、うさとおいぬを連れ、うさが出す能力を駆使しながら逃げた。
そういえば、先輩はどうしたのだろうか。混乱に巻き込まれてはいないだろうか、頭の隅で心配しながらも、今は逃げているしかなかった。


—必死で逃げる3人の風景から、混乱に巻き込まれている1人の男へと風景は移り往く……


「ど、どういうことなんだ……。」
彼、島野 柚木は小声でそんなことを呟きながら走りゆく人たちを見ていた。銃弾はもしかしたら花火だったのかもしれないし、普通に模擬店でガス爆発が起きたのかもしれないのも分からないのに逃げていく人々に彼は戸惑っていた。
というよりか、認めたくなかった。あれは銃弾の音だ、と。
お化け屋敷の出口へと回った御剣を見送ると同時に銃弾を放つような音が聞こえた。その時にはスタッフも誰もおらず、ただ彼はそこで呆然としていたのだ。
常に狙われている彼女を守れないまま生きていくのはなぜか彼にとって息苦しいものを覚えさせた。それが何かは彼には分からない。
というよりか、わかりたくなかった。


「(御剣……生きていてくれ……!)」
せめて生きていてくれと思いながら、彼はお化け屋敷の出口のほうへと体を向けた。
銃弾の響くような音がしたほうへは誰も走ってはいない。そんな閑散とした場所のほうへと走り出そうとすると、さっきスタッフでいたセーラー服の女の子が目の前で転んだ。未だ、彼の周囲は混乱で走りゆく人々でいっぱいだ。踏まれてしまってはきっと痛いだろうと思い、彼は手を差し伸べた。


「ほら、僕の手を握って。」

「あ……え……っ?」

「踏まれちゃうよ?ほら。」
セーラー服の女の子はその手をじっと見つめてから、ゆっくりと手をとった。


「大丈夫かい。」

「は、はい……!大丈夫です。」
お化け屋敷の前にいた時の真面目そうな表情が少しだけ緩んだようにも見えた。
きっと仲間に置いて行かれて寂しい思いをしながら逃げていたのだろう。


「あなたは逃げないのですか?」

「……ああ、後輩があっちのほうにいるらしくて。巻き込まれてなきゃいいんだけどな。」

「そうですね……あっ、すみません。ず、ずっと手なんて握ってしまって……。」
慌てて手を離される。
セーラー服の女の子は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむいていた。こんな時なのに、なぜだろう、心が揺らぐような感覚を覚えた。


「い、いや、いいんだよ。君、仲間に置いて行かれてしまったのだろう?」

「仲間……あっ、原田さん……。原田さーん!どこなんですかあぁあ!原田さーん!」
恥ずかしそうにしていた顔は一瞬にして変わり、『原田さん』という名前を呼びながら心配そうな表情をして走っていった。
多分、相当大切な仲間の1人なんだろうなあと思いながらも、僕も思い出した。
御剣とうさとおいぬを探しているんだった……、と。
混乱の中を走っていくと、見たことのある姿が見えた。


「御剣……!」
呟くように言ったのを彼女は聞き取ったのだろう。すぐに振り向いてくれた。
そして、僕のペースに合わせるように3人はどんどん追い抜かされて、僕と並んだ。


「よかった!御剣もみんな、生きていたんだな!」

「2人が助けてくれたおかげです。」

「僕たちヒーロー!」

「ヒーローになれたよー!」
きらきらした笑顔に僕も笑顔で返してあげた。
そっと、隣で走る御剣の手を握った。何を感じたのか、彼女はすぐに手を握り返してくれた。
さっきの心の揺らぎは何だったのだろうか。
僕はぽかぽかと心が温まるのを感じていた。そして、認めたくない感情を認めかけていることに気が付いていた。


                              続く


Re: 星屑逃避。 ( No.17 )
日時: 2015/11/12 22:27
名前: あるみ (ID: J8.0KGEQ)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode


こんばんは、あるみです。
無事に御剣たちの学校の文化祭が終わり、いよいよエピローグへと差し掛かってきました。
私の学校の文化祭もまあ最近終わったんですけどねww(どうでもいい話)
いよいよ、御剣の能力とかまあいろいろ登場してくると思います。
恋愛混じりのほんわか小説も陰りが見えてきそうな……?
あ、オリジナルキャラクターはまだ募集しています。
応募したい方は上のURLから飛んでいただければと思います。(もし飛べなかったら言ってくださいー!)どしどし応募してくださいねー!


ではではー


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