複雑・ファジー小説
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- 星屑逃避。
- 日時: 2015/09/19 21:54
- 名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=237
—もし逃げられるのならば、
ども、こんにちは。あるみです。
自由に書いていこうと思っています。
ちなみにメインは異性愛モノなのですが、あんまり書いたことないジャンルなので、今から書いていくのが楽しみです。
/あるみについて
もともと数年前にとある名前で小説カキコにて活動していましたが、受験勉強を理由に引退しました。
現在その名前でわかってもらえるような人はいないということと、改めて活動していきたいということで名前を変えました。
/この小説について
書いていくにあたって、ジャンルにすごく迷いました。
オチをもう決めてしまっているので、そのオチの内容からこのジャンルにしました。もし、ご指摘等あればよろしくお願いします。
/この小説にコメント等をくださった方
・風死さん
・
・
/目次
>>01 設定(基本編)
>>02 設定(登場人物編)
>>03 プロローグ1
>>04 プロローグ2
>>05 プロローグ3 (プロローグ終わり)
- Re: 星屑逃避。 ( No.2 )
- 日時: 2016/01/01 23:08
- 名前: あるみ (ID: Z8ESlzgW)
≪主なキャラクター≫ たぶんふえるよ
・御剣 百花(みつるぎ ももか)/御剣 繚(みつるぎ りょう) 18
れっきとした女の子の体をしているが、親には男として厳しく育てられた。とある事情により名前を2つ持っているが、「百花」のほうは滅多に使わない。
幼いころから厳しく育てられた故に年上の人間を苦手とする。
気を強く持っており、清楚で真面目。しかし、異常に不器用で世間知らず。大人しいように見えて実はそうでもない。趣味は女の子っぽいものが多く、ウサギが好き。
いわゆる「麗人」であるため、女子からの評判は高いほう。ショートカットの黒い髪の毛にきりりとした目と女子としては高い身長(174㎝)を持つため、女だということがバレたことはない。
聖サニーサイド学院16年生の総合理学部生物コース所属。寮は林檎組に入っている。
・星永 ありす(ほしなが ありす) 18 ♀
入学してから注目されることの多い美少女。彼女の微笑みはどんな男も撃ち落す。ほぼ無口であり、筆談で話すこともあるため、噂では「しゃべれないんじゃないか」とも言われている。しかし、本当に心を開いた人には喋る(?)。
普段はおっとりしていて、マイペース。案外頭が弱い。とある秘密を持っている。繚と同じく174㎝の高身長で、ロリータ服を好む。長い金髪をピンクのリボンで結んでおり、青い瞳(カラコン)を持つ。
聖サニーサイド学院16年生の総合理学部化学コース所属。寮は無花果組に入っている。
・暁 美紅(あかつき みく) 18 ♀
繚と同じクラスメート。男勝りで、器用。しかし、集団行動を苦手とする。黒髪のロングヘアを1つに結んでおり、少々筋肉質な体型。
アニメオタクであり、音楽オタク。趣味はアニメの影響ではじめたサバゲー。聖サニーサイド学院16年生の総合理学部生物コース所属。
・島野 柚木(しまの ゆずき) 21 ♂
とあるきっかけにより、繚のルームメイトとなる。
前髪で隠れて目が見れない。ぼさぼさした黒髪。
穏やかで優しい性格だが、時折メンヘラ化する。自分の事を「ダメ人間」と自虐することもある。仲間想いのしっかり者(?)。林檎組の組長。聖サニーサイド学院18年生の総合理学部情報コース所属。
・綾川 あこ(あやかわ あこ) 19 ♀
明るく、前向きでポジティブ。甘いもの好き。数学がなによりも好きで、数学のことなら右に出るものはいない。赤い髪の毛をショートカットにしており、前髪は若干V字型を描いている。林檎組の副組長。聖サニーサイド学院大学部18年生の総合理学部数学コース所属。
・雨宿 頼弥(あまやど らいや) 16 ♂
無口。表情は乏しいが、感情は割と豊か。人と積極的には関わりたがらない。栗色のうなじ辺りまでのさらりとした髪に濃紺の瞳。少し痩せている。どういうわけかウォークマンを肌身離さず持っている。聖サニーサイド学院高等部13年生。寮は葡萄組に入っている。
・爽野 恋(さわの こう) 21 ♂
普段は女子に人気の爽やか系。裏は性格が悪く自分のことしか基本考えない。だがしかしいいヤツ。茶髪の短髪に右耳ピアス。赤茶色の眼。180cmの正統派イケメン。桃組の組長。聖サニーサイド学院大学部18年生の総合文学部心理コース所属。
・白馬 うさ(しらうま うさ) 12 ♀
普段は大人しいが、純粋で素直。可愛いものが大好きな女の子。
しかし、何故か高い知能を持っているために大学まで飛び級でやってきた。11歳までフランスに留学していたため、途中でフランス語が出てきてしまうことも。黒髪のツインテールにうさぎの髪飾りが付いている。聖サニーサイド学院大学部16年生の総合文学部史学コース所属。寮は葡萄組に入っている。
・白馬 おいぬ(しらうま おいぬ) 12 ♂
明るく、純粋で素直。うさの双子の弟。
うさと同じく高い知能を持っているために大学まで飛び級でやってきた。うさとは違い、留学経験はないが、多くのバイオリンコンクールで最優秀賞を取るほど音楽の才能はある。シスコン。黒髪のショートカット。聖サニーサイド学院大学部16年生の総合文学部音楽コース所属。寮は葡萄組に入っている。
・桐生 歩(きりゅう あゆむ) 17 ♂
基本あざとく 腹黒い。自分の可愛さを存分に出す術を知っている。計算高い戦略家。生意気な性格。誰に対してもタメ口。萌え袖カーディガンとピンクの点パ,黒いたれ目が特徴的。桃組の副組長。聖サニーサイド学院高等部15年生。
・原田 透(はらだ とおる) 28 ♂
政府の秘密部隊に所属している。秘密部隊の制服である喪服を常に着ている。仕事中は生真面目で真剣だが、ボスの前でははたかれたとしてもデレデレになる。武器は銃、秘密部隊の中では銃の名手といわれるくらい。
・井上 春(いのうえ はる) 18 ♀
政府の秘密部隊に所属している。秘密部隊の中でも一番若い。秘密部隊の制服である喪服はサイズがないため、就職活動で使用したスーツかセーラー服を着ている。生真面目だが、その反面ぶっとんだ考えをすることもある。武器はメイス。
・風間 司(かざま つかさ) 17 ♀
春と同じ時期に入隊した一番若い隊員。目にかからない程度の長さの少し跳ねた黒髪。緋色の目。黒いモッズコートを着ている。細身。無口、冷静、無表情。無慈悲。戦闘時、無駄話はほとんどしない。武器はスナイパーライフルとショットガンを使い分けるが、肉弾戦も得意。
・サチコサン ? ♂
寮の管理と寮母を担当している。いろいろと謎が多い人。
- Re: 星屑逃避。 ( No.3 )
- 日時: 2015/09/06 00:46
- 名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
プロローグ1 この部屋から飛び出して
幼いころから、僕は「僕」だった。
おかしいと気が付いたのは小学四年生の時、保健の授業で衝撃を受けてからだろうか。
『女の子には男の子にあるものがない。
女の子は成長すると胸が膨らみ、定期的に生理というものがはじまる。
女の子は男の子と違ってひげが生えたり、急速に身長が伸びたり、筋肉が付いたりはしない。』
聞いた瞬間、自分が「女」であることに気が付いてしまった。
僕は帰ってから母親と父親に自分の名前と性別を聞いた。
けれども、答えはいつだって同じで……。
「あなたは御剣 繚でしょ。立派な男に決まってるじゃない。」
「お前は御剣 繚だ。お前を男として、男らしく育ててきたのだから……まあ、男だってのには間違いないな。」
けれども、自分の体は「男」じゃない。ひげも生えないし、声変わりもしないのだから「女」に決まっているのだ。
そうやって戸惑って、数年数か月の歳月が過ぎて……。
親が真夜中に晩酌をしているところをふと覗いてしまったのがいけなかったのだろうか。僕はとんでもないことを聞いてしまった。
「繚はどうだ。剣道と柔道はだいぶ上達して、もうすぐ大きな大会に出るというじゃないか。」
「あら、このときは『百花』だって約束したでしょう。あの子は私が産んだ立派な女の子なのよ。」
「そうだったな……。百花も可愛そうだよな。俺たちの起こした争いのせいで……他の子どもと違う子どもになってしまった。」
「私だって最初はびっくりしたわ。でも、こうやって3人でひっそり生活するのも、幸せよ。あなたと百花がいるんだもの。
だからこそ、あの子を守るためなのよね……。」
僕はびっくりして、何も言えなくなってしまった。
—「百花」って誰?「立派な女の子」ってどういうこと?
嘘にまみれたこの生活。なんで騙されていたんだろう。
僕はそのまま2人の前に飛び出してしまった。
「繚!?」
「お、お前……。」
「百花って、誰。」
2人ともあまりの驚きで呆然としているみたいだった。
怒りで胸がいっぱいになるのを感じながら、吐き出すようにいろいろなことを言ったような気がする。
父さんは何度僕を殴っただろうか、母さんは何度僕たちを止めようとしたろうか。もう記憶にはない。
その晩から、僕たち家族は2つに割れてしまった。
……
17歳になって、そろそろ進路のことについて考えなきゃいけない時期が来た。というかすでにほとんどの人が行きたい大学や専門学校を考えていて、はっきりと決まっていなかったのは僕くらいだった気がする。
ある日、担任の先生が僕の愛読本を見つめながら1枚の紙を見せてくれた。それは『聖サニーサイド学院大学部』の大学案内であった。
「受けてみない?ちょうど、貴方がよく読んでいる本の分野に合った場所がこの大学にあるの。」
「そうなんですか。」
3秒くらい考えて、担任の先生に受けることを告げた。その後、その紙を受け取った。
そこにあった『総合理学部生物コース』という文字を僕はすぐに見つけた。ああ、ここかもしれないと思いながら職員室へと向かい、担任の先生をすぐに呼んだ。
「先生。僕、このコースに行きたいです。どうすれば入れますか。」
「あら、やっぱりそこを選んだのね。そうね……、もしかすると指定校に入ってたかもしれないから、調べてみるわ。」
調べてみると、本当にあった。どうやら、聖サニーサイド学院はかなり前から指定校として入っていたようで、今年も当然のように入っていた。
僕はすぐに親に大学へ行こうとしていることを言った。しかし、学校名を聞くなり、2人は顔をしかめてしまった。
「お前には悪いんだが……もっといい大学はあるんじゃないか?」
「そうね。それにすぐに決めるものじゃないわよ。近くに体育大学もあるんだから……。」
「それでも、僕は自分で入ろうって決め「うるさい!!」
父さんは僕を殴りつけた。でも、僕はそれだけで説き伏せられるような「男」じゃない。僕には強い心があるのだから。
僕は体の大きな父さんの足を引っ掛けて、投げつけた。母さんが止めようとした瞬間、僕は額の部分に違和感を感じた。
何かが裂けるような、感覚。
「繚!」
悲鳴のように母さんは僕を呼んだ。
しかし、額の違和感が癒されることはない。何故だろう、だんだんと視界がぐらぐらとして、ほんの一瞬だけ何かが解き放たれたような感覚がした。
気が付けば、僕は自分の部屋のベッドで眠っていた。
「……繚、起きたのね。」
「母さん。」
「今日の事は忘れてしまいなさい。」
「どうして?もしかして、さっきのことも……。」
母さんは1つ溜息をついて、窓のほうを向いた。
空はまだ青くて、意識をなくして少ししか経っていないことを告げていた。
嘘ばかりだった母さんも今回は話してくれた。とんでもない内容だったけど、僕はなんとなく受け入れることが出来た。
「繚、貴方の名前は……本当は百花なのよ。
貴方が綺麗に美しく育つように、そう願って付けたわ。
でも、貴方が産まれて少し経った頃、貴方が怪我をしたときに気が付いたの。大きな擦り傷がまばたきしないうちに消えてた……。
その時、『貴方は普通の人間じゃない。何か別の者なのね。』って。
百花、信じてくれないかもしれないけれども、貴方は普通の子じゃないの。それから……どこかで狙われているのは間違いないわ。
だから、私たちのそばを離れないで!お願い!」
僕は少しだけ考えた。このままじゃ、家族の中で「親不孝者」と父さんに叱られてしまうかもしれない。でも、そんなことはもう慣れた。
僕は小さな声で、呟くように母さんのほうを向いた。
「……ごめんなさい。」
もうこの心を動かすことが出来ない。ああ、ごめんなさい。
僕は心臓の底がぶるりと震えたような気がした。
その後、僕は担任に指定校試験を受けることを伝えた。
母さんは黙っていたのか、父さんが怒りを露わにすることはなかった。僕は本気で大学へ行くことを決意し、試験勉強に励んだ。
そして、試験を受け、無事に受かることが出来たのだった。
しかし、僕の本当の闘いはこれからだということを知らなかった。
友達も、恋も、優しさも、世間が隠しているものも、何も知らなかった僕は部屋を飛び出したばかりだった。
だからこそ、喜びと自由で胸がいっぱいで、大学という場所へ行くことが楽しみで仕方がなかった。
縛られた鎖が解き放たれる時が来た。
「いってきます。」
早朝は日の出の光がまぶしくて、瞳の中できらきらと輝いている。
黙って、大きなキャリーバッグと小さなリュックサックを持って、僕は出ていった。
住むところなんて見つからなくても友達の家に泊まればいい。
大学の資料も全部、持っていけるものは持って行った。
歩いていると、誰かが走ってくる音がした。こんな朝早くにマラソンをする人が近所にいるのだろうかと思いながら振り返ってみると、
そこには母さんがいた。
「百花!」
「母さん!?」
「こ、これ……通帳とハンコ。貴方が生きている証よ。どんな時も手放しちゃいけない。約束して頂戴。
貴方は今日から自由の身。きっとつらいこともあるわ。
それでも、百花の前に広がる道と周りの人を信じなさい。
父さんは最後まで百花に嘘をついていたけど、それは愛なのよ。母さんが百花の味方だったのも、愛なの。忘れないで。」
外で呼ばれたのははじめてだったものだから、慣れなくて妙な気分だった。
無理やり受け取るような感じで受け取った通帳とハンコを小さなリュックサックにしまいこんだ。黙ってうなずいて、僕は母さんとは逆を向くと、歩きはじめた。
—ああ、愛ってなんだろう。
—嘘も愛だって、そんなのいわゆる『大人の都合』を押し付けられてる みたい。
そう思いながら、母さんのほうを向かないように、前をずっと向いていた。
「やっぱり、父さんも母さんも、嘘つきなんじゃないか。
子どもに散々押し付けて……。なんだか信じ込んでた僕がバカみたい。大嫌い、親なんて……。さよなら、もうここには来ないよ。」
多分その顔は笑ってるつもりだったけど、笑ってなかったと思う。
続く
- Re: 星屑逃避。 ( No.4 )
- 日時: 2015/09/06 21:20
- 名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
プロローグ2 僕の知らない人たち
電車に乗って1時間揺られて、ひなた町へと到着した。
思ったよりも遠かったが、穏やかな学生街という感じだ。
何百人もの人が不安と楽しみを胸にこの大学へと向かうのを見て、僕も少しだけわくわくしてきた。
会場へと向かい、手続きをすますと、総合理学部と書かれた看板が付いた近くの椅子に座った。
みんな緊張しているのか、誰もしゃべることはない。
遠くのほうはざわざわと騒いでいるような声がしており、この堅苦しい空気をどうにかしなきゃなあと思っていた。
隣にいる近づきがたい感じの雰囲気を出している女の子にでも話しかけてみようかと思い、そっちのほうを向いて微笑んだ。
「はじめまして、君は生物コース?」
そう言うと、女の子はぎっと僕のほうを睨んだが、すぐに顔をほころばせて首を横に振った。
「違うわ。私は化学コースなの。
ああ、はじめまして。私は星永 ありすよ。」
「僕は御剣 繚っていうんだ。」
「繚君ね。いい名前じゃないの。
ねえ、私たち友達になりましょうよ。きっといい友達になれるわ。
携帯の番号、教えるね。」
こんなところで電話番号を交換するとは思わなかった。
思ったよりも美少女って感じで、ふんわりとした口調に周りの人々はざわつきはじめた。
「ここはね、総合理学部と総合文学部があるのよ。
2つの学部しかないのにコースが多いなんて、まるで国立大学みたいよね。でも、そこから選ぶのって大変じゃなかった?」
「ううん。すぐに此処かなあって感じて。」
「うらやましいわ。私、1週間くらい迷って決めたの。
ここの化学コースは実験の多いコースだから、きっと充実しているかなあって。生物コースもよさそうだなって考えたけど……。」
さっきまで知らない人だったのに、友達になっちゃうと結構いろいろ話せちゃうんだなあと思いながら入学式がはじまるのを待った。
左隣に誰かがまた座った。調子がよかったのか、僕はその人にも微笑みかけた。
「はじめまして。君は生物コース?」
「……あ、はい。」
大人しそうな人だなあと思いながら、僕はいろいろと話してみた。
趣味の事や習い事の事、いろいろと話してみると次第にその人も心を開いてきたようだった。しかし、ありすは黙り込んでしまった。
「俺は暁 美紅っていうんだ。まあ、なんと呼んでもいいよ。」
「ああ、よろしく。そういえば、自己紹介していなかったね。
僕は、御剣 繚っていうんだ。よろしく。」
「まあ、同じコースだし、仲良くしていこうぜ。」
僕はありすが黙り込んでいることに気づかないまま、入学式まで暁さんと話し続けた。
僕よりも器用そうで世渡り上手って感じだ。僕と同じように指定校で入ったらしい。
「お、そろそろ始まるみたいだな。」
「そうだね。ちょっと楽しみかもしれない。」
「ただの入学式に楽しみだなんて、変わった奴。」
軽やかな明るい音楽と共に教授の人や学長さんが入っていくのを僕たちは拍手をしながら見つめていた。
今から大学生活がはじまると思うと、僕は胸がわくわくして止まらなかった。あの縛られた環境からいなくなれることが本当にうれしかったのだ。
入学式が終わり、コースごとに説明会などが終わるとそれぞれ帰ることとなった。
暁さんは入学式に来ていたらしい両親と連絡をとり、すぐに帰ってしまった。それにしても、はじめて自分から友達を作ることが出来たような気がする。
でも、僕には帰る場所がない。そういえば、何も決めていなかった。
コインロッカーから荷物をとりだし、1人でふらふらと歩き始めた。きっとネットカフェくらいはあるだろうと思いながら歩いていると、少し背の高い男性がじっと立っていた。金髪の短い髪を綺麗にまとめているからか、髪の毛がきらきらと太陽に当たって輝いていた。
僕はそれをじっと見つめていた。すると、僕に気が付いたのか、振り向いてその人は微笑んでくれた。
「どうしたんだい。ここに来る人がいるなんて、珍しいね。いや、でも、君のような人が来るとは思ってはいたけど。」
「え。」
「帰る場所、あるのかい。」
知らない年上っぽい人に帰る場所があるのか聞かれるとは思ってもいなかった。図星だったのかすぐに家なしであることがバレてしまった。
「ふふふ。君は嘘が下手なんだね。
この学校では、いろんな人に頼るといいよ。たとえ、君の苦手な大人の人でも、頼ってみたらいい人だったりするからね。」
「う……、はい。」
「僕が帰る場所を見つけてあげるよ。
あ、寮なんてどうかな。
この学園の寮はね、家族の許可がいるんだけども……まあ、僕が家族だって思えばいいさ。優しい人ばかり集まっているから、もしものことがあればきっと君を守ってくれるよ。」
この人はとても優しいのだなと思いながら、僕は寮という場所までついていってもらうこととなった。
寮は思ったよりも大きくて、見た目は煉瓦で作られた城のようだった。2つの場所に分かれているらしく、その場所を結ぶように大きな橋のようなものも煉瓦で作られていた。
「まるで、お城のようだろう。君みたいな女の子には人気だよ。」
「えっ。」
「あれ、君、女の子じゃないの。」
「お、男です……。」
驚いた。女の子とバレないようにショートカットの流行っているような髪型にしていたはずなのに、バレていたなんて。
「まあ、いいや。
ああ、ちなみに僕が管理しているところだし、僕がお兄さんだと言えば許可されているんだなって誰だって考えてくれるさ。」
「えっ、管理人さんなんですか!?」
僕はまた驚いた。
あのミステリアスな感じの容姿からは考えられないことであったから。
「じゃあ、行こうか。ええっと、もう一度確認するけど、男?」
「男です!」
寮の中は単なるマンションという感じで、僕は外と中のギャップにまた驚きそうになった。
こつこつと2人の靴音だけが重なって聞こえていた。どうやら、すでに新入生も寮の部屋でくつろいでいるらしく、誰も外へは出ないようだ。
そして、『300』と書かれた部屋へと僕たちは足を止めた。
「ここはいわゆる組長室。ああ、言っていなかったね、君は今日から『林檎組』に入るんだ。
同じ組の人と仲良くするんだよ。もちろん、他の組の人とも。
じゃあ、挨拶しに行こうか。」
その人はすぐに扉を開けた。中は少しごちゃごちゃとした部屋と共に一人の男の人がいた。その人は前髪のせいでうまく目を見ることができない。そして、とにかく髪の毛がぼさぼさとしていて、青色のジーンズと白いシャツを見に纏っていた。
「ええと、島野君。今日から林檎組に入る新入生だよ。」
「あれ、新入生は全員挨拶終わったって、先ほど報告があったはずじゃ……。」
「え?そうだったかな。ああ、そんなことよりも。
組長さんの新年度最初の仕事ね。彼は僕の兄弟なのだけども、手続き違いで違う組にいたみたいで。」
「……残念ですけど、余ってる部屋なんてないですよ。
葡萄組のほうに行けばまだ余ってるんじゃないですか。」
それを聞いて、その人は落胆したような表情をしたが、すぐに何を思いついたのか冷静な表情を取り戻した。
「あ、君の部屋が空いているじゃないか。」
「確かに……、っていいんですか。僕の部屋で。」
「いいよ。いつも一人部屋で悪かったなあとは思ってるし。」
「全くですよ……。
僕のほうはいいですけど、サチコサンはどうなんですか。」
「もちろん。じゃあ、僕はこれで。」
その人はサチコサンと呼ばれているようだ。何故だろう、どう見ても女の人じゃないのに、奇妙な名前で呼ばれている。
サチコサンが去っていき、僕と男の人の2人になった。年上のように見えて、なんだか緊張してしまう。こういう時にこそ、年上の人間と2人になるのは嫌だった。
「ああ、入って。こんなにたくさんの荷物、大変だっただろ。」
「は、はい……。」
こんな緊張ははじめてだった。
震えかける足を落ち着かせるように歩き、荷物を部屋に入れた。思ったよりもケースが大きくてどこの場所に置こうか迷っていたが、余っていたらしいクローゼットを男の人は譲ってくれた。
そして、荷物の準備が終わって、僕は小さなクッションの上に座った。見つめてみると、意外といい人そう。だけど、やっぱり前髪が気になってしまう。
「僕は島野 柚木っていうんだ。今は大学3年生で、この学校でいう18年生さ。」
「ぼ、僕は……、御剣 繚っていいます。
総合理学部生物コース所属の16年生です。」
「真面目な自己紹介だね……。
僕は総合理学部情報コース所属なんだ。多分、何も情報は与えられないだろうけども、お互い仲良くいこうぜ。」
「は、はい……!」
差し出された手をゆっくりとつかみ、震えそうになるのをこらえながら、握手した。
その手と、その微笑みは暖かくて、僕の胸を何度も溶かしかけていた。それがどんな感情なのか、僕はまだ知らない。ただ、いつも抱えているものや、与えられるものとは違う感情。
なんでだろう、この人が気になるような、気にならないような。
続く
- Re: 星屑逃避。 ( No.5 )
- 日時: 2015/09/09 14:19
- 名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
プロローグ3 僕の周りのもっと周り
大学に入って一週間が経った。
あいかわらず、友達はほとんどできない。
というよりか、中学も高校も1人だったから、友達をたくさん作る方法なんて忘れてしまったのだろう。
それでも、暁さんは仲良くしてくれるし、寮の人も優しい。それから、勉強はもっと楽しく感じられるようになった。いや、大学だから学問かな。
あの時、少し気になった島野先輩はゼミで遅く帰ってくることが多く、最近はほとんど話せていない。
そんなことを考えながら、食堂でぼんやりしていると暁さんが声をかけてきた。
「おう、どうしたんだよ。」
「え、ああ……いや。」
「なんか、ぼんやりしてる御剣って、珍しいな。
もしかして、恋?」
少しぎくっとしかけたが、島野先輩にそんな感情を抱いているわけがない。そして、抱いたとしても叶うものではないだろう。
「いやいや、こんな僕が恋なんてしたって、誰一人振り向かないよ。」
「そうか?コースの中じゃ、お前の噂はすげえ広まってるぜ。
御剣 繚は男の中の麗人、ってさ。」
僕は驚いた。
麗人という言葉は聞いたことがあった。しかし、僕が「麗人」だと言われていると思うと、照れてしまう。綺麗とか、美しいと言われたことのない僕にとっては驚いてしまうほどの褒め言葉なのかもしれない。
「麗人、か……。」
「まあ、俺も麗人だって思うけどな。」
「えっ。」
そう言うと、暁さんはすっと目を反らした。
そして、また僕を見てにかりと笑った。
「本気にするなよ。実は、俺にも恋人っていうのがいてな!」
「女?」
「違う。ちゃんとした男だよ!
とびきりいい奴でさ、俺の趣味を全部じゃないけど、受け止めてくれる。一緒にいると、お前と喋ってるときよりの3倍くらい楽しいよ。」
それにも驚いた。
暁さんは彼氏のことをしゃべっている間、嬉しそうにしていた。
なんだか、意外な一面だ。
「まあ、御剣も出来ると思うよ。あっ、星永ありすって子、どうだよ。化学コースだけど、こっちにも噂が出てるあたり、かなりの美少女だぜ。」
そういえばありすと携帯電話の番号を交換していたが、大学や寮でやることが多くて電話をする機会さえなかった。そして、ありすの存在ごと僕の中では消えていた。
しまったと思い、僕は携帯電話を取り出した。しかし、ありすから僕に電話をしたというデータは1つもなかった。
「そういえばありすと電話番号を交換してたんだった。」
「え!?!?」
「そ、そんな大声出さないでよ……周りの人が見てるよ。」
「わ、わかってるけど……、星永ありすってさ、全くしゃべらないんだよ。俺たちが話しかけても何も言わないで、微笑むだけなんだ。」
ありすがほとんど無口だとは思わなかった。そう思うと、なんだか心配だった。
ありすがコースや大学に溶け込めていないのではないかと思った。入学式の時、あんなにしゃべっていたのに、何故しゃべらなくなったのだろう。僕は大学の講義が終わった後に電話をしようと思った。
食堂にはテレビがいくつか付いているが、珍しいような内容の番組はあまりやっていない。どれを見ても前の番組のパクリとか地味だとか、感じてしまう。
しかし、今日だけは違った。
「珍しいな、あの戦争に関するニュースか……。」
「戦争?」
「御剣は日本史選択じゃなかったんだな。」
高校時代に日本史をやった覚えのない僕は、暁さんの言う「あの戦争」がよく分からなかった。確かに平成時代に平成という名前を打ち破るが如く醜い争いが行われたとは薄々聞いたことがあった。
「あの戦争は、俺たちの親世代が起こしたものなんだ。
使われたとある兵器によって、その子らの一部に何等かの障害が出るようになったらしいのさ。」
「それは病気という範囲にとらわれない、特異的なものだった。その障害を引き起こしてしまった子を人々は 何か別の者 と呼ぶ。……じゃなかったかしら。」
「ありす!」
久しぶりの姿に僕は大声で名前を呼んでしまうくらいだった。ありすは手を振って微笑んでくれた。
初対面らしい暁さんは少しもオドオドせず、ありすに向けて笑みを浮かべていた。
「詳しいんだな。」
「ニュースでよくやっていたじゃない。ふふふ……。
ねえ、繚君と話してもいいかしら。いろいろと彼とはお話ししたいの。」
「どうぞ、どうぞ。」
ありすに腕を掴まれ、そのまま僕は食堂の外へと連れ出された。振り向けば、暁さんがにやつきながら手を振っていた。
僕は心も体も女の子なのに、世の中は僕を男の子と呼ぶのだ。ありすが女の子だということは分かっているものの、このまま付き合うということになれば……大変なことになりそうだ。
「……ふう、やっぱりこの声は楽じゃないね。」
「!?」
一瞬影のあるところに来てしまったからか、誰の声なのか分からなかった。低くて、それでも何処かに暖かさを抱えている声。僕はとかくに戸惑ったが、その声が腕を掴んだままのありすのほうから出ていることに気が付いた。
「ありす……?」
「ありす、だよ。世の中は星永ありすというね、僕のことを。」
ぞっとした。僕は騙されていたのだ。
腕を振りほどいて逃げてしまいたかった。
それくらいに、僕はありすのことを信じていたのだ。
「僕は星永ありすと呼ばれているけど、本当は……。」
その声と共に何かが外れた音がした。
そして、僕の目の前には……
「和央 リコっていうんだ。」
あまりにも濃い化粧に違和感を感じるほどの短い黒髪の男がいた。
—この人、ありすなのかな。
そう思いながらも、僕はそっと近づいた。
すると、いつのまにやら離されていた腕をまた掴まれた。その力は男ということがバレたこともあって、強い。男という性別を持つありすが、女らしさをも兼ねそろえ、それを使い分けるのはすごいことだなと思った。
「ど、どういうことだよ。」
「繚君も隠しているんだよね。」
「えっ。」
「僕だって、隠していた。その理由は分かる?
決して女になりたいわけじゃなかったんだ。」
簡易化粧落としのようなペーパーで顔をふき取ったらしいありすは、ほとんど男といってもいいような顔をしていた。それから、あまりにも顔がととのいすぎていた。
これなら、男として生きていたとしてもちやほやされて当たり前だろうというくらいに。
「僕は何か別の者、だから。」
「え?」
「もしかして……、君は本当に違ったかな。
僕は【人肌に触れる】という部分だけ見れば、普通の人間とはほとんど違うんだ。
人肌に触れることで、僕はその人の性質を見ることが出来るし、その人の性質を知っているからこそ、変えることだってできる。
例えば、今、君に触れていることで、君の血管の配置を変えて、殺すことだって……出来る。」
「まさか……近づいたのって。」
「君も同じように、何か別の者だからね。」
衝撃的であった。僕は普通の人間じゃないんだ。
いや、女の体をしているのにも関わらず、男装しているあたりもう普通じゃないけども。
優しい声は意外にも冷酷なことを言っていた。しかし、いくら腕を振りほどこうとしても振りほどけない。
「え……、本当に殺す気?」
「だって、知らないうちに死んでしまったほうが、君のためになるじゃないか。
だって、君、男じゃないんでしょ?でも、なんで男じゃないのに男の恰好をしているのか、分からないんだよね?」
腕への力が緩み、僕は一瞬だけ解放された。
その手はそっと胸元のほうに伸ばされた。そのまま胸元に触れ、柔らかな部分を掴んだ。
「ほら、やっぱりだよ……。こんなに此処が柔らかい人、繚君みたいな細身の男の子なら、いないに等しい。」
「や、やめろ……!」
その笑みは、花さえ散らない。少し残った彼の、血液のように赤い口紅と不似合なピンクのロリータ服が目の中に焼き付いていくようだった。心臓の高鳴りが激しくなっていくのを感じた。
「このまま女を感じながら死ぬのも悪くない、かな。」
「おーい!御剣!……って、誰だこのホモ野郎!」
物陰に隠れていたのに、暁さんにバレてしまった。
暁さんは誰にも見せたことないであろう鬼のような形相であった。
僕はその表情を見た途端、心臓の高鳴りが頂点に達するのを感じた。そして、意識が一気に振り落とされたように消えた。
……
気づけば僕は大学の保健室らしい場所で眠っていた。
時計を見ると、昼休みの後に受けようとしていた講義はすでに終わっていた。
そのままベッドから降りて、カーテンを開けると保健室の先生はにこりと微笑んだ。
「大丈夫?貴方、失神しちゃったのよ。」
「し、失神……。あ、先生、講義のほうは……。」
「体調不良だから欠席になっていると思うわ。
まあ、普段からちゃんとした生活してるって寮の管理人さんには言っていたから、大きな損失にはならないと思うけども。」
「管理人さん……?え、じゃあ、運んでくれたのって、管理人さんなんですか。」
「いいえ、違うわよ。私はただ聞いただけ。
失神した時は……、すごい顔で可愛らしい女の子が運んで来たわね。」
きっと暁さんが運んできてくれたのだろう。
優しい人だなと思いながら、僕はまたベッドへと戻った。
これ以上授業はない。
少し休んでから寮へ戻ったほうが心配されないだろう。
携帯電話のSNSに登録してある暁さんのページに『ありがとう』と送ると、僕は再び眠りについた。
寮へと戻ったのは夕日が夜空に色を変えていくくらいの時であった。
僕が戻っている途中、見覚えのある後姿があった。
「先輩……。」
呟いても、聞こえないくらいの距離。
先輩はもちろん気が付いてくれない。
ふらふらと歩く姿と相変わらずぼさぼさの髪の毛はなおしたほうがいいだろう。
そんなことを考えながら、少しずつ早歩きになっていく僕がいた。
なんでだろう、気になってなんかないのに。
「あれ、御剣?」
「あ、先輩。こんばんは。」
追いついてしまった。こんな早歩きになったのは久しぶりだ。
「珍しいね。この時間まで講義?」
「いえ。ちょっと寝込んでしまっていて……。」
「えっ、大丈夫?」
「今は大丈夫です。先輩はもう寮に戻られるのですか。」
安心した表情になった先輩を見て、僕も安心した。
というか2人きりで話したのは久しぶりだろうと思う。
先輩がうなずくと、僕は冷静を装いながら一緒に帰ることとなった。
親の事や寮に入ることになった経緯を嘘偽りなく、ただし「女であること」だけは隠しながら話した。
にこにこと笑う先輩に僕は少しだけ心が温まるような気持ちになれた。年上なのに、こんなにたくさんのことをしゃべれる人はきっと先輩以外にはいない。
世界はきっと何か別の者である僕に対して残酷だろう。
しかし、先輩と一緒にいるこの時間だけは何故だか残酷には思えない自分がいた。
続く
- Re: 星屑逃避。 ( No.6 )
- 日時: 2015/09/09 10:12
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: pcVc9ZHc)
私の小説のオリキャラ投票に投票いただき有難うございましたあるみ様!
大学生で髪型を男の髪型にするくらいで、女性が男性扱いされるというのはいささか以上に疑問です。
御剣少年(少女? 青年? 女史??)ある意味凄いなぁ。というか御剣というとどうしても逆転検事のミッちゃんを思い浮かべてしまう。
どうでも良い話でしたね。
今後更新頑張って下さい。