複雑・ファジー小説

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 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

星屑逃避。
日時: 2015/09/19 21:54
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=237

—もし逃げられるのならば、


ども、こんにちは。あるみです。
自由に書いていこうと思っています。
ちなみにメインは異性愛モノなのですが、あんまり書いたことないジャンルなので、今から書いていくのが楽しみです。

/あるみについて
もともと数年前にとある名前で小説カキコにて活動していましたが、受験勉強を理由に引退しました。
現在その名前でわかってもらえるような人はいないということと、改めて活動していきたいということで名前を変えました。

/この小説について
書いていくにあたって、ジャンルにすごく迷いました。
オチをもう決めてしまっているので、そのオチの内容からこのジャンルにしました。もし、ご指摘等あればよろしくお願いします。

/この小説にコメント等をくださった方
・風死さん



/目次

>>01 設定(基本編)
>>02 設定(登場人物編)
>>03 プロローグ1
>>04 プロローグ2
>>05 プロローグ3 (プロローグ終わり)

Re: 星屑逃避。 ( No.7 )
日時: 2015/09/09 14:29
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)


風死さん

コメントありがとうございます。
いえいえ、風死さんの小説がよいものになることを祈っております。そして、私の投稿したキャラクターが何かの支えになれれば幸いです。
この小説を書く前にかなり宝塚を観てまして……、そんなこんなで繚君のイメージはベルばらやエリザベート等にかなり感化されてます。あとはリボンの騎士あたりでしょうか。
やはり逆転検事のほうを思い出されましたか!名前と設定を決めてから私は気づいてしまって。でも代わりの名前が出ないのでそのままにしました( ´∀` )彼は御剣検事とは全く関わりのない人物というのは確かですね……。

Re: 星屑逃避。 ( No.8 )
日時: 2015/09/12 20:51
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)



本編その1 鳴り響く携帯と対話

ありすが「男」とわかって丁度一週間だったと思う。
僕は携帯が鳴っていることに気が付いた。
先輩は隣の布団でぐっすりと眠っている。毎日ゼミや講義で忙しいのだろう。
携帯をそっと開けると、そこにはありすの名前があった。


「もしもし、ありす?」
聞きやすいようにゆっくりと、それでも小さな声で僕は言った。
それくらいに僕は緊張していた。何せ、ありすがありすでなかったところを見てしまったのだから。


「……今から、来てほしい。」

「えっ?」

「とりあえず、部屋の外で待ってて。300でしょ?」

「うん。」
僕はそっと携帯を閉じ、布団から出た。
結構物音をさせてしまっているのに、先輩が起きる様子はない。
僕が300から出ていくと同時に、ありすの姿が見えた。
今は完全に化粧を落としてしまっているようで、服装以外に違和感を感じることはない。


「ありす……?」
ネグリジェ姿のありすはにこりと微笑んだ。
その笑みはこの前の笑みとは全く違う、優しいものであった。
僕はそれでも妖しく思えた。もしかして、また殺しにきたんじゃないかと思ったのだ。


「着いて来て。」
囁くように言われ、僕は着いていく。誰かがドアを開けないか、僕らを見ていないか、不安を抱えながら。
ありすにはかなり歩かされた気がする。同じような道を通っているのではないかと考えてしまうこともあった。でも何処かにちゃんと目的があるような気がして逃げ出せなかった。
最終的に僕らは談話室に来たようだ。談話室は普段から閉まっていることが多いものの、ありすがドアノブを握ってじっとしていると、開いたような音がした。談話室へと入ると、そこには小さなソファがいくつかある程度で、裸電球の明かりくらいしか光はなかった。


「この前さ、君を殺そうとしたでしょ?でも、殺せなかった。
まあ、もう二度と君を狙うことはなさそうだね。
あんなにボコボコにされるとは、ね。」

「……用があって僕を呼び出したんだろ。」

「知りたいでしょ、 何か別の者 について。」
僕は自分が何か別の者であることをうまく認識できていなかった。今だってそうだ。ありすに言われて、はじめて認めてみようかと思っているくらいで。


「あの戦争で使われたとある兵器によって、戦後生まれた子どもたちの中には生まれつき障害を持つ子どもが生まれるようになっていって……。
それで……それが、病気という範囲にとらわれない、特異的なものだっていわれるようになっちゃって。
それで、僕らのような何か特殊な能力を持つ子どもを何か別の者と呼ぶようになった。」
この前と同じようなことを言っているような気がする。
ありすの言っていることはうまく理解できなかったものの、なんとなく分かるような気がした。

「いわゆる僕らは障がい者ってこと?」

「うーん、そうかも。でも、障がい者だって、ちゃんとした人間だし、仲良くできるようにルールだって作られてる。
僕らは違う。」

「違う?」

「僕らはあの争い以前に予想されてこなかった者だ。上の人間にとっては厄介な存在だと思われている。だから、バレてしまえば、政府によって隠されて、殺される。」
僕はあまりの衝撃に自分の心臓の音がよく聞こえた。
母さんや父さんが僕の正体を必死に隠そうとしていたのも分かるような気がした。
それを18になるまで知らないままだったとは、僕は今まで何を知って生きていたのだろう。


「本当に知らなかった?」

「うん。知らなかった……。
僕が、男のまま生きなくちゃいけない理由もわかったよ。」

「多分だけど、知られている。君の、苗字を知って気づいた。
御剣……本当は、百花って名前だろ。」
僕はその名前を久しぶりに聞いたような気がして、衝動的にうなずいてしまった。
嗚僕は繚って名前であるけれども、本当は百花なのだ。かつては、それを名乗るのはなんだか変なような気がしてたまらなかった。
だけども、今日だけは違う。何故だか、ありすには言えるような気がして。同じ なにか別の者 だからだろうか。


「僕は……。いや、私は御剣 百花……、本当は百花なの、さ。」
絞り切るような声で、いつのまにか震えていた。いつも出そうと意識している少し低めの声が少しだけ高くなったような気がする。


「わ、和央 リコ。これが僕の本当の名前。性別も名前もすべて偽ってる。
それは、僕が狙われているから。すでに、君と共に なにか別の者 として政府が隠している機関にバレてる。」

「じゃあ、リコはどうしてここへ来たの?1人で……。」
少しでも百花でいたくて、少しずつ女の子が使うような言葉を使ってみる。ありす、否、リコは少し陰りのある表情をした。そんな顔を、僕は見たことがなかった。


「なんとなく、かな。」
裸電球が揺らぐように煌めいた。
多分嘘だと思う。でも、その声は聞いちゃいけないと言っているような気もして、何も言えなかった。


「死んじゃっても、いいかな……って。」

「死んじゃったら、私でなくなっちゃう。
嘘をずっと貫くなんてこと、できないわ。
だから、親の知らない間にいなくなってしまったっていいかなって思った。」

「だけど、僕には夢が出来た。
いつか、自由になろうって。研究者になって、僕は日本から出る。別の国籍を持つ!そしたら、僕はきっと生まれ変われるんだ!

あ、ねえ、夢って持ってる?」
リコの陰りのあった表情がやがて輝きを取り戻していったことに気がついた。こんなに輝く瞳は、はじめて見たような気がする。
多分、ありすのままでこんな瞳をしていたならば、きっと僕は惚れてしまっていただろう。
ただ、夢について聞かれて、僕は戸惑った。


「ない、かな。大学で探そうって思ってたから……。」
そう言うと、リコは「そっか」と一言言うだけだった。
よく聞いていなかったが、少し眠たげな声だったような気がする。僕も突然呼ばれて目が覚めていたものの、眠い。
そのまま、僕は目をつむってしまった。


……


「繚君、ん……起きて。」
その声で僕は目が覚めた。
いつのまにやら、ありすの体に肩を寄せているように眠っていたらしい。それに気が付くと同時に、ありすがリコであるという意識が心に染みついてしまったのか、一瞬どきりとした。
いつものように女の子のような声を出しているありすを見つめてみたが、外見がリコだからかとにかく違和感しかない。


「リ……ありす?あ、しまった!」

「行こう……じゃなくて、行きましょう。」
ありすに手を伸ばされたが、僕が何も起こさないと頬を膨らませた。しかし、すぐに僕を見て笑った。僕も笑ってしまった。
お互い、1人の中に秘めた2つのものを知ってしまったのだから当たり前だ。


「今、リコって呼ぼうとしたでしょ?」

「ありすだって、リコの時の態度になっちゃってたもん!」
朝5時、起きたばかりにも関わらず、僕たちは笑っていた。
その声が聞こえてしまったのか、誰かが扉を開く音がした。僕とありすは体をびくっと振るわせて、そのまま黙り込んだ。


「せ、先輩……!」

「なんか面白いことでもあった?あれ、君って喋ることが出来ないんじゃ……。」

「わ、私……その……。」
ありすが僕のほうを向いた。
その姿でうるんだ目をされても、困るというか気味が悪い。
というか先輩はリコの姿をしているのにも関わらず、何故ありすだと分かるのだろうか。

「ありすは恥ずかしがり屋で!だから、演劇の練習を一緒にして、恥ずかしくならないようにトレーニングしていたんです!あ、ああ、ええと。」
しょげたような表情をする僕に先輩は近づいた。そして、じろじろと見られた。じろじろと視線を意識してしまうと、僕はどうしていいか分からなかった。
戸惑う僕を見て、ありすはくすくすと笑いはじめた。


「ど、どうかされましたか……?」

「いや……気のせいだよな。御剣が女なわけないよな……。」

「まあ、私が男だとお思いで?」

「あ、い、いや……そんなことはないんだけども。」
ありすの少し怖い表情はよくいる女の子の怒り顔と同じだ。やっと、リコはありすへと変わった。
僕が少しほっとした表情を見せると、またありすは笑った。


「どうしてそんなに笑うんだい。」

「い、いいえ……なんでもありません。あ、私、そろそろ行かなくちゃ。それじゃ、また……。」
そう言って、ソファの上からおりようとした時、ふと耳にささやかれた。


「応援してるからね。」
走り去るありすに手を振ると、僕は先輩のほうを向いた。腕のほうにあたたかな体温が染み渡ったように思えて、もしかしてありすは僕の心拍数か何かで感じ取ってしまったのかもしれない。

                              続く

Re: 星屑逃避。 ( No.9 )
日時: 2015/09/13 20:52
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)



本編その2 世界は残酷だけれども、それでも星は輝く


もうすぐ講義によっては中間テストがある。
講義をする人たちによって内容が様々であるため、どのようにして対策を取ればいいのかいまいちよく分かっていなかった。
しかし、なんだかんだでうまく対策を取ることはできるような気がしてきた……
とある1科目以外は。


「暁さん、どうしよう。あの教科だけ全然理解できないんだけど……。」


「数学入門?俺もあれに関しては全然分からねえな……全く聞かずに授業受けてたし。
でも、御剣と同じ部屋の奴って情報コースなんだろ?多分、似たことはやってるんじゃねえの?
あー、羨ましいぜ。」

「ボーイフレンドはどうなんだよ。」

「あー、アイツ?アイツなら詳しいかもな。」
暁さんは少し苦笑いしていた。その訳が僕には分からなかったし、聞こうと思うこともなかった。
その話から逸れたようなたわいもない話をしながら、2人で笑っていた。
すると、見知らぬ人が僕に話しかけてきた。


「ねえ、柚木がどこ行ったか知らない?」

「え、あ、朝は……い、居たと思いま……す。」

「それがいないんだよ!組長会議はあと5分で始まるっていうのに……。」
困った顔をしたその人に僕は無言になってしまった。
これでも、まだ先輩にしか慣れていない人なのだ。いや、こんなに早く慣れるなんて珍しいことだ。
元々両親に厳しく育てられ、それに加えて厳しい先生が多くいる習い事,厳しい規則の学校へ通っていたために僕は大人にどのような態度で接していればいいのか分からないのだから。


「その先輩って組長だから3年生なんですよね?ゼミ室のほうにはいきましたか?」

「そこは最初に行ったんだけど……、今日は体調不良だとか言ってたらしくて。
もし見つけたら寮のほうに連絡をくれない?」
僕はただただ頷いた。
先輩がどこかに走っていくと、暁さんは珍しいものでも見ているかのような表情をして僕を見た。


「御剣らしくないぜ。どうしたんだよ。」

「え、あ……なんでもないよ。それにしても、年上の人とも平然を保ちながら話せるなんて、すごいね。」

「え?
……もしかして、御剣って年上の人に厳しくされてた感じ?」
僕はこくりと小さくうなずいた。
両親に厳しく育てられたことを知っていた暁さんは僕の方に手をぽんと置いた。


「暁さん……?」

「まあ、過去なんて気にするんじゃねえぜ。
おっと、慣れてない感じか?」

「い、いや……別に。暁さんってボディタッチとか普通にする?」

「うーん、慣れた人にはするかもな。俺だって初対面には緊張するんだから。」
僕は暁さんに微笑んだ。暁さんも照れくさそうに微笑む。
はじめて女の子にボディタッチをされたような気がする。それが少しだけうれしかった。


「あ、俺はこっちだから。じゃあな。」
何だか暁さんのほうが男らしいような……、そんなことを思いながら僕は手を振り返した。
ただ、先輩のことが少しだけまだ心配だった。僕は久しぶりに寮まで遠回りして帰ろうと思った。もしかすると見つかるかもしれないと思ったからだ。
まずは、6,7号館を歩いてみようと思った。そこには小さな休憩室のような小屋があり、ふらふらと歩いてみた。しかし、いない。特別第一実験棟のあたりにもいなかった。
そろそろ寮にたどり着いてしまうと思いながら、歩いていくとさっきの先輩といなくなっていた先輩が2人で歩いているのをみた。


「柚木〜、どこ行ってんのよ。ばーか!」

「あ、ああ……ごめん。」

「ほら、早くしないと!みんな待ってるんだから!」
さっきの先輩に押されながら、とぼとぼと走り始めた先輩を見て僕は一瞬だけショックを感じた。
しかし、男の人にだって女友達が何人いても当たり前なのだろうという認識は多少なりともあったからか、すぐにそのショックも消えてしまった。

夜になり、夕食をすまして帰ってくると、部屋に先輩がいた。


「先輩、ご苦労様です。」

「あ、御剣か……。」
やけにぽかんとしているし、気分も沈んでいるような……。
僕は何をすればいいのか分からないけれども、話を聞いてみることにした。


「どうかされたのですか?」

「ん、いや……。」
先輩は特に何も言わなかった。
話を聞いても何も言わない先輩に僕は何もできなかった。ただ、いつものように交代でシャワーを浴びたり、本を読んだり、課題に時間を費やすだけ。
寝る前に先輩が寝ているほうを向くと、先輩はまだ眠っていなかった。布団を敷いたらいつもはすぐに眠るはずなのに今日は眠れないらしい。


「……ああ、そういえば、君も探してくれたんだよね。ありがとう。」

「い、いえ。」
ほとんど何もしていないのに、何だか照れくさい。


「今度、副組長のことはちゃんと紹介しなきゃなあ。御剣が来る1時間前に組長やら副組長の紹介とか入寮式があったからさ。
来てないんだろ、入寮式。」

「はい。」
入寮式にいないこと自体おかしなことのはずなのに、先輩はこれ以上何も言わなかった。
多分鈍感なのか、優しいのか、無関心なのかのどれかだと思う。


「綾川はね、数学コースなんだよ。誰よりも数学が好きで……。だから俺たちの中では学者にでもなるんじゃないかって思うんだよな。
それから、誰よりも前向きだからさ、たまに突進しすぎて俺とかにはきつくなる時があるんだよ。」

「は、はあ……。」

「まあ、俺がダメな奴ってのもあるけどな。」
ネガティブなことを言いながら笑う先輩は、何だか悲しそうだった。
なぜか、僕の心の中にあるリミッターのようなものが切れる音がした。


「先輩は別にダメってわけじゃないと思います……。組長として、仕事はしていると思います。
それに、自分でそんな悲しいこと、決めつけちゃダメですよ。余計自分の中で、暗くなっちゃいます。」
暗くて先輩の表情は分からなかった。ただ、その後は黙ったままで、僕は気まずい思いでしかなかった。
僕はそっぽを向くように、先輩の布団とは逆向きに体を向けて眠った。


「……そう、だよな。」
そうつぶやく先輩の声を聞きながら、僕は眠りの世界へと体を沈ませていった。

真夜中の一瞬だけ、目が覚めたような気がした。
そんな時、誰かが出ていくような、扉の閉まる音がして、僕は先輩が出て行ってしまったのだなと思った。

—どこへ行ってしまうのだろう

そう思い、僕はそうっと起き上がった。
隣はもぬけの殻で、先輩がどこかへ行ってしまったのだなということをすぐに認識した。
トイレは部屋の中にもある。わざわざ部屋の外まで出てトイレに行くのだろうか。
僕はなるべく物音を立てないように先輩のあとをつけることにした。

何度か先輩が振り向く時があって、何だかそれがスリルがあっていいというかゾクゾクする自分がいた。そして、それが何だか楽しくて、クスクス笑ってしまいそうになる時があった。
そして、先輩はあの談話室の中へと入っていった。
談話室の中で、1人になってすることなんて、思いつかないなあと思いながら僕は偶然を装いながら入っていった。
すると、談話室の窓から出ていく先輩がいた。
僕も窓からそっと出ていくと、つまづきそうになった。その時に鳴らしてしまった土の音に先輩は振り向いてしまった。


「御剣……?」

「せ、先輩。」
どうしよう、見つかってしまった。
思ったよりも気まずい。
胸の中に苦々しいものが残ったような気分になった。


「見つかっちゃったかあ。」
溜息混じりでそんなことを言う先輩に怒られると思って、僕はふと身構えてしまった。
しかし、それを見た先輩はにこにこと笑うだけだった。


「別に悪い事だとは思ってないよ。ちょっとびっくりしてついてきちゃったんだろ?」

「は、はい。」

「こんな時に副組長がいてよかったな。ほら、来なよ。」
副組長は、午後に先輩のことを聞いてきた人と同一人物だった。
赤い髪の毛は森のような場所で見ると、暗くても目立つなあと思いながら、僕は副組長のほうを向いた。


「分かってるよ〜!
あ、君が組長室の子?私、綾川あこ!よろしく!」

「よ、よろしくお願いします。」
にこにこと笑う綾川先輩につられて、僕も笑った。
が、何だか初対面の年上の人にはどうにも慣れなくて、心臓の音がよく聞こえるくらいにどきどきしていた。


「ほら、緊張しないでいいよ!私とたった1個違いなんだから。
で、君も行くの?天体観測。」

「て、天体観測?」

「僕が急にいなくなるから不安で着いてきたらしいんだよ。」
そう言うと、綾川先輩は大笑いした。
僕は何だか恥ずかしい。

3人で行った天体観測はとても楽しかった。知らない星をたくさん知れたし、綾川先輩とも少しだけうまく話せるようになった。
でも、2人きりのほうがよかったの……かも?そんなことを一瞬考えてしまったが、すぐに僕は綺麗な星空に夢中になっていた。


                              続く

Re: 星屑逃避。 ( No.10 )
日時: 2015/09/18 23:21
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=237


本編その3 僕を悩ませる黒い虫


なんだかんだで期末テストが終わって、夏休み。
ちなみに中間も期末もまずまずの結果って感じだ。
寮生活をしていると、何故だか生活習慣がついて、部活もしていない分、勉強にはよく集中できたような気がする。
そんな僕だけど、先輩とは相変わらずで……。

そんなこんなで、僕は夏休みの初日を迎えていた。


「今日は僕と綾川の手伝いをしてくれないかな。」

「はい。」
先輩と僕は綾川先輩の部屋へと行った。
部屋に入ると、そこには綾川先輩しかいなかった。
相変わらず、赤いショートカットは目立つ。
数学の気難しい英語の本を読んでいたようで、僕たちが来るとびっくりして本と一緒に飛び上がった。


「綾川〜、大丈夫か?」

「はえっ!?びっくりしたよ、もう!」

「今日はお手伝いに来ました。」
僕をじーっとみる綾川先輩に僕は微笑むと、体をびくっとさせた。
隣にいた先輩はあきれ顔だ。


「あれっ、天体観測の時は何も感じてなかったのに……!
なんていうかさ、麗人?だよね?」

「は、はあ……。」
なんだか照れくさくて、首の後ろを手で撫で上げた。
先輩は僕にもあきれ顔をした。


「あれ、柚木……嫉妬してるの〜?この子が麗人だからってさあ?」

「し、嫉妬はしてないから……。それで、手伝いは?」

「ああ、そうだった!
あのね、談話室の掃除を手伝ってほしくて!
裸電球も切れかけてて、虫もいっぱい出てきちゃってるし……、そんなときに男性陣の出番じゃないかなあって。」
ありすと真夜中に喋っていたあの談話室のことだろう。
あれ以降、全く談話室には行ったことがなかった。
夏になると一番、寮の森に近い場所であるためか虫がぶんぶんと飛んでいるようだ。
本当は生物コースの人や環境系の部活に入っている人たちが虫取りをしに行くのに適した場所として使われていたらしいが、今回は誰も来る予定がないらしい。


「頼りにしてるよ!」

「綾川は来るわけ?」

「私も行きたいけどなー、他の場所の掃除もあるからね!私は1人で調理場とトイレ掃除!
あ、君と同じ学年のありすちゃんっているでしょ?あの子も手伝ってくれるんだって!」
ありすのことを知っているようだ。さすが、副組長。
というかありすという言葉を他人から聞くのは久しぶりだ。
組長は2つも仕事をしようとしている副組長を心配していたが、強制的に談話室掃除の担当になってしまった。


「2つもやってくれるなんて、さすが女子だなー。」
女子、という言葉になぜか背中がぞくっとした。
しかし、僕は気にしないふりをしてうなずいた。


「それにしてもさ、僕が羨んでも仕方ないと思うんだけど、やっぱり御剣は麗人って感じだよな。こう、今はやりの中性的、みたいな。」

「あ、ありがとうございます。」
そういえば、いつだか覚えていないが久しぶりに先輩に褒められた。褒められたっていうか、羨ましがられただけかもしれないけれども。
綾川先輩とは別の担当になってしまったものの、僕は運よく先輩と2人きりになるチャンスが出来た。そう思うと、ほんわかと暖かい気持ち。
せっかくだから、何か聞いてみようかな。

談話室へと着くと、先輩から談話室の掃除の方法を教わった。
そして、僕は談話室にある本の整理と棚ふき,虫の捕獲担当となった。先輩は窓ふきと床の掃除,裸電球の取り換え担当だ。
本を整理しているうちに何だか夢中になって、何か聞こうと思ったことさえ忘れてしまった。無言になった僕に先輩は窓を吹きながら話しかけてきた。


「サークルとか入らないの?」

「いや……入らないです。僕には寮がありますから。」

「そうかー……、まあ門限もあるから部活とかあると場合によっては時間オーバーしちゃうこともあるかもしれないからね。
でも、寮が居場所だと思えるとかすごいな……。」

「僕がはじめて居心地がいいと思えた『家』なんです。」
確かにそうだ。
僕を縛り、男だと否定を続けたあの家が大嫌いだったからこその答えだ。しかし、僕は心の奥底で、先輩が好きだから寮が好きになれたのかもしれないとも考えていた。
先輩がゼミから帰ってくるのを待っている時間も、先輩と一緒にご飯を食べたり、寝る時間さえ、僕にとっては心を温まらせるものだ。
だからこそ、寮が居場所だと思えるのだろう。


「そう、なのか……。そういえば、家が厳しいって言ってたな。
変な質問して、ごめんね。」

「いいですよ。よく聞かれますから。
そういえば、先輩って映画とか観るんですか?」

「うーん、僕は……、たまーに?映画、好きなの?」

「はい。気分転換で映画館まで行って観に行っていたんです。」
先輩はそうなのかあ、と言うのみで、僕もなぜか照れくさくなって何も言えなかった。
ここで、映画に誘えば、もっと2人きりの時間が出来るのになあ。そんなことを思いながら、先輩と一緒に映画へ行くことを妄想しながら、棚を拭き始めた。


「映画館かあ……。」
そんなことを言いながら、先輩は窓の外のほうを向いた。


「……行きます?」

「……今度ね。」
にやりと笑いながら言われた瞬間、心の中で花弁が飛び散るような勢いで喜びが舞い上がった。先輩は僕の事を男だと思っているだろう。けれども、僕の心は女になりかけている。
こんなこと、高校でも中学でもなかったのに。

僕は棚を全部拭き終わると、壁のあちこちを数匹もの虫がうろついているのを見た。ほとんどは黒い羽根を持ち、甲虫類のようだった。けれども、決して、普段見かけるようなゴキブリというわけではない。小さくて、僕が見ているうちにも増えていくのが少し恐ろしかった。
先輩は床掃除を終わらせ、僕の仕事の手伝いをしてくれるようだった。裸電球は綺麗に掃除され、より明るく、白い光を放っている。
それに向かって、その黒い虫は飛んで行った。けれども、あのブーンといった嫌な音は立てない。静かに飛んでいく。


「多分、卵があると思うんだよね。探してみるよ。」

「ありがとうございます。」
先輩は壁のあちこちを見ながら、卵らしきものを探し始めた。眉間にしわを寄せかけている先輩の表情は意外にも渋くて、なんだかかっこいい。でも、見とれているわけにはいかなかった。
僕はスプレー缶を取り出した。そして、吹きかけてみると、何匹かがスプレーの液体に張り付いたようになった。しかし、脚をばたばたと動かすばかりだ。
スプレーを吹きかけていると、ブチッという音と共に光が揺らいだ。そして、僕の目の前にあの黒い虫が落ちていくのが分かった。
その途端、何故かスプレーを手放してしまい、鈍い音を立てながら、僕は……。


「きゃああああああああ……っ!」

「御剣!?」
先輩が駆け寄ってきた。卵らしきものを見つけたようで、先輩もスプレーを持っていた。
ああ、あんな甲高い悲鳴を聞いてしまったら、僕が女だなんてことはバレてしまうだろう。それにしても、何故、虫1匹に向かってぎゃあぎゃあ騒いでしまったのだろう。謎すぎる。


「だ、大丈夫?」

「……は、はい。すみません、変な声出しちゃって。」

「いや、そうじゃなくて、虫……。」
僕はやけになったようにスプレーで虫に吹きかけた。相変わらず、どの虫もスプレーの液体にはりつけられるように固まり、脚をもがくように動き続けていた。


「僕にそっくりだ。」

「え?」

「いや、なんでもないです。先輩、卵のほうはどうなりましたか?」
僕は蠅叩きを棚から取り出し、虫をつぶし始めた。
どれも運悪くメスのようで、つぶすたびに白い卵のようなものがはみ出た。
正直、気持ちが悪い。


「全部片づけられたと思うよ。あ、僕、綾川に言っておくね。そろそろ成虫のほうも全滅できそうだし。」

「はい。」
ついでに中に入ってきたコオロギやムカデ,何故か太陽に向かって飛び跳ねているミミズにスプレーを吹きかけた。どれも、スプレーの液体に張り付いたようになり、脚だけを動かしていた。ミミズはすぐに動かなくなり、素手でつかんでも、手に絡みつくようなことはしなかった。

あの黒い虫は、僕だ。
自分が世界の人々と異なった構造をしているから男でいなくてはならない
ということにとらわれて、張り付いて、
僕は
先輩に向かって、現実に向かって、
脚をもがき続けるだけだ。


「なんでなんだろ……。」

「なーに、溜息吐いているの?」

「!?」
僕は驚いて、足をすべらせた。
このままだと、僕の体の後ろは全部虫の死骸でいっぱいになってしまう。僕は黙って目をつむった。
すると、何故か誰かの腕のようなものが支えているのが分かった。
目をそっと開くと


「せ、先輩……。」

「こら、あんまり驚かせるんじゃないよ。」
その目は少しだけ真剣で、僕は改めて先輩に惚れ直してしまったような気がした。


「それにしても、御剣……軽いな。」

「えっ。」
先輩はそっと僕を立たせてくれた。
優しいなと思っていたのに、その発言は失礼すぎるだろう。僕はわざと怒って見せようと口を開きかけていた。


「綾川、仕事を終わらせたらありすちゃんを呼んでくれないかな。
車、運転できるから、久しぶりに遠くの町まで飲みに行くか。」

「おおっ!いいじゃん!
丁度、ありすちゃんも今からこっちに来るらしいから、このまま窓の外から車まで突撃しよう!」

「そうだ……待って、それは裸足で行けって『そういうこともあるかと思って、用意しておいたんです』
そう書いた紙を突然つきつけられた先輩は目を丸くした。
そこには、4人分のサンダルが入ったビニール袋を持っているありすがいた。
相変わらず、その微笑みは心を撃ち落されそうだ。まあ正体は分かってはいるが。


『行きましょう。』

「さすがだね。」
僕に向かって、ありすは紙を隔ててこっそりウィンクした。
『がんばれ』とでも言いたいのだろう。
多分、今日はもうがんばれない。2人きりって緊張するし、変な悲鳴あげちゃうし……。

しかし、この時は突然の飲み会でハプニングが起こるとは思いもしなかった。


                              続く


Re: 星屑逃避。 ( No.11 )
日時: 2015/09/19 21:53
名前: あるみ (ID: 7fiqUJfO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=237



本編その4 君は知りすぎた


「しぇ、しぇんぱい〜……。」

「お、おい、大丈夫かよ。」

『もしかして、繚君ってはじめてお酒飲んだ感じ?』
僕はうまく話せなくなりそうなくらいにお酒を飲んでしまっていた。
お肉と、野菜と、ラーメン……それからもう4杯目になるであろうウーロンハイ。
もとはといえば、先輩が隣にいるのが悪いのだ。とにかく緊張してしまって、あの悲鳴の事が気になって、勝手に気まずい思いをしながら飲んでいたのが……。
考えることすら、難しくなっていくような気がした。


「酔っても麗人っていうか……目が潤むから余計綺麗に見えるよねー。あ、柚木は飲んじゃだめだよー!御剣君の見送り係だから!私とありすはこのまま2軒目ねー。」

「そうだな。このまま2軒目行ったら、ヤバそうだし、僕が送ろう。」

「えへへへ〜。」
素直に思ったことが出てきてしまう。僕は変な声をまた出してしまった。でれでれで、体の熱に任せて言葉を発してしまう。
隣の先輩がどんな顔をしているのかも、実質あんまり分からなかった。ありすがウーロン茶を飲み切ると、僕たちは店を出た。今回は先輩の2人がおごってくれるらしい。


「1年生の頃は飲みに誘われたら行ったほうがいいよ。だいたいのところはおごってくれるからな。」

『やっぱり、そうですよね〜』
ぶっちゃけ、ありすは紙に文字を書いて会話を続けていたが、酔っているのかミミズのようなひょろひょろとした文字が目立っていたような気がする。

先輩の車の補助席に乗せられ、僕たちは寮に帰ることとなった。
何を話したかは覚えていない。
多分寝てたんだと思う。
いつのまにやら、寮には着いており、僕は1人で部屋にいた。


「……ん、あれ?」
もちろんお酒の効能はなくなっており、酔ってる感覚は全くない。
僕は酔いが醒めたのだと思った。
そして、僕の部屋に突然見知らぬ男の人が入ってきた。
誰だ、コイツ。


「……あの、何か用ですか。」

「僕だけど。」

「えっ……。」
まさかだと思った。


「ええええええ!?待ってください!!先輩ですか!?島野先輩なんですか!?」

「そうだよ。
……覚えてないの?」
何も覚えてない。
僕の中ではとにかく混乱していて、酔いとかもう関係なくなっていた。
何もせず、眠っていたのかと思っていた。


「君が酔いに酔ってしまったのは別によかったんだけど……。
寮に戻ってきて、僕がトイレに行ってるうちにカバンの中を探ってたから何だと思ったら
ハサミだったわけで。
そのハサミで……、あとは分かるだろ?」

「!!??」
とりあえず衝撃しか走らない。
体の体温が一気に下がって、顔が真っ青になっていく感覚がした。
まずい。僕、やってしまったのか。
ついに……、先輩の髪を切ってしまったのか。


「ええと……すみませんでした!」

「……いいよ。丁度、切ってみたかったんだ。」
先輩は決してイケメンとかそういう枠に入っているわけではない。ほっぺたはそばかすのようなものがいっぱいあって、赤毛のアンみたいだ。
一重なのか二重なのか分からないが、ぱっちりとした目が僕を見つめていた。今度は前髪というフィルターなしだ。
何だか、照れくさくて、目を伏せてしまった。


「まあ、そんなにしょげるなよ。俺の前髪がちょっとなくなったって、そんなに変わること、ないだろ?」

「は、はい……。」

「あ、そうだった。僕、ゼミの途中で忘れ物取りに来たんだった。
また後でな。」
にこりと笑った先輩の笑顔は思ったよりも綺麗だった。
なんていうか、また惚れていた。もう何重に惚れているんだが。
僕は少し荒らしたような跡が残っているカバンからうさぎの人形を取り出した。
先輩がいない時はうさぎの人形と話しているようになった。防音機能がついたこの寮では別に誰にバレることはない。


「なんか、かっこよかったよね〜。君もそう思うだろ?」
うさぎの人形に無理やり頷かせると、僕は人形に抱きついた。
そして、寝っ転がって、ばたばたとする。


「僕の大好きな先輩……し、島野先輩。」

「!?」

「……え゛っ!?」
ちょっと待った。
先輩はさっき部屋を出たはずなのに。


「お、お前……。」
僕はあまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になって、体温が一気に上がった。今日はこんなに体温が変化したら風邪でも引くんじゃないかレベルで変化が激しい。
体が固まって、逃げられない。


「お前、うさぎが好きなのか?」

「はへぇっ!?そっちかい!
す、好きですよ!はい、うさぎ大好きです!」
動揺する僕に先輩は困り顔をした。
とりあえず名前を呼んだことに関しては気づいていない様子だ。
よかった。とりあえず、よかった。


「本当は、何か隠している……の?」

「えっ。」

「動揺しすぎだっての。隠してるだろー。ライオンも好きなのか?」

「い、いや……、隠し事なんてしてないです。そもそも、僕たち同室なのに何も隠す事ないじゃないですか。」
先輩は疑いの目を向けたまま、ゼミ室へと行ってしまった。今日はゼミの合宿の打ち合わせがあるんだっけ。大変そうだなと思いながら、僕は再びうさぎの人形と戯れるのだった。

夏休みはあっという間に過ぎていった。
先輩はゼミ合宿へ行ったり、サークルの旅行へ行ったりとなんだかんだ忙しそうだった。その間に先輩の前髪は伸びたかというと……意外と伸びるのは遅い感じのようだ。
そして、あっという間に季節は秋へと傾きつつあったのだ。

僕は夜になって、部屋に付いているシャワールームで汗を流していた。何もしていないわけでもなく、寮の手伝いや組長の代理で仕事をすることのあったので、なんだかんだで僕もいろいろとやっていることが多かった。
先輩は旅行から帰ったばかりで、眠っていた。今のうちに入っておけば、先輩が間違って入ってくるであろうトラブルを避けられると思ったからだ。

しかし、その予想は大きく外れていた。僕は気づかなかった。
突然扉が開き、無防備な僕の前に先輩が来た。


「せ、先輩!?」

「寮に入ってから、入ったことなかったろ?風呂。」
驚きのあまり、シャワールームに取り付けられている湯船に飛び込むようにして入った。
運よく、泡風呂でよかったと思う。
僕がほっとすると、先輩はすぐに湯船へと入った。僕の事をまだ男だと思っているからか、距離が近い。


「本当、麗人って言われて当然の顔と体だよな。」

「そ、そうですかね……。」
ああ、僕は本当は、女なのに。
でも、ここでバレたら、逃げてしまうかもしれない。


「腕とかさ、女みたいで……でもちゃんと筋肉があるんだよな。」
先輩は僕の腕や脚に触れてきた。な、なんだこれ……、僕が本当に男だったら嫌がって普通に逃げてるんだろうなあと思う。けれども、体が固まって、動けない。心臓がどきどきとする。
コイツ、ホモなのか……!?


「先輩も筋肉とかあるんじゃないんですかー?」
頭の中ではもう混乱の真っ最中だが、僕は冷静を保ちながら先輩の腕に触れた。思ったよりも筋肉が多い。お腹はぷにぷにとしていて、触っていると先輩がすぐに僕の手を退けてしまった。


「こらこら、こっちは鍛えてないんだよー。」

「えー?でも、僕、先輩のお腹は触ってみたかったんです。」
僕がそう言うと先輩は反撃するように、僕のお腹に……
お腹に?
僕の股間に手を伸ばしていた。多分、いたずらしたかったのだろう。しかし、ここはどうやっても隠せない。僕は体が震えていた。
とうとう、バレてしまうのだ。


「あはははははー、反撃だぞー!……あれ?」

「……先輩。」

「え、どういうこと?あれ?」
触ってみても、そこは平らだ。
先輩の目が慌てていることが分かった。
もう、バレるしかないんだ。
ああ、ごめんなさい。先輩、ごめんなさい。


「どういうこと……なんだ。」
僕が見た先輩の目は驚きと混乱でいっぱいになっていた。
このまま、僕はどうなってしまうのだろうか。

先輩は黙って出て行ってしまった。
僕は何も言えなかった。湯船の中で黙ったままだった。
そして、僕の視界は雫でいっぱいになっていた。
止まらぬ涙と嗚咽、僕にとってはじめてのことだったと思う。


                              続く


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