複雑・ファジー小説
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- ROCK IN ECHO!!
- 日時: 2016/05/05 02:13
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: K/8AiQzo)
こんばんは。りちうむです。この名前では二作目になります。
今回はリク板でオリキャラを募集し、多くの方に協力していただいた作品です。今は募集を締め切りましたが、話が進んできたらまた新たに募集するかもしれません。
それでは、今回もよろしくお願いします。
■アテンション
・主に邦ロック関係のパロディネタが多いです。
・一話完結になっているので、好きな話から読んでください。
・ときどき会話にR15程度の内容が入ります。
・感想はもちろん、「これはちょっとやりすぎでは?」なんてものがあれば教えてください。たぶん消します。
■もくじ (多くなったら移動します)
1◆ スタジオにて >>2
2◆ 東京 >>3
3◆ ギャップ >>4
4◆ ある平日 >>5
5◆ ある休日 >>6(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編1)
6◆ 誘い >>7(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編2)
7◆ 前々日 >>8(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編3)
8◆ 前日 >>9(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編4)
9◆ 飲み会 >>10
10◆ 合同練習(1) >>11->>12(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編5)
11◆ 合同練習(2) >>13(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編6)
12◆ 昼下がり >>14
13◆ 彼女 >>16
14◆ ともだち >>17
15◆ 事故 >>18
16◆ 港町 >>19
17◆ 昔話 >>22
18◆ 異変 >>23
19◆ 後輩 >>24
20◆ ALTER ENEMY >>25
21◆ 前座 >>26
22◆ カラオケ >>27
23◆ 劣等 >>28
24◆ ともだち >>29
25◆ 同期 >>30
ロックは死んだと誰かが言った >>31->>32
■主なバンドと登場人物
>>1
■お手伝いしていただいた方
ランゴスタさん/結縁さん/今日さん/Rainさん/青空苹果さん/noisyさん/高坂 桜さん/哀歌さん/siyarudenさん/ロストさん/万全サイボーグさん/雅さん
ありがとうございます。
■ツイッター
@lithium_chan
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.24 )
- 日時: 2016/03/17 21:01
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: rBo/LDwv)
- 参照: 空「たまには俺達で曲を作ってみたいんだけどな。プロデューサーは頭が硬いんだよ」
【ROCKIN ECHO/春島征一】
19◆後輩
激情派とよく呼ばれる。世間はECHOをサブカル系だとか、僕がメンヘラだとかで一括りにしようとする。どっちかっていうと誰とでも寝るゆゆちゃんの方がメンヘラだし、メンヘラに手を出す小川くんも駄目だと思うし、サブカルって枠に収めるにはECHOはメジャーになりすぎた。それに加えて、有名になるにつれて、僕は別に悪くないのにボーカルの僕だけが「これだからECHOは」と言われることが増えた。これは大変な問題だと思う。こんなんだから、僕らは後輩のALTER ENEMYにライブのチケット販売数で負けるのだ。
「......どうする?」
「どうする、じゃねえよ! 俺達より若い奴らに追い越されたんだぞ! 俺ケイオー大に戻ろっかな!」
「いいじゃん。あみゅがるみたいにアイドル的な可愛さをウリにしてる訳じゃないし、年齢なんてどうでもいいよ」
居酒屋BIGには僕達しかいない。僕らがあまりにも暴れるからみんないなくなってしまったんだと最中は言うけれど、それは流石に言い過ぎだ。今日は月曜日だから、あまり飲みに来る客もいないのだ。僕らが悪いわけでは決して無い。壁にかけられてだんだんホコリをかぶってきた、ECHOのサインを見る。
「アルエネって、ちゃんとしたバンドじゃーん。ECHOさんとはちがってさ」
さっきから浴びるように飲んでいる平ポンの瀬佐さんが言う。じゃあECHOは普通じゃないのかよ、と最中は酒に焼けた声で言い返す。
最中が居た「キャタピラーズ」は、ECHOよりもメジャーを意識した正統派なロックをやるバンドだった。ドラムの男がテレビに出てた人と不倫してそのまま解散してしまったが、当時のedgeくらい人気があったバンドだったと思う。
僕はというと、「自由区」という売れる気配もないバンドでボーカルとして使ってもらっていたけれど、ある日突然香絵子さんが後ろの三人を引っさげてスカウトしに来たので、なんのドッキリかなと思いながらも承諾して、今に至っている。自由区が今何をしているかはわからない。ネットで連日叩かれている僕らを見て笑っているだろうか。
「ところでさぁ、平ポンってどうやってあのメンバー集めたん? 積んできたキャリアも音楽性も違う五人、って面でECHOと平ポンは似てるじゃん。教えてよ瀬佐くん」
「そっちとほとんど一緒。エミちゃんとは大学の時初めて会ってバンド組んで、何人か入れ替わりはあったけど、あの子の独断と偏見で最終的に残ったのが今の五人ってわけ」
瀬佐さんはそう言うけど、違和感がある。瀬佐さんは、話すのがおっくうだから長い話を無理やりまとめてしまったかのように思えた。
「......つって、実は瀬佐さんが平ポンのリーダーって説も見たことあるぞ。エミちゃんは平ポンの二代目ボーカルだってな。先代の頃の音源は全然出回ってないから、コアなファンだけが知ってることなワケだけど」
僕が疑問を抱いたままシーザーサラダを食べていると、他バンドに詳しい最中がそんなことを言いだした。僕も知らなかった、てっきりエミちゃんが立ち上げたバンドなのかと思っていた。
「あー、それデマだって。エミちゃんはあの中でも最古参。俺ちゃんがその次、次に一嶺くん、霞ちゃんと貴臣くんは、わりと最近の人」
「マジで!?」
三人の声が揃う。瀬佐さんは、ほんとみんな息ぴったりだねえと言って全然甘くなさそうな酒を飲んだ。
「ところで、最近のECHOの曲って、なんってゆーか、The Offspringみたいだよねぇ。俺ちゃん初期の感じ結構好きだったのに、どうしちゃったの?」
「みんなのやりたい音楽をまぜこぜにしたらこうなったって感じ」
僕はオルタナティブがやりたくて、最中はヒップホップが好きで、小川くんはクラシックが得意で、ゆゆちゃんはビョークばっかり聞いている。それを香絵子さんがうまくまとめて今のECHOが出来た。初期はニルヴァーナのコピバンだなんだといろいろ言われたものだが、最近は僕達独自のものを作れてきてると思っていたんだけどな。まだまだみたいだ。
「平ポンはいくら売れてきても昔のままのノリと音楽で突っ走ってるからすげぇよな。売れてくると、どうしても大衆ウケを狙っちゃう俺達からしてみるとさ」
「初期からのファンを逃がすようなことはしたくないからねー」
平ポンはファンのマナーがいい事でも知れている。初期からのファンというと、物販やCDを買ってくれたりライブに駆けつけてくれたりする熱心なファンたちのことだ。ECHOはみんなこんなんだから、小川くん目当てのミーハーそうな女の子やゆゆちゃん目当てのアイドルオタクみたいな人たちは序の口、ビジュアル系バンドかと見間違うほどのメイクの人や香絵子さんを信仰する謎の団体なんかも居たりして、なんか変な感じのファン層を獲得している。edgeやサブタレ、花筏には女子高生もたくさん来てるみたいで、正直少し羨ましかった。
「あー、女子高生のファンを獲得するバンドになりたかった。死のっかなー」
「はいはいメンヘラおつかれ」
食べ終えた焼き鳥の串を皿に並べる。吐いたタバコの煙が上っていく。
僕らがこんなにも堕落したバンド生活を送っている理由のひとつとして、少なからず同じレーベルの後輩「ALTAR ENEMY」の存在があるだろう。彼らは僕らよりも後に同じレーベルに所属したのに、ECHOを追い抜いて今やサブタレや花筏と肩を並べる中堅バンドになっていた。ECHOや平ポンも中堅どころといえばまあそうなんだけど、彼らに比べればまだ知名度は劣るような感じで、それがまた嫌だった。
「俺ちゃんそもそもアルエネさん知らないんだけど、どんな感じなの?」
その問いに、小川と最中は答えようと二人で話し始めた。これは長くなるだろうと思いながら、僕は新しいタバコに火をつけた。時計を見ると、まだ午前0時だった。
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.25 )
- 日時: 2016/03/18 23:02
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: FpNTyiBw)
- 参照: 香美波「ウチ、こう見えて賭け事には強いねん。ポーカーでもしいひん?」
【ALTER ENEMY/詠田棗】
20◆ALTER ENEMY
チケットの売上数が先輩バンドに勝ってしまい、複雑な気持ちで臨んだライブも終えてみればまぁ楽しくて、気分が高揚した成り行きでバンドとスタッフさんで焼肉に行くことになった。午後十時だというのに、品川駅は人で溢れて鬱陶しい。
ついていくのは今回だけですからね、と千尋さんが言う。働きに出ている妻の菜々さんのかわりにいつも家事をこなしているらしいから、今日は一人家に残してきたのが気がかりなのだろう。しきりに携帯電話を弄って妻に連絡を取っている彼を見て、妻帯者は大変だなぁとぼんやり思っていた。
「千尋は心配性だなぁ。そんなに菜々ちゃんが心配なら猫でも飼ってみたら? 家に一人増えるだけでも、かなり心強いんだよー」
金色のロングヘアが特徴的な女子、月乃が言う。猫を「一人」と換算してしまう彼女は、ポジティブでマイペースで、場を明るくしてくれることもあれば、空気を読まない発言で暗くすることもある。
「僕も妻も家を開けることが多いので、猫はまだちょっと、って感じですね」
「えー。もったいないのー。こんなに可愛いのに」
「わっ、ちょっと、どこから連れてきたんですか!」
はっとして月乃を見ると、案の定、ふてくされたような表情の三毛猫を抱いていた。どこから連れてきたんだ、と俺も聞くと、「月乃くらいの人格者になると、猫が勝手に寄ってくるんだよ」と笑う。
「はいはい、ちゃんと前見て歩く。店着いたよ」
呆れたような顔をしているのは、実質このバンドのリーダー的存在である帝だった。
帝が調べた焼肉の店は口コミでも評判のいい有名なところで、非常に喜怒哀楽がわかりやすい月乃だけではなく千尋さんも目を輝かせている。最近はずっと忙しかったから、帝と俺とスタッフで話し合って少しだけ高級な店に行くことにしたのだ。
高そうな店だな、と俺の少し前を歩いていた和泉も言った。和泉は新しいものが大好きで、今回も「品川だったらこの前新しくできた寿司屋がいい、むしろ秋葉原がいい」なんてさっきまでは言っていたが、この店もそれなりに気に入ったようでよかった。
余談ではあるが、「正統派ロック」で売り出しているALTER ENEMYのドラマーである彼は、意外なことに「卑怯ドラム」なる手法を一切使っていない。ドラムに詳しくない俺は、「サビで裏打ちになって盛り上がってます感を出す」くらいの知識しかないのだが、2010年代のSETU-BOON、フェスの極み乙女、鍵トーク(全部うろ覚えである)に多用された手法であるこれを使わない和泉のことは素直にすごいと思っている。今でもECHOなんかはこれだし、あみゅーず・がーるもそうだ。サブタレは凛として時雨系統のエグいドラムをちっちゃい女の子が叩いているらしいが、アルエネが自称音楽通の音楽ブログであからさまに叩かれないのは彼の存在が大きい。卑怯ドラムってだけで叩かれた時代もあったし。
ふと携帯を見ると、卑怯ドラムの使い手であるECHOの香絵子さんから連絡が入っていた。「おつかれさま!」と。先に四人に店に入ってもらうように頼んで、香絵子さんに電話をかける。そういえば、頼んでおくことがあったのを忘れていた。
「もしもし、香絵子さん?」
『はーい、香絵子でーす。おつかれ、久しぶりー』
後ろではゆゆさんと征一さんの笑い声も聞こえる。きっと例の居酒屋BIGに彼女はいるだろう。前にした約束も忘れている。店に入っていく途中の月乃と目配せして笑いあった。月乃もたぶん、あの約束を思い出していることだろう。
俺は香絵子さんに言った。
「チケットの売上勝ったので、今度アルエネ全員飲み連れていってくださいよ」
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.26 )
- 日時: 2016/03/22 09:02
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: a0p/ia.h)
- 参照: 有栖「ちっちゃい子ってカワイイよね!!抱きしめたくなっちゃうよね〜!!」
【ROCKIN ECHO/雪村ゆゆ】
21◆前座
ついにこの時が来た。edgeのライブの前座を務めることになったのだ。アイドルバンドのあみゅがるはさておき、サブタレ、平ポン、花筏、アルエネを差し置いてECHOだ。あたしたちは大いに喜び、香絵子はスタジオの中で湿気った花火に火をつけて、春島くんはコストコで馬鹿でかいアイスを買い、モナカちゃんはB'zの「MOTEL」を弾き始める始末(モナカちゃんはこの歌が世界で一番好きらしい)だったから、ラジオの収録から帰ってきた小川くんはかなり驚いていた。鳴らしたクラッカーの後始末をするために箒とちりとりを出すあたしに、「何があったの?」と聞く小川くんは、均整の取れた綺麗な顔の大きな瞳をめいっぱい開いている。
「edgeの幕張メッセのライブで、ECHOが前座をすることになりました!」
「うそ!? マジで!? edge!?」
小川くんの反応でまたテンションが再燃したのか、再び飛び始める香絵子、今度はMステのテーマ曲を弾き始めるモナカちゃん。いつも大人しい小川くんもこれは嬉しかったみたいで、あたしたちは手を取り合って喜んだ。嬉しい。
「やった! 何やる!? edgeの前座だって!」
「ね、すっごく嬉しい! もっと有名になるチャンスだよ!」
そもそもedgeのボーカル三岐原くんが、前々から香絵子と交流があったらしい。確かラジオとかで一緒になったことがあったんだっけ。香絵子の対人能力の高さにはいつも驚かされるな。彼女は中高時代イケてないバンドの希望の星だ。ECHOばんざい、ECHO最高。
「今からこのへんのタワレコ回ろうぜ! サイン残さないと!」
「むしろあの上の方に飾ってもらお! アー写も取り直そうぜ!」
普通にスタジオを出ると途中で会うであろう店長に嫌味を言われるので、私たちは廊下の大きな窓から外へ出た。小川くんはこの前免停になったけど、たぶん運転してもばれないから車に乗り込む。四人乗りの車に無理やり五人押し込んで、優雅に助手席に座ったあたしは、後ろに詰め込まれた三人をバックミラー越しに見て笑った。すぐ近くのショッピングセンターまで、飛ばしてもらおう。
「いやー、でもほんとにすごい! 僕まさかedgeと同じ舞台に立てるなんて......」
端っこで既に泣きそうな春島くんは、いざステージに立ったらどうなるんだろう。緊張で倒れられても困るんだけどな。
それはそうと、気がかりなことがある。香絵子は今からもっと忙しくなるだろうし、私も実はベース雑誌のインタビューやラジオなどで予定は多い。ECHOで集まることなんて、週に一二度くらいになってしまうのだろうか。売れてるバンドってたまに不仲説が流れたりするし、そんなものなのかもしれないけど、できればECHOはずっと仲のいいままがいい。edgeよりも目立つ気満々の香絵子たちを見ながら、私はそう思っていた。ふと平ポンのことがよぎる。ECHOって、そのへんの立ち位置でゆるくやってるほうが、性にあってるのではないだろうか。
これからECHOは有名になるんだから、小川はあんまりスキャンダルしないように、と香絵子は念を押す。それならモナカちゃんも自己満足なギターソロばかり弾くのをやめた方がいいし、春島くんもステージで気が狂ったようにはしゃぐのをやめた方がいい。あたしや香絵子にだって直すところは沢山あるはずだ。世に知られるということは、そういうことだった。
ECHOが、ECHOではなくなるような気がしたけれど、それならそれでいいのかもしれない。音楽に正解はないけれど、今までの「普通のバンド」から逸脱したECHOが、ついに普通になる時が来たのだと思った。
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.27 )
- 日時: 2016/03/25 20:39
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: /48JlrDe)
- 参照: 琴也「このあとの予定?スタバで資料整理して、セミナーに行くよ」
【ROCKIN ECHO/最中次郎】
22◆カラオケ
「大変ご多忙お兄さん、地球あちこちぐーるぐるー!」
edgeの前座獲得記念に、ECHOは今カラオケに来ている。無駄にいい声でアニメの主題歌を歌い上げる香絵子をよそに、平ポンのエミちゃんと、朝縹くんと、市ノ葉がデンモクで曲を選んでいた。だいたいみんな一巡はしたので、好きな曲を手当り次第に入れることになっていたのだが、アーバンギャルドと鬼束ちひろばかり歌ううちのメンヘラカラオケキラー雪村ゆゆ、銀杏BOYSらへんのエグイ曲を歌って場を凍らせる我がバンドの基地外系ボーカル春島征一、嵐とか福山とか女ウケが良さそうな歌を絶妙にチョイスしてくるピアニスト小川徹明のせいで盛り上がりに欠ける、なんてわけでもなく、なんでも適合してしまう平成ポンデライオンの三人はちゃんと盛り上がっていた。やっぱうちらと平ポンは馬が合うらしい。
「なにこれ? アニソン縛り?」
隣に座っていた小川が画面を見て言う。デンモクの予約の画面を見ると、雪村あたりが入れた「ムーンライト伝説」、ほんと誰が入れたんだよって感じの「ペガサス幻想」が並んでいた。まあ、いいって適当で。さっきも平ポン朝縹くんは洋楽縛りなのにオドループ入れてたし。踊ってない夜を知らない、一回聴くと頭から離れなくなるよなぁ。おかげでさっきまで目をギラギラさせてニルヴァーナを歌って飛び跳ねてた春島もソファーにぐったりもたれ掛かってるし、電子ドラッグの粋だよなあれって。
「ムーンライト伝説入れたのって誰?」
ファジーネーブルを飲んでいる雪村がマイクを持って立ち上がる。すると大人しくしていた市ノ葉が、「それ私」と言っておずおずと手を挙げた。あまりの不似合いさに、俺は思わず吹き出しそうになる。
「お前がセーラームーンってウケるんだけど」
「なに、私が歌っちゃダメなの?」
俺を睨みつける市ノ葉。てっきり雪村が入れた歌だと思ってたから、驚いただけさ、と言うけれど、「私だって小さい頃はセーラームーン見てたの!」と反発する市ノ葉を見るとやっぱり笑ってしまってダメだった。でも、歌い出すと市ノ葉は楽器やってるだけあってなかなか上手かった。そのギャップがまた面白い。もうダメだ。その次の「ペガサス幻想」を入れた朝縹くんの熱唱っぷりも面白くて、(ちなみに彼はめちゃくちゃ上手い)すっかり笑い疲れてしまった。もうこうなると文字通り箸が転がっても面白くなってしまって、「今日酔うの早くない」と香絵子に言われたりもした。
「みかんのうた」を歌って喉がひどいことになったので水道水を飲んでいた頃、人の歌を歌うのってなんか申し訳ないという謎理論を展開したエミちゃんは平ポンの曲ばかり歌っていた。一方他人の歌大好きECHOはZAZEN BOYSをみんなで歌うという謎の盛り上がりを見せていた。こんな夜中までカラオケで盛り上がるなんて、暇な文系の大学生かよ。三回連続で同じ歌を歌う朝縹くんや、やたら可愛い曲を選曲しては俺を睨みつけてくる市ノ葉、「安めぐみのテーマ」をハイテンションで歌う春島にもう疲れてしまった雰囲気なのに、香絵子は二次会に行こうなんて言い出す。しょうがなくついていくけれど、そういえば、明日ライブだった気がしないでもない。まいっか、このまま帰っても暇になるし。なぜかカラオケ代を全額払うことになっている小川を見ながら、俺はそう思っていた。
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.28 )
- 日時: 2016/03/29 13:58
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: pGaqjlta)
- 参照: 御影「最近は花筏が気になってるの。華やかできらびやかで、とっても素敵だよね」
【平成ポンデライオン/野田原エミ】
23◆劣等
最近なんかカツカツしてないか、と高橋くんに言われてやっと気がついた。俳優業もこなしている彼だから、人の心境の変化には気付きやすいのかもしれない。私は、edgeの前座を獲得したECHOに嫉妬していた。
なんでECHOなんだろうって何度も思った。edgeが前座に誰を呼ぶのか、って話は、今までにバンド内外で何度もしてきたけど、どうせ、サブタレかアルターエネミーあたりになると思っていた。前にedgeの鍛冶屋さんがサブタレを褒めているのをギター雑誌で見ていたし、三岐原くんがアルターエネミーを褒めているのもラジオかなんかで聞いた。なのにどうしてECHOが選ばれたんだろう。平ポンが呼ばれないのは最初からわかっていたけど、それってECHOも一緒じゃないのかな。ECHOは最近またスキャンダルが出てきた気がするし。ネットでは春島くんがクスリやってるとか言われて叩かれてるし、ゆゆちゃんは大学を卒業したらすぐ結婚するのではないかと噂が立っている。小川くんだって今度は桜田みゆきの弟子である若い子に手を出したってセンテンススプリングに載ってた。バンドマンと付き合うべきじゃないっていうのを久しぶりにわからせてくれるような立ち位置だったECHOが、なんでedgeの前座として大舞台に立てるのよ。このまま一緒にサブカルフェスで活躍するような関係でいたかった。私たちだけ置いていかれるようで、本当は嫌だった。
「あーあ、ECHO遠くに行っちゃったねー」
「......私、あんな大舞台に立つと恐縮しちゃうから今のままでいいや」
帰り道。ふと呟いた言葉に、霞がこう返す。今日の深夜番組の収録で、簡単なお菓子を作った時、霞が作り上げた謎の物体は、今後罰ゲームで食べさせられる定番となるだろう。スタッフさんもその酷い出来には感動すら覚えていた。でも、不器用なりにギターと音楽を真面目にやってきた霞は今や一流のギタリストだ。
「みんなを大舞台に立たせられないの、リーダーとして申し訳ないなぁ」
「何もedgeの前座だけが大舞台じゃないでしょ? 落ち込むくらいなら、夏フェスに向けて練習増やしていこうよ」
後ろから瀬佐くんがひょっこりと顔を出す。慰めの意なのか、手にはパインアメが握られていた。ありがとう、と私はそれを受け取る。
私にはこんなに素敵なメンバーたちがいるのに、今更何が足りないのだろう。パインアメを舐めながら笑う。そういえば朝縹くんは、飴をすぐに噛んでしまう子だった。瀬佐くんがあげたパインアメも、もうなくなってしまったかもしれない。
「朝縹くん、飴まだある?」
「うんにゃ、もうないよ。噛んじゃった」
仕方ないなぁ、と私は笑う。私が昔通っていた駄菓子屋に寄って帰ろう。もうすぐ、この街にも春が来るだろう。