複雑・ファジー小説
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- ROCK IN ECHO!!
- 日時: 2016/05/05 02:13
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: K/8AiQzo)
こんばんは。りちうむです。この名前では二作目になります。
今回はリク板でオリキャラを募集し、多くの方に協力していただいた作品です。今は募集を締め切りましたが、話が進んできたらまた新たに募集するかもしれません。
それでは、今回もよろしくお願いします。
■アテンション
・主に邦ロック関係のパロディネタが多いです。
・一話完結になっているので、好きな話から読んでください。
・ときどき会話にR15程度の内容が入ります。
・感想はもちろん、「これはちょっとやりすぎでは?」なんてものがあれば教えてください。たぶん消します。
■もくじ (多くなったら移動します)
1◆ スタジオにて >>2
2◆ 東京 >>3
3◆ ギャップ >>4
4◆ ある平日 >>5
5◆ ある休日 >>6(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編1)
6◆ 誘い >>7(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編2)
7◆ 前々日 >>8(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編3)
8◆ 前日 >>9(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編4)
9◆ 飲み会 >>10
10◆ 合同練習(1) >>11->>12(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編5)
11◆ 合同練習(2) >>13(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編6)
12◆ 昼下がり >>14
13◆ 彼女 >>16
14◆ ともだち >>17
15◆ 事故 >>18
16◆ 港町 >>19
17◆ 昔話 >>22
18◆ 異変 >>23
19◆ 後輩 >>24
20◆ ALTER ENEMY >>25
21◆ 前座 >>26
22◆ カラオケ >>27
23◆ 劣等 >>28
24◆ ともだち >>29
25◆ 同期 >>30
ロックは死んだと誰かが言った >>31->>32
■主なバンドと登場人物
>>1
■お手伝いしていただいた方
ランゴスタさん/結縁さん/今日さん/Rainさん/青空苹果さん/noisyさん/高坂 桜さん/哀歌さん/siyarudenさん/ロストさん/万全サイボーグさん/雅さん
ありがとうございます。
■ツイッター
@lithium_chan
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.8 )
- 日時: 2016/02/22 01:11
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: 9AGFDH0G)
【ROCKIN ECHO/雪村ゆゆ】
◆7 前々日
第二千六百二十五回目、ROCKIN ECHO会議でのことである。
あみゅーず・がーるが、あたしたちと合同練習するために差し出してきた条件は、「もう一つバンドを呼ぶこと」。つまり、私達と練習がしたいならもうひとバンドを誘えということである。ノートの切れ端に、誘うバンドの候補として「サブレタニアン」「平ポン」「花いかだ夜そう曲」と書かれているけど、書記の春島くんは中卒だから、「Subterranean」の綴りと、「筏」と「想」って漢字が書けない。香絵子はなんで彼に書記を任せたのだろうか、ケイオー大学に一年くらい通ったモナカちゃんの方を使うべきじゃないかな。
「それじゃあ、今から話し合いするわよ。まずはSubterraneanだけど、これについてはどう思う? 最中」
議長の香絵子が、モナカちゃんを指差した。ECHO会議は基本的に居酒屋で行われる。座椅子の方の席を借りて、五人で丸くなって話し合うのだ。いつも途中で飲み始めてしまって、会議には決着がつかないのだけれど、それもまた一興。すいませーん、ファジーネーブルひとつ、お願いしまーす。
「Subterraneanなぁ。実は俺、あーいうお洒落なのはロックとして認めてないんだよ。ロックっていうのは常にダサくてかっこ悪いもので、それに共感するのがファンだからさ。だからあれはテクノ。テクノポップなんだよ。ロックではない」
わかる、超わかると春島くんは頷く。小川くんも納得がいっているようだ。ROCKIN ECHOは「学生時代が暗かった人の集まりバンド」との異名を持つくらい、全員まとめて冴えない学生時代を送ってきた。春島くんはテストの問題を学校から盗んだり同級生の女子の自転車のサドルを盗んだりして高校を退学になったし、モナカちゃんは勉強のせいで軽音楽部を辞めさせられてるし、あたしは中高通して友達が一人もいなかったし、小川くんは当時はイケメンでも何でもなくてメガネで鉄道部だったし。ただ一人香絵子だけは、吹奏楽部とバレー部をかけ持ちしてそれなりに楽しくやっていたらしいけど。
今では毎日踊ってない夜を知らないとばかりに連日連夜ライブをして、打ち上げで酒を浴びるように飲んで、とても楽しいから、学生時代の恨みとかは全部晴らせたかな。でもSubterraneanの女子はみんなモデルみたいに可愛いから、少し話してみたかったな。香絵子はノートの「サブレタニアン」にピンクの蛍光ペンで線を引いた。
「ジャンルが違うからSubterraneanは除外ね。次、平ポンは?」
「あれ超いいバンドだよね。僕、平ポンの『君と油を浴びた』って歌大好きで......」
生ビールを飲んでいた春島くんが、いきなりアルバムの七曲目くらいに入ってそうな歌の解説を始めた。鬱系の歌詞が多い平ポンは、春島くんの心を掴んでならないらしい。モナカちゃんも、「確かに平ポンのエミちゃんは可愛いからなぁ」と乗り気だ。小川くん(元鉄道部)も、穏やかな微笑みを浮かべて頷いている。しかし、香絵子が反対した。
「ポンデライオン、今新アルバムの『心中とワルツ』のツアーの最中じゃない。怒られるわよ」
そうだったんだ。初めて知った。平ポンは、「上手いのに歌詞のせいでなんか売れないバンド」って印象がある。それでも、やらされてる感が半端ないあみゅがる(特にボーカルのももこちゃん)や、すぐ迷走するECHOに比べたら、やりたい事だけをファンに発信している、とてもロックなバンドだから、好感度は高かった。そんな平ポンの邪魔をしてはならないから、今回は見送ることにしよう。
「花筏夜想曲か。俺達と構成は同じだし、いいんじゃないか?」
枝豆をもそもそ食べながら、モナカちゃんは最後に残った「花いかだ夜そう曲」を見た。花筏夜想曲は、その名の通り、歌詞も音も和を強調したロックバンドだ。ドラマの主題歌にもなったりして、老若男女から支持を得ている上に、MVや衣装にも非常にこだわりがあるから、外国人からも支持されている。「キーボードの凪さんの連絡先持ってるよ」と、交友関係の広い香絵子は早速花筏夜想曲に連絡を入れた。
合同練習は、明後日の午後一時からに決まった。明後日の合同練習の打ち合わせで、香絵子の着信音である「あの娘は太陽のコマチエンジェル」は鳴り止まない。よく考えると、人気バンドのあみゅがるや花筏夜想曲と一緒に練習ができるって凄いことだ。ああ、楽しみ。あたしはそんな気持ちで、運ばれてきた二杯目のファジーネーブルに口を付けた。
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.9 )
- 日時: 2016/02/23 07:38
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: 9AGFDH0G)
【花筏夜想曲/御園梅】
◆8 前日
「ろっきん、えこーとは何ぞや?」
いつだって和装を好む凪さんは、今日のようなラフな場面でも、椿の柄が入った赤色の着物風なワンピースを着ている。凪さんは舞台に出る時はもちろん、打ち合わせやラジオの収録でも品のいい鮮やかな色の着物を着てくる。動きにくいはずなのに、凪さんはいつもしなやかに行動するから、「服装がダサい」と言われがちな私は密かに凪さんを尊敬していた。
「ミュージシャンなのに、ECHOを知らないのか? 最近CMにタイアップされたじゃないか。相変わらず疎いな」
切れ長な金色の猫目が、きっと凪さんを睨む。
こっちはボーカルの神楽くん。体が細くて、女の子の格好をさせたら似合いそうな黒髪の男の子だ。彼は本当に練習熱心な人で、細い体躯からは想像出来ないほどの声量を誇る。問題はその凄まじい練習を私たちにも求めてくるところで、彼の完璧主義にはメンバーみんな、ほとほと困り果てていた。
しかし凪さんだけは疎い、と言われても穏やかな微笑を崩さない。余裕たっぷりの凪さんは、逆に神楽くんをからかうように言う。
「それなら、201X年にデビュー、ファーストアルバムの『卒業』をリリースし、202X年にはセカンドアルバムの『夏を撃ち殺して』をリリース。現在『心中とワルツ、全国ツアー』を行っているバンドの名前も、そなたなら分かるよのう?」
ぱさ、と扇子を開く音がする。口元に鮮やかな色の扇子を当てて、くすくす笑っている凪さん。
「なっ......なんだよ、いきなり!」
「正解は、『平成ポンデライオン』じゃ」
楽しそうに笑いながら凪さんは言う。名前は知ってた、と言いたそうな、悔しそうな神楽くん。凪さんは神楽くんをからかうのが好きだ。たまに度が過ぎて神楽くんが本気で怒ったり、年齢のことを指摘された凪さんが怒って出ていったりするけれど、大抵の場合はしばらくすると治まる。私と神無と桜はすっかりこのルーティーンのような言い争いにも慣れて、今じゃあ口論の隣で楽器の練習をしていることもあった。
「......で、そんECHOがどないしたん?」
ギターのチューニングをしていた桜が、上機嫌な凪さんに問いかけている。ああ、そういえば元はECHOの話をしていたんだっけ。桜はとても真面目な子で、バンドの歯止め役というか、ストッパー役を果たしている。
清楚な印象の桜は外部のバンドからも好感を持たれており、「VIP感がありすぎて扱いにくい」凪さんや、「堅物すぎて扱いにくい」神楽くんや、「市松人形みたいで扱いにくい」神無や、「そもそも顔見せろよ」な私を差し置いて、ひとりでテレビ出演を果たすこともある。あみゅーず・がーるの神宮寺さんと交流があるからなのかなぁ。ちょっとだけ羨ましい。
「ろっきんえこーというバンドが、花筏夜想曲と合同レッスンをしたいらしい、とのことじゃ」
「たまには他のバンドの世界観や練習に触れる事も必要だな。参加しよう」
瞳を輝かせる神楽くん。待って待って、さすがに決めるのが早すぎだよ。ベースを拭いていた神無も「えっ、まじ......?」と相当乗り気じゃなさそうな返事。仲間を見つけた私は、こっそり神無に耳打ちした。
「ねえ神無、さすがに会ったことも無いようなバンドと合同で練習するってどうかと思わない......?」
「別に。どっちでもいい......」
ぼんやりと虚空を見つめながら神無は言う。ああだめだ、神無はいつもこんな感じだ。小柄で、長い黒髪を腰まで伸ばし、いつもだるそうにしている(それでも、最近ステージに立つ時はちょっと笑うようになった)神無は、練習場所として借りているスタジオに設置された、大きなソファーから離れない。寝そべったり昼寝をしたり、もはや神無専用スペースとなったソファーに近付くと、かなり嫌そうな顔をされるので、私は渋々床に座るけど、足が痛くなってくる。凪さんみたいに座布団を持参してくるのが偉いのかな。ちゃっかりしている桜は店員から椅子を借りていて、神楽くんは座る必要が無いので、私だけがなんだか損した気分。もうずっとドラムのイスに座ってようかな。
神無がダメだと悟った私は、今度は桜に話しかけた。
「桜、さすがに今回は止めた方が良くない? ECHOって、話したこともないバンドだよ」
「神楽くんの提案なら、ウチも賛成するけど......」
桜はいじらしそうに言う。こっちもダメだ。なんだか桜は、神楽くんには甘い気がする。ふと凪さんを見上げると、ぴたりと目が合った。
「今は神楽の言う通り、他のバンドを見て視野を広げることも大切じゃ。妾も合同レッスンの件、賛成するぞ」
そういうことなら、と言うしかない。凪さんまでそっちの味方につかれては、もう私は諦めるしかなかった。
明日に突然決まった合同練習。私は少し気乗りしなかったけれど、みんなが良いって言うなら仕方ないか。他のバンドの方に迷惑をかけないように、ちゃんと練習しておかないと。
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.10 )
- 日時: 2016/02/24 18:15
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: y68rktPl)
- 参照: たまにこんな無意味な話が入ります。
【ROCKIN ECHO/清藤香絵子】
◆9 飲み会(1)
美味しそうにビールを飲む最中と、ゆゆと一緒にファジーネーブルを飲んでいる小川と、カルアミルクを注文しようとメニューを開いている春島と、今日はもう一人いた。
「電話なんかやめてさ〜、六本木で会おうよ〜」
肩から胸に流れるような緩い三つ編み。丈の長い白のスカートに、茶色の柔らかそうなジャケット。一重で薄い唇で、どこか幼さが漂う顔立ち。平成ポンデライオンの、女性ボーカルの野田原エミだった。
彼女は自称「ECHOと一番仲のいいバンドマン」である。それは確かに間違っていなくて、今もECHO行きつけの居酒屋「BIG」の座椅子で一緒に語らっている。酒に弱いエミは大抵の場合、飲み潰れてメンバーの朝縹に迎えに来てもらっている。私は今日も飲む前から、彼に連絡を入れておいた。たまには他のメンバーに迎えに来てもらえばいいのに、エミによると「みんな免許持ってないか免停かのどっちかで、持ってる子も夜になるとぜったいお酒飲んじゃうから車に乗れないの」らしい。
「俺は免許ちゃんと持ってるよ。デートする時、ドライブに行きたがる女が多いからな。車内BGMでウケがいいのが、最近なら圧倒的にSubterranean。覚えときな童貞ども」
左にゆゆ、右にエミを配置して春島と最中を見下ろしている小川。すでに酒が回って気が大きくなっているのだろうが、小川だって美容に気を遣い始めるまでは鉄道部でメガネで、ピアノが弾けることだけが取り柄の冴えない少年だったでしょ。高校の卒業アルバムなんか流出した日には小川の積み上げてきた女子人気が崩壊するかもよ。
その事実を知っている二人は、こんなふうに煽られても余裕のスルーで、タバコに火をつけながらこんなことを言う。
「僕はメイヘムとか流しても一緒にノってくれる女の子と付き合いたいな」
「理想たっか! そんな女ぜってー居ねえし居たとしてもメンヘラ確定だぞ!」
煙を吐く春島がそんな発言をして、酔いが回ってきた最中が叫ぶ。最中だってフェイス・ノー・モアのMidlife Crisisを大音量で流しながら、夜中の高速を規定速度オーバーで飛ばして免停になった経験がある。「仕方ないだろ、あの歌でアガんないほうがおかしい」って言い訳してたけど、普段からスピード違反が多かったから、免停になって当然だ。
「あたしはまだ免許いらないかな。大学出てからでいいや」
小川の隣にいたゆゆが、ファジーネーブルを飲みながら微笑んでいる。
ゆゆは現役大学生で、確かフェイリス女学院っていうお嬢様学校の生徒だ。ECHOとの活動と並行しているので一年留年してしまったけれど、今でも熱心に学校に通っている。
「そいえばさ、ECHOは夏フェス出るんだよね?」
酒を浴びるほど入れて、卓袱台をひっくり返して、気が付いたら話題はバンドの方に向かっていた。
甘そうな酒を飲んでいたエミに問われ、そうだよと答えると、「奇遇ね、平ポンも今回初出場」とピースサインを返される。
「夏フェスって凄いよね。edge、あみゅがる、サブタレ、花筏、全部出るんだもん」
edgeはたしか三年前から、あみゅーず・がーるやSubterraneanは二年前から、花筏夜想曲は去年から夏フェスに出ていた気がした。ECHOと平ポンは一年遅れだけど、「今日本で勢いのあるロックバンドは?」というと、この六つのバンドの名が上がる。それでも今はロック氷河期、一般的に普段ロックを聞かない人でも知っているバンドといえばedgeくらいしかない。特に平ポンやECHOなんて、ヴィレッジヴァンガードでは豪華に飾り付けられて売り出されているけれど、TSUTAYAに行くとedgeのオマケ程度に添えてあるくらいだ。
「でもさぁ、ほんとロックンローラーに優しくない国になったよね」
「そうかな? 平ポンみたいなバンドはちょっと前だと『サブカル』って一言で片付けられちゃうよ。サブカルチャーがメインカルチャーの舞台に出てくるようになってから、正当な評価をされるようになって嬉しいけどね」
平ポンにとっては嬉しいかもしれないけど、ECHOにだって正当な評価をしていただきたい。そりゃあ、いろいろスキャンダルを起こすバンドだけど、ゆゆや小川はアイドルではないから恋愛禁止というワケでもないし、春島のシャブ漬け疑惑も嘘だ。
ねぇ? と男子陣に相槌を求めると、三人でいつの間にか注文したシーザーサラダを取り分けて食べ始めていた。仕方が無いからゆゆの方を見ると、エミと二人で自撮りを始めていて、私はひとりでビールを飲み干す。美味しい。
「二次会するー? カラオケ行かない?」
こんな時は、「カラオケ」の単語を出せば、元ボーカルの四人とエミはすぐに乗ってくる。あまり知られていない話だが、ECHOを結成する前、四人は別々のバンドにいた。春島はサブカル感満載のインディーズバンドで「平成の戸川純」という異名を持っていたし、最中はドラムの男が不倫騒動を起こして解散したバンド「キャタピラーズ」のボーカルギター担当だったし、小川は弾き語りのミュージシャンとして活動していたし、ゆゆはあみゅがるの二番煎じと言われたガールズバンド、「Selen」のベースボーカル担当だった。
「カラオケ? 行きたいな」
「俺もー」
シーザーサラダを食べている春島の声は弾んでいる。最中や小川も賛成なようだ。ゆゆとエミにも聞いてみると、二人ともいいねー、と言う。やっぱり私はこのバンドのリーダーであり、私の言うことはみんな聞く。
よーし、そうと決まれば小川の車でカラオケボックスまでフルドライブよ。小川の車は四人乗りだけど、後ろにも積めば八人くらいは入りそうだ。私たちは飲み食いした金を全部「BIG」にツケて店を出る。お金なんて次来た時に払えばいい、どうせ明日も明後日もここに来るんだから。
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.11 )
- 日時: 2016/03/09 02:03
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: Ft4.l7ID)
- 参照: 香絵子「昔からじゃんけんは弱かったな。ECHOが売れないのも私のせいかな」
【ROCKIN ECHO/春島征一】
10◆合同練習
二日酔いも覚めるほどの顔ぶれだった。右から左まで全部有名人。花筏夜想曲と、あみゅーず・がーるが、僕の目の前にいる。その事実だけでくらくらしてきたってのに、「春島くん、顔色悪いよ。二日酔い?」と穏やかな顔で聞いてくるゆゆちゃんには参ってしまう、呑気なものだ。
「花筏夜想曲さん、ROCKIN ECHOさん、こんにちは。あみゅーず・がーるの矢羽田です」
薄いピンク色の髪を腰まで伸ばした可愛らしい女の人が笑顔で挨拶する。彼女は何回もテレビで見たあみゅがるの矢羽田ももこさんだった。隣には空さんと香美波さんもいる。うわ、空さんやっぱりスタイル良すぎ。僕より身長高いんじゃないか、と思っていると、なにやらそこだけ平安時代にタイムスリップしたかのような格好をしている花筏夜想曲も続いて挨拶をした。
「花筏夜想曲だ。今日は宜しく頼むぞ」
ライブじゃないんだから、と隣で最中が呟く。花筏夜想曲の皆さんはきっちり着込んだ和服で登場した。
メンバーはそれぞれ華やかだったりお淑やかな色の着物を着ている。花筏夜想曲に関してはあまり聞かないタイプの音楽だなという感想を持っていたが、舞台の外でも世界観を確立している、なかなか凄いバンドだと思った。
今挨拶した鼓神楽くんはサラサラな黒髪を後ろでまとめた真面目そうな人で、本能でECHOとはタイプの違う人だと感じる。良い意味で自由で緩いECHOとは違って、彼はきっちりしていそうだ。
「それじゃあ、挨拶はここらにして、まずは各バンドの演奏を聞いてパート練習としましょうか」
主催者ということになっている香絵子さんが、ぱんぱんと手を叩いてみんなの注目を集めた後、広いスタジオに設置されたステージを指さした。もしかして、香絵子さんは他のバンドの生演奏が聞きたかっただけなんじゃないのかと思ってしまうが、もともとこの合同練習は「あみゅーず・がーるの女の子とお近づきになりたい」という僕と最中の下心から生まれたものである、文句は言えない。
香絵子さんはくじ運が恐ろしく悪い。花筏の玲瓏さんが作った、当たりにはケーキ、ハズレには爆弾の絵が書いてあるくじで、一発目で爆弾を引き当ててしまったのである。一回目に演奏するのはECHOに決まった。次いであみゅがる、最後に花筏夜想曲となった。
「ろっきんえこーというバンドについて、妾はあまり詳しくなくてな。演奏を聞くのが楽しみじゃ」
「奇遇ね、弦条さん。私も知らなかったのよ」
楽器を設置している間に、花筏のキーボード弦条凪さんと矢羽田ももこさんが話しているのが聞こえた。ECHO知らないでミュージシャンやってるって正気かよ。その近くで、みんなが座れるようにパイプ椅子を出している空さんを見て、やはりメディアで見る通りの優しい人だと安心する。空さんを手伝うのは、狐のお面をかぶった花筏の女の子。もう一人、花筏の市松人形みたいな女の子が面倒くさそうに壁にもたれかかっている。爆弾くじを作成した玲瓏さんは、あみゅがるの香美波さんと楽しそうに話していた。あれ、あみゅーず・がーると花筏夜想曲って、元から仲良かったんだっけ?
「たしか仲良かったと思うよ、桜ちゃんと香美波ちゃんは元から友人関係だったし、凪さんとももこちゃんも話合いそうだしね」
すでにこのスタジオにいるすべての女性メンバーのラインをゲットしたという小川くんが、キーボードの線を繋ぎながら言う。待て待て、それじゃあECHOだけのけ者、ぼっちじゃないか。そう言おうとして、やめた。ECHOの別名は「学生時代が暗かった人の集まりバンド」だった、他人と仲良く交流なんて諦めた方が良かった。
準備を終えて、譜面台に楽譜の束を置く。今日は何をやるの? と香絵子さんに聞く。
今年中には出す予定の、ECHO2ndアルバムのタイトルは「高4」で、その収録曲でCMにも起用された「千葉」をてっきり披露するものだと思っていた。しかし、香絵子さんが僕らにこっそり耳打ちした内容は、「3rdシングルのB面」。ECHOの3rdシングル、「遊園地」のB面はその名の通り「B面」というタイトルの曲だ。A面の「遊園地」が恋人を連れて遊園地でデートするという、ECHOにしては明るいテーマに対して、B面はそのカップルの女性に恋する哀れな男の、主役になれない事を嘆くバラードで、ファンからの人気は高いが一般受けはまずしないだろうな、という曲。なんでここにきてB面、と言いたくなるが、最中がイントロのギターを弾き始めてしまったので後には引けない。念のため楽譜を全部持ってきてよかった、と思いながら、歌い出しの言葉を音に乗せた。
歌っていると時間はすぐに経つ。あっという間に一曲終えてしまって、アウトロのキラキラした音のキーボードが消える。僕は疲れてため息をついた。
「ほぉ、なかなか見事なものじゃったぞ」
上品に手を叩いているのは、花筏の凪さん。この逆ギレみたいな歌詞と、いつもよりサウンドが刺々しく、キーボードのキラキラした音が悲しさを物語るこの曲が、一般に受けた瞬間だった。
「やっぱり、ECHOは音源より生で見るものだな」
あみゅがるの空さんも感心しているようだ。拍手をもらうと、やっぱり気持ちがいい。
こんなに褒められると、僕まで嬉しくなってくるじゃないか。そう思いながら後ろを向くと香絵子さんも嬉しそうに微笑んでいる。「この曲を選んだこと、失敗じゃなかったでしょ?」と。最近のECHOは正統派ロック寄りになってきていたから、これくらいのインパクトをいつも忘れないようにしなきゃと言って、ボロボロの楽譜に何かを書き込んでいる。さっきはくじ運が悪いなどとボロクソに言ったが、香絵子さんは大したものだ。
(一旦切ります)
- Re: ROCK IN ECHO!! ( No.12 )
- 日時: 2016/02/27 09:02
- 名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6 (ID: Uj9lR0Ik)
- 参照: 征一「メンバーとカラオケに行くと、僕にマイクが回ってこないんだよね。僕、ボーカルなのに」
◆
「それじゃあ聞いてください、あみゅーず・がーるで、『恋するスイーツ☆パニック』!」
ピンクのおもちゃみたいなギターを持ったももこさんが紹介した曲は、とてもロックバンドの曲名には思えない。中学の頃の国語や英語が2だった僕は、この曲が恋しているのかパニックなのか、どっちなのかが分からなくて、それが気になって仕方が無い。しかし一旦曲が始まってしまうと、おもちゃ箱のようなメロディや、やたら上手なリズム隊、ももこさんの可愛い声にすべてがどうでもよくなった。あみゅーず・がーる、めちゃくちゃ可愛いな。
完璧に合いの手を入れる香絵子さんと最中に若干引きながら、(花筏夜想曲の神楽くんと神無さんも引いてた)空さんはやっぱりかっこいいなぁ、なんて思っていたら、やっぱりすぐに曲は終わってしまった。ううん、悪くは無いんだけど、ももこさんの他にもう一人ギターを雇うか、それかキーボードを入れたら、もっと音に厚みが出てかっこよくなると思うな。リズム隊にももこさんが押されてしまっている気がして。香絵子さんや最中は生であみゅがるの演奏が聞けたのが相当嬉しかったみたいで、涙すら浮かべながら壇上のメンバーと握手していた。
「そんなに喜んでくれると、ウチも嬉しいわ」と笑顔を浮かべている香美波さんを見ていると、あみゅーず・がーるは立派なアイドルだな、と僕は感嘆してしまう。
「次は俺達か。楽譜は全員分持ってきたぞ、何をやろうか」
「......黒嵐。楽だから......」
市松人形みたいな花筏の女の子が、(神無さんというらしい)珍しく意見を提供した。
中学の頃の国語や英語の成績が2だった僕は、「黒嵐」の意味がわからない。せいぜい黒い嵐をブラックストームと訳すのが精一杯で、アクモンのブライアンストームかよ! と自分に自分でツッコミを入れているうちに、準備は終わりそうになっていた。
隣に座っていた最中が、ちょんちょんと僕の肩を叩く。「あの狐のお面かぶってる人って、マンウィズアミッションとかリスペクトしてるの?」なんて小声で耳打ちするから、思わず吹き出してしまった。バツが悪そうに僕を見る香絵子さんと、ちょっと黙って聞いてなさいよねと注意するゆゆちゃんと、キーボードを設置している凪さんを見て、あれはFはあるな、なんて喋っている小川くん。やっぱりECHOは自由すぎてダメだ。僕は何も悪くないのに怒られてしまった。
「ほら、始まるよ」
流れ出した優雅なメロディーで、騒いでいたECHOは一瞬で静かになった。和楽器のゆったりとしたメロディーがロック調に変わっていく。歌い出したボーカルの鼓くんは、ロックに合うような高めの声をしていて、聞いていて心地がいい。和楽器とロックって、意外と相性がいいのだ。各メンバーの演奏技術も申し分ない。これは確かに流行るな、と確信した。
曲が終わっても呆然としていると、香絵子さんが「いやー、やっぱ上手いですね!」と拍手しながらステージに駆け寄る。これくらい当たり前だ、なんて顔をしている花筏のメンバーからしてみると、ECHOの演奏もあみゅがるの演奏も粗末なものにしか聞こえなかったのだろうかと思うと憂鬱になるな。
各パートごとの練習に入る前に、香絵子さんが腹が減った、チキンクリスプが食べたいと言い出した。俗世の食べ物に興味がなさそうな凪さんは違う店がいいと言い、あみゅがるの三人はスイーツ食べ放題がいいと意見が分かれたので、また玲瓏さんが作成したくじで決めた結果、「各自好きな店に行って、一時間後に帰ってこい」ということになった。女子達を誘う小川くんや、スイーツ食べ放題に目がくらんでいるゆゆちゃんや香絵子さんを差し置いて、僕は最中と近くの牛丼屋に出かけた。