複雑・ファジー小説
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- 【吸血鬼】Into the DARK【毎週日曜更新】
- 日時: 2016/05/14 21:06
- 名前: ヒュー(元鈴香) (ID: m.v883sb)
ひゅーです。
二年くらい前まで天緋とか鈴香とか言う名前で小説を書かせてもらっていました。
ふたつの小説が未完結にも関わらず、いなくなったこと本当に申し訳ありません。時期は未定ですが、他ふたつの小説についても書き直しを考えています(もう一度言いますが時期は未定です。もしかすると書かないかもしれません、すみません)。
ということで再び、カキコで小説を書こうと思います。
読んでいただけるとすごく嬉しいです。感想を残していただけると、調子に乗ってPCの前で踊り狂います。
完結目指して頑張りますので、よろしくお願いします。
○この小説は基本毎週日曜日更新です(調子に乗って週に複数回投稿する可能性あり)
〜目次〜
登場人物・用語解説(必読ではないです、随時更新) >>02
Prologue >>01
序章 -sunset-
†第一話 暗雲の街† >>03>>06
○第二話 ネグル○ >>07-08
†第三話 聖軍† >>09-13
〇第四話 ヴェルジュ〇 >>14-15
第二章 -twilight-
†第一話 兄の剣† >>18>>21-22
†第二話 遭遇† >>25-27
†第三話 交差† >>28
第三章 -dusk-
○第一話 スパイ○
〜お客様〜
・ろろさん
・風死さん
・囚人Dさん
・コッコさん
- Re: 【吸血鬼】Into the DARK‐グリース戦記‐ ( No.2 )
- 日時: 2016/03/17 11:20
- 名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)
〜登場人物〜(☆は頂いたオリキャラさん、()内はオリキャラを下さった方の名前です)
ハル:吸血鬼に支配された街で義兄に育てられた青年。
ミカヅキ:ハルの義兄。吸血鬼に血を売って生計を立てる。
ラドルフ:最前線で指揮を執る、聖軍の将軍。
パネ:聖軍の副将軍で、聖軍最強の戦士。奇抜な服装を好む少女。
☆ラルム(小太郎さん):聖軍の副将軍。無口で無表情。吸血鬼と聖軍の双方から『死神』と恐れられる。
☆アルト=エターニア(コッコさん):陽気な聖軍の副将軍。明るく朗らか。
メリィ:聖軍の女戦士。
☆クロード(囚人Dさん):聖軍に所属する兵士。普段は飄々としている。
☆リーネル・アレクシオ:周りから「アレク」と呼ばれる聖軍の兵士。冷静沈着。
リッダ:盗みで生計を立てる少女。
皇帝:吸血鬼を束ねる人物。
ヴェルジュ:月種の長。美しい吸血鬼で、皇帝に次ぐ立場。
☆リネ(balloonさん):緑種で吸血鬼の幹部。変化前後で言葉使いが大きく変わる。
☆アダム・ボドロフスキー(くろにゃんさん):男の吸血鬼で灰種。平和主義で、人間との争いを好まない。
☆リリー(コッコさん):ヴェルジュの部下である女の吸血鬼。穏やかさと冷酷さを併せ持つ。
☆ラーフ(囚人Dさん):ヴェルジュの部下で、幼い男の子の姿をもつ。ヴェルジュへの忠誠心が高い。
〜用語解説〜
吸血鬼:突如現れた人間の天敵。普段はごく普通の人間の姿をしているが、吸血時や戦闘時に体中の色素が薄くなる。その特徴は特に頭髪に現れやすく、頭髪は白銀色に変わる。瞳の色で七種類に分類される。
吸血鬼の種族……紅種:皇帝のみが属すると言われている。瞳の色は赤。
月種:ほかの種族に比べ、戦闘能力が高い傾向にあり、個体数が少ない。瞳の色は黄色〜金色。
蒼種:比較的数が多い。人間の碧眼よりも薄い瞳の色をしている。
緑種:ほかの種族に比べ、戦闘能力が低い(人間と比べればはるかに高い)ため、卑下されることが多い。瞳の色は黄緑〜緑。
紫種:紫色の瞳をもつ吸血鬼。
緋種:薄い桃色〜橙色の瞳をもつ吸血鬼。
灰種:無彩色の瞳を持つ吸血鬼。
帝国:吸血鬼の支配下に置かれた土地。正式に国とは認められていない。皇帝が治める。
- Re: 【吸血鬼】Into the DARK‐グリース戦記‐ ( No.3 )
- 日時: 2016/03/10 18:20
- 名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)
序章 -sunset-
†第一話 暗雲の街†
黒く禍々しい雲が、午後の太陽を隠した。
人々は皆、その薄気味悪い光景に眉をひそめる。まるでこの街の現状を表すかのような雲だと、ハルは思った。絶望と失望の色。
「雨、降らなきゃいいんだけどな」
ひとりごちたハルは、抱えた荷物を一旦足下へ置く。重い荷物に悲鳴をあげる腕を宥める様に、大きく伸びをした。
よし、と気合いを入れて荷物を再び持ち上げる。中身は義兄とハル、男二人分の一週間の食料だ。腕が疲れるのも無理はないが、この仕事はハルがやらなければいけない。
歩き出したハルの耳に、甲高い声が届いた。
「あら、裏切り者の弟よ」
「本当だわ、見て、東の悪魔も私たちと同じものを食べるのね」
「ちょっと声が大きいんじゃなあい?聞こえてしまうわよ」
「そうよ、もっと声を潜めて。私たち鬼に売られてしまうかもしれないわ」
嗚呼怖い怖い、というわざとらしい言葉に続き、下品な笑い声が響いた。聞こえてるぞ、という言葉が喉まで出かかったが、ハルは静かにその言葉を飲み込んだ。
裏切り者、東から来た悪魔、鬼に魂を売った男、人間の敵……。それらは全て、ハルの義兄、ミカヅキに向けられたものだ。
甲高い笑い声から逃げる様に、ハルは早足で帰路を辿る。
しばらく歩くと、民家はまばらになっていく。かつて作物が植わっていたのであろう空き地には、蔦を絡ませるための棒きれだけが虚しく取り残されていた。
ハルと義兄ミカヅキの家は、街の中心から少し離れた場所にある。おかげで利便性は悪いのだが、毎日の様に嫌がらせを受けるのは御免だ。週に一度のハルの労働も、穏やかな生活を送るために必要な事なのだと、自分に言い聞かせる。
自宅の前でハルを迎えたのは、兄ではなく野良猫だった。みゃあみゃあと甘えた声を出し、ハルに餌をねだる。ハルが魚屋から貰ってきた魚の骨を取り出すと、早くよこせとばかりに前足をハルの足でひっかく。
「待て、痛っ、こら。待て。待て!」
野良猫はハルの言葉などお構いなしに、強引にハルから骨を奪った。そのまま何処かへ走り去った野良猫を見送り、ハルは家の扉を開ける。金は基本的にハルが持ち歩いているため、鍵はかけていない。その前に、この家は空き家を勝手にハル達が乗っ取ったものなので、鍵は最初から持っていないのだが。
家の中は、荒廃した街とは裏腹に清潔に保たれている。
ハルは大きな紙袋の中から食料を取り出し、台所の隠し棚へしまう。この隠し棚はミカヅキが後からつけたもので、強く押すと壁の一部だけが可動するようになっている。なかなかの優れもので、ここは今までに数回あった空き巣狙いの被害を免れていた。
この他にも、ミカヅキはあらゆる場所に隠し棚や隠し部屋を造っている。ハルが小さい頃は、よく隠し部屋で遊んだものだ。
食料をすべてしまい終えると、ハルは大きな鍋の蓋を開けた。昨日作ったシチューが、こびりつくようにして残っている。
「魚、魚……っと」
ハルは再び隠し棚を開け、干した魚を取り出した。この国は海に面していて魚介類は豊富なのだが、この街に吸血鬼が出現してからというもの、市場に並ぶのは僅かな乾物と数種の野菜だけになってしまった。とは言うものの、ハルが物心ついた時には吸血鬼の存在は国中で知られていたし、この街も既に寂れていたので、あの市場の本来の姿を見たことはない。
干し魚の焼ける良い香りが狭い家に漂ってきたとき、古い木製の扉が静かに開いた。
「ただいま、ハル」
「お帰り、兄さん」
ハルの唯一の家族、義兄のミカヅキは、いたわる様にそっと年季の入った扉を閉めた。
女のような顔をした、華奢な青年だ。目鼻立ちから、東方の血を引いていることが分かる。歳はハルより10歳上だが、儚げな雰囲気のせいか、小さな少女のようにも老いて疲れ果てた男のようにも見えた。
「晩御飯、できてるから」
ハルが言うと、ミカヅキは元々細い目をさらに細めて静かに微笑んだ。
「ああ。ありがとうね」
室内用のサンダルに履き替えたミカヅキは、倒れ込むようにして小さな椅子に腰を下ろした。小さな窓から差し込む夕日に照らされた肌が、青白く光る。その生気の薄い肌色が、ぞっとするような美しさを引き立てていた。
「……今日も、抜かれたの?」
ハルは目を伏せた。ミカヅキは答えないまま、テーブルにぎっしりと中身の詰まった袋を置いた。中身は大量の金貨だと、ハルは知っている。
汚い、けれど、生きていくためには必要な、金。
兄が自分の血と引き換えに手に入れているその金で、ハルは生きている。
- Re: 【吸血鬼】Into the DARK‐グリース戦記‐ ( No.4 )
- 日時: 2016/03/10 15:12
- 名前: ろろ (ID: /48JlrDe)
初めまして、ろろというものです。
吸血鬼ものと聞いて思わずクリックして読ませていただきました。
まだ、第1話だというのにものすごく物語に引き込まれていって、すごいと思いました。勢いでお気に入り登録もしてしまいました(笑)
これからの更新楽しみにしています。
- Re: 【吸血鬼】Into the DARK‐グリース戦記‐ ( No.5 )
- 日時: 2016/03/10 18:17
- 名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)
>>ろろさん
感想ありがとうございます!
ファンタジー物って第一話が勝負だと思っているので、そう言って頂けてすごく嬉しいです!今軽くパニック起こしてるくらいです(笑)
お気に入り登録ありがとうございます!これからも更新頑張りますので、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
- Re: 【吸血鬼】Into the DARK‐グリース戦記‐ ( No.6 )
- 日時: 2016/03/10 18:48
- 名前: ヒュー ◆.GfDNITtF2 (ID: m.v883sb)
裏切り者。義兄をそう呼ぶ者が間違ってはいない事くらい、ハルは知っていた。
人類から見れば、ミカヅキという存在は汚い裏切り者に過ぎない。
———今から十八年前、吸血鬼達は突然、此処グリースの街に現れた。白銀に変色する髪と七色の瞳を持つ彼等は、その絶対的な力でここグリースを支配下に置き、街のシンボルである古城を《ネグル》と名付けて棲みついた。瞬く間に吸血鬼の国《帝国》と化したグリースの住人は、ほとんどが王都へ逃げていってしまう。残ったのは、王都に行く金もない貧民や、ミカヅキとハルの様な孤児だけだ。
かつての都市を取り戻すべく、国は即座に《聖軍》を結成した。《聖軍》とは王国軍の精鋭を将軍に置き、実践経験の豊富な戦士達で結成された対吸血鬼部隊———という名目だが、実情はよく分からない。というのも、《聖軍》の活動は極秘とされており、何処で、どのような活動を行っているかが不鮮明なのだ。巷では、もう既に全滅したのでは、とも囁かれている。
そんな、とても平和とは言えない街で、ハルとミカヅキが暮らしているのには訳があった。
2人には親がいない。ミカヅキのことはよく分からないが、ハルには両親の記憶が一切無く、最初の記憶には既にミカヅキしか居なかった。その頃のミカヅキは血色がよく、足も速かった覚えがある。この街唯一の商店で働き、給料を貰えなかった時には盗みもして幼いハルを支えていた。しかし今の彼に、その頃の面影は無い。
ハルの頭がミカヅキの胸あたりにきた頃、ミカヅキは突然言った。
『俺は吸血鬼に血を売ろうと思う』
勿論、ハルは反対した。幼く拙い言葉で、どうにか兄を止めようとした。
『僕も働く!』
ハルがそう怒鳴っても、ミカヅキは考えを変えなかった。結局その次の日、ミカヅキは金貨でいっぱいになった袋を持って帰って来たのだった。
その日からずっとミカヅキは、一般人なら絶対に近寄らない吸血鬼の城《ネグル》に通っている。
「兄さん、もう食べないの?」
シチューを胃に流し込みつつハルが聞くと、ミカヅキは困ったように微笑んだ。
「済まない、いささか食欲が無くてな」
「……そっか」
また体調が悪いの? と言うことは出来なかった。ハルを養う必要が無ければ、ミカヅキには血を売る必要なんて無い筈だから。
済まないね、と繰り返したミカヅキは、自分の焼き魚に薄布を被せる。静かに合掌すると、ふらつきながらも立ち上がった。
「今日はもう寝るよ。ハルも早く寝た方がいい」
「分かってる。片づけが終わったら俺も寝るから。……おやすみ」
ミカヅキは寝室の扉を半分開けたところで、動きを止めた。
「ハル」
冬の澄んだ空気のような、凛とした声に、ハルは振り向く。
「どうしたの?」
ハルが問うても、ミカヅキはしばらく動かなかった。複雑な感情が蠢いているその瞳に、ハルは何故か焦燥を感じた。
なにか、なにかが遠ざかっていくような予感がする。いつもは気にも留めないような、些細ななにかが。どこか、懐かしい感情だ。
(———サクラが死ぬ前の夜)
昔2人で飼っていた猫が寿命で死ぬ前の夜と同じ感情だと、ハルは思った。
きっと明日は生きてはいないのだろうと思いながら、ぱさついた体毛を涙で濡らしたあの夜と。
「……何でもない、おやすみ」
ミカヅキは、嫌な胸騒ぎを残したまま、寝室へと消えた。
その背中はハルより大きい筈なのに、弱々しく、小さく見えた。
次の日、ネグルへ出かけていったミカヅキは、夜になっても帰ってこなかった。