複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- Resistance of Destiny リメイク
- 日時: 2016/05/12 22:43
- 名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)
題名の通り以前書いていた作品のリメイクです。
前よりは上達している……と思いたいなぁ
以前募集をさせてもらっていたオリジナルキャラクターは勿論そのまま使用させていただきます。
- Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.15 )
- 日時: 2016/08/20 17:32
- 名前: 黒陽 (ID: yAL.k7HO)
ロサンゼルス空港。神獣が世界に現れてからその空港にはまるで廃墟のようになった。民間の航空機はいとも簡単に神獣に探知され、破壊されてしまうためだ。そのためロサンゼルス空港はRoDの軍用機のみが利用する空港になっていた。普段は近くを通っても見向きをしない場所に志龍はやって来ていた。
「えっと……巫女服……巫女服っと」
志龍は自分の部隊に入隊する者を探していた。面積は広大ではあるが、何せかつての繁栄が馬鹿らしくなるほどの人の少なさだ。目的の人物は簡単に見つかった。
どこか上の空の少女だ。年齢は志龍よりは下であろう。彼が声をかけようとしたとき、彼に気づいたのであろう。あっ、という声を小さく漏らした。
するとすぐに、志龍の方に駆け寄ってくる。
「すみません……分かりやすいところで待っていれば良かったのですが」
「いやいや、いいよ。人は少ないとはいえバカみたいに広いしな。俺も八年前に来たときは、トイレに行こうとして道に迷ったんだよ。
……それで百蓮零雨さんであってるよな?」
志龍が名前を確認すると少女——零雨は小さく頷いた。
黒と銀のグラデーションのどこか神秘的な髪。その髪に若干隠れたその空色の瞳は、年相応のあどけなさを残しつつも自らが行く場所、その危険性を分かっているという聡明さを感じさせる。
志龍が見てもその大きすぎる巫女服は、白を基調としており所々に青いラインが入っている。
「零雨で良いですよ。ところでお名前をお伺いしても?」
「ああ、俺?俺は白影志龍。よろしく」
零雨の前に、握りこぶしを突き出した。そこに零雨も拳をぶつけることを期待して出したのだが、一向にぶつけられる気配がないため志龍は零雨の顔を覗き混む。
その顔は驚愕で染められていた。
「白影……中将……ッッ!私は中将に迎えに来てもらったの?なんという……もうちょっとちゃんとしゃべれたら……」
「いやいや。そんなに畏まらなくたっていいさ。零雨って何歳?」
「えっと……14です」
「俺は18。中将つったってなんか変わるワケじゃねぇのさ。それに俺は階級なんていらねぇと思ってる。元帥だろうが、二等兵だろうが死ぬときゃ死ぬんだよ。貰って良い物だから貰ってるけどな。それに俺らは同じ部隊の人間になるんだ。階級、年齢関係なく仲良くやろうぜ?」
言うと志龍は、再度握り拳をつき出す。すると今度は数秒するとコツンという控えめな強さであったが、しっかりと零雨の小さな拳がぶつけられていた。
志龍は零雨の隣まで行くと腰に見覚えのある幣が差してあるのを見つけた。
「それ《櫻舞大幣》?」
「はい。……お爺ちゃんの形見なんです」
それは、零雨の滅神器《櫻舞大幣【オウブオオヌサ】》だ。それを見ると志龍は懐かしく感じる。その滅神器の前任者である老人に志龍は大菊世話になったから。
それ故に、彼が死んだというのはショックだった。しかし聞いておきたいこともあった。彼が、脱退前に言っていった自らの夢が成し遂げられたのか。ちゃんと聞いておきたかった。
「死んだのか……。どんな風にってのは……悪ぃそれは聞いちゃいけなかったな」
しかし、すんでのところで彼は言うのを止めた。零雨の悲しげな表情を見れば、それは聞けなかった。
しかし、零雨は首を横に振ると静かに言った。
「私を守って、神獣に食われて……死にました。私なんか見捨てていけば……っ……おじいちゃんは助かったのに……」
「……そうか。皆にもちゃんと言ってやらなきゃな」
その目には涙が浮かんでいた。そして志龍と零雨は軍用車に乗ると、RoD本部には向かわず、近くの酒屋によると、一本の酒を買うと再度引き返す。そして、零雨を連れてきたRoD職員に酒を黙って渡した。
すると、そのRoD職員は息を飲んだ。
「中将、この酒は……?」
「あのジジィ、孫を庇って死んじまったそうだ。……ジジィに飲ませにいってやってくれないか」
「……っ。了解しました」
酒を渡すと、志龍は零雨のとなりに立つと話しかけた。
「あの職員も、お前の爺ちゃんに世話になった一人だ。勿論、俺も」
「……」
志龍の言葉に、零雨は沈黙で返した。それでも志龍はよかった。これは彼自身が思い出に浸る為の物であったから。
「全ての《殺神者【スレイヤー】》を育てた男……。そんな風にあのジジィは呼ばれていたなぁ……懐かしい」
「……そんな風に言われていたなら、お爺ちゃんは、なんでRoDを辞めたんですか?」
「なんでかっていうのはな……。退団式で言ってたよ。もしものために孫を命懸けで守るためだって。そんなことにみんなは笑って、あんたは死んでも死ななさそうだって言ったんだ。それにあのジジィも笑って——。
お前の爺さんは、己の全てを懸けてお前を守ったんだ。己の志を貫き通したんだ。立派に生きたんだなぁ」
語る志龍にも若干ではあったが涙が浮かんでいた。エーデルワイスが彼の師匠であり目標であったが、彼は志龍の生きざまの目標だった。
いつかあんな格好良い男になれたら——そう思い戦ってきた部分も少なからずあった。
物思いに耽っていたら、零雨からの問いかけは飛んでは来なかった。
その代わりに瞳に、話す前の倍近くの覚悟を携えていた。
それを見て、志龍は笑うと、
「じゃあ行こうか」
「はいっ!!」
零雨に言うと、軍用車のエンジンをかけた。
- Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.16 )
- 日時: 2016/08/28 10:50
- 名前: 黒陽 (ID: lPEuaJT1)
車の中。行き先であるRoD本部まではおおよそ一時間半かかる。
軍用車のエンジン音が車内に響く中、世間話のネタはなくなってくるわけで。
そこで零雨は、新たな話題という意味でも自分が気になっていたことを志龍に問うた。
「志龍さん、RoDの基本的な事について教えてほしいんですけれど」
「ん?……ああ、別に良いけど。詳しいことは着いてから室長に聞いてくれよ?」
運転中であるため、零雨に目線は合わせず志龍は口下手ながらも、なるべく分かりやすいようにゆっくりと説明を始める。
「まずRoDことResistant of Destinyに所属している人は主に二種類に別れるんだ。まずは俺や零雨みたいに邪神と契約し、神獣らを殺す…《殺神者【スレイヤー】》と呼ばれる奴ら。あともう一つは、神を宿す器……憑代と呼ばれる物の創造や、新な邪法の開発。医療や食事諸々を用意してくれる《支える者【サポーター】》って呼ばれる奴ら。ちょいちょい出てきている室長っていうのが《支える者》の一番の権力者だ」
「……なるほど」
零雨はどこから取り出したのか、メモにシャープペンシルまで取り出してきて、熱心にペンを走らせている。その勤勉さに志龍は主に苦笑いしてしまうが、過去の自分を思い出すとこっちの方がよっぽど良いだろうと一人で納得する。そうやって考えを巡らせているうちに、零雨は志龍に向かってキラキラした目線を向けていた。志龍はそれを横目で確認すると、さらに饒舌になって話を進める。
「でだな……《支える者》には班員、その次に班長、次に室長と順番で持つ権限が高いんだ。つってもそんなものないに等しいのだが。次に俺達《殺神者》だ。基本的には、小説とかに出てくる階級制度で変わらず、二等兵から順々に階級が上がっていく。ただし俺やアルエの上、大将の上にここでも室長が出てきて、その上に四元帥って呼ばれるRoDの最高戦力とも言える四人。さらにその上に五人の大元帥がいらっしゃるわけだ。さらに詳しく言えば二等兵のさらに下に邪神と契約を結ぶために必要な技術によって育てられる研修殺神者がいるんだが、俺も零雨もすっとばしているからあんまり関係ねぇ」
「志龍さんもその行程はなかったんですか?」
「ああ。なかった。俺も零雨と同じように邪神を選んだのではなく、八年前に邪神に……ニーズヘッグに選ばれた人間だからな。しかもその時から案外強かった。だから師匠はさっき話した四元帥の内の一人……《熾天使の塵【セラフィムダスト】》ことエーデルワイスという人だったしな」
八年前——十歳の時点で戦場に立ち、十八歳という若さで中将という階級に至ったのが親の七光りというわけではなく実力でそこまでのしあがってきた事に零雨は戦慄する。そして、元帥というRoDの最高戦力に師事を得ていたということで、その強さはさらに上がった。
そして、そんな男の部隊に入隊できるという事実がひどく零雨には嬉しかった。
「そういや、《櫻舞大幣》に宿っている神ってコノハナサクヤだろ?」
「はい。そうですけど……」
「今のところ植物を操ることしか出来ないのか?」
「え……なんで?」
「コノハナサクヤっていう名前から草木を操る神だと思われがちなんだが、本来は炎を操る神なんだよ。だから、ジジィも草木と同時に炎も操ってた」
「そうなんですか?」
「でも、ジジィは結構、年いってたしな。まだ零雨は十四歳だし焦ることはないだろ。ゆっくりやっていけばいいさ」
そして、志龍たちをのせた車は山道にさしかかる。すると、志龍は首筋にピリッとした感覚を覚えた。
- Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.17 )
- 日時: 2016/09/12 23:26
- 名前: 黒陽 (ID: lPEuaJT1)
——クソが。
あれから30分間。志龍はずっと人気のない山道をずっと走行している。それも速度を100km越えで、複雑に走り続けている。それであっても首筋に走るピリピリとした者は外れない。
背後、前方には目立った車は無く、横には森と遥か下へ続く崖から落下を防ぐためのガードレール。
——となれば、《守神兵【ガーディアン】》か。仕掛けてくるならとっととしろよ。
恐らく森に潜んでいるであろう——透明化しているのであればどこから来るのかは分からないが——神獣を束ねる自分達と同じ存在。《守神兵》がいつ仕掛けてくるかわからない状態。志龍も馴れているとはいえ、苛立ちが募るのにかわりない。
おまけに今は零雨という戦い慣れしていないどころか経験すらしていない者を抱えての状態だ。いつ仕掛けてきても零雨を即座に助け出せるように、さらに警戒レベルを引き上げた。
そしてそれは、志龍の思いに答えるようにやって来た。どこからか聞こえた乾いた発砲音。それと同時に膨れ上がった森側から感じられる殺気。
それに戦い慣れしている志龍は即座に行動をとった。
すぐに運転席から立ち上がり、零雨を抱え——ついでにすぐそばにあったキャリーバッグも掴み——軍用車のドアを蹴破り外へ脱出する。
それからすぐに無数の銃創が車に刻まれ、爆発。
不可視の弾丸に警戒しつつも、状況が今だにわかっていない零雨に、自分が持っていたスマートフォンを渡すと、
「そこからこころに、ここの座標を送ってくれ。そこからは自分が怪我をしないことだけを考えろ。OK?」
「あの、志龍さん……いったい何が……?」
「何……」
零雨から視線を切り、300m程前方に降り立った黒の外套の人物に視線を向け、《切断者【シュヴェーアト】》を地面に突き刺し、己の滅神器を呼び出す。
「お前の手荒い入隊祝いだ。——《狂竜神の鎧【タイラント】》」
どこからともなく、黒色の竜を模した鎧が召喚され志龍の身を覆っていく。全身に走る血管のような蒼の紋様は一際強く輝き、志龍が強く外套の者を警戒しているかが理解できる。
そして、零雨は見た。
志龍の背後に、漆黒の竜を。その竜の幻影は十字に割れた瞳孔を持つ蒼の眼光を灯し、質量すら伴った威圧を叩き付ける。
「……ッ」
その敵意に零雨は自分に向けられていないと分かっていても、怯んでしまう。
それ故に志龍に言われたこと——《櫻舞大幣》で身を守るということが遅れてしまった。
その間に外套の者は、己の手に持っている——志龍たちには視認できないが——闇色の二挺拳銃を発泡。刹那の間に八発の銃弾を放つ。
不可視の銃弾。それを志龍は発泡されると同時に《狂竜神の鎧》の神技によって視る。
「《龍眼》」
それは眼球に神気を流し込み、本来は見えないものを視る技だ。それと同時に動体視力を常人の数千倍にまで引き上げることで、銃弾を全て捉えきり己の右手に握られていた《切断者》を構え瞬間八連撃を銃弾に向かって放つ。
それは戦闘馴れをしている者すら同時に八回振りかぶったかのように見えるほど。それを戦闘馴れをしておらず、邪法をメインアームにして戦う零雨からしてみれば、一切斬撃の軌跡が見えないほどだった。
それは、《熾天使の塵【セラフィム・ダスト】》エーデルワイスの二刀流剣術に渡り合うために作り出した、志龍の常識を逸脱した反射神経を《狂竜神の鎧》がアジャストするからこそできる八連撃技。
「《ヤマタノオロチ》」
それにより不可視の弾丸全てを叩き落とした志龍は瞬時に距離を詰める。その瞬間、志龍の足元——アスファルトから爆発音が聞こえた。
零雨が視線をそこに向けると、アスファルトが捲れ上がっていた。そして零雨は悟る。
先程の爆発音は、志龍の距離を踏み出す速度にアスファルトが耐えきれなかったからだと。
——馬鹿げてる。
零雨が思ったのは、たったそれだけの物だった。
自分の祖父が、護身用と言っていて鍛えていた剣。それでも幾十年の努力の末にたどり着いたもの。それは見えていたのに、彼の槍術は軌跡が一切見えない。そしてアスファルトを捲り上がらせる程の膂力と瞬間速度。
どれ程の才能があればこうなれるのか。
どれ程の努力があればこうなれるのか。
自分が幾年努力しようとも、彼と渡り合えるビジョンが思い浮かばない。
彼に渡されたスマートフォンを見やる。
メールの宛先に示されていた名前は、神無月こころ。
そこに現在位置の座標をマップをもとに打ち込み、送信する。
そして、《櫻舞大幣》によってたどたどしくも、木の幹で自分を守る盾を作り出す。
彼女はふと思考の海に潜る。
彼——白影志龍の力の片鱗。たったあれだけを見ても、彼が常軌を逸脱したバケモノであることは分かった。
しかし、そんな彼が座標を送っただけで自身達が今、どんな状況に置かれていて、そして尚それを理解し彼が望む最的確な行動をとってくれると信頼しているこころという人物が一体どのようなものなのか、どれ程の強さを持っているのか。
それがひどく気になってしょうがなかった。
しかし、そこはこの戦いを乗りきれば自ずと知ることになるだろう。
彼女は盾の隙間からそっと彼らの戦闘を見やった。
- Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.18 )
- 日時: 2016/09/14 20:49
- 名前: 黒陽 (ID: lPEuaJT1)
アスファルトを蹴った志龍は瞬時に距離を詰める。《切断者【シュヴェーアト】》を左腕に持ち替え右拳を握りしめる。それは外套の者も拳銃の弾を放つことのできない速度。そして、
「《星砕竜爪【アストラル・ブレイク】》——ッッ!!」
顔面に向かって拳を放つ。それは星を砕くという技の名に等しく、おぞましい膂力によって顔面を消し飛ばすべく迫る。それを彼は手に持っていた二挺拳銃で受け止めて見せる。
そして——爆発音と形容すべき音が響いた。
そして外套の者は遥か彼方へ吹き飛ばされるが、両腕は粉砕されておらず吹き飛ばされながらも、右側の拳銃を構え——
「《無明魔弾【オスクリダード】》」
三連発。その弾丸は闇よりも深い無明であった。その弾丸は志龍の眉間、肺、心臓へ迫る。
しかし、たかが秒速500m程の速度で飛んでくるものだ。しかも先程のように八発などという数ではないため、《ヤマタノオロチ》を使う必要もない。
反射神経も数百倍にまでブーストされている志龍は最的確な動作により、《切断者》で撃ち落とされる。
だが、《切断者》が弾丸に触れた瞬間に弾丸全てが爆発。《狂竜神の鎧【タイラント】》を以てしても防ぎきれない衝撃が志龍の総身を打つ。
しかし、それと同時に——。
——クッソ。何も見えねぇ……!!
その弾丸は全てを視る竜の双眸すらも、その黒で塗り潰し視界を塞ぐ。
ただ、志龍は戦闘全てを視覚に頼っているわけではなかった。
この山道を流れる大気の流れを読み、本来の流れと違和感の察知。そこに即座に体内から神気を《切断者》に宿らせる。
視ることが出来るほどに膨れ上がった膨大な蒼黒の神気は《切断者》の周りに暴風のように吹き荒れ《切断者》唯一にして最強の技を叩き込む。
「《常世斬爪【ヴェルト・シュナイデン】》ッ!!」
森羅万象。その全てを紙のように容易く切り裂く竜の爪が振るわれる。それは外套の者の軌道線上にあった木々を全て伐採し、外套の者の胴体を真っ二つにした。だが、それはグチョリと液体に変わった。
——分身か。
自分の一撃が全く効果のなかったことに思わず志龍の口から舌打ちが漏れる。
瞬間、自分の背後——しかもゼロ距離から殺気を感じた。
その根元は自分の足元——僅かな街灯の光によって浮かび上がっている影からだ。そこに闇に溶けそうな黒い影が浮かび上がる。
志龍はそれが一切見えていなかったが、第六感により的が自分の影に潜んでいることを見抜き、相手の水月に向かって蹴りを入れる。
それによって空中に浮かび上がった外套の者に、志龍は即座にそちらへ向き直ると勢いそのままに《切断者》を斬り上げる。
それは相手が《切断者》の間合いから逃げられていたが、外套をわずかに切り裂くと共に皮膚を薄く切る。
それは《狂竜神の鎧》によって埒外に跳ね上がった膂力だからこそできる《切断者》を振るった際に出来た風圧によって生まれた所謂、飛ぶ斬撃だ。
威力低く、射程距離も短いものの《常世斬爪》とは違い神気を《切断者》に蓄積せずとも出来るので、牽制には十分だ。
「次は仕留める」
《切断者》の先を持ち上げ外套の者に向けると、蒼黒の神気を《切断者》の周りに纏わせる。それは嵐のように吹き荒れ、かろうじて《常世斬爪》から逃れていた木々の葉を揺らす。
それによって顔をすっぽり隠していた外套のフードが外れ、隠れていた銀髪が露になった。その髪の隙間から見え隠れする黒の世界を明るく照らす月光色の瞳に、志龍はこのような状況におかれながらもどこか懐かしい感覚を覚えた。
外套の者は手早くフードをかぶり直すと、二挺拳銃を真上に向かって投げる。
一瞬、そちらに気をとられた志龍はすぐに眼を外套の者に向ける。そこには——
「《陽穢球【シュヴァルツ・グレネード】》」
そこにはドッジボール大の紫の光を放つ球体があった。それを外套の者は投擲。
それは銃弾程ではないもののそこそこのスピードで飛んでくるそれを、《切断者》にて縦に切り裂く。
完全に回避した志龍は《切断者》を降り下ろし、《常世斬爪》を放つ——
「ああ!?」
前に背後から凄まじい衝撃と、自分の神気が穢されていく感覚を覚える。
その衝撃は外套の者が放った《陽穢球》によるものだ。
それは切り裂かれ、アスファルトにぶつかる前に炸裂。豆粒程の大きさの闇の神気の塊になると、背後から《狂竜神の鎧》を突き抜けて志龍の背中を蹂躙したのだ。
しかし、その背中の傷には目もくれず志龍は駆け出す。それは志龍の背中を蹂躙したのとは反対方向に飛んだ《陽穢球》が《櫻舞大幣》によって作り出した盾を根こそぎ吹き飛ばしていたからだ。
そして、何があったかわからないという零雨には攻撃に移るという考えはないだろう。そして間違いなく志龍よりも弱い零雨は狙われる。
「《影縫》」
志龍の背後にいる外套の者の気配が移動する。それは間違いなく零雨に向かっている。《影縫》は《狂竜神の鎧》によって数百倍に強化された脚力と五分五分。否、街灯によって作り出された影の中を一切の抵抗なく進む《影縫》の方が僅かに勝るか。
志龍は《常世斬爪》によって零雨の前にまでたどり着いた外套の者を空間ごと切断してしまうかという考え方に至るが、それを即座に捨てる。
零雨がパニック状態に陥り逃走しようとした際に外套の者諸ともに切断してしまう可能性があったためだ。
ならば《竜脚震撼【ドラゴンスタンプ】》によって足を粉々に破壊してしまうか。それもだめだ。そもそも《竜脚震撼》は本来地下に潜む神獣を攻撃したり、大地を波打たせる程の衝撃を叩き込み、対象の動きを寸断するものだ。衝撃を一点に集中させ、相手の体を振動で破壊するというそのものが技のコンセプトとは違うのだ。それゆえにゼロ距離から確実に頭を消し飛ばそうと外套の者が限りなく近づけば、間違いなく零雨も巻き込んでしまう。
それ故に彼が考えたのは《星砕竜爪》によって発生した風圧によって相手を零雨から突き放し、《常世斬爪》によって切り裂くこと。
その結論に達した志龍はその場で停止し、星を砕く竜の拳を放とうとする。
が——。
「《時空凍結【クロノロック】》」
その時、時空が凍りついた。
《星砕竜爪》を放とうとした志龍も、拳銃を零雨の頭に押し付け今にも引き金を引こうとした外套の者も、死を覚悟しその眼を閉じた零雨も。
そのゼロと1秒の狭間。凍りついた時空のなかで動く桃色のセミロングの美少女——神無月こころは志龍の座標だけを送ってきたメールに気付いた彼女はすぐさま彼の意図を把握。《副王の指輪【ヨグ=ソトースリング】》の《時空跳躍【テレポート】》にてここまでやって来て状況を把握。
そして、時空を凍結させてみせた。こころは零雨を腕に抱え志龍の背後まで移動し、《時空凍結》を解除。
《星砕竜爪》を放った志龍と先程まで銃口を頭に押し付けていた少女の姿が見えなくなったことで困惑するものの、志龍の背後にいるこころと抱き抱えられている零雨の姿を見つけたことで、増援が来てくれたことを把握した。
《星砕竜爪》によって発生した風圧を難なく避けてみせる外套の者は、再び向き直ると2つの銃口をこころと志龍に向ける。
「遅れてごめん、志龍」
「いやナイスタイミングだ、こころ。あんがとな」
こころは零雨を優しく下ろすと、《副王の指輪》に膨大な神気を流し込む。
それは手の指、全てに嵌まっている指輪が赤、青、緑——と様々な色に輝き闇を消し飛ばす。
同じく志龍も《切断者》、《狂竜神の鎧》に神気を流し込み《切断者》の周りには暴風を巻き起こす蒼黒の神気を、《狂竜神の鎧》は流し込まれた神気に反応しその装甲に走る血管の輝きを増させる。眼前で起こっていることに対して外套の者は——
「流石に分が悪いか」
呟くと何処からか本を出すと、それに神気を流し込む。
なにか仕掛けてくるかと志龍とこころが身構えるがそれとはそれは杞憂となった。
それは見えない何かにパラパラとゆっくりとページを捲られるとそれは目に追えないほどのスピードとなり、その捲られたページは黄金色の光を放つと自ずと破れ外套の者を包み込む。
「また会おう。志龍、こころ。今度会ったときには——」
名を教えていないはずの者に名を呼ばれた二人は驚愕し、すぐさま追いかけようとする。しかし外套の者は本のページに全身が隠れるほどになり、そしてその場から消えて見せた。
そこに残っているのは青い炎に燃えるあの者を転送させた聖書のページだった。
「逃げられたか」
「……そうだね」
二人の小さな呟きが闇に消えていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ〜い♪約8年ぶりの幼馴染みとの再開はどうだったかしらぁん?」
「別に」
先程まで志龍たちと戦闘を行っていた場所。そこが見下ろせる山頂でドスの聞いた男の声に話しかけられた外套の者はそっけなく答える。
「あらぁ、つれないわねぇん」
先程から外套の者に話しかけている男は身長2mは容易く越え、極端に露出の多いドレスに身を包んだ男。
露出が多いせいで、本来は豊かな胸が見えるはずの場所には胸毛が、スカートから覗く美脚が見える場所には脛毛が異常に濃く生えているせいで見ているものに嫌悪感と胸糞悪さを与えるだろう。
それに比べ外套の者は身長は160cm後半と男性にしては平均的、もしくは少し小さめか。一切飾り気のない黒の外套に、《守神具》である《夜皇女の双黒【ニュクス=アルヴァ】》を収めるガンホルスターがベルトと共に付けられている隠密行動を旨とした格好だ。
「まぁ、次も会う機会が近くにあるわぁん。その時に頑張って備えることね」
「それより、お前の方はどうなんだ。プリシア」
プリシアと呼ばれた巨漢はにっこりと笑うと。
「一切問題なしよん。まだまだ若いものには負けられませんもの」
そうかと、興味の無さそうに答えるとフードを外し空に輝く三日月を見る。
その目には確かな決意が込められているようにプリシアは思えた。
「やれやれ。若いっていいわねぇ。気張んなさい。黒陽想馬くん」
- Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.19 )
- 日時: 2016/10/06 22:44
- 名前: 黒陽 (ID: lPEuaJT1)
外套の者を辛くも退けた志龍とこころはふぅ、と落ち着く意味でため息をついた。身の安全が確認されたところで彼は《狂竜神の鎧【タイラント】》を解除する。
《狂竜神の鎧》は黒い靄に消えていき《切断者【シュヴェーアト】》は《狂竜神の鎧》を召喚する鍵の状態である野太刀の状態へ戻る。
「ったく、入隊者祝いの日に襲撃なんて演技悪いなぁ」
零雨は彼の様子に思わず笑ってしまう。先程まで殺し合いをしていたとは思えない。しかも案外余力を残している。戦っていたときのあの殺気を放っていた彼とは別人のようだ。
「でも志龍さん。あの森、あのままでいいんですか?」
そう言いながら零雨は志龍の《常世斬爪【ヴェルトシュナイデン】》によって見事なまでに真っ二つになっている山林を指差す。
そこはおおよそ500メートル先まで木々が伐採されておりそれを元に戻すのにかかる時間は十年やそこらではないだろう。
「あ〜全然良くねえ……。あの、こころさん1つお願いがございましてね?」
志龍が突然下手にでる。同じくそれも零雨が見てきた志龍像とはかけ離れている。例えるならば尻にしかれている旦那が妻に小遣いをせびるような表情だ。
一息をいて志龍が言う。
「この森、《時空治癒【クロックバック】》で戻してはいただけませんかねぇ……?」
その瞬間彼女はこころの方から音が聞こえてきた。例えるならばブチッという音が。
今まで零雨達の方に背中を向けていたが、くるりと振り替えるとそこには笑顔が浮かんでいた。しかし彼女には不思議でならなかった。彼女の笑顔は天使さえ虜にしそうな笑顔なのに凄まじい殺気が——志龍に向かってだが——向けられているのが。
「ねぇ……志龍。私と志龍って何年一緒だったっけ?」
「それはっすねぇ……生まれたときの差が16日。それと俺がエーデ師匠と修行に出てたのが5年だったから……12年っす……」
「そっかぁ……そんなに長いんだねぇ……じゃあ私が今、何思ってるのか分かる?」
こころを前にした志龍はまるで目の前に虎が現れたネズミのように全身がガタガタと震えている。背中にはじっとりとした冷や汗が浮かび、乾いた笑いが口から零れていた。
「今、完全にぶちギレてるってのは分かります……はい」
「そうなんだぁ……正解。私の超格好いい幼馴染みは……私とを過労死させる気なんだねぇ……。アハッ」
その瞬間震えがさらに激しくなる。死刑宣告を受けた罪人のように、神罰を受ける愚者のように縮こまり、震え、己の身体に降りかかる裁きを待つ。
しかし、それは来る事はなく実際に漏れたのは彼女のため息であった。
「直してくるから。車は?」
「燃えた」
「じゃあその子背負って帰ってきて。みんなが私たちの家で待ってるから」
おう、と志龍は再び《狂竜神の鎧》を纏うと零雨を背負うと、ガードレールを飛び越えて宙へ身を踊らせる。
生身の零雨は強い浮遊感——ジェットコースター並の浮遊感を感じる。
道路に着地するとしばらく走って、ビルを見つけると屋上まで跳躍。近くのビルへ乗り移りながら帰路を辿る。
「志龍さん」
ビルとビルの跳躍をしている間に彼は零雨の声に応える。
「こころさんの契約神は何なんですか?」
そう、彼女は不可解だったのだ。
突然空間に玉虫色の穴が開くや、気がついたらこころに抱えられ志龍の背後にいた。それをあの外套の者、それに加え彼女に応援を呼んだ彼でさえ反応できなかったのだから。
「《副王》ヨグ=ソトース。全にして一、一にして全なる者。門にして鍵。原初の言葉の外的現れ。外なる知性。混沌の媒介なんて呼ばれてるいかなる時間、空間に存在しているとされる神性。属性は次元と時間属性だな」
「次元と空間……それってかなり制御が難しい属性でしたよね?」
それぞれの神性は大まかに、炎、水、風、大地、雷、聖、時間、空間、無属性に分けられる。水から氷、大地から木属性と派生していくものもあるが。
無属性は明言されている属性以外をすべてぶちこんだ大分アバウトな属性である。志龍の《狂竜神の鎧》もそこにあたる。
その中でも一際制御が難しいのが、次元と時間属性の2つ。
この属性は力の働く範囲が大きく、強力な分、消費神気量も馬鹿にならない。1秒維持するだけでも並の《殺神者【スレイヤー】》では軒並み神気を持っていかれる。
「それに加え全属性を使えるからこころは《万象指揮者【ルーラー】》なんて呼ばれている。まぁアイツは神気制御もRoDトップクラスなうえに、総神器量では世界一だからな。俺とアイツじゃ持ってる才能が違う」
でも、と志龍は一旦言葉を区切ると、
「どれだけあいつが強かろうと、どれだけの才能を持っていようが、俺が知っているこころは、甘えん坊で優しくて、泣き虫なたった一人の幼馴染みなんだ。進んで戦わせたいなんて思わねぇ」
表情は《狂竜神の鎧》のヘルムに隠されていて分からなかったが、彼の声音から彼女をどれだけ大切に思っているのか、戦場に立たせるのが反対なのかが伝わってきた。
次元と時間属性を含む全属性を操る邪法士。
それがどれだけ規格外な存在であるのか。祖父が《殺神者》であった零雨には分かるのだ。
「それでもこころさんは戦ってますよね」
「最初は俺も反対したんだがな。……考え方を変えたんだよ。アイツが戦場に立つなら、俺が守ってやればいい。アイツが倒せない敵。そのすべてを俺が叩き潰せばいい。ってな」
その込められた言葉。言うは易いが実際にやるとなれば高い壁だ。
並々ならぬ努力。そんな言葉さえ霞んで見える執念の果てに行き着いたのがあの強さなら。
あれだけの強さを身に付けたのが、たった一人の少女のためだというのなら。
しかし彼の努力はそれだけではなかった。彼が狂った竜と謳われるその片鱗。
それに彼女はたどり着いてさえいなかったのだ。