複雑・ファジー小説

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Resistance of Destiny リメイク
日時: 2016/05/12 22:43
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

題名の通り以前書いていた作品のリメイクです。

前よりは上達している……と思いたいなぁ

以前募集をさせてもらっていたオリジナルキャラクターは勿論そのまま使用させていただきます。

Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.5 )
日時: 2016/05/27 18:30
名前: 黒陽 (ID: wpgXKApi)

「……りゅう……志龍。起きろー……」
「ん……あ……あと二十四時間……!寝かせろぉ……」
「朝ごはん……冷めるよ〜」
「んあ……飯……」

無気力な声に、志龍が眼を開けると。
そこには見慣れた桃色の髪と同色の瞳、エプロンを羽織った、彼の同居人——神無月こころが志龍を優しげな声で起こす。
彼の二十四時間寝かせろは、毎日言っているようなことなので、もうこころは突っ込まない。
ダークブルーの長袖のパジャマのボタンを全てはめずに、腹筋を思いっきり露出させているというような格好だが、それでもこころはなにも思わない。
なぜなら彼らは、十五年近く一緒に暮らしてきた幼馴染みなのだから。

「そーいや……久々に八年前の夢を見たよ」
「ショタ志龍……」
「喧しいわ」

そんな、何気ない会話を繰り広げながらも志龍は、テキパキとパジャマから学校の制服に着替え、階段を降り、こころが作った朝食を食べる。

「いや〜……あれから八年で、俺達が中将になってんだもんなぁ……」
「わたしは……少将だけど」

志龍が見た夢の内容は八年前——志龍とこころがResistant of Destiny——通称RoDに所属するきっかけとなった災厄の日。
自分達の故郷を奪われ、最愛の親友二人を失った二人の戦う理由の原点と言うべき時だ。
そんな、懐かしいくも苦しかった時の事を思い出していると、あっという間に朝食を食べ終え。

「んじゃあ、学校いきますかぁ」
「副王の指輪《ヨグソトースリング》で登校……」
「登校で滅神器使うんじゃねぇよ」

志龍がニーズヘッグと契約しているように、こころもある邪神と契約をしていた。
その名は——ヨグ=ソトース。
時間と空間の法則を超越しすべての時と共に存在し、あらゆる空間にも接していると言われるクトゥルフ神話最強の神性である。
その能力とは、自身の空間の座標を移動させる事と、一定範囲内の空間の時間を自在に操作すること。
こころが使おうとしたのは前者——テレポーテーション能力だ。

「歩くの……面倒くさい」
「じゃあちょっと待ってろよ。切断者《シュヴェーアト》持ってくる」

Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.6 )
日時: 2016/08/03 00:36
名前: 黒陽 (ID: lPEuaJT1)

そして、こころが唯一神を殺せる武装——滅神器を使って登校をするという奇行をしたものの、日常自体は平穏に流れていたのだ。
眼前に広がる黒い靄のような物から、それが出てくまでは。
ゴリラとライオンを融合させたようなそのバケモノや、サメのようなバケモノ、蟻と蟷螂を融合させたような、バケモノ達が出てくるまでは。
そのバケモノ達は、どれも悪魔に改造されたと思わせるほど醜悪で、恐れを抱かせるような姿をしていた。
そのバケモノ——神獣を見た生徒や教師すらも、狂乱し逃げ出そうとするが原始的な恐怖がそれを拒む。一瞬でも目をそらせば殺られる。
そう、本能の警鐘が五月蝿いほどになり響く。
狂乱し、逃げ出そうともしない人間を殺し、喰らうのは簡単だがそうしない理由がある。否、そうできない理由があったのだ。
それは、眼前に立つ黒髪の青年だった。
手に持っているのは彼らからすれば、木の棒にも等しいほどの太さの大太刀だったが、それを彼らが恐れている。正確に言えば彼らの本能がだ。

「こころ、《副王の指輪【ヨグ=ソトースリング】》で皆を転送して。その後は、索敵をして出現していれば忍と一緒に撃破。いなかったら俺の援護」

パッパとこころに命令を伝えると、黒髪の青年——志龍は大太刀、《切断者【シュヴェーアト】》を大地に突き刺すと、彼の滅神器の名を吼える。

「《狂竜神の鎧【タイラント】》————ッ!!」

すると、何処からか黒色の鎧が飛翔し、彼の体に纏われていく。その鎧は金属質ではなく、どこか生物を思わせるデザインでそれはドラゴンを思わせた。
彼の滅神器、《狂竜神の鎧》である。
彼が万全の体制に入った今、神獣達は恐れに耐えきれなくなり魚獣型の神獣が襲いかかってくる。が、志龍はそれを己の手に握られている槍で薙ぎ払う。
ナイトランスのような突きだけに特化した槍ではなく、どちらかといえば払いに重点をおいた先に片刃刀のような物が付いている。そんな槍だ。。
槍は鎧と同じく漆黒で、刃には蒼い血管のようなものが浮き出ている。
これが、《狂竜神の鎧》の副武装《切断者》の真の姿であった。
志龍は、後方を確認するとすでに、こころは居なくなっていた。どこかに神獣が出てきていたのであろう。

——まぁどれだけ数がいてもこころと忍がいるし、大丈夫だろ。

志龍は、他方の神獣はこころと、もう一人の仲間に任せると、切断者を構え直す。幸い複合型はいないようだが用心をして無駄なことはない。
《切断者》を構え直すと、前方に重心を置き突撃体勢をとると、魑魅魍魎の群れに突っ込んでいった。

Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.7 )
日時: 2016/08/03 11:42
名前: 黒陽 (ID: yAL.k7HO)

志龍は突撃を開始すると、同じように蟲型の神獣が滑空し突撃してくる。
両腕の鎌をクロスさせ、首を飛ばそうとしているのだが、その手の応手に対する迎撃の仕方も志龍は慣れたものだ。
まず、《切断者【シュヴェーアト】》をナイフサイズまで柄を縮めスライディング。その時に蟲型の神獣の胴体に《切断者》を当て、切断する。
神獣といえども基本的な身体構造は蟲や動物と変わりはしない。
腸があるところには腸があるし、心臓があるところには心臓がある。
志龍はその胃や、腸があるところを切り裂きおぞましい量の血を出させる。
しかし、それでは確実性にかけるためスライディングの体勢から立ち上がると、瞬時に《切断者》を元の槍のサイズまで戻すと薙ぎ払い体を真っ二つにする。
そのままの勢いを殺さずに背後から迫っていた獣型の神獣2体の体も同じように切断する。そしてその二体の内の一体。首だけを切り飛ばした死体を志龍は背負うと、後方でブレスを溜めていた神獣に向かって突貫する。
途中で神獣がブレスを放ってくるが、それを獣型の神獣の強靭な肉体を盾とすることでそれを防御。
死体を捨てると、《切断者》による瞬間三連撃の突きを二体に叩き込む。
0,1秒にも満たぬわずかな時間で六発もの突きを叩き込めるのは一重に《狂竜神の鎧【タイラント】》の性能だけではない。
それは、志龍が使っている体術にあった。
志龍が突撃をするとき、《切断者》を振るうときに、彼には"加速"という行程が存在していない。
動作を開始したときが、彼の最高速。急激なストップ&ゴーにより神獣達の動体視力では追えぬほどの最高速にまで至り、攻撃をする。
それをするためには、攻撃に使う筋肉を一斉に稼働させることが絶対条件になるのだが、常人には絶対に不可能なのだ。それをする為には通常の脳からでる信号では、情報量が足りないから。
それゆえに志龍は、脳からでる信号を戦闘用の信号に書き換えその信号に込められた情報量をあげ、信号自体は短くする必要があるのだ。
それが、一つ目の理由だ。そして二つ目の理由は、彼の攻撃には音がほぼ出ていない。
音というのは、空気の振動による波だが、それが出ているということは力がそれだけ失われているとも言える。
しかし、志龍はその力の分散を極めて小さくすることで攻撃力をさらに上げているのだ。
それに加え、《狂竜神の鎧》の肉体を数百倍にまで強化する。その馬鹿げた肉体強化が体術と槍術による強さをさらに引き上げる。
彼がなぜそのような特殊な体術ができるのかというと、それはResistant of Destinyが誇る最高戦力の一角——《熾天使の塵【セラフィム・ダスト】》エーデルワイスに師事を受けていたからだ。
彼女の剣術は無音で一切の力のロスが発生していない。彼はまだその領域に至れはしていないが、それでもその体術は強力だ。
眼前の神獣、残り二十五体の神獣を有象無象と呼べる程に。
神獣が、前方と背後から迫ってきているが、彼は冷静にどちらの方が自身に到達するのが速いのか見極め、速度が速い前方の神獣に先ほど神獣に叩き込んだ三連撃を見舞うと、背後の神獣には石突きで頭部を粉砕する。
それから、志龍は体育館の天井近くにいた蟲型の神獣を発見すると、《切断者》を投擲。ブレスを溜め、発射寸前であった神獣の胸部に突き刺さり、その痛みで神獣は己の口を閉じてしまう。
その結果、発射寸前であったブレスが口の中で暴発し自身の頭部を消し飛ばす。投擲をし、隙だらけになった志龍に神獣が飛び掛かるが、それをサマーソルトキックで胴体を蹴り飛ばし、体育館の壁にめり込ませた。
これでは埒があかないと、四方八方から襲いかかってくる神獣に対して彼は

「フッ!!」

全身から神気を放出することで、空中にいた神獣達を吹き飛ばし《切断者》を取りに行き、神獣達が起き上がってくる前に、神気を《切断者》に溜める。
それは、おぞましい漆黒と蒼の神気が入り混じった邪なる神気。
可視できるほどに膨れ上がった神気を蓄積した《切断者》で志龍は背後の神獣の心臓——核を引きずり出すと握り潰す。
そして、壁際に向かうと残り十五体の神獣に向かって構えをとる。
立ち上がった神獣はすぐに彼に飛びかかる。その瞬間志龍の体から溢れ出てくる神気の量がさらに増した。
そして、志龍は放つ。
彼の滅神器——《狂竜神の鎧》の副武装《切断者》の唯一にして最強の神技。《切断者》が《切断者》と名付けられた所以となったその技。
森羅万象を一切の例外なく切断し、狂った竜の最強であり、最凶であり、最狂の一撃——

「常世斬爪【ヴェルトシュナイデン】——!!」

その技を放ったとき、空間が切断された。



Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.8 )
日時: 2016/08/07 21:39
名前: 黒陽 (ID: lPEuaJT1)

「おーおーこれは中々に派手ですねぇ」

眼下の運動場に広がる魑魅魍魎の絨毯を見て、もう一人の少女は呟く。
神獣達は学校の中には入り込もうとその爪で、攻撃をするがそれは一切意味がない。
こころの滅神器である《副王の指輪【ヨグ=ソトースリング】》の神技の1つである《時空隔離》によって校舎及び学校のすべての空間を、現実の空間から隔離しているためだ。
それはあらゆるものを通さない牢獄と化しているのだ。勿論、破る手段も存在するが、それは志龍の《常世斬爪》のような時空間ごと切断するような、規格外でないと不可能であり、通常の神獣では破ることはまず不可能なのだ。
こころは、《副王の指輪》に神気を込めオーバーキルと言っても良い程に、強力な邪法を発動させる。

「忍ちゃん。生き残りは任せたよ」
「あいあい。さすがに何もしないわけにはいきませんからにゃあ。おまかせあーれー」

忍ちゃんと呼ばれた少女——夜走忍は、己の腕に巻き付いている鎖型の滅神器に神気を込め、その先端に付いている蛇の顎門を、神獣に向ける。
それを確認すると、こころは詠う。此岸に滅びをもたらす詩を。

遥か天壤の彼方を仰げ 神が創造した大地に蔓延る有象無象よ
神が創造した大地 空 海を穢す愚者共よ
我らが神の怒りを知れや 我らが神の憎悪を知れや 我らが神の哀しみを知れや

おぞましく、妖しいまでに引き込まれる歌声に呼応するように、運動場の上空に紅の術式【マジックサークル】が展開される。神獣達は、天を仰ぎ見るが、こころ達には襲いかかってこない。彼女たちの居場所はわかっているはずなのに。
その理由は、自身にもたらされる滅びを理解し、竦み上がっているからだ。
人智を越えた力の前に、恐れ動くことすらままならない。
しかし、歌はまだ続く。滅びへの手招きはまだ続く。

汝等が穢したその星と共に滅び行け
世界諸共に 我らが神の救済を受けよ
世界諸共に 我らが神の滅びを受けよ
世界諸共に 我らが神の罰を受けよ
その日 その星は紅に染まり 星はあるべき姿へと
原初の姿へ戻り行く

大小様々な、術式が、最初に出現した術式のさらに上空に出現する。
その数、6つ。紅の術式から零れる紅蓮が、大気を焦がす。

「《神罰の炎【メギド・フレイム】》……神罰、執行」

その刹那、無数の隕石が降り注いだ。その数、数えるのが馬鹿らしくなるほどに膨大で、運動場すべての地盤を容易に融解させることが出来るほどの威力の滅びの雨が、降り行く。
鳴り止まぬ、爆音。大気を焼き焦がす無数の隕石が大地に衝突した轟音の中で、忍者の末裔である夜走忍は確かに聞こえたのだ。

シャクリ、という何かを咀嚼するようなそんな音が。
最初は、ほとんど聞こえるほどのない小さな音だったが、それは次第に大きくなり、回数が増え、感覚も狭まっていく。
シャクリ、シャクリ、シャクリ——。
その音が止んだ時は、《神罰の炎》が終わったときだった。
まだ、爆炎に包まれているその中で彼女は見たのだ。首がなく、目、鼻、口があるべきところには暗黒の穴がポッカリと空いただけの子供の落書きのような2メートル程の人形を。
その、人形はゆっくりと体を忍達の方へ向けるとニタァ、という擬音が相応しい不気味な笑みを浮かべると。
一瞬にして、彼女たちの眼前に迫っていたのだ。

「「ッ!?」」

その時、彼女達がとった行動は流石としか言い様のない最適な行動だった。
忍は、自身の鎖型の滅神器——《双頭蛇の縛鎖》に要領限界までの神気流し込み、瞬時にこころと自身を包み込み、防壁を展開。
こころは、《神罰の炎》を放ったときに余った神気を使い、神技、《副王の拳【ヨグ=ソトースのこぶし】》を発動させ、人形を吹き飛ばす。
さらにそこに畳み掛けるように、空間が切断され人形の左腕を切り飛ばす。
人形は腕が切り飛ばされたことに僅かに困惑するが、それも一瞬。
体育館の方向から放たれた、神技であることを見抜くと残った右腕で《双頭蛇の縛鎖》を殴り飛ばし、《時空隔離》の効果を力付くで破り体育館の天井をぶち抜いて、床にめり込ませた。

Re: Resistance of Destiny リメイク ( No.9 )
日時: 2016/08/10 18:11
名前: 黒陽 (ID: yAL.k7HO)

志龍が《常世斬爪【ヴェルトシュナイデン】》を放った直後。
体育館の天井をぶち抜いて夜空色の鎖の塊が、彼の真正面に飛んできた。

「ぬぉい!?」

志龍は、驚愕の声をあげてしまうものの咄嗟に鎖の塊を受け止める。
衝撃を絶妙な体重移動で流しきった志龍は、《双頭蛇の縛鎖》をゆっくりと下ろすと、それは一気に短くなっていった。
その中から出てきたのは、想定できていたことではあったがこころと忍であった。幸いにも意識は保っているようだ。

「志龍!あれ!!」

こころが慌てて、自分達が飛んできてできた風穴を指差す。そこには空気を蹴ってすさまじい速度でこちらに向かってくる灰色の人型を。その体からは憎悪と喜びを感じさせる殺意を振り撒いて、黒色の竜に迫ってくる。

「ああ……。あれか。忍、アルエとメリッサに援護に来るように連絡してくれ。その後から、俺の援護。ありゃ五人掛かりじゃないと辛い。こころ、俺が前衛するからサポート頼む」
「あい」「分かった」

忍は風穴から離れると、通信機を使い外部にいるであろう残り二人のチームメンバーに救援を要請する。二人とも同じ場所にいたようで、忍の慌てたようすにすぐ行くと、急いで返すと通信を切り現在向かってきている頃だろう。
通信を終えると、忍は《双頭蛇の縛鎖》に神気を込め蛇の顎門を出現させる。こころは《副王の指輪【ヨグ=ソトースリング】》に神気を込め邪法をいつでも発動させられる状態にしておく。
その時、灰色の異形は凄まじい音をたて体育館に着地する。それは最早隕石が落下したのではないかと思われる程に、大きなクレーターを作る。
灰色の異形は、仕留め損ねた二匹の獲物と自身の腕を切り落としてくれた怨敵を探すべく、目を動かしたその瞬間には顔面のすぐ近くまで迫ってきていた黒色の拳を視認する。

「星砕竜爪【アストラル・ブレイク】!!」

それは志龍の纏っている滅神器の主武装《狂竜神の鎧【タイラント】》の星すらも砕くと言われる竜の拳。
渾身の右ストレートによる不意打ちが見事に、顔面にめり込み顔面を、消し飛ばした。
その殴りつけられた空気で死体が壁に叩きつけられる。ベシャリと黒の血液で床を濡らす。その体は痙攣しており、完全に死んだことを示していた。

ーーおかしい。

志龍は己の第六感による首筋に走る鋭い痛み、本能の警鐘がいつまで経っても鳴りやまない。大体こころの《時空隔離》による隔たれた空間の壁を力付くで破れるものなど、志龍の《常世斬爪》かRoDの元帥の一人である《凶獣》と呼ばれる男の一撃ぐらいだ。それを容易に放てるようなバケモノが、頭部を吹き飛ばされた"ごとき"で死ぬのか?
そんな本能の警鐘と、志龍自身の疑問によって灰色の異形の左拳をなんとか受け止める。
その力を利用して志龍はバケモノから距離を開ける。

「おい、待ておら。何で左腕戻ってんだよ?」
「再生……した?」
「そんな……頭まで?」

僅、頭部を吹き飛ばしたのは数秒。腕を切り飛ばしたのも経っていて数十秒しかたっていない。
ーー再生能力とは、自信の細胞を異常活性化させることにより、細胞分裂を早め自信の傷を塞ぐのが人間の限界であり、それが例え神技としてそんなものがあったとしても、腕の再生。頭の再生は不可能と言っても良いレベルだ。
それが僅、数十秒で再生するなどイカれている。どんな高位の神獣であっても肉体の再生をするのは一握りであり、その中でもここまでの能力を持つものはいなかった。今までに発生してきたものは頭部を失っても、立ち上がってくるものはいたがそれでも頭部は再生していなかった。
しかもそれは、不定形型の神獣であり核を破壊しない限り死ぬこともないという厄介なモノ。
しかし、目の前のバケモノは明らかに生物型だ。今までになかったイレギュラーがここに立っているのだ。

「じゃあその身体……ぶった切ってやるよォッ!!」

志龍はバケモノに一気に《切断者【シュヴェーアト】》を装備し、一気に近づくと脳天に向かって振り下ろす。
どんな再生しようともやることは変わらない。ただ斬る。
その魂のこもった唐竹割は最早、忍であったとしても視認できない速度で放たれる剛撃。それをバケモノは腕をクロスさせ、その一撃を防ぐ。
腕に鎌のような部位に変化させ、それが十数重に重ねられた超合金属【アアダマンタイト】の数十倍の防御力を誇る腕に変えたのだ。
それで唐竹割を受けると、志龍の剛撃は一瞬にして防がれた。しかし、これも想定内。全身の筋肉運動によって腕から放たれていた力を足へと譲渡。
そして、肩をえぐるようにハイキックを放つ。その蹴りは、《星砕竜爪》に匹敵する威力でそれをくらったバケモノはブチりと筋肉組織がボロボロになって辛うじて繋がっているような状態だ。

——コイツ……打撃に耐性ができ始めてるのか。

腕を使い物にならなくはしたが、すぐに回復してくるだろう。
そう思った通りに筋繊維はすぐに、再生を始めより強度を増した腕で志龍の顔面に向かって拳をつき出す。
それを志龍は、《切断者》で受け止めるとそのまま独楽のように身体を回転させ、人型を腹の辺りで一刀両断する。まだ斬撃に耐性ができ始める前だったのかもしれないが、これは志龍の槍術によるものが大きい。
この槍術は相手の攻撃を受け止めず、そのまま独楽のように身体を回転させ相手に志龍が与える攻撃に相手からの威力も乗せて放つ、白影志龍のオリジナルの武術《螺旋》。
これの便利なところは槍術だけでなく、徒手空拳、剣術など様々な状態においても使えることだ。
しかし、それでも人形の再生能力は無効化できない。彼は急いで人形の再生が始まっている上半身を神獣の死体がある方へ蹴り飛ばす。
そのときシャクリ、という音が響いた。
人形が神獣の死体を喰らっている。バキリボキリと骨を無視して、その全てを。自身の身体の再生よりも優先して。
その時、忍がある考えに至った。それはもう、最悪な仮定が。

「先輩……たぶんそいつ神獣の核を食べて、自分の身体の再生速度を大幅にあげてます!!そいつにそれ以上、死体を食わせないでください!!」
「ッ!!分かった!!こころ!!」
「うん、そいつもろとも消し飛ばす……ッッ!!」

そしてこころは、祝詞を紡ぎあげる。それこそ瞬間的に。
一秒でも早く、人型を消し飛ばすために。

大地を砕き天をも焦がす天災の轟き
この廃れた世界に終止符を打つべく時に我らの轟雷の矛先とならん
邪悪なる牙を突き立てよ 打ち込まれる恐怖をその眼に刻め

《神罰の炎【メギド・フレイム】》に比べれば短文であるこの邪法を選んだ理由は、《神罰の炎》と比べれは範囲は小さいがそれでも死体全てを焼き尽くせること、そして邪法自体の速度が遥かに速いことがあった。
そして、こころは名を叫ぶ。その法をこの世に出現させるべく。

「心の臓腑に雷を突き立てよ!《天震雷牙》!!」

こころの両手から迸ったのは、青き雷であった。その雷は体育館内を真昼のように照らすとそのまま神獣の死体諸とも人形を焼き尽くす。
《神罰の炎》では神獣の死体である程度防げたのであろうが、こころと人形は直線的に並んでおり、こころも人形を殺すべく放ったため、間違いなく致命傷を与えたはずだ。
そして、こころは間を置かず次なる邪法を放つべく、その祝詞を紡ぐ。
神殺しの、亡者達が巣くう昏き門を常世に顕現させるべく。
それを見た人型は志龍を避け、こころに向かって一直線に突っ込む。
彼と彼女が、自身の脅威となることが今までの戦闘で分かったから。
しかし、そんなものもう一人が許すはずがない。

「させるワケないでしょ……!!今までは先輩の邪魔になるから引っ込んでましたが、私だって強いんだぜ……?」

《双頭蛇の縛鎖》の蛇が左腕に咬み付く。その瞬間、人型はできの悪い人形のようにカクンと膝をおる。

「それはどんなバケモノだろうと黙らせる麻痺毒……しばらくおとなしくしてなさいな!」

開け開け神殺しの昏き顎門よ
その門は天壌の遥まで高く
その門は地の深淵よりも深く開け
万神万者 悪鬼羅刹の区別なく 汝の前にもその門は開かれるであろう
罪人よ 己の罪の数を数えよ 門よ罪人を食らえ
すべては我らの腹を満たさんがために
その門は開き 閉じられる

「罪深き世界の全てを食らえ、亡者の門。《顎門【ヴァーナルガンド】》」

そしてその門は、まるではじめからそこにあったかのように、さも当たり前のようにあった。否、それは門と呼べるのかすらも怪しかった。
その門は、常に形を変え続ける。しかしその色——夜空の闇よりも深いその闇は変わらず、そこにあった。
門が、音をたてて開かれた。そこにあったのは門よりも更に深い闇の海。
そこから無数の不気味なまでに細く、白濁した腕が出てくるのだ。
それも何十何百という数ではない、何億何兆何京というような馬鹿げた数。その腕が、そのすべてが人形に向かって伸ばされる。
《顎門》の繋がる先は、生も死も、時間の流れすらもペテンであるバケモノの胃袋だ。そんなものに飲み込まれては、再生能力のへったくれもない。
だからこそ人型は必死にもがき、逃げようとするが麻痺毒と、感覚を麻痺させられたせいで気づけなかったが四肢に巻き付いた《双頭蛇の縛鎖》によって動きを阻害され、逃げられない。

『Oooオオォォォおォおooooおおォォオ——!!!!!!』

初めてあげた感情的な雄叫びは亡者の門の中へ虚しく消えていった。













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