複雑・ファジー小説

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霊能御柱 -タマノミハシラ-
日時: 2016/06/25 21:21
名前: かたるseeds (ID: LN5K1jog)

【はじめに】
こんにちばんは、この合作の企画主であるかたるしすです。

今回は、集まってくれた有志と共に、リレー小説を書くことになりました!
私にはもったいないほどのメンバーの皆さんですが、負けないよう頑張っていきたいと思います。


【メンバー】
01.かたるしす
02.凜太郎
03 凡丙
04.mocha
05.悠真


【メンバーから一言】
(mocha)
mochaです。初の合作です。どころか、初の小説投稿です。こんな奴が皆さんと合作やってていいんだろうか((とか言ってもしょうがないので、頑張ります。...一言に収まってねえなコレ...そしてつまらん←

(悠真)
 えーと、はい、悠真でございます。ゆうまと読みます。つたない文章ではありますが、精いっぱい頑張りますので、どうか温かい目で見守っていただけたらなと思います。

(凛太郎)
はい、初めましてか何度目まして!梅雨の大雨でビショビショになった凛ちゃんです☆まぁ、テンションに任せて指を動かし文字を打っていくので、どんな話になるのかは僕もあまり分かりませんが、生温かい目で見てくれれば幸いです。それでは、よろしくお願いします。


【目次】(随時更新)


※attention!!※

この小説は、エログロナンセンスのほぼ全てを含むと思われます!
苦手な方はご注意下さい。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.16 )
日時: 2016/08/22 16:34
名前: mocha (ID: bUOIFFcu)

「んで、向こうの十字路をあっちに曲がって、二つ目の角を右に行って直進したら、美津子の家だ。意外と近いだろ?」

氷空の家を出てから10分。隆の口ぶりからすると、あと5分もかからないうちに美津子の家に着けるだろう。隆の言う通り、歩いて15分ならばそれなりに近い距離だ。

だが、それは、

「あたしのこと置いてかないでよぉ!」

チカを除いての話だった。
いつの間にかチカの結構前方を歩いていた彼らが振り返る。

全員の身長を比較すると、背が高いのが秋彦と景地、次いで隆、それから氷空と早苗...というようになっている。その中での身長差はだいたい20cmほど。それに比べてチカは、5人の中で1番背の低い早苗と20cmほどの差をつけて小さかった。単独で小さすぎた。

となれば、歩幅がみんなと違うのは当然であり、歩くスピードもそれ相応に落ちる———つまり何が言いたいのかというと。

「置いてってないよ、チカが遅すぎるんでしょ」

氷空が淡々と言い放つ。その通りだった。普通なら15分で着くところを、チカはおそらく20分以上かけて歩くのだろう。秋彦や早苗などはそれを聞いて苦笑し、まるで小さな子供を見守る親のような目になってしまう。

「うぅ、あたしがもっと歩くの速ければ...」

チカが嘆くようにそう呟く。そこは普通、背が高かったらって言うところなんじゃないのかと幼馴染3人は思ったが、表立って口にはしなかった。

「まあまあ、チカの歩く速さで歩けば、誰も遅れることはないって考えりゃいいじゃねぇか。なあチカ?」
「えっ?う、うん!そうだね!...そうだね?」

隆が気を取り直すようにそう言ってくれるが、見た目が子供なら中身も子供のチカの頭では理解が追いつかなかったようで、頭の上には「?」マークが浮かんでいる。氷空はそんなチカにため息をつき、それを耳聡く聞きつけたチカに「なにため息ついてんのぉー!」と噛みつかれていた。

景地はそんな様子を見て、この3人仲良さそうだな、なんて呑気に考える。特に氷空とチカは長い付き合いなのかな、隆はみんなに好かれそうな空気まとってるな、あと、この分だと目的地につくのはもう少し後になりそうだな...なんて考えつつ、隆の案内についていく。

「そういえば、お前らどこから来たんだ?」

ふっと疑問が浮かんだから口にした、といった軽さで隆が3人に問うた。
3人にしてみれば、そして氷空とチカにしてみても———それは彼らが出会ったときからの疑問であり、ずっと気にしてきたことである。
空気が変わり、それぞれが少し考え込む。隆はその雰囲気に、「あ、わかんねぇなら別にいいぞ?」と付け足して言った。相変わらずチカだけは雰囲気の変化に気づけていなかった。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.17 )
日時: 2016/08/29 16:49
名前: 悠真 ◆y/0mih5ccU (ID: hVBIzJAn)

「……少し遠いところから来たらしくて、僕もよくわからないんだよね」

 少し間をおいてから、氷空が答える。嘘は言っていない。実際に自分はこの三人がどこから来たのかわからないのだから。ニホン、という国から来たとは言っていたが、それが本当かどうかも疑わしいところだ。三人も下手にその国の名前を出すのはよくないと分かっているようで、口をつぐんで氷空の言葉を待っている。

(隆を巻き込むのはあまり気が進まない。……今は話さないほうがいいかな)

 面倒なことになりそうだし、と小さくつぶやけば、隆はそれが聞こえているのかそうでないのか、何か言ったか、と聞き返す。なにも、と言いながら、氷空は斜め後ろに視線をやる。

「さっきも話に出たばっかりだけど、隆、どうせならチカを肩車でもしてあげたら? 視界の端で赤いのがちらちらしてて気になるんだよね」
「肩車! やったぁ!」

 まだするとは言ってないのに、千翔は大喜びで隆に飛びつく。飛びつかれたほうも飛びつかれたほうで楽しそうに肩車しているからいいのだけれど。
 ちらりと横を見てみると、三人は安心したように千翔と隆の様子を見ていた。問い詰められなかったことに安堵しているのだろうか。

「……兄妹、みたい」

 ただその中で、ぽつりとこぼした早苗だけが複雑な顔をしていたのが少し気になった。



 隆が千翔を肩車してからは、たわいもない話をしながら美津子の家へ向かった。それまでとそう変わらない内容だったが、隆が触れないほうがよさそうな話題には触れないでいてくれたおかげで、あったばかりの三人の肩の力も随分抜けたように見える。

(……秋彦さんは、まだ警戒してるかもしれないけど)

 まだあって間もないとはいえ、秋彦が冷静で頭の回る人物だということはよくわかっている。普段がどうなのかはわからないが、こんな状況である限りはなかなか警戒を解くことはないだろう。

「ついたぜ、そこが美津子の家、なんだけどよ」

 隆が全員に聞こえるように声をかけて、目の前の建物を指さす。途中から微妙な顔をして言いづらそうになったのも仕方がない。中からは賑やかな声がしていて、それなりの人数がいることは明白だからだ。

「……隆、ほんとうに嫌われるようなことしてない?」
「……してねえと思うんだけどな」

 隆を無視して会が始まっているとしか思えなくなって、すでに確認したはずのことをもう一度尋ねる。氷空もそんなことはないだろうと思っていたのだけれど、この状態を見るとその可能性が大きくなってくる。

「……まあ、ほかに理由があるかもしれないし。そんなに気にすることでもないよ」

 だから帰ろう、と言おうとしたところで、隆の肩から降ろされた千翔が走り出す。いくら千翔の走りが速くないとはいえ、急に走り出されたら反応できない。

「ちょっと、チカ!」

 慌てて追いかけて捕まえれば、千翔はきょとんと氷空を見上げる。

「? 美津子に会うんじゃないの?」

 はぁ、と今日だけで何度目かわからないため息が口をつく。このくらいは察してくれないものだろうか。

「……チカ、今日は「あ、美津子ー!」

 不意に千翔が声を上げる。千翔の視線を追ってみると、家の窓に誰かがいるのが見えた。なんてタイミングの悪い、と思ったとき、氷空たちに気付いたらしい美津子と目が合う。
 なんでまた面倒そうなことになるのか。氷空がため息をつく間にも、千翔は手を振りながら何度も彼女の名前を呼んでいた。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.18 )
日時: 2016/08/31 21:08
名前: 凜太郎 (ID: YVCR41Yb)

「美津子ーッ!」

 家に入った千翔は、靴を脱ぎ散らかし、部屋の奥へと走っていく。
 ちなみに、脱ぎ散らかされた靴は氷空がしっかりと揃えた。

「全く。千翔はこれだから……」
「千翔は美津子が大好きだからなぁ」

 ため息交じりに愚痴を零す氷空に、隆は笑いながら言った。
 どうやら、千翔のあのハイテンションは毎度のことらしい。
 景地達も靴を脱ぎ(景地が脱いだ分だけ氷空に直されていた)、美津子がいたであろう部屋に行く。
 部屋の中からは、複数の人間の話し声が聴こえてくる。

「やっぱり美津子に嫌われるようなことしたんじゃないの?」
「そんなことしてねぇって!多分!」
「多分かよ……」

 氷空は隆の言葉に呆れつつ、ドアを開けた。

「だから、俺はしてねぇよ!」
「犯人は皆そう言うものだよなぁ?お前、前に美津子と口論していただろ」
「それを言ったら、お前も前の祭りの準備の時に美津子と屋台の場所について争っていたよな?」
「あれはもうとっくの昔に終わった話だ!」

 不穏な空気が漂う会話が、暴言が、飛び交っている。
 どういうことだ?送迎会じゃ……ないのか……?
 そう思っていた時、千翔が美津子に何か話しかけているのが見えた。

「美津子っ!来たよっ!ねぇねぇ。飴ちょうだい!」

 そう言って美津子の体を揺する千翔。
 しかし、美津子は窓の外を見つめたまま反応しない。
 そこで、氷空は気付く。まさか……。
 そう思ってすぐに千翔の所に駆け寄った。

「千翔。美津子の体に触るな」
「なんで?美津子はいつも、家に来たら飴くれるんだよ?」
「良いから。こっち来て」
「美津子〜。飴ちょうだいってば〜」
「千翔っ」

 氷空が千翔の腕を引いた時、千翔の腕からは美津子の『体』が離れた。
 彼女の体は、そのまま床に倒れる。
 床に当たった衝撃からか、美津子の体から血が流れ始める。
 目、耳、口、鼻、性器、毛穴。体の穴という穴から、真っ赤な血が流れ始めた。

「ぅあ……」
「おい、氷空。これって!」

 景地が焦って氷空に事情を聞こうとした時、やけに周りからの視線が集まっているのを感じた。
 見ると、先ほどまで口論をしていた人間が皆、美津子の死体と、景地達を見ていた。

「あ、いや、これは……」
「隆と氷空と、千翔は分かるが……後の三人は誰だ?」

 オレンジ色の髪をした青年が、そう言って景地達の顔を訝しむように見ていく。
 氷空は、怪しい人じゃないと否定しようとした。
 しかし、自分だって彼等とは出会ったばかり。そんな自分が彼等のことを語って、意味がない。

「そうだ、分かった……お前たちが美津子を殺したんだなそうだなぁ!?」

 瞳孔が開いた目でそう言った紺色の髪の男が、そう言って近くにいた秋彦の胸倉を掴もうとした。
 しかし、秋彦はその手を避け男の手首を掴み、逆に胸倉を掴み返す。
 そして床に突き倒し、柔道の固め技である『袈裟固けさがため』を男にかけた。
 秋彦は、武術などはしていないはずなのに、それはそれは綺麗な型だったそうな。

「秋彦兄つえぇ……」
「いや、感心する暇があったら止めなよ」

 目を輝かせる景地に、氷空が冷静にツッコミを入れた。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.19 )
日時: 2016/09/07 22:10
名前: Mocha (ID: bUOIFFcu)

だが、景地と氷空のやり取りによるそんな間の抜けた空気も、オレンジ色の髪の男の発言によって途端に凍りつく。

「お前、疑った途端そいつを倒しやがって!怪しいにも程がある!お前らが犯人なんだろ!?」

秋彦の行動は、胸倉を掴まれそうになったから反射でやったとはいえ、怪しさで点数をつけるなら100点満点だった。自分たちが疑われたから、そいつを潰す。極端に言えばそういうことだった。

無論、そこにいる人間全てに、秋彦たちは疑いの目を向けられていた。

「…違うよ」

不意に響く、声。
氷空にはその声が遥か遠くから聞こえてきたように思えたが、実際、それは氷空の声だ。
言っておきながら、氷空はハッとした。自分ではそんなことを言うつもりは無かったのだ。ただ、この状況をどうするか考えていたら、いつの間にかそんな言葉がスルッと口から出てきたのだった。

「おい、氷空。何を根拠にそう言うんだ」

当然ながら、氷空はそう問われる。氷空の発言だ、嘘は言っていないのだろうと踏んで、その発言に疑いはかけられなかったが、理由は誰でも知りたいところだ。

「…この人たちには、動機がない」

なんとか搾り出すような声で、氷空は言った。ちらっと秋彦や景地、早苗を見ると、自分たちを庇うようなことを言った氷空を呆気に取られたように見ている。その様子だと何かフォローをしてはくれなさそうだった。元より、そんなことをしてくれてもこの状況では逆効果だとは思うが。

氷空は、持ち前の頭脳の回転力をフルに駆使してなんとか言葉を紡ぎ出し、そのまま続けて喋った。

「まず、見た目でわかると思うけど、この人たちはここら辺の人間じゃない。だから美津子とは何ら関係が無いし、殺す動機とか理由がない。仮に遠い国からのスパイだったとして、突然そこにいる住人を殺したりなんかしたら、目立ってしまって厄介なことになる…つまり、他国から来た悪い奴らってわけでもない。何にしろ、殺す理由が全くないんだ。だからこの人たちは美津子を殺したりしない…どうかな」

氷空は、よくそんな言葉がすらすら出てきたな、と自分でも半ば感心してしまった。
その場にいる人間の反応を伺うと、ざわざわしてしまって、半信半疑といった感じだ。…流石に駄目押しすぎたか、と氷空は思った。

「俺もそう思うよ」

突如、明るい声が氷空の上から降りかかった。
隆だ。

「俺さ、氷空の家からここまでこいつらを案内してきたんだけど、別に悪そうな奴だなーとか思わなかったぜ?むしろいい奴って感じがするし。な、チカ」
「え?うんっ!そこのお兄さんは目が全然開かないから、悪い事しようとしても見えないと思う!」
「じゃあさっきの袈裟固めはどうやったのさ」
「そ、それは、ほらっ、直感?」

氷空はふぅとため息をつく。…隆はいい奴だな、と思った。素性もわからない人間を庇うようなことを言った自分をフォローしてくれて、正直少し助かった。チカのはちょっとよくわからないが、空気は幾分か緩和したっぽい。

そんな空気の中で、しかし刺すような言葉。

「氷空も隆もそう言うなら、悪い奴らじゃねえんだろうけど…それでも怪しいってのは変わらねえ。もしかしたら何か企んでやがるかもしれないんだ、しっかり監視させてもらう」

厳しい目でオレンジ色の髪の男は言い放ったが、さっきまでのような物凄い警戒心を持って話すわけでもなくなり、氷空は単純によかったなと思った。
それにしても何故、自分はこの3人を庇う気になったのだろう…と不思議に思ったが、「この3人が疑われたら、一緒にいた自分も疑われるから」と適当な理由をつけて、納得しておくことにした。

さて、景地たちの疑いについてはもういいとして、問題は。

「ねぇねぇ氷空お姉ちゃん、何で美津子死んじゃったの…?」

チカが不安そうにそう言ってくる。
そう、何故、美津子は死んだのか…そして、何故このタイミングなのかということだ。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.20 )
日時: 2016/09/22 23:02
名前: 悠真 ◆y/0mih5ccU (ID: hVBIzJAn)

 何故。そう、なぜ美津子は死んでしまったのか。千翔に問われ、改めて美津子の死体を見る。
 まず目に入るのは、血。彼女の身体から流れ出した大量の液体はまだ新しい。そもそもこれは身体が倒れた拍子に流れたものだ。
 家の外から見た限りには何の違和感もなかったし、どこかに傷があるようにも見えない。殺されたとするならば、いったいどのような殺し方をすればこうなるのか。

「——殺人ではないとみるのが妥当かもしれないね」

 氷空同様に美津子を見つめていた秋彦の口から、ぽつりとつぶやきがこぼれた。と、そのとたんに紺色の髪の男が彼を睨みつける。袈裟固めをかけてしまったおかげで随分と嫌われているようだ。秋彦としても声に出すつもりはなかったようで、思考が途切れてしまったのか目を細めるばかり。

「秋彦さん、それはどういう?」

 氷空が尋ねれば、彼は美津子の身体を示した。

「氷空くんも気づいているとは思うけど、殺されたにしてはあまりにきれいすぎる。傷がないんだよ。この状態は体内にたまっていた血液が流れ出たに過ぎない。内側のみに影響を与えるのならば、毒物か、あるいは病気か。——僕に劇薬に関する知識はないから、このような反応を引き起こすものがあるかどうかわからないのだけれどね」

 毒、という単語に部屋の中がざわつく。秋彦への視線をきつくする者もいた。

「ってめぇ、適当なこと言ってんじゃねぇぞ! それこそてめぇが毒盛った可能性だって、」
「おい、落ち着けよ。こいつらには動機がないって言ってるだろ」

 噛みつくように反論した男を隆がとどめる。男は不服そうにしながらも言葉を飲み込んだが、敵意をむき出しにした視線で秋彦を見ていた。
 さすがに人数が多いだけあって、一度始まったざわつきはなかなか収まらない。しかし一部の人間は冷静さを取り戻し始めたようで、しばらくすると自然に秋彦へと視線が戻る。

「毒殺の可能性はひとまず外させていただくとして。彼女——美津子さん、でしたよね。何か病気を患っていたということは、」
「ない」

 秋彦の質問が終わるのも待たずに、ダークグリーンの髪の女性が即答する。突き放すような声で言った彼女は、それだけで口をつぐんでしまう。秋彦もあまり刺激しないほうがいいと判断したのか、それ以上のことを尋ねることはなかった。
 中心となる発言が出なくなれば、当然協調性のない元の空気が戻ってくる。氷空や秋彦も考えをまとめているのだろう、先ほどから黙り込んだままだ。

「なんか、秋彦すげーな。俺たち全然喋ってねえし。……って、おい早苗?」

 ざわつく部屋の中ですることもなく突っ立っていた景地は、いつの間にか隣にいたはずの早苗の姿がなくなっていることに気付く。どこに行っているのだろうか、と周囲を見れば、壁際で誰かに話しかける早苗が見つかった。

「珍しいなー、あいつあんまり自分から動こうとしないのに」



「……あの、すみません」
「……なに」

 早苗が声をかけると、相手は迷惑そうに顔を上げた。先ほど秋彦の質問に即答した女性だ。じろりと早苗を睨みつけ、不機嫌さを隠そうともしない。明らかに怪しんではいるものの、一応話を聞くつもりはあるようだ。

「え……っと、こんなことをお聞きしてもいいのかわからないんですけど、その、どうして、美津子さんは病気じゃないって、」
「美津子とは結構長い付き合いだけど、聞いたことないし。美津子あっち側に行けるくらいだもん、病気とかあったら送別会とか開かない」

 詰まりながらの質問を遮るようにして答え、彼女はこれで満足か、とでも言いたげな目で早苗を見た。しかし早苗はその中の聞きなれない単語に首をかしげる。

「……あっち側……?」
「ほんとになんなの。絶対おかしいって。怪しすぎ。早くどっかいって」

 早苗の反応を見て、彼女は眉をひそめる。ダメ押しのようにもう一度早苗を強く睨みつけて、再び下を向いてしまった。相手に話す気がなければどうしようもない。言われたとおりにその場を離れ、小さく口に出してみる。

「あっち側、か……」


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