複雑・ファジー小説
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- 霊能御柱 -タマノミハシラ-
- 日時: 2016/06/25 21:21
- 名前: かたるseeds (ID: LN5K1jog)
【はじめに】
こんにちばんは、この合作の企画主であるかたるしすです。
今回は、集まってくれた有志と共に、リレー小説を書くことになりました!
私にはもったいないほどのメンバーの皆さんですが、負けないよう頑張っていきたいと思います。
【メンバー】
01.かたるしす
02.凜太郎
03 凡丙
04.mocha
05.悠真
【メンバーから一言】
(mocha)
mochaです。初の合作です。どころか、初の小説投稿です。こんな奴が皆さんと合作やってていいんだろうか((とか言ってもしょうがないので、頑張ります。...一言に収まってねえなコレ...そしてつまらん←
(悠真)
えーと、はい、悠真でございます。ゆうまと読みます。つたない文章ではありますが、精いっぱい頑張りますので、どうか温かい目で見守っていただけたらなと思います。
(凛太郎)
はい、初めましてか何度目まして!梅雨の大雨でビショビショになった凛ちゃんです☆まぁ、テンションに任せて指を動かし文字を打っていくので、どんな話になるのかは僕もあまり分かりませんが、生温かい目で見てくれれば幸いです。それでは、よろしくお願いします。
【目次】(随時更新)
※attention!!※
この小説は、エログロナンセンスのほぼ全てを含むと思われます!
苦手な方はご注意下さい。
- Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.1 )
- 日時: 2016/06/15 23:32
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
景地は微睡みながら、揺れに身を任せていた。
窓ガラスのひんやりした温度が心地いい。頭をもたせかけていると、バスが段差に差し掛かった時にぐらぐらするが、景地は気にならなかった。
(……いつも、そうだ)
バスに乗ったとき。
景色を楽しみたいと思って外をずっと見ていると、必ず睡魔に襲われる。今日だってそうなのだ。山の中の綺麗な緑を眺めていたら、瞼が重たくなってきた。何故だろう、と心の中で首をかしげた。
バスには魔法でもかかってるんじゃないかとか、バスは実は寝るための乗り物だとか、くだらないぼんやりした妄想が、景地の頭を通り過ぎる。
そのうち景地は、考えるのをやめた。
考えるのは、苦手なのだ。
不意に横を見ると、景地とは逆に、考えるのが大好きな幼馴染みの姿が目に入った。爆睡している彼の眼鏡はずり落ちていて、アホみたいだ、と景地は思った。普段は全然そんな奴ではないのだが。
景地にしてみれば、幼馴染みとは言っても、この男……秋彦は年上、大学生。言うなれば近所のお兄ちゃん。小さい頃から景地と一緒にバカをやっていた。
そんな頼れる兄貴分の隙を見つけた気がして、景地は少し得したような気持ちになった。
景地が前の席に目をやると、黒く長い綺麗な髪が覗いていた。こっちからは顔は見えない。が、きっと早苗は、秋彦とは違って淑やかな寝顔なんだろうな、と景地は想像した。すぅすぅと可愛い寝息を立てて、早苗も寝ている。
早苗もまた、景地の幼馴染みの一人で、同級生だ。頑張り屋で、よく気がつくけれど、うっかり空回りしてしまう早苗は、景地にとってなんとなく放っておけない奴だった。
この三人で、今まで何回も話したし、何回も出掛けた。今回も、秋彦が山の向こうの街へ行こう、と誘ったのだ。秋彦から提案が来るのは割と珍しい。景地と早苗は、即OKした。秋彦の提案は、数こそ少ないが毎回内容が面白いのだ。
バスは揺れ続ける。
いきなり、右側にあった岩壁が無くなり、開けた崖へと変化した。遠く向こうに山々と、空が見える。景地はやはりうとうとしながら、その景色を見つめ続けていた。
カーブ、曲線、カーブ、直線、曲線……
三回目のカーブに差し掛かった時、景地は、ふと違和感を覚えた。車内が激しく揺れる。窓の外の下を見ると、ものすごい音と共に、タイヤがガードレールを破壊していた。
「え、何だ……?」
辺りを見渡す景地。
異常に気付き、隣の秋彦を起こそうとした、その時……
「!?」
ふわっと、体が軽くなった。
- Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.2 )
- 日時: 2016/06/16 16:47
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
ふと、氷空は目を覚ました。
どうやら寝てしまっていたらしい。
いつから眠っていたのかも、どれくらい眠っていたのかも、今が何時なのかもよく覚えていない。
今日はいつもより天気が良かったので、たまには外に出てみるかとスケッチブックを片手に家を出て、近所のこの河川敷でここから見える川の絵を描いていただけだ。
the・インドアと自負するくらいには外に出ない氷空がこうして自分から出てくるのは、とても珍しいことだった。
「外に出るだけで疲れたとかだったら・・・・・・もう二度と外に出ない」
氷空はため息交じりにそう呟き、地面に落ちていたスケッチブックを拾った。
そこには、黒い線で描かれた川の絵がある。
本当なら水彩絵の具で色を付けたいところだが、本当に気まぐれで家を出てきたのでそんな道具など持ってきていない。
とりあえず一度帰ろう。そんなことを考えていた時だった。
「氷空お姉ちゃーん!」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、赤い髪の少女が頭の上で両手をブンブンと大きく振っていた。皐 千翔だ。
男の自分がお姉ちゃんと呼ばれることに関しては、もう諦めている部分がある。
というよりも、女に間違えられる機会が多すぎて訂正するのもほぼ諦めていると言った方が正鵠を得ている。
千翔は手を少しの間振り続けた後、氷空に向かって走った。
しかし、氷空がいた場所はそこそこ急な坂になっていた上に、雑草やらも生えているし、地面はデコボコしている。
想像通りというべきか、千翔は躓き、地面を転がった。
無様にゴロゴロと転がり、顔に泥とか付けた状態で氷空の目の前まで転がってきた。
「はぁ・・・・・・何やってるんだよ」
氷空は呆れた様子でため息をつき、ポケットからハンカチを取り出し千翔の顔の泥を落としてやる。
すると千翔は「えへへ〜」と、特に気にしていない様子で笑った。
千翔は見た目相応というか、精神年齢は小学生以下である。
実年齢は15歳だと言えば、10人中9人は確実に驚くレベルである。
しかし、ここでやってはいけないことが、そこで千翔を舐めてしまうことである。
千翔は無自覚の厨二病でも患いこじらせているのか、喧嘩の時などは人格が変わり喧嘩相手を叩きのめしてしまうのだ。
その時の変わった人格の性格というものが、これまたかなりこじらせちゃったような感じなのだ。
氷空は千翔の部屋に入ったことなどはもちろん無いが、部屋では包帯を腕に巻いたり火を見て高笑いをしたりしているのではないかと思っている。口には出さないが。
「そんなことより、ここで何してたの〜?お姉ちゃんが1人で外歩いてるなんて珍しい〜」
千翔は氷空の顔を見上げながら言った。
「別に。ちょっと絵描いてただけだよ」
「ふーん。なんか女子みたーい」
お姉ちゃんって呼ぶのにそれ言うんだ、と氷空は嘆息した。
そろそろ帰ろうかと思いスケッチブックを拾いに向かった時、空の一部が光っているのが見えた。
「なんだ、アレ?」
「わ、面白そう!」
明らかに危なそうな光を見て、その光に負けないくらい目を輝かせて叫ぶ千翔。
眩しい。目がすっごいキラキラしてる。
「氷空お姉ちゃん!あそこ行ってみようよ!」
「いや、危ないからやめておこう。それより早く帰らないともうすぐ暗く・・・・・・」
「れっつごー!」
「・・・・・・人の話聞こう?」
無鉄砲にもほどがある。
千翔はそのままズンズンと突き進んでいく。
氷空は、ここで千翔一人で行かせてもいいかと思ったが、それで怪我などをした場合責任は自分にあるという結論に至った。
仕方がないとため息を吐き、千翔の小さな背中を走って追いかけた。
- Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.3 )
- 日時: 2016/06/17 20:56
- 名前: 凡丙 (ID: KY1ouKtv)
話は少し遡る。
住宅の密集した地域から少しだけ離れたところに、一軒の家が建っていた。
建てられた当初はその格式を誇らしげに主張していただろう立派な屋根瓦、
そして横に長く広がった和風の縁側とその奥にある障子、
そして中庭を彩る風流なオブジェクトの数々。
しかしそれらは全て抜け殻のように、触れれば壊れる過去の遺影だった。
何十年もただただ風雨に晒され、メンテナンスも碌に行われていないせいか、
すっかり削られたり破れたり腐ったりなどしており、廃れてしまっていた。
お化け屋敷として再利用されてもおかしくはない。
単純に表現すれば「寂れた」という言葉が似合うその一軒家には、
しかしわずかにほんのりと灯りがともっている。
夕刻が過ぎ、空がようやく暗くなってきたときに、その暗さを早めるだろう雨音が走る。ポツポツ、またポツポツと。次第に音は大きくなっていき、あっという間に土砂降りへと変わった。
「よっこらしょ」
男は四十代後半と見えるがそれにしても覇気が感じられなかった。
若さなどとうの昔に捨て去ったというより、もはや最初から持つ気など毛頭ないといった居直りを感じさせる。
口周りの髭はあまり頻繁には見ていないのだろう。ところどころピンと伸びた箇所があり、全体的に剃られている印象はなく汚げだ。同時に、髪も無造作に伸びている。
田舎でよく見る農作業者が着るような分厚い暗い紺色の作業用のジャンパーには煤汚れや砂などがついており、清潔感はあまり感じられない。
テレビでもつけるか。
そう言って卓上をまさぐるが一向に何も掴めない。ああそうか、この間思い切って売り払ってしまったのだった。そう思い出して、妙に深い納得を得たのか「ふむ」と声を漏らす。
すると障子戸の開く音がして、そこに誰かが入ってきた。
忙しそうに入ってくるその人影。
「親父……! い、いたのかよ……どこほっつき歩いてんだ」
「おお、景地。丁度良かった」
「良かったじゃねえよ! 途中でいなくなりやがって」
部屋の中に入ってきたのは男の息子——名前を純ヶ谷 景地。
憤慨したその顔つきには次々と溢れ出してくる文句の数々を抑えきれないといった焦燥と怒り、それに加えて探していたものがやっと見つかったときの安堵感が奇妙に同居していた。
「まあまあ。そう怒るなって……」
「怒るに決まってんだろ! 大体、親父はいつもそうなんだよ。たまに俺と行動すると決まって急にいなくなるんだからさ」
「悪かった。悪かった……」
父親の男は息子に何を言われても馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を返すだけで、大した問題と捉えていないのか一切取り合おうとしない。こういうことが頻繁にあるのかは知らないが、すっかり動じていない様子だ。
「……ったく」
ようやく息子のほうは落ち着いたのか、それとも最早どうにもならないと諦めたのか、
いずれにせよため息を一回だけつくと敷かれた座布団の上にゆっくりと座り込み、卓を介して自らの父親と真っ直ぐ向き合った。
「それで?」
「早速だが、景地。お前に話しておきたいことがあるんだ」
「なんだよ、急に改まって……」
なんだか妙に真面目な雰囲気だった。
いつもとは違う空気を感じ取ったのか、なぜか息子のほうは正座の体勢になってしまっている。
「家を——売ろうと思うんだ」
「———は?」
「いや、な。この家もボロくていつ壊れるか分からんし。早めに売ってしまってだな」
「いやいやいや待て待て待て待て」
何を言っているのか分からなかった。
話が唐突過ぎて理解できない。
片手の平を父親の前へとかざし、「黙れ」という意味合いの制止の合図を出す。
「ん、どうした? というのはな、早めに売っておくとそれなりの資金になるし、これ以上いつ壊れるか分からん家に住むのも危険だろう。やはり物事には時期というものがあるんだ、息子よ」
「いやだから——話を勝手に進めるな糞親父」
我慢の限界が来たとでも言うべきか。
息子は、卓を押し出すほどの圧力を放ちながら急に立ち上がった。
「家を売るってどういうことだよ! 本気で言ってんのか?!」
「残念ながら、このたびはいよいよ本気なんだ」
このたび、ということは今までもそれを窺わせる出来事があっということだろう。この父と息子、二人の間にどのような経済事情があるのかはっきりと判別は出来ないが、恐らく色々なものを抱えてきている様子だ。
格式はありそうだがすっかり襤褸の巣窟となった家。
廃れた室内、ランタン一つと電力の弱った蛍光灯一つだけが照らすリビング。
無職という言葉が似合いそうな男と、
声を荒げながらどうにか青春を頑張っている息子。
それが今回、いよいよどうにもならなくなってきたと見える。
「冷静に、聴いてくれ。お前ももう十分大人だと思うから、腹を割って話したい————もうこれ以上は、長引かせられない。お前もバイトは頑張ってると思うが、お父さんもそれなりにずっと頑張ってきたんだ。でもちょっと失敗してな」
「…………」
「仕事が、続けられなくなった。もうお金は、しばらく、入ってこない。だからしばらくの間だけでも、食っていけるような金は必要なんだ」
「マジかよ……」
「この家でも、お前が進学できるくらいまでの金にはなってくれるだろう」
「——つーかそもそも、親父何の仕事してたんだよ。そういうこと俺、一切知らないんだぜ!? 息子に何も知らさずに話を勝手に進める父親があるかよ!」
父親は何も答えない。
少し頭を下げて、目をわずかに閉じ、しかし何かを言いたげに我慢しているという様子はなくひたすら静粛な空気のままでいる。
「悪いな。今は何も言えない。いずれ教える。とにかく今は黙って、俺の話を聴いてくれ」
「……っつったって、生活できる場がなきゃ、どうにもならねーし。マジこれからどうしろって……」
ゆっくりと父親も立ち上がり、息子の肩を叩く。
「たぶん友達の秋彦くん辺りが居候させてくれるかもしれんから、しばらくはそっちで我慢してくれ」
「——はあ? つーか、親父はどうすんだよ」
「俺のことは——任せとけ」
それだけ言い残して、糞親父は急にどこかへ消えてしまった。
それから数日後。
唯一の生活拠点であった家は、父親の意向ひとつでもう住めなくなってしまった。
——
そんなこんなで。
なんだかすべてが一瞬だったような気がする。
これからどうしようかと本気で迷っていた折に、
近所に住んでいた、昔から好のある大学生の知り合いである八束 秋彦の家に、事前に行われていた父親の紹介を通して住ませてもらうことになったというわけだ。
「いやあしかし……景地くんもホント大変だったね。ていうか、あのお父さん、いよいよだとは思ったけど、本当にそこまでしちゃうなんて」
「糞親父の話はもうだっていい」
秋彦が御茶を入れてくれる。
他人の家だというのに堂々とテーブルの上に顔を突っ伏す景地の顔からはすっかり気力が抜けていた。
「いやあでも悪いな、秋彦。秋彦がイイ人でマジ助かったよ。糞親父のせいでこんな糞狭いスペースにオトコ一人もう追加ってのは、苦しいと思うけど……」
「いや別にいいんだけど……ええっとそれって褒めてるのか、それとも何気に馬鹿にしてない?」
「そんなことはねえよ。何にせよ、世話になる」
そんな話をしつつ、時計の長針が何回か回ったあと。
気持ちの整理が僅かについた景地は椅子に座りながら腕を頭の後ろで交差させてぼうっとしていた。
すると、ニコニコ笑う秋彦がこちらへと近寄ってきて、何かのチケットのようなものを差し出してきた。
「そういえばコレ。景地くんももうこんなことになっちゃったから、気持ちを切り替えて新しい出発をするってことでさ、長期休暇を利用して大型のバスツアーにでも行ってみない?」
「バスツアー、か………」
「気分じゃないかもしれないけど、せっかくの長期休暇に入るんだし、こういうときにこそ新しい何かを見るっていうのも大事だと思うんだ」
景地はぼうっとした頭で秋彦の提案を聴いていたが、
やがて自分の中に眠る冒険心を抑えられなくなってくるのを感じる。
やはり人生とは蹲っていてもしょうがない。
せっかくこうやって誘ってくれる貴重な存在だっているのだ。
動かなきゃ、何も始まらないし、楽しいことを見ることも出来ない。
「そっか、そうだな! オーケー」
「じゃあ早苗ちゃんも誘ってさ。一緒に行こうよ!」
こうして、数日後には念願の学業の長期休暇へと入り、当初から計画していたバスツアーが始まったわけだ。
いつものように、ただ行って帰るだけだと思っていた。
これまでと同じように、ただ一時的に楽しいものを見て、
刹那的な感情を得て、そしてまたいつものように戻るだけだと思っていた。
単なる、どうでもいいような日常の中の一つの出来事に過ぎないと思っていた。
————
燃ゆる赤。浸蝕される緑。
無残に散らばったバスの破片。
突然制御能力を失ったバスは何かに躓き、そのまま崖の下へと転落——したかのように思えた。しかし、あとに残ったのは僅かな破片と、何かの燃え滓と少量の肉片のみ。
バスの大部分は、見つかることなく、既にそこから消えていた。
- Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.4 )
- 日時: 2016/06/21 21:34
- 名前: mocha (ID: bUOIFFcu)
そして、それと同時刻———
「氷空お姉ちゃん!あそこからなんか降ってくるよ!」
「あっそ...」
空の一部分が光っているのを見つけ、それに向かって走っていった千翔と、それに(嫌々)ついていった氷空は、その光っている部分から何かが降ってくるのを見ていた。
あっそ、なんて気の無い返事をする氷空だが、内心は結構驚いている。空から何かが降ってくるなんて、雨以外にはそうそう無いことだ。だがまあ、それにいちいち過剰に反応していても疲れるし———
「あ!ねぇねぇ、アレ、バスだよ!」
「あっそ...。.........!?」
———前言撤回。氷空はいとも容易く、千翔の言葉に反応した。
そして続けて千翔から言われる言葉に、もっと過剰に反応する。
「あとね、なんか人乗ってるよ?放り出されそうだけど」
「は...!?いや、ちょっと待て...チカ今なんて言った?人!?」
「え、うん、人」
「え!?」
普段の静かなキャラじゃないほど驚く氷空とは対照的に、千翔は至って普通な感じで言ってくる。千翔の子供っぽいキャラ的には、ここは はしゃいだり驚いたりしそうなものなのに、こういうところはなんていうか、据わってるというか、まったく動じない千翔であった。
しかも、なんと千翔はそれを、
「よーし、もうちょっとでここに落ちるね?頑張っちゃうよー!」
「...え?」
両手を広げたポーズで受け入れようと———つまり素手で受け止めようとしていた。
「ば、馬鹿なのチカ...?」
と、氷空は千翔に目を見張り、そして呆れたが、どうせ千翔のことだから、本気でバスを受け止めようとしているんだろうという結論に至った。そして、どうせ千翔だから、バスを受け止めきれずにこけたり、バスの下敷きになるだろうという考察もした。そして最後に、このバスには人が乗っている、つまり...ここでしくじったらその人たちもまとめておさらばだ。
では、氷空はどうするか?
今もにこにこしながら、落下5秒前くらいのバスに手を伸ばしている千翔を見やる。
「...ったく、しょうがないな...」
お姉ちゃんと呼ばれてはいるが、これでも一応男だ。
そんなことを思いながら、氷空は千翔と接触寸前のバスに手を伸ばした。
「『襲来の水竜』」
瞬間、水でできたドラゴンが出現し、落ちてくるバスを下から持ち上げて受け止めた。
- Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.5 )
- 日時: 2016/06/27 15:54
- 名前: 悠真 ◆y/0mih5ccU (ID: hVBIzJAn)
脳みそを強く揺さぶられるような感覚が、景地を襲った。意識が置いて行かれそうなほど乱暴に身体を引っ張られ、すぐに何かにぶつかって止まる。しかしその何かごと引かれているのか、力が弱まることはない。
(なんか、覚えがあるような……?)
うすぼんやりとした思考が頭をよぎる。どこでこんな体験をしたのだろうか。記憶の断片をつなぎ合わせて、うまく働かない脳が何とか答えをひねり出そうとする。
(そうだ、ジェットコースター)
違う。何かが頭の中でそれを否定する。違う、そんな生易しいものじゃない。首の後ろがピリピリするような、嫌な感じ。これは危険だと、身体が訴えている。その奥にある何か、本能とでもいうような部分が叫んでいる。
——自分はいま、なんの安全も保障されないままに、落ちているのだと。
目を開けた時、に。
(事故、が)
そう、事故が起こったのだと、悟った。
きれいに磨かれていたはずの窓は割れ、ガラスの破片が床に散乱していた。あまり明るくはなかったものの、たしかに車内を照らしていたはずの明かりは消えている。前面からたたきつけられたのか、運転席近くのドアはひしゃげ、とてもじゃないが動きそうにない。
ふと、景地は違和感を覚える。自分が座っていたのは入り口側で、しかも後ろのほう。ドアはそこからでは見えなかった。まさかと思い、ずきずきと痛む頭を持ち上げる。
「……痛っ!」
身体を動かした拍子に、鈍い痛み。頭や背中に乗っていた、砕けたガラスがパラパラと落ちる。痛みに顔をしかめながらも周囲を改めて見回すと、座っていた場所から少し離れたところにいることがわかった。
「やっぱり、事故の衝撃で転がって……」
「景地くん」
とりあえずきちんと動けることに安心した景地に、誰かが声をかける。落ち着いたトーンの、男性の声。
「秋彦!」
聞きなれた声に振り向いた景地は、無事な座席に腰かけた秋彦と、その膝に頭を乗せ横たわる早苗の姿を見た。
「早苗!? どこか怪我したのか!?」
「大丈夫、気絶しているだけだ。景地くんは?」
慌てて二人に近づくと、秋彦は冷静に尋ねた。少し打っただけで問題はないと答えると、彼は安堵したように息をつく。
「よかった、みんな無事で……。目が覚めたときは、本当にどうしようかと思ったよ。——早苗ちゃんには、今の状態でも十分につらかったみたいだけどね」
秋彦が運転席のほうに視線を動かし、目を伏せる。景地は秋彦の視線を追い、床に転がった濃紺の制帽を見て思わず目をそらした。
しばらくの沈黙の後、秋彦が口を開いた。
「ひとまず、ここを出よう。爆発がなかったのは幸いだけれど、なにが起こるかわからない。——外がどうなっているのかも、わからないけど」