複雑・ファジー小説

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霊能御柱 -タマノミハシラ-
日時: 2016/06/25 21:21
名前: かたるseeds (ID: LN5K1jog)

【はじめに】
こんにちばんは、この合作の企画主であるかたるしすです。

今回は、集まってくれた有志と共に、リレー小説を書くことになりました!
私にはもったいないほどのメンバーの皆さんですが、負けないよう頑張っていきたいと思います。


【メンバー】
01.かたるしす
02.凜太郎
03 凡丙
04.mocha
05.悠真


【メンバーから一言】
(mocha)
mochaです。初の合作です。どころか、初の小説投稿です。こんな奴が皆さんと合作やってていいんだろうか((とか言ってもしょうがないので、頑張ります。...一言に収まってねえなコレ...そしてつまらん←

(悠真)
 えーと、はい、悠真でございます。ゆうまと読みます。つたない文章ではありますが、精いっぱい頑張りますので、どうか温かい目で見守っていただけたらなと思います。

(凛太郎)
はい、初めましてか何度目まして!梅雨の大雨でビショビショになった凛ちゃんです☆まぁ、テンションに任せて指を動かし文字を打っていくので、どんな話になるのかは僕もあまり分かりませんが、生温かい目で見てくれれば幸いです。それでは、よろしくお願いします。


【目次】(随時更新)


※attention!!※

この小説は、エログロナンセンスのほぼ全てを含むと思われます!
苦手な方はご注意下さい。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.6 )
日時: 2016/06/27 16:38
名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)

「……そうだな」

そう答え、頭を振る景地。まだぐらぐらする感覚が残っている。耳鳴りもする。それに、何か、目覚めた時からある違和感。

「ん、あれ? 氷空お姉ちゃ〜ん! バスの中に人が居るみたいだよぉぉぉ!」

あぁ、なんだか幻聴まで聞こえる。
やたら元気のいい幻聴だな……と景地が思いながら秋彦を見ると、窓の外を見て困惑していた。秋彦のあんな微妙な顔は、久々に見た気がする。秋彦の視線の先を辿ると、割れた窓の向こう側で、赤いものが見え隠れしていた。
それが、バスの中を見ようと垂直跳びを繰り返す人の髪だと景地が気づくのには、少し時間がかかった。

「えっと……君は誰かな?」
「あ、人が居た! 待ってて! すぐ助けてあげるよ!」

華麗にスルーされ噛み合わない会話に、秋彦はまた微妙な顔をし、押し黙った。

「という訳でお姉ちゃん! やっちゃってー!」
「え? 何、僕なの? ……まあいいか……『襲来の水竜』」

ざっぱぁぁん、と音がした次の瞬間、割れたガラス窓から大量の水が流れ込んできた。二人は驚いてのけぞったが、ただの水の流れでは無いことに気付き、口をぽかんと開けた。狭いバスの中が涼しげな空気と音でいっぱいになる。
よく見ると、流れには顔のようなものがあり、黄金の輝く瞳も一対ある。さらに背中のひれ。

「……竜……?」
「正解。水竜だよ」

身を屈めて竜の背に乗り、窓を潜り抜けてきた人物がいた。真っ青な髪に中性的な顔立ちの……男? 女? と、紅い髪のポニーテールの身長の低い少女。

「大丈夫? 怪我は……って、倒れてる人がいるじゃない!」
「本当だ……ちょっと、そこの人。元気なんでしょ? 倒れてる人を水竜に乗せてよ」
「あっ……はい」

言われるまま景地は早苗を抱えあげたが、かなり気恥ずかしそうにため息をついた。
すると、早苗の瞼がぴくっと動き、少しずつ開いていった。

「早苗!」
「早苗ちゃん! 大丈夫かい?」
「……うん……あ、ご、ごめんね! 重くない?」

きょとんとした顔で答えた後、すぐに慌てて謝る。景地はため息をつき、おい、と呼び掛けた。

「そんなことで謝るなよ。というか、お前の方こそ大丈夫か? あれに乗るんだぞ?」
「え?」

分かっていない様子の早苗を腕から降ろし、景地は無言で水竜を指差す。早苗の顔が、一瞬にして蒼白になった。口をぱくぱくさせている。頭の上の「?」マークが見えるようだ。

「あの……これ……乗れる、の?」

ようやく絞り出された言葉に、赤髪の少女は答える。

「乗れる乗れる! あたし達も乗れてるし!」
「だってさ。ほら、早く!」

景地は軽く早苗の肩を叩く。秋彦も神妙な顔で頷いた。早苗は一歩一歩、ゆっくりと前に進み、水竜の側まで来た。そしてまたゆっくり、腰を下ろして乗る。そして目を丸くし、ひんやりしてる、と呟いた。

「じゃ、行こうか。掴まって」
「え、俺たちは」
「定員オーバー。行くよ」

水竜使いの一声と共に、水竜は一気に外へ飛び出した。

「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」

また気絶するんじゃないかと思われるような、早苗の絶叫が聞こえる。

「ど、どうする、秋彦……?」
「行くしかないね……」

二人は顔を見合わせ、少し躊躇った後、景地が一歩前に出て、窓のさんに足をかけた。
割りと高い。
下の方で、少女が大きく手を振っている。その横で、早苗が魂が抜けたような表情で尻餅をついていた。その脇に、水竜使いが立っている。地面には、青々とした草。柔らかそう……にはちょっと見えない。

「……まぁいい! 行ってやる!」
「え、ちょっと景地」

秋彦の焦った顔を見て、景地は少し笑う。

「うらあっ!」

そして足に力を込め、外へ飛び出した。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.7 )
日時: 2016/06/26 14:26
名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)

 案の定というべきか、景地は着地に失敗し、右足を捻挫した挙句ゴロゴロと地面を転がり、やがて氷空にぶつかった。
 彼は尻餅をつき、ぶつかった影響で景地も止まった。
 草だらけ土だらけ。汚いとしか言いようのない状態。

「全く。無茶するんだから」

 秋彦は呆れた様子でバスから綺麗に着地をする。
 景地は立ち上がろうとするが、右足を捻挫したせいか、地味に結構痛い。
 ズキズキと痛む中、それでも立ち上がる。

「あ、ダメだよ無理に立ったりしたら。怪我してるじゃないか」

 しかし、氷空がすぐにそれを止め、座らせる。
 すぐに景地の靴と靴下を脱がせ、足の調子を見る。
 捻挫にしては思いのほか重症で、足首は真っ赤に腫れていた。

「あんな高いところから飛び降りるからだよ。悪いね。景地が迷惑かけて」

 秋彦が代わりに謝罪をする。それに、氷空は「いえいえ。慣れてますから」と対応する。
 そんな中早苗はおどおどと話しかける。

「あの・・・・・・結局ここはどこなんですか?」
「そーいえば、結局おにーさん達どこから来たのー?」

 千翔は景地の怪我を見ている氷空の肩に手を置き、身を乗り出すような感じで話しかける。
 三人を代表し秋彦が、自分たちの住んでいた都道府県と市町村の名前を告げる。
 すると、それを聞いた二人は不思議そうに首を傾げた。

「氷空お姉ちゃん。そんな所あったっけ?」
「いや・・・・・・聞いたことないなぁ。すいません、もしかして外国の方、とかですか?少なくとも、この国ではそんな町聞いたことなくて・・・・・・」

 氷空の言葉を聞いた三人は目を見開いた。
 自分たちが住んでいる、町名はまだしも、都道府県くらいは聞いたことがあって当然の場所なのだ。
 それを知らないということは、考えられる可能性は二つ。

 一つは、この二人が恐ろしく世間知らず、さらに言えば、馬鹿である可能性。
 しかし、赤い髪の少女はまだしも、青い髪の・・・・・・恐らく少女、は、少なくとも馬鹿ではないと思われる。今、ハンカチを使って軽く景地の怪我を手当てしてくれているが、多少の知識が無ければ、ここまで綺麗に巻くことはできないだろう。

 つまり、考えられるのはもう二つ目の可能性・・・・・・ここが、日本ではないどこかだということ。
 改めてよく見れば、二人の髪色は、日本人には見えない。カラフルと言うべきか、絵の具でもぶちまけたかのように綺麗に染まっている。
 しかし、外国だとしたら、なぜこの二人はここまで流暢に日本語を使えるか、という疑問にたどり着く。
 それこそ、青髪の少女はまだしも、赤髪の少女は、他国の言語を日本人の自分たちにも違和感なく、綺麗に話せているこの状況は・・・・・・失礼かもしれないが、おかしいのだ。

 景地達からすれば、考えたくもない、三つめの可能性。
 おとぎ話や、小説や、漫画やアニメでしかありえない、現実で起こるわけがないこと。
 この世界が、日本によく似た・・・・・・———

 ———全く別の、異世界であるということ。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.8 )
日時: 2016/06/28 01:29
名前: 凡丙 (ID: KY1ouKtv)

「よし出来た。とりあえずはこれで大丈夫だよ」


その落ち着いた一声が掛かり、ひとまずの処置が終わったのだと気付いた。
景地たちと同年代か少し幼いくらいに見える青い髪の子は、
どこで慣れたのか分からないが、医学を修める家系にでも生まれたかと思うほどのテキパキとした手際のよさで、痛んだ景地の足首に対し丁寧かつ迅速にハンカチを巻いていた。
そしてその後、自分自身の手のひらを景地の足首の上へと僅かに翳す。
静かに目を閉じながら、瞑想のような沈黙の空気が漂うこと数秒間。

「あ……れ……?」
「どうしたの景地くん」
「何か、すっごいヒンヤリしてくるんだけど」

青い髪の子が手のひらを翳した瞬間から、景地の足首には内側から保冷材でも詰められたような清涼感が広がっていく。暴れる痛覚そのものがゆっくりと上から抑え込まれていくようだ。

「手製の特殊な施術を掛けたハンカチなんだけど……。僕の術と呼応し合って、一時的に対象物に冷却の効果を与えるんだよ。ふつうの物理的な冷却物を使うよりは長時間は効かないけど、即効性と保全性には優れてる。しばらくはこれで大丈夫だと思うけど………応急処置だから、帰ってちゃんと治療しないと」

「…………?」

近くでその言葉を聴いていた景地だったが、はっきり言って何を言っているのかさっぱりだ。隣にいた早苗もほんのわずかに眉根を寄せて、またもや「?」マークが浮かびそうな表情をしている。

「おおー。なんか氷空お姉ちゃんがそんなに長文話したの久しぶりな気がするー!」
「あのね、チカ……分かってる人だっているかもしれないけど、一応説明してあげないと怪しく思われるでしょ?」

応急処置云々は分かるが術がどうのこうのとは何のことやらだ。
自分達には分からない新しい医学界の常識でも披露しているのだろうか。
安心していいものか分からないが、おかげさまでとりあえずのところ痛みは引いてきた。


「おっと……」
「大丈夫? 立てる?」

スーッと引いていく足の痛みに合わせもともとせっかちな性格なためか早速立ち上がろうとする景地に対し、「氷空お姉ちゃん」と呼ばれた青い髪の子は優しく手を差し伸べて来た。
案の定まだ本調子じゃないのか一瞬にこけそうになる景地をちゃんと受け止めてくれる。

「あ、ありがと………」
「いえ、どういたしまして」

正直素直に良かったと思う。

蓋を開いてみればまったくもって奇態な境遇だ。
覚えている限りでは乗っていたバスが急に中空へと投げ出され、
意識が安定しない内に脳味噌が揺さぶられる事態が続き、
ふと気が付けば全く見知らぬ土地に行き着いていた。
そんな狐に化かされるよりも酷い状況の中で、
こんなにも良くしてくれる人たちが自分たちを第一に見つけてくれたことそのものが素直に安堵するべきことだった。

しかし未だ事態がはっきり呑み込めないのも事実。

「……」

不可解ながらも景地の足がひとまず良い状態に回復した様子を傍目から見ていた秋彦は、少し視線を他に移し、改めて、辺りを見回す。
まずどう考えても見たことがない風景だと断定できる。
少なくとも先程までバスツアー中に窓から覗いていた風景とはあまり似ていない。
景地たちの前にいる青い髪の子と赤い髪の少女。
彼らの髪の毛の色はどう考えても純朴な日本人のものではない。
そしてたった今、景地の足首に使われた「術」という何かしら。
手を翳しただけで、その前にあるものが冷たくなっていくだなんて
何かしらの種やトリックを用意しない限り不可能だ。
だがこの数秒の間でその種やトリックが用意されたとも考えにくい。
やはり、信じがたいことだが「その可能性」が浮かび上がってくるのを止められない。
いやしかし、それは可能性としては考えられるだけで、あくまで本当に“そう”だろうとは思ってもいない。ただ、今のこの目の前の奇妙な画面映りと有り得ないような状況を説明するために、そんな突拍子もない発想しか他に適用するものが見つからないのだ。

景地たちの頭の中ではいろいろな言葉が錯綜し、
もはやどこに着地点を見つければいいのか分からなくなっていった。
もうどうにでもなれ。
こんなとき、そういう言葉が一番力を発揮するのだというのを今如実に知った気がする。
自分達が住んでいる都道府県やその地名、
少なくとも同じ国内に住んでいるなら普通は知っているはずだ。
なのに、知らない。
話の出発点からしておかしなことになっている。

「やっぱり、本当に知らないんすか……ね? 俺達、バスツアーの途中に急に体が、こう、軽くなって……気がついたらなんか此処に来てたんですけど」
「バスツアー!? 何ソレおもしろそー!」
「……チカ。————バスってあれのこと?」

青い髪の子が指さす先には——。

「———」

数百メートル先に見える崖のようなところに、無残な姿に成り果てた鉄の塊が半壊しているのが目に飛び込んできた。
搭乗用の長い車両部分は運転席側と思われるところからいとも簡単にひしゃげ不規則な模様のようになってしまっており、爆発はなかったのか燃え盛っていたような跡は見受けられないが、とにかく酷い有様だ。

あれが自分たちがついさっきまで乗っていたバス——。

「………っ」

何かよくない想像でもしたのだろうか。
急に早苗が口元を抑え、嗚咽を漏らしかける。
背中を前へと曲げ一瞬苦しそうに身体を丸め込ませる。
長く透き通る黒髪が、力なく地面へと垂れる。

「——大丈夫!? 早苗ちゃん」
「大丈夫かよ!」
「だ、大丈夫………ちょっとむせた、だけ」

早苗は漏らしかけた嗚咽を寸前で止め、大きく息を吸い込むとそのまま吐き出す。膝を曲げながらひざまずき、今度は胸を強く抑え、しばらく目を閉じる。顔には汗が滲んでいるのが分かる。言葉では大丈夫だと言っているが、何だかとても尋常ではなさそうな空気が漂っていく。
すると。

「……ほら。もう一回息を大きく吸って」
「———」

サッと身を乗り出し、すかさず姿勢を低くして、
青い髪の子が早苗の額に手をやった。
次は一体何の魔法にかかったというのか。
それまで切れ切れの息になりつつあった早苗の表情が、ゆっくりではあるが柔らかくなっていき、呼吸が整えられていく様子が分かる。

「………あ、ありがとう、ござい……ます」
「具合、少しは良くなった?」
「はい……。ええと、うん、大丈夫……です」

早苗の具合がよくなったのをしっかりと見届けたあと、青い髪の子は立ち上がるや否や景地たちのほうへと向き直る。

「……ここは少し空気が悪いよ。場所を変えよう。君達はちょっと、気になるし………ついでだから、僕の家に寄って行く? 少し遠いけど、そんなに離れてないから……。話はそれからにしよう」

それは一つの提案。とても有難い話だった。
澄んだ瞳。落ち着いた声音。表情こそダイナミックではなく、その心情は分かりにくいが、決して混じり気などない純粋な優しさだと思えた。

「よし! 団体様ご案内——ッ!!」
「………チカ」

正直なところ右も左も分からない境遇だ。
こんなところで宛もなくうろちょろするより、目の前の親切な人の好意にあずかったほうが他の選択肢を考えるよりも数倍賢明だろう。
少なくとも、生まれたばかりの赤子がジャングルへ放り出されたような状況なのだから。

「——いいのかい?」
「うん……僕は大丈夫。チカもいいでしょ?」
「へーき、へーき。なんか最近ヒト少ないしねー、人数増えた方が楽しくていいじゃんッ!」

方針は決まった。この青い髪の子の家に付いて行く。
今はそれしかない。とにかく、行動するしかないのだ。
そこで色々と話を聴きつつ、こちらの話も聞いてもらい、まずは混乱した頭を冷静にさせる。何が起こったのか、此処はどこなのか、知らないと何も始まらない。
もちろんそれだけで全部解決できるわけじゃない。
ただ、全くわけの分からないこの状況の中で、少しだけ整理をつけられる余裕が見えてきた気がした。

そもそも今の今までバスツアーの最中だったはずなのだ。
なのに、何のアトラクションかイリュージョンか分からないが、
急に見知らぬ土地に降り立っていたという夢のような話。
もちろん頬を抓れば痛い。
この矛盾。
このもやもやは晴れそうにないが、ひとまず落ち着くだけ落ち着き、
つけられる整理はつけないといけない。

「立てるか? 早苗」
「うん。ごめん………」

景地は地面に蹲っていた早苗に手を差出し、その手を自分の肩へと回し、支えながら歩き出す。たとえ応急処置をしてもらったとはいえ自分の足首も負傷している状況だ。それにも関わらず、なかなか立てない友人に手を差し伸べる辺りが、景地の性格をよく表わしている。


青い髪の子が「じゃあ行こうか」と声を掛け、一行は動き出す。
赤い髪の少女が元気に撥ね飛び回りながら先頭を行く。
今は、ただ付いて行くしかない。

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.9 )
日時: 2016/06/29 22:50
名前: mocha (ID: bUOIFFcu)

数分後。

青い髪の少女が言った通り、少女の家はそこまで離れた場所にはなく、10分かそこらで着いた。

「氷空お姉ちゃん、掃除はできてるっ?」
「どこかのちっさいお片付けの出来ない誰かと一緒にするんじゃないよ...」

青髪の少女が赤髪の少女に家の前でそんなことを言いつつ、扉にさっと手をかざす。
景地たちが不思議そうにそれを眺めていると、青髪の少女は「どうぞ」と言って扉を開けてくれた。景地たち3人はそれぞれ「お邪魔します」と言って中に入る。

「まあ...適当に、そこらへんに座って」
「あ、ありがとうございます」

少女たちの先ほどの掛け合いからわかってはいたが、部屋の中は整頓され、こざっぱりしていた。掃除をちゃんと欠かさずやっている感じだ。

その部屋の中央に置かれたテーブルの周りに椅子があったが、少女は独り暮らしらしくひとつしかなかったため、景地はそっちに早苗を座らせ、自分は部屋の隅にあるソファに座らせてもらう。秋彦は特に故障していないので、申し訳ないが立っていてもらおう———と思ったら、いつの間にか青い少女が別の部屋から椅子を持ってきてくれており、それに秋彦は座った。気の利く少女である。

とりあえず3人が座ったことを確認し、赤と青の少女は3人と相対した。が、赤い少女は青い少女に喋りかける。

「相変わらず綺麗で面白味がないね、お姉ちゃんの家」
「チカの家はいつも変わらずごちゃごちゃしてて面白くもないけど」
「えぇー」
「そんなことより...お客さん来てるんだから、 僕 と喋るのちょっとは遠慮してくれない?」
「はぁーい」

赤と青の少女は仲良さそうにそんな軽口を叩き合っている。その軽口の中に、違和感を感じる単語があった。

「僕」?

最近流行ってるらしい、僕っ娘とかいう類の子なんだろうか、と景地と秋彦は思い、早苗はそんなものは知らずただ首を傾げる。…が、人の一人称なんて人それぞれだし、気にする必要も毛頭ない。特につっかからずに、そのままスルーする。

「…じゃあ、とりあえず、自己紹介でもしようか?」
「おぉーっ、それいいね!」

青い少女の呼びかけにより、まずは2人の少女が何者なのかを知ることができるようだ。

「僕の名前は霜月 氷空…霜、月、氷に空で、しもつき そら」

氷空、という名前の漢字を頭に想像し、景地はさらっとこんなことを言った。

「ふーん…カッコイイ名前だな、女の子にしては」

景地は何の気なしにそう言った。まあ女の子の名前としてもおかしくはないし、まあいいかと流そうとする。秋彦や早苗も同じように流した。
が。

「………」

青い少女の方は、なぜかうんざりした顔で、少し疲れたようにうなだれていた。
え、え?と景地たちが動揺していると、赤い少女が不思議そうに言う。

「氷空お姉ちゃんは、男だよ?」

「「「!!?」」」

Re: 霊能御柱 -タマノミハシラ- ( No.10 )
日時: 2016/07/02 23:34
名前: 悠真 ◆y/0mih5ccU (ID: hVBIzJAn)

 もしかしたら、事故が起きた時以上の衝撃かもしれない。
 そんなことを思ってしまうほどに、三人は強いショックを受けていた。
 なにせ、目の前の青い少女——いや、氷空という名の少年を、女の子だと思い込んでいたのだから。

「いや、馬鹿にしたわけじゃないんだ! その、女の子だと思ってて」
「……ごめんなさい。間違われるのは、嫌、ですよね」
「女の子でも僕っていう人はいるから、霜月くんもそうなのかと——」

 謝罪の言葉を並べ始めた三人に、氷空は小さくため息をつく。

「……いいよ、気にしないで。慣れてるし」
「氷空お姉ちゃん、何回も言われてるもんね!」

 赤い少女の発言に、さっきよりも深いため息。自分より低い位置にある頭を見下ろして言う。

「……あのさぁチカ。間違われる原因はチカにもあるってこと、わかってるよね?」
「えぇ!? なんで!?」
「…………」

 『お姉ちゃん』呼びをやめろと言っても意味がないと知っているのか、氷空は口をつぐんで何も言いようがないとばかりに首を振る。どうやら諦めの境地に達しているようだった。
 そんなことより、と氷空は三人を見て再び口を開く。

「そんなことより、自己紹介の続き。僕はさっき言った通りで……こっちが、皐 千翔」
「皐 千翔だよ! チカって呼んでねー!」

 氷空がとなりを指すと、紹介された赤い少女は元気良く手を挙げて言った。
 それとは正反対に、景地が控えめに手を挙げる。

「そっちも、女に見えて男……なんてことは、ないよな?」

 氷空の大ショックのあとで、少し疑いを持っているようだ。氷空の女のと間違うほどの容姿に騙されたばかりだから、用心深くなるのも仕方がない。

「ないよ。……年齢を聞いたら驚くと思うけど」

 その言葉を聞いて千翔のほうを見ると、彼女は何ほどのことでもないというように笑って言った。

「15歳だよ?」

 え、という顔をしたまま、三人が固まった。嘘だろ、という気持ちが表情にありありと浮かんでいる。
 千翔は15歳——中学校卒業や高校受験を経験するくらいの年だという。しかし彼女の身体は、それを鵜呑みにするには少しばかり小さすぎた。
 およそ140㎝——日本人女子の10歳の平均身長にあたるその数字が、彼女の身長だった。

「——さて、ふたりにじゅうぶん驚かされたところで、こっちも自己紹介しようか」

 千翔の年齢を知って絶句している中で、最初に口を開いたのは秋彦。彼は景地と早苗の肩を軽くたたいて、自己紹介をするように促す。

「あ、俺、純ヶ谷 景地! そっちの氷空っていうのもカッコいいけど、こっちもなんとなく響きがカッコいいだろ?」
「え……っと、小森 早苗、です」
「それで僕が、八束 秋彦。よろしく」

 それぞれが名前を告げ終わると、秋彦は氷空と視線を交わし、小さく頷き合った。

「さて、自己紹介も終わったことだし——」

 椅子に座りなおして、秋彦が真剣みを帯びた声色で話を切り出す。

「いま明らかにしないといけないのは、僕らが今どんな状況に置かれているのか——そしてこれからどう行動するのか、だ」


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