複雑・ファジー小説
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- 最強の救急隊
- 日時: 2019/05/06 20:06
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=327.jpg
初めましてな方もお久しぶりな方もどうぞよろしくお願いします。
気紛れ更新なため、いつ終わりいつ始まるのかわかりませんがよかったら見て行って下さい。
URLに銀竹さんが描いてくれた主人公います。
とてもありがたいです。クオリティは言うまでもないです。
お知らせ>>17
設定・人物>>1
壱話 第7班>>2
弐話 魅惑の菓子類>>5
参話 後輩やって来た>>6
肆話 生意気抜かすな小僧>>7
伍話 神原燠>>8>>11-12>>15-16>>18-20
陸話 花緒イリュージョン>>21-30
質話 昔々ある所にアポなしでやって来た鬼がおりました>>31
【ラストフローズン篇 氷牙の先導者】
捌話 高いものほど碌なことはない>>32
玖話 事件は現場で起こってるんだ!!>>33-34
拾話 さらに北へ>>35-36
拾壱話 ちょっとお前こっち来いよ>>37-38
拾弐話 人見知り会議>>39-40
拾参話 後ろの正面だあれ>>41
拾肆話 ぐちゃぐちゃうるせえ>>42
拾伍話 編集者は眠らない>>43
Twitter始めました。名前は違いますがお気にせずに。
@Taruto39Purin
- Re: 最強の救急隊 ( No.36 )
- 日時: 2019/03/19 19:02
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「……青森支部の本拠地は青森市だろ? 何で最北端のところに行くんだ?」
ガタン、と軽く揺られながら成葉と燠はバスに乗っていた。
あれから燠が必死にバスや電車を調べてようやくむつ市まで来たのだ。
周りは森、森、森。緑一色で車どころか人の気配の無さそうなところをバスは走っている。
持ってきていた地図を見合わせながら燠は怪訝そうに言った。
「……青森支部には他の所とは少し違うところがあってな。さっきついたむつ市——まぁ、向かう先は恐山っていう山なんだけどさ」
「山? 隊長に会いに行くんだろ?」
「わたしもみぞれちゃんに聞いた事しかわからないけど。青森の最北端、つまり恐山は昔から日本で最も霊界に、いや、死んだ者の魂が集まる場所だと言われてんだ。でも集まるだけじゃ魂は霊界(むこう)には行けない。だから導くために年に一回、みぞれちゃんたちはむつ市に行って儀式を行うみたい」
成葉はそう言って窓の外から見える遠い山らしきものを「ほら、あれ」と言って指さした。
一見、普通の山に見えるが先ほどの話を聞いて何だか恐ろしいものに見えてきた。
「今日がその儀式の日。だからわたしたちが呼ばれたの。雪掻き要因と人手不足の青森支部を手伝うために。……まぁ、無いとは思うけど万が一導いてる魂が暴走したら止めてほしいってのもあったんだろうよ」
「場所によって隊がやってることも違うんだな……」
しみじみと呟く燠。
すると、車内から『恐山入り口前』とアナウンスが鳴った。
成葉は止まるためのボタンを押す。しばらくして目的のバス停に辿り着き、お金を払ってバスから降りた。
「こっから歩きかぁ〜。雪が多いっ! ちょっと遠い! キツイ!」
「スマホ情報からだと今−5度だぞ」
「げぇ〜〜〜っ!!」
マイナスな燠の言葉に顔を青ざめる成葉。
しかし来てしまった以上は仕方ない。歩くしかないのだ。
成葉は意を決したように、頬を叩き、ズンズン前を歩いていく。
燠はバスから見たよりも大きく見える恐山を見上げた。
(……長兄も、恐山(あそこ)にいるのかな……)
「何してる燠ぃ! 止まってたら凍死するぞっ!!」
大声で叫ぶ成葉に慌てて我に返り「今行く」と軽く返事したのち、慌てて彼女の後を追いかけた。
05
「やっと……着いた……!」
「恐山“周辺”だ! まだ着いてない」
鼻を真っ赤にしながら成葉は嬉しそうに呟いた。
バスから降りて20分。冷たい風と10センチほど積もった雪に耐えながらようやく目的地である恐山周辺までたどり着いた。
行くべき場所はある屋敷。見たらすぐわかるので成葉は辺りを見渡す。
「……おい、ナル」
「ん? もう屋敷見つけたの? さっすがエルフ目もいいんだね——……」
「違う。恐山ってのは地獄みたいな場所なのか? 本当に、あんなところに死んだ魂が集まれるのか?」
燠の声が震えていた。
その異常さにすぐさま成葉は気が付いた。
燠に「ちょっと此処にいて」と言い残し、高い木々に俊敏な動きで登る。
そしてすぐに燠が言っていたことを理解した。
「何だ……これ……」
成葉が「これ」と言った光景。
それは、まさしく地獄の様な光景だった。山一帯を覆うような赤い炎。
無残に燃えて黒くなった木々。まだ雪や氷は残っているが、あらゆる生命というのを感じられなくなっていた。
炎は今もなお勢いが衰えない。
それに加えて、成葉は目の前の光景にとても見覚えがあったのだ。
「こんなの……繋の時と一緒じゃん……! 何でだ……っ」
- Re: 最強の救急隊 ( No.37 )
- 日時: 2019/03/21 18:46
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「……少なくとも、燃えてなかったでしょ……っ」
パチパチと音を立てながら、山は、燃えていた。
いくらあまり縁起の良い山ではなかったとはいえ、このような悲惨な風景ではなかったはずだ。
明らかに不気味で不自然な現象だ。
成葉は生唾を呑み込みながら、登っていた木から飛び降りる。
「……こうなっている以上『氷室みぞれ』たち隊員はどこかへ避難、あるいは行方不明の可能性が高い。どうする?」
「……うーむ」
燠が言う通りであった。まさかこのようなことになるとは微塵たりとも考えていなかったので思わず頭を抱え込む。
万が一にもこの地獄のような炎の空間に人間が留まっている可能性はない。
雪丸とも逸れてしまった今、連絡手段はない。かと言って、浅草の第7隊に連絡もしたくはない。
おそらく連絡すると花緒と繋は増援を送る、或いは自らが来てくれるであろう。
でもそれは浅草の守備を薄くさせるのと同義だ。あまり得策とは思えなかったのだ。
「——……だったらオレの意見に乗ってみねぇか」
「燠君の? 考えがあるの?」
「ああ」
先程の光景を見てからあまり口を開こうとしなかった燠が静かに頷いた。
特に考えがあるわけではなかったので、成葉も同意するように大きく頭を上下に振った。
「まず、オレたちは情報又は状況を知るべきだと思う。この炎が人為的な物か自然の発火……とは考えにくいがそれすらもわからないからな。情報を収集すべきだ」
「言われれば確かに」
「それに山がこうなっているのに他の人が騒がないのも、消火活動も行われていないのは不自然すぎる。まずは山に残って探索。もう1つは町に行ってどんな状況になっているのかを調べる必要がある。今のところさっきみたいに襲い掛かってくる奴もいないし」
成葉も異論がないのだろう、再び大きく頷いた。
「でも2人でやってたんじゃあ時間がかかりすぎる。かなりの無茶だけど二手に分けて調べよ」
「ああ。オレは山に残って探索する。……オレの金髪は青森じゃ目立つみたいだしな。街の方はナルに任せる」
「わかった! 待ち合わせと時間は?」
「5時間後に、ここで。もしも迷ったらオレの風を飛ばすよ」
05
「はっ」
成葉と別れてから数十分後。燠はギリギリまで山を燃やしている炎へと近づいていた。
そこらへんに落ちていた木の棒を乱暴に炎の中へと投げ入れる。
すると、木の棒は枯れたようにぱっきりと黒く変色し、木端微塵に折れていった。燃えた、のではなく。
「燃えない……? この炎、間違いなく自然に発火してわけではないな。わかってたけど」
燠は少し驚いたようにまじまじと目の前の炎を見つめる。
燃えないとは言っても質量や、物凄く熱い温度までは炎とほぼ同じだというのに。
「遠目から見たらケイジと同じぐらい……、いや、それ以上の炎の特力を使う人間がいると思ったがそんなホイホイいるものでもないよな」
炎の事は少しわかった。
けれど、それだけだ。燠はさらなる情報を求めて止めていた足を再び動かそうと、一歩踏み出した。
その瞬間、だった。
「——っ!!」
パン、という乾いた音とともに、燠は反射的に左に避けた。
避けた瞬間、後方の木に何かが当たり、ミシミシと音を立てて木が倒れていった。
もし燠が避けなかったら大怪我では済まなかっただろう。
燠はすぐさま立ち上がり、草木が生い茂っているすぐ目の前に飛び込んだ。
(……今の、狙撃銃か!? くそ、何だってこんな時に。でも悠長にしてたら次の銃弾が飛んでくるぞ……!)
大木に背中を預け、銃弾の位置を把握しようと少しだけ顔を出す。
すると、燠の真横スレスレに再び銃弾が飛んできた。
「ぐっ!!」
この位置だと狙撃する方はかなり視界が悪いはずなのに、寸分狂わず燠を狙ってきたのだ。
素人でも凄腕の狙撃手(スナイパー)だということが理解できる。
「敵、か……!? けど、オレはこのまま簡単に死んでやるわけにはいかない」
燠はそう言って、懐から小刀を出す。
- Re: 最強の救急隊 ( No.38 )
- 日時: 2019/03/27 20:25
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
場所は変わって、燠から数百メートル離れた二時の方向。
視界の悪い茂みの中に1人の少年がいた。
見た目は14歳ぐらいだろうか、学生であることを証明するような黒い学ランの上に羽織っている外套が特徴的だ。
極めつけは両手に持っている少年の身丈ほどありそうな狙撃銃。
少年は淡々と、無表情になくなった弾を入れ替え素早く燠を狙う。
(……排除、しないと)
スコープから燠の様子を伺うと、見計らって再び発砲する。
燠のいる方も草木が視界を遮り確認をすることはできなかったが、ガサガサと動きがあったため少年が撃った方向にいることはほぼ間違いないだろう。
「おれの銃撃、避けられたのは初めてだな。人間じゃない」
——……次こそは。
——次こそは、当てる。
06
「この銃弾、普通のじゃないな。異形を殺すことに特化したやつだ。……これを見たのは外国にいた暫くぶりだな」
何とか拾い上げた銃弾をまじまじと見つめる燠。
それと同時に少し背筋が凍った。この銃弾はさっきも言った通り、異形を殺すのに特化している。それに加え、扱っている人間はかなりの手練れだ。
この銃弾を見たのは浅草に来る前——つまり、外国にいた時に見たの以来だ。
相手の位置が分からない以上、燠が不利なのは一目瞭然であった。
(……うかうかしてると嬲り殺しだな)
燠は銃弾を宙に放り投げ、キャッチすると、勢いよく走り出した。
彼が走り出した先は、炎と雪が疎らになった広地——つまり、少年から見て自由に撃ちまくれる場所だった。
(あの人、何考えてんだ。自由に撃ち殺してくれって言ってるようなものじゃないか。まあ、いいさ。だったらお望み通りに)
少年は、今度は違う銃弾に切り替える。
そしてひたすら真っ直ぐに走ってくる燠めがけて、長銃の引き金を打つ。
「……あそこか?」
燠の目の前を光が横切った。
その瞬間、地面が爆発したのだ——雪と炎が浮上し、地面は抉れ、隠れていた土が舞うほど凄まじい威力。
雪も炎も土も爆風によって飛んでいく。
一般人、いや、並の生命力を持つ生き物なら確実に死んでいる。
爆発により辺り一帯は煙に覆われ、視界が悪くなっていた。
「おかしいな、死体が飛んでこない」
少年は違和感を感じた。爆風は収まっていないが、この銃弾は地雷より威力を強めたものだ。いくら体重がある人間だろうと浮かばないのはおかしい。
その瞬間だった。
見計らったように燠が魚雷のように少年の方向へ、飛んできたのだ。
「そこ……かぁぁぁぁっ!!」
「そんな、そんなおれの爆風を逆手にとって……!? 一歩間違えれば大怪我じゃすまないのに!」
燠は、自らの風と少年により起こされた爆風を利用して大砲の様に、自分の体を倍以上の速さで進ませた。
そのまま燠は少年の頭上までたどり着く。
慌てて少年は頭上にいる燠めがけて発砲した。銃弾が燠の頬をかすめる。
燠は、少し前の事を思い出していた。
(……まさかここで平隊員として培ってきたことが生かされるとは)
——なあ燠、オメェ、ハーフエルフだからあまり肉弾戦はできんだろう。
——ああ、エルフ自体筋力はあまりないし、オレ自身もハーフと言っても一般男性かそれ以下ぐらいしか力はない。
——確かにオメェの特力は小回りも聞くし強力だがそれが通じないパワータイプが現れたらどうすんだ?
——ああ、ナル達みたいな化け……じゃなくてパワータイプの事も考えるとやっぱり戦うよりもいったん引いて援軍を待った方がいいと思うんだ。
——まあ間違っちゃあいねぇよ。ただ、それだけじゃあつまらんだろう?
07
「平岡直伝!! 『縦四方固め』!!」
説明しよう。
燠の先輩であり、同僚である平岡五右衛門(ひらおかごえもん)は平隊員でありながら柔道8段の傑物だ。
縦四方固めとは柔道技の「寝技」と言われる相手を抑え込む技である。試合で有れば相手に覆いかぶさるように相手の肩から帯を取るものだが——今回は割愛する。
燠は空中から落ちてくるのを利用してそのまま少年に覆いかぶさった。
「うっ……! うううううううううううううううううっ!!」
少年は苦しそうな顔で抵抗するが、燠はピクリとも動かない。
まず、少年と燠では体格の差もあるが、筋力の差もあった。前線で拳を振るわない少年と、平岡と過酷な任務でしごかれた燠とは力では確実に差があった。
筋肉は裏切らない——と誰もが言う。
「は、なせっ! この……っ」
「大人しくしろ」
少年は最初こそ勢いよくジタバタしていたが、体力が尽きてきたのか次第に動きが弱くなっていく。
そして、ついには抵抗する様子も見せなくなっていた。
「……おれの負けだよ。殺せ、情報を吐く気はない。お前達みたいな獣に言うことなんか何にもない。みぞれさんは絶対に負けない」
「……みぞれ?」
観念したように少年は空を仰ぐ。
少年の呟いた言葉に思わず燠はキョトン、と目を丸くする。
すると、背後からギュ、ギュ、と雪を踏みしめる音が聞こえた。反射的に振り向くと、そこには驚いたような顔をする成葉の姿があった。
「燠君? ……と、涼(りょう)君? こんなとこで何してんの?」
- Re: 最強の救急隊 ( No.39 )
- 日時: 2019/04/02 21:09
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「えーと。こっちのナウなヤングが神原燠。ハーフエルフの新隊員。ほら、少し耳が尖ってるでしょ」
燠の怪我を軽く処置した後、向かい合っている燠と涼と呼ばれた少年の間に入る形で成葉はそう言った。
つまるところ、隊員紹介である。
成葉は燠の耳を見せようと髪をかき上げると、涼は「本当だ」と小さく呟いた。
「それでこっちの雪ん子スナイパーが白雪涼(しらゆきりょう)。雪ん子と言っても雪女や雪男と役割は殆ど一緒だけど、第3隊の隊長である氷室みぞれの部下で第一補佐。今年14歳なんだって」
今度は涼を指差しながら成葉はそう言った。
どうして成葉がお互いの自己紹介をしているのかって? それは、燠と涼が超の付くほど人見知りだからであった。
燠は「……そうか」と呟き、冷たい空気が流れる。冬だけに。
すると、涼は申し訳なさそうに眉を顰めると、
「……ごめんなさい。第7隊って藍色の半纏が特徴的だったし、成葉先輩でも慶司さんでもなかったからさっきの——敵かと思ったんだ」
「新入りだから応援を経験させたいという思いが裏目に出たか……」
「それにこんな寒ぃのに半纏だけじゃ凍死するしな」
「こらっ、燠君!」
空気を読まずに言い放つ燠に成葉は渇を入れる。
ますます涼は申し訳なそうに「ごめんなさい」と再び呟いた。
「——まあ、そんなことよりも今『敵』って言ったな。敵ってどういうことだ? もしかしてこの炎と何か関係あるのか?」
「…………」
燠の問いに、涼は一瞬、息をのんだ。
成葉も続けて、
「わたしも、町に行って気が付いたことがあるよ。でもまずは涼君から話を聞いてからだ」
「正直、おれにもわからないんだ」
ポソリと涼はそう言った。
「今日は儀式の日だから恐山(ここ)でいつも通りに準備をしてたんだ。途中で慶司さんが新幹線の襲撃で行方不明になったって電報で聞いたから、第3隊(おれたち)も事態の収拾をしようとしてた時に急に燕尾服を着た男が現れた。……あのみぞれさんが気が付けなかったんだ。男が目の前に現れるまで」
「そんなにみぞれって奴は気配に敏いのか?」
一瞬、怪訝な顔をした燠は成葉の顔を見上げる。
静かに頷くと未だに信じられないような燠を窘める様に言った。
「みぞれちゃんは神様のハーフ。神様ってのは生き物を常に見渡せる。探知の範囲じゃなくてね。純血の神様ほどではないけどみぞれちゃんは生き物の把握が並じゃない。そんな彼女が見落としたってことは……」
「生き物、つまり、人間じゃないって、こと?」
ふと、涼がたどたどしく呟いた。
それは燠を始め、みんなが思ったことだ。
しかしそれはどうしても口には出したくなかったし、考えたくもなかった。
——生きていない人間が存在するなんて、有り得ないじゃないか。
- Re: 最強の救急隊 ( No.40 )
- 日時: 2019/04/10 21:16
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「……そういえば、みぞれは……。他の隊員たちはどこに行ったんだ? 避難してるのか?」
「ううん。男は急に現れては爆弾で恐山(ここ)を地獄にしたんだ。爆風で周り見えなかったからみんなはどこに行ったのかわからないし、まず生死もわからない」
燠の問いに、涼は悲しそうに答えた。
その返答にどうすればいいのかわからず、燠は口を閉じてしまう。
すると成葉はスッと手を上げると、珍しく真剣な眼差しで2人を見る。
「変なタイミングになったけど、わたしから。町に降りたら異常は一目瞭然。住民・異形もれなく全部活動していなかった——というか『時間が止まってる』みたいに動きが止まってた。パントタイムみたいに」
「……やっぱり、そうか」
成葉の言葉を聞き、納得したように燠は立ち上がった。
驚くと思っていたのに意外と冷静で逆に成葉が面食らって、慌てて立ち上がる。
「えっ。何で冷静なん。普通驚かない?」
「炎、見てみろ。今、風は吹いてない。でも、酸素はある……にも拘わらずあちこちの炎が勢いよく動いてる。けど、燃え広がってはいない。普通の炎なら絶対にありえない」
「それってつまり?」
「町の人間と同じく恐山も時間が止まってるんだよ」
呆れたように長いため息をつく燠。
その言葉に思わず一瞬、成葉は息を止めた。
時間を止めるなんて馬鹿げた神業、誰ができるというのだ。
「時間を止めるって言ってるけど、それは禁術だよ。三大禁忌の一つ。一つは命の永続、二つは命の復元、最後は——……時間の使役」
「わかってる」
「そんな所業、神にしかできない! 神原さんは神がこんなことしたっていうの?」
取ってかかる勢いで、涼は燠に攻寄る。
燠は唇をかみしめながら目線を逸らすだけだ。恐らく、彼にもこのことを完全に把握できていないのだ——何しろ証拠も時間もないのだから。
成葉は2人の間に入るように、口を開いた。
「それと、あと一つ。人間自体動いていなかったから直接情報収集はできなかったけど、建物の中には入れた。不法侵入になっちゃうけど今回は不可抗力ってことで! はい、これ」
「……これって……」
成葉が差し出した黒い手帳を受け取る。
軽く手帳のページを捲ると、何行か文が記されてあった。
少し悲しそうに涼の頬が赤くなった。
「ダメもとで青森支部仮設施設に行ってみたんだ。案の定崩壊してたけど、たまたま転がってたから拾ってきた。役に立つかどうかはわからないけどさ」
「この字……晶馬さんの……」
「……おい、2人ともあれ見ろ!」
急に弾ける様な声を上げた燠。
2人は思わず反射的に燠が指差した方向を見る。その視線の先にはこの場所には似合わぬ白いセーラー服とばっちりセットされた髪を靡かせる女、であった。
女は真っ直ぐ、前を歩いていく。
涼は思わず勢いよく立ち上がった。
「みぞれさん……!」