複雑・ファジー小説
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- 最強の救急隊
- 日時: 2019/05/06 20:06
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=327.jpg
初めましてな方もお久しぶりな方もどうぞよろしくお願いします。
気紛れ更新なため、いつ終わりいつ始まるのかわかりませんがよかったら見て行って下さい。
URLに銀竹さんが描いてくれた主人公います。
とてもありがたいです。クオリティは言うまでもないです。
お知らせ>>17
設定・人物>>1
壱話 第7班>>2
弐話 魅惑の菓子類>>5
参話 後輩やって来た>>6
肆話 生意気抜かすな小僧>>7
伍話 神原燠>>8>>11-12>>15-16>>18-20
陸話 花緒イリュージョン>>21-30
質話 昔々ある所にアポなしでやって来た鬼がおりました>>31
【ラストフローズン篇 氷牙の先導者】
捌話 高いものほど碌なことはない>>32
玖話 事件は現場で起こってるんだ!!>>33-34
拾話 さらに北へ>>35-36
拾壱話 ちょっとお前こっち来いよ>>37-38
拾弐話 人見知り会議>>39-40
拾参話 後ろの正面だあれ>>41
拾肆話 ぐちゃぐちゃうるせえ>>42
拾伍話 編集者は眠らない>>43
Twitter始めました。名前は違いますがお気にせずに。
@Taruto39Purin
- Re: 最強の救急隊 ( No.21 )
- 日時: 2018/12/30 16:39
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「おら新入りの神原! もたもたしてんなさっさと行くぞ!!」
「……っ。わかってる!!」
事件から1週間が経った。
第7隊の屯所へ帰ると、燠は深々と頭を下げて「此処に残りたい」と言ったのだ。
まさかそんな申し出を受けるとは思っていなくて、いやむしろ、どこかへ行ってしまうのではないかと思っていたのだ。
あの雪丸ですら開いた口が塞がらなかった。
繋は、燠に、
『……仕事の前にやるべきことは分かってるな?』
とだけ言った。
頭のいい燠は言葉なく頷くとその場から去っていった。
それからは燠と一般隊員にしかわからないことだが、事件の翌日には喧嘩はするものの、以前の様ないがみ合うような関係ではなくなった。
燠はガハハと笑う隊員の背中を「体力底なしかくそっ」と愚痴っていた。
そんな様子を見て、屯所の事務室で書類の整理をしていた成葉は、隣に座っている繋に声をかけた。
「燠君、申し出断るなんてね」
「ああ。一からこの場所のことを知る必要があるから最初から管理職じみたことをするなんて御免だね、なんてな」
2人は顔を見合わせて生暖かく笑い合った。
雪丸は意地悪そうに、成葉に笑いかけると、
「クソガキ。寧ろよかったんじゃねぇのか。燠(あいつ)、もし申し出を受けてたらお前の0.5部下みてぇなもんだぞ。テメェの雑な書類を1ミリ単位まで注意されるぜ」
「それに官僚長の推薦だからな。地位的にはお嬢の少し下か同格だぜ」
便乗するかのように繋も悪戯っ子のように笑う。
追い詰めるかのような2人の表情にみるみる成葉の顔が曇っていく。
「そそそそそそそそんなこといってビビらせようとしても無駄だし! そんなこと言ってる暇があったら仕事したら? 職務怠慢すぎるんだけど」
「おい手が震えてるぞ」
強気な言葉と裏腹に、ペンを持つ手が上下に小刻みに揺れる。
そんな成葉などお構いなしに、雪丸は、頬杖をつく。
「そろそろだっけか。アイツ、帰ってくるの」
「ああ、もうそんな時期か。1〜7部隊合同のスカウトの旅が終わるのは。夏に行ったから3か月ぐらいか」
繋も茶を啜りながらしみじみと言う。
「え。花緒(はなお)さん帰ってくるの!?」
先程まで成葉はしょんぼりしていたのに関わらず、今は満面の笑みで繋に話しかける。
「早くて明日には帰ってくるんじゃないか?」
「確か花緒さんが向かったの関西の方だよね。お土産はお好み焼きかたこ焼きか……くいだおれ人形!」
「あれは土産物じゃねぇ」
雪丸の一喝で3人は仕事に戻った。
しかし、次の日に事件が起こるだなんて思いにもよらなかったのである。
- Re: 最強の救急隊 ( No.22 )
- 日時: 2019/01/05 19:42
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「はぁ……」
小豆洗の少年、和人は浅草橋の下にいた。しかし、その顔はどんよりとした浮かない表情だった。
手元にあった平たい石を乱暴に掴むと川に向かって放り投げた。
しかし、石は飛び上がることなく川底へ沈んでいった。
再び、和人はため息をつく。すると、隣に座り込む少年がいた。
「瑛太……?」
「……やっぱり、此処にいたんだね」
寂しそうな表情で笑う「瑛太」と呼ばれる少年。
真っ白な肌に、簡易な着物を着た一つ目の少年である。瑛太は「豆腐小僧」の末裔でもあった。
和人も、瑛太につられて苦笑する。
「和人、どうしたの? いつもこの時間ってお店のお手伝いだよね」
「……サボっちゃったでやんすよ。母ちゃん、今秋だからって栗餡だの、焼き芋味だのかぼちゃだのって慌ただしくて……他の菓子チェーンに負けてたまるかって毎日うるさくて、おいらをパシリにするでやんすよ! 毎日酷いのにこれ以上だなんて! ……そんで、今この状態でやんす」
「……僕も。父ちゃんが豆腐を作った必殺料理とスイーツを作るって五月蠅くて……。今日の朝も和人のお母さんと大喧嘩してたんだ。僕、少し疲れちゃって……」
お互いの話を聞いて、2人は再びため息をついた。
和人は頬を膨らませながら、吐き捨てるように言う。
「おいら秋なんて嫌いでやんす。商売敵だの、売り上げだの、売れ行きだなんてどうでもいいし。おいらたちを巻き込まないで欲しいでやんす!」
「全くその通り! ご先祖様の名誉だか誇りだか知らないけどこっちはたまったもんじゃないよ!!」
そう大きな声を上げると、2人は立ち上がる。
「菓子なんてこの世から消えてしまえー—っ!!」
「なーにがご先祖様の誇りじゃあああああ!! おいらしってんぞ!! 仏壇の写真にすげー埃溜まってるってことを!!」
「くたばれぇぇぇぇぇ!!」
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫んで2人は勢いよく走りだす。
走り方も滅茶苦茶で、今あるのはこの怒りやむしゃくしゃを発散したいということだけだろう。
「気に食わないでやんす!!」
「あ! 和人、ストップ……」
ハッと我に返った瑛太は未だ興奮が止まらず猪の様に走り続けている和人を呼び止める。
瑛太の生死の声も聞こえず、和人は目の前の人物とぶつかってしまった。
「うぷっ」
「うわっ!」
和人は、相手との体格の差もあり、思わず尻餅をつく。それは開いても同じようだったようで、和人と同じ体制を取っていた。
「いったた……。何なんですかもう……」
「あ、あ。すみません!! すみませんでやんす!!」
「気を付けてくださいな! ……ん? 和人さん?」
「え」
和人の体温が一気に下がる。
自分はとんでもないことをしてしまった。反射的に何回も何回も土下座する。
相手は文句を言いかけたが、和人の顔を見るなり、驚いた表情を浮かべた。
後ろから追いついた瑛太は目の前の人物に驚き、大きく目を見開いた。
「は、花緒さん!?」
「ええ。私(わたくし)ですとも。元気なのはいいことですが些かやんちゃが過ぎますね」
呆れたようにそう言う美人。
綺麗に揃えられた白銀の髪に水晶が輝く壮麗な髪飾り。
素足を出した鮮やかな着物を身に纏った美人——花緒。
花緒は第7隊「唯一の事務員」である。
- Re: 最強の救急隊 ( No.23 )
- 日時: 2019/01/13 20:17
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「花緒?」
「そ。唯一の事務員。今日遠征から帰ってくるの。会ったら挨拶しときなよ」
「ああ」
「どう? 仕事内容は?」
「……今までのとは比べ物にならないぐらい運動量が多い……!」
時刻は真昼。
ガヤガヤと隊員たちが賑わう食堂は屯所の一部である。
偶然遭遇した成葉と燠はともにカレーライスを頼み、話しつつも食べる手を止めない。
成葉の問いに、燠は心底悔しそうに顔を歪めた。
「……お偉いさん方がどれほど楽をしてきたか理解した気がするよ」
「でしょでしょ」
なぜか成葉が胸を自慢げに張った。
燠はどうでもよさそうに口にカレーを運び続ける。すると、次の瞬間、成葉の隣のテーブルにドサドサと大量のお土産が置かれていた。
成葉は上を見上げると、そこには花緒の姿が。
「あ、おかえり!」
「お久しぶりですわん。花緒、約3か月の遠征を終えて帰還しました!」
「花緒ちゃーん!!」
「何だよ、報告しとけよー!!」
花緒はビシッと敬礼をする。
お土産を早速物色しながら、成葉は満面の笑みを浮かべた。
只でさえ、騒がしい食堂が1人の美人の登場によってさらに騒がしくなった。
(此奴が、花緒か……)
「あら。そこのお方は初めましてですね、神原燠さん。話は繋様から伺っておりますわ。優秀な問題児と聞いてます。私は花緒。綺麗で若く見えても結構長生きの猫又ですのよ? 以後お見知りおきを!」
「ああ……。よろしく」
「では、皆様! 私慶司さんや繋様に報告しなくてはいけないので。また改めて!」
嵐の様に来て、嵐のように去る。
まさしく、花緒はその通りに食堂を後にした。
ようやく燠は食べる手を止めると成葉に、
「……ようやくオレが異形混じりだって知っても大して反応しなかった理由が分かったよ。ハーフどころか異形そのものがいるんだもんな」
「まあね。わたしは物心ついたころからそれが当たり前だったし! 今は少なくなってしまったけど、前は水妖精(ウンディーネ)とか蛇神とかもいたんだ。小豆洗とか豆腐小僧とかろくろ首は結構いるけどね」
「上の奴らは人間以外嫌うからな。いたとしても大抵は厄介者の扱いしかされてないしな。ほんっと、糞だった」
吐き捨てるように、燠は立ち上がり、おぼんを返却しようとした。
少しだけ、成葉の顔を見ると、
「……ま、第七隊(ここ)は少しマシかもな」
其れだけ言うと、口角を少し上げながらそのまま去っていった。
成葉もへらっと笑う。
「そりゃ、第一補佐官冥利に尽きますわ!」
02
「……結論から言いますと。勧誘した人材はほとんど他の隊に行ってしまいましたわ」
「何でだ」
「ちょっと。自覚してないんですか? あなたが。特にあなたが恐怖の権現であり、第七隊のイメージダウンに繋がってるんですよ? 女子が成葉ちゃんと私しかいないのがいい証拠です!」
「まぁまぁ、花緒落ち着いてくれ。隊員はとりあえず今のところ規定以内にはあるから問題ないが……。それだけじゃないんだろう?」
首を傾げる雪丸に、花緒は激高した。2本のしっぽの毛が逆立つほどに。
繋の言葉に花緒は落ち着きを取り戻すと、書類をバッグから取り出した。先程の怒り顔が嘘のように花の様な満面の笑みに変わる。
「うふふ。流石繋様、わかっていらっしゃる! 実はさっそく、やりたいことがありまして……」
「おい、花緒何仕出かそうとしてやがる……」
「面白いこと考えるな、相変わらず」
「でしょう?」
げんなりとする雪丸とは裏腹に楽しそうに笑う繋。
キャピキャピと、楽しそうに彼女は笑うのであった。
- Re: 最強の救急隊 ( No.24 )
- 日時: 2019/01/16 21:34
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「いい加減にしてくれないかね! アンタ、こっから先はあたしの領域だ! ビラなんか貼るんじゃないよ!」
「やーかましい! 領域だのなんだのってほざいてるから売れ行きが俺の2分の1ぐらいしかないんだ!」
「あんだって!?」
次の日の朝。時刻は10時ぐらいだろうか。
商店街のど真ん中で2人の争い声が聞こえる。
1人は薄い紫色の肌をした女性ながら威勢のいい小豆洗——つまり、和人の母、明菓(めいか)。そしてもう1人は豆腐の様な真っ白な肌を持つ強面で、一つ目の豆腐小僧——つまり瑛太の父、富岳(ふがく)。
どこからどう見ても剣呑な雰囲気で睨み合っている。
「もー!! 母ちゃん、恥ずかしいからこんな喧嘩止めるでやんす!」
「お父さん……。規則で決まってるじゃないか。広告目的のビラは領域ごとに決まってるから自分の領域以外は張るなって……」
母、父の隣で恥ずかしそうに眉を顰める和人、瑛太。
どうやら彼らも彼らで店の為に強制お手伝いされているようだ。
「アンタは!」
「黙ってろ!!」
明菓と富岳の息の合った一喝で息子らはしゅんと黙り込んでしまった。
周りにいた人間も不安そうに見ている。しかし、止めようとは思わなかった。
何故ならこの浅草で数ある菓子店はだいたいこんな感じだからだ。一見おとなしそうに見えても手を翳せば、いつ燃やされるかはわからない。
ただ、この2人が分かりやすいだけだ。
「母ちゃん……」
「…………」
悲しそうに和人は明菓を見る。しかし、当の本人はビラの事で頭がいっぱいだ。
瑛太は拳を強く握って全身を震わせていた。
それは、いつも気弱で大人しい彼からはあまり想像できないことでもあった。
「騒ぎ声がするから雪ちゃんに止めて来いって言われたんだけど——……」
そこに、タイミングがいいのか悪いのかわからないところに成葉が困り顔でやってくる。
場の空気に相応しくない表情だ。住民がこぞって彼女に何とかしてほしいという目線を送る。
その瞬間。
「——瑛太!?」
素早い動作で瑛太が成葉の元へ飛び出した。
そしてそのまま腕を掴むと、どこかへ走り去っていった。消極的な瑛太がこんなに動くなんて。
ただ事ではないと悟った富岳、そして和人がその後を追いかける。
「止まるでやんす! 瑛太! お嬢を連れても身代金は出ないでやんす!! 出るのは若の拳骨と繋副長の手料理でやんすよ!」
「わたし自体に価値無い的な言い方止めてくんない!?」
そのまま100Mほど走って、瑛太は息を切らせながら、足を止めた。
場所は、瑛太の家——つまり、専門豆腐店でもあった。
瑛太は素早い動作で、成葉とともに自宅に入り、至る所に鍵をかけ、シャッターを閉めた。
そして少しの隙間と、メガホンを取り出すと、大声を上げた。
『お父さんなんか大っ嫌い!! ……ううん、浅草の菓子店なんか大っ嫌い!! 朝から晩まで豆腐豆腐菓子菓子! 人の迷惑考えないで売り上げばっかり! もううんざりだ! これ以上こうなるんなら、主役の豆腐を全部味噌汁と鍋の具材にしてやる!!』
「ふ、ふざけんな!! 瑛太!! 出て来い!! 豆腐小僧(おれら)がそんな意味の無いことに豆腐を使うだなんて——一族の面汚しにもほどがあるってもんだ!!」
『ご先祖なんか知らない!! そんなもの絹ごし豆腐のように潰れちゃえ!!』
瑛太は富岳の叫びを拒絶する。
そしてピシャンと扉を閉めた。
「もう知らない。お父さん何て」
(……和人の影響かどうかわかんないけど瑛太口悪くなったな……)
玄関で体育座りをする成葉と瑛太。
目尻に涙を浮かべる瑛太を横目で見ながら成葉はそんなことを思っていた。
瑛太は力強く立ち上がり、
「やりましょう、お嬢。この家にあるすべての豆腐を味噌汁の食材に変えてしまいましょう。360キロを」
「嘘でしょ。豆腐だけバブル時代なの?」
豆腐360キロ。成葉は思わず慄いた。
- Re: 最強の救急隊 ( No.25 )
- 日時: 2019/01/22 20:06
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「絹ごし木綿に木綿豆腐に高野豆腐……。ほんっとうに豆腐オンリー」
「そうなんです。豆腐なんかうんざりです」
「ええ……。瑛太も豆腐小僧だろ?」
成葉は愚痴を吐きながら瑛太とともに厨房に立つ。
豆腐は嫌い、と言いながらも厨房に立つことや豆腐を着る手捌きは素人を超えている。
その証拠に現在成葉は豆腐10個ぐらいしか切っていないのに対し、瑛太はその倍の20個を切っていた。
それをどんどん大きな鍋に無表情で入れていく。
「全部味噌汁にするの? わたしたちだけで食べきれないでしょこれ」
「大丈夫です。助っ人がいますから」
「助っ人?」
瑛太は少し表情を和らげ、後ろを振り向き、指を差す。
指を差した場所には、冷蔵の角。そこには、小さな犬がいた。しかし、不思議なことにその犬の体はトマトの様に赤い。
成葉は思わず眉を顰める。
「んん? あれどう見ても犬の色じゃないけど……。どこで拾ったの?」
「河原です。一昨日、学校から帰ってきたときに見つけました。……お父さんは衛生がなんとかで動物は駄目って言うからこっそり僕の部屋で飼ってたんです」
(……あれ、どこかで)
ふと、成葉の頭の中にあることが過った。
それは、昨日の夜。繋と雪丸と話していた時だった。
——さっき入った情報だ。聞いてくれ、若、お嬢。
——何だ、また喧嘩か?
——違う。この浅草(まち)に魔獣が紛れ込んでるらしいんだ。
——魔獣? でもあれって西洋の異形だし、そんな目立つのだったらすぐ気づきそうだけど……。
——いや、そうなんだが……。情報の魔獣は小型のタイプだそうだ。それに、最近は国際化やら何やらで外国の異形問題も多発してるしな。今回のは、犬みたいな形だそうだ。見つけにくいとは思うが魔獣の特徴は真っ赤な肌の色。小型は特にな。見つけ次第捕獲あるいは退治してくれ。一般人に被害が出たら元も子もないしな。
——了解〜。
昨日の会話を思い出して思わず顔を真っ青にする成葉。
確かに普通の犬の肌は赤くない。強いて言うならそれは血塗れの犬だ。だがこの犬は怪我なんてしてないし、むしろ元気に感じた。
その犬(仮)は「ぺうっ」と吠えた。
「この犬……。エヴァンスって言うんですけど、よく食べるんです。だから頼りがいのある助っ人になりますよ」
「へ、へぇ。そ、そう……」
成葉は自分のよさすぎる直感をこれほどいやと思ったことはない。
犬は赤くないし「ぺうっ」なんて吠えない。この犬——いや、エヴァンスは魔獣だ。
魔獣は、いくら小型犬といえど、凶暴化したら一般人には手に負えないし、最低でも3メートルぐらいは大きくなる。
(まずは豆腐云々より、エヴァンスを引きはがさないと……)
「うわっ。止めてよエヴァンス! まだご飯はできないよ!」
「ぺうっ!」
成葉が何だかんだ考えている間に、瑛太とエヴァンスは程度の低いホーム映画のような信頼関係を築いていた。
その様子に思わず、成葉は、
(引きはがしにくい〜っ!!)