複雑・ファジー小説

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最強の救急隊 
日時: 2019/05/06 20:06
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=327.jpg

初めましてな方もお久しぶりな方もどうぞよろしくお願いします。
気紛れ更新なため、いつ終わりいつ始まるのかわかりませんがよかったら見て行って下さい。



URLに銀竹さんが描いてくれた主人公います。
とてもありがたいです。クオリティは言うまでもないです。





お知らせ>>17


設定・人物>>1
壱話 第7班>>2
弐話 魅惑の菓子類>>5
参話 後輩やって来た>>6
肆話 生意気抜かすな小僧>>7
伍話 神原燠>>8>>11-12>>15-16>>18-20
陸話 花緒イリュージョン>>21-30
質話 昔々ある所にアポなしでやって来た鬼がおりました>>31
【ラストフローズン篇 氷牙の先導者】
捌話 高いものほど碌なことはない>>32
玖話 事件は現場で起こってるんだ!!>>33-34
拾話 さらに北へ>>35-36
拾壱話  ちょっとお前こっち来いよ>>37-38
拾弐話 人見知り会議>>39-40
拾参話 後ろの正面だあれ>>41
拾肆話 ぐちゃぐちゃうるせえ>>42
拾伍話 編集者は眠らない>>43






Twitter始めました。名前は違いますがお気にせずに。
@Taruto39Purin

Re: 最強の救急隊  ( No.31 )
日時: 2019/02/21 21:11
名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)

「目標?」
「ああ。まだ聞いてないと思ってな」

 この日は珍しく雨が降っている。
 耳を澄まさなくてもザァザァと大きな音が聞こえた。
 丁度非番である成葉と燠は映画観賞会と言う体で、彼女の部屋に集まっていた。
 1本映画を見終わった瞬間、ふと燠はそんなことを口にしたのだ——まさかそんなことを言われるとは思っていなかった成葉は一瞬、口をあんぐり開けた。

「青森の方は県の発展。京都の方なら危険の異形の一斉排除とかな。……まぁ、無いならいいけど」
「あるよ」

 短く、成葉はそう言った。
 何だか空気が乾燥した気がした。
これは、以前にも感じたことがある。
これは、初めて成葉を怒らせた日と少し似ている。
 少し燠は成葉の顔を伺うが、当の本人はいつも通りの表情で映画のDVDをデスクから選んでいる最中であった。
 どうやら、怒ってはいないようだった。

「その、聞いても……いいのか?」
「自分から言っといて何だよ燠君! いいに決まってるじゃん、わたしたち、仲間なんだしさ」

 話しながらDVDをハードディスクに入れる。
 DVDはウイーン、と音を立てながら姿を消していく。どうやら、行動と言動的に深刻な話では無さそうだった。
 前に出ていた成葉は自室のクッションの上と言う定位置に戻ると、目の前にあったポッキーを1本取り出した。

「最終目的は繋の体を元通りにしてあげること」
「……!」

 前言撤回。
 結構重たい話だ。しかも、それ関係は燠自身が成葉を怒らせたキーワードだ。
 少し肩を竦ませると、成葉はその様子を察したのか燠の口にポッキーを10本ぐらい思い切り突っ込んだ。

「シリアスになるななるな! 繋が許したんならその話はもう終わってんの。そうじゃなくてさ。繋、ずっと病気だったわけじゃない。4年前はすごく強かった。燠君も見たと思うけど人に顕現するのが珍しいって言われてる水の特力使いで、雪ちゃんとも互角かそれ以上だった」
(……慶司より実力が上……!?)

 ザワッと鳥肌が立った。
 強くて、人望もあって、珍しい特力なんて完璧超人じゃないか。
 続けて成葉は言う。

「雪ちゃんが隊長に就任する直前まで繋が隊長だって噂されてたぐらいヤバかった。……色々。でも4年前、浅草史上歴史に残るぐらいの事件が起きた」
「事件?」
「……新聞だと、『浅草壊滅炎上』って見出しだった。わたしたちがパトロールしてるとき、少し本拠地から離れたところを狙われて、襲われた。今も誰が首謀者で何が目的かもわからないけど、火を放たれたり、手あたり次第の人を襲ったり、珍しい異形を攫おうとしてた。思い出しただけでもゲロが出そうだ!!」
「吐くな絶対」

 当時の怒りが再燃したらしい成葉は吐き捨てるように言い放った。
 ポリポリとポッキーを齧ると再び話し出す。

「まぁ、全力の雪ちゃんと繋が実行犯半殺しにしたお陰で浅草の人が死ぬことも、住んでる異形も攫われることが無かったんだけどさ。救助と現行犯逮捕は苦戦したけど順調に終わった——って思ってた」
「何だよ、現行犯は逮捕したんだろ?」
「それがさ。消火活動してるわたしたちの前に、鬼が来たんだよね」
「え……」

 思わず、絶句した。
 大半を外国で育った燠でも知っている日本の鬼。
 外国ではデーモンとも呼ぶが。
 基本的に鬼は凶暴で獰猛で、食欲旺盛で特に人間を好んで食らうという。強い力を持つ鬼ほど知能が高く、話せる。理性があって、人間に友好的な鬼は極々稀だと聞いている。
 鬼は、人間の何倍ものの力を持っていて、特力を扱える者もいる。
 初めて鬼の存在を知ったときは心底会いたくない、と思っていたのを覚えている。

「鬼がいた場所は避難所の目の前。みんな忙しくてバラバラに動いてたし——その時には数名の隊員と繋しかいなかった。わたしと雪ちゃんは救助と消火に気を取られて繋の方に行けなかった」
「でも、それは」

 お前の、お前たちの所為じゃない。
 そう言おうとして、燠は飲み込んだ。自分にはきっと、いう資格などない。そう思った。

「見てた隊員によればその鬼も上位の鬼だったみたいだけど繋には敵わなかった。瀕死の鬼に繋が止めを刺そうとしたら、その鬼、何したと思う?」

 成葉は当時のことを思い出し、嘲るように嗤う。

「……呪いをかけやがってさ。繋にじゃない。避難してる最中の住民に。どんだけ往生際が悪いんだかって思ったよ。命を懸けた最後の呪いってのは質が悪い、簡単に命を奪う。でも、繋がそれを代わりに、住民が掛けられるはずだった呪いを庇っちまった。……わたしが来たのは消火が終わった次の日の朝。先に、雪ちゃんが来てた。その日が、初めて雪ちゃんが取り乱した日」
「そ、の鬼は、死んだんだよな?」
「もち! ……呪いをかけた瞬間、死んだよ。悔しいけど満足そうに。急いで繋を最先端の病院に連れて行っても1ヶ月、繋は目を覚まさなかった。浅草(まち)を救った代償に繋は健康な体と特力の大半を失った。それに、捕まえてた現行犯もみんな自害したから結局真面な情報は手に入らず仕舞。浅草の修復にだけ全てをかける状態になったよ」
「…………」

 壮絶だった。
 いつも、成葉たちは馬鹿みたいに喧嘩して、事件に巻き込まれて。
 町民たちとも異形たちとも仲が良くて。明るく笑って物を壊して。
 辛いことなどないと思っていた。悲しいこともないと思っていた。

「繋の体は妖精や今の医療じゃ絶対に治らない。だから、絶対近いうちに繋の体を元通りに治す。どんな手を使っても。それが第7隊の総意」

 強い眼差しで成葉は言う。
 そんな彼女に思わず燠は面食らってしまった。
 正直、この話を振ったのを後悔するほど。

「ま、大体そんなもん。次の映画見ようぜ! 次はルーシーとパイのみ工場見たい」
「……ああ」

 成葉は大したこと無さそうにケロッと言い放つ。
 先程の重苦しい空気が嘘のようにいつも通りに戻る。でも、それはきっと燠がいるからだ。
 燠自身、救護室で点滴を受けている繋は何回か見てきた。
 もし、その場にあの3人がいたら自分はどうするのだろう。どうしたらいいのだろう。
 それはきっと燠自身には関係ないし、白羽の矢が立つこともないだろうが、つい思ってしまう。

(オレも、隠してる)

 きっと成葉を始めとした3人は全てを言うことはないのだろう。
 それは、彼自身もだった。そんな思いを振り払うかのように、燠はコップに注いであったカルピスを一気飲みした。

Re: 最強の救急隊  ( No.32 )
日時: 2019/03/01 19:07
名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)

——プルルルルル、プルルルルルル。

 平日の、少し早い朝。
 花緒の領土(テリトリー)である事務室に1本の電話が鳴り響く。
 電話の目の前にいた花緒は素早く電話の受話器を取る。
 事務員たるもの、電話は3コール以内に出る。それが基本だと彼女は日々自分に言い聞かせている。

「はい。こちら特殊救急隊第7隊。どうなされましたか?」

 眠たい平日の朝でも、一流の事務員は笑顔ではきはきと。
 それがたとえ誰も見ていなくても。花緒のポリシーである。
 左手に受話器、そして右手にメモを取るためのペンを持っている。
 依頼、苦情、配達その他諸々、花緒は何時も困難を乗り越えてきた。それはこれからも変わらない——いつものように、用件を聞こうとする。
 しかし、相手から飛び出してきた言葉は思いにもよらないものだった。

『おっはよー! その声花緒っしょ。やっぱ事務(そっち)にTEL(テル)してよかったわ〜。朝っぱらからマジメンゴ! でも急な事件発生系だから応援欲しくて行動に移したってわけ』
(……朝っぱらからこの空気の読めないギャル口調きついですね……)

 思わず受話器を握りつぶしたくなるほどの場違い感万歳だったが、花緒は一流の事務員なのだ。此処はグッと堪える。

「そうでしたか。でも珍しいですね。みぞれちゃんの所は人数不足でしたけど今まで応援呼ぼうだなんて一度も言ったこと無かったですのに。そんなに切羽詰まってるんですか?」
『それなんだけど超都会人冷たすぎない!? 今回頼みたいのは雪ピー兄妹に雪を溶かして……ざっくり言うと雪掻きなんだけどさー。ほら、今年の雪ヤバかったじゃん? こっちは隊の人数少ない上に青森全域の氷雪を管理しなきゃいけない感じだけど流石に手が回らないわけ。だからいっそのこともう溶かしてもらおうと閃いた次第、昨日神奈川と京都の方にTELしたら1秒で断られたし! お願い、花緒! 雪ピ—兄妹1週間だけ貸して!』
「許可するのは私じゃないんですけどねぇ……」

 そうしたものか、そう心で呟くと花緒は肩をすくめた。
 雪ピ—兄妹、つまり雪丸と成葉はこの7隊の主軸だ。
 隊長と第一補佐官が1週間も浅草を離れる事態はあまり好ましいことではない。
 かといって、電話の彼女の言うことも無視できない。
 確かに今年の青森の雪はすごかった。というか、年々降雪量が増えてきているといっても過言ではない。
 青森の地域——酢ヶ湯は毎年雪が2メートルを超える。それにそれだけではない。
 文字通り氷雪で人が死ぬのだ。

「……ニュースでしか知識がありませんが——車がスリップして事故ったり雪崩や屋根の雪で人が亡くなったり……冬は戦場ですよねそっち」
『マジやばたんピーナッツなんだって! お願い、新幹線&バス往復分とホテル宿泊のお金とかそういうの全部こっちで受け持つから。一生のお願い!』
「ごめんなさいみぞれちゃん。私ならともかく行くのは慶司さんたちだから今から聞いてみますね」
『……依頼として依頼金たんまり積むから!!』
「わかりました。今すぐに青森(そちら)へ向かわせますね!!」

——花緒は一流の事務員。
 お金の匂う話題には誰よりも先に食いつく。

Re: 最強の救急隊  ( No.33 )
日時: 2019/03/19 19:14
名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)

「うひー。さむさむ。東京って何年か前は雪なんて積もらなかったのに」

 はー、と成葉は両手を擦りながら息を吐いた。
 現在は2月。沖縄以外の日本列島は寒さの絶頂期だ。あまり雪に見舞われない東京も今年は少し違っていた。
 何ミリかは積もっていた。

「お、ああああああああああああああああああああああああっ!!」

 その直後、鬼の様な形相で花緒がこっちへ走ってくる。
 即座に成葉は嫌な予感がした——というかあの様子の花緒はいい予感があったためしがない。
 彼女が取るか行動は1つ。

「来るなっ!!」
「ええい、だまらっしゃい!!」

 逃げる。
 それしかない。
 しかし今回は分が悪すぎた。寝起きの成葉と先程のお金の話でテンションが高くなっている花緒。
 特に俊敏さとコーナー勝負の数値が格段に上だ。屯所の曲がり角でついに捕まった成葉は暴れながら叫ぶ。

「畜生! 一思いに殺しやがれ——っ!」
「ふふふ。殺しなんてしません。むしろ成葉ちゃん『達』は仕事しながら旅行できるんです。そして私はお金が手に入る。ウィンウィンではありませんか」
「……わたし、達?」

 きょとんと眼を丸くする成葉に花緒が慈愛に満ちた笑みを浮かべる。



01
「何簡単に捕まってんだクソガキ」
「ちょっと何言ってるかわかんないですね。というか一番先に捕まったの雪ちゃんだって聞いたけど!?」

 東京駅に着いた雪丸兄妹と燠。
 3人はスーツケースとリュックを花緒に背負わされると東京駅に投げ込まれて放置されていた。
 花緒の奸計に嵌められた2人はお互いを睨み合う。
 そんな兄妹など露知らず、燠はワクワクとした面持ちでパンフレットを広げていた。

「なあ、ナル。ユキ。アオモリってどういうところなんだ? 地図上からして北のようだが……。まさかこんな極寒の土地にも特殊救急隊があるなんて知らなかったよ。お土産いいのがあるといいよな。ん、ネブタ? 行きたいな……、何だ、夏にしかないのか。残念だ」

 まるでカブトムシを見つけた少年の様に瞳をキラキラさせる燠に2人は喧嘩する気が亡くなってしまった。
 何時ものクールさが少し薄れている気がしたが最早どうでもよくなっていた。

「……燠君の夢を壊すのは止めよ……」
「……わかってる」

 心底自らが愚かだと悟った瞬間でもあった。
 非常にもアナウンスは「4時50分発、新青森駅行き」の声が流れた。
 そこから3人は何の会話を交わすことなく新幹線に乗り込んだ。


02
「すごいすごいすごーい!! あとちょっとで青森だって」

 凄まじい速度で流れていく景色を見て成葉は興奮したように窓に張り付く。
 弁当を食べながら燠は雪丸の顔を見る。

氷室ひむろみぞれ?」
「ああ。青森の隊長だ。見た目は……アレだが腕は立つ。なんせ雪女と神とやらのハーフだからな」
「……オレ以外にも混ざりものがいたんだな」
「数は少ないけどいるっちゃいるよ」

 座りなおした成葉は新幹線内の勾配のお姉さんがから買ったポッキーを食べ始める。

「でも、きっとオレとは格が違うさ。半分でも神様ってのはそういう意味だと思うぜ」
「そうなの?」
「ああ。特力の権限はほとんど無視できるしな。特力使える人間は自分からでしか『何か』を発生できないから、それが尽きたらしばらくは使えない。けど神様は世界の降臨者だ。例えば火が尽きたら焚火やチャッカマンの火で十分補填できる」

 燠の言葉に雪丸は怪訝な顔をした。

「そんなの誰にだってできんだろ」
「お前は異常だ! 普通の奴は限度があるんだよ。本当に常識が通用しないところだと毎日身をもって実感してるよ。……そういえば白雪みぞれは何の神様なんだ?」
「それは——……」

 成葉がそう言いかけた瞬間。
 新幹線から甲高い音が聞こえた。それは、3人がいる場所だけではない。
 新幹線全車両からだ。
 さっきの音は止まるためのブレーキ音だろうか。ただ事では無さそうな非常事態に周りの乗客はザワザワと騒ぎ始めていた。

Re: 最強の救急隊  ( No.34 )
日時: 2019/03/11 20:27
名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)

『皆さま、非常事態が発生したため緊急停止させていただきました。只今調査中ですのでご理解のほどお願いいたします』

 機械的なアナウンスではない、人間の声だ。
 上を見ながら成葉は窓から外を覗き込む。

「電車ならともかく……、新幹線でこういうことって初めて体験したかも」

 のんびりとした面持ちだったが、次の瞬間張り詰めた表情になり、怒鳴るように叫んだ。

「みんな伏せて!!」

 次の瞬間だった。
 窓が勢いよく割れていく。反射的に乗客たちは頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
 窓が割れたのは一つや二つではない。ほぼ全車両からであった。
 しかも、ただ割れただけでなく——のそのそと不気味な動きで不審者が窓から侵入(はいって)来たのだ。
 その不審者は——どこからどう見ても人間とは思えないほどの黒い体を持ち、小さな三つ槍を所持している。
 まるで、その姿は悪魔のようであった。

「——っ!」

 轟、と勢いよく音を立てて雪丸は悪魔を燃やしていく。
 悲鳴を上げながら何事もなく消えていったが、如何せん、数が多い。
 最低でも50はいるだろう。

「何でこんなところに悪魔がいる!? この様子と大きさからして低級中の低級だが一般人にとっては害だ! くそ、この中に魔女でもいるってのか?」
「詮索は後だ! 悪魔(こいつら)を排除しつつ乗客を避難させないと命に係わる!」

 動揺しながらも風で撃退する燠に成葉はそう言い放った。
 かと言って無謀に動けばこっちが不利になる。
 幾ら低級の悪魔とはいえ、「人間を弄ぶ」という一点についてはプロフェッショナルだ。
 下手に刺激すれば人質を取って地味に嫌な呪いをかけられかねない。

「わたしが術者を探す! 魔女だか魔王だか悪魔を使役している間は一歩でも動けないはずだから座りっぱなしの奴を片っ端からぶっつぶす。雪ちゃんと燠君は何とか! して頂戴!」
「適当が過ぎる!」
「しくじんなよ!」

 成葉は2人の返答を待たずに他の車両へ走り出す。
 後方からヤジが飛んだ気がするが形振り構ってはいられない。
 どんなにレベルの高い悪魔の使役者でも、悪魔が動いている間は動くことができない。
 普通の人間だったら怯えて縮こまっているはずだ。だから、冷静さを保って据わっている奴を片っ端からとっつかまえる。
 
「どこだ……っ?」





03
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「うるせぇ、とっとと朽ちろ」

 甲高い叫びをあげ、悪魔の5体は火柱とともに燃え尽きた。
 燠はその様子を見ながら改めて遠い目をしていた。

(……ケイジ(こいつ)、強すぎだろ)
「ギィィィィィ!!」

 悪魔は紛いなりにも3人がかりで雪丸に襲い掛かろうとするが遊ばれているかの如く避けられ、燃やされる。
 その一連の動作を雪丸は行っていた。
 勿論燠も悪魔を退治しつつ、乗客を避難させていたが、退治数は雪丸の方が断然多い。
……というか悪魔が雪丸の方へ集まっている。
 低級でも「こいつはやばい」というのがわかっていて、「早く潰そう」と思っているのだろう。

「……オレから言わせると自分で死にに行ってるようにしか見えん」
「あ? 何か言ったか。おい、んなことより何かおかしくねえか」
「もうすでにおかしい状況だけどな」

 怪しむ様に目を細めた雪丸に雑な返答を返す燠。
 自身の風で悪魔一帯を吹き飛ばした。
 いくら人間ではないとはいえ、所詮は低級悪魔。特力や身体をとことん鍛えた雪丸達には為す術もなく、着々と数が減ってきていた。
 すると、燠の目の前からゆらり、と恐怖で頭を抱えてしゃがみ込むしかなかった一般人が力なく立ち上がった。

「……おい、まだ危険だ。じっとして……」
「燠!! 今直ぐそいつから離れろ!!」

 虚ろな瞳をした一般人に向かって歩み寄ろうとした燠に怒鳴る雪丸。
 しかし、その「一般人」は口角を大きく歪ませた。
 そして人間とは思えない動きで真っ直ぐ突っ走る。

「——くそ、憑りつきか!」

 憑りつき、とは精神的に追い込まれている人間に悪魔が憑りつく名前の通りの行為である。
 憑りつく前より力は制限されるが気配は人間自身のものなのでプロのエクソシストでも判別しにくい。憑りつかれる時間が長い程、人間の肉体は崩壊を迎えていくという危険極まりないものだ。きっと、この混乱に生じて悪魔の何体かが一般人に憑りついてしまったのだろう。
 すぐさま背中を掴もうと燠は必死で手を伸ばす。
 再び、燠の背後から雪丸の叫ぶ声が響き渡る。

「違ぇ!! 右だ!!」
「なっ——……」

 次の瞬間、その言葉通り一般人に憑りついた悪魔はグン、と右に曲がった。
 標的は——年端のいかない少女。悪魔は純粋で清らかな魂を好むとされている。幼い子供は善悪の判別も着きにくい代わりに素直で純粋な場合が多い。
 悪魔は——本能的に「美味しい魂」を欲したのだろう。

「止まれ!!」

 燠は捕えようとするが、今の速さだと少女に近い悪魔の方が圧倒的有利。
 迂闊に風を出せば少女に危害が及ぶ。
 だけど、このままでは確実に少女の魂は食べられてしまう。

「——燠ぃ! 暫く後のことはテメェに任すぞ!!」

 雪丸はそう言うと、一瞬にも満たない時間で燠の横を通り過ぎた。
 そして、少女に伸びていた悪魔の手を弾き飛ばし、燃え盛るような炎を全身に纏わせる。
 新幹線の窓——いや、壁を大きく破壊すると、悪魔ごと外へ2人とも落ちていく。
 投げ込まれた少女を抱きかかえると燠は慌てて壁際に走り寄る。

「ケイジ!!」

 もう、雪丸の姿は見えなくなっていた。
 あたり一面雪、雪、雪。白銀の世界だった。

Re: 最強の救急隊  ( No.35 )
日時: 2019/03/15 20:25
名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)

「お母さん〜〜っ!!」
「茉莉!!」

 先程襲われかけた少女は恐怖の糸がプツリと切れたのか、大泣きしながら母親に抱かれていた。
 燠はすぐさま母親と少女にお礼を言われたが、正直上の空だった。
 答えは明白。雪丸が新幹線から落ちていったからだ。
 一応、周りを確認したが先ほどの混乱が嘘のようにパタリと悪魔が出なくなった。

(……悪魔の追加はない。ナルが術者を倒したんだな)

 ぐったりしたように、燠は開いていた座席に座り込む。
 改めて車内を見渡す。ジュースやら弁当やらであたりはごちゃごちゃ。
 嘘みたいな事件でも夢ではないと再認識させられる。

「燠君! よかった、もう悪魔は出ないみたいだね」
「ナル……」

 はー、と成葉は隣の車両から安心したように出てきた。
 ぐい、と成葉は燠の目の前でロープでぐるぐるに巻かれた妙齢の女性の首根っこを掴みながら突き出した。
 顔面はボコボコ、鼻の穴からは血が出続けている。恐らく彼女が徹底的にぶちのめしたのだろう。

「この人がさっきの事件の首謀者だったみたい。ブツブツ呪文唱えてたからすぐわかった——けど、素人に毛が生えた程度だったから多分誰かに雇われ……日雇いみたいなものだったのかも。……あれ、雪ちゃんは?」

 雪ちゃん。その言葉に思わず燠は息をのんだ。
 どう話せばいいのかわからなかったし——まず、生死を確認できない。
 しかし、立場上役職柄、偉いのは成葉だ。新人且つ見習いの燠は報告するしかなかった。

「……それが……」



04
「そっか、雪ちゃんがそんなこと」
「……悪い。オレが憑りつきに気が付けなかった。いや、さっきだってケイジが憑りつきに気が付いて、子供を助けたんだ。オレは、何もしてない」
「燠君!!」

 しどろもどろになる燠。自分でも何を言ってるのかわからなくなっていた。
 その刹那、成葉は両手で思い切り燠の頬を挟み込んだ。
 パアン、ととてもいい音が響き渡った。というか正直とても痛い。燠自身顔が亡くなったのかと思った。

「慰める気ないから言っておくけど、今回のことは燠君悪くないから。雪ちゃんが考えて行動して勝手に落ちていった。それに雪ちゃんは何大抵の事では死なないし殺せない。どうしても悪いって言うならこんなことした首謀者が悪いに決まってるだろ! ついでに言うとわたしたちはもう目的地にしか行けなくなった。このことはもうみぞれちゃんも気が付いてる。乗客を降ろしたらすぐにむつ市に向かうからね!」
「……でも、オレは……」
「ええい、どうしても気が晴れないなら次に挽回しろ! わたしを楽させて!!」

 迷いのない、彼女の言葉。
 気遣っているわけでもなく、嘘をついているわけでもない。
 ある意味情け容赦ない言葉だったけれど、燠は少しそれがうれしく感じてしまった。

「——わかった。次こそは役に立てるように頑張る」
「あー、うん。それでいい。それでさ……」
「? 何だよ、ナル。気になることでもあんのか?」

 先程までの威風堂々としていた彼女とは打って変わって申し訳なさそうな、青い顔になっていった。

「……むつ市まで案内して下さい」
 


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