複雑・ファジー小説
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- 星ノ魔法使イ
- 日時: 2017/05/06 00:20
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: N2Ja7nM7)
人間が、“魔法民”と“普通民”に分けられるようになった近い未来の話——
× × × × × × × ×
はじめまして、綾原ぬえです。
初投稿作品ですが、どうぞよろしくお願い致します。
更新が遅れることが多くなります。週1掲載を目指します。
2017/05/03 イラスト投稿の「小説イラスト掲示板」に登場するキャラクターたちのイメージを貼りました。良かったら、見てみてください!
目次
序章 (1)>>01 (2・3)>>02-03 (4)>>04 (5)>>05 (6)>>06 (7)>>07 (8)>>08
章間 世界史(1)>>09
1章「幼き星々たちよ」
(1)>>10 (2)>>11 (3・4)>>12-13 (5)>>14-15-16
(6)>>17-18-19 (7)>>20-21 (8)>>22
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.10 )
- 日時: 2016/12/24 23:52
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: V.0hQJQJ)
一章「幼き星々たちよ」
(1)
「ふぁー、よく寝た」
カーテンの隙間から漏れる光が楓の頬に落ちていた。
時を同じくして、頭上では目覚まし時計が鳴り響く。彼女は手を伸ばし、カチっと音を消した。
時計は5時25分を表示していた。
ゆっくりと体を起こすと、一度大きく伸びをして、床に足を付けた。
(っ、冷たい)
春休みの間ずっと畳の上で生活していた楓にとって、久しぶりのフローリングはとても冷たかった。
スリッパを足で探り、それを履くとキッチンへと向かう。学生寮の中でも、Sクラス生の部屋は特別一人部屋で、キッチン、トイレ、風呂が完備なのだ。
楓は、キッチンにおいてあるケトルで湯を沸かすと、インスタントコーヒーを淹れ、大量のミルクと砂糖を混ぜた。トースターでパンを焼くとハムとチーズをのせた。
「うん、上出来」
テーブルにそれらを運ぶと、一人優雅な朝食を始めた。
「今日の予定は……」
椅子に腰を下ろしパンに手をかけながら、無属性初級魔法——浮(うかび)——を使い、手帳を自分に近付ける。ペラ、ペラ、とページを進める。楓の両手はパンと激甘コーヒーに支配されているため、無論ページをめくっているのも魔法だった。
スゥと今日のページで手帳の動きを止めると、その内容をじっくりと眺めた。
(自己紹介と入学式の準備……、実質的な授業はナシっと)
ふぅん、と声を漏らすと、一口パンを食んだ。甘ったるいコーヒーで残りのパンを一気に流し込む。楓の中での“優雅な朝食”はわずか3分ほどで終了した。
楓は寝間着から動きやすいジャージ姿に着替え、カーテンをさっと開いた。ロックを解除して窓を開けると、寮にかけられた防犯魔法に引っかからないように細心の注意を払いながら、
「それじゃ、行きますか」
ベランダの手すりに足をかけ、大きく飛び出した。そのまま、空中に魔法陣をうまく張り、その上を駆ける。楓の“朝の鍛錬”である。
始業のベルが鳴るまで、まだ2時間半ほどの時間があるのだった。
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.11 )
- 日時: 2017/01/02 23:42
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: V.0hQJQJ)
(2)
楓が教室に入ると、すでに湊と知広がいた。
二人は一つの机を挟み、大きめの紙に何やら書き込んでいるようだった。
「おはよう——って、なにそれ?」
どうやら、二人の使っている紙とペンは、魔力に反応して色を出す“魔法筆記具”であった。
タタタタタタッッ!! とペンが紙の上で踊る。
「っ、できた!」
「くぅ、負けたか……」
楓は二人に歩み寄ると、机の上の紙を覗き込んだ。
「ああ、これ? “魔法式陣の変換”ゲームだけど」
勝ったことに対する喜びに満ちた顔で、楓の先ほどの問いに答える知広。
「最近流行ってるらしいんだわ」
頭をかく湊。楓が見たところ紙の上には各一つ、計二つの魔法式陣が描かれていた。
魔法式陣とは、魔法を発動する際に一瞬浮かび上がる魔法陣の基本形を図式化したものである。魔法陣は人によって異なるが、魔法式陣は魔法の属性によっていくつかに分類分けされており、変化しない。
このゲームは、提示された魔法を魔法式陣に変換して、描き出すというゲームらしい
「ふーん、なるほどねー」
知広と湊から、簡単に説明を受けた楓。しかし、
「でも、これ菱形の勝ちね」
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.12 )
- 日時: 2017/01/29 01:01
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: jyyH8tA1)
(3)
「え、うそ! なんで!」
バッと立ち上がり、抗議する知広。
やれやれといった表情で紙の上に手をかざす楓。時間が経過して、薄くなりつつあった魔法式陣に魔力を流して、それの輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。
「まず、菱形は二重式陣なわけで——」
「いや、だってルールじゃ単式陣でいいんだよ!!」
めんどくさいことを、と顔をしかめる湊。こいつが切れて、教室ふっ飛ばしたらどうすんだよ、とでも言いたげな顔だ。
湊が描き込んでいたものは、二重式陣と言われるもので、一般的に使われる魔法式陣が詳しくなって進化した感じのものだ。このゲームのルール上は、単式陣(基本形の魔法式陣をさす言葉)でも、二重式陣でもいいのである。
「それだけじゃなくて、ここ。つづりが違ってるの」
あ、と固まる知広。
「しまったぁぁぁ!」
大声で叫ぶ知広の姿に、教室にいた何人かの生徒たちが振り向く。
視線が自身に集まっていることに気付いた知広は赤面しつつ、悶える。
魔法式陣には、たくさんの文字が描き込まれている。そのうちの文字が一つでも間違っていると、それは成立しない。よって、知広の自動失敗というわけだ。
「う、うううぅ」
呻る知広を無視して自分の席に着いた楓。すると、
「おはようです、楓ちゃん。あれ、知広ちゃん、どうかしたんですか」
「朝からうるさい。廊下まで聞こえてきたんだが。そこの馬鹿の声」
追い打ちをかけるように現れた夢華と日向。
知広は涙目になる。
「ああ、それが——」
仕方なく事情を説明し始める、湊であった。
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.13 )
- 日時: 2017/02/25 00:54
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: fR1r/GEI)
(4)
「それじゃ、ホームルーム始めるぞー」
手に持っていた出席簿を教卓に投げ置くと、逸樹は眠い目をこすりながら、ホームルームを進行していく。
「まず、何をしなくちゃねんねーかっていうと、自己紹介だ。てめーら、クラスメイトの名前くらい、もうわかってると思うが一応決まりだからな」
知広は、ばっと振り向き後ろの席にいる楓に問いかけた。
「クラスメイトの名前、分かる?」
「全く分かんない」
「ですよねー」
二人のそんなやり取りを見てすかさず夢華が、
「何言ってるんですか二人とも! 同じ学年の人くらいは顔と名前を一致させないといけないですよ!」
「いや、さすがにそれで出来るのはお前くらいじゃ?」
「同感」
突っ込みを入れる湊と日向。ぎゃあぎゃあと騒ぐ四人を見、逸樹は大きくため息を吐いた。
(去年のクラスもひどかった。だが、今年はそれを上回りそうだな。目下の問題は大和楓、か)
楓は、三人が話しているあいだ中、ノートや本とにらめっこしていた。会話に入っているものの、それもどこか上の空だ。
(——!! いいこと考えた)
逸樹は、パンパンと手を叩き一同をしずめる。
「まず、俺が今から魔法を発動させる」
「ばれたらやばいんじゃ?」
「ばれねーよ。教師なめんな」
生徒の声にそう答える逸樹。教師であれ、生徒であれ、校舎内で無断に魔法を発動させることは禁止なのだが、逸樹はお構いなしだ。
「で、その魔法に当たった奴から自己紹介な」
えー、という声が漏れるが知ったこっちゃない逸樹。
指をぱちんと鳴らし、魔法を発動させた。
——氷属性初級魔法 氷弾(ひょうだん)——
空中に浮かんだ透明で冷気を帯びた個体が、教室内の空を切っていく。
「まずはお前からだよ!」
その個体が、こつり、という音を立てて床に落ちた。
- Re: 星ノ魔法使イ ( No.14 )
- 日時: 2017/02/27 23:38
- 名前: 綾原 ぬえ (ID: fR1r/GEI)
(5)
「あ、何私から? 全然話聞いてなかったのだけど」
「ちっ、面白くねー。顔面ヒット狙ったはずなのになー」
逸樹が狙った先、それは楓だった。
楓は、逸樹の魔法が自分に向けられていること、そしてそれが自分に当たることを計算したうえで、ノートで叩き落とした。
氷の粒をつまんで席を立つ楓。
「えー、自己紹介しなくちゃダメなのよね? 私の名前は大和楓です。魔法と勉強と運動が得意です。よろしく」
逸樹に向かい氷の粒をぶん投げながら棒読みで自己紹介をする。
「もっとまじめに自己紹介しろ! ったく、こいつを一番にした俺が馬鹿だった。柚木、やっぱお前からで」
「ほえぇぇぇ! そ、そんな突然……。え、あ、その、柚木夢華です。去年は1−Sでした。特異魔法の『多彩な人格(ヴェリアス・マギカ)』っていうコピー能力を使います。よろしくお願いします!!」
パチパチ、と拍手が起きる。
おどおどしているが、しっかりと自己紹介を行った夢華は、恥ずかしそうに席に着いた。
「ほら見ろ、大和。ああいうのを自己紹介っていうんだ。てめーはあほか」
「主にどこらへんがあほなのか、ちょっとよく分かんないですね」
「全部だよ! なーにが『魔法と勉強と運動が得意』だ。アバウトすぎる。自分の持ってる属性くらい言え!」
「はーい、以後気を付けまーす」
「以後はもうねーよ! 今すぐ、自己紹介やり直せ」
「了解でーす」
不真面目な態度をとり続ける楓にあきれ返る逸樹。無駄美人というのはこういうことを言うのかもしれないと身をもって知る。