複雑・ファジー小説
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- 濡れ衣のテロワーニュ
- 日時: 2017/03/26 18:54
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!毎度お馴染みマルキ・ド・サドです。
今回は『ジャンヌ・ダルクの晩餐』からおよそ100年前のストーリーを書きたいと思います。
今度は人間社会を舞台にした復讐ではなく知られざる裏社会を舞台にした戦いという内容になります。
新たな小説を投稿する日をずっと待ちわびていました。
その時が来た今日をとても嬉しく思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
分かっていると思いますが悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
この文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
ちょっとした豆知識も含まれています。
それでは始まります・・・・・・がその前にストーリーと登場人物の紹介から。
ストーリー
フランス南部のエグリーズ(教会)支部長『リディアーヌ・フランソワーズ・ド・ボーマルシェ』。
彼女が引き起こした「バヴィエールの支配」から4年、大規模なクーデターは1人の指導者と12人の聖騎士により鎮圧された。
1909年のジャンヌ・ダルクが列福された日の事だった。
さらに月日は流れ1911年のフランス。主要都市のパリ。
数年前の反乱によってエグリーズの損害は大きく未だ指揮系統のほとんどは混乱したままだった。
組織の修復のためフランスに再び聖騎士たちが集い教会の復旧時代が幕を開けようとしていた。
一方、表社会では『アガディール事件』の発生によって民衆は頭を悩ませていた。
イギリスの革命家であり聖職者でもある『ジリアン・オールディス』はドイツ政府に対する革命を決意する。
彼女は人々の団結のためにフランス西部に位置する孤島『ニューオルレアン』を訪れていた。
演説の途中、会場は謎の暗殺者達の襲撃を受けジリアンは重傷を負う。
更に不運な事にその場にいた生存者の少女『エリス・ルブランシュ・ド・ペルスュイ』が犯行の濡れ衣を着せられてしまう。
駆け付けた警備隊から逃走し裏路地に追い詰められるが異国の老婆に救われる。
彼女はエグリーズの存在と事件の全貌を打ち明けエリスを組織に引き入れる。
その後エリスは聖騎士となり濡れ衣を晴らしかつての日常を取り戻すため裏世界の戦いに身を投じる。
登場人物
エリス・ルブランシュ・ド・ペルスュイ(エリーネ・ルテルム)
本作の主人公。ニューオルレアンに住む長髪の少女。年齢は18歳。
フランス名を持つが数年前まではベルギーに住んでいた。
両親と共に商店街でパン屋を営んでいたが『ジリアン・オールディス暗殺未遂事件』の濡れ衣を着せられ指名手配犯となる。
逃走中にアガサ・キャンベルに助けられエグリーズに加入、自分を陥れた黒幕に復讐を誓う。
ジリアン・オールディス
イギリス出身の聖職者・革命家。年齢は24歳。
後にフランスに『聖カトリック法』を創る事になる人物。
親仏派でありパリで革命活動を行っていた。『英国のジャンヌ・ダルク』と呼ばれている。
ニューオルレアンで起こった事件で重傷を負うが素早く駆け付けた警備隊によって病院に搬送、落命を免れる。
彼女が襲われた悲惨な出来事でフランス・ドイツ両国の関係は一層悪化した。
アガサ・キャンベル(北条 妙)
冤罪のエリスを救った異国の老婆。年齢は67歳。
その正体はエグリーズに所属する日本の安房(千葉)出身の元女侍。
49年前にアメリカに渡り米軍の将校から英名を授かった。
18歳の若さで南北戦争の北軍に加勢し斬り込み隊長として名を上げる。
1910年に旧友との再会を理由にニューオルレアンを訪れていた。
ジャン=モーリス・アルドゥアン
ニューオルレアンで暗躍する暗殺組織『トロイメライ』に所属する青年。年齢は24歳。
部下と共に演説会場を襲撃、『ジリアン・オールディス暗殺未遂事件』を引き起こした。
実は自身が罪を擦り付けたエリスとは幼馴染みで恋仲の関係であった。
ジャンヌ・ル・メヴェル
両手に謎の刻印を持つ得体の知れない少女。年齢不明。
エグリーズに重要視されている人物でトロイメライからも狙われている。
彼女の行方を追う事がエリスの任務となる。
エドワード・サリヴァン
ニューオルレアンの町に事務所を構える私立探偵。マンチェスター出身。年齢は33歳。
エグリーズに所属しておりエリスに味方する数少ない人間の1人。
ジャンヌの捜索の依頼を受けエリスと共に行動する。
デズモンド・リーバス
エグリーズに所属する脚本家。ホワイトチャペル出身。年齢は48歳。
エグリーズの復旧のためにニューオルレアンに派遣される。
1888年に起こった『切り裂きジャック』事件の容疑者にされた過去を持つ。
『ナイチンゲール裁判』にも関わっており彼女の無実を証明した英雄的人物。
ちなみに『ウォルター・シッカート(1860 - 1942)』とは知人同士。
フェシリアン・ウリエル
生まれつき右腕のない青年。クレルモン=フェラン出身。年齢は20歳。
本人は気づいていないが幼い頃にエグリーズの人間と接触していた。
後の1人目の『エディスの仮面の継承者』。
用語
エグリーズ(教会)
マリア・デ・ラセールが設立した秘密結社。エグリーズはフランス語で教会という意味。
オーバーテクノロジーの技術を用い悪魔と契約したイングランド軍を打ち破った。
百年戦争終結後、先に起きるであろう人間と魔物の戦争に備えるため各国に支部を築いていくことになる。
組織の全権はデ・ラセール家の人間が掌握している。
トロイメライ
ニューオルレアンで暗躍する冷酷な暗殺組織。
戦争犯罪者、熟練の殺し屋、リディアーヌ支持者(反デ・ラセール派)達で構成されている。
彼らの目的や指導者の詳細を知る者はいない。
ニューオルレアン
本作の主な舞台となるフランス西部に位置する孤島。大きさは面積は仏国本土の4分の1くらい。
フランスの属国であるが戦争はほとんど行っておらず数百年間平穏時代が続いた。
12世紀、第三十字軍の戦争では援軍として徴兵されイスラム軍と戦った過去を持つ。
アッコン奪還後、報酬にテンプル騎士の財宝の一部を受け取り国は今まで以上に栄えた。
元は『フレイロ』という独立国であったが百年戦争時代、『ジャンヌ・ダルク』がフレイロ併合を宣言、『ニューオルレアン』となる。
- Re: 濡れ衣のテロワーニュ ( No.12 )
- 日時: 2017/05/12 20:20
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
しばらくして香ばしい香りを合図に夕食の準備が整った。
こっちに来て手を洗いなさいと呼ばれエリーネはベッドから降りる。
疲労がまだ残っていたが調子は随分と良くなった。
身体にも力が入りまともに歩くことが出来た。
夕食は焼き立てのブレッドにローストチキンにサラダとコンソメスープだった。
デザートのイチゴのタルトはエリーネの店で売っている物よりも上質感が溢れていた。
言われた通り手を洗い水を布で拭き取り食堂の席に着いた。
毎日家でやっているのと同じように手を合わせ大地や命の恵みに感謝する。
2人は食前にスープを飲みサラダを食べた。
いつも当たり前に口にしている物なのに何故か久々のご馳走に思えてしまう。
あまりの美味しさにエリーネは涙を流した。
このまま豪華な食事に酔いしれていたかったがそうはいかなかった。
家族は今頃何をしているか?隠れ家の外はどんな状況になっているのだろうか?
これからの心配事が絶えずまただんだんと不安になってきた。
だがエリーネは無理に考えを変え現実逃避をする。
目の前の夕食の味でブルーな気分を紛らわせる。
泣きたくなったが我慢した。
入浴を済ませた後、再びベッドの上の布団に潜り込む。
今度はよく眠れるようにアガサがカモミールティーを淹れてくれた。
蜂蜜を流し込みかき混ぜる。それをエリーネが啜る。
「お休みエリス。」
「お休みなさいアガサさん」
明かりを消しお休みのあいさつを交わし目をつぶる。
悩むのは明日にして深い眠りの中にある夢の世界へ・・・・・・
翌朝、エリスは朝食の調理の音で目が覚めた。
何を切っているのか分からないが包丁をまな板に叩きつける音がする。
料理の腕がいいので相変わらずいい匂いが漂ってきた。
彼女は悪い夢を見た、何かに足を引っ張られ地の底に引きずり込まれた。
海底よりも暗く深く寒い、さらに深く吸い込まれる。
だが誰かが助けてくれた、右手を掴み引っ張り上げてくれたのだ。
それは30代前半の男だった。
布があちこち裂けたボロボロの服を着ていた。
物乞いのような容姿に寂しそうな表情、哀れみの目で少女を見る。
そしてこう言った。
‐お前はかつての人生を歩む事はできない、家族にも会えない‐
縁起の悪い発言を最後に夢が終わる。胸糞悪い幻想に気分を悪くする。
悪夢を見ても無理はないと分かっていてもやはり嫌な夢は好きになれない。
エリスはしばらくじっとして起きたばかりのだるさが楽になるのを待った。
そこへアガサがやって来た。
「あら、早い起床ね。もうすぐ朝食ができるから顔と歯を磨きなさい。」
言われた事を済ませたエリスはまだ眠そうにあくびをしながら席に着いた。
いただきますと軽い挨拶を済ませ注がれたばかりの牛乳を飲み干す。
コップを置くとドレッシングのかかったサラダを口に入れる。
バターが塗られたトーストをかじりよく噛む。
「・・・・・・・・・・・・」
昨日と違い味が分からない。
降り掛かったあの出来事を嫌でも思い出してしまう。
疲労は癒えてもやはりトラウマまでは無くならなかった。
食べ物は喉を通るが外が恐くてここから出るのが嫌だった。
思い浮かべる事と言えば家族の事だけ、彼らが何をしているのか何よりも心配した。
ただでさえ悩んでいたのにそれに追い打ちをかけた事に罪悪感を感じる。
今頃警察署で厳しい取り調べを受け寒い牢獄にいれられてると思うと心が痛む。
「・・・・・・・・・・・・」
エリスはまた目に涙を浮かべる。アガサはそれを見ていた。
「・・・・・・泣く事はないわ、あなたはきっとかつての日常を取り戻せる。」
「でも私は無実の犯罪者です。誰も私を信用してくれないと思います。」
「あなたの無実を知っている人間は私だけじゃないわ、信じて。」
優しい言葉にエリスは本格的に泣き出してしまった。
大粒の涙で顔を濡らしその顔を両手で覆い今の現実に絶望した。
アガサは椅子から立ち上がりそんな彼女を再び優しく抱きしめる。
「泣いちゃだめよ・・・・・・女の子は強くなくちゃ・・・・・・!目の前の苦難と戦うの!」
「だって・・・・・・!もうどうする事もできな・・・・・・!・・・・・・うああああああ!」
「聞いて、たった1つだけあなたやあなたの家族を救う方法がある。」
その言葉が耳に入りエリスは『え?』と声を出す。
涙が止まらないまま興味を抱いたように老婆の服を掴んだ。
不幸な顔をしていたが目は微かな希望を取り戻していた。
続きが聞きたそうに
「それ・・・・・・、どういう事・・・・・・私達は助かるの・・・・・・!?」
「ええ、でも本当にその気があるならこれからあなたは命懸けの戦いに身を投じなければならない。」
「・・・・・・命懸けの・・・・・・戦い・・・・・・?」
「詳しい内容は後で必ず話す、もうすぐ皆が帰って来るから彼らにも話をさせて。」
アガサは何とかエリスを泣き止ませると2人は朝の食事を再開した。
2人は隠れ家を出ることはなく狭い民家のような空間で過ごしていた。
家事や食事の手伝いを協力しながら取り組み時間を潰す。
仕事がなくなった時は好きな話をしたり聞いたりして楽しんだ。
少しばかりだが日本語の勉強をした。
この時間帯だけは嫌な事を忘れていた。
もし出来るものなら永遠にこの瞬間が続けばいいなとさえ思った。
だが哀れな少女は何が待っているか分からない先の事を考えていた。
緊張しながらアガサの仲間の帰りを待つ。
- Re: 濡れ衣のテロワーニュ ( No.13 )
- 日時: 2017/07/17 21:02
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
2人は休憩の合間にお茶を飲み新鮮な梨と葡萄を口にした。エリスは日本で採れた『和梨』と『緑茶』を初めて味わう。甘く瑞々しい果実は気に入ったが苦いお茶は口に合わなかった。
「!?」 「!」
その時、出入り口の扉からノックの音がした。マグカップと食べかけの梨が刺さったフォークを皿の上に置く。エリスは驚き身体を震わせアガサに寄り添う。警官がここまで来たと思ったからだ。だが違った、扉が開く音がして3人の男性が中に入って来た。
「アガサさん、ただいま戻りました!」
先頭の青年が友好的な態度で帰宅の挨拶をした。後方の中年の2人は何も言わず大きなケースを抱えていた。礼儀正しくお辞儀だけして他の部屋へ向かう。どうやら例の部下に間違いはないだろう。
「やっと来たわねトラヴァース、怪我はない?」
「ええ、例の物を持ってきましたよ。」
トラヴァースと呼ばれた青年はフランス語で答える。そして右手に持っていた小さな箱をテーブルに置いた。それが何なのかは言わなかったが箱の装飾からして重要なものに見える。彼はエリスを見ると紳士のように上品なお辞儀をした。
「初めまして、クリフォード・トラヴァース、生まれはロンドンです。よろしく!」
「え、あの・・・・・・”コンニチワ”、私はエリス・ルブランシュ・ド・ペルスュイです。よろしくお願いします。」
エリスも照れくさそうに挨拶をする。恥かしながら彼女はイギリスの挨拶が分からなかった。何度か聞き流していただけだから当然覚えてなどいない。思わずある言葉を口走ってしまった。
「”コンニチワ”?あはは、日本語ですね?アガサさんから教わったんでしょ?」
「ええ、まあ・・・・・・」
「”ユックリシテイッテクダサイネ!カワイイエリスサン。”」
「こら、女の子をからかう男はモテないわよ!?」
アガサがトラヴァースを軽く睨み付け説教した。エリスにとっては何を言われたのか分からなかった。だが、『からかう』と聞いて口説かれたのかと思ったのか顔を赤らめる。
トラヴァースは頭をかきながら愉快そうに笑い部屋を後にした。『全くあの子は・・・・・・』と呆れた様子でアガサは果物を口に放り込む。
「アガサさん、あの人達が・・・・・・?」
「ええそうよ、もうちょっとしたら例の話をしましょう。」
時計を見るともうすぐ12時になる。7時に起きていつの間にか5時間が経過していた。物事に集中するとこんなにも早く感じてしまう。
「いい機会かもしれないわね。食べながら話しましょう。」
アガサは昼食を作るために食堂へ向かった。だがエリスは果物の食べ過ぎで空腹な状態ではなかった。食べたくないから休ベッドで休んでいたかったが失礼だと思ったので後を追う。スープだけを味わう事にした。
昼食はアガサだけではなく2人の中年の男性も調理を手伝った。見かけによらず中々悪くない腕に関心を抱く。メニューはエリスにとっては珍しいパスタだった。あまり食した経験がなかったので期待を膨らませる。
因みにエリスとトラヴァースは子供のようにランチがテーブルに並べられるのを待っていた。
「主よ、大地の恵みに感謝します。」
5人全員が手を合わせパンを分け合いスープを飲む。トラヴァースがエリスにサラダを盛ってくれた。皆で美味しい食事と明るい会話を楽しむ。それはまるで1つの家族のようだった。
「ベルトランだ、マルセイユ出身でたまにニューオルレアンを訪れる。ベルで構わん。」
中年の男の1人が簡単な自己紹介をした。髪がやや長く歳は40代後半ぐらい、背はトラヴァースと同じくらい。無口で堅物な性格で間違った事は許せない生真面目さを感じる。エリスにとってはあまり敵に回したくないタイプだった。
「俺はロレンツィオ、フィレンツェ出身だ。最初に言っとくがかの有名な『メディチ家』とは一切関係ないからな?」
もう1人の男が言った。ベルトランとは違い髪はなく頭皮が光っていて顎鬚が印象的。年齢は50代後半くらいで背はかなり高く逞しい肉体が印象的だった。陽気でジョークが好きそうに見えが絶対に怒らせたくないと思った。
「ちなみに俺は何歳に見える?」
ロレンツィオが聞いた。
「え、えっと・・・・・・気を悪くしたらごめんなさい。・・・・・・59歳ですか?」
「なるほどな、グラッツィエ(ありがとう)。本当の年齢は69歳だ。今年で70になる。」
その発言にエリスは驚きを隠せなかった。とてもじゃないが信じられず半信半疑でしわのない皮膚を眺める。それを見て彼女以外の人間は笑う。
「私はエリス・ルブランシュ・ド・ペルスュイ、旧名はエリーネ・ルテルムです。数年前まではベルギーに住んでました。」
「ベルギーか、俺も行った事がある。美しい都市で酒を飲んだな。」
ベルトランが相変わらずの堅物な表情で思い出を語る。
「へえ、嬢ちゃんはベルギー出身なのか?じゃあ『ナターシャ・クリュータンス』って奴は知ってるか?」
ロレンツィオが質問する。だがエリスはそんな人間の事なんて聞いた事なかった。名を聞いて女性である事は理解したがやはり知らない名前だった。有名人でないのならまず分かるはずもない。何故そんな質問をしたのか不思議に思った。
「いえ、申し訳ないのですが・・・・・・知らないです。知り合いですか?」
「ロレンツィオさん、知ってる訳ないですよ。俺達と同じ『組織』の人間なんですから。」
トラヴァースが少々呆れた様子で口を挟む。
- Re: 濡れ衣のテロワーニュ ( No.14 )
- 日時: 2017/07/17 20:58
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
組織、その言葉を聞いてますます混乱した。そもそもアガサといいこの男性達といい一体何者なのだろうか?謎が多すぎてついていけず頭が痛くなってきた。エリスは自分を助けた事には感謝しているがまだ完全に信用した訳ではなかった。
「あの、あなた達は一体何者なんですか?・・・・・・レジスタンスか何か?」
おそるおそるした質問に男達は黙り込んだ。真剣な表情でエリスを見る。
「そうね、そろそろ私達が何者なのか打ち明ける時ね・・・・・・」
アガサが決心がついたような口調で言う。エリス以外の全員が軽く頷き食器を置いてランチを中断する。重く感じる空気に嫌な予感のオーラが漂い始める。深く詮索してしまった行為はやがて後悔から不安へと変わった。
「いい?よく聞いて。私達はねエリス、『エグリーズ』という組織の人間なの。」
「エグリーズ?それって『教会』って意味ですよね?あなた達は修道士?」
エリスには何が何なのか理解できず聞く事しか出来なかった。ベルトランが詳しく説明する。
「いや、そこら辺にある教会とは全く違う。数百年前に『マリア・デ・ラセール』が設立した『対魔』を生業とした『秘密結社』だ。」
「マリア・デ・ラセール?対魔?秘密結社?意味が分かりません・・・・・・!」
意味が分からない発言の連続、謎が多すぎて混乱は悪化する。不幸な目に遭った自分をバカにしてしているのか?そう腹ただしく思えてきた。それとも彼らは
「もしかして・・・・・・演説会場を襲撃した奴らの仲間ですか・・・・・・!?」
その解釈に対してロレンツィオは大笑いし手を叩いた。おかげで部屋にいる皆の気が緩み少しは和やかな空気になった。
「はっはっは!俺達があんな奴らと一緒にされたんじゃ終わりだな!」
「笑ってる場合じゃありませんよロレンツィオさん、えっと詳しく説明するとですね・・・・・・」
エグリーズのメンバーだと名乗った1人の老婆と3人の男は4人がかりで改めて詳細を語り始めた。
『教会』という名の組織は百年戦争時代に『マリア・デ・ラセール』が設立した秘密結社。マリアはフランスの英雄『ジャンヌ・ダルク』の継承者であり『第二の乙女』と呼ばれた。彼女は悪魔と契約したイングランドに対抗するためフランスの騎士達を集め組織を拡大した。その後、『ノートルダム大聖堂』の地下からこの世の物ではない遺物を発見する。
その得体の知れない遺物には数々のデータが記録されておりそれを元に様々な物を造り出した。これによりエグリーズは数世紀先の技術を手に入れ組織はこれ以上のない強大な力を得る事になる。当時の時代ではあり得ない兵器や道具、神がかり的な医学や科学など。
『イザボー・ド・バヴィエール』の処刑、大悪魔『マーセラ』の戦死、力の差は圧倒的だった。イングランド連合が敗戦し百年戦争はフランスの勝利で幕を閉じた。ルイ11世が新たな王となる。ヴァロワ朝によるフランスの統一後、マリアは更なる勢力拡大のため各ヨーロッパ、エルサレムを陰で併合した。こうして聖騎士達は世界各国に渡り支部を築く旅に出る。
ルネサンス時代のイタリア、明滅亡後の中国、ロマノフ朝の成立後のロシア、西部開拓時代のアメリカ。ブラガンサ王朝時代のポルトガル、西山朝時代のベトナムなど。戦国時代の日本にも『ジョルジュ・デルランジェ』率いる派遣部隊が訪れたが全滅したらしい。小さな列島に『妖怪』と呼ばれる魔物が多く潜んでいたという。
エグリーズの設立からちょうど100年後の1533年、神の遺物が初めて発見される。組織の人間達は『聖品』と呼び教会にただならぬ脅威が立ちはだかった時にそれを利用した。聖品は次々と発見されその多くはエルサレムの地下聖堂に厳重に保管されている。
だが1905年2月4日に事件が起こる。20世紀の初頭にフランス南部のエグリーズ支部長を務めていた19歳の少女がクーデターを起こす。名は『リディアーヌ・フランソワーズ・ド・ボーマルシェ』、組織の全権を握る『デ・ラセール家』の右腕だった。彼女を支持していた大勢の配下と共にフランス本部を襲撃、聖品の保管庫の1つであるベトナムを支配下に置いた。
デ・ラセール家は散り散りになり多くの聖騎士が命を落とした。1909年にリディアーヌは暗殺され大規模な反乱は鎮圧された。しかしエグリーズの損害は予想以上に大きく未だ指揮系統のほとんどは混乱したままだった。教会の復旧時代が始まり2年が経った今でも深い傷跡は残ったままだという。
- Re: 濡れ衣のテロワーニュ ( No.15 )
- 日時: 2017/07/17 20:54
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「まさかそんなものが存在していたなんて・・・・・・」
エリスは驚きを隠せない口調で言った。混乱は知らなかったが話についていけない様子だった。だが今の説明で大体の事は理解した。
「アガサの婆さんは旧友に会いにこの国に来たが俺やトラヴァース、ロレンツィオの旦那は復旧のために来たんだ。」
ベルトランはこんなにお喋りしたのは久しぶりだとコップに入ったオレンジジュースを飲み一息ついた。
「じゃあ、ジリアンを襲撃したあいつらは何者なんですか?知ってるような口ぶりでしたが?」
その質問に対してはトラヴァースが返答した。
「奴らは『リディアーヌ支持者』、つまり数年前にクーデターを起こした反逆者の残党です。今は『トロイメライ』と名乗りこの付近で暗躍してます。」
「奴らの目的は何ですか?私に罪を着せてどうするつもりだったんでしょう?」
今度はロレンツィオが
「筋肉バカの俺が推理するのもなんだが、奴らの狙いは嬢ちゃんでもジリアンでもない。もっと大きな計画のために利用したんだと思うぜ?多分な・・・・・・」
次はアガサが言った。
「あなたが濡れ衣の標的にされたのは偶然だと思うわ、私は脅すのは好きじゃないけどあの場で殺されていても可笑しくはなかった。」
そう聞いてエリスは恐くなったのか下を向いて身体を震わせた。彼女は話を続ける。
「でも、ジリアンが襲われたのは偶然じゃないわ。何故なら彼女もエグリーズと関わっていたからよ。」
「え!?」
エリスは飽きそうにない驚愕の反応を示す。トラヴァースも横から口を挟む。
「ええ、正式なメンバーではありませんでしたが彼女の存在はリディアーヌ支持者にとっては十分邪魔な存在でした。」
「ああ、国民全てを魅了する彼女のカリスマ性は敵国に大きな打撃を与える・・・・・・言わば歩く権力だ。」
あの革命家が狙われたのはエリスが思っているより遥かに致命的になったらしい。大きな痛手を負ったようにベルトランが頭を抱え現状に悩んだ。
「あなた達と組織については大体分かりました。・・・・・・それでこれからどうします?」
その質問にアガサは真剣な表情で
「あなたもこの組織の一員となるのよ。」
エリスは『はあ!?』と突然の発言に否定的な反応をする。当然の事、それはつまりいつ落命しても不思議ではない世界に足を踏み入れるという意味だ。苦痛を味わい死ぬまで戦場暮らしの人生なんて承諾できるわけなかった。そもそも彼らのような兵士ならともかく他国から移住しただけのパン屋に戦いなんか無理だとそうエリスは訴えた。
だがまわりの目は非情だった。
「幸福な日常を奪われ苦しんでいるお前の気持ちは痛いほど分かる。・・・・・・だが、いつまでもただ飯食わしてお世話していられるほど今の俺達には余裕がないんだ。」
「数年前の反乱で被害を被ったのはヨーロッパだけじゃない、アメリカ大陸もアジア諸国も中東もほとんどが混乱しています。組織そのものが完全壊滅しても可笑しくない程の大事件だったんです。」
「何しろ本部の中枢で起きた大規模な反乱だったからな。デ・ラセール家の家系が途絶えなかったのが奇跡だった。」
男3人も分かってほしいつもりで深刻な状況を説明する。
「言ったはずよ、家族やかつての日々を取り戻したいなら命懸けの戦いに身を投じなければならないと・・・・・・」
「・・・・・・っ!」
それでも納得出来なかった。あんな罪のない多くの民間人をためらいなく殺した連中と自分は戦えるのか?それ以前に暴力そのものを無縁に生きて来た故に恐怖の底が尽きない。例えこれがチャンスでもエリスには答えられなかった。
「今は1人でも兵員が必要なんだ。エリスさんなら多分俺より上手く戦えますよ。」
「・・・・・・でも、私は皆さんのように強くないし・・・・・・どうやったらあんな風に戦えるか・・・・・・」
自信のないエリスにベルトランは言った。
「はっ、俺達を誰だと思っているんだ?次世代技術を扱うエグリーズのメンバーだぞ、そこは任せておけ。」
それが何を意味しているのか謎だったが何か秘策があるかのような口ぶりだった。アガサも裏切りを感じさせない笑みを浮かべエリスを見つめている。確かにいくら絶望の淵にいてもほとぼりが冷めるまで迷惑をかけるわけにはいかないのは事実だろう。言葉には出さなかったがエリス自身にも全く戦意がないわけではなかった。心の奥のどこかで微かだがリディアーヌ支持者への復讐心が芽生えていたのだ。
「あなたは1人じゃない。いつでも私達がそばにいるわ。」
「誰もエリスさん1人で戦えなんて言いませんよ。こっちには何万という味方だっているんですから!」
「・・・・・・・・・・・・」
彼女は黙したまま考えた。覚悟と決断、否定と断念の葛藤が頭の中で渦巻いていた。すぐに決めれるはずもない運命の別れ道に迷いに迷う。
今言える決断は
「・・・・・・考えさせてください・・・・・・」
だけだった。
「ガハハハッ!そうだな、まずは飯を食おう!スープが冷めちまう!」
ロレンツィオが相変わらず愉快に笑う。
- Re: 濡れ衣のテロワーニュ ( No.16 )
- 日時: 2017/07/17 20:49
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
色々とあった昼食を終え食器を片付ける。エリスはトラヴァース同様皿洗いを任された。どちらも選ぶ余裕がない葛藤の選択肢に頭を悩ませながら泡の中の手を動かす。感覚がなくなるほど指先が震え力を入れている事すら分からなかった。
期待する価値はあった、だがそれ以上に恐かった。表世界の文明を遥かに上回る殺傷兵器、そして人の命の線を小枝同然に折り曲げる冷酷さ・・・・・・何よりその中にいた恋人の冷たい姿がどうしても忘れなれない。人生を壊された以上に信じられずまだ悪夢の中にいるのだと未だに現実と向き合えずにいた。
言いたい事や聞きたい事は一生分あった。この世界についていけないまま本格的な頭痛が始まった。泣き出そうとしたが涙は最早目の中になかった。
もしこの惨劇がなければ今頃もパンだらけの部屋で母の手伝いをしていたのだろう。何事もなく同じような1日が終わり食卓を囲み入浴して寝る。変哲のないただの普通の人生が失ってようやく何もない毎日の幸福が分かった。しかし、それはもう存在しない。
その日も外に出る事はなく屋内で過ごしていた。ベルトランもロレンツィオもまだ仕事が残っているらしく構ってはくれなかった。結局はまたトラヴァースと関わり色々な話をした。年もあまり変わらないからなのか意外と気が合いお陰で退屈は時間はまだ先の日になりそうだった。
「だから故郷のイギリスではこういうのがあって・・・・・・どうしました?」
急に気を落としたエリスにトラヴァースは少し焦りの素振りを見せる。何度見ても慣れない悲しそうな少女の瞳を目にして
「・・・・・・ごめんなさい、不快になるような事でも言ってしまいましたか?」
「いえ・・・・・・、とても楽しいお話でした。・・・・・・ただ、ちょっと恐くて・・・・・・」
どんなに気を紛らわしてもこれからの不安が頭から離れず害した気が晴れずにいた。徴兵制度のような人生が幕を開けるのだと思うと落ち着いてはいられないのだ。虫すら殺せない彼女には荷が重すぎる。
「恐ろしいのは当たり前、それはあなたが優しくて幸せな人間だから・・・・・・恐くない戦いなんて酒場のギャンブルぐらいなもんです。」
下手な例えですがと彼は彼なりに精一杯の励ましを送る。テーブルにあった残り僅かのオレンジジュースをエリスのコップに空になるまで注ぎ入れた。可愛そうだと思いながらこれ以上は気の利いた言葉は浮かばなかった。
「あの・・・・・・トラヴァースさんも悪魔やああいう組織と戦っているんですか?」
青年はすぐには喋らずまず1度頷き
「ええ、11の時にエグリーズに加わり7年後に派遣部隊としてカナダに出兵し悪魔と戦いました。クーデターが起きた数年前にはロンドンに戻りベルトランさんと出会い今に至る訳です。」
「どうしてエグリーズに加わったんですか?」
誰もが気になるその質問に対してはさっきよりも真剣な眼差しで
「それは俺にとって最も重要な質問ですね・・・・・・、この事は心を許した人にしか話さないんですが・・・・・・」
「ご、ごめんなさい無理して話さなくて結構です!人の過去に興味を持つなんてどうかしてました・・・・・・」
今度はエリスが焦りながらの謝罪をする。
「いえ、気にしないで下さい。あなたに打ち明けるととても楽になると思うので・・・・・・」
トラヴァースは語り始める。
「エグリーズ加入のきっかけは今から12年前、つまり俺達が幼子だった頃まで遡ります。19世紀の世紀末である1899年にある事件が起きた。それは故郷のクーデターだったんです。」
「え・・・・・・、ちょっと待ってください!前にも反乱があったんですか!?」
「ええ、小規模なものでしたが小言で済まされるものではありませんでした。」
エリスはますます不安になり自分を救ったこの組織に不信感を抱く。僅かな月日でこんなに裏切りが起きているのなら当然の事だった。本当は統一も出来きておらず仲間同士の戦争がいつか起きるんじゃないかと疑惑の連鎖が後を絶たない。それ以前にこの『教会』という存在のために命を懸ける価値があるのかと思った。恩返しはしたいがもし目の前にいる味方がいつか敵に回ったら・・・・・・
「因みにクーデターは今まで何回起きましたか?」
念のため知りたくもない質問をする。
「やっぱり心配ですか?安心してください、この数百年間で4回しか起きてません。正確に言えば過去の2回は未遂で終わりましたよ。」
安堵していいのか情けなく捉えればいいのか分からないまま取り敢えず苦笑した。トラヴァースは変わらない口調で話を続ける。
「エグリーズロンドン支部長である『黒江紫月』という女が恋人の死で良心を病み復讐を名目に教会に歯向かったんです。」
「ヨーロッパの名前じゃない・・・・・・もしかしてアガサさんと同じ日本人?」
「ええ、彼女は組織のミスで大切な人を失いこの世界を呪っていました。黒江が起こした事件で大勢のメンバーが死に無関係な市民まで亡くなりました。その中には・・・・・・俺の家族も・・・・・・!」