複雑・ファジー小説

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植物標本【完結】
日時: 2018/08/27 19:15
名前: 凛太 (ID: aruie.9C)
参照: https://musyokucode.jimdofree.com

花の病に蝕まれた子どもたちの話。
完結しました、ありがとうございました。

【エニシダの娘】
>>1
【クレマチスの少年】
>>2
【スノードロップ】
>>3 >>4 >>5 >>6
【幽霊列車】
>>7 >>8 >>9
【花と毒】
>>10 >>11 >>12 >>13
【天蓋を望む】
>>14 >>15 >>16
【逃避行】
>>17 >>18 >>19
【最終話】
>>20


自分の書いたものをまとめたくて、サイトを作りました。
参照から飛べます(´`)

Re: 植物標本 ( No.16 )
日時: 2018/08/22 18:48
名前: 凛太 (ID: aruie.9C)

 エトの頭の中で、いくつものどうして、が駆け巡る。どうして、花の病は閉じ込められるのか。どうして、ロランは死にゆくのだろう。どうして、母は亡き兄の面影を辿ることを、強いたのだ。少年の装いしか許されず、花冠を編むことを厭うて、少女らしい振る舞いを禁じた。さりとて、母が末に手に取ったのは、少年のまがいものではない。久方ぶりの母からの便りは、エトに弟が出来たのだと、そう淡白に綴られていた。
 混乱のままに、胸が打ち震える。堰を切ったように、涙が溢れた。後に残ったのは、泣き虫が、2人。

「何故、泣くんだ」

 ぎょっとして、シエルは眉根を寄せた。けれどもそう言う彼の頬にも、つうと流れた涙の跡が一筋、きらめいていた。

「わからない。けれど、ひたすら悲しいんだ。友に置き去りにされることや、母に捨て置かれることは、どんなにさみしいことだろう」

 不意に檸檬にも似た、清かな匂いがあたりに広がる。エニシダの、匂いだ。

「ねえ、シエル。教えてくれないか、花の病は、ロランは、どうして」

 口が縺れ、言いたいことが纏まらない。思考が氾濫する。胸のあたりに、鈍い痛みが広がった。
 シエルが苦々しげに言葉を手繰る。

「この、忌々しい花の匂いのせいだ。強い花の香は、不治の病をもやわらげる。けれど、俺たちはどうなる? 激しい感情に身悶えながら、死ぬんだ。神さまなんて耳障りのいい言葉を使って、塔に閉じ込めて、大人になるか死ぬまで飼い慣らされる」

 かつて顔を歪めた、薔薇の匂いを思い出す。二ネットは別離の苦しみを、その身に嘆きながら朽ちていった。ならば、ロランはどうだと言うのだろう。
 シエルはエトを真っ直ぐに見据える。その面差しには、僅かばかりの疲れがにじみ出ていた。

「それでもお前は、花の病を神のみわざだと、そう言うのか」
「……当たり前だろう、そう習ってきたんだ。母だって、信心深い私を望んでいる」

 そうだ、いつだってエトは己を欺いた。神を信じたのは、母がそのようにあるべきだと言ったからだ。では、エトの本心はどこにあるのか。

「俺は明日の早朝、塔を出る」

 はっきりとした物言いだった。エトは翡翠の双眸を数度またたかせる。シエルがゆっくりと、手を差し出した。

「エトは、どうする」

 シエルは今、エトに問いかけていた。彼は、星の天蓋を欲していたのだ。

Re: 植物標本 ( No.17 )
日時: 2018/08/24 08:50
名前: 凛太 (ID: aruie.9C)

【逃避行】

 シエルにとって、塔はひどく歪な場所だった。恐らく、両親が無神論者だったことに起因するのだろう。彼がクレマチスの花を咲かせた時、両親は幼い彼を掻き抱いて、涙を流した。痣が消えるまで、隠し通さなければならない。そう、彼の父は決心したのだ。
 けれども、概して幼子など、癇癪を起こすものだ。その度に、僅かに甘い匂いが香る。人の口に戸は立てられない。彼処の家の子どもは、花の病ではないか。噂が及んでしまえば、あとは時間の問題だった。
 季節が巡れば、数々の死が降り積もる。塔に来てから、シエルはいくつもの別離を経た。花の病を克服したもの、あるいは死をもって潰えたもの。シエルがもっとも恐れたのは、子どもたちの、死に対する希薄な観念だった。
 だからだろう、エトに興味を持ったのは。信心深い口ぶりをしながら、その実、信仰心などないのだ。彼女はただ、母の教えに従っていたに過ぎない。そこに、エトの意思は介在しなかった。



「私、は……」

 言葉が詰まる。これまで、エトは母が望むままに振舞ってきた。塔を出るなんて、そんな背徳めいたこと、許されるはずがない。けれども実際、エトはこの誘いに、蠱惑的ななにかを感じ取っていた。

「無理にとは言わない。ただ、明日の、朝一番の列車で発つ。祭事の翌朝だ、大人たちの目も緩むだろう」
「塔を出たところで、君はどうするんだ」
「眠るロランの顔を、一目見ておきたい。それも終えたら、そうだな。痣が消えるまで、身を隠して暮らす」

 齢14の、世間から隔絶された子どもが、果たしてひとりで生きていけるのか。普段のエトなら、甘い考えだと一蹴していたのかもしれない。けれども、眼前の少年の、あまりに切々とした面差しに、何も言えなくなってしまう。もし、このまま彼が塔に残ったのならば、身体より先に心が朽ちてしまうのだろう。
 いっそう、エニシダの匂いが濃くなる。

「……深呼吸しろ。気を落ち着かせて、この甘い匂いをどうにかするんだ」

 シエルは、けして弱くはない力で、エトの肩を掴んだ。静かに息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。幾度か繰り返したところで、ようやくエトは平静を取り戻した。
 甘やかな香が四散すると、シエルは掴んでいた手を離す。そうしてそのまま背を向け、歩き出した。

「シエル!」

 思わず、彼の名を叫ぶ。しかし、かける言葉が見つからない。

「……おやすみ」
「ああ、おやすみ」

 そうしてようやく吐き出した言葉は、頼りないものだった。
 シエルの去りゆく背中を見つめながら、エトは考える。エメ。幼いながら、流行り病で命を落とした、彼女の兄。彼は、大人がまさしく望むような子どもだった。だからこそ、商家の跡取りとして、一等期待を浴びたというのに。

「エメ、どうして君が亡くなったんだ」

 そしたら、エメのまがい物などではない、まさしくエトとして振る舞えたのだろうか。しかし、それも今となっては、せんなきことなのだ。

Re: 植物標本 ( No.18 )
日時: 2018/08/24 09:13
名前: 凛太 (ID: aruie.9C)

 朝靄を切り裂くよう、列車は走る。塔は遥か彼方、随分遠くまで来たものだと、エトは感慨にふける。二つ隣のコンパートメントに、品の良い老婦人がうつらうつらと舟を漕いでいた。
 正直に言ってしまえば、エトは自身の信仰のあり方を、はかりかねていた。それでも、エトはシエルと逃げることを選んだのだ。

 ロランの亡骸に会えば、わかるのかもしれない。

 信仰を遂げるために死にゆく彼は、どのような顔で最期を迎えたのだろうか。苦痛の果てか、それとも。エトは窓枠に頬杖をつき、思索の海に沈んでいると、向かいの席に座るシエルが口を開く。

「痣が濃くなれば、それだけ効能が高まる。あのまま塔に留まれば、お前も首都へ行かされただろうな」
「首都では、何が行われているの」
「長患いの上流階級に、アロマでも振舞ってやるのさ」

 シエルは自嘲気味につぶやいた。その声は、疲弊に満ちている。

「暇だろ、昔話に付き合ってくれよ」

 エトは黙したまま頷いた。シエルがこういった話を持ちかけるのは、初めてのことのように思われた。

「なあ、人が死ぬ瞬間を、目の当たりにしたことがあるか」
「いいや」
「俺はある」

 シエルは深く息を吐き出した。

「一昨年の冬に死んだやつは、ひどく反りが合わなかった。きっかけは些細な喧嘩だったな。けど、神をことごとく否定したら、ひどく逆上して、そのまま死んでいった」

 彼の者は、きっと花の香を纏いながら死んだに違いない。甘やかな警告にも気付かずに、蔦が心臓を搦めとる様を想像する。あまりにも残酷な光景だ、とエトは思った。

「恐ろしい死に顔だった。ああいうのを、憤怒っていうのかもな」
「シエルは、死をどう思ってるの」
「永遠の暗闇だ。現世の行いなんて、きっと関係ない」

 腕を組み、はっきりとした語気でそう言い切ってみせたのも束の間、彼は悩ましげにかぶりを振った。

「偉そうに講釈垂れたところで、真実は死者のみぞ知るんだろうな」
「きっと、そうなんだろうね」

 つまるところ、確かなものなど、何一つないのだ。
 2人がぽつぽつと言葉を交わす間にも、列車は風をきって進みゆく。振り返ったところで、もう塔は姿を消していた。

「もう、塔が見えなくなった」
「寂しいのかい」
「いいや、まさか。ロランがいなければ、名残惜しさもない。けれど、ただ……」

 列車は石造りのトンネルに差し掛かった。あと一時間しないうちに、首都へ辿り着く。

「もう一度、お前のピアノをきいておいた方が良かったのかもしれないな」
「私を、買いかぶりすぎだよ」
「どうだろう」

 シエルは曖昧に、相槌を打つ。二人の会話は、それきりだった。

Re: 植物標本 ( No.19 )
日時: 2018/11/18 13:53
名前: 凛太 (ID: xV3zxjLd)

 子どもたちが、友の抜け殻を目にする機会はほとんどない。塔で亡くなれば、大人たちの手によって人知れず対の塔へ葬られる。外で命を落とせば、聖者として讃えられる。やがては首都の墓地におくられて、ふたたび塔へ戻ることはない。
 首都に着けば、二人は人の波を縫うように、駅舎からおどり出た。久方ぶりの雑踏だ。エトは戸惑いながらも、シエルの背を追いかける。

「さあ、はぐれるなよ」
「わかってるよ」

 子どもたちは、古典的な煉瓦造りの建物が並ぶ通りを歩む。首都の建物は、どこか重厚な雰囲気を醸し出す。どの建物も、白や茶色などの落ち着いた色合いを基調としたもので、古めかしい印象を与えた。

「それにしても、なんだか変な雰囲気だ。どこの家も窓は締め切っていて」

 エトは辺りを見回しながら、そう呟いた。年代物のアパルトマン、派手な看板を掲げたチョコレート屋。目に入る建物のほとんどは、分厚いカーテンで窓を覆っていた。行き交う人々も同様で、暗い色合いの服ばかりを身に纏う。

「子どもに、葬列を見せないためだ」
「……葬列?」
「目抜き通りの方に行けば、見れるさ」




 ようやく辿り着いた首都の目抜き通りは、厳粛な雰囲気に包まれていた。人々は葬列を一目見ようと、道の脇に立ち、声を潜めて囁きながらも首を伸ばす。彼らの視線の先、盛装した聖歌隊や司祭たちが、一列に連なっていた。その先頭、真白の馬車が硝子の棺を携えて、葬列を率いてゆく。聖櫃の中、金木犀に抱かれて眠る彼の人は、紛れも無い。ロランだ。

「こりゃ、大層な行列だな」
「しかし、酷な事だよ。まだ子どもだったんだろう」
「仕方ないさ、そういう使命を果たすために、生まれたんだから」

 ひそやかな、低い話し声。葬列を遠巻きに眺めながら、大人たちは軽口を叩きあう。

「だめだ、これじゃあロランが見えない」

 その傍らで、エトは呆然と立ち尽くしていた。ここは、子どもばかりいる塔ではないのだ。大人たちの広い背中に阻まれて、葬列を望むことすら叶わない。

「行かなきゃ、ロランの顔を、見なきゃ」

 宵の眸は、ひとすじに前へと注がれていた。彼は無意識のうちに、群衆へ飛び込んだ。人の波を掻き分けて、友の元へ行かねばと足掻く。
 ロランは、自らの信仰のために死んだ。それは、本当に正しかったのだろうか。故郷にも、ましてや塔にも還れず、ひとり睡る。それでは、あまりにも。ならばとシエルが、自分こそが、彼を見届けねばならない。シエルを突き動かすものは、義憤にも似た感情だった。

「シエル、待って!」

 後ろで、エトが叫ぶ。遠くからでいい。一目、ロランの顔を見ることができたのなら、それでいいのだ。
 やっとの思いで群衆を押し遣ると、飛び込んでくるのは重々しくも歩みを進める葬列の姿だ。清かな白い装束を纏った聖歌隊は、神の慈しみを讃える詩を歌う。皮肉なものだ、とシエルは思う。神を慈しんだが故に、ロランは逝ってしまったのだ。

「シエル、急に走り出すなんて」

 数秒遅れて、エトが追いついた。しかし、シエルは物言わない。彼の視線は、ロランを連れ行く聖櫃に絡め取られていたからだ。夜色のまなこが、揺らぐ。そこからは、すべてがゆるやかに流れていく様に感じた。
 全ての苦難を享受したような司祭の深いしわ、大人たちの身勝手なさざめき、肌を撫でる冴えた静謐さ。世界を彩る一つ一つが、はっきりとエトを呑み込む。そして、かすかに見えた、ロランの顔。彼は、どこまでも澄み渡った表情をしていた。悲しみでも、怒りでもない。ひたすらに、安寧に満ちていた。エトはただ、彼の亡骸を、綺麗だと感じたのだ。
 遠くで鐘の軽やかな音が響き渡った。

Re: 植物標本 ( No.20 )
日時: 2018/08/26 09:23
名前: 凛太 (ID: aruie.9C)

【最終話】
 やがては葬列も遠ざかり、遠巻きに見ていた群衆たちも、散り散りになった。聖櫃は郊外の霊園へと送られて、後に残されるのは墓石ひとつばかりだ。
 花に病める子供たちは、ただひたすらに、立ち尽くしていた。今でもロランの亡骸は、エトの瞼の裏に焼き付いている。遠目からではあったが、はっきりと見えた。果てなく透き通ったロランの表情。怒りだとか悲しみだとかを超越して、そこにあるのは凪いだ静けさだった。

「馬鹿なやつだ」

 シエルの声は僅かにかすれていた。彼は俯き、じっと石畳の地面に視線を注いでいる。

「不確かなもののために死ぬなんて、どうかしてる」

 それは、長らく彼が秘めてきた疑問だった。彼は、胸に花開いたクレマチスが、ひどく厭わしかった。だからこそ、自ら堕落を望んだのだというのに。

「……シエル」

 エトは、静かにシエルの傍らに寄り添う。

「私は、塔に戻ろうと思うんだ」
「は、エト、どうして」

 シエルは顔を上げ、エトに掴みかかる。エニシダの娘はそうっと目を瞑り、首を横に振った。

「私はずっと、母さまの言う通りにしてきた。母さまが望むような子どもを演じていたよ。だから、実のところ、神さまなんて信じたふりをしていたのかもしれない」
「だったら、塔に戻るなんて」
「私はね、シエル。君が塔を出ようといってくれた時、嬉しかったんだ。少年のようなエトではなくて、なんだか私自身に誘いかけてくれた気がして」
「お前は、お前だろう」

 エトが柔らかく微笑む。友の死に心の底から涙を流し、真っ直ぐな言葉を投げかけてくれるこの少年を、エトはまばゆく思った。健やかな魂というのなら、シエルこそがそうではないか。

「私は、この短い逃避行の間で、ずっと考えてきたんだ。私が本当にしたいことって、なんだろうって」

 ロランは自身の信じるもののままに、最期を遂げた。それならば、シエルもまた、自らの意志に従って、神に背く道を選んだのだ。そのどちらもが正しくて、けれども確かなことなど何一つない。
 このまま塔を離れてしまったのならば、きっと同じことを繰り返す。母の代わりに、シエルに依ってしまう。そんなのは嫌だ、とエトは否定する。

「ロランの死に顔を見たとき、ひたすらに綺麗だと感じたんだ。それもまた、命の在り方の一つなのかもしれないな、って。正直、未だに信仰なんてものは、よくわからない。でも、自分の気持ちに向き合わずに塔から逃げることは、したくないんだ。君のように、しっかりと自分の目で見て、それから見極めたい。それじゃあ、駄目かな」

 シエルの眼が大きく見開かれる。きっと生涯で、シエルよりも美しい眸を持つ人とは出会わないのだろう。そう、エトは漠然と思った。

「命は惜しくないのか。もしかしたら、死ぬかもしれない」
「自分で答えを見つけるまで、死ねないよ。それに、ネリーたちだって居る」
「どうしようもない、お前は大馬鹿だ」

 吐き捨てるように言うと、それ以上、シエルは引き止めることをしなかった。何を言っても、エトは塔へ戻る。そういった、確信めいたものがあった。
 どちらからでもなく、二人はゆっくりと駅舎へ向けて歩き出した。目抜き通りには、もう厳粛とした雰囲気はない。葬列は幻のように去ってしまった。仕立ての良い服を着た大人たちが、忙しなく行き交うばかりだ。

「あいつは、ロランはいいやつだったんだ」
「……そうだね」
「兄のように、思ってたんだ」

 シエルは、昨日のように泣いてなどいなかった。ただ彼方を見据えている。

「シエルは、これからどうするの」
「この歳まで待ったんだ、探せば働き口くらい見つかる」
「そっか。シエルも、大人になるんだね」

 いつしか、彼の花が枯れる日が来るのだろう。声は低くなり、身体つきは青年のものになる。

「もし、私が信仰の果てに死んだのなら。落ち着いてからでいい、墓参りに来てほしいんだ」
「まだ、わからないだろ」

 ゆっくりと、諭すような声色だった。それは願望だったのかもしれない。死が肉薄した塔の中で、シエルにとってエトはまさしく人間らしく思えた。ロランに置いて行かれた自分のために、泣いて悲しんだエト。だから、塔を出ようと誘いかけたのだ。

「お前が大人になることを選んだその時は、会いに行く」

 エトは、密かに目を丸くした。置いて行かれることの寂しさを、誰よりもわかっているシエルだから、こんなにも真っ直ぐなのだ。きっと、ふたり、交わした約束は守られるのだろう。同窓の死を堪え続けたシエルと、兄の亡骸に縋り続けたエト。死に聡い二人ゆえに、手を取りあって塔を飛び出したのだ。脆く、美しい植物たちを蒐集した、あの塔を。








 かくして、揺蕩うようなひととせが巡る。
 エトの意識が、ゆっくりと浮上してゆく。烟る長い金のまつ毛を数度瞬かせれば、翡翠の双眸が顔を覗かせた。彼女は列車の窓枠に肘をつき、はるか彼方に望める双子の塔を眺めた。
 もう、少年のまがいものはいない。なだらかに波打つ金の髪を下ろし、きなり色のワンピースを纏う娘は、かつての約束を果たしにゆく。


植物標本


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