複雑・ファジー小説

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フレコ〜集団就職残酷史
日時: 2018/12/31 12:10
名前: 梶原明生 (ID: Xc48IOdp)  

フレコは玖数郡神楽に生を受けた。貧しい苦しみの中育ち、やがて15歳になった時にやむなく「集団就職」というご時世に乗る以外生きる道はなかった。彼女にとっての武器は母子家庭に育った厳しい教育だけでなく、贔屓にしてくれた小学校教師岩佐先生から学んだ「空手」があった。…これは我が母「フレコ」の若かりし日の、数奇の物語である。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.30 )
日時: 2019/09/12 18:31
名前: 梶原明生 (ID: 99wOCoyc)  

…懐から名刺を出す剣崎。「もし今の会社を辞める気になったらいつでも電話してきなさい。」「は、はい。」フレコは半信半疑に名刺を受け取る。これが後に転職のきっかけになろうとは、まだ当時の母フレコは知るよしもなかった。「あの時はまたオッサンの騙し技かなと疑心暗鬼になってたからな。就職してみたら意外と紳士で驚いた。」剣崎氏はやはりフレコと同じく集団就職の惨状を憂いていた方だった。この後麻衣子を気分転換に街に連れ出し、沢山おしゃべりして寮に帰した。夕日が差し掛かる特急列車内。三人は黄昏ていた。「フレコちゃん、ありがどうね。沢山借りがでぎただ。」「どういたしまして。でも私が借り返しただけよ。」「借りっで…」「労働基準監督署に手紙書いてくれたでしょ。あれなかったら今頃どうしてたか。」「ああ、あれ。言われだどおり書いだだけだで」「でも借しは借し。」「さすが姉御。眠狂四郎みたいっすね。」二人の言い合いに決着をつけるように、サッコが笑いを取った。時は春の終わり頃。もうすぐ17歳の誕生日が近付いていたある日、まだまだ肌寒い季節にストーブの灯油係としてフレコは夜、寮の倉庫から灯油を汲もうと来ていた。そこに男子寮から灯油係として来ていたおじさんがいた。当時33歳で、たまたま土友の途中採用の記事を見て倒産した会社から最近転職してきたのだ。名前は貴船真一。寒村の農家の長男で、いずれは家督を継ぐことになっていたのだが…今で言うところのブサメンで人がいい性格のため、この年まで女性と付き合ったこともなかった。そう、母と出会うまでは。…互いに倉庫のドアを開けようとして手が触れた。「あ、すみません。…」「いいえ、こちらこそ。ぼ、僕が開けますね。」やがて貴船は灯油入れを手伝うようになった。母フレコから見た第一印象は「優しくて笑顔の素敵な男性だった。」と、珍しく乙女な様相を見せるエピソードを聞かせてくれた。そして灯油が終わる季節になった時。もう声がかけられないと思った貴船は、フレコに愛の告白をする。「か、か、梶原さん。ぼぼ僕と、つ、つ、付き合って下さい。」顔を赤らめたフレコの初恋。「謹んでお受けします。」「やったーっ。」抱きしめる貴船を何の抵抗もなく受け入れた。翌日の休日は手を繋いでデートするほどのラブラブぶり。しかし清い関係だった。貴船も奥手であり、母フレコは言うまでもなく操が堅い。もし播磨みたいなことをしていたら言うまでもなく伸されただろう。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.31 )
日時: 2019/10/22 21:36
名前: 梶原明生 (ID: 0zy7n/lp)  

…しかし貴船氏は違ったのだ。やがて17歳の誕生日を迎えた頃、化粧、ネイルマニキュアサロンの営業が土友紡績生地会社に来ていた。「これからの女性は製造業であっても美しくキレイでなければ。」と言う山本リンダのような女性営業マンが勧めてくる。「ねぇキレイ。私美しくなれるかしら。」八重子は何の抵抗もなくマニキュアに化粧を施す。男性社員が冷やかす中、フレコの番になった時に事は起こった。「まぁ、あなたなら中村玉緒さんみたいだから化粧にイヤリングにネイルで見違えますわ。」フレコは当時まだ美容とは何かを知らなかった。てっきり物売りぐらいに考えていたからだ。「さて、まずイヤリング。まぁやっぱりキレイ。今度はマニキュアいきますね。」「やめてください。」「え…」フレコは山本リンダの取った手を振り払った。「私はここに着飾りに来てるんじゃありません。人は塗り壁じゃないんです。そんな着飾ったところに本当の美しさはありませんから。…」キョトンとする山本リンダ。「フレコちゃんいいでねぇか。キレイだで。」「そう思うなら二人仲良く塗り壁になれば。」「フレコちゃん…」「あっしゃ姉御の意のまま進むままってね。」サッコは早々に立ち上がった。仕方なくついていく佐知子。このため、未だに母フレコは着飾る姿を忌み嫌っている。我が家の伝統と言ったところだろうか。やがて夏も終わり、生活に余裕が出てくるとフレコは寮の裏庭に「巻藁」を170センチはある木の板にくくりつけ、地中に三分の一を埋めて「巻藁突き」のできる塔を立てた。「コン、コン、コン、」拳や足で突く鍛錬が始まった。「へへ〜、姉御。」「あんたたち何よ。」「いやね、そろそろあっしらにも空手教えて欲しいと思いやして。」来ていたのはやはりサッコに佐知子。「わかったわ。」「ヤッターっ。」かくして土友工業空手部の幕開けとなった。「姉御、腹減って。」「仕方ないな。おでん屋は閉まってるし。橋渡った雑貨屋なら袋ラーメン売ってて開いてるけど。行ってこようか。」「師匠がいぐごどねーだ。あたしがいぐだ。」「姉御、あたしも行きますから安心して。じゃあ。」二人は雑貨屋へと急いだ。橋を渡って袋ラーメンを購入するといそいそと帰るのだが…「よぉ、姉ちゃんかわいいね。俺達と付き合えよ。」風体の悪い男達4人が道を塞ぐ。「何だよあんたら、どいてくれよ。さもないとアチョーッ。」習ったばかりの空手を披露するのだが、どう見てもヘッピリ腰。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.32 )
日時: 2019/10/24 10:58
名前: 梶原明生 (ID: UvBorD81)  

…「ヘヘヘヘっ何だそれ。阿波踊りでも始める気か。」男達は大笑いする。「何よ、何するんだよ。」腕を掴まれて橋の下に引き込まれそうになる二人。「おら、ジタバタすんな。」「やめでーっいやーっ。」叫ぶも虚しく、夜の静寂に消されて行く。「ん、何だ…オヤジ、千円置いとく。釣りはいらねーよ。」ルパン三世に似た細身の男が屋台のラーメン屋からビール飲み干し飛び出した。「おいっ、お前ら、か弱い乙女相手に男が寄ってたかって何してんだ。この俺様が許さねーぞ。」「幸久さん。」何とたまたま近くでラーメンを食べていたフレコの兄こと叔父さんが来ていたのだ。ここで格好よく石原裕次郎か小林旭みたいに…ならないのが世の常。「は、早く逃げろ。」4人の男達にボコボコに袋叩きに会う幸久叔父さん。「大変だハァハァフレコちゃん。ハァお兄さんが…」必死に走って寮に逃げ込んだ佐知子がフレコを息絶え絶えに掴む。「何ですって…」「あ、姉御。」走り出すフレコを呼んでも届かない。「何でい、口ほどにもねぇ。ケンカのケの字もネェくせに偉そうに。」「兄貴っ。」橋の下にフレコが来た時には倒れていた幸久。「何だよ。代わりに寄越してきたお嬢ちゃんかい。可愛がってやるぜ。」可愛がられるのは自分達とも知らずに肩に手を伸ばす男。しかしリストロックで関節を握り締められる。「お前らよくも兄貴を。」「イデデデっ、何て馬鹿力だ…」掛け蹴りで倒される男。一瞬の光景に何が何だか分からないといった顔の3人。「オメーッ何さらしとんじゃー。」飛びかかるがフレコの敵ではない。右腕を内受けで払い左縦拳突き。右横裏拳打ちを放ったかと思えばいきなり左後ろ回し蹴りで右側の男を倒す。「な、何なんだよお前。」最後の一人はすでにビビりはじめて棒っ切れを拾って滅茶苦茶に振りかぶる。「わーっ。」しかし手元を抑え受けされて裏拳打ち。胸倉を掴んで怒りの正拳連突きを放つ。「よくもうちの兄貴を。」「す、すまねー悪かった。た、た、助けて。」顔面寸前で拳が止まり、へたれこむ男。「兄貴しっかり。」「幸久さん。」フレコが幸久の肩を持つと、戻ってきた佐知子が片方の肩を持つ。近くの医院を叩き起こして診てもらうことに。「何だ、酒乱でのケンカか。内蔵破裂はないし骨も大丈夫じゃが打撲が酷い。しばらく入院じゃな。」「先生よろしくお願いします。」フレコが一礼すると幸久が目を覚ました。「さ、さっちゃん…君がここまで。ありがとう命の恩人だ。」…続く。


Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.33 )
日時: 2019/10/29 00:37
名前: 梶原明生 (ID: Xc48IOdp)  

…しばし見つめあう二人。これにほくそ笑むフレコだった。これで二人はめでたく結ばれ…ていれば良かったのに。余談だが、幸久叔父さんと佐知子オバさんは1ヶ月もしない清い交際をしたものの、幸久叔父さんの座右の銘。「付き合うなら都会のいい女」のために結局佐知子オバサンをフってしまったのだ。極めつけは建築会社仲間の飲み会に佐知子オバサンが勝手に来てしまったことだ。東北の田舎弁を話す女の子と付き合っていると建築仲間にバレてしまい、笑われてバカにされてしまった。赤っ恥をかいた幸久叔父さんは結局別れを切り出した。無論泣きつかれたフレコは怒り心頭。東京の建築仕事に逃げるように去っていった幸久。しばらく疎遠となってしまった。「全くしょうがない兄貴め。」母フレコの口癖であった。さて、しばらくしてフレコにも問題が持ち上がった。貴船が結婚を求めてきたことだ。奈子屋隣県の寒村とは言え、フレコには農業ができない理由があった。今で言うならアレルギーだろうか。土いじりに向かないのだ。しかもこともあろうか東京の幸久に「嫁にください」と挨拶しにいった。筋を通すならまだ母富子が生きているのだから、玖数郡に行くべきなのに。これはさすがのフレコも怒った。「私と家督とどっちを取るの。」貴船に迫ったのだが。「もう退職届は出してる。明日土友を出ます。もし、私を取るなら奈子屋駅で待ってます。」うなだれて返事もできない気弱な貴船。やがて眠れず朝を迎え、ボストンバッグ一個分しかない小さな荷物を整え、それを肩に負って三年間激動の日々を送った土友女子寮を後にした。奈子屋駅朝一番の京都行きの始発特急。自由席にて窓辺に手をかけてキョロキョロ見回すフレコ。時間が迫るものの、そこに貴船の姿はない。しかし…予想外の姿が二つ。「姉御、黙って消えるなんて水臭い。」「フレコちゃんがいぐならづいてくだ。」「サッコ、さっちゃん。…」「京都行き特急まもなく発車いたします。」アナウンスが流れはじめた。「二人共、乗ってはやく。」「合点承知っ。」鼻を親指で擦る仕草をするサッコ、持つべきは友かと噛みしめるのであった。フレコ18も終わりに近づく初春の頃であった。…次回「京都編」に続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.34 )
日時: 2019/10/30 21:17
名前: 梶原明生 (ID: wh1ndSCQ)  

「京都編」………………………………特急はいよいよ京都駅に着いた。思えばまだ汽車だったのに。新幹線は開通し、特急も電車となった技術革新の時代。僅か三年でこうも変わるものかと傍観の目で列車を見ていた。「うっ…」「どうしやした姉御。」「急にお腹が…」味わったこともない腹痛がフレコを襲った。「まだごの列車動かないがらフレコちゃん、御手洗い行ってぎだら…」「う、うん…」「チッキショウ、さっきの駅弁なんか腐ってやがったか。」サッコが悪態つくなか、フレコはようやくトイレに入った。「こ、これは…」真っ赤な鮮血が滴り落ちる。「病気にでもなったの…まさか。」そこで三年前のサッコと佐知子のやりとりを思い出す。 「女の子は、赤ちゃんできるようになるため、股間から血が毎月出るんですよ。」このことを笑いながら高らかに語る母フレコ。「小さい頃は栄養失調だったから発育も遅くてな。生理なんざ18の京都行きまでなかったよ。ハハハッ。あん時は二人がいてくれて助かった。」こんなことを平気で話す母だった。「どうしやした姉御。」「あんたの言ってたアレ、来たのよ。」「ま、まさか半分男の姉御が…」「サッコ。」ドア越しにフレコの軽い拳骨が飛ぶ。「すいやせん。へへっ…」「フレコちゃん…」佐知子が何かを差し出した。「これ、使って。出会ったあの時のお礼。」何と、彼女が生理用品を差し出したのだ。「あ、ありがとうさっちゃん。」しばし身重な心持ちで京都駅を後にした。「ようこそ来てくれた梶原君。…彼女達は。」「申し訳ありません。彼女達もこちらでお世話になりたいと。ご迷惑でしたか。」「いや、それどころか大歓迎だよ。丁度人手が後二人足りなくてね。助かったよ。」「それは良かった。」出迎えたのはあの麻衣子の件で関わった剣崎氏だ。「麻衣子君と同じ寮だよ。」「やったーっ。」「サッコ。」「あ、すいやせん。」つい口に出してしまったサッコを戒めるフレコ。「さっちゃん、それにフレコちゃんにサッコちゃん。会いたかった。」麻衣子が寮の玄関まで降りてきていた。肩を抱き合う4人。「あたいは姉御と相部屋。」「なら麻衣子ちゃんとわたすが相部屋だで。」同じ棟だが違う部屋にそれぞれ入っていった。「くーっ、相部屋でのんびり寛げるモダンな寮生活。憧れがついに実現っ。あんなタコ部屋なんか、おさらばしてせいせいしますよ姉御。」「そうね。」ベランダに腰掛けて3階からの景色を一望する二人であった。…続く。


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