複雑・ファジー小説
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- フレコ〜集団就職残酷史
- 日時: 2018/12/31 12:10
- 名前: 梶原明生 (ID: Xc48IOdp)
フレコは玖数郡神楽に生を受けた。貧しい苦しみの中育ち、やがて15歳になった時にやむなく「集団就職」というご時世に乗る以外生きる道はなかった。彼女にとっての武器は母子家庭に育った厳しい教育だけでなく、贔屓にしてくれた小学校教師岩佐先生から学んだ「空手」があった。…これは我が母「フレコ」の若かりし日の、数奇の物語である。
- Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.10 )
- 日時: 2019/04/25 19:07
- 名前: 梶原明生 (ID: 99wOCoyc)
…フレコはキョトンとした。「はぁ、女の子の日って祝日か何か。…」「そうじゃなぐて、ほら、せ・い・り。」「整理整頓がどうしたって…」「あ、姉御。声がデカい。」さすがに早紀子がフォローに入る。「何で、何のことよ。」「ですから、…大きな声じゃ言えませんがね、女の子は、ある年齢になると、赤ちゃんが産めるようになるため毎月排卵期があって、オマタから血が出るんすよ。」「え〜っ血が。大変、病院行かなきゃ。」「また声がデカい。」その話に目の色変える小山内。それを見た早紀子は、二人を押して別の場所で話した。「別に病気とかじゃないっすよ。てか知らなかったんですか姉御。」「知らないわよそんなの。」「えーーーーーーーーっ。」顎が外れたことだろう。母フレコは笑いながらこのことをよく話していた 。「あの頃は田舎の山奥のもんだったから、生理なんて知らなかったもんな。早紀子に言われてようやく知ったばかりだったよ。」と。「あ、そうそう、サッちゃんさ、それで何の話だっけ。」「んだ、その生理用品ぎれてて、フレコちゃん持ってねぇだかど思っでぇ。」「持ってないわよ。サッコは…」「ありますよほら。貸したげる。」「ありがどう。助かっただ。」終始不思議そうに生理用品を見るフレコだった。「姉御はまだ赤飯炊いてもらってないっすか。」「当たり前よ。第一血なんか一度も股から出たことないし。」「えーーーっまだ来てないんすか。本当は○○○ツイてたりして。グフフ。」「サッコ。」軽く頭を小突くフレコ。「へへ、すいやせん。」三人はすぐ食堂に移動した。「あら、あなた梶原さん。私さ、美人だからご飯食べれないの。私の分食べて。」そうお高く言ってきたのは珍しく実家通いの美川由美子だった。「何だと、姉御になんて口ききやがる。このお方はな、カラ…」「サッコ。」立ち上がる早紀子を引っ張った。「いいの。お腹すいてたから貰うね。」「かーっ何なんすか。自分で言うか美人なんて。高峰美枝子じゃあるまいし、実家通いなら家で朝晩食えよ。」悪態つく早紀子。それを妬ましく見るもう一人の同僚、播磨八重子。「私だって美人なんだから。」と呟くが、どう逆さまになっても美人とはほど遠い姿。しかし彼女がフレコにとんでもないトラブルを持ってこようとは、まだ知るよしもない。やがて夜は更け、また1時に就寝。明日は1日だけのお休みだ。しかし、一人の少年は悶々としていた。小山内である。寝ているフレコを狙う目つき…続く。
- Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.11 )
- 日時: 2019/05/16 14:07
- 名前: 梶原明生 (ID: UvBorD81)
…股間を抑えながら、抑えられない動物的衝動を白い波動の気持ちでいっぱいにしていた。ただ、その先にフレコがいるということがいつもと違うことだが。やがて皆が寝静まったのをいいことに、音を立てずジリジリと近寄る小山内。「はぁ、この吐息、この首筋、たまんねー。」やがてフレコと数センチもない距離になり、下半身のズボンに手をやる。「ん…」と目を覚ましたフレコ。目と目が合う二人。しかしそこにロマンスの欠片もなかった。「何してんの…」声を挙げようとした瞬間、彼が口を手で抑えに来た。「静かにしろ、言うとおりにするんだ。」フレコのズボンを下げようとしたため大声を上げた。「何考えてんの、どういうつもり。」「ウギャーッ」静かどころかむしろ自分が静かにさせられた。親指を反り返しながら肘関節を決めて背中に腕を締め上げるフレコ。幸い寝ぼけ眼で起きる者はいても、月明かりだけでは大声も誰かの寝言と判断して起きようとはしなかった。「いい、腕へし折られたくなかったら静かについてきて。」「う、うん…」恐怖に力無く答える小山内。やがて二人は玄関出てすぐの階段踊場に出た。すっかり性欲の失せた小山内はポールの冷たい金属の手すりにうなだれた。「何てことするの。もうバカなことしないと誓える。」「誓うよ、だから離してくれ梶原。」「わかった。でもこんなこと二度とするなよ。他の子にも。もしやらかしたら私が許さないからね。わかったっ。」「わかったよゴメン。でもつい…」そこからフレコの長い説教が始まった。せっかく寝れていた夜も、いつしか旭が覗ける時間になっていた。「確かに小山内君の言うとおり、ここの会社異常なのかもね。わかった。私が会社に掛け合ってみるよ。心配しないで、少しは楽にしてあげる。」そう言ってフレコは、オレンジ色の太陽光を浴びながら部屋へと戻った。仮眠を取る間もなく朝食が始まる。そんな時一本の電話が。「梶原さん、あんたに電話。」寮母さんから呼ばれたフレコは始めて受話器なるものに触れた。「もしもし、梶原ですが…お、お兄ちゃん。」それは紛れもなくたった一人の兄弟、兄の幸久だった。「おう、そうや。母ちゃんから番号聞いてな。どや、名古屋駅まで来れんか。」また始まった。フレコはそう溜め息をつきながら兄幸久の素行を思い出していた。…次回「動乱期」に続く。
- Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.12 )
- 日時: 2019/05/21 20:35
- 名前: 梶原明生 (ID: JnkKI7QF)
「動乱期」……学生帽に古びた学生服を着た幸久。「どうだ、これな、タバコって言うもんだ。吸ってみるか。美味しいぞ〜。」似つかわしくない煙草をふかしながら家で遊ぶフレコに勧める幸久。ここは7年前の実家。「ほんと…食べられるの、お腹いっぱいになるの。」「おう、そうとも。ただ、食べるなよ、吸うんだ。」「ふ〜ん、…やだ、臭い煙り。お兄ちゃんの嘘つき。そんな臭い煙り出してるの美味しくないもん。お腹いっぱいにならないもん。」拒否するフレコに構わずまだ勧める。「そんなことないってフレコ。」「幸久っ。」「やべーっ。」慌ててタバコを消す。そこには米屋の仕事から帰ってきた富子の仁王立ちになってる姿が。「お前と言う子は、この親不孝者。中学生が煙草吸うやつがあるかっ。こんな育て方した覚えはないよこの道楽息子め。」「痛い痛い母ちゃん叩かなくてもいいだろ。ふざけただけだよ。…ちぇ、面白くねー。出てくよ。」「またどこ行くんだい。全く兄貴のくせにフレコの半分も性根がないんだからね。」この幸久はご想像通り、自分のおじさんに当たる人物だ。母フレコとは性格がまるで正反対。この頃から悪友と連んで行動し、寝泊まりも悪友の家ですることが多かった。とは言え、根は悪い人ではなく、母フレコもそこだけは買っていた。しかし何分にも気分屋の道楽息子。馬鹿騒ぎをしては祖母を困らせていた。そう。まるでどこかの誰かに性格がそっくりである。風貌は本人いわく「ルパ〜ン三世に似てるだろ。」の通り、スポーツ刈りの170の細身タイプで猿顔だった。家に遊びに来る度、自分に口癖のように語っていたのを思い出す。酔っ払うととくにそうだった。釣りが好きでよく小学生の頃「明生、釣り行くぞ。」と誘われたのを思い出す。…そんなわけで、当時母フレコにとって幸久に誘われるのは嫌な予感以外何物でもなかった。「行ってもいいけど、何の用。」「用って、俺とお前の仲じゃねーか。兄弟水入らずってやつよ。母ちゃんからお前がこっちに来たって聞かされてよ、いても立ってもいられなかったんだよ。兄貴である俺が妹を守らなきゃな。」「あの、守られた記憶がないんですけど…」冷めた口調で喋るフレコ。「ガタっ…そう言うなって。給料出たから奢ってやるからさ。俺だって東京から名古屋と職を転々として男を上げたんだぜ。今じゃ上場企業の…」「いいから、それで何時に。」「おう、12:00でどうだ。」「わかった。」…続く。
- Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.13 )
- 日時: 2019/05/27 20:13
- 名前: 梶原明生 (ID: 0Q45BTb3)
…時計は2時を回ってる。駅の時計を見たのはこれで何回目か。「もう、あいつ。いつまで待たせる気。」フレコはすでに2時間も待ちぼうけを食らっている。そこへ髪を短く刈り込んだ幸久が現れた。チェックのジャケットに紺のズボンで革靴を履いている。「やぁ済まねーな。待たせたか。」「待たせたじゃないわよ。 どこほっつき歩いてたのよ。だから兄貴と待ち合わせしたくなかったのよ。」「まぁまぁそう言うな。久々だからよ、ボサボサの頭じゃいけねーてんで床屋に行ってたのよ。そしたらその後いい予感がしてよ。パチンコで勝てる気がしたから行ったら当たるわ当たるわっ。玉箱が足りなくてさ、ジャンジャンバリバリ大当たり。台から抜けられなくてよ。…たかが2時間じゃねーかよ。そう怖い顔すんなよ。飯奢ってやるからさ。しかしお前、学生服しか持ってないのか。よし兄ちゃんが服買ってやろう。それでチャラだな、な、な。」益々怒ったフレコは踵を返した。パチンコや賭事は、母富子やフレコがもっとも嫌う世界だからだ。「おい、待てよ。」「そんないかがわしいお金の世話にはなりません。」「わかったよ。じゃあ給料分で今日の支払いするからさ。それでいいだろ。」「わかった。その代わり明細はもらうよ。後で働いて返すから。」「律儀だね〜。」幸久は呆れ顔になりながらフレコの後を追った。生まれて初めてのレストラン 、生まれて初めてのショッピング。何もかもに圧倒された。駅に降り立っただけでもカルチャーショックだったのに、駅のショッピングモール内なら尚更だろう。やがて二人は暗くなる前に別れて、フレコは寮に戻った。…続く。
- Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.14 )
- 日時: 2019/05/31 20:00
- 名前: 梶原明生 (ID: JnkKI7QF)
…数日後、暇を見つけて土友部長に掛け合ってみた。「部長、お話しがあります。よろしいでしょうか。」「何だっ、 私はお前らみたいに暇人じゃないんだ。後にしろ。」人を15時間もこき使っておいて暇人とは何か。フレコはただひたすら時を待った。ようやく仕事が片付いたころを見計らって再び声をかける。「何だ梶原。お前もしつこいな。」「いえ、どうしても聞き入れていただきたいんです。」「何だ、言ってみろ。」「ここへ来た時から凡そ3ヶ月。小山内君始め、皆この仕事に疲れきってます。少し働かせすぎではないでしょうか。」 これには血相を変える土友部長。「馬鹿者っ、誰が雇ってやってるんだ。誰のおかげで住めるんだ。私ら会社のおかげだろ。何贅沢言ってる。」「ですが毎日社長宅から親戚の家まで掃除や雑用をさせられています。正直言ってこれは工場勤務とは関係ありません。しかも給与は他の同業の最低賃金を大幅に下回っています。これはどう説明しますか。」このことに関しては事前にサッコと佐知子で休日に同業他社の級友達に聞き取り調査を行った結果から来ている。さすがに土友部長も閉口して歯軋りするが、苦し紛れの暴言を吐く。「黙れ、それがどうした。うちとよそとは違うんだ。グダグダ言って、人の恩をもう忘れたか。行き場のない屑を拾ってやったのはどこのどの会社だっ。うちの会社だろうが。書斎の掃除がまだだろ。早く行け。」やむなく部長室を後にするフレコ。「今に見てなさい。」静かな闘志を燃やしていた。翌日、仕事に取りかかったフレコを災難が襲った。脚に刺すような痛みが走った。「 こら、モタモタすんなよ。」それは中年の後工程の作業員だった。何とフレコの後ろから、不意打ちで蹴ってきていたのだ。「贅沢考えるからボサッとするんだ。」その言葉に、部長からさせられた嫌がらせなのではと勘ぐった。しかし証拠はない。「私はあなたに蹴られるために仕事しているわけではありません。もう一度やったら怪我しますよ。」「あ、何だガキが。お前に何が出来る。」フレコは黙ってそこを立ち去り、ボイコットした。慌てた班長が呼び止める。「まぁ待て。今お前に抜けられたら困る。今あの工程出来るのはお前と俺ぐらいだ。」「なら二度と蹴らないと約束させられますか。」「するとも約束くらい。」こうして職場復帰したのだが。「てめーっ生意気なこと言いやがってっ、班長に告げ口してんじゃねーっ。」また蹴ろうとしたが、その足を脛で受けた。…続く。