複雑・ファジー小説

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フレコ〜集団就職残酷史
日時: 2018/12/31 12:10
名前: 梶原明生 (ID: Xc48IOdp)  

フレコは玖数郡神楽に生を受けた。貧しい苦しみの中育ち、やがて15歳になった時にやむなく「集団就職」というご時世に乗る以外生きる道はなかった。彼女にとっての武器は母子家庭に育った厳しい教育だけでなく、贔屓にしてくれた小学校教師岩佐先生から学んだ「空手」があった。…これは我が母「フレコ」の若かりし日の、数奇の物語である。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.25 )
日時: 2019/08/19 12:26
名前: 梶原明生 (ID: NOqVHr1C)  

…背中姿で語るフレコ。「心配してくださってありがとうございます。でも…関わらない方がいいのは向こうですから。」「はぁ…」一礼して出て行くフレコに呆気に取られるマスター。早速その横丁にバスで向かう二人。丁度暗くなる手前の黄昏時で、その女衒が現れるにはいい頃合いだ。「姉御、あれ。あの白いスーツの男。」サッコが指差した先にあいつがいた。フレコは睨みながら女衒に近付く。「あれ、かわいいね君。ちょっと怖そうな目つきが色っぽいよ。ねぇ、君にぴったしの仕事があるんだけどどうかな。」「いいですね。では話をそこの空き地で聞きましょうか。」「え、… あははっ、君乗りがいいね。行こう行こう。」サッコと二人の背中を押して路地に入った。バキッと殴る音が空き地中に響く。「痛っ、な、な、なにすんだよ。うわっ、う、腕が もげるもげる。やめて〜っ。」見た目に寄らず情けない女衒。「美川由美子って子を売り飛ばしただろ。どこだ。話さないならこの腕…」「あーっわかったわかった。教えるよ。…二宮の若葉って居酒屋の二階だ。そこは水揚げと仲卸やってる所だ。さぁ離してくれよ。お、お前ら田舎から出てきた工女は騙しやすかったからよ。売り飛ばして儲けるには容易かったぜ。」余計な一言が無ければ良かったが怒ったフレコは振り返らせて女衒の腹に前蹴り。こめかみに回し蹴りをお見舞いした。「姉御、やり過ぎだって。死んじまうよ。」サッコが羽交い締めにして止める。「わかったよサッコ。とにかくその居酒屋に行こう。」「いやいや不味いっすよ。多分ヤクザですぜ相手。ヤバいっすよ。」「なら付いてこなくていい。私一人でもいく。美川さんだけじゃない、私と同じ境遇の子が酷い目に会ってるのを黙って見過ごせない。」「あ、姉御ーっ。」走り去るフレコに追いつけないサッコ。母フレコの経験談を聞いてふと最近気になる記事を思い出す。「集団就職で地方から都会に出た少年少女はほとんど記録にない。多くが帰らぬまま行方知れずになることも少なくなかった。」等と書いてあったことだ。これが本当だとすると、その実情は人身売買があったのではと勘ぐってしまう。「もう昔のことだから臭い物には蓋しとけ。」と言うならばどこぞのK国の態度は何なのか。捏造が発覚して当時の某新聞社は「昔のことで記者の責任は問えない。」等と返答したらしいが、ならK国の某婦人達のことも昔のことではないか。…話を戻そう。フレコは居酒屋若葉の前に立った。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.26 )
日時: 2019/08/24 02:06
名前: 梶原明生 (ID: u7d.QD9m)  

…勢い良く引き戸を開けると、幾人かの客と、気だるそうな女将さんがいた。「何だい怖い顔して。あんただね、信二の奴が連れて来るって子は。それにしても信二の奴はどこなんだい。」すっかり勘違いしている女将。「今頃空き地でゲロ吐いてますよ。」「おや、まだ深夜でもないのに酔いつぶれたのかい。」「いえ、私がゲロを吐かせたんです。」キョトンとして必死に無い頭で理解しようとする女将。「美川由美子って子いますよね。身受けにきました、 返してもらいます。」事が穏やかでないと気付いた奥の席にいたハンチングハットに剥げ頭の二人の男が徐に立ち上がった。「ようようお嬢ちゃん。会いたかったら会わせてやってもいいが、そのかわりお嬢ちゃんも俺達と付き合いなよ。」不適な笑みを浮かべたのが最後。フレコの鉄拳と蹴りが二人に閃光のごとく入る。「こ、このアマ。…何しやがる。」腕を掴む手をリストロックよろしく逆関節にきめていた。「いでででーっあ、兄貴。」二階に向かって叫んだのを皮きりに、思いっきり駆け上がるフレコ。「何だ騒々しい。あ…何だこの小娘。」気だるく出てきたサラシのチンピラ風の男3人が現れた。その板間の通路を挟んで両側が襖の壁。畳の間になっている構造。襖の隙間から泣きながら上半身裸で胸を押さえながら横になっている顔を晒した由美子がフレコと目が合う。それで間に合わなかったことに、更に怒りの炎をたぎらせた。「貴様ーっ。」瞬足の跳び蹴りが一人目に炸裂。奥のボスらしき男が叫ぶ。「何て奴だ。小娘のクセに蹴り一発で倒すとは…気をつけろ。このガキ、空手か何かやってやがる。」気づくのが遅すぎた。二人目が殴りかかった時、鶴拳受けでかわしながら久米流の底拳突きで胸を殴りつけ、回し後ろ蹴りで明後日の方向に飛んでいった。「野郎、まさか小娘相手にヤットウ手にするとは…」奥の間から短刀を取って抜くボス。「死ねガキっ。」短刀を刺してくる。脱力したフレコの鶴拳受けが炸裂。顎目掛けて鶴拳を撃った。襖を突き破って隣室に転げる彼女は、タオルと呑みかけの熱燗を見て瞬時に取り、タオルに酒をかけてスナップ打ちをかました。「あち、あちゃーっ。」目をやられたボス男を逃さなかった。手首を手刀で叩きつけ、短刀を落としてそのまま押し切り手刀を肝臓に打ち込み、裏拳打ちを叩き込んだ。悶絶するボス男の股間を最後に思いっきり足甲で蹴り上げる。「ウギャーッ。」直後だった。筒形赤色灯でサイレンが…続く。

Re:フレコ〜集団就職残酷史 ( No.27 )
日時: 2019/08/28 18:49
名前: 梶原明生 (ID: u7d.QD9m)  

鳴り響き、当時配備されたばかりの懐かしい昭和のパトカーが数台駆けつけていたのだ。黒い制服に白い警笛紐を下げて、桜の大門付けた制帽を被った警察官が、木製警棒手に握って回転式南部拳銃を携えつつ続々居酒屋内に突入してくる。フレコはただ、霰もない姿で泣きじゃくる由美子を抱きしめて宥める以外なかった。「これは一体。」二階に上がった警察官は驚いた。泣きじゃくる娘達をよそに大の男達三人が伸びて倒れているのだから。「痛っ痛ぇーっ。」骨折している先ほどのボスが警察官に起こされた。「貴様が主犯だな。一体何があった、誰にやられたんだ。対抗組織のチンピラにでもやられたか。」「ち、ち、違う。痛たた。あ、あの小娘。あいつがやったんだ。あいつ暴行罪で逮捕してくれよなお巡りさん。」はぁっ、と言いたい顔になる警察官。「バカ言え。罪を逃れたくてあんな可愛い女の子を犯人扱いするとは、ふてー奴だ。 第一あんな女の子がお前ら大の男、しかもヤクザもんのチンピラを叩きのめせるわけなかろう。」「お願いだ信じてくれお巡りさん。確かにあいつにやられたんだよ〜。」「さては仲間割れでお前らの兄貴分とでも喧嘩になったんだろ。兄貴分庇う気持ちは分かるがな。詳しい話は病院行ってから、署で聞かせてもらう。覚悟しろ。」「そんな摂政な…」連行されるボス達。フレコや他の女の子は警察官に付き添われてようやく外に出た。「姉御ーっ。無事で何より。」「サッコ…じゃああんたが警察を。」「合点承知の介ってね。あたしができることはこれぐらいっすから。」「ありがとう。あんたに貸しができたね。」「どう致しましてってね。気にすることないっすよ。でも男顔負けの気っ風の良さ。益々姉御に惚れやしたぜ。」「サッコ。そういうのは好きじゃないって言ったでしょ。」「あ、お呼びでない。」当時の某コメディアンの物真似で多いに笑いを取るサッコ。しかし…「美川さん。あなたの戦いはこれからよ。」「梶原さん…ありがとう。」三人はパトカーに乗り、急遽警察署に向かった。…次回「黎明期」に続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.28 )
日時: 2019/09/02 19:12
名前: 梶原明生 (ID: UvBorD81)  

「黎明期」……………………………………フレコ達はすぐ無罪放免となって寮に戻されたが、由美子はしばらく産婦人科で入院となり、まだ警察の聴取が残っているとのこと。彼女を傷つけたやつらがそれ相当に裁かれることを祈る以外なかった。いつものように仕事していつものようにお昼休みを過ごしていたのだが。「フレコちゃん凄いだで。まるで鞍馬天狗だで。」「そんなことないよ。…それよりさっちゃん。あの事どうなった。」「あの事って…」「ほら、自殺したいって友達が。」「うん…ただ、うちの会社に比べだら恵まれでるだに。」「さっちゃん。それでもその人も東北の貧しい村であなた同様口減らしに15歳で出された女の子よ。きっと辛いこともあるのよ。」「フレコちゃんの言うどおりかも。会いにいぐだ。」「そうね。何なら今度の連休に三人で行こうか京都に。」「え、フレコちゃん行っでぐれるなら心強いだで。行ごう。」サッコを見るフレコ。「何見てんすか。姉御が行くなら例え火の中水の中…」「ああ、いいからそれは。これで決まりね。」即席で決まった予定通り、三人娘が初めての京都の街に降り立った。「確か山科のごの辺…あっだ。」手紙にあった地図を片手に佐知子が見つけ出した。「車田紡績女子寮か。確かに豪華だね。」当時からすれば羨ましい話。トイレ、風呂は別でも市営住宅みたいにそれぞれ個室のある4階建ての寮。フレコはまたもや圧倒された。「ちょっと姉御、あれ。…」サッコが指差す頭上を見ると、金属格子から身を乗り出す女の子の姿。「マズい。」挨拶も無しに寮母室を無視して4階に駆け上がるフレコ。下から叫ぶ佐知子。「麻衣子ちゃーん。私、佐知子。バガな真似はしねーでけろ。」「さっちゃん。…」意識朦朧とした表情で夢か現かわからない声を聞いた麻衣子。ドアをそっと開けて忍び寄るフレコ。「何あなだ、やめで、やめで、死なせで。」気がついた時には遅かった。がっちりホールドされて鉄格子から離れさせられる麻衣子。「何があったかは知らないけれど、死んで花実が咲くものですか。」「ワァーッ。」フレコの一喝に一気に泣き崩れる。遅れて4階に駆けつけた佐知子とサッコ。「麻衣子ちゃん。…」「さっちゃん。…さっちゃん。」更に泣き崩れて佐知子に抱きつく麻衣子。しばし宥めるのに時間がかかった。…続く。

Re: フレコ〜集団就職残酷史 ( No.29 )
日時: 2019/09/06 20:54
名前: 梶原明生 (ID: wh1ndSCQ)  

…「何があっただ麻衣子ちゃん。」「私ね、家に帰りでぇ。でも手紙には帰っで来るなっで。んで、仕事も遅いから毎日毎日おごられで…死にだぐなっただ。」「そんなごどあっただか。」佐知子は意気消沈して聞いていた。「姉御…」「うん。本来ならそんな弱気でと言いたいところだけど。辛い基準は一人の基準じゃないからね。あなたなりにつらかったのよね。でもそんなに遅いの。」「いんにゃ、最近やっと八割に追いついただ。でも男の班長が私ばかり責め立てで。この屑とが言っで、手をあげでぐるだ。」「わかった。」「あ、姉御。まさか…」「そのまさかよ。」すっくと立ち上がるフレコ。しかし行くまでもなく向こうから、飛んで火に入る夏の何とやら。「これは一体。君達は何だね。」「麻衣子さんの友達です。あなたは。」「車田紡績のこいつの班長だ。」「それから私は部長の剣崎だ。」中年男性の責任者二人が寮母さんに呼ばれて駆けつけたのだ。怯える麻衣子。フレコの目つきが変わった。「あなたこの子に手をあげる上、屑呼ばわりしているそうですね。」「あ、何だ。当たり前だ、屑に手を上げて何が悪い。」「植村君、よしたまえ。」剣崎部長が困り顔で制しようとしたが遅かった。「謝れ。麻衣子ちゃんは自殺していたかも知れないんだ。あんたのために。」今ならパワハラものだが当時はそんな概念すらなかった。「うるせー小娘のくせに。」フレコがただ者でないことを早く悟るべきだった。植村は鉄拳制裁するつもりが、制裁されたのは自分だった。内受けに即、横裏拳で顔面にヒット掴んだ腕を反対へ引っ張りまわし、腹にナイス回し蹴りを叩きこんだ。悶絶する植村。「ああ、どなたか知らんが、もうその辺で。植村君、君にも問題があるんだよ。」「し、…しか、しこいつに…」「君はもういい、下がりなさい。」寮母さんに付き添われて下に降りる植村。「すみません。ついカッとなって。」フレコは頭を下げた。「いやいや。私も彼の蛮行にいささか困り果てていたところだったんだよ。いいお灸になって逆にスッとしたくらいだ。」「恐縮です。」「さて、小田君。明日から紀美子さんとこに行きなさい。あそこならそんなにノルマはないだろう。」「あ、ありがどうございます。」麻衣子の件はこうして片がついた。しかし。「君はなかなか気概ある人だね。名前は何て言うんだい。」「梶原フレコと言います。土友生地に勤めてます。」「そうか。梶原君、私は今度請負会社を経営することになってね。」…続く


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