複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ジルク【キャラ募集中】
- 日時: 2021/05/02 21:17
- 名前: おまさ (ID: EmSHr2md)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1260
どうも、初めましての方は初めまして。セイカゲからの方はこんにちは、おまさです。
今回は、SF的な作品が書きたくてスレ立てさせて頂きました。この作品は、皆様と一緒に作っていきたいのでキャラ募集をします。リクエスト掲示板の方に関連スレを立てましたので、そちらにキャラ情報を投稿していただければその中から選抜して作品に登場させたいと考えています。(詳しくは関連スレへGO)
あ、ちなみに関連スレは上のリンクから行けます。
世界設定などは本編の方で触れますのでご了承下さい。
なお、本スレは感想など受け付けておりますが、ここに投稿したキャラクターリクエストは受理しないと思ってください。
また、スレッドを荒らすような真似は絶対にしないでください。宜しくお願いします。
では、本編どうぞ!
****
2021年5月2日をもちまして、当作品の執筆を終了させて頂きました。ご愛読ありがとうございました。
なおそれに伴い、スレッドをロックさせていただきます。
カキコ引退の旨に関しまして、雑誌掲示板にてご説明させて頂いておりますのでそちらを参考に。
****
もくじ
(最新更新:>>28) (関連イラスト:>>18) (一気読み用:>>01-)
1話:逢瀬 >>1
2話:外出はパーカーと共に >>3
3話:アフレイド・オブ >>4
4話:オムカエ >>5
5話:ファン・トゥ・ドリフト >>6
6話:羅刹 >>7
7話:偽善の形 >>8
8話:アネサマ >>9
9話:王子 >>10
10話:velvet >>11
11話:Raison d'etre >>14
12話:傲慢 >>15
13話:捕捉 >>16
14話:神ヲ驕ル者 >>17
15話:冷たい感触 >>19
16話:ふぉーてぃーせぶん >>20
17話:ばけもののすがた >>21
EX:前日譚1(上)「16年前の雲の上で」 >>22
18話:オマエヲコロス >>23
19話:天誅 >>24
20話:ダンシング・クラウン >>25
EX:書き下ろし短編「An another automata(with its sarcasm)」>>26-27
21話:デスティネーション >>28
- 十二話 ( No.15 )
- 日時: 2019/12/11 20:57
- 名前: おまさ (ID: XgYduqEk)
「ーーーーーは」
思わず息を漏らしてしまったのは、この状況に既視感があったからだ。
自分の寝台の上に横たわっているのは、その格好や髪、無機質の雰囲気からして間違いなく機構人形であろう。
今回といいシザといい、隣にいるシーナもそうだ。何故自分はアンドロイドとここまで縁があるのか。イオトは純粋に疑問に思った。
とはいえ、今こうして目の前に機構少女が寝かされているのは事実。
「お前を探すためにラティビに車を出して貰ったんだが・・・こいつは、その道中で見つけたもんだ」
目を見開いているイオトの横でエソロー爺が、こうなるに至った経歴を補足する。それを聞いて納得した。
ーーーあちこちが汚れていて、傷だらけだからだ。
白磁を思わせる肌は砂塵で汚れ、その他の傷を負っていたし、服ーーーと言って良いのかは疑問だが、身体に密着するように纏っている布地は傷んでおり、あちこちに穴が空いている。身体にバッテリーから延びるコードが繋がっているが、無事とは言えない状態だった。
そのままにしておくのを不憫に感じたイオトは、顔の砂だけを払ってやる。
*
《》
《》
《》
《》
《》
《code:β302を感知》
《非常用予備回路に切替》
《外部電源を感知。家庭用電源と推測》
《推定残存電力41%》
《機体の損耗率67%》
《第一、第四スラスターの内圧、不安定》
《燃料計算終了。長時間航行は不可》
《ビーコン起動》
《6から32番のバルブを解放》
《フラップを確認、、、背面第四フラップ使用不可》
《アクチュエータ、負荷許容範囲内》
《第二背部スラスターを破棄》
《アクチュエータ活性化》
《アブソーバ動作確《強制割込》
《A.O.A指令部のビーコン感知、リンク回復》
《指示を乞う》
《反応なし》
《アブソーバ動作確認、、正常》
《圧縮窒素封入中、圧力は基準値に対し-05を維持》
《第三から第七のインタークーラ水温、許容範囲内》
《機体の冷却率66%》
《第五燃料ポンプ始動》
《フライホイール回転開始》
《電圧、機体温度、油圧、水温、オールグリーン》
《コンタクト可能、実行に移る》
《カウント省略、メイン接続》
《OS起動。ver,0.08》
《コマンドプロンプトを参照》
《実行中》
《識別番号〈M-0E6h:engel 〉ユニット、起動》
《インターフェース接続》
《視覚情報を反映します》
*
唐突に、目前の機構少女が起動したのを、イオトはただただ呆然と見ることしか出来なかった。
無音で目を開けたアンドロイドの少女は、上体だけ起こしてしばらく周りを見ていたが、イオトが視界に入ったと分かるや否やイオトのことを凝視している。
「・・・シーナ、何か分かる?」
「ーー、ううん。その子にコンタクトを取ろうとしたけど、OSが非対応・・・・・って、まさか」
シーナは、しばし柳眉を寄せ、不明機の少女を注視する。ーーー正確には、少女の右肩を。
「ーーーまさか、試作0型・・・?それに『engel』って・・・もしかして、例の計画のテストベットとか」
「例の、計画?」
聞いたことのない単語に首を傾げると、シーナは話そうか否か少し迷ってから「うん」と言葉を続けた。
「ーーーーーEA計画。ユソーキを使わずに、部隊を直接送り込む為のアンドロイドをリョーサンする計画だったんだけど、途中でトンザしたみたい」
「輸送機を使わずに、ねぇ」
成る程、アンドロイドは〈ジルク〉から輸送機を使い出撃するらしい。確かに、送り迎えを必要としない部隊なら、即座に戦線に配置出来るだろう。
しかし、だ。
それを人のサイズで実現するには、いかな〈ジルク〉とて莫大な時間と労力が掛かるだろう。勿論、金も。
だとすれば、計画が途中で破棄されたのにも頷ける。
この少女は、その計画における試作機、ということか。
それにしても。
「何で今、起動したんだ?」
疑問の着地点はまさしくそこだ。
過去の計画のもたらした遺物と考えれば、この機構少女が最後に起動したのはかなり前の筈だ。沈黙のまま砂のなかで今まで時間を浪費してきたのだから。
それが、何故今更ーーーイオトが額に手を翳したタイミングで。
「うーん・・・試作0型は、ごく初期のアンドロイドだからなあ。詳しいことはあまり残ってないの」
「ーーー。ーーーーイオト」
唐突に、沈黙を守ってきたエソロー爺が口を開く。それにもっとも早く反応したのはイオトーーーーではなく、隣でずっと黙っていたラビだった。
「!?ちょ、ちょいオッチャン!?言ッちゃっていいンスか、それ」
「もう、潮時だろう。こいつも大きくなったものだし」
ええ、と溢してからラビは、
「そーじゃなくッてッスね・・・。ーーーーアンタはそれで、良いのかッつーことッス」
「・・・・。」
その言葉に、エソロー爺は珍しくも目を見開いた。そして、そのあと刹那逡巡しーー、
「ーー。ーーー。ーーイヤ、いい。悪いな」
「う、ん・・・?」
「・・・まー、滅茶苦茶不自然な誤魔化し方になったッスね・・・。ねェ、オッチャン?」
半ば煽るように問い掛けるラビに、憮然とした様子で顔を背けるエソロー爺。その様子を、イオトはどこか釈然としないまま見ていた。
そうして、改めてイオトは件のアンドロイドに向き直り。
「うーん・・・」
「お兄さん、また名前考えてるの?」
見上げてくるシーナ。
「わたしは・・・その、割と嬉しかったけど・・・何で名前、付けてくれるのかな、って」
少し頬を赤く染めながら、シーナは問うた。その少女の問いに、イオトはしばし考え込む。
「名前、か」
思えばあまり、考えたことがなかった。なるほど、本来無機質な番号で呼称される彼ら彼女らが行き着く当然の疑問であろう。だが、情けないかな、イオトには特に明確な理由があるわけでは無かった。
ただ、ぼんやりとではあるが、己の根底に何かが渦巻いていることは自覚していて。
上手く言の葉にのせられないのがもどかしい。
でも。
それでもなんとか、自らの内に浮かび上がってくる物を拾い、形にし、綴る。
酷く、たどたどしくて、拙いものになってしまったけれど。
だけど。
想いは。
「ーーーオレがそう呼びたいから、じゃ駄目かな」
嗚呼、何て酷い独り善がりなのだろう。
きっと、これはイオト自身のエゴなのだ。
呼びたいから、だなんて。勝手も良いところだ。
傲慢で。
我儘で。
けれど、それを自覚した上でもなお、イオトは高らかに主張していたと思う。
「番号で呼ぶのは、何ていうか距離があるような気がするし。嫌なら改めるけど」
ーーー否。
違う。
そうではない、と内なる自分が吐き捨てていた。
多分、自分はそんな権利もないくせに彼女たち機構人形を哀れんでいた。
まるで籠の中の鳥のように。
名前こそ、その枷を砕くための術だと。
せめて、番号ではなくちゃんとした名前で呼んで、ある種の呪いのようなものから解放してあげたいと、そう思って。
故に、憐憫を以て銀髪の彼女に名前をあげた。
あのときからーーーシザ、と名前をあげた時からイオトの業は始まっていたのだ。
そして、それに気付きながらも強引に無視する今もまた。
この感傷を抱いていながらもなお、シーナに誤魔化し続ける自分は、嘘つきだ。ーーー否、大法螺吹きだ。
「ごめん、上手く言葉にできなくて」
そう口にすると、シーナはううん、と首を振った。ひどく嬉しそうな顔だった。
イオトは罪悪感を噛み潰す。
「いいの。ーーーーありがとう」
その答えが、本心からのものなのか、こちらの罪悪感に感付いた上での優しさだったのか、このときのイオトは判らなかった。
ともかく。
「どんな名前にしたもんか・・・」
「0」なら、「レイ」とかーーーーーーーーーー否。
・・・・「E6h」か。
そして閃いた。
「ーーーーイロハ、とかどうかな」
見上げる、視線。
シーナではない。ーーー何故なら、その視線は銀色ではなかったからだ。
青緑の、無感情の瞳。
「・・・。」
大変判りにくかったが、彼女ーーーイロハは、無言で同意しているようだった。
- 十三話 ( No.16 )
- 日時: 2020/01/04 14:27
- 名前: おまさ (ID: fQM5b9jk)
更新遅くなりすみません。言い訳をさせて頂くと、純粋に年末忙しかったからです。
今年も今までに比べ更新遅くなると予想されますが、どうか皆様宜しくお願い致します。
それでは、「あけおめ」の掛け声と共に、本編をお楽しみください。
*
さて、場面は件の機構少女の命名から少し後。立ち上がったアンドロイドーーイロハをイオトはまじまじと見つめていた。
身長はシザと同じくらいか少し高い程度。シザのものよりも無表情で眉尻が垂れた目と視線が合う。
それはいいのだが、それはそれとして。
「・・・あのー、黙っていられると不安なんで、何か喋ってもらえると助かるんだけど・・・」
「・・・。」
言っても、困ったようにイロハは黙り込んでいる。その様子が余計に人外さを主張していた。
無機質を孕む、表情。堪らずイオトは隣にいたシーナに「あのさ」と話し掛けた。
「あいつ、喋れないの?」
「うーん・・・。0系の事に関しては、あまり情報が出ていなくて。詳しいことは分かんないけど、多分簡単な意志疎通は出来るーーーと思う」
「意志疎通、か。筆談とか?」
何気なく答えると、何故かシーナは驚いたように目を見開いて此方を見返してくる。
「筆談ってーーーお兄さん、字が書けるの?」
「え・・・?いや、だってそりゃ書けるでしょ。誰だって」
「そうじゃなくって・・・」
刹那だけ逡巡した後、話しても詮無いことと追及を諦めたらしく、シーナは口を閉じた。
「意志疎通って意味じゃ、シーナも何かイロハに送ることは出来ない?」
「さっきテキストを送ってみたけど、反応なし。届いてないのか、それとも別の問題があるのかは分かんない」
「別の問題?」
言いさして考え込む。メッセージが届いていない以外の問題となると、なるほど限られてこよう。
自分であれば?もし仮に、自分が相手からの呼び掛けに反応しなければ、それは一体どういう状況なのか。勿論、耳が聞こえない以外の理由で。
その人を蛇蠍の如く嫌っているとしたら?あるいはーーー、
ーーーと、思考を展開していたその時、イロハが唐突に跪いた。
「「え、っ・・・?」」
驚いたのはシーナも同じだったらしく、呆けた声が重なる。重なった二人の声は、事態の異常性と予想外の展開の具現化に対しての証明となり、命題を締め括る。
普段飄々とした態度を崩さないラビですらも、目を見開いた表情。エソロー爺ですら、片眉を上げていた。
最敬礼ーーーイオトの知識が正しければ、イロハの姿勢はそれに当たる。君主に対し、従者が最大限の忠誠を誓う時の姿勢だ。
そして何故か、あろうことか自分に、この機構少女は忠誠を誓っていた。訳が分からない。
「・・・ぁ」
僅かに聞こえた声音はイロハのものだ。儚く、脆く崩れ去って、虚空の掬う星屑に消え失せてしまいそうな声。無表情さとは裏腹に可愛いげがあるとぼんやり思う。
しかし、事態は分からなくなるばかりだ。自分が顔に手を翳したのを見計らったかのように起動して、そればかりか主の如く己の身を以てイオトを守ろうとしている。
守られる価値なんて自分にある筈もないのに。疑問と自嘲が混ざる。
愚者を救う翼ーーー法螺吹きの忠実なる僕。
詭弁と劣等を塗り固めた男の、下らない願望の遂行者。
その機械仕掛けの執行人は、自嘲に沈むイオトの前で跪いたまま、首だけを明後日の方向に向けた。
気付けば、シーナもイロハと同じ方向を向いていた。
「・・・何かが、迫ってきている・・・?」
シーナが溢した。はっとなり必死に耳を澄ませるも、なにも聞こえない。
「レーダーに反応はある・・・けど、これは何か判らない」
「距離は?」
「多分、7、800メートルくらい。ホソクケンナイにぎりぎり収まってる感じ」
柳眉を微かに寄せ、五感のうちのいずれかーーー否や第六感まで総動員しているシーナ。五秒ほど集中していたが、暫くするともどかしそうに、
「っ、」
「おい!?」
立ち上がり、家を出ていく。その背中をイオトは慌てて追いかけた。
*
「・・・で?どーすンスカ、オッチャン。イオト君出ていッちまいましたけど」
「まあすぐ戻って来るだろう。・・・戻ってくるのか、あいつ?」
「確かに、イオト君は最近、何かと巻き込まれてる気もしなくッはないッスけどね。疑心暗鬼になる気持ちもわかるッスよ」
「ーーー。じゃあ、お前さんに任せるか。ちょっとイオトの後を追ってくれないか」
「・・・」
「ちょ、ちょっとオッチャン、言いたかないッスけどアンドロイドにイオト君を任せるンスか!?」
「じゃあ仮に、お前があのでっけえ奴ーーー〈オスティム〉だったか?あれに出くわしたら素手で勝てるか?」
「・・・答えの見えてること問わねーで欲しいッス」
「つまり、そういうことだ。だいぶ損傷しているとはいえ、こいつは奴さん達と渡り合うために生まれたんだ。遅れは取らんと思うが」
「そうッスけど・・・」
「じゃあ、そういうことで頼んだ」
「ーーー。ーーーーーー。」
「・・・感情の起伏が少なくて頷いてても何思ってンだか分かんないッス」
「それで?さっきイオト君、めッちゃ銀色の子に驚かれてたけど、ひょっとしなくても字ぃ書くの教えたの確定でオッチャンじゃないッスか」
「・・・」
「しかも・・・よりにもよって"あっち"の字でしょ、教えたの」
「・・・」
「図星だからッて黙り込まないで欲しいッス。別に怒ってる訳じゃないンスから。ただ、そういう所でも気を付けろ、って言いたいだけッス」
「説教じゃないか」
「説教ッス。つーかもうそろそろネタバレしてもいい頃合いだと思うんスけどねぇ。十六年も経ったンだし?」
「・・・うるさい。お前には解らんよ」
「ハイハイ、素直じゃないンスから」
「ーーーお前には、解らん」
懺悔と感慨を含んだ老人の呟きを、聞くものは誰もいない。
- 十四話 ( No.17 )
- 日時: 2020/02/21 19:22
- 名前: おまさ (ID: fwxz9PQ9)
1
ーーー砂に足を少しとられながらも、赤い砂丘を駆け登っていくシーナの小さな背中をイオトは追いかけていた。
砂を蹴散らし、踏みしめ、掬って、巻き上げて。足元に体力を僅かに削られながらも砂塵を撒き散らし、シーナに徐々に追い付いてゆく。
そういえば、シザのような戦闘用アンドロイドはともかくとして、シーナのような非戦闘要員はあまり足が速くないのだな、とぼんやり思う。
「ーーこで、いっか」
砂丘を登り終えた辺りだろうか。シーナが足を止め、何事か呟いた。
少し息を弾ませ、イオトはシーナに追い付いた。
「おい、急にどうしたんだよーーー、」
「ーーーしっ」
言いかけると、シーナはこちらの唇に白い指を当てて先を続かせない。いきなりの行動に、男の子的な事情で少し硬直しているーーー普段ならそうしただろうが、シーナの表情を見ればそれはできまい。
シーナは、その柔和な顔に僅かな緊張を滲ませていたから。
「これから、目標の観測を行う。観測に影響しちゃうから、静かにしててね」
「わ、かったよ。………….でも、いきなり何も言わず出ていかないでくれ、頼むから」
「…..ゴメン」
長めの睫毛を伏せて謝罪したシーナ。その様子を見ながらイオトは、一つだけ疑問に思う。
ーーシーナといいシザといい、何でこう人間らしく作られているのだろうか、と。
戦闘人形に、表情を作る機能など必要ないはずなのだ。本来の目的だけを加味すれば、それこそ敵を屠るだけでいい。表情や感情、ちょっとした仕草など、生産性を落とすだけの無駄な機能だろう。
人形は、いくら人間の形をしていたところで、所詮は作り物。魂の器にはなり得ない半端物に過ぎないのだと。だから当然、表情なんてなくて当然で。
それなのに。
何故。
思い出すと胸が苦しくなるほどに、彼女は美しく映ってしまうのか。
「よいしょ、」
ふと、声に思索から抜け出して見れば、シーナはてきぱきと何かを組み立てている。重そうなバックパックを砂の上にどさりと下ろし、下ろしたそれから何かを取り出した。
黒くて、無機質な金属製の箱だ。側面には冷却用の吸気口のようなものと、スイッチ類が陳列している。スイッチの横にあるジャックにシーナは何かを繋ぐと、再びバックパックから何かを取り出した。
黒と白のツートンのそれは、二対になっていた。シーナが両耳を覆うように二対のそれを着けた途端、変化が始まる。
摩訶不思議なぎんいろの流体が滲み、対になっているそれぞれを繋ぐように形を形成する。シーナの頭頂部で繋がったそれは動きを止め、そこから二対の突起ーーー傍から見ればシーナに狐のような耳が生えたように見えるーーーが出現した。
対になったそれの右側からは、口元に何かが伸び。左側からは先程と同じ銀の光芒が煌めき、白くて細いうなじに続いていた。
「……..これでよし。お兄さん、今から遠距離の観測に集中するから、その間周囲に気を配ってて」
「分かったけど……….その拳銃は、どうする」
ぶっちゃけて言うと、その拳銃はたとえイオトが持っていようと大した意味はない。シーナのガバガバのエイムはどうとかはこの際関係なく、ただ純粋に威力の問題だからだ。
フルオート射撃のできる拳銃ならギリギリ牽制はできるかも知れないが、たかがセミオートの九ミリ自動拳銃で〈オスティム〉を迎え撃てるかと考えると流石に無理がある。種類によっては、アサルトライフルの一斉射撃では仕留めきれないものすらいるのが〈オスティム〉だ。仮にアンドロイドが、一斉射撃を援護として薙刀で斬り込んでも、結果玉砕されてしまうこともこの目で既に確認済みである。
無論、そういった強力な種に限って襲ってくるとは考えたくもないが。
つまるところ、イオトの今の提案は護衛的な意味を伴ったものではなく、何もできない歯痒さと気休めのためのものだった。
「じゃ、お兄さんが持ってて」
そう言って右腿のホルスターから抜いた拳銃を差し出すシーナ。その気遣いに甘え、拳銃を受け取る。
黒くて無骨なフォルムの九ミリ自動拳銃は、しっくりと手に馴染んだ。試しに両手で構えてみても、重心の位置が低いためかぴたりと安定する。
「よし」
半自動に設定。スライドを引き初弾を薬室に装填。残弾は薬室内のものも含め合計五発。
この拳銃一丁で確実に身を守れるかは微妙なところではあるが、少なくともすぐ死ぬ心配だけはしなくて良さそうだ。イオトは内圧を下げるように、深く息を吐いた。
それと同時にシーナは観測機の索敵能力を完全に解放する。光芒が首筋に伸びる白銀の紗を駆け巡り、白銀の瞳が鴇鼠に淡く発光。それと共に幻の熱が頭蓋と眼窩、脊髄にかけて伝播する。
於菟の両耳を象った探査アンテナから流れ込む膨大な情報量を処理、処理、処理処理ーー。
「っ!お兄さん、正面2時方向、獺型強襲種!」
ーーーそうして、果たして処理した情報の通り、突貫が来る。
その体躯、獺の如し。嘶き、殺戮本能の儘に鈍く光を宿した紅蓮の双眸と、漆黒の爪牙。
生物本来の姿を甚だしく逸脱ーーー否、冒涜した姿のあれは、〈オスティム〉。
その脅威を目前にしてなお、何故かイオトの意識は不思議と凪いでいた。脛椎の辺りを冴えた意識で照準し。
「ーーーーーっ!」
撃発。
スライドが後退。空薬莢の排出と同時に両手に伝わるのは、九ミリ弾とはいえ強烈な反動と震撼、そしてスライドからの熱。
それらのエネルギーを以て、貧弱な九ミリ弾は夜の澄んだ大気を縦貫する。およそ360メートル毎秒の弾速と、それが有する運動エネルギー、そして集中力も合わせればーーー奴の身体機能を破壊することなど造作もない。
朱の色彩が僅か宙を舞い、〈オスティム〉の咆哮を断末魔に塗り替える。力なく、僅かに四肢を震顫させたと思うと、そのまま砂丘へ命を散らした。
ーーーーその様子を見届けてから、イオトは己の心拍数が上昇しているのを自覚した。
「は、ふぅ………」
「まだ!次が来る!」
息つく間も無く。
そう。
息を吸うことすら忘れ、イオトは第六感に近い感覚で銃口を定める。次は二体。続けてトリガを引く。拳銃は手のなかで暴れるが、こちらも何とか命中。掌に痺れ。
「今のところ、何とか当てられてるな………」
銃口から僅かに昇る煙を見ながら、痺れた手を軽く振る。
我ながら、初めての射撃にしては中々上手く出来ている方ではないかと思う。まあ、シーナの拳銃が扱い易いといった点もあるが。
残弾は残り二発。そろそろ弾倉をーーー、
「っ!?」
シーナの戦慄の気配にイオトはふと我に返る。
「シーナ、どう…….」
「ーーー南西より距離、およそ200」
少女は、震える唇を引き結び、恐ろしい観測結果を報告する。
「………駆逐攪乱種、多数……..!?」
2
人は、無力だ。
如何な英雄や豪傑、猛者とて世界に歯向かえる所以も道理も、存在すらこの世界には許容されていない。
如何な愚物や只人、蛮輩とて運命を謗り貶める故由も理屈も、縷述すらこの世界では誅殺の罪に値する。
故に。
仮に、世界に、運命に、摂理に、未来に、過去に、克つ存在が居たとするのならば。
人はそれを、「神」と崇む。
ーーーーそして、御身の叡慮を為すべく、爪を、牙を、骨を、命を以て福音に報いるのだ。
3
静謐と宵闇が辺りを抱擁する砂丘。そこに人影がぽつんと佇んでいた。
細身の“それ”は、白銀の短髪を夜風に晒しながら疲れたように呟いた。
「……やれやれ。また今回も事務処理か、面白くない」
テノールの響きは、砂風に掻き消される。
「直接干渉する訳にはいかないけれど。でも、僕らの敵を傀儡にするのは興醒めだと思うな」
人影は、退屈と呆れ、僅かな諦念が混ざった声音で、宣う。
「まあ、僕も造られたものに過ぎない。命令には常に忠実に、従順な木偶人形でいるべきだ。けれどさ、それってどうなのかな。特定のやり方に固執するのは面白味に欠けるのに」
人影は、ゆっくりと両手を掲げた。
「事務処理、後処理、後始末。つまらないよね。ああ、なんて心踊らない」
言葉とは裏腹に、声には僅かに愉しげなものが滲む。
砂の大地から、月が夜の紗を引き連れて昇る。その月光に透き通るように白い肌を照らされながら、人影ーーー否、少年は嗤う。
「ーーーーー何事も、楽しまなくちゃ」
さらさらと、砂の音だけが高説を聞いていた。
- Re: ジルク【キャラ募集中】 ( No.18 )
- 日時: 2020/03/10 14:15
- 名前: おまさ (ID: evK4EJEz)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=thread&id=1219&page=1#id1219
↑ジルク関連のイラスト掲示板専用リンクです。
- 15話 ( No.19 )
- 日時: 2020/04/09 15:05
- 名前: おまさ (ID: r1bsVuJn)
1
ーーー駆逐攪乱種。前にもシーナと合間見えた相手だ。こうも相対のスパンが短いとなれば、まさか自分は呪われているんじゃあるまいか。
シザを喰ったあの巨獣には敵わないとて、駆逐攪乱種は恐らく重量級の類に与する〈オスティム〉だろう。当然だが、拳銃じゃあとてもじゃないが太刀打ちは出来ない。
いや、厳密には弱点を突ければ拳銃でも対応可能だ。しかし、この場合は数が多すぎる。
「シーナ!何かないか何か!」
「分、かってる….考えてるよっ……!」
少々刺々しい態度になっているシーナにも余裕がない。イオトよりも情報量を持っている彼女だ、多分イオトよりも焦っているのだろう。
見れば、夜の砂丘の向こうには、夥しい程の砂煙が立ち上っている。それが何なのかは想像に難くない。
「….クソ」
漏れた呟きを尚噛みしめ、イオトは歯噛みする。
今日は、何という日なのか。絶望に絶望を重ねて、自己嫌悪と世界への呪詛に塗れて。
ーーもう、終わりなのか。
この感慨を抱くのも、今日で何回目になるだろうか。
ただ一つ明瞭に己の内にあるのは、世界はこんなちっぽけな感傷に浸ることすら赦してくれないということだ。
事実、 駆逐攪乱種と此方との距離は百メートル程まで迫って来ていた。奴らの機動力を以てすれば、この距離は数秒で詰めることができるだろう。
機動力ではこちらを圧倒。攻撃力も、奴らが前足を振り下ろしてしまえば、脆弱なひとの体など引きちぎってしまえる。とても、拳銃一つで突貫できる相手ではない。
数は質に勝るとは言うものの、質すら劣っている此方に、勝機は皆無。
ーー距離、五十メートル。けたたましい咆哮は、戦陣が鬨の声をあげる様とさながら同じだ。
「….ッ」
ーー距離、二十メートル。その、本能的に畏怖を催す外見と眼光は、一方的な暴力の気配を纏っている。
「………ッ……..!」
そのとき。不意にシーナが叫ぶ。
「ーーー北北東より、不明機接近っ! 時速…257キロ…..!?」
息を詰め、振り返っても遅い。
“それ”は、時速二百キロ超の圧倒的な速度とそれに伴う運動エネルギーを以て、中空を飛来する矢の如く。
“それ”は、月光に煌めく銀の色彩と、宿業の成就が叶えば折れ続けるも由とする氷刃の様な冷徹さを以て。
先頭の勢いを削ぐべく、大気を、砂塵を、敵を縦貫しーーー主の槍となって障害を穿つ。
「ーーーーイロハっ!」
突如として吹き飛ぶ、先頭の〈オスティム〉。その光景にイオトは、安堵のような、歓喜の様な声を上げる。
応じる声はない。しかし、翔ぶ機構少女は先陣の勢いを確かに殺している。数発、閃光の様なものを撃ち込んだ彼女は、派手な爆轟を背景にイオトの目前に背を向けて降り立った。
ーーーその綺羅の装いと、頭上の幻想的な光の冠、煌めくけれど華奢な羽は、確かに天使のようであった。
がしゃり、という作動音に見れば、イロハの両拳の付近が裂けーーー鋭利なフォルムの発光体が顕現する。それが近接武器の類いであることは、その危うい紫紺の光芒を見れば明らかだ。
前傾姿勢で脚部ブースターに点火。重量実に300キロ級の重武装のアンドロイドを200キロ毎時超過の世界に導く暴力的なパワーが、大気と砂を蹴散らす。
「….す、ごい」
飛翔体ならではの立体的な機動で敵を撹乱する様に、思わず感嘆が漏れる。
左斜め上に旋回、そして急降下。
ブースターによって吹き飛ばした砂塵で相手の視界を塞ぎ、その隙をついて敵の斜め後ろに回り込む戦術。口にすればそれだけの事だが、正気の沙汰でないことは確かだ。ーー何せイロハは、それを時速200キロ以上のステージで平然とこなしているのだから。
〈オスティム〉の後方に回り、イロハは自身からブースターを切り離す。ブースターはより高く高度を上げ、….イロハは砂の帳のなか地表に降り立った。
イロハの両拳に装備されている武器ーー詳細は不明だが、いわゆる暗器に近い近接武器では、数多の敵を掃討するのにはあまりに効率が悪い。
何せ、一体一体を相手取らなければならないのだ。近接武器というのはそういうもので、だからこそ敵の射程の外側から面制圧可能な銃器やミサイル、ひいては航空爆弾が、戦争においては発展してきたのだと言えよう。
故に、こう断言できる。ーー殲滅戦において、近接戦闘は愚の骨頂。刃など、以ての他である、と。
無知蒙昧の衆愚の早合点を、しかしイロハは続く攻様で否定し、鼻で嗤った。そして軽く軽蔑するかの如く体現する。
ーー舐めるな、凡愚。
高く高く飛翔したブースターは一定の高度に達すると、変形。そして、
「…あ」
ーーー刹那、ブースターを起点に、放射状に紫紺の光線が大気を灼いた。
2
天誅。そんな言葉が脳裏を掠める。
神に代わり、下賤に誅を下す執行者。“engel”ーー天使の名を冠するに相応しい様だ。
光の矢が数多の〈オスティム〉を貫く様は、宛ら雷霆を想起させた。
そうして生まれるのは、戦場にはいっそ不自然な空白地帯だ。
「…」
それだけの攻撃を成したイロハはしかし、その攻撃を受けあまりの高温に血潮すら流れない屍を意に介さず、地を蹴る。最も近い〈オスティム〉との距離を詰め、一閃。吹き出す青の鮮血。
「……っ、は」
イロハがとどめを刺したとき、イオトは自身の呼吸が止まっていたことを自覚した。あまりの攻勢の鮮やかさに、呼吸を忘れていたのだ。
「ーーー。シーナ、マガジンを」
弾倉を受け取り、思い出したように拳銃をリロード。十六発の九ミリ弾を収め、初弾を装填した。
「……とりあえず、半径五十メートル付近の目標は完全に沈黙したよ」
シーナが目線を此方に向ける。その白い顔が僅かに、緊張が解れたような表情をしている気がするのは間違いではないだろう。イオトも、はりつめていた息を吐いた。
「そ、っか…」
ひとまずは安堵だ。気休めでも、今は余裕が欲しい。
「あ、そうだ。ありがとう、これ」
イロハがいれば、この拳銃がなくても大丈夫そうだ。礼を言い、拳銃を差し出した。それを受け取りシーナは再び表情を引き締めると、少々気まずそうに切り出した。
「お兄さん…?」
「ん?」
「…ごめん」
シーナは、頭を下げていた。
「ちょちょちょ、どういうことだよ。何で頭なんか下げて、」
慌てて頭を上げさせようとしたイオトは、そこで言葉に詰まった。シーナがその容姿には合わぬ、泣き笑いのような自嘲のような、断頭台に上がった聖女の様な、複雑な表情を滲ませていたからだ。
その表情に、感情に対してかけるべき適切な言葉を、イオトは知らない。慰撫の類いは、イオトの語彙は持ち合わせていない。ーーそれが酷く、歯痒かった。
しかし、そんな歯痒さも、続くシーナの言葉と行動の前では焦螟に等しい。
「ーーーここが、終着点みたいだね。イオトも、わたしも」
胸に突き付けられる冷たい感触が、拳銃のそれであることを理解するのに数秒を要した。