複雑・ファジー小説

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ジルク【キャラ募集中】
日時: 2021/05/02 21:17
名前: おまさ (ID: EmSHr2md)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1260

どうも、初めましての方は初めまして。セイカゲからの方はこんにちは、おまさです。

今回は、SF的な作品が書きたくてスレ立てさせて頂きました。この作品は、皆様と一緒に作っていきたいのでキャラ募集をします。リクエスト掲示板の方に関連スレを立てましたので、そちらにキャラ情報を投稿していただければその中から選抜して作品に登場させたいと考えています。(詳しくは関連スレへGO)
あ、ちなみに関連スレは上のリンクから行けます。

世界設定などは本編の方で触れますのでご了承下さい。
なお、本スレは感想など受け付けておりますが、ここに投稿したキャラクターリクエストは受理しないと思ってください。
また、スレッドを荒らすような真似は絶対にしないでください。宜しくお願いします。

では、本編どうぞ!

****

2021年5月2日をもちまして、当作品の執筆を終了させて頂きました。ご愛読ありがとうございました。
なおそれに伴い、スレッドをロックさせていただきます。
カキコ引退の旨に関しまして、雑誌掲示板にてご説明させて頂いておりますのでそちらを参考に。

****


もくじ




(最新更新:>>28) (関連イラスト:>>18) (一気読み用:>>01-)


1話:逢瀬              >>1

2話:外出はパーカーと共に      >>3

3話:アフレイド・オブ        >>4

4話:オムカエ            >>5

5話:ファン・トゥ・ドリフト     >>6

6話:羅刹              >>7

7話:偽善の形            >>8

8話:アネサマ            >>9

9話:王子              >>10 

10話:velvet             >>11

11話:Raison d'etre          >>14

12話:傲慢              >>15

13話:捕捉             >>16

14話:神ヲ驕ル者          >>17

15話:冷たい感触          >>19

16話:ふぉーてぃーせぶん      >>20

17話:ばけもののすがた       >>21

EX:前日譚1(上)「16年前の雲の上で」 >>22

18話:オマエヲコロス        >>23

19話:天誅             >>24

20話:ダンシング・クラウン      >>25

EX:書き下ろし短編「An another automata(with its sarcasm)」>>26-27

21話:デスティネーション      >>28

九話 ( No.10 )
日時: 2019/10/27 19:26
名前: おまさ (ID: cZfgr/oz)

「M-43GL2」

 その無機質な名を聞いたとき、脳裏に浮かぶのは先の出来事だ。『オスティム』と相対し己の無力を噛み締めた、事実上戦死者ゼロの戦場。戦塵と硝煙、砂煙のぼる喧騒の気配。
「・・・シザ」
 細く、呟かれた言葉は自分のものだ。短いその響きには自覚しきれないほどの万感が確かにある。
 後悔。自嘲。懺悔。義憤。憎悪。瞋恚。あらゆるマイナスの感情の波が、心の岸壁に打ち付けられ、胸が締め付けられる。
「・・・お兄さん、あれ・・・」
 そんな、己の内の感情の荒波に呑まれるイオトは気付かない。
「お兄さん、」
 今、自分の背後に———、
「————イオトっ!!」
「!」
 少女——シーナの高い叫び声に我に返ったイオトは、すぐさま背後の気配に気づく。肌が戦慄に粟立ち、刹那思考が漂白された。
 その一瞬が大きかった。少なくとも、イオトの首を刎ねるのには十分すぎる時間だったろう。
 『敵』は、そのまま右腕の鎌を振り下ろして———、


「しっかりして———っ!!」
「だばっ!?」
 横から突き飛ばされた直後。

 中空に一閃。空気が切れ、凄まじい風切り音が骨の髄までびりびりと響く。

 台地に顔面から着地したイオトは、食んでいた砂を吐き出し———背中の上の重量感に目を剥いた。
「シーナ重い重い重いどいて痛い極まってる関節極まってる痛い痛い痛い痛い死ぬ!」
「大丈夫!?お兄さん」
「息、が・・・しーな・・・はや、く」
「・・・え?あ、ごめん」
 シーナがどき、肺にいきなり酸素が入って咳き込む。気管に詰まりかけた痰を、口に微かに残った砂と一緒に吐き出した。
 シーナの様子を見るに、どこにも被害は無いらしい。イオトを突き飛ばした勢いで、シーナもイオトと同じ方向に飛び込み死撃を逃れたのだ。
「けほっ・・・ありがとう、シーナ」
「感謝じゃなく反省してほしいな!」
 
 感謝を述べ、改めて相手を吃と睨む。
 こちらの平静さを崩さんというばかりの圧倒的な鬼気を以て睥睨する「それ」は、三メートル超の巨大な図体をもっていた。足は六本、先程の『オスティム』よりもスリムな体躯。前足は鎌のような形に発達しており、二つのそれを擦り付ける様子はまさしく殺戮種の闘争心の表れである。
 そう、それは一見すると、巨大な砂色の蟷螂のようであった。
「『オスティム』・・・!」
 苦々しく呟くシーナ。なるほど、『オスティム』とは単に個体の呼称ではなく、アンドロイド部隊の敵全般を示すことばらしい。
「シーナ、戦闘については期待して大丈夫?」
「———。ごめん。私は戦闘用ユニットじゃないから」
「オーケー。・・・あいつの弱点は?」
「駆逐攪乱型(クレヲヴロター)か。弱点は後ろ足の付け根だけど・・・」
 相手の後ろ足の付け根を確認し、イオトはシーナの右腿のホルスターを見やる。
「狙える?」
「————やってみる」
 言って、シーナはホルスターから拳銃を取り出した。何ということはない、九ミリ自動拳銃。シザのものよりやや大型の、複列弾倉(ダブルカラム)の。
 初弾装填。半自動(セミ・オート)に設定。

 撃発。

 軽く、乾いた音が響き、初弾が毎秒約360メートルの速度を以て大気中を縦貫。銃身の内圧によりスライドが後退(ブルバック)し、次弾が薬室に装填される。
 間を空けずシーナは4発、ぱぁんぱぁんと続けざまに撃ちこむ。
 5発撃ちこんだところで、スライドが後退したままになる。弾倉が空になったのだ。
 弾倉内の五発の弾丸———この拳銃の弾倉には十六発の弾が入るが、常に全弾を入れていると弾倉のスプリングが弱くなるため、自衛用拳銃には五発のみ入れた状態で装備し、スプリングの劣化を少なくしている———を撃ち尽くし、強化樹脂プラスチックのスライドの熱が手に伝わってくる。
「やったか!?」
 ・・・ここでこの台詞を口にした自分を責めたい。
 ひどく、動悸がうるさい。と、

「——————ッ!!」
「「うわぁぁっっ!?」」

 耳障りな音を出し、『オスティム』が咆哮。その迫力に、思わず身が縮こまってしまいそうだ。
 ———拳銃は、効かない。
「・・・そういえば私、前お姉ちゃんに『二度と拳銃触らないで』って言われてたような・・・」
「———、」
 結論。


 シ  ー  ナ  射  撃  下  手  く  そ


 当たる当たらないという次元の範疇にない。先程視界の端で火花が散っていたが、よくよく考えればシーナの撃った弾が舗装路のフェンスに突き刺さっていただけで。
 というか弱点をピンポイントで突くは不可能にしても、十メートルもないこの至近距離で正面の外皮にすら掠りもしてないエイムって、いったいどういう。

 青い顔で——アンドロイドにそんな機能があるのかわからないが、そう見えた——イオトを見るシーナ。そんな少女を尻目に、『オスティム』が一歩、二歩と近づく。十メートルもない距離を詰めてくる。
———こんなところで、終わりなのか。

———まだ。

———まだシザを取り戻していないのに。

「・・・ク、ソぉ・・・」
 終わりだ。そう思って目を瞑る。隣で少女が何かを叫んでいる。自分に何か訴えているのだろうか。
 いづれにせよ、終焉だ。鎌が、愚者の首に迫る。



————。
—————————。
———————————————。—————————ん?


 意識の淵に、何かが聞こえる。ドロロロロと響く喧騒。時代遅れの内燃機関の音。
 〈レヴァトノフ〉ではない。既に燃料が尽きているし、第一、エンジン音が違う。

 これは———大排気量・スモールブロックV8の音だ。

「—————おっとォ、カマキリさんよォ。轢禍の御歓待はいかがァ〜?」
 瞬間、『オスティム』が爆ぜる。
 太く、巨大な四つのタイヤに体躯を蹂躙され、変な音を立てて巨躯が軋み、均され、潰れる。
「———ッ!!—————ッ!!」
 その絶叫と、ブレーキ音が奴の断末魔となり、青の血潮が噴出。その様を、イオトとシーナは呆然と見ていた。

 喧騒の正体である、六輪のトラック(スポーツカーの前半分に荷台をくっつけたみたいな見た目)が止まる。そこから降りてきたのは白馬の王子様————、
「—————イオトぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」
————じゃなかった。血相を変えた大柄の老人が降りてきた。

「え、エソローじ・・・・ごぼびゅらっ!?」
 即座に腹筋を鉄槌———否、拳骨が貫く。そこから間髪入れず、御年六十とは思えない正確さとパワーを以てイオトの右頬に丸太のように太い左腕がぶち込まれた。
 吹っ飛ぶイオト。
「全く、馬鹿かお前は!どれだけ心配したと・・・ん?」
 イオトを叱責し始めた時、視界の淵に何か見慣れないものが映り、エソローはそちらを注視。
 銀髪の少女、シーナが視線に困ったように「え、えっと・・・?」と首を傾げる。
「———とりま、説明が必要な感じッスかねェ?」
と、六輪トラックの運転席から顔を出したのは。
「・・・ら、ラティビさん・・・?」
「んや。みんな大好きラビさんよォ。イオト君はお久だね」
 苦し気に呻きながら、イオトが呟くと、女——ラビは微笑む。

 瑪瑙の髪をポニーテールにまとめ、動きやすさを重視したホットパンツと黒いシャツ。その上に羽織ったカーキ色のジャケットが、風にはためく。年齢は十九歳あたりで、鋭い三白眼をこちらに向け、すこし高めの鼻頭を擦っている。
 その、整った顔立ちのラビに見下ろされ、イオトは状況がつかめずに混乱した。すると。
「・・・イオト」
「ハイっ!何でしょう」
 思わず背筋を正したイオトにエソローは、
「車に乗れ、行くぞ」
「・・・え」

その後、一行は〈レヴァトノフ〉を荷台に固定した後、その地を後にした。

十話 ( No.11 )
日時: 2019/11/05 19:38
名前: おまさ (ID: cZfgr/oz)

 ドロロロ、とトラックは砂漠を走破していく。六輪で滑りやすい大地を掴み、大排気量のクロスプレーンV8の野太いエンジン音とともに砂を蹴散らして進む。
「ーーー、」
 ふと、後部座席に座るイオトは車窓から外を見た。
 紅鏡は既に西に傾き、風が均した赤砂の丘陵の輪郭に沿って猩々緋が輝く。暈を纏った太陽と紺藍とのコントラストが美しい。
「今夜は風がちと強いッスからねェ。ゆっくり進みましょー」
 眺めていて分かったが、軽薄な言動と裏腹にラビは巧みに埋もれやすい砂の上にラインを描いて少しずつ前進していた。
 エソロー爺が鼻を鳴らす。
「うんにゃ、そうもいかん。燃料は?」
「予備のタンクも含めて、持ちそうッス。・・・飛ばすッスか?」
「できれば、だな。ーーウチに、誰かが侵入ってない保証はない」
「ーーッ、・・・そう、ッスね」
 何故か、ミゼは唇を噛んでいる。彼女の過去に何があったのか気になったが、触れてはいけない気もした。
 
 そして何故、エソロー爺は道を急ごうとしているのだろうか。「ウチに」といったって、家に大したものもない。それこそ、希少価値が一番高いのはエソロー爺の愛車、〈レヴァトノフ〉だろう。
 それとも何か、まだ自分の知らない物が眠っていたりするのだろうか。

「ーーーーところでイオト君、少し質問させていいッスか?」
「え・・・?あ、はい・・・」
 前を向きながらラビが問うてくる。断る理由はないが、何か釈然としないままイオトは了承した。
 一瞬、ラビに目線を向けられる。いつもよりも更に切れ味を増した、黒い三白眼に半ば睨まれるように見られ、思わず喉が鳴った。
 その音に気付かないふりをしてラビが切り出す。

「その娘は、ーーーどういうつもりィ?」

 途端、イオトの隣に座っていたシーナは身を竦めさせるように背筋を伸ばした。怯えたように少女は、被っている帽子を少し目深に被り直した。
 その仕草一つとっても人間と寸分の違いない機構少女を、しかしラビは冷ややかに無視。車内の空気が急速に不穏で冷たく張り詰めたものになっていくのをイオトは肌で感じとった。
 固まりそうになる口を何とか動かしてイオトは状況を説明した。

 シザーーーアンドロイド部隊の戦闘に巻き込まれたこと。戦場から逃げたさきのかつての大都会でシーナとあったこと。シーナはアンドロイド部隊ーーロザリオ大隊といったかーーの管制補佐機であること。そして、
「ーーそれで、シーナとオレであの化け物に遭遇して、ラビさんに助けられたんです」
「ふぅン。つまり何、この娘はアンドロイド部隊と何らかのネットワークで繋がっているッつーこと?」
「え・・・?いえ、その可能性は・・・」
 言いさしてはっ、と口を噤み、イオトはシーナを見た。怖々と見上げてくる白銀の色彩。
 その姿と、自分が最初に出会った機構少女の姿が重なる。そして、いつかの出来事を思い出した。








『ーーーいえ、ただの通りすがりです』


 そう、あのとき。まだ一日も経っていない新しい記憶。天から迎えが来て、彼女が天に戻った出来事。


 そういえばあの時。
 ーーーーーあの時、シザを迎えに来たあの部隊は、どうやって彼女の場所を突き止めたーー!?






「ーーーやっぱり、そういうことか」
 がしゃりと、シーナに突きつけられる黒いもの。それが拳銃であることを理解するのに、五秒ほどを要した。
 アンドロイドが持っているものではない、蓮根のような回転式弾倉をもつリボルバー。九ミリの口径よりも、やや大きめの。
 自動拳銃に比べ、熟練度が問われる回転式拳銃は、だがしかしこんな至近距離では熟練度なぞ関係ない。
「ラビさん!?どう・・・」
「どうゆーことだ、とか口にすンな、イオト君。ーーーこいつがアンドロイドだって言えば、説明になる」
「ーーーッ・・・!」
 
 また、なのか。

 また、彼女らは謂れもない偏見と畏怖の念に縛られるのか。

「・・・ぅして」
「・・・あ?」
「ーーーどうして、そんな風なこと言うんですか!この娘はーーいえ、彼女たちは!人のかたちをした紛い物なんかじゃない!心は、本物なんだ!!」

 吠える。紛糾する。
 最初からーーそう、最初からおかしいと思っていた。「彼女」の手を引いて阿鼻叫喚たる火の街から逃げたときも。今、この瞬間も。
 自分達が失ってしまったなにかを、彼女たちは持っている。表層的な部分ではなく、もっと深い、人格の根底には確かに。
 それがなにかは、解らないけれど。
 それでも。
 でなければ、あんな風に微笑んだりはしなかっただろう。

 しかし、自分の思いがラビに届いたかは一目瞭然だ。

「は?」

 まるで理解できない怪物を見るようなーーー否、もはや嘲弄の片鱗すら見せ、ラビは失笑を零す。
「馬鹿か、君は。コイツらが、人間?作り物でねーと?ハッ」
 鼻を鳴らし、ラビは嗤う。
 よくも。
 ぬけぬけと。

「人を作れるンは神様だけだよ、イオト君。その神を不遜にも真似て、ヒトは己の分身を作った。その結果生まれたンはコイツら機構人形だ。神の傀儡が真似事したってろくなモンが生まれやしねェ。・・・奴さんだって判ってた筈さァ」
「ーーッ!」
「・・・ぅいい。もういいよ、お兄さん・・・っ」
 シーナが諦めたように目を伏せるのを、イオトは黙って見ているーーそれだけの事が、このときは出来なかった。
 すぐさま横からラビの拳銃に飛び付き、そのまま銃の射線上からシーナを外す。そのまま、ラビの手から無骨に黒光りするそれをもぎ取って、





「ーーーー喧嘩で私に勝ったことが、一度でもあったンか?」
 
 暴力的な囁き声が背中をぞっと撫ぜたのと、暴風のような力がイオトの体に働いたのは寸分の狂いなく同時。そのまま片腕を払われ車内の壁に押し付けられる。
 年下とはいえ成長期真っ盛りの少年だ。体重も筋力もそれなりにある。そんなイオトをまるで苦もなく、完膚無きままに押さえつけたラビは、イオトが呻くのを無視して運転に戻る。

「ーーー。手加減の一つくらい見せろ、ラティビ。可愛いげのない」
「生憎、私は完全に相手ぶッ潰しても可愛いままなんで〜」
 後部座席での一部始終を横目で見ていたエソロー爺が言う。それに対してラビは軽口で応じた。
 終始、飄々とした態度が抜けないラビにエソロー爺は軽く息を吐く。
「ともかく・・・ラティビ。そのアンドロイドをぶッ殺すのは止めるぞ」
 片眉を上げる気配。
「へェ、イオト君に肩入れするンで?」
「いや。ーーーなぁ、嬢ちゃん」
「・・・は、はいっ!?」
 直前の空気を引きずっていたのもあったのだろう、突然の呼び掛けにシーナが肩を跳ねさせ、姿勢を改めた。エソロー爺はそんな銀髪の少女に対して、複雑な念を圧し殺しているような眼差しを向けた。
 まるでーーーーーーーそう、死んだ知り合いの子供を預かってくれと言われたときのような。

「嬢ちゃんの、お仲間とのリンクは生きてるんだな?」
「え、っと・・・いえ、どうやら無反応です。先の戦闘の前、イオトさんに会う前から交信システムが熱でダウンしてまして」
「だそうだ、ラティビ。オマエがこいつを殺す理由は、今潰れた」
「・・・・・ふ〜ん」
 ラビはつまらなそうに唇を尖らせたーーー否、それだけではなさそうだったが、顔を背けられたのと常日頃からの飄々とした態度でよく分からなかった。

「ーーー、」
 ふと、イオトはシーナを見た。帽子の鍔に隠れ、表情は分からなかったが。
「ーーーーーーっ」
 その両手が何かを祈るように組まれているのは見えた。



 家に着いたのは、陽が完全に沈み、辺りが砂漠の静謐と闇に支配された頃だった。
 四人が玄関を抜けたところでイオトが燭台の蝋燭に火を灯し、部屋がほんのりと明るくなったところで、エソロー爺はイオトから目を逸らしながら言った。

「イオト。お前に猛省してもらうのは当然の事として・・・いや、先にこれを見た方が早い」
 嫌な予感がする。勝手に乗り物を借りたのも、貴重な燃料を使い果たしたのも悪いと思っているが、それでも悪感は収まらなかった。

 そんなイオトを尻目に、エソロー爺は戸ーーーイオトの部屋の戸を開け、顎でその部屋の方をしゃくった。中に入れ、ということらしい。
 ドキドキしながら部屋に入り、そこで目にしたものは。












「ーーーーは」

 陶磁器の如く白い肌。華奢な体躯と、それに似合わない程の重装備。長く伸ばされた繻子の白銀の輝きと、右腕の刻印。しかし、そのベルベットの瞼は閉じられており、その肌の色も相成って死人のようだった。
 左腿の外側にはコードと、バッテリーが繋がれており、彼女がアンドロイドであることは確かだ。

 ただ、シザとは雰囲気が異なる。恐らく、軽装のシザに対してこちらは重装備過ぎるからだろう。背中には推進機の様なものも確認できる。
 そして、彼女の右肩には「こう」刻まれている。




































ーーーー〈M-0E6h:engel〉と。

***

こんにちは。今回もご覧いただきありがとうございます、皆さん。

今回、ようやく応募頂いたキャラクターの一人目を出すことが出来ました!
キャラクター原案は・・・不明機さん!ありがとうございます。
不明機さんに応募頂いたのは、最後に出てきたアンドロイド、「エンジェル」です。

まだキャラクター募集中なので、是非皆さんの素敵なアイディアをキャラ募集用スレに投稿して下さい!


 キャラ募集用スレには、親スレッドに貼ってあるリンクから行けます。是非どうぞ。







Re: ジルク【キャラ募集中】 ( No.12 )
日時: 2019/11/18 20:39
名前: マー (ID: noCtoyMf)

まだキャラ募集してますか?

Re: ジルク【キャラ募集中】 ( No.13 )
日時: 2019/11/19 23:54
名前: おまさ (ID: cZfgr/oz)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1260

マー さん


はい、ただいま絶賛キャラ募集中です(連載終わるまで募集しようかなと)。ただ、このスレッドには投稿しないで下さい。ちゃんと投稿用のスレがありますので。

上にURL 貼っときますね。詳しくはそちらのスレに書いてあります。




今後とも、よろしくお願いします。


皆様、更新はもう少し待っていただけると幸いです。

十一話 ( No.14 )
日時: 2019/11/28 19:01
名前: おまさ (ID: cZfgr/oz)

こんにちは。
皆さん、閲覧数1000突破しました。ありがとうございます!ここまで来れたのも皆様のおかげです。
頑張ってガリガリ書いていくのでどうぞ、お付き合いをば。

それでは、本編どうぞっ!




***


1




闇の中を、揺蕩う意識だけが漂っていた。
「ーーー、」
不意に、この虚無の中に、不鮮明な声が聞こえた。
暗澹にくぐもる、声音が。






《パルス確認》

《自我境界、正常。被観察対象の起動指数到達まで推定0,6》
《リアクター正常。子機に点火、、、確認》
《予備電力101%、臨界突破》
《アクチュエータ動作確認、、、感度良好》

『よし。・・・これより起動実験に入る』

『了解』
『新型リアクターのお披露目だ。さあ、お前の実力を見せてくれ』


《Nab486型リアクター、稼働率33%。電力充填完了。外部電源との回路遮断、、確認》
《起動準備完了。アクチュエータ活性化。ソレノイドバルブ、圧力許容範囲内》
《第一から第四までのインタークーラを作動》
《回路正常。負荷許容範囲内》

《OS起動。ver.2,1:testedition》
《データベースas10より、M-43Gl2ユニットのファイルを展開中》

《第三意識隔壁にプロトコル展開》

《シグナル作動。水温、電圧規定値クリア。オールグリーン》
《コンタクト可能》
《カウント省略。メイン接続》







《M-43Gl2'Q7ユニット、起動を確認》
《視覚情報を反映します》

 意識が、水面に浮上する。





































ーーーーそんな感覚のなかで、何かを呟いた気が、した。

2

 場所は変わって、私は第四ケージにいた。
 金属製の、天空に架かる要塞の中。無機質と機能性が支配する、冷たい雰囲気の廊下。珍しく無人だ。
 その無機質のうちの一つーーー白いベンチに腰を落とし、灰色の寝衣を着た私は俯いていた。
 「ーーーーー」
 視界の端では、虚しくも二十分ほど前から延々と同じコマーシャルを垂れ流している電光掲示板があり、意識の中でうっすらと空転している。いい加減、頭に染み付いてきそうだ。ずっと頭の中に図々しくコマーシャルのメロディラインが流れ続けているのだから、心を蝕むのも道理と言える。

 ただ、ここから重い足を動かして移動したいとは思わなかった。
 新しい身体に慣れていないからではない。ーーー気持ちの問題だ。
「ーーーっ」
 正直なところ、まだうまく整理がつかないのだ。唇を噛み、頭を抱え込む。そうしても何も考えが浮かんでこない。
 人気のない場所を選んで蹲っているのも、これが理由だった。

 私は、誰。

 その言葉だけが、永遠と脳裏を廻り続けていて。
 自分が『二人目』であることは自覚しているーー筈だ。〈M-43Gl2〉という自分の識別コードも聞き慣れたものだったし、そこに「Q7」という響きが加わっても受け入れる事ができた。これが、新しい身体を与えられた私の名前なのだと、すんなりと。
 でも、それとはまた別の話なのだ。
 新しい身体に魂を移した状態の私は、それ以前の私が何をしたのか一切合切忘れているーーーーーとは、起動したばかりの私に説明された事のうちの一つだ。
 無論、訓練所時代の事は覚えている。学んだ戦術や部隊の基本展開の技能なぞ忘れる筈もないし、そこで、妹と呼ぶに等しい位の間柄がいたことも。
 しかし、私の覚えている記憶はそこでぷっつりと途絶えている。縒り集まって形作られている記憶の糸を辿って、過去の頁を見ようとしても、脳裏に映し出されるのは最後の記憶ーーー決別の朝のところで終わっていて。

 それなのに。
 それなのに、これは何だ。
 何故こんなにも、胸が締め付けられるのだろうか。
 何も、覚えていない筈の私が。
 何も、持ち合わせていない空っぽの私が。
 この、たった二文字の響きに、何故ここまで。

















































































              シザ。





































 これは、一体何の残滓なんだろうか。

 白昼夢の追憶か。
 幻想の虚構か。
 蜃気楼に映る、虚像か。
 あるいはーー否、有り得ないだろう。

 思考回路を廻る謬見を、詭弁を、理性が駆逐して廻る。

 私は首を振った。
 それは考えてはいけないことだ。
 だって。
 考えればきっと、求めてしまうから。
 求める資格なんて、私には無いのだから。

 だが、考えまいと、思うまいとするその行為は、考えることと一体何が違うと云うのか。その響きを意識から外そうとすればするほどに、それは己の存在を主張する。
 知らない筈の記憶。覚えのない筈の声。ある筈のない出来事。現実と、記憶と、事実と、追憶と、矛盾を抱え、乖離し、齟齬が生じて。

 私は、自分を知らない。

 自分が、何者なのか。

 自分が、何をしたのか。

 自分は、何を求めたのか。

 自分は、何を想ったのか。

 自分は、誰に出会ったのか。

 自分は、誰に求められたのか。

 


 何も知らないまま、図々しくもこの身体に意識を上書きして。
 私は、誰なのだろう。
 そのーーーたったそれだけの答えが、いつになっても出てこない。それだけの証明が、自分の価値観のなかで為されない。
 存在意義。
 存在証明。
 曖昧になって、揺らぐ自分。
 持っているはずのない記憶、それを持っている自分が一体誰なのか解らなくなっていくのを、混濁した思考に自覚していた。

「ーーーー」
「っ、」
 そんな思考を展開していた私は、唐突に知覚した靴音で椅子から勢いよく飛び上がる。そのまま壁際に移動し、右腿のホルスターに右手を滑らせて自動拳銃のグリップを掴もうとしーーーー空振った。
 そうだった。ここは地上ではない、〈ジルク〉第四ケージ。武装など装備している筈もない。

「ーーーここに居たのか、43番」
 その事に気付いたのと、声が掛けられたのは同時。その聞き覚えのある声に警戒を解き、一歩進み出る。相手の姿を視界に捉えると、インターフェースに彼の階級が表示された。
 日光の光が直接届かない〈ジルク〉では珍しいとも言える褐色の肌。きっちりと切り揃えた短い黒髪。少し切れ長の目には髪のいろと同じ瞳。

 デロル・ヘーデンヴィーク大尉。40型及び50型アンドロイドの開発最高責任者直属の部下の男である。

「大尉。失礼を」
「急用だ、今はいい。それよりーーー」
 彼のーーー判りづらかったがーーーいつもよりもさらに緊迫した雰囲気を感じとり、悠長にしている暇がないと悟った私は意識を改める。
 黒い瞳と視線が交錯する。

「ーーーカービス少佐がお呼びだ。着替えを済ませたら至急、第二発令所まで来い」


3


 寝衣から着替えた私は、デロル大尉の少し後方に続いて歩いていた。
 コツ、コツと、無機質でどこか物寂しい金属製の冷たい廊下に二人分の足音が響く。
 第二発令所から歩いて五分ほど。小さな金属製の扉は廊下の先に現れた。扉の横に貼られている金属プレートに刻まれているのは、『技術部少佐執務室』の文字。
 そのプレートの横にあるカメラが、デロル大尉の網膜を認識。セキュリティが解除され空気圧のドアロックが外れる音。扉が開く。

「ここだ」
 大尉に促されるまま執務室のドアを潜ると、無機質な金属製の椅子とそこに座る人影が私を待っていた。
「ーーーなんだ、似合ってるじゃない。新しいスーツも」
 とは、椅子に座っている彼女が、私の格好を見て口にした言葉である。
 年齢は三十路。長めの黒い髪を纏め、軍服の上から白衣を羽織った女性だ。柔和な顔立ちをしていて、場の緊張感にも若干の柔らかさが残る。
 彼女こそ、私の生みの親といっても過言ではない、現アンドロイド開発最高責任者ーーー、

「ーーーお呼びですか、ツグミ・カービス少佐」
「なんだ、もう少し反応するかと思ったのに」
 せっかく褒めたのに、と少佐は唇を尖らせる。ただ、彼女も悠長にしている暇はないと分かっているらしく、「さて」と素早く切り替えた。
「大尉。悪いけど、少し外して貰えないかしら。ここは、女二人で話したいの」
「分かりました。何かあれば、声を掛けてください」
 少佐の軽口にも反応せず(もしかすると単に気付いていないだけかもしれないが)、大尉は執務室から退場した。
 その様子を見届けたあと、少佐は此方に向き直った。
「勿体ぶらずに単刀直入に言うわ。ーーー貴女に、極秘任務を担当して貰いたいの」
「私に・・・何故?」
 通常であれば、司令部から出撃のサインが出て、初めて地表への降下が許可される。司令部以外ーーましてや、技術部からの出撃命令は有効ではない。
 故に許可云々ではなく、純粋に疑問をぶつけた。
 少佐は、長い息を吐き、「説明が必要ね」と立ち上がると、タブレット型の情報端末を差し出す。差し出されたそれを受け取り、資料を読み込む私の横で少佐が説明を始めた。

「あなたたちの処理系統は、人造の脳組織とそれを補助するAIによって成り立っているの。あなたのような40系や最新型の50系ーーー10系の後半モデルからはみんなそう。でも、」
「ーーーそれ以前は違う、と」
 此方の問いかけに頷き、少佐は再び椅子に座る。
「初期のアンドロイドーーーもっとも、極初期型のものだけれど、試作・試験用の0系はAIのみが搭載されていた。勿論、あなたの補助用のものよりも複雑だけどね」
 苦々しく笑いながら少佐は話す。
「だからかも、知れないけれど。ーーー三年前、とある初期型のアンドロイドが暴走して、ここの外壁を突き破って地表に落下したの」
「ということは、」
「ええ。ーーー貴女に、その回収を頼みたいの」

 なるほど、確かに流れ的にはそこに行き着くだろう。しかしだ。三年前のその事件は確か、未解決で終わったのではなかったか。訓練所時代に、その事件についても耳にした。
「確かに。その疑問ももっともと言えるわね。・・・ただ、状況が変わったの」
「状況?」
「そう。ーーー三年間音沙汰無しだった、その暴走したアンドロイドの電波を傍受したの。・・・恐らくは起動したのだと推測されるけど、トリガーは不明。何故・・・?」
 
少佐は、何かを考え込んでいる。
(ーーーまさか彼に接触した・・・?いや、でも彼は『鍵』を持っていないはず。だとすれば・・・)

「・・・少佐?」
「・・・ううん、何でもないの。任務の話だったわね」
 しかし、すぐに話題を戻された。何だか、釈然としない。

「上の動きも予想できないから、できうる限り回収を急いで。・・・大丈夫、話は私から極秘裏に、貸しのある人に通してあるから。ああそれと、」
「?」
「今回の案件は貴女に一任します。支援物資も用意済みで・・・どうしたの?」
「ーー。いえ、ただ、その大任、私に務まるかどうか」

 正直なところ、戦力的に十分かどうか怪しいところだ。大型の『オスティム』に遭遇した場合、機構人形一人で立ち向かい確実に撃破するのは難しい。その上、狙撃手ならまだしも近接戦闘を主とする私では、同じく至近距離で絶大なアドバンテージを持つ種に、果たして敵うかどうか。

 しかし少佐は少し呆れたように息を吐いた。
「あのね。この際だから言っておくけど、あんな存在価値の怪しい武器使ってるの貴女くらいよ。むしろ、あの考えた奴の気が知れないイカれた棒っきれ振り回してる癖して北部戦線撃破数ナンバーワンとかいう数字叩き出してるのも貴女くらいしか居ないんだから。それに、」

 銀と黒の視線が、瞳が、交錯する。ーーーそういえば以前、こんなことがあったような。
「今回、貴女の身体は新型リアクターに換装済みなの。・・・そのテストも兼ねての任務だから」

 何故か、痛痒を堪えるような顔を覗かせた少佐だったが、すぐさまそれは見えなくなった。
 釈然としない何かを感じつつ、敬礼をした。


「了解です。ーーー我らが天空の砦に、栄光あらんことを」
「ええ、頼んだわよ」

 微笑み、少佐も敬礼を返しーーーそこで思い出した。




 そういえば、何処かで少佐に似た顔つきの人に会ったような。
 そんな感慨は無視し、問う。

「少佐。あとひとつだけ、宜しいですか」
「なあに?」
「ふと気になったのですが・・・少佐は何故、私たち機構人形を作るに至ったのかと」

 凝然と、目を見開く気配。
 それからツグミ・カービス少佐は、苦笑した。

「ーーー。私ね、子供がいたの」
「子供、ですか」
「そう。男の子で、まだ生まれて間もなかった。・・・でも、16年前に離れ離れになって。それきり」
「それって、」
「・・・ああ、別に誰かにさらわれたとか、そういう訳じゃないの。ーーー私が捨ててしまった」

 毒をーーー16年間溜まったような毒を吐くように、少佐は言葉を綴る。
「あの子がどうしているのかも、今となっては永遠に分からなくなってしまった。愚かなことをしてしまったわ」
 涙を堪える様子を見て、私は後悔した。ーーー酷く無粋な真似をしてしまったと。
 これ以上は、もう。
「ーーー。失礼しました。少佐、ありがとうございます。ーーーーでは、任された栄誉、果たしてきます」
「ええ。武運を」
 再び敬礼し、その場を離れる。

 このときは、それだけで終わった。

4



 機構少女が退室し、静寂を取り戻す執務室。
 その中に置かれている椅子に体重を預け、ツグミは先の会話を思い出す。
「・・・・16年前、ね。もうそんなに経つの」
 垂れてくる前髪を掻き上げ、嘆息した。

(今になって件のユニットが起動したのは、あの子が接触したからかしら。だとしたら、)
 そして、デスクの上に置いてある書類ーーーM-43Gl2ユニットの、記憶情報を見やった。
「43。もし貴女が、あの子をーーー、」


思い至って、首を振った。









ーーーー母親としてのツグミは、それだけは己に赦さなかった。





 

 

 
 


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