複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ジルク【キャラ募集中】
- 日時: 2021/05/02 21:17
- 名前: おまさ (ID: EmSHr2md)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1260
どうも、初めましての方は初めまして。セイカゲからの方はこんにちは、おまさです。
今回は、SF的な作品が書きたくてスレ立てさせて頂きました。この作品は、皆様と一緒に作っていきたいのでキャラ募集をします。リクエスト掲示板の方に関連スレを立てましたので、そちらにキャラ情報を投稿していただければその中から選抜して作品に登場させたいと考えています。(詳しくは関連スレへGO)
あ、ちなみに関連スレは上のリンクから行けます。
世界設定などは本編の方で触れますのでご了承下さい。
なお、本スレは感想など受け付けておりますが、ここに投稿したキャラクターリクエストは受理しないと思ってください。
また、スレッドを荒らすような真似は絶対にしないでください。宜しくお願いします。
では、本編どうぞ!
****
2021年5月2日をもちまして、当作品の執筆を終了させて頂きました。ご愛読ありがとうございました。
なおそれに伴い、スレッドをロックさせていただきます。
カキコ引退の旨に関しまして、雑誌掲示板にてご説明させて頂いておりますのでそちらを参考に。
****
もくじ
(最新更新:>>28) (関連イラスト:>>18) (一気読み用:>>01-)
1話:逢瀬 >>1
2話:外出はパーカーと共に >>3
3話:アフレイド・オブ >>4
4話:オムカエ >>5
5話:ファン・トゥ・ドリフト >>6
6話:羅刹 >>7
7話:偽善の形 >>8
8話:アネサマ >>9
9話:王子 >>10
10話:velvet >>11
11話:Raison d'etre >>14
12話:傲慢 >>15
13話:捕捉 >>16
14話:神ヲ驕ル者 >>17
15話:冷たい感触 >>19
16話:ふぉーてぃーせぶん >>20
17話:ばけもののすがた >>21
EX:前日譚1(上)「16年前の雲の上で」 >>22
18話:オマエヲコロス >>23
19話:天誅 >>24
20話:ダンシング・クラウン >>25
EX:書き下ろし短編「An another automata(with its sarcasm)」>>26-27
21話:デスティネーション >>28
- 一話 ( No.1 )
- 日時: 2019/08/17 10:41
- 名前: おまさ (ID: 79DeCD8W)
砂、砂、砂。
どこまでも続く赤い砂漠。紅鏡は真上に昇りつつあり、厳しい砂漠の炎天下に砂丘へ吹き捲る乾燥した風
が、猛暑を微かに和らげていた。蒼穹と赤い砂の大地との境目には、人間はおろか植物の影のひとつも存在しない。
風の音と砂が擦れる音だけが在るこの砂丘は、静寂という名の秩序が保たれていた。
そんな静寂を破り、喧騒の気配が近づいてくる。それは、すっかりと時代遅れになった内燃機関の音だ。トコトコ、トコトコと騒音と排気ガスを撒き散らしながら、バイクのエンジン音がゆっくりと近づいてくる。そんな音が不意に途絶え、代わりに聞こえてきたのはやかましい老人の声だ。
「ーーーチクショウ!こいつめ、また止まりやがった!これで何回目じゃ!?」
故障して止まったエンジンを足で蹴りつけ、長身に大きなハットを被った老人が怒鳴る。
禿げ頭が印象的な人物だ。歳は七十路に近付き、その割には体格も大きく筋肉質。肌は日焼けで褐色になっていて更に左肩にはおおきな古傷の跡が残っている。
そんな老人の傍らに立つのは、奇妙な形をした乗り物だった。前輪が二つついていて、そのすぐ後ろには二つの座席と座席の斜め後方にあるエンジンやその他の機械類。後輪は二つだが、それぞれが縦に並んでいる。
「・・・また焼けつき?あーあ、これだから内燃機関はダメなんだ」
乗り物からもう一人降りてきたのは一人の少年だ。黒髪を後ろで刈り上げ、白っぽいTシャツを着ている。体躯は老人と違い筋肉質ではなく、身長も別段高いわけでも低いわけでもない平均的なものだ。
その少年の言葉に老人は車体の下を見て、
「・・・んや、そう簡単でもないわい」
潤滑油が滴る様子を見て苦々しくこぼした。
「イオト。工具箱を」
老人が、体の中の熱を外に吐き出すように吐息混じりに言うと、イオト、と呼ばれた少年が「はいよー」と軽く答えた。
少年ーーーイオトは、座席の足元にある金属製の工具箱を開け、老人の近くにどさりと置いた。
「はいどうぞ。他には?エソロー爺」
「水を。暑くて敵わん」
イオトが水筒を渡すと、エソローは半ばひったくるようにして勢いよく水を飲み始める。無理もない。猛暑に陽炎揺ら立つ砂漠のど真ん中で立ち往生、なんて状況におかれ、朝からの仕事の疲労に加えこの日照りだ。水を飲むことに一時の快楽を求めるのであれば、それは生物として当たり前のこと。
エソローに返された水筒を傾けイオトも同じようにして水を飲む。
途中、日輪が陰り空が少し暗くなった。水筒から口を離しイオトは空を見上げた。見れば、ちょうど太陽が〈ジルク〉に遮られて隠れている。イオトはその様子を複雑な想いで見上げた。
〈ジルク〉について説明せねばならない。
ーーーー〈ジルク〉とは、土星の環のようにこの惑星を一周する巨大なスペースコロニーである。
*
時は六百年前。
この惑星は何らかの原因で汚染された。汚染地域は年々拡大し、対照的に人類の生存域は減少していた。多くの人々が汚染により地を追われ、その結果大量の難民がでた。このままでは、人類は自らの文明もろとも汚染に飲み込まれてしまう。
当時、強大な技術力を持った国があった。名を、エガルトという。
人類はエガルトの技術を駆使し、天に〈ジルク〉を建造。多くの人々がそこに逃げ込んだ。
しかしそれは、途上国各国を除いた処置だった。
所得の低い途上国の民は〈ジルク〉に入植できず、残された地で滅びの時を待つ結果となる。
勿論抵抗はあった。しかし〈ジルク〉側は圧倒的な武力を以てこれを制し、自分達は天空に浮かぶ夢の砦に籠った。
現在、この惑星では砂漠化が進み毎年大量の餓死者を出している。かつての文明も大半が汚染され、忘れ去られた。故にこの惑星のことをかつて何と呼んでいたのか、それすらも残っていない。ただ言語だけが残り、惑星に残った人々は砂漠から出土するかつての文明の残り香を嗅ぎながらこの世の破滅を待っている。
汚染について、原因や実態はよく知られていない。おそらく、“上”にある国連本部の上層部が知る事実だろう。彼らの真意はわからないが。
ともあれ、〈ジルク〉に籠る人々は現在、深刻な資源不足に喘いでいるらしい。噂によれば月面の資源採取のみでは間に合っていないようだ。
資源と、かつての領土を取り戻す。その目的で、十年前からアンドロイドの部隊が派遣されている。
ーーーこれが、地に残った人々の間で語り継がれる人類史である。
とはいえ、これは伝承だとか〈ジルク〉側の噂だとかをくっつけた継ぎ接ぎだらけの代物に過ぎない。事実はきっと、あの雲の向こう側にある。・・・少なくともイオトはそう信じている。
この人類史で、〈ジルク〉の民が途上国の人民に行った処置は特に認知度が高く、それ故か地上の人々は〈ジルク〉に住む人々や派遣されるアンドロイドを嫌っている場合が多い。
特に地上でたまに遭遇するアンドロイドの部隊は非難の対象にされる。
「アンドロイドは我々を監視している」と吹聴する輩もいる。ただ、そうやって罪を誰かに押し付けなければ生きていけない程度にはこの惑星は荒廃しているのだ。
アンドロイド部隊は、その荒廃した世界におかれた人々の、いわばスケープゴートの様な役割を無意識のうちに引き受けているのかも知れない。
「・・・お、」
ーーーーそんなことを考えていると、エンジンがかかる音がした。見ればエソローが修理を終え、”過去の遺物“に火を灯したところだった。
「それ、行くぞイオト」
隣のシートにどっかりと腰を収めエソロー爺が計器類のチェックを始めた。それを横目にイオトはちらと視線を外にさ迷わせる。いつの間にか太陽は移動して、噎せ返る様な暑さが戻ってきていた。
煌々と輝く陽の光に目を眇めながらーーーイオトはあるものを赤い砂漠の中に見つけた。座席を離れ、そちらに歩いていく。
「、イオト」
「ごめんエソロー爺。すぐ戻る」
砂に僅かに足をとられながら、しかしイオトの意識は前に向いていた。
ーーーーーー碧落の下、一人の銀髪の少女が倒れていた。意識はない様で、死んだように目は閉じられている。・・・まさか、死んではいまい。
仮に生きていても、砂漠のど真ん中で炎天下に長時間晒されていれば人間など簡単に死ぬ。ひとまず連れて帰って看た方が良さそうだ。「失礼しますよ・・・?」と前置きしてから少女を抱き上げーーー、
「ーーって重っ!?」
鉄の塊と錯覚するような重量感にイオトは目を剥くが、そこで気付いた。
染めている以外は人間には絶対にあり得ない白銀の銀髪。金属塊の様な重量感。人間にしてはあまりに白い処女雪の透き通るような肌。ーーーーそして、右肩に刻まれた刻印。刻印をちらと見て「たぶん」が確信に変わる。
「〈M-43gl2〉・・・まさか、アンドロイド・・・!?」
「イオト!早く、行くぞ!」
驚愕するイオトに業を煮らしたか、エソローが苛立ちながら言う。イオトは思い煩いながら、目前に倒れる機構少女を見つめた。
- Re: ジルク【キャラ募集中】 ( No.2 )
- 日時: 2019/07/31 16:28
- 名前: 足臭い (ID: Xr//JkA7)
足 臭い。
- 二話 ( No.3 )
- 日時: 2019/08/17 10:42
- 名前: おまさ (ID: 79DeCD8W)
暗く静かな闇の帳の中、目を開く。ぼんやりする意識の縁に、彼女は声を聞いた。
《外部電源からの電力供給を感知》
《家庭用電源と推定。コード65dを実行》
《待機中。OS起動まで推定32秒》
《残量規定値をクリア、バッテリー現在85%》
《これより、nd4リアクターによる内部供給を開始する》
《外部電源遮断。回路切り替え、問題なし》
《内部隔壁閉鎖。リアクター始動》
《小機に点火、、、、正常》
《主機始動を確認。冷却システム、出力モード:パッシヴ》
《nd4リアクター正常。稼働率21%》
《フライホイール、回転数上昇中》
《ソレノイドバルブ、油圧、リアクター温度、オールグリーン》
《アクチュエータを活性化、、完了。回路接続》
《OS起動。ver:1.74》
《タスクコマンドを実行中》
《確認、認証中。・・・承認。コンタクト可能》
《カウント省略。インターフェース接続》
《UZF製戦闘用アンドロイド、個体名〈M-43GL2〉ユニット起動》
《視覚情報を反映します》
*
目を開けると、そこには知らない天井があった。
「ーーー。」
状態を起こし、部屋を見回す。錆びたトタン板一枚の天井に、半壊している鉄筋コンクリートの壁。二つのトタン屋根の微かに空いた隙間からは蒼いそらが見えた。時代の流れを感じるものや真新しい小型通信機など、あらゆる時代のものが揃っていた。
立ち上がろうとして、足に何かが絡まる感触。見れば左腿の外側にある外部電源用のジャックに、自動車用のバッテリーが繋がれていた。
首を傾げながらそれを取り外してから、置いてある手鏡に映った自分と目があった。
少女は屋根の隙間から漏れる朝日を乱反射させ輝く絹の様な銀髪を二つ垂髪にし、雪の如く白い肌も相成って、天女が下界へ降りてきたかのような神秘的な美貌というものを具現化している。髪と同じいろをした無垢な瞳を持ち、四肢は細く長い。もし、仮に美しさが人を殺めるならば、少女には人を殺せるだけの儚い美しさがあった。
「ーーーーッ」
思わず息を詰めたのは、聴覚センサーの反応があったから。しかし、その警戒は杞憂に終わる。
「あぁ、おはよう」
まだ少し眠そうに目を擦るのは黒髪を後ろで刈り上げた少年だ。僅かに寝癖がある。ーー声音から敵意は感じられない。故に、敵生体ではない、中立の存在として判断する。
少年がふわぁー、と欠伸をするのを、少女は完璧な休めの体勢で見る。
「おはようございます、少年。今日は何日でしょうか」
今度は少女が声をかけた。少年は「ぇーっと、」と伸びをして、
「今日は・・・13日、かなぁ。最近暑くて。だからあんまり寝れてないんだよね」
今日が13日。少年の言葉が正しければ、私はどれだけ眠っていたのだろうか。うまく思い出せない。前回起動した日時を確認ーーーーーと同時に、少女は少年をスキャンしていた。右目が仄かに紫色の輝きを帯び、幻の熱が伝わってくる。
ーーーーーースキャン終了。16歳の男性と判断。
ようやく衛星の電波を受信して起動したGPSの位置情報から推測するに、この少年は〈ジルク〉出身者ではない。
もうひとつ分かったのは、〈ジルク〉にある最寄りのケージまで直線距離で3000キロほどあるということか。内心溜め息をついた。
さて友軍に救助を仰ぐか、とも思ったが、プロテクトにより禁止事項のため行動不可。
しょうがない、自分で「始末」をつけるか。そう考え、少年の横を通り過ぎて部屋の外に出ようと一歩ーー、
「ちょっと待って」
少年が、私の手を掴んでいた。私は、警告と威嚇の意を込めて露骨に瞳の温度を下げる。
「・・・これ以上の私への干渉は、宣戦行為と判断します」
しかし、少年はたじろぐことなく答える。
「君、〈ジルク〉から来たんでしょ?なら、尚更一人で外に出ちゃダメだ」
「私は戦闘用アンドロイドです。戦闘力に欠けるとでも」
「そういう意味じゃない。〈ジルク〉のアンドロイドが、普通の民家にいる状況が問題なんだ」
「・・・索敵完了。問題なし」
「とにかく、今は家にいろ!」
ーーーなるほど、強引だ。だが、不思議と悪くない。そう感じてしまう自分がいるのは何故だろうか。・・・ともかく。
「何故、ですか」
「・・・君は、〈ジルク〉の技術で作られた。ーーもし仮に、その技術が地の人々に渡ったら。そう考えれば分かりやすいよ」
「ーーーー。」
そういうことか。
つまりは、今の「地の人々」たちの排他的な社会には、新たな技術を導入する土壌が整っていないのだ。警察はおろか、法律すらない荒廃したこの地では、新たな技術が世界の均衡を崩す。やがて待ち受けるのは「破滅」の一途だ。
この少年の言動から推測するに、ここでは〈ジルク〉の技術を求め、私達のような〈ジルク〉のものを破壊して回る輩が跋扈しているらしい。戦闘力では引けをとらないだろうが、「始末」をつけたあとでは残骸から技術が伝わることも考えられる。
そも、「始末」をつけてしまえば、資源不足に喘ぐ〈ジルク〉に負担をかけることもまた事実。
ーーしょうがない。外を彷徨いて友軍と接触しよう。
「ーーーそれなら、」
少年の、黒い瞳が向く。
「あなたが一緒にいてください。そうすれば、外出は可能ですか?」
*
・・・なんか、外に出たがってる子犬みたいだな、とイオトは思った。
なるほど、このアンドロイドはどうしても外に出る必要があるらしい。分かった。ならばー、
「ーーーー分かった。それでも、出来るだけ目立たないでくれ」
「了解。光学迷彩を展開します」
「イヤイヤイヤ!そういう意味じゃなくって・・・ってSUGEEEEEEEEEE消えた!って違くて!」
冗談はこれくらいにして。
「光学迷彩解いて、このパーカーを着てくれ。その方がいい。・・・街に入っても離れるなよ」
少女はうなずいてパーカーを羽織った。
ーーーーーー合理的じゃないな、と少女が思っているのにも気付かず。
*
やはり美少女というのは、何を着ても似合うものだと思う。
近郊の、砂漠の中にポツンとある街の中、イオトはアンドロイドとともに歩いていた。今朝はエソローが朝早くから仕事で外出している。勿論外出許可はもらっているが。だからまあ、叱られる謂れはない。
今日はいつもよりも早く店が開いていたりとなんだか賑やかだ。卸売市場も賑わっている。
それにしても。
「・・・何かさっきから近くない?」
フードを被った銀髪の美少女が、自分の手を胸の前でひしと抱いている。周囲には兄妹と思われてほしいが、辛いことに背丈が少ししか変わらない上に髪の色も違うから別の目で見られる。
「離れるな、と少年に言われましたので」
淡々と、かつ不思議な顔をして少女が見上げてくる。パーカーはイオトのものを貸している形だが、自分より似合っているのでもうあげようかなー、ぐらいに思っていた。
そうだ、とイオトは足を止めた。少女もそれに倣う。
「そういえば、まだ君の名前を訊いてないんだけど」
「私もでした、少年」
この子はどんな名前何だろう。今までアンドロイドと話したことなんてなかったし。・・ちょっと馴れ馴れしいかもだけれど。
銀髪の機構少女は、抱いていたイオトの腕を離し敬礼する。
「私は、UZF製戦闘用アンドロイド、北部戦線所属第56期機構中隊〈ミマス〉副長、〈M-43GL2〉です」
ーーーーーー。
ーーーーーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーぱーどぅん?
「え、えっと・・・呼びにくいから渾名でいい・・・?」
「別に構いませんよ、少年」
呼びにくいから、という理由だけでなく、街角で機体番号を言ったりすれば余計に周囲の目を集めることになるからだ。
さて、どんなニックネームにしたものか。うーむ。
・・・「43」か。
「ーーーーシザ、なんてどうかな」
少女は、口の中でその名前をボソボソと何回か呟いたようだった。そして、
「・・・悪くないですね。ありがとうございます、少年。・・・少年の名前は?」
「オレの名前はーーーー、」
言いかけたときだった。柄の悪いチンピラ二人とぶつかった。イオトたちが足を止めた状態で露骨にぶつかってきたのだ、金目目当てだろう。
一人は、常人の二倍程もある巨体の持ち主。もう一人は、何だか粘着質そうな細身の男だった。細身が腰の後ろにつけているのは自動拳銃か。なんにせよ、状況がややこしくなったと言わざるを得ない。
巨漢がガンをつけてくる。イオトは、気付かれないようポケットの中に手を入れた。
「・・・てめぇら、どこ見て歩いてーー、」
「ーーーー敵意があると判断します」
「って、ちょっ、シザ!?」
瞬間、シザが弾かれたように動いた。体を沈め、右腕を軸に両足が一閃。相手の足を払い巨漢がふんぞり返った。やはり、戦闘用アンドロイドなのだなと身をもって実感した一方、
其の卓越した技能は称賛に値するが、最も厄介なことが起きた。
ーーーー回し蹴りを炸裂させた勢いで、シザのフードが脱げたのだ。ならば当然ーー、
「・・・・・・これ、オレにも先が読めた」
「おい!あの女だ!!」
「いたぞ、アンドロイドだ!」
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイバイバイバイ逃げろーーーー!!」
イオトはポケットに入っていた煙幕弾をばら蒔き、シザをつれて走り出した。
***
追伸:シザのイラスト描きました。近日公開予定。
- 三話 ( No.4 )
- 日時: 2019/08/17 10:43
- 名前: おまさ (ID: 79DeCD8W)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=article&id=1219&page=1
「ヤバイヤバイヤバイバイバイバイ逃げろーーーー!!」
シザの手を引いて走り出したイオトは、煙幕に紛れてこの状況から脱出しようと試みる。しかし世界は、いつまでもイオトの運命を嘲笑っていて。
二人の頭上から降り注ぐのは燃え盛る炎ーーーーーーー否、火炎瓶だ。声の聞こえる方向から推測するに、建物の二階から投げられているものだろう。膨大な数の炎が二人に対して放たれ、それらが地に落ちた瞬間、肌が粟立つような熱量が怒声とともに殺到する。
堪らず、近くの市場の中に飛び込み、動揺と喧騒が人とともに押し寄せる。人混みをかき分け、押しとばし、イオトは少女の手を引いて必死に走った。
火は、もう背中のすぐ後ろまで迫ってきている。振り返らずとも、人々の殺気と辺りに充満する焦げ臭い臭いで想像がついた。
何で、こんなことになっているんだ。
何で、この人たちはこんなに騒いでいるんだ。
何で、オレ達を狙うんだ。
何で、オレ達から奪うんだ。
怖い。
たった一粒、水滴のように言葉がこころの奥底にぽつりと落ちる。それがそのまま口に出た。
「怖い」
たった一言、燃え盛る戦禍の中呟かれたことばは、隣の機構少女にも聞こえない。
だが、無力な少年のこころの平衡を崩すには十分だった。水面に波紋が広がるように、ゆっくりと、だが確実に、こころの中を恐怖が蝕む。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いーーーーーーーーーーーー!
ある人は、恐怖は人を動けなくするとも、人を動かすとも言った。
一見矛盾した言葉だなと、かつての自分は馬鹿にしたものだ。
でも、違った。矛盾なんかじゃない。
恐怖は、人を動かすのだ。
自分は、何が怖い。
人だ。
心だ。
世界だ。
自分はきっと、この理不尽な世界が怖いのだ。
人は、何が怖い。
他人だ。
心だ。
世界だ。
ヒトはみな、怯えている。何時の日か、この理不尽な世界が自分等を踏み躙ることに。
そこで、イオトは自分の中に恐怖以外の何かを見た。恐る恐る、指を伸ばしそれを分析する。
ようやく解った。
人々は恐れているのだ。彼女を。天から降りてきた、機構少女を。隣にいる、シザを。
だから地上にいる者たちは、〈ジルク〉のものを破壊し、己が更なる恐怖に抗えるように力を振るう。アンドロイドを駆逐して、勝利の余韻に酔って、束の間の平穏を享受し、怯えを少しでも和らげるために足掻く。
だから、恐怖を排除するためなら、火でも何でも投げられる。
ただ、恐怖が人々を動かしている。
それは、イオトも同じこと。ーーーーでなければ、こんなことはできっこない。
市場の中、近くにあった小麦粉の袋をかっぱらい、袋を破く。そうして、白い粉を撒き散らしながらひっつかみ、背後に投げつけられる火炎瓶に向かって投げた。瞬間、
「ーーーーわぁーーッ!?」
火炎瓶が爆発し、圧倒的な熱量が辺りを焦がした。陽炎揺らぐ光景に、追っ手も急制動をかける。
ーーーー粉塵爆発。可燃性の粉状の物体を空中にばら蒔き、物体の粒子がより多く酸素と接することからより燃焼しやすくさせた上で火気を近づけ、爆発的に物体を燃焼させる現象だ。
小麦粉の粒子は、可燃性の物質から構成されているので手っ取り早い。威力は見た通りだが、イオトは原理として知っていただけで実践するのは初めてだった。その分、賭けに近い。
ともかく、追っ手を足止めできた。急いで街の外まで行けばシザは無事でいられるだろう。ちらと横を見ると、シザと目があった。
「無事ですか、少年」
「この通り、ピンピンしてる・・・って言いたいけど、そろそろスタミナが限界ッ!」
「そうですか。それなら、私が少年を担いで走りましょうか」
「気持ちはありがたいけど絵的に情けないから勘弁!」
息を切らしながら叫ぶと、シザは不思議そうに首を傾げた。その仕草がなんとも可憐で見惚れそうになるが、同時にふと疑問に思った。
ーーー恐怖が人を動かすのなら、人でない彼女は何によって動かされるのだろう・・・・?
***
「・・・疲れた」
砂漠にどさりと腰を下ろし、最初に口から飛び出たことばがそれだ。足はもうすっかり棒になってしまったし、汗に湿るシャツも着心地が悪かった。
今日は珍しく涼しく、風がいつもよりも少し強かった。太陽はもうすっかり昇っているのに、あまりいつものような暑さは感じない。
吹いてきた風に、汗が少しずつ引いてきた体をなぞられ、少し寒かった。取り出したハンカチで額の汗を拭っていると、いつの間にか隣に座っていたシザが不思議そうな顔をして尋ねる。
「その液は何ですか?」
「液・・・っていうか汗だな」
「アセ・・・・?」
「要は冷却液だよ、人間の」
ああ、と納得する風のシザに、それもどうなのかとイオトが苦笑した。
その会話を境に、二人の会話は途絶える。話し声はなくなり、砂漠にいつもの静けさが戻る。二人はただ、風にさらさらと擦れる、砂の音を聞いていた。だが、けっして嫌な沈黙ではない。
「・・・私が覚えているのは、地上に降下した直後のことです」
二分くらいだろうか、続いた沈黙を破りシザが呟いた。
「私は部隊にいて、ちょうど汚染区域突入の時でした。不意に、力が抜けたんです」
イオトは、予想もつかない状況を回想してきゅっと唇を結ぶシザの様子を見ていた。その仕草一つとっても、まるでーーーー否、実際彼女は人間なのだ。ただ機械の体を持った、一人の女性なのだ。ーーーーーそうでなければ、どうしてこんなに自然な表情を持つことができる。
「脚からふっ、と力が抜けて。足回りの不調か、それとも制御系の不調なのか、わかりませんが」
シザは、そこから先を回想するのを少し躊躇うように間をおいて、観念したかのように一度目を閉じてから、瞳を開いた。
「ふらふらと、次第に暗転する意識の縁に、見えたんです。・・・・・誰かの、黒い笑みが」
「それは、」
「その人が誰なのか、私にはわかりませんが・・・。その後、再び目を開けたら今朝になっていて」
イオトが何かを言いかけて、途中で口をつぐんだのを気付かないふりをして、シザは不気味な記憶を話し終えた。そしてイオトが何か言う前に再びシザがこちらを向いて、
「少年は、何故私を助けたんですか?」
「え、?」
「こんな分からないことだらけの世界で、地上で疎まれる私達をーーアンドロイドなんかを、狙われると知りながら同じ屋根の下にいさせてくれて。まだ名前も聞けてないのに」
確かに、この世界は分からないことだらけだ。理不尽で、不条理で、未来なんか望めない。そんな世界が怖い。
でも、彼女にとっては、自分が助けられることの方が分からないのだろうか。イオトは小声で、彼女にだけ聞こえるように言った。もちろん、この場には自分達しかいないということはわかっているけれど。
「分からない」
「え?」
「分からないんだ。自分でも、何で君を助けたのか上手く説明できない。でもさ、」
「あの時、直感したんだ。ーーー助けないとすごく後悔するかも、って」
「ーーーーーー。」
うまく言えず、そのもどかしさに頬を掻いた。でも、本当にうまく言葉にできないのだ。何かもやもやした、抽象的なものが己の中に漂っている。故に、今の言葉はその抽象的なものを必死に表現したものだったのだが、
「ーーーーーー。」
シザがたっぷり数十秒も沈黙するものだから、少しずつ心配になってきた。何か相手の気に障ってしまっただろうか?
「ーーー。」
・・・。
不意にシザが口を開いた。
「・・・分かりました」
「・・・へ?」
「今は、騙されてあげます。でも、」
「いつか、ちゃんと説明して下さいね?えっと・・・」
「オレの名前はイオトだ。解った、いつか・・・ね」
「約束ですよ。ーーーイオト」
と、シザは、見惚れるほど愛らしく微笑んだ。
不意にシザが、勢いよく振り返り砂漠の向こうを見つめた。そして。
「ーーーーえ、」
急にシザに突き飛ばされたイオトは見ていた。
ーーー彼女の華奢な左足の、膝から下が砕け散る様を。
ただ、呆然と。
*
シザのイラスト公開しました。上のURLからどうぞ。