複雑・ファジー小説

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JKに幸あれ
日時: 2019/09/05 21:34
名前: 耳 (ID: RO./bkAh)

フィクションです。

Re: JKに幸あれ ( No.16 )
日時: 2020/03/02 18:54
名前: 耳 (ID: RO./bkAh)

「おかえり〜」

寮に着き、部屋に戻る途中でトレーニング室から出てきた同級生と出会した。

「聞いたで。女と飯行ったんやろ」
「女の子もいたけど、その父親もおったで」

幹太は、余計なこと吐かすなと言わんばかりに、軽く肩を拳で小突いた。2階に上がり、部屋の鍵を開けた。なんだか、今日は自分が自分でないようだった。葵はかなり戸惑っていたのようだが…そんなこと知るか。携帯を開くと莉央からLINEが入っている。

女の子もいるって聞いたんだけど

女の子とその父親がいたよ

なんで?

甲子園でたまたま熱中症の子助けて
その子の父親からお礼にって食事に誘われた

ならいいけど
次のオフ空けといてね

そのあと可愛いスタンプが送られてきて幹太も同じようなもので返した。着替えて風呂場に行こうとすると、今度はSNSで幹太自身がメンションされていることに気がついた。

やっぱりおの彼氏はさいこー

と幹太の寝顔(莉央の家で昼寝をしている)の写真と共に一言添えられていた。莉央はインフルエンサー的な存在で少し知名度もある。雑誌のモデルにスカウトされたり、どのツールにも多くフォロワーがいる。幹太ももちろん知られた存在なのだ。とにかく今は、風呂に入りたい。

「何当たり前のこと言ってるの」

葵のこの一言が頭から離れない。有名とか上っ面とか、つくづく自分は浅はかな人間だと思った。

Re: JKに幸あれ ( No.17 )
日時: 2020/03/05 22:19
名前: 耳 (ID: RO./bkAh)

「なぁ、うちの学年で脱水症状出たらしいぜ。応援中に」
「暑いっけ?ここ」
「だいぶ」

古河たち野球部はホテルで夜食を取っていた。勝ったので明日は中日だ。朝ゆっくり起きれる。

「前も言った通り、取材来るからちゃんと愛想良くしろよ。明るさだけでも盛っとけ」

皆が返事をする。あと30分でテレビ取材が来るらしい。古河たちは地元のスポーツ雑誌、新聞にしか載ったことがなかったので妙にソワソワしている。一発ギャグを披露するらしい浪江は、先程から隣で箸を置いて動きの確認をしていた。

「しけるなよ」
「フラグ立てんじゃねー」

普通に面白かったので、あとは古河たちが盛り上げれば…というだけだが。古河は
ホテルのハンバーグが美味しいのでおかわりをした。

「今日の取材は…龍貴だな」
「浪江と原田でいいじゃん」
「アホか、ちょっとは野球の話しないとダメなんだよ」
「じゃあ俺か」

納得すんなよ、とチームメイト一同のツッコまれた。

「あ、倒れたやつ狹野らしいぜ。特進の」

誰かが口を開いた。古河は一瞬、狹野葵の顔を思い出せなかった。が、すぐに思い出した。原田が、可愛いけど性格が鬼畜すぎるから近づかない方がいい、とよく言っている女子のことだ。

「たしかに。狹野細いしすぐ逝きそうだもんな」
「てめー(浪江)下ネタ言うんじゃねーよ」
「違う!ご愁傷さまの方!」

キレ方がおかしかったので、古河は終始笑顔だった。

「狹野なぁ…めちゃんこ可愛いけどなぁ…」
「狹野の父親はプロじゃなかったけど、大学も高校も日本一になってる」
「しかも今はプロ球団の親会社の偉い人だしな」
「よく知ってんなぁ」
「龍貴が疎いんだ」

狹野父の凄さを語る部員は、二者面談で葵の父親を学校で見かけた時、握手をしてもらったという。龍貴がまた箸を進めていると、テレビの取材がやってきた。お互い挨拶をしたあと

「まずもりもり食べている姿を撮りたいので、皆さんカメラを気にせずご飯を食べて下さい」

スタッフの指示が出たり、照明やアナウンサーがテキパキと動くので、みんなそっちの方を気にしていた。龍貴は特にそわそわしていて、チームメイトと小突き合っていた。変顔したり、カメラを意識するのもいたのでとても愉快だった。

「初出場でベスト8まで駆け上がってきました。そして18日にはベスト4入りを掛け、名門…」

アナウンサーがハキハキと喋り始め、いよいよ龍貴にカメラが回ってきた。

「古河くんの機動力はやはりご飯からですか?」
「…ハンバーグです」

見かけによらない龍貴の細々とした声がマイクに拾われると、チームメイトは声を潜めて笑いだした。監督が少し離れた席に座っており、呆れたように眉にシワを寄せて苦笑いしている。

「もっと、はっきりしゃべらないと」
「はい」

監督の指摘には堂々と声を上げた。実際は「はい」なんて文字には表せない発声だが、龍貴のハンバーグの発言はただの食いしん坊である。その後も、食後に部員全員が集合してインタビューや一発ギャグを披露した。

Re: JKに幸あれ ( No.18 )
日時: 2020/03/16 21:18
名前: 耳 (ID: RO./bkAh)

一応は学校で来ているので、葵は自分の高校が敗退するまで変えれない。体調を崩して療養していることになっているのだ。今日はベスト4進出をかけた試合である。葵は昨日のことはもうきれいさっぱり忘れたように朝8時に起きて、夏バテなりに朝食を取り、ホテルの机に勉強道具を広げた。一息ついて、椅子に座ると携帯が鳴った。

「…はい」
「葵!すまない!父さんのホテルから財布取ってきてくれないか。あぁー、カードも財布に入れちゃって電子マネー使えないんだ…だから…」
「…はい」
「ホテルの人には言ってあるから!学生証とちゃんと父さんの娘って名乗ってくれれば部屋まで通してくれるから」

もうすぐ50歳になる男性とは思えない焦りっぷりである。父親の社会的な立場と普段の様子にはかなり差がある(よく言えばギャップ)。いつもこのような時に、私の命と引き換えに亡くなった母親はいつもどうやって彼を扱っていたのか非常に気になる。とりあえず制服に着替えて、父親のホテルに電車で向かった。一駅なのですぐ着いたが、あとは球場に向かわなければならない。

「すみません、狹野賢太郎の娘ですが…」
「確認のため…」

学生証を出すと、ホテルのカードが渡された。かなり高層である。ホテルの部屋に着くと、父親が持っている厚い黒革の財布があった。急いで手に取ると、中から写真がバラバラと落ちた。

「あ…」

葵は数枚全て拾い上げた。母親と父親の写真が6枚。恐らく旅行先で取ったもの、高校時代の坊主頭の父親と葵によく似た華奢な母親、会食の席に仲良く座る2人…とにかく仲睦まじい2人の姿があった。見ないふりをして、財布の中に挟み込んでチャックを閉めた。写真に葵はいなかった。



Re: JKに幸あれ ( No.19 )
日時: 2020/03/16 21:26
名前: 耳 (ID: RO./bkAh)

龍貴たちは別球場で早くから練習をしていた。移動でバスに乗り込み、11時からの試合に向けて球場着いた。

「この景色ももう最後かもしれないなー」

隣に乗っていたチームメイトが呟いた。たしかに、龍貴も小さく頷いた。今日勝てたら実質優勝である。相手は甲子園で春も3回優勝しているし、ドラフト候補のピッチャーが2人いて、龍貴たちから見れば全打席クリーンナップなのだ。士気が下がるので大声では言わないが、なんとなくわかっていた。負けても泣けない気がする。うちの高校の生徒たちも並んでいるのが見えた。

Re: JKに幸あれ ( No.20 )
日時: 2020/03/16 22:23
名前: 耳 (ID: RO./bkAh)

葵は球場に来たのはいいものの、先程から父親と電話が繋がらずどこに行けばいいのかわからない。とにかく観客席に出てみたり、階段を降りたり登ったり、関係者以外立ち入り禁止のドアの前に立ってみたりしている。

「何よ、もう」

葵は若干怒っているがめげずに探している。

「あ、狹野じゃん」
「何うろちょろしてんだろ」

田沢は他の部員の言葉を聞いて、人混みの中の葵を見つけた。たしかに何かに迷っているような様子である。11時の試合開始に向けて、早朝から別球場で練習をして何より凛戦体制なので声をかけることができない。まぁ今日勝ったら優勝も同然だよな、俺ら既に色んなとこから思い出試合扱いされてるし。と龍貴とホテルで散々喋った。

「葵、こっちだ!」

父親が手を振る姿が見えた。

「なんで電話に出ないの?」
「スマン。用事で」
「信じらんない、交通費無駄にしたわ」
「ごめんな。これで、美味しいもの食べて」

5000円渡された。葵は呆れたように少し大きなため息を吐いた。

「そういうの、もうやめて」

葵は何故か自分の視界が滲んでいくのがよく分からなくて、止められない。父親は慌てふためいて、ハンカチを差し出すが、その間に龍貴たちが狹野父に気づき、帽子を取って礼をしている。父親もそれに応じて笑顔で手を高く上げた。

「あぁ、ごめん。無駄足だったな…ほんとに…」

葵は球児たちの目線に気づき顔をすぐさま上げて、そっぽを向いた。その時に、タイミング悪く誰かと目があってしまった。龍貴は、潤んだ瞳が遠目でも分かってしまった気がして、しばらく目が離せなかった。どうして泣いてるんだか。そんなことは二の次だった。

「ほんとに、もういらない」

葵はそう残して足早に球場を後にした。自分の父親は最低だ。


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