複雑・ファジー小説
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- JKに幸あれ
- 日時: 2019/09/05 21:34
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
フィクションです。
- Re: JKに幸あれ ( No.11 )
- 日時: 2019/11/25 00:55
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
改札を抜け出口を出ると、目の前にはもうビルがある。ビルの中はお役所か様々な企業が入り交じっているのだろう、午後6時を前にしてスーツ姿のおっさんやじーさんがガヤガヤしている。
「お客様、アミューズメントスペースをご利用ですか?」
「え?あ、26階のレストランに行きたいんですけど…」
「でしたら、あちらのエレベーターをお使いください」
「ありがとうございます」
どうやら俺が乗ろうとしていたエレベーターは従業員やビルで働く人用のものだったらしい。受付嬢がわざわざやって来て、幹太に案内をしてきた。案内されたエレベーターに乗り、26階のボタンを押す。スマホが鳴った。通知を見ると莉央から何かメッセージが来ている。
誰と行くん?
どこ行くん?
知り合いと食事会
ならいーけど
楽しんでなー
莉央は疑り深いので、一応、葵の名前は出さないでおいた。エレベーターのドアが開くと、レストランが目に入る。窓は全面ガラス張り、夜景が綺麗に見える。テーブルとソファー、バーカウンターなんかがシックでとても高校生が入れる場所ではない。幹太は1歩、1歩とようやく受付に着いた。向こうには…葵の姿が見える。
- Re: JKに幸あれ ( No.12 )
- 日時: 2019/11/25 01:13
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
「いやぁ〜、島田くんはあれだな、なかなかいい男だな」
葵は父の話が聞こえていないのか、ただ携帯を触り続けている。礼子から大量のメッセージが来ている。がんばれ、愛想良く、トークを回せだのなんだの。きっと島田幹太の事なので、ヘラヘラして父と会話が弾むだろう。その時に私は先に帰る。しばらくすると、父がすくっと立ち上がって、
「島田くん、こっち」
と幹太を手招きした。幹太は何回か軽く頭をさげている。葵も一応立ち上がって一礼をした。
「島田くん、来てくれてありがとう。さぁ、座って座って」
「こちらこそ、ありがとうございます」
幹太の微笑みは他人との壁を作らないであろう無邪気さと爽やかさがある。一方で葵は明らかに目を合わせようとしない。
「 葵、島田くんだよ」
父に催促され、葵は口を開いた。
「どうも」
命の恩人にあまりにも酷い応酬である。
「久しぶりだね」
幹太は怯むことなく笑いかけた。葵は狼狽えたように、目を見開いている。
「え?知り合い?」
「実は僕と葵さん小中の同級生なんです」
「父さん知らなかったよー」
葵は部が悪そうに幹太を睨みつけた。もう今日は場を気まずくしないことだけを考えている幹太は、何も怖くない。
- Re: JKに幸あれ ( No.13 )
- 日時: 2019/11/28 00:15
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
「そうなのか!やっぱり縁があるものだな」
先程から葵の父親は幹太との話であまり食事に手がついていない。まぁフレンチなので食べ始めてから大分時間はかかるものだが、やっとメインディッシュである。葵は食欲が沸かずずっとメインディッシュ肉と見つめあっている。時たま幹太は葵に視線を投げるが一向に葵はお肉から目が離れない。
「お手洗い」
葵はそう言って席をたった。
「へぇ〜、サッカーね!いいよなぁ、島田くんみたいな熱い子がいるとウチ(会社)も応援したくなるよ」
「ありがとうございます。僕、今キャプテンなのでチームメイトも聞いたら喜ぶと思います」
すっかり気分が良い(一応、役員)父親はワイン片手に楽しそうである。幹太は内心読み取れない愛想である。
「あのさ…葵って小中も、なんて言うか、静かな感じだったかい」
幹太は一瞬、固まった。葵は小学校のときからあのように冷めているし、好んで誰かとつるむ訳では無い。いつもテストは100点だし、絶対中学受験すると思っていた。着ている服も周りよりちゃんとしていて、何よりいつもカチューシャを付けていてとても可愛かった。そのせいと性格が災いし、女子からはよく悪口や修学旅行も1人になりかける始末だった。中学校では、モデルか芸能事務所にスカウトされたという噂があった。吹奏楽部でフルートを弾いていて、音楽室にいる葵を見るため、幹太の同級生たちはわざわざ4階を行き来していた。成績はもちろん1番で、友だちももちろんいなかった。幹太は何を話したら良いのかわからないまま、口を開いた。
「あんまり騒ぐ感じではなかったですけど、頭も良くてみんなから一目置かれてましたよ」
「うちの妻がね、もう葵が生まれてから1歳になる前に亡くなったんだけど、最近凄い似てきたんだよ。生まれたときはパパだったんだけどなー、悲しいね」
そう言って葵の父親は自分の携帯を触って、葵の母親の写真を見せてきた。まだ首が座ってないであろう葵をカメラに見せるように横に抱いて、微笑んでいる。細い鼻筋と綺麗な卵形の輪郭が似ている。薄い唇も、目も綺麗である。授業参観で葵の両親を見たことない理由がわかった。
「綺麗な方ですね」
「でしょ?なかなかの美人でね、葵とは違ってすごくよく笑うんだ。島田くんもいい男だから直ぐに綺麗な子と出会えるさ」
「いえ、僕は…」
苦笑いをして俯いた。そして、幹太は思い出したように、
「葵ちゃん、大丈夫ですかね?…ちょっと近くまで行ってきます」
幹太は席を立った。
- Re: JKに幸あれ ( No.14 )
- 日時: 2020/03/01 05:22
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
葵はレストランから出て、同じ階のラウンジのソファに深く腰掛けていた。嫌い、気まずい、話したくない。それは私が小学生の時にあいつにちょっかいをかけられて、ウザかったから。さっきからずっとこんなことを考えている。島田幹太のあのヘラヘラした態度が許せない。
「葵」
誰かに名前を呼ばれた。顔を上げると、幹太がいる。葵は目線を下に向けてしまった。
「隣…座ってもいい?」
「いいわよ。私は戻るから」
葵はすくっと立ち上がった。ここで男らしく葵の手を引いてもいいと思ったが、それは少女漫画の世界で、実際にそんなことをすれば犯罪である。
「待って、ちょっと話さない?」
「…話すことないでしょ」
立ち止まっても振り返らずに幹太に言い捨ててしまった。
「もっと明るくて社交的になってるかと思ったけど、全然そんなことないね」
口を開けば人をバカにすることしかしない。
「でも、大人っぽくなった」
「何当たり前のこと言ってるの。6、7年経てば変わるわ誰でも」
「違くて、綺麗だって言いたいの」
葵は後ろから幹太が近づいてくるのが分かった。その場から動けなくなっている。
「もっと話したいんだけど…いいかな」
「勝手にすれば」
幹太の声がぐっと響いたのを感じた。今までの甘いだけのマスクがどこかに飛んでしまった。知らない、幹太のことがよくわからなくなる。葵は流されるままソファーに座ってしまった。
「小学校のときは、ほんとにごめん。葵がつい可愛くて、すぐからかっちゃった」
なぜ笑顔でそんなことが言えるのか。わからない。少なくとも異性を本人の前で褒めるのだ。
「そんな小さなこといちいち気にしてないから」
と言いつつも幹太を一向に見ようとしない。
「じゃあさ、許してくれるんだったら…笑ってほしい」
「え?」
意味がよくわからず、思わず幹太へ顔をしかめてしまった。
「ほら、にーって」
歯を見せるように促された。葵は下を向いてしまった。なんでこんなに俺に冷たいんだよ。俺がこんなに頑張ってるのに。
「なんだか馴れ馴れしい」
そんなことまで言われて、どうしろって言うんだ。葵は嬉しくないのか?
「俺は…会えて嬉しかったんだけど」
幹太は一言だけ呟いた。葵に聞こえるはずもなかった。葵はずっと、うつむいている。久々に再会した同級生が、こんなになってるとは、誰も想像していない。ましてただのやんちゃ坊主が、甘い顔の紳士になっているなんて、考えていなかった。あの頃のように突っぱね続ければなんて、甘すぎたわ。
- Re: JKに幸あれ ( No.15 )
- 日時: 2020/03/01 05:34
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
酔った父親はすっかり上機嫌だ。幹太と駅で別れた親子はそれぞれ別のホテルへ。
「おやすみ」
と言われたが、葵にはもう聞こえていなかった。父親は駅前のホテルに滞在している。葵は2駅乗った大通りに面したビジネスホテルである。部屋に着くと疲れが途端に出てきて、ヒールを無造作に脱いでベッドに倒れた。きっと、疲れたのは私だけだ。