複雑・ファジー小説
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- JKに幸あれ
- 日時: 2019/09/05 21:34
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
フィクションです。
- Re: JKに幸あれ ( No.6 )
- 日時: 2019/10/06 08:40
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
ショッピングモールで全てを終えてしまった。タピオカを飲みながら両腕にショップバッグを1つずつぶら下げている。
「もうすぐ9時だ、帰ろうか?」
「そうね」
葵と礼子が下りのエスカレーターに乗っていると、葵は前方から視線を感じた。葵が目線を向けると、男子の集団の中に見覚えのある顔がある。前髪から覗かれる視線に葵は誰か確信してしまった。
「幹太…」
「え?どこっ!」
礼子は必死に辺りを探し、上りのエスカレーターに乗る幹太の後ろ姿を発見した。
「お礼したら?」
「…分かってるけど、嫌なの」
「なんで?まさか、好きなの?」
「違うわ。性格悪いから」
関わりたくない。と、葵は付け加えてそのまま下の階に降りた。
「今の子、だれ?」
「お前の友だち?」
幹太は質問攻めに合っている。
「かわいいー、知らん制服やけど」
「都会の子はいいな」
「清楚系」
色白で目と髪の毛が明るめの栗色をしている、長いまつ毛と丸い目と小さい口がキレイよりもかわいいと言いたくなる。
「あれで超わがままだったらどー思う?」
「え?普通に最高じゃね」
「そやな!」
違う、そうじゃない。そういうレベルじゃない。
「かんたくんじゃなきゃやーだ!やーだ!」
「やーだ!やーだ!」
男子高校生がやっても反吐が出るだけである。幹太は葵を目線で追うのを諦めた。
「幹太っ」
後ろから女子の声がしたので、振り向くとそこには葵が立っている。
「今日はありがとう…さよなら」
ありがとうと言いながら存分に睨まれた上にスタスタと背を向けて歩いて行ってしまった。
「なに?」
「え、まさかお前助けた子って」
「…そう、葵は地元の友だちなんだよ」
サッカーをしにわざわざ県外に進学した幹太は、今日は地元の高校と自分が通う高校の試合観戦をしていた。もちろん、今一緒にいるのはそのサッカー部の連中である。
「あ、めんどくさいから莉央には言うなよ」
「おーす」
莉央とは幹太の彼女である。数年ぶりに話してこれか、と幹太は軽くため息を吐いた。いつまでも変わらない童顔と相変わらず俺には一切笑わない。
「えー、あんなんでよかったの?」
礼子は心配そうにしているが、葵は表情を変えずにスタスタ歩いている。
「ほんとに、嫌い」
- Re: JKに幸あれ ( No.7 )
- 日時: 2019/11/10 00:27
- 名前: mono (ID: MHTXF2/b)
今日は全校応援には行かず、ホテルの部屋で休んでいた。葵は部屋のテーブルに勉強道具を広げる。
「もう大丈夫…はい、帰るタイミングで拾いに来てくれればいいから」
父親からの心配の電話を秒で切った後、机に向かい始めた。一応、葵は高校三年生である。進路はもちろん進学、某国立大学へを希望している。正直、呑気に応援なんかしている暇はない。全国の受験生はテレビなんかに目もくれないし、携帯も触らないのだ。葵は公募推薦のため、受験勉強に加え、小論文の練習とテスト勉強をしなければならない。評定は4.8もある。しばらく勉強をしていると、お腹が空いてきた。下の階のランチビュッフェに出かけようと部屋を出たところ、携帯が鳴った。
「葵、今日の夜、島田くんにお礼の食事をするんだが…6時からどうだ?」
「…は?」
葵は咄嗟に食事を回避する方法を探し始めた。
「私はいかない」
「ちゃんとお礼したのか?」
「したわよ」
ショッピングモールで。
「でもなー、父さん改めてお礼した方がいいと思うんだよ。葵の命を救ってくれたんだしな」
それを言われるとなんとも言えない。後遺症や軽度で済んだのは、幹太の助けである。しかし、それより葵は幹太に会いたくない気持ちが勝っている。自分でもわからないが、とてつもなく嫌なのだ。
「でも嫌、私、服も買ってないし勉強もあるし安静にしたいの」
「聞いたら、島田くんと葵は同級生だったんだなぁ。まぁおめかしは父さんが上げたお小遣いで足りるか」
「そういう訳じゃなくて…もういいわ、行けばいいんでしょ」
そう言って葵は電話を切った。ディナーに着ていく服がないのは確かであるし、幹太とも会いたくないし、夏バテで食欲もない。外にも出たくないのだが、ビュッフェでお子様の皿にペペロンチーノを盛り付けて、オレンジジュースをトレーに乗せた。無意識にため息ばかり出て、フォークが進まない。
- Re: JKに幸あれ ( No.8 )
- 日時: 2019/11/10 00:39
- 名前: 耳 (ID: MHTXF2/b)
「さぁー、昨日はサヨナラが出ました、古河。スターが並ぶ甲子園に、地元の市立中学校からやってきた猛者です」
テレビではこんなことが言われている。今日とて今日も試合である。妙なアドレナリンと雰囲気に呑まれる中、古河龍貴は一息吐いて、構えた。
「打ちましたー、ライト前。古河は一塁へ」
「いやぁ古河くん安定してますね。追い込まれてからのこの選球はいいですよ」
「本日一打席目でヒットとなります」
古河がアップになる。特に雄叫びを上げるわけでもなく、
「タイミングズレたわちょっと」
とカバーを受け取りにやってきたチームメイトにボソボソ呟いている。
「いや、ナイスナイス!」
「おーう」
頭体に反比例して覇気がない。ベンチはそんな古河を知っているのでますます盛り上がっている。
「隙を見て2塁へ!キャッチャーもナイス送球ですが、間に合いませんでした。古河、盗塁成功です」
- Re: JKに幸あれ ( No.9 )
- 日時: 2019/11/11 22:28
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
葵はショップバッグを2つ抱えて部屋に戻ってきた。ひとつは、かかととつまさきの部分が欠けた太いヒールがついたサンダルである。なんと6000円で手に入れた。タイトなガウチョとスクエアタンクトップのセットアップも1万2000円で見つけた。適当にイヤリングは揺れる長さのものを見つけ、赤いリップも買った。全体的にシックな感じがするが、葵にとっては値段がリーズナブルである。とりあえずシャワーを浴びて、ドレッサーに戻ると礼子がかえってきた。
「いやー、今日も勝ったよ!ベストエイトだってー、やっぱ熱いねぇ」
葵はスキンケアを終えて髪を乾かしているので、話があまり聞こえてこない。6時にあそこのタワービルの26階に集合…あと1時間である。化粧道具をほとんど持っていないし、着替えるだけでいいか。と葵は背中の真ん中まである栗色の髪を乾かしている。
「どこか行くの?」
「幹太と…父親と食事」
「え!あ、だからまた服かったんだ、なるほどねー」
へぇーとニヤついている礼子は、自分のリュックからがさごそと何かを探している。
「ばばーん!お化粧しよ?」
「別にいらない」
「じゃあなんでそんな新品のかわいい服用意するわけ?」
それは、ディナーに着ていく服がないから。葵はそのようなことは言うまでもないと思っていたので、特に返答はしなかった。
「幹太くんに、良く見られたいんじゃないの?」
「え?」
「そうならそうでいいじゃん」
「違うわ」
「えー、ほんとー?」
何故か言葉に詰まってしまった。会いたくないというのは確かなのに、会うとなったら力んでしまう。よく分からない、小中ではいつもささいなことでからかわれたり、バカにされたりして心底嫌だったのも事実だ。
「…化粧道具貸して」
「いいよ」
葵は着替えたあと、前髪を止めてドレッサーに座り直した。
- Re: JKに幸あれ ( No.10 )
- 日時: 2019/11/16 09:29
- 名前: 耳 (ID: RO./bkAh)
「小綺麗な服もってない?」
「寮生に聞くなや」
幹太は先程から寮をぐるぐる歩き回っている。葵の父親から食事に誘われたのだ。本来、夜8時以降は外に出てはいけない規則だが、顧問と塾長の許可により外食が認められた。午後6時にあのクソでかいビルの26階でディナーということで、さすがにTシャツにハーフパンツは無理がある。ということで、かしこまったドレスコードのような正装をしなくてはならない。
「地元民に聞けば?」
「あぁ、そっか」
同部屋の鷹島の提案により、自宅から学校に通うクラスメイトに電話をかけた。
「もしもし、突然悪いんだけどオシャレな服持ってない?」
「は?」
「うん」
電話がかかってきた幹太のクラスメイト・吉岡は困惑している。
「今日さ、訳あってお高いディナー行くことになって、服貸してほしいんだけど…」
「あぁーいいよー」
「うわぁ…ありがとう」
「喜んでんのかよ」
とりあえず幹太は吉岡の家まで行くことにしたが、もう4時を回っているので吉岡に自転車で学校まで爆走してきてもらうことにした。
「たくちゃん(吉岡)今度アイス奢るわ」
「おん、適当に服もってくわ」
葵の父親によると葵も来るらしい。恐らく予想だにしないくらいカオスな食事会になるだろう。そうこう思い悩むうちに吉岡からまた連絡が入り、寮の門の前で服を受け取った。
「デート?」
「食事会」
「まぁ色々あるから選べや、じゃっ」
「ほんとありがとう」
たくちゃんいい人すぎ。彼はまた自転車で颯爽と長い通りを下っていった。その背中を見送ったあと、幹太は早速部屋に戻り鷹島とファッションショーを始めた。
「いいやんそれ」
「シンプルすぎん?」
「いやー、お前顔面きもいからそれくらいでいいわ」
某ハイブランドの白地に小さい黒の水玉があしらわれたポロシャツである。胸元にブランドのロゴが小さく入っていてとても可愛い。しかしまだ幹太はズボンを履いていない。貸してくれた服の中から、スキニーパンツとチノパンを取り出した。
「どっちがいい?」
「チノやろ」
黒いチノパンを履くと、大方完成である。貸してくれた服が入ったバッグからは、スニーカーとローファーが入っていた。スニーカーは白地に黄色と黒のラインが入った中々オシャレなものである。
「ピッタリ…」
「たくちゃんなんで足のサイズ知っとん」
「知らんわ」
幹太は前髪を上げて横に流した。幹太はかなり甘い顔立ちをしている。女装が似合いそうだが、体型が男らしいので可愛くはならない。
「いってくるわ」
「葵ちゃんの写真くれや」
「撮らせてくれんて」
財布とスマホをポッケに入れた。鷹島は洒落た幹太で1枚写真を撮ったあと、「おしゃれますたー」と付け加えSNSにシェアした。5時を回ってしまった。幹太は小走りで駅に向かった。