複雑・ファジー小説
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- 宵と白黒 外伝
- 日時: 2021/11/05 22:49
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=5662
こちらは、ダーファ板で連載しております『宵と白黒』の外伝になります。
キャラクターたちの過去の話をしたり、完全に蛇足な話をしたりするでしょう。
上記リンクが本編になります。よろしくお願いします。
星がついてるのは本編に関係してくる話です。
たまに消したり書き直したりなどします。
全体の目次
最新話 >>29
頂きもの >>28
■自由と命令 ☆
蓮の過去の話。
>>17
■雨が降っていてくれて良かった
ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したものです。
>>18
■白と黒 ☆
シュゼの髪が長かった頃の話。
>>19-23
■青の暗示と優しい嘘は。 ☆
ブランが出会った、力の制御が出来ない少女の話。
>>26
■記憶の果てに沈む。
蓮が初めて華鈴に会った日は、夏祭りの日でした。
ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの第三弾。
>>27
■来世の話をしよう
蓮の名前の由来とおかあさんの話。四章まで読んだ後がオススメ(四章までのネタバレを含む)。
>>29
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.12 )
- 日時: 2021/01/24 23:43
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第二話
蓮の視界の大半から、色相が喪失した。
かつて、緑色の髪をした少女が、自分にの隣にいて。彼女が、とても大事だった気がした。けれどそれが誰だか分からないし、名前も思い出せない。
いや。名前を思い出すとは何か。誰のものを思い出すのか。思い出さなくてはならない人がいたか。
何もわからなかった。蓮は脳内で自問自答する。顔を上げた先の夕焼けの色は、もっと鮮やかで豊かな色を持っていた気がした。振り返ると見える山は、もっと赤かったはずなのに灰色に見える。
「どう……して……?」
微かに言葉が零れ落ちる。分からない、分からないのだ。けれど、絶対に忘れないはずの何かを忘れているような気がして、蓮は辺りを見渡した。
けれど、そこには彼自身と楓樹しか居なくて。
「光を見ちゃった、所為かな……」
蓮はそう呟いた。そうだ、強い光を見ると失明すると聞いたことがある。多分、先程の光の所為で目がおかしくなったのだろう。それの影響を、頭も受けただけだろう。
─────最初から、居なかったはずだ。僕は、何を思い出そうとしてたんだろう。
蓮は、そう思うことにした。
「おーい、蓮。列車、乗りに行くぞー」
楓樹の声が、後ろから聞こえてくる。蓮は楓樹の方へ振り返った。
「あ、はーい。……どこ行くの?」
「タリスクだぞ。あれ? 蓮には言って無かったか?」
首を傾げた蓮は、ゆっくりと記憶の糸を手繰りよせる。ああ、と蓮は呟いた。そうだ、叔父さんが休暇だからタリスクに行こうと言ったんだったか。
「うん、行こう叔父さん!」
返事をした蓮は、一瞬振り返った。瞬きをしてから、夕焼けを見つめる。場所が変わったことで見えた山も、夕焼けも。蓮の視界には、灰色に見えた。どこか空疎を感じる。泣きたくなるほどの郷愁と共に。
行きと同じ道を帰って行く蓮は、何処と無く手のひらが寒いような気がしていた。
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.13 )
- 日時: 2021/01/24 23:48
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第五章 色ハ、ソノ瞳二映ルカ?
第一話
その後、国境を越えてタリスクに入った列車は、やがて駅で停車した。列車に乗っていても、何だかふわふわして落ち着かない。苦しい、何か忘れているような気がする。
何も、思い出せない。否、思い出すことなんてない筈なのに。幾度も繰り返した問。
蓮はてっきり国境を越えるには入国許可証のようなものが必要だと思っていたが、楓樹によるとそれは要らないのだそうだ。きょうていの恩恵だ、とは楓樹の弁である。蓮にはそもそも協定が何かが分かっていなかったのだが。
□ △ □
駅を出た先の街にある街は、こちらの言葉で黎明街と言うらしい。蓮にとっては目新しいものばかりだったが、ここに来て一番彼が驚いたのは楓樹がこの国の言葉を話せることだった。
楓樹は仕事で何度も訪れたことがあるのだそうで、彼はすぐ話せるようになると言っていた。蓮には話せるような気がしなかったのだが。
宿に着いたとき、楓樹は少し友人に挨拶してくる、と言って部屋を出て行ってしまった。楓樹が居なくなって手持ち無沙汰になった蓮は、窓の外を見つめてみる。
窓の外は、澄んだ青い空ではなかった。何故だか灰色の空が視界一面に広がっている。
「見えない……」
色が見えない。空の色も、ガラスに映り込む自分の瞳の色も。思い出せはする。絵の具でこの色を作れと言われたら、どうすればいいのかは分かる。だが見えないのだ。
蓮は、記憶に穴が空いているような気がしてならなかった。その色とともに、誰かいたような気がするのだ。
分からないけれど。
□ △ □
ある夜、買って来たタリスク特有の料理を食べていた時のこと。楓樹が、真剣な顔で切り出した。
「蓮、ここにしばらく留まろうと思うんだ」
「ここに? 大丈夫なの?」
あまり荷物など持って来て居ないことを心配した蓮がそう尋ねると、楓樹が頷いて答えた。それに、かすかな既視感。ぴぃん、と記憶の糸が震えるような。
「友達が部屋貸してくれるらしいんだ。だからそこに住もうと思ってる。俺が荷物取ってくるよ、そんなに遠くないから一日で帰ってこれるし。仕事もこっちに転職になりそうだったから。勿論蓮が嫌なら良いんだけど」
そう言った楓樹は笑うと、蓮の目を見た。その黒い目が、蓮の記憶の海に一石を投じる。けれどそれが波となることはなくて。
それに蓮は何処か虚無を感じながらも頷いて、笑った。
「良いよ。……ねえ、叔父さん。何かさ。忘れて、無いよね……?」
漠然とした不安を抱えた蓮が、楓樹の顔を見つめる。先程から、記憶が揺れている気がして。蓮のその問いに、記憶の頁の文字が揺らぐ。だが、楓樹もまたそれが蘇ることは無かった。
「何か、忘れてたかな?」
楓樹がそう言うと、蓮は何処か安心したように肩の力を抜いたのだった。
□ △ □
それから少しして。蓮と楓樹はついに引越した。黎明街のかなり端のほうにある、大きめのアパートの一室である。
玄関の前で大柄な男が一人、楓樹と聞きなれぬ言葉で会話していた。互いの真剣な顔を見るに、どうやら何か交渉をしているようだ。
蓮は玄関の前に立って、次々と若い男たちが荷物の箱を家の中に運び込んで行くのを眺めていた。手伝おうにも言葉がいまいち分からないので手伝えなかったのだが、それもさておき。
蓮の斜め後ろの方にいた楓樹が不意に聞き取れる言葉を、つまり秋津の言葉を発した。
「蓮! 俺ちょっと出かけてくるから、良い感じに荷物空けといてくれ!」
「わかった!」
楓樹と話していた大柄な男がバシバシと彼の背中を叩きながら何処かへ歩き去って行く。お互い笑っていたし、悪いことは無かったのかな、と思いながら蓮はドアを開けた。
「……あれ?」
少しの違和感は、すぐに具体的なものに変わった。三和土が無いのだ。キョロキョロと辺りを見回していると、後ろからぽん、と蓮の肩が叩かれる。蓮の肩を叩いた男は、自分の靴を指差してから、首を横に振ってみせた。そして、敷かれていたマットを靴で叩く。
その動きが意味することを悟った蓮は、ぺこりと一礼した。靴底をマットで軽く擦って、部屋へ踏み込んだ。踏み込んだリビングに、空が見える窓がある。けれど、蓮にはやはり灰色にしか見えない。
怖い、とここで初めて思った。
色が、欠片も見えなくなっている。何て言えば良いんだろう。色の温度か。分からない。分からない。本当に何も分からないけれど、思い出して───何を? 見たい。思い出す──違う、誰──思い出せない──いるわけない──
ぐるぐると回る思考は、結局形にはならなかった。
□ △ □
ある程度荷物が運び込みが終わると──元からあまりなかった──、若い男たちが撤収して行く。ヒラリと手を振った先程の男に手を振りかえしながら、蓮は玄関のドアを閉めた。
先程の思考は少し疲れていたことにしよう。忘れることにする、と決めて蓮は袖を捲った。
「さて、やるか……」
少しでも進めておこう、と思いながらカッターを手に取り、早速一つ目の箱を開けにかかる。
カッターの刃を、テープで止められている切れ目に食い込ませる。ざくり、と音を立てて刃が沈みこんでゆく。そっと左手を添えて、刃を引き切る。
赤い雫が、舞った。
「つっ……!」
何のことは無い、押さえていた手を刃が掠めただけのこと。
けれど、血に蓮の瞳は───
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.14 )
- 日時: 2021/01/24 23:55
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第二話
溢れ落ちる赤を写して、がくがくと瞳孔が揺らぐ。
「あ、かい?」
ふわりと、無色が舞い落ちた。見えるのだ、色が。望んでいたはず。なのに、苦しくて仕方ない。何でだろう、と蓮は思う。指先は酷く震えて、目頭も熱かった。
その感情に名前をつけるならば、それは哀惜か。くらくらする思考に苦しくなって、蓮は視線を落とした。左手の傷の血は、止まっていて。ちからを抜いたことで、右手に握られたカッターの刃先が床に着き、かすかに音を立てる。
目に入った刃先にも付着した赤色に、蓮の記憶が揺さぶられる。糸が、海が。苦しい。頭がいたい。微かに、声。糸は繋がるのか。無意識に、再び刃を持ち上げる。もっと。もっと、赤。心の奥が酷く渇望する。乾ききった喉から、嗚咽のような声が溢れ出た。
蓮の左手首に、赤が走る。乾いた笑みすら零れ落ちる。手を伸ばす。視界に、赤が写りこむ。清冽な赤。手首に赤。それと同時に痛み。空気に触れて酸化していく、血。
手首への線は増えていくのに、外の景色は見えないまま。なにも変わらない。
その代わり、心が。罅が入って、割れて、砕けて。
頭痛がして。
書き換えられた記憶に、罅。けれど、何も。頭がおかしくなりそうだ。荒い息が吐かれる。
不意にしたおとに、びくりと蓮の肩が跳ねあがる。後ろの方で、箱が倒れたのだ。
するりと右手からカッターが滑り落ち、だらりと力が抜ける。左手の血が乾いて、剥がれおちていく。
「ぁ────!」
己のしていたことに、震えが駆け抜ける。心臓が鳴っていた。血でぬめる手。何をしていた、と激しく己に問う。立ち上がった蓮は、ドアを押し開けて逃げ出した。でも何故か、カッターは手放さぬまま。
「蓮? どした!? おいその血……! くそ、蓮!」
帰ってきて、偶然ドアを開けかけていた楓樹の声がするのにも関わらず。蓮は走り出す。そこから遠ざかりたくて、苦しくて仕方がなかったから。
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.15 )
- 日時: 2021/01/24 23:57
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
終章 常闇
恐怖に押されて走り続けていた蓮の目の前が、不意に暗くなった。ドンッ、という音が響き、身体が誰かにぶつかった感触。
「ッ……すいません!」
ここが何処だか、蓮には分からない。
けれど謝って顔をあげ、蓮は辺りを見渡す。随分と街並みが変わった気がするのだ。より暗さが強調されるかのような、色彩の少ない街。それでも蓮は、ひどく居心地の良い街だ、と思う。無駄な色がない、鮮やかでもない。記憶が揺さぶられることも無い。
蓮がぶつかった相手は細身の男ようだった。
男は少し蓮の言葉に驚いたような顔をしたが、ちらりと一瞥くれると何事も無かったかのように立ち去って行く。少し拍子抜けしながらも、蓮の脳内に思考がまたたいた。
言葉は、通じているのだろうか。
「ッあの! ここは何処ですか?」
その声に、男は足を止めて振り向いた。黒いコートの裾が、ふわりと揺れる。焦げ茶色の髪のしたから覗く黒の瞳が、蓮を射る様に見つめた。微かに冷気の様なものが男から発せられる。
けれど蓮は全く動じない。否、何も感じていない。
緑の目が微かに見張られる。すなわち、彼は何も知らないのだ。そして、男は蓮へ向けて呟くように言う。
「此処は殺し屋の街。常闇街だ」
低い声で、しかも秋津の言葉で男は端的に言った。蓮へ彼は問い掛けを放つ。
「……お前、秋津の人間か? 服も綺麗だし、殺気に反応しなかった。黎明から来たお坊ちゃんなら帰りな、ここは宵闇と違って餓鬼を取って食う様なことはしないから」
男のその言葉に、蓮は黙り込んだ。
叔父に恩はあるし、あの生活は嫌いじゃ無い。けれど、明るすぎる。彩度も明度も色相も。何か頭が割れそうで仕方ない。苦しいのだ。ちくり、と左手に痛みが走る。乾いた血が、ぱりぱりと落ちていく。ごめんなさい叔父さん、母さん、と呟いて、蓮は決断した。それは気の迷いであったかもしれないし、理性的な判断であったのかもしれない。
「貴方に、着いて行かせてもらえませんか」
蓮がしばらくの沈黙の末に出したその答えに、今度は男が黙り込んだ。左手に傷があることに気づいたのだ。
そして、彼は顔を上げて言い放つ。
「……深くは聞かないが。ここで生きられる様になるまで。それまで、お前を預かってやろう。……殺しの仕事も教えるから、仕事をしたら金を払え。お前が依頼主だ」
殺し、と言う言葉に蓮は動揺した。けれど。けれど、赤い血が。
「分かりました」
それに頷いた男は、くるりと振り向くと歩き出す。
着いてこいと言いそうな背中を追いかけて、蓮は常闇で生きることを決めた。
その後、力を開花させて一人で生きることになった蓮は、その力から【人形使い】と言う二つ名で呼ばれるようになる。
そして、ある依頼で紺色の髪の青年たちと出会うのだ。けれどそれは、また別の話。
自由と命令(完)
- Re: 宵と白黒 外伝〜自由と命令(完結)〜 ( No.17 )
- 日時: 2021/01/24 23:59
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
────空を渡る風。
夕焼けに飛ぶのは赤蜻蛉。
靡く緑髪が、夕陽を吸って煌めく。
少しだけ、前の話をしようか。
どれくらい前か、かい。うん、そうだね……黒髪の殺し屋さんが、三人の旅人さんに会うより少しだけ前かな。
それじゃ、ちゃんと聞いててね……
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世界観の説明
(先に宵と白黒を読むと分かり易いかと)
・無数の国が存在する世界。
・今回の舞台は主に『秋津国』と『タリスク国』。
・真名 と呼ばれる物を皆が持っている。(本名とは異なるが、秋津では真名を最初から名乗る者が多い)
これにより『力』を使うことが出来る。(なお自衛の為以外使用禁止の模様)
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こんにちは、ライターです。
まだ完結してないのに書きたい衝動を抑えきれず……
ダーファ板の宵と白黒も読んでいただけると嬉しいです。
本編だと掘り下げられそうにないので、外伝的な感じかなと思います。
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目次 全テ >>1-15
序章 夕焼ケハ橙ニ染マリテ
金茶色 >>1
第一章 目ノ痛クナル程青キ空
>>2-5
第一話 群青色 >>2
第二話 留紺色 >>3
第三話 縹色 >>4
第四話 天色 >>5
第二章 赤ニ写リシ世界ハ
>>6-8
第一話 紅緋色 >>6
第二話 茜色 >>7
第三話 銀朱色 >>8
第三章 再ビ、夕暮レノ元ニテ
金茶色 >>9
幕間 遥カ昔、秋津原ニテ
>>10
第四章
>>11-12
第一話 >>11
第二話 >>12
第五章 色ハ、ソノ瞳ニ映ルカ?
>>13-14
第一話 >>13
第二話 >>14
終章
>>15
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