複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

宵と白黒 外伝
日時: 2021/11/05 22:49
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=5662

こちらは、ダーファ板で連載しております『宵と白黒』の外伝になります。
キャラクターたちの過去の話をしたり、完全に蛇足な話をしたりするでしょう。

上記リンクが本編になります。よろしくお願いします。
星がついてるのは本編に関係してくる話です。
たまに消したり書き直したりなどします。


全体の目次

最新話   >>29
頂きもの  >>28
       
■自由と命令 ☆
 蓮の過去の話。
>>17

■雨が降っていてくれて良かった
 ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したものです。
>>18

■白と黒   ☆
 シュゼの髪が長かった頃の話。
>>19-23

■青の暗示と優しい嘘は。 ☆
 ブランが出会った、力の制御が出来ない少女の話。
>>26

■記憶の果てに沈む。
 蓮が初めて華鈴に会った日は、夏祭りの日でした。
 ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの第三弾。
>>27

■来世の話をしよう
 蓮の名前の由来とおかあさんの話。四章まで読んだ後がオススメ(四章までのネタバレを含む)。
>>29

Re: 自由と命令 ( No.1 )
日時: 2022/11/04 23:56
名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
参照: http://www.kakiko.cc改済

『あてんしょん!
 目次は>>17にあります!』


序章 夕焼ケハ橙ニ染マリテ
 金茶色

 この世界に神は実在する。それは幻想でも救済でも何でもなく、実体を持つ者として存在する。ならば、人を遥かに超える力を持つ者を恐れ、敬うのは道理であろう。
 だからこそ古くからの歴史を持つ秋津国には、無数の神社仏閣が存在する。
 その中で、一番大きく歴史も古い神社───それが、この命風神社である。

 夕焼けよりもはるかに濃い赤の鳥居をくぐった、橙に染まる境内のさらに奥。鬱蒼とした林の中に、何故かぱらりと紙をめくる音が響く。
 その音の発生源であろう場所には、巫女服を纏った緑髪の少女が地べたに直接腰を下ろして本を読んでいた。目が文字列を追いかけ、紙の上を行き来している。
 その少女は誰かが来ないかを気にしているかのように時々辺りを見回し、誰も来ないのを確認してもう一度読書を始める、を先ほどから繰り返していた。
 不意に、がさりと木の葉を踏み締める音がした。その音にびくりと少女の肩に震えが走る。ばっと顔を上げた少女は木の後ろへ隠れ、気配を隠すように息を詰めた。


「あれ? 華鈴さん? おかしいな、さっきまで此処に居たような気がしたんだけど……」

 木々の間からぴょこんと短い黒髪が覗き、少年の声がした。
 息を詰めて隠れていた少女は、その声を聞いて肩の力を抜き、ひとまとめにされた髪を揺らして顔を出した。

「蓮なら先に言ってね、心拍数を無駄に使うから!」
「それはごめんなさいですね。それより華鈴さん、貴女大丈夫なんですか? 仮にも権禰宜でしょう? 後で神主様に怒られても知りませんよ?」
「仮にも、とは何かな。私はれっきとした権禰宜ごんねぎだ!」

 蓮と呼ばれた黒髪の少年が心配げに、半ば怒ったような口調でそう言う。

「その権禰宜さんがこんなとこでお勤めサボってどうするんですか……」

 すると先程むっとした顔で言い返した華鈴、と言うらしいその少女は、蓮の目の前に来ると笑って答えた。

「問題無いさ! 見つからなければ良いんだから!」

 既に幾回も怒られているとは思えぬような明朗快活な声に、蓮が溜息をつき、肩が落ちる。振り仰いだ空は、今はもう、青い空ではなく薄っすらと白い雲がたなびく夕焼け空。

 同じように空を見上げた華鈴が、その黒い瞳を金茶色に染めながらポツリと呟いた。

「ねぇ蓮。私──赤蜻蛉、見てみたい」

 赤蜻蛉。それは、この国で最も希少で神聖な生き物である。『秋津原』という場所が赤蜻蛉の住処であるとされており、秋津原も見つかっているが、そこで赤蜻蛉を見た者はまだいない。

「華鈴さんは……どうして赤蜻蛉を見てみたいんですか……?」

 華鈴は先程からずっと夕焼けを見つめている。蓮は何故だか、華鈴が水みたいに夕焼けの色に染まってそのまま、融けてしまうような気がしたのだ。ざわ、と心の奥底が波立つ。連れて行かれてしまう、という言葉がふと頭をよぎった。誰がいる訳でもないのに。
 よくわからない焦燥に駆られ、華奢な肩を蓮が掴み、叫ぶ。

「華鈴さんッ!」

 必死な声が届いたのか、それとも先程のあれは蓮の勘違いだったのか。ふっと華鈴は何事もなかったかのように笑った。

「ごめん、大丈夫だ。……空が、綺麗だなと思ってね。月はまだ出ていないけれど。……ああ、さっきの質問ね。私は赤蜻蛉、って言うより、自由に……ううん、何でも無いや」
 
 風が吹き抜け、ざわざわと林の木々を揺らす。
 風なんて掴めやしないのに、そのまま風に乗って世界中を巡ってみたい、なんて華鈴は思う。誰よりも自由を望む少女は、きっと誰よりも自由ではないのかも知れない。
 


Page:1 2 3 4 5 6



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。