複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 宵と白黒 外伝
- 日時: 2021/11/05 22:49
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=5662
こちらは、ダーファ板で連載しております『宵と白黒』の外伝になります。
キャラクターたちの過去の話をしたり、完全に蛇足な話をしたりするでしょう。
上記リンクが本編になります。よろしくお願いします。
星がついてるのは本編に関係してくる話です。
たまに消したり書き直したりなどします。
全体の目次
最新話 >>29
頂きもの >>28
■自由と命令 ☆
蓮の過去の話。
>>17
■雨が降っていてくれて良かった
ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したものです。
>>18
■白と黒 ☆
シュゼの髪が長かった頃の話。
>>19-23
■青の暗示と優しい嘘は。 ☆
ブランが出会った、力の制御が出来ない少女の話。
>>26
■記憶の果てに沈む。
蓮が初めて華鈴に会った日は、夏祭りの日でした。
ヨモツカミさん主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの第三弾。
>>27
■来世の話をしよう
蓮の名前の由来とおかあさんの話。四章まで読んだ後がオススメ(四章までのネタバレを含む)。
>>29
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.7 )
- 日時: 2021/01/24 23:16
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第二話 茜色
「ごめんくださーい」
蓮の家の前に辿り着いた華鈴は、軽やかにインターホンを押してそう言う。
『……華鈴ちゃん?』
華鈴の予想に反して、スピーカーからこぼれ出たのは若い男の声だった。この声は楓樹さんだな、と当たりをつけた華鈴はインターホンに向かって返事をする。
「はい、そうです。少し用があって来たのですが……」
数瞬の時間差、足音がスピーカー越しに響いた。それは雑音としてしか聞こえないが、華鈴にはその足音の主が分かり切っている。
『華鈴さん!? 何やってんですか、ともかく……入ってください!』
そんな声がした後、ガチャリと鍵を開ける音が目の前の引き戸から響く。引き開けられた戸の向こうで蓮が呆れた様な、はたまた悟った様な顔をして華鈴を見ていた。
「……えと、こんばんは?」
「こんばんは、じゃ無いですよ。貴女何やってんですか、また抜け出して来たんですか?」
その言葉に華鈴は首を振り、笑って自慢気に答えた。
「抜け出して来たんじゃ無い。飛び出して来た、と言うか……追い出されて来た?」
蓮の表情が呆れたを通り越して徐々に怒っている様な表情になるのをみて、華鈴はひょいと肩をすくめた。その動きにあわせてさらりと髪が揺れる。ほんの少しの静寂に華鈴が何故かいたたまれなくなり、言い訳しようと口を開きかけた時、蓮の後ろから声がかかった。
「取り敢えず、上がって座ってよ華鈴ちゃん。蓮、お茶淹れて?」
「叔父さん……分かったって」
「あ、どうも……お邪魔します!」
靴を脱いで華鈴は蓮の家に上がる。蓮の家に上げてもらうのは何気にまだ二回目ぐらいなのか、と思いながら蓮の背中を追って階段を登った。
「華鈴ちゃん、取り敢えずそこの椅子座って」
楓樹が指差した椅子に腰掛け、華鈴は軽く会釈した。ことり、と音を立てて目の前に置かれた茶から立ち昇る湯気に目を細める。ありがと、と小さく礼を呟けば、どういたしまして、と静かに言葉が返ってきた。
蓮がすとん、と華鈴の目の前の椅子──楓樹は向こうのソファだ──に座る。真っ直ぐに華鈴を見つめて蓮は口を開いた。
「今更何をしたかは聞きませんが。なんでこんなことしてるんですか?」
「だってさ。父様が酷いんだ、私の気持ちなんて分かりもしないで。だから出て来た。ついでに言うと、勘当されたからもう帰れない」
口を尖らせて華鈴が言い訳を呟いた。それを茶を飲みながら聞いていた蓮は、勢い良くむせると華鈴に問いかけた。
「なんですって? 勘当された? アホですか貴女は」
「華鈴ちゃん……」
二人からの視線の集中砲火を受けて華鈴が僅かにたじろぐ。
「……でね、私は秋津原に行かないといけないんだけど。」
無理矢理話題を変えた華鈴に蓮が一層冷ややかな視線を浴びせる。一方楓樹は、秋津原と言う言葉に首を傾げていた。
「華鈴さん、貴女ね……」
お説教状態に移行しかけている蓮の口調に華鈴が首を竦めていると、楓樹が横から割って入る。
「いいじゃ無いか、ちょうど良い。俺たちも秋津原に行こうって言う話してたんだ、華鈴ちゃんも一緒にどうだい?」
「良いんですか?」
「ちょっと叔父さん!?」
華鈴が身を乗り出して叫び、それを止めるかの様に蓮が叫ぶ。まあまあ、と2人を宥めつつ、楓樹は笑った。
「いいじゃない、別に。蓮もどちらにせよ華鈴ちゃん誘ってみるつもりだったのだろ?」
「まあ、そうだけど……」
「大丈夫です! 絶対、何があろうと迷惑はかけませんから!」
渋々蓮が頷くと、華鈴は力強く頷きながらそう言った。それを見た楓樹はにこりと笑いながらカレンダーを開き、それを見ながら言った。
「明日から行けるからな……明日からで良いかい?」
「はい! 私は大丈夫です!」
「はー……分かった、僕も行くよ!」
蓮が肩を落としながら、それでもどこか嬉し気にそう言った。華鈴も満面の笑みを浮かべて同意し、楓樹はニッコリと笑う。
蓮の黒の瞳が窓から射し込む光を映して茜色に染まる。窓の外の空は、果てしなく広い。
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜【修正済】 ( No.8 )
- 日時: 2021/01/24 23:21
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第三話 銀朱色
がたがたと体が揺れる。窓が全開になっているせいで風が吹き込んで、前髪を激しく揺らした。それをどこか鬱陶しく感じながらも、心は軽い。昨日蓮の家に転がり込んでから、今朝もう秋津原の近くまで行けるらしい『列車』なるものに乗っている。
それを思い返す度、自分は消えてしまうのだ、と淡く思った。何を今更、と心の中でもう一人の自分が嘲笑しているのにも気づいていたが。それでも、窓の外を眺めながら決意を固める。
───責任はとる。迷惑は掛けない。最後は、力で。
「わ……華鈴さん、外見て下さい!」
不意に華鈴の目の前に座る蓮が外を指差した。目をキラキラと輝かせ、楽し気に笑っている。何を見つけたんだ、と思いながら蓮の指差す方向へ視線を滑らせた。
「……山が赤い?」
華鈴は本気で首を傾げた。
その理由を本気で解していない華鈴を見かねたのか、右斜め前に座る楓樹は微笑んで口を開く。
「華鈴ちゃんは紅葉、って知ってる?」
「こう、よう……何ですか、それ?」
「紅葉、って言うのはもみじ、って書くんだけど。葉っぱが、秋になるとじわじわ赤くなったり黄色くなったりする事を言うんだよ。あの山はきっと、葉が全部、紅葉したんだろうね」
ニコリと笑った楓樹は、楽しそうに解説を始めた。それを聞いた華鈴が更なる疑問に首をまた傾げる。
「命風の木は、あんなことになってませんでしたけど……。」
「それはきっと、その木が常緑樹っていう種類だからさ」
「じょうりょくじゅ?」
「うん。常に緑の樹、って書いて常緑樹。その種類の木は紅葉しないんだ。詳しいことは知らないけど」
華鈴と楓樹の会話を黙って聞いていた蓮が今度は首を傾げた。
「もうこの辺は秋なのかな? あっちはまだ夏の終わり、って感じだったけど……」
「それは多分、ここが秋津原に近いからだな。秋津原に近ければ近い程秋の訪れが早い、ってこの辺に住んでる知り合いが言ってた」
楓樹が昔の事を思い出しながらそう言う。
「すごいね、全然知らなかったや」
「そんなことがあるんですね……」
「俺、昔は放蕩息子って呼ばれてたからな。色んな所に行ってたんだ。ま、今はさすがにちゃんと働いてるけどね」
ひょいと首を竦めながら楓樹は笑って言った。
世界は広い、なんて華鈴は思う。命風に居たら欠片も見えなかったものが見えているのだから。舞い飛ばされ、窓から滑り込んで来た銀朱色の葉が、ふわりと華鈴の膝に舞い落ちる。
本当に赤くなっているその葉を見つめて、華鈴は微笑んだ。
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.9 )
- 日時: 2021/01/24 23:40
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第三章 再ビ、夕暮レノ元ニテ
金茶色
その後も列車に乗った華鈴たちは、色々な話に花を咲かせていた。
駅で降りて三人は秋津原に向けて歩き出す。楽し気な楓樹と蓮を裏腹に、華鈴は微かに沈鬱を滲ませていた。それは本当に微かで、蓮と楓樹は全く気付いていなかったが。
「秋津原までは徒歩で行けるの?」
ほとんど人のいない構内を抜けながら、蓮は楓樹にそう尋ねる。その問いに華鈴も顔を上げて楓樹を見あげた。問われた楓樹は、にっと笑って答えた。
「そうだ。ま、そんなに遠くない」
「そうなの?」
「そうなのですか?」
楓樹は頷いて肯定すると、くるりと辺りを見渡した。
「人が余りいないね。まあこんな国境近くになれば当然か……」
「国境近く? 秋津原が、ってこと?」
「天津川が国境でしたっけ?」
また先程と同じ順番で喋った二人に仲良しか、と思いながら楓樹は答えた。
「そうだ。タリスク国との国境は天津川。秋津原の中を流れているらしいぞ、天津川は」
へぇ、と感心した顔で頷く二人を見て微笑みながら、楓樹は顔を上げた。仄暗かった駅の構内が終わり、いつの間にか外へ出ていたのだ。
「わ、眩しい……」
「ん……」
またしても同じ順番で呟く二人を見て、楓樹は再び仲良しだな、と確信する。既に空は日が傾きかけていて、それはどこまでも澄んだ光だった。
□ △ □
それからしばらく、森を抜け川を渡り──蓮が何気無く華鈴の手を引いていたのはさておき──歩いた先に一本の獣道が伸びていた。
「この先だ」
「うん……」
「そうですね……」
道を抜けて吹き抜けてくる風が優しく華鈴の頬を撫でる。不意に、脳内に響く声がひとつ。
『命謳う風の巫女……我らの、元に……』
ぞわり、と鳥肌が立った。女とも男ともつかない、中性というよりは性別が抜け落ちたかのような。機械が喋ったらきっとこんな声をしているだろうと思わせる、無機質な声。不審がられぬよう、そっと辺りを見渡しても、当然のように蓮と楓樹しかいない。だが確かに、見られていると思う。
身体が引かれるように、そこへ向かいはじめていた。神に操られているかのように、華鈴は歩き出す。
「あ、華鈴さん!」
「気が早いなあ、華鈴ちゃん」
さくさくと足元の草を踏んで自分を追いかけてくる二人を気にも留めずに。彼女はもう、走り出していた。
半ば息を切らしながら、ようやく踏み込んだ秋津原は、もう既に夕空だった。
目を刺す光の鮮烈さに、華鈴はふとため息をついた。チカラが己自身に使えれば良いものを、と何度願ったか。そうすれば楽になれた。楽なまま、後悔など微塵もなく行けたのに。
それは結局、叶わない夢。
慌てて後から追いかけてきた蓮と楓樹が目にしたのは、あまりにも美しい光景だった。
夕焼けに飛ぶのは赤蜻蛉。
靡く緑髪が、夕陽を吸って煌めく。彼女を歓迎するかのように、祝福するかのように、その翅に夕暮れの光を透かして飛んでいた。
「すごい……本当に、赤蜻蛉が飛んでる……」
「何でだ……?」
そして華鈴に目を移した蓮は唐突に、かつての感覚を思い出した。あの時、神社の境内で。夕焼けを見ていた華鈴が。そのまま消えてしまいそうに見えたこと。
蓮の中に、あの時の焦燥が再び戻る。
「華鈴さんッ!」
「蓮!? どうした!」
楓樹を無視して、駆け寄りながら蓮が叫ぶ。
その言葉は、華鈴の意識の表層を撫でただけ。だが確かに、ぼんやりとした意識の中で、華鈴は蓮の声を捉えた。そして思う。自分は本当に消えるのか。命風の伝説は伝説なんかじゃなくて、本当にあったことなんだ、と。
「華鈴さんッ! こっち、こっち見てください、華鈴さんッ!」
かつての何倍もの焦燥が喉を灼く。蓮は手を伸ばし、華鈴の肩を掴もうとする。だがその手は通り抜けてしまう。まるで、彼女がもうここにいないかのように。別のところも。手も、指先も、髪も首も、全て。まるで流れ落ちる滝に手を通したみたいに、突き抜ける感触はあるのに掴めない。
いっそう強く風が吹き、赤蜻蛉が飛び回る。
「え……?」
蓮は目を見開き、手をさらに伸ばす。無駄に空気だけを握った手に、本当に微かに重みが乗ったような気がした。それを決して逃がすまいと、無意識のうちに少年は問う。
「華鈴さん…? 何で……? いなく、なるの……?」
「蓮、楓樹さん……ありがと。好きだよ、蓮」
蓮の手を握って、静かに微笑んだ華鈴の声が響いた。そして華鈴は、真っ直ぐに右手を蓮と楓樹へ向けた。
───華鈴の力は、『記憶の書き換え』である。まだ一度も使ったことのないそれを、華鈴は発動した。蓮と楓樹、二人分の記憶を遡り。清和華鈴と言う人間は、存在しない、関わったことなどないと書き換えていく。
この後に、少しでも違和感がなくなるように。なるべく深く広く。と
力を使いながら華鈴は尚も微笑んで、蓮の目を見つめた。今にも泣きそうに潤んだ彼の目は、とても純粋な黒だった。金茶色を背景にした自分が、そこに写っている。
己が泣いていることを、そこに自覚した。格好悪い。
そう思ったのを最後に、華鈴の意識は完全に閉ざされた。
風が強く吹いて。華鈴の右手が煌めいて。好きだよ、って言われたことすら気付かぬまま。泣いていた彼女と、最後に目が合った。
そして、蓮の視界は───
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.10 )
- 日時: 2020/05/20 18:08
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
幕間 遥カ昔、秋津原ニテ
遥か、遥か昔のこと。
まだ秋津国も、タリスク国なんてものも無かった時のこと。
命を与える力と、死を与える力と言う、相反する力を持った人間が居た。
命を与える力を持った者の名はすず、死を与える力を持った方がはな、と言う。
力は相反しながらも、とても仲の良い従姉妹であった。
はなはずっと、力の制御が不得手だった。
誰が殺されるか分からないそれは恐れられていて、故に彼女は牢に閉じ込められていた。
そこにやってきたすずは、己の力があれば大丈夫だと言って、はなを外へ連れ出した。
秋津原に二人が訪れた時のこと。
何故か彼女らを歓迎するように飛んでいた赤蜻蛉を、はなが暴走させた力で殺してしまったのだ。
その赤蜻蛉は消え去り、すずの力で生き返らせることは不可能だった。
もしも、殺したのが彼女でなければ神たちは手を下さなかっただろう。
けれど、神たちは恐れていた。神をも超越できる生と死の力を。
だから、それを口実にして二人を捕らえた神は、天上へ召し上げて罰を受けさせようとした。
そこではなは己を責めた。こんなことになったのは私の力のせいだと。
そしてすずを庇ったはなは、罰を受けるのは自分だけで構わない、と言った。元凶は私なのだから、と。
神をも殺せるかもしれぬはなの力を最も恐れていた神たちは、それを聞き入れた上で二つ条件を課すことにしたのだ。
一つ目は、今後すずの子孫から生贄を捧げ続けること。
二つ目は、神を祀る社を建ててそこで暮らすこと。
その条件を飲まされたすずは、泣き叫びながら下界へと戻された。
はなは別れの瞬間、優しく笑っていて。それがすずを苦しめた。
神を祀る社を建てることも、生贄を捧げるものも。全て神が再び同じような力を持つ者が産まれた時の為の監視であるとすずは分かっていた。
けれど神に従うしか無かったすずは、条件の通りに神社を建てて生贄を捧げ続けるように子孫へ伝えた。
己の後を継ぐものへ、片方を選びもう片方を生贄として捧げるように。
これ以来、ここには二人の候補を立て一人を秋津原へ送ると言う慣習が残った。
そしてこれは何百年と受け継がれ、今に至る。
- Re: 自由と命令〜宵と白黒・外伝〜 ( No.11 )
- 日時: 2020/05/21 13:47
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
第四章
第一話
光が強く煌めき、何故か一瞬だけ頭痛がする。
楓樹は、黒髪の甥を目の端に捉えながら辺りを見渡した。
此処が何処か、一瞬だけ分からなくなる。けれど、涼やかな風が吹いて川が流れていて。川の向こうを透かし見れば、建ち並ぶ家々が見えるような気がする。
「ここ、秋津原だよな………なんで、俺たちここにいるんだ……?」
旅をしていた若い頃に、一度だけ訪れたことのあるここの記憶を楓樹は掘り出す。
その時、かすかに緑色の髪をした少女のことが脳裏をよぎった。
けれど、それは楓樹の意識の上層には登らない。
俺たちはここに何をしに来たのだったか、と楓樹は思う。
川を越えればタリスク国で、ここに来た。ということはタリスクに行く予定が合ったのだ、と楓樹は思い出した。
本当は、楓樹たちは赤蜻蛉を見に来たはずだ。
しかし、楓樹の記憶はタリスクへ行く、と言うものへ変わっていた。なぜなら、華鈴が己の存在した記憶を全て書き換えたからである。
華鈴は赤蜻蛉を見てみたいと言った。それを前提として蓮が秋津原に行こうと言い、実現した。
けれどその前提が消失したことで、蓮の言葉も無かったことになる。
すると、楓樹の記憶は都合を合わせるためにタリスク国へ行く予定が合った、という予定を作り出したのだ。
「タリスクに行く予定あるなら、もうちょい先まで列車乗らないと行けないのにな……」
楓樹はそう呟きながら、蓮の方へ歩き出した。