複雑・ファジー小説

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凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー
日時: 2020/05/29 16:20
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

あらすじ・・・陸上自衛官の父を持つ鳥影年光は、父に反発して就職先は工場勤務にした。そこで知り合ったサバイバルゲームを趣味とする同僚に触発されて、のめり込むことに。やがて時はすぎて、年光は自分の父を理解しはじめ、「カエルの子はカエル」だなと悟りはじめる。そんな時、千葉県に元自衛官や元警察官で創設した会社「提中訓練研究社」の存在を知り。仕事を辞めてその会社の危機管理と戦闘訓練コースである「特級コース」を取得し、二年後に卒業して社長等に激励をうけた。しかし、社会に出れば誰も関心がなく、危機管理アドバイザーとしてどこも雇ってくれずに貯金も底を突き、やむなく派遣会社に登録してまた工場勤務で仕事をすることとなった。何とか研修期間3か月を乗り切ったある夜勤の日、ある異変が起こりはじめる。会社の金を使い込み、あまつさえ傭兵を雇って国外逃亡を図ったロシア人前社長が、本社工場に仕返しを企んでいたのだった。金でまたもや雇った傭兵を使って。

Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.21 )
日時: 2020/08/15 17:01
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

・・・「第19普通科連隊の野戦訓練と称してこの辺にいてよかったよ。まさかこんな大事件に遭遇するとは。」隊員の一人が呟いた。一方その頃、延焼を抑えるためにあらかじめ140名の皆に用意させた「濡れ雑巾とガムテープ」を使っているところだった。消化しきれないと悟った鳥影は、掩蔽を放棄。食堂まで後退して二つの扉を閉めて、隙間に先の濡れ雑巾を敷き詰めて、上側はガムテープで留めた。焼石に水でも、ないよりはましである。「クソ、SATはまだか・・・」鳥影は苦しみながら叫んだ。いくらペットボトルを代用したガスマスクとは言え、所詮一時的な防護品。煙の勢いに気負う状態だった。「佐藤さん・・・」身を低くしながらもそばにいた彼女の手を握る。目くばせでわかる。どんなことがあっても、愛するあなたを守るという気概が。「あれ、冷たい・・・シャワーだ。」山下が思わず叫んだ。「スプリンクラーが作動したんだ。けどどうして・・・」野口が天を仰いだその時、鈴木が叫ぶ。「見て、自衛隊のヘリだ。助かったんだよ鳥影さん。」彼は鳥影の腕を掴み、歓喜の声を上げた。火災用スプリンクラーが作動したのは、それより前に、UH−60ヘリ数機が到着した際、張達の通信妨害車を上空から発見し、機関銃で破壊し掃討していたからだった。「やっと来てくれたか。」陸自UH−60ヘリからは、福岡県警第一機動隊SATと対テロの陸自隊員が同時に降り立っていた。「自衛隊さん、先ずは我々SATが突入します。対処が小銃以上の場合はあなた方に頼みますが、それでいいですね。」「了解しました。」かくしてSATの突入だ。時を同じくして張はじめ、李率いる傭兵達は意表を突き、襲ってきた。まだ火が燻るなか、掩蔽を潜り抜ける。「いかん、油断するな、撃てっ。」いち早く察知した鳥影が叫ぶ。かつて提中訓練研究社で提中に言われたことを思い出した。「勝って兜の緒を締めよ。フランス軍と原住民は夜明けに襲ってくる。」今まさにそれだった。しかし、これまでの傭兵とは違う。自分達が作った掩蔽を、ものの見事に使って射撃してくる。食堂からの撃ち合いとなった。「グワ、」「あああーっ」次々撃たれる戦闘参加の従業員達。「クソ、何て奴らだ。誰か、彼らの応急処置を・・・え、」鳥影は驚いた。応急処置もさることながら、それまで戦いを拒んでいた140名近くの人達が一斉に動いたのだ。撃たれた人に代わって銃を取る者も・・・「あんたら・・・」「俺たちを守るためにあんた達は戦ってくれた。なのに見て見ぬふりなんかもうできない。撃ち方なら最初に聞いてた。まかせろ。」もはや、か弱い従業員の目ではなかった。守られる側から鳥影達に感化され、戦う側になったのだ。・・・続く。

Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.22 )
日時: 2020/08/22 20:04
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

・・・そんな時、一瞬の静寂が現れ、替わりに張の叫び声が日本語で聞こえた。「鳥影年光35歳。福岡県出身。陸上自衛隊玖珠駐屯地勤務だった鳥影國年と母、絹枝の間に生まれる。兄弟は妹が一人。そうだよな、提中訓練研究社特級資格保持者、鳥影年光さんよ。」「何で俺のことを・・・」彼が張の言葉でそう思ったのは無理もない。提中訓練研究社ではこうした事態も想定して、一切の個人情報が漏れないようにしていた。提中社長が元特殊部隊員であるが故の処置だったとも言える。「驚くのも無理はない。あんたから検索させたんじゃない。親類縁者の情報を片っ端から辿ったらSNSで気になる投稿があったもんでな。どこに情報が転がってるかわからんもんだなジョンマクレーン。」「くそ・・・」そうしてる間にも下から銃声と爆音が聞こえてきた。SATは既に火力で適わないと判断。陸自対テロ部隊にバトンタッチしてSATは外の包囲網を固めた。「何てこった。」陸自隊員が寄せてある死体の山に気付き、89式小銃の握把を握りしめた。「畜生、テロリストの獣めっ。」更に5.56ミリNATO弾を撃ち込む。張はまだ叫んでいる。「だが、よくやったよ。正直日本人の俄かミリオタがここまでやるとは思っていなかった。敵ながらあっぱれだ。ロシア空挺軍に引き入れてやりたいくらいだ。だが・・・それもここまでだ、覚悟するんだな。」弾詰まりを直した張が再び撃ってくる。が、しかし。・・・何と手に手に武器と盾を拵えた140名の皆が一斉に鬼気せまる形相と叫びで襲ってきた。鳥影を先頭にだ。「何、正気か・・・」張も李もその予想外の展開に度肝を抜かれた。かつて鳥影は最初こんな話もしていた。「ミツバチ・・・だったと思いますが、敵であるスズメバチから子供や女王バチを守るためどうするか知ってますか。1っ匹のスズメバチに10っ匹のミツバチが取りつき、体温攻撃で我が身を犠牲にして守るんです。どんなに強いやつが相手でも、10人20人が一斉に飛び掛かれば、撃退できることもある。大事なのは一致団結です。どんなに弱い竹の棒も、20本寄り集まれば強い。」・・・続く。

Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.23 )
日時: 2020/09/10 15:34
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

・・・それを心に刻み込み、一斉攻撃に踏み切ったのだ。「後退しろ、やめろ手榴弾なんか投げるな。」張が珍しく逃走しながら叫んだ。「どうして・・・」「あれが見えんのかっ。」張は後ろを指差したために部下達は悟った。何と鳥影の後ろにはポリタンクを背負った従業員がデカいプラ板の旗を掲げて走ってる。そこにはご丁寧に大きくロシア語で「蒸気エタノールタンク在中」と書かれている。彼は提中訓練社にいた時、少しうる覚え程度のロシア語の講習を受けていたのだ。それに運よく蒸気エタノールを扱える危険物免許を持った従業員も3人いたために、用意するのは簡単だった。それには訳があった。少し前に遡る。「皆さん聞いて下さい。野口班長にパソコンで合間に調べてもらったんですが、傭兵の正体が判明しました。顔写真と目撃した傭兵の顔が一致したんです。名前は張匠気。アントンのロシア企業時代の警備担当で、元ロシア空挺軍にいた男です。その副官が李琉輝。ふたりは政治思想も宗教的思想もない、金で雇われて動く欲に満ちた傭兵。命を投げ出す気なんてさらさらない。つまりは自爆はできない。蒸気エタノールを用意してもらったのは、奴らに手榴弾等の爆発物を使わせないためですよ。もし使用すれば、局所的どころか、自分たちも巻き添えになって爆死か焼死かになる。」「なるほど。」納得する野口。かくして作戦は成功した。「後退しながら撃て。」張は遮蔽陣を後退しながら叫んだ。しかし「煙幕か・・・」鳥影の後ろから消火器の煙で照準をさだめられないようにした。「いいから撃て。」やみくもに撃つも、部下が一人、また一人と倒れていく。「良くも工場の仲間をっ」鬼気迫る表情で飛び掛かる多勢に̥無勢である。いくらロシア空挺軍元兵士と言えど、ピンセットにドライバー、あらゆる工具で刺されまくったら生きながらえるはずもない。張も李も、銃弾に当たって倒れ、逃走スピードが遅くなり、やがては餌食に・・・のはずだったがさすがはラスボス。持っていたナイフを抜いて元愚連隊だった男の腹を刺す。「チクショー張め。」怒り狂った鳥影が突進してくる。小銃は他の仲間に当たるので後ろに回し、格闘戦に臨んだ。ナイフを持った手を握りしめ、遮蔽物に腕を叩きつけてナイフを落とし、張がもう片方に隠し持っていたナイフを向けてきたのをまたつかみ取り、両手で刺されるのを防いだ。「ああ、どうだうまくいって気分いいかマクレーン。日本人はやっぱり万歳攻撃が好きらしい。サイパン島で学んでないのか、んん」「違うな。ミツバチ攻撃だ。貴様らとアメリカ軍とでは決定的な違いがある。それは・・・お前らはアメリカ軍ほどもないことだ。」「何っ・・・ぐ、貴様。」横から何とタンがピンセットで刺してきた。「フェイの 私物ピンセット 仇・・・」「テメーベトナム人のくせに・・・ベトナム戦争時代助けてやった恩を忘れたか。」「そんな大昔 忘れた よ」・・・続く。

Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.24 )
日時: 2020/09/12 21:03
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

・・・「ヤポンスキーが。」張は固いブーツでタンを蹴り倒したが掌底で顔面を鳥影に殴られる。その弾みでナイフを落とし、倒れたところへ従業員達のミツバチ攻撃の餌食となる張。「ウググッ」体格差のありすぎる李を相手に鈴木と野口班長が苦戦を強いられていた。SCARの銃床で鳥影がナイフを叩き落して、顎めがけて叩きつける。「テメーッこのヤポンスキー。」悪態突きながら殴りかかるのを躱して肝臓を銃床で突く。飽くなき格闘戦とミツバチ攻撃により、ついに巨漢の李を倒した。「あれ、張は、あいつはどこ行った。」気が付けば倒したはずのラスボスの死体はない。その時鳥影は、食堂側へ向かうSCCH工業作業服と作業帽を不自然にまとった不審な男を発見した。慌てて走る鳥影。「しまった。」そこには女性陣がいる。しかし、鳥影が追いつくのも時間の問題だった。既に足を怪我していたため、走れなかったのだ。食堂に入ったところで追いつかれると悟った張は、従業員から奪った拳銃で後ろを発砲するものの、当たらずに、逆に鳥影の拳銃弾で腕を撃たれる。「グハーッ、よくも・・・」苦しい顔になりながらもまだ抵抗する張。しかし鳥影の拳銃もスライドが後退したまま。殴りかかる張の腕をその拳銃で殴りつける。張の顔面目掛けて更に殴りつけながら太腿に回し蹴りを入れた。窮鼠猫を噛むがごとく、張は片手で首を絞めるも、鳥影に掴まれて巻き込まれ、裏拳を食らって、腹に足刀蹴りを叩き込まれた。体がくの字に曲がって床を吹っ飛ぶ張。しかし・・・「神は我に微笑んだっ。ハハハハッ」何と吹っ飛んだ先に遮蔽物に屈んで隠れていた佐藤と床に転がる拳銃を見た。「こっち来い小娘。見ろ、この女がどうなってもいいのか。もし近付いたら撃ち殺すぞ。非常階段は屋上に通じてるからな。こいつはそこまでの大事な人質だ。」「まさか・・・」「そのまさかよ。ヘリを待機させてあったんだ。」佐藤が悲痛に叫んだ。「年光さん・・・」「年光・・・下の名で呼ぶとは、そうかお前あの男の彼女か。都合がいい。たっぷりいたぶってから殺してやるぜ。その前に彼氏だな。その拳銃を置け。早く。」食堂にあった予備の拳銃を拾っていたが、鳥影は何故か大人しく拳銃もSCARも投げおいて両手を挙げる。「やけに素直だな。」「お前も素直に銃を捨てるべきだった。」「何・・・まさか。」気が付いて後ろを見やるとCH−60ヘリの狙撃手とサーチライトの光が。「クソ・・・」それが最後の遺言となった。銃弾が彼の頭を撃ちぬいた。・・・続く。


Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.25 )
日時: 2020/09/14 15:40
名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)

・・・「キャーッ。」あまりもの出来事に佐藤は悲鳴を上げて錯乱し、泣き出してしまう。「終わった。もう終わったんだ美佐さん。」次の瞬間飛び込んできた鳥影に抱きしめられた。ショック療法とは言いたしのものの、つい彼女のファーストキスを奪ってしまう形になった。正気を取り戻す佐藤。「大丈夫、大丈夫。」彼女もまた安心して彼の胸に頬を埋めた。サーチライトだけが二人を照らしてる。・・・それからと言うもの、第19普通科連隊対テロ部隊の活躍により、負傷者を出しながらも無事制圧に成功。2階に上がった部隊は全滅している傭兵の姿に度肝を抜かれた。鳥影は叫ぶ。「全部武器、ライフルや拳銃類は床に捨てて。早く。」最後の仕上げがこれだ。危機管理において大事なのは例え自分達が被害者や善行でテロリストを倒しても、突入部隊はそんな色分けはできない。だから間違っても銃を持ったまま隊員に近付かず、捨てて手を挙げて拘束されるのに抵抗してはならない。でないとテロリストに間違われて撃たれる可能性があるからだ。鈴木が叫ぶ。「こんなのおかしい。なんで僕達が捕まるんですか。」「いいから、言うことを聞いてくれ。特殊部隊員から見れば、どれが被害者かなんて見分けられない。いいから指示に従うんだ。」自身もインシュロックで拘束されながら叫んだ。時刻は04:10時・・・救急車の担架で運ばれる元愚連隊の従業員が鳥影に目配せして親指を立ててくる。彼もまた怪我の治療を受けながら目配せした。辺りはマスコミ報道人も詰め掛けてさながら早朝のお祭り騒ぎである。従業員や社員はおよそ140名弱生き残り、それでも裁くのは大変で急遽大駐車場に簡易天幕を作ってそこで警察から事情聴取や身元確認が済み次第、身元引受人が到着した者から順次帰宅させた。そんな家族がいない一人暮らし組は大怪我がない者だけ、天幕待機となった。「と、殿・・・いや、井上専務。」「おお、鳥影君。無事だったか。すまん。この私の責任だ。私がもっと無線機に気を配っていれば・・」「それは違います。」涙ぐむ殿を目の前にして否定した。「テロリストとそれを雇ったアントン・シコルスキーのせいです。どうか井上専務、気を落とされぬように。決して辞任など考えないでください。この会社にはあなたのような方こそ必要なんです。」「ありがとう。ありがとう鳥影君。」涙ながらに固い握手を交わす二人。「井上専務ですね。県警本部長が御呼びです。」警察官の一人が駆け寄ってきた。「わかりました。では鳥影君、また後でな。」「はい。」頭を下げて姿勢正しく最敬礼を送る。「佐藤さん。」家族が来ていたので、てっきり帰ったものかと思っていたが。毛布を肩から外し、探していた鳥影を見つけるや、一目散に走ってくる佐藤。彼は素直にそれを胸に受け止めた。「もう会えないかと思った。」「それは俺も同じだよ。こんな時で申し訳ないんだが。俺と、ずっと、付き合ってくれないか。」「うん、謹んでお受けいたします。」涙が止まらないくらい人目を気にせず抱き合う二人だった。 次回・・・「現実社会の冷遇」に続く。


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