複雑・ファジー小説
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- 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー
- 日時: 2020/05/29 16:20
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
あらすじ・・・陸上自衛官の父を持つ鳥影年光は、父に反発して就職先は工場勤務にした。そこで知り合ったサバイバルゲームを趣味とする同僚に触発されて、のめり込むことに。やがて時はすぎて、年光は自分の父を理解しはじめ、「カエルの子はカエル」だなと悟りはじめる。そんな時、千葉県に元自衛官や元警察官で創設した会社「提中訓練研究社」の存在を知り。仕事を辞めてその会社の危機管理と戦闘訓練コースである「特級コース」を取得し、二年後に卒業して社長等に激励をうけた。しかし、社会に出れば誰も関心がなく、危機管理アドバイザーとしてどこも雇ってくれずに貯金も底を突き、やむなく派遣会社に登録してまた工場勤務で仕事をすることとなった。何とか研修期間3か月を乗り切ったある夜勤の日、ある異変が起こりはじめる。会社の金を使い込み、あまつさえ傭兵を雇って国外逃亡を図ったロシア人前社長が、本社工場に仕返しを企んでいたのだった。金でまたもや雇った傭兵を使って。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.1 )
- 日時: 2020/06/05 20:25
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
登場人物紹介・・・ 鳥影年光・・・工場派遣社員。実は戦闘訓練、危機管理特級の資格保持者。35歳 佐藤美佐・・・事務員。地味で大人しい女性だが、鳥影が気になっている。28歳 鈴木ひろし・・・よく鳥影に声をかける好青年。元生徒会長。25歳 タン・・・ベトナム人労働者で、お調子者。鳥影と仲がいい。19歳 野口定春班長・・・メガネで神経質。細身なライン班長。鳥影の理解者。36歳 山下智佳美・・・お調子者だが明るくてやさしい女班長。26歳 井上正也専務・・・鳥影に「殿」と慕われている専務。彼自身も鳥影の良き理解者。52歳 フェイ・・・フィリピン人労働者。タンに言い寄られて困ってる。19歳 首塚政子・・・オカッパなヒステリーお局女。鳥影達の足手まとい。42歳 小川治・・・パワハラ大好き男。40歳 稲川勝係長・・・気分屋のモラハラ係長。49歳 森部部長・・・メタボなセクハラ部長。危機管理を馬鹿にしている。57歳 亀橋班長・・・元暴走族を自慢に社員をいびるパワハラ男。 梨田・・・154センチでJK好きのモラハラ男。35歳 巻野・・・元自衛官の自信家。鳥影を馬鹿にしている。53歳 北田班長・・・パワハラ班長。勝手に兄貴分を気取る。28歳 佐古みずき・・・メガネのモラハラ女。22歳 猿渡班長・・・サル顔の笑わない班長。モラハラの塊。40歳 アントン・シコルスキー・・・株式会社SCCH工業の前社長。脱税と会社資金使い込みで起訴され、保釈中に国外逃亡したロシア人。 張匠気・・・中国系ロシア人の傭兵。傭兵を束ねるボス。45歳 李琉輝・・・中国系ロシア人の傭兵。身長197センチの巨漢にして張の右腕的存在。 他
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.2 )
- 日時: 2020/05/31 23:21
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
序章「平穏と不穏の狭間で」 17年前。進路を決めなければならない時期に来ていた。鳥影年光18歳、高校三年生の頃であった。父親と母親は見合い結婚で、親父が自衛官で長らく独身だったのをお祖母ちゃんが世話してくれたそうだ。自衛隊というものを全く知らない母親は度々自衛隊というものに無理解な態度を露わにしていた。専業主婦だった母親と年光は妹達含めて一緒に過ごす日々が長く、自衛官である父とは会える頻度が少なかった。いつしか年光すらも母親の洗脳で父親の所属する「自衛隊」が嫌になり、敬遠するようになっていた。やがて高校は普通科に進学。普通科なら同じ普通科でも普通科部隊を目指せば良かったものの、そうは思わなかった彼であった。決定的なのはふとしたキッカケで始まった親父との喧嘩。父親は酒も入っていたこともあり、ついカッとなって殴ってしまった
。こうして父の望んだ進路ではなく、地元の金属工業の会社に就職を決意することとなった。酒もタバコもやらない品行方正な彼は、次第に会社内で浮いた存在に。そんな時、途中採用で入ってきた同じ年の社員と意気投合しはじめ、一頃流行り始めた「サバイバルゲーム」をやっていることを年光に教えた。誘われるがままサバイバルゲームに参加。いつしか夢中になってしまった。そうすると段々ミリタリーに詳しくなりはじめ、20代後半には「カエルの子はカエル。鳥の子は鳥だよな。」と悟りはじめた。そんなある時、動画検索していると見慣れぬミリタリー動画がアップされているのを発見した。「ん、何だこれ。」視てみると、そこには元警察官や元自衛官等が集まって、戦闘訓練や危機管理やサバイバルゲームに至るまで、総合エキスパートを要請する訓練研究会社を紹介している動画であった。・・・早速彼は会社に退職願を書いて、お世話になった課長に提出した。1ヶ月後・・・年光はボストンバッグ2個とリュックと貯金全額のみを引っ提げて、千葉県某所にある「提中訓練研究社」の事務所ビルにやってきた。鳥影年光、御年32歳の頃である。ビルと言ってもビル街の街中などではない。まさに郊外の緑多い平地にポツンと近代的な3階建てビルがあるといった佇まい。たまたま最初に出迎えてくれたのは、この提中訓練研究社社長、提中賢二氏だ。「ウオォー、初めまして。鳥影年光と申します。ほ、本物だー。」まるでスターにでも会った雰囲気。それもそのはず。提中賢二は元陸上自衛隊特殊作戦群隊長にして一等陸尉で退官した筋金入りの特殊部隊員だったからだ。数々の隠密作戦に従事してきたプロ中のプロだ。動画を初めて視聴した時から鳥影のヒーローでもあったのだ。「そんなに緊張しなくていいよ。君が鳥影君か。かなり鍛えてるね。」「わかりますか。こう見えてもフィジカルトレと空手拳法は昔から欠かさずやってましたから。」「そうか。それは頼もしい。だけどうちはそれ以上だよ。」「望むところです」こうして彼の住み込みの訓練は始まった。初級コースから始まるが、これで既に全国から50名の参加があった。内、鳥影含む20名は言わば「内弟子」みたいな住み込みである。ここから水を得た魚の如く邁進し、戦闘訓練、危機管理の中級、上級、準級コースを経て、いよいよ特級コースに入った。ここまでになると訓練は特殊部隊そのもの。二年目に突入していたが、ここで脱落者は35名。特級コースともなれば更に7名が脱落。無事、終了式を迎えられたのは僅かに8名。「よくやった。この2年間は大変苦しかっただろう。しかし、その苦しみあっての今日の日でもある。これはうちのベレー帽だ。提中訓練特級コースを修了した者にのみ与えられる独自のベレーと徴章だ。この名に恥じない不撓不屈の精神で頑張って生きてほしい。」この訓示を最後に、それぞれ慣れ親しんだ庁舎を後にしなければならない。「元気でな。」「お前ならやれる。」「またどっかで会おう」それぞれ言葉を交わして提中訓練研究社の訓練生8名は、それぞれの故郷へと帰っていったのだ。鳥影もまた、故郷福岡県に戻っていったのだが。・・・「お願いします。危機管理アドバイザーとしての資格もあります。どうか御社で・・・」「悪いがうちはそんな社員はいらないんでね。」あれから1年。日産Xトレイルのタイヤが擦り切れ寸前まで走って就職活動して、すでに50社目。そこでもまたこんな扱いである。おりしも世間は大不況。とある社会ショックで倒産が相次いでいたこのご時世に、危機管理アドバイザーなんてお呼びではなかった。「くそ、この会社もダメかよ。車検もあるし、保険料だって。今更親父に泣きつくわけにもいかないしな。どうしたものか・・・」途方に暮れてネットカフェに寝泊まりしていたら、誘惑たる広告が目に飛び込んでくる。「博多から少し離れた郊外。寮費、光熱費無料。交通も便利。今なら入社お祝い金として20万円支給。更に更に今だけ、特別ボーナス50万円別途支給。今すぐご応募を。」まあ派遣の現実を知らない彼でもなかったが、この際仕事は何でも良かった。ましてや工場経験なら長い。背に腹はなんとやら。仕方なくネットで求人応募してみた。あれよあれよと言う間に住む場所も仕事も決まった。さっきの就職活動が嘘みたいだった。拍子抜けとはこのことだ。しかもオートロックマンション。「戦闘訓練してきた俺にはだいぶ贅沢だが。」少ない荷物を置いて、早速トレーニングを再開する鳥影だった。そんな彼に朗報だったのは、仕事が3交代だったこと。つまりは夜勤手当が付いて定時で帰れる。と言うことはトレーニングに支障はない。・・・翌日彼は派遣営業の男性社員と「SCCH工業本社工場」に向かった。こう言っては何だが、派遣営業の人は、一部を除いて不動産の内見社員か、自動車ショールームの営業マン、若しくは芸能人マネージャーのようだった。鳥影にはそれが違和感でしかない。これが派遣の感覚なのだろう。待合室にいると、井上と名乗る専務が現れた。「よろしく。専務の井上です。」「こ、こちらこそ。鳥影年光と申します。」「早速我が社の概要を説明しよう。うちは言わば多重工業なんだよ。凡そ7社の全く違う工業の複合会社でね。その中心を担うのがSCCH工業なんだよ。従って我が一社につき1品目だけを扱う会社ではなく、この工場では凡そ20品目以上の別の製品を製造している。金属、プラスチック、精密機器や自動車に至るまで様々だよ。」・・・続く。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.3 )
- 日時: 2020/06/03 00:09
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
「はぁ、そうですか。」ここで彼は危機管理術について熱く語るところだが、50社以上面接落ちした苦い過去を思い出し、「そんなもの我が社にいらないよ」と言った面接官の顔が浮かんだ。「ここは黙っておこう。」と心の中で呟いた。「ところで君は何か好きなことはあるかね。私はカラオケでね。特にあの曲が・・・」こうしたくだけた質問ははじめてだった。ほとんどの面接官は趣味特技は聞くことはあっても、どこか流れ作業的で、自分語りはなくて、仕事の話以外は話さないと言う態度だった。なのに井上専務はどこか違っていた。初めて鳥影を人間として見てくれた。そんな気がしたのだ。「・・・その曲聴きましたよ。いやー、同じ好きな音楽で盛り上がったのは初めてです。」「そうか。ああ、それから君は体格がよさそうだが、何かしているのかね。」「あ、実は・・・2年ほど提中訓練研究社にいまして。」「おお、あの危機管理と戦闘訓練の講習を行う会社か」「ご存じで・・・」「ああ知ってるとも。これからの工場セキュリティには対テロも必要だと常に思っていたからね。」水を得た魚状態で話したかったのだが・・・「専務、工場案内の時間です。」森部と名乗る部長が部屋に入ってきた。「もうそんな時間か。じゃあ鳥影君。職場を森部部長が案内するから着いていきなさい。」「は、はい。」やむなく腰を上げる鳥影。その日はそれだけで終わったが、早速派遣営業の人から電話が。「採用決定です。明日から来てください。時間は・・・」即決採用だった。翌日、意気揚々と出社する。待合室で、派遣営業の人からこんなことを聞かされた。「ここだけの話だけどさ。ニュースで知ってると思うけど、ここの前社長が脱税していた上に会社の金使いこんでたんだよね。そんでもってこのアントン・シコロスキーって社長が就任したのが丁度5年前。その当時から派遣をかなり増やして杜撰な経営してたらしい。まぁ、派遣会社としてはおいしい話だったけど・・・それで社内のモラルが低下。モラハラ、パワハラ、セクハラが横行しはじめたらしい。まぁ鳥影さんなら問題ないと思うけど、頑張って。」「はぁ、はい。」生返事する鳥影。しかし割とそれは当たっていた。最初に就いた仕事が金属研磨加工のライン作業。経験もあったので割とスムーズに進んでいたのだが仕事の教育係となった稲川係長はまさに機嫌屋。ことあるごとに重箱の隅を叩くようなことを言ってきた。色黒で鷲のような高い鼻をしている。そして、検査の首塚。彼女もまた重箱の隅を突く派で、セクハラも含んでいた。「何よこの製品は。35にもなって何よこの不良品。玉どこついてんの。」「それってセクハラになりますよ。」「はぁ、何言ってんの。」言い返せない首塚であった。問題はそれだけではない。ラインの隣にいる、フィリピン人労働者フェイである。彼女はやたら肩や背中を触ってはしょっちゅう話かけてくる。「いい加減やめてくれないか。」「どうして、いいじゃ ない。」これがキッカケでラインを変えられることになった。しかしこれが亀橋、小川、梨田との火種だった。「おう、お前立場わかってんだろうな。俺様は元暴走族でな。厳しいぞ。おれは偉い存在だからな。」就いて早々有難くもない訓示。しかしもっと有難くなかったのはラインの古株である、梨田と小川に挟まれて作業していたこと。梨田は作業中女子高生の話題でマシンガントーク。鳥影には迷惑でしかなかった。そして小川のパワハラ。まだ就いて3日で早く流せとのむちゃぶり。あげくには殴り始めた。「馬鹿野郎っモタモタすんな。兼業農家の俺の身になれ。」あげくに殴りはじめた。2発目が来た時に、その拳を掴んで肘関節を極めて投げ飛ばした。亀橋が驚いて止めにくる。「何やってんだテメー。」「殴ってきたから正当防衛ですよ。それともお二方はパワハラで訴えられたいんですか。」何も言えない亀橋。そうこうしているうちに初級研修2週間も終わり、いよいよ三交代勤務へと移行した。勿論そこでは小川達と別の班。・・・続く。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.4 )
- 日時: 2020/06/04 19:17
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
これで安心とは限らないのがSCCH工業なのか。ライン工程に巻野と佐古みずきという若いメガネの子がいた。そしてライン班長の北田をはじめ、副班長として猿渡がいる。この4人もまた曲者だった。佐古は仕事なのに何もかもガン無視を決め込み、北田もまた亀橋とほぼ同じ。猿渡に至っては、鳥影が冗談かましてもニコリとも笑わない。おまけにそれを人にも強要してくる。「俺が笑ってないんだからお前は笑うな。」これにはさすがの彼も呆れかえった。そして、巻野。会社の基準に従ってる以上の独自のルール、法則を守るよう指示してくる。「俺は元自衛官だ。言わばお前は私の部下みたいなものだ。上官命令は絶対だ。」とか言い出す始末。「何、危機管理・・・バカバカしい。所詮プロのこの私と比べれば、子供の遊びだ。ハハハハハッ。」頭ごなしに馬鹿にする巻野。鳥影は怒りを抑えた。それから更に1週間後、人員不足のために精密機器部門にうつされた。ここでは嫌なやつがいないとは言えないが、比較的平和に仕事が出来た場所だった。亀橋班のすぐ隣のエリアではあるが。「俺、鈴木って言います。よろしく。高校生の頃はこう見えて生徒会長やってました。」「ああ、そうなんだ。よろしく。」ライン工程にありながら彼もまたよく鳥影に話しかけてきた。屈託ない朗らかな性格には彼も好感を持った。その次にやたらいたずら好きでよく話しかけてくるのが、陽気なベトナム人労働者タンである。鳥影を兄貴分のように慕ってくるのが好感をもてる原因だった。班長と副班長もまた、好感持てる責任者だった。野口定春班長と山下知佳美班長である。この二人に休憩時間、ふとしたキッカケで危機管理術の話をしたら意気投合。鳥影の良き理解者となった。そんな時、食堂で日勤の時だけ見かけるとある事務員の女性がすごく気になり始めていた。名前は佐藤美佐。鳥影によく作業服や名札にセキュリティカード。安全靴に各種必要品に至るまで、持ってきてくれたり、世話をしてくれるのが彼女だったからだ。どこか寂し気で、他の若い事務員と反りが合わないのか浮いていた。年齢は自己紹介の時に28歳と聞いていたが、主婦らしさが微塵もないところから、独身なのが彼にはわかっていた。山下班長だけは彼女と親しかったので、意識したわけではないが、つい彼女を出汁によくお昼休みに声をかけた。やがて山下、野口、タン、鈴木を交えて日勤の時だけ一緒に食事するようになり、いつしか美佐にとって鳥影は意識する存在になっていた。しかし、失恋した過去を持つ鳥影にとって、まだハッキリと意思表示はできないでいる。そんなじれったい二人を、何とかくっつけたい山下は、野口達とサプライズ計画を練っていた。彼が入社してもうすでに3か月が経った頃のことである。・・・続く。
- Re: 凄瀕凄憎工場 サバイバルディフェンダー ( No.5 )
- 日時: 2020/06/06 21:15
- 名前: 梶原明生 (ID: PvE9VyUX)
・・・作業に夢中になっていると、美佐が彼の後ろに立った。金属と機械と作業服にまみれた世界にいると、時々こうした女性事務員、通称OLと呼ばれる女性が来ただけで、まるで花と出会ったかのような錯覚に陥ることがある。勿論セクハラになるから、口が裂けても言えないが。「鳥影さん、おめでとうございます。研修3か月間無事終了です。オレンジの帽子はお返しください。代わりに・・・この青い帽子を。」それは晴れて契約社員となった証である。彼は笑顔で帽子交換をした。派遣ではあるものの、一応SCCH工業の一員に認められたことになる。「ありがとう、佐藤さん。」「いえいえ。ただ、・・・名札と正式な社員登録はパソコン処理が遅れているため、もう2,3日かかりますのでお待ちください。現行の私の書いた・・・名札で大丈夫です。」頬を赤らめる美佐。山下が割り込む。「そうだ、鳥影さん。あなた、契約内容もう一度詳しく聞きたいって言ってなかった。」「そんなこと言って・・・」いきなりピンセットを鳥影の手に刺す。「痛い、な、何を山下さん。」「空気読めってば・・・そうよね鳥影さん。」「ああ、何かそう言ってたような。」「でしょー。大丈夫歩留まりは私流しとくから鳥影さんのセルは私に任せて、どーーぞ、ごゆっくりー。」苦笑いで休憩室に向かう二人。「あ、あの、どうぞ。」「は、はい、」鳥影はドアを開けて美佐を通した。対面で席に着く二人。「あ、あの、鳥影さんの隣に・・・座ってもいいですか。」「えっ・・・」「いや、私何言ってんだろ。ごめんなさい。」「いや、とんでもない。自分の方こそ、良かったら隣で・・・」まるで恥じらうお見合いのような姿。しかし割と大胆に鳥影の隣に座る。男性の隣なんかほとんど座ったことのない美佐にとって、距離感を考えろと言うのは無理だ。更に恥じらう二人。「こら、ラインほっぽらかして何サボってんの。今日550個生産しなきゃいけないのよ。」覗き見てる鈴木とタンを後ろから叱りつける山下。「で、どうなった。キスぐらいした。」「てか、山下班長もそれ目的だし。」「男ならつべこべ言わないの。・・・何よじれったいな。手ぐらい握れよ。」叱りに来た本人が夢中になっていた。「いいな。オレもフェイと こうするだな。」タンはフェイとの逢瀬を想像している。美佐は来週のことが気になった。「来週は夜勤ですよね。」「まあ、正確には中勤ですよ。夕方5時から翌2時終わりなんで。」「ですよね。また、寂しくなりますね。」「よ・・・よ、かったら、その、今日金曜日だし、どこかい、行きませんか。」「え、・・・・」勇気を振り絞った言葉だった。瞳孔が開きながら口をすぼめる美佐。「是非・・・」「あの、野口班長といつもの面々で飲みに行くんで、その・・・」「そうですか。」テンション下がる美佐。「おいおい、鳥影、そこは二人っきりでだろアホ。何で私たちの飲み会持ち出す。まぁ確かにこいつらとやるけど・・・」歯痒い気持ちを抑えながらも、弾みでドアに倒れこむ山下達。「あれ、鈴木君にタンに山下さん、どうしたんです。」苦笑いする山下達。一方その頃、物々しい装備に囲まれて、多くの男達が倉庫内で何かの準備のために右往左往していた。パソコンに向かっている部下に、中年らしき体格のいい男が問いただす。「で、どうだ。正社員、契約社員、派遣社員に至るまで、軍歴、自衛隊歴、その他戦闘訓練に従事したことのありそうな人物はSCCH本社工場にいるか。」「1名だけですね。」まさか鳥影か。「巻野とかいう社員くらいです。」「ほう、定年退役自衛官か。大した事ないな。まずはこいつから血祭にあげるか。で、他には。本当にこいつだけか。」「間違いありません。過去5年間から遡ってますが、まともに戦えそうな社員はこいつだけです。サーバーのデータベースを隈なく探したので間違いありません。」そう言った部下の頭を手で脇に押し付ける男。「本当だろうな。俺は多分、だろう、ってのが一番嫌いなんだ。間違いないか。」「ま、間違いありません。・・・」「よーし。その言葉わすれんな。」いきなり突き放す男。「さて、ショータイムまで後65時間だ。ほらほらモタモタすんな。大金はたいて雇われたならそれらしく行動しろ」不穏な動きが今まさに始まった。「張隊長、何で西側武器ばかりなんすか。AK47は、トカレフは・・・」「バーカ。お前何年傭兵やってる。東側武器使用したらいざって時、すぐ俺達ロシア系の傭兵とバレるだろうが。西側の武器を使えば最悪バレずに済む。とち狂ったテロリストグループの犯行ってことにして俺達の雇い主に塁が及ばないようにできるだろうが。」「なーるほど。」「図体ばかり190センチ超えやがって。少しは頭使え。」「はい・・・」少し不機嫌になる巨漢。何も知らず、居酒屋で飲み会をスタートさせる鳥影達であった。・・・次回「襲撃」に続く。