複雑・ファジー小説

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転生を知らなかった俺は、転生させられて。
日時: 2020/06/07 10:46
名前: ふしおん (ID: OgxTksU5)

000





ん? ここは何処だ? 暗い、いや、何も見えないのか。それと、ちょっと寒い? 誰かの声は聞こえるけど、誰の声かはわからないな。夢でも見ているのか? 夢だったら、寂しすぎだろ。夢ならもっと楽しくあって欲しいところなんだが。



「はぁ。何で、人間ってそこまでヤワなのかしらね? 弱っちーってのよ」



「はぁ? 誰だよお前。俺の夢の中で、意味わかんないこと言うな」



「そ。その口調も気に入らないわ」



「人の口調にどうこう言うな。人の勝手だろ」



なんなんだよ。この女の人は。突然現れて、突然喋りだして、あげくの果てに俺への悪口ですか…俺は、夢の中でまで嫌われないといけないのかよ。



「ううん…そうなんじゃないの? ま、夢じゃないんだけど」



は? そりゃどういうことだよ?



「ふーん、自分の現状を理解していない……はぁ、本当に人間は……」



「勝手に話を進めないでくれ。なんの事かさっぱりだ」



「あんたは、死んだのよ。吏音りと



は。俺は、死んだ? いやいや、どこも痛みを感じないんだけど。ほんとに死んだの? 俺は、妹と歩いていて、商店街から家に帰る途中で…じゃあ、寝てるわけないじゃんな? 帰る途中で…俺は…



…車に引かれた…?



「いでっ!?」



痛い。体のそこらじゅうが、張り裂けるくらい。やっぱり、引かれたのか? 本当に……



「今更体に痛みなんか感じないでしょうよ? やっぱりヤワね。そして、ここは、夢の中じゃないわ。それに、あなたは死んだ。以上」



「は? 夢の中じゃなかったら、何処だよ」



「そうね。強いて言うなら、神の世界。神界ね」



紙の世界? え? 紙界? 何処だよそれ。え、本気でそれ言ってんの? 顔真面目じゃん。



「あんたねぇ!! 紙界何て言うわけないじゃない!? 神界よ!し、ん、か、い!! この生意気なやつ!」



あぁ、神界ね。しんかい。了解。じゃあ、俺は死んだんだ。そうか。それはそれでいっか。それなら、よくあるやつじゃ、転生して、世界を救いましょう的な展開になるのか。死ぬんなら、勇者に転生の方が、いや、それじゃないと駄目だ。それじゃないと、俺は転生してまで生きる意味がない。



「ほほう。理解できるじゃん。そう。ここは、この優しい私が、でき損ないの人間たちを転生させるための場所。そして、何をそんなに焦っているの? 何で、勇者じゃないとダメなの?」



「は? 何を言ってんだ? そうじゃないと駄目に決まってんだろ!? そうじゃなきゃ、俺はまた同じ道を辿っちまうんだよ! あんなの、もう嫌さ!!」



「そう。私より、十分幸せそうだったように見えたんだけれどねぇ?」



「何か言ったかよ?」



「あんたが、どんな道を辿るのか。見てみるのも面白いかもなぁ。ケケケ」



な、何だよ、今の笑い方……俺は、こんなやつに転生させられるのか!? 嫌な予感しかしない……俺で、遊ぶ気だろあいつ。



「最後に聞こう。今までの人生。もういいのか?」



「フンッ。あんな人生要らねーよ」



「そうか。じゃあ、行ってらっしゃい。1から全部やり直す屈辱から味わって来なさい。私、飽きるまで遊ぶ方だから、よろしくね。吏音くん?」



飽きるまで遊ぶ……? なんのことだ? 本当に俺で遊ぶ気なんじゃないだろうな?



「魔法陣展開」



魔法陣!? うわぁ!? 体が、宙に浮いてる……信じられないけど、本当にこんなことがあるのか……まさに今、体験しているから、そんなこと言うまでもないんだけど。

……あっ! ちょっと待って!



「どうしたの? 吏音くん?」



「俺の、家族にはなにもするなよ?」



「どうしてそんな考えに至るのかな?」



「お前が遊ぶって言うからだよ!」



「どうだろうね。今後の吏音くんの行動次第かなぁ?」



それはどういうことだよ‼ 待てよ……1から全部やり直す……? それって、どういう!? おい! この! 女神! 答えやがれ!



「……さぁ?」



あ、視界が……!? もう、俺が立っていたところが見えない。くそ。最後まで答えなかったな。くそ女神。身長低くて、小学生並みの体つきだったくせに。偉そうな!

くそ女神がぁぁぁぁ!!

俺を、俺を、どうしてくれるって言うんだ!





……俺は、あんな自分にもう会いたくないってのに!!

Re: 転生を知らなかった俺は、転生させられて。 ( No.13 )
日時: 2020/06/07 17:04
名前: ふしおん (ID: OgxTksU5)

013







チュンチュンチュン、チュンチュン……



……んー、ん? 俺は……あぁ、あのあと寝ちゃったのか。

昨日は、色々あって、疲れてたんだっけ?



「朝。あの病院での朝も、こんなだったなぁ」



太陽が眩しい……



「ライルー! 起きた? 降りてきて!」



「うん! 分かった!」



ベットから降り、早々に着替えを済ました。

もう、ベビーベットじゃないって思うと、ちょっと寂しいかも。それに、クロヒが居なくなって、ちょうど3年……一体何処に行ったんだ。

色々考えながら、自分の部屋を出て、階段を降り始める。



「お母さん、今日何日?」



「今日は……えーと、5日よ。ライルが赤ちゃんだった頃が、昨日のように感じるわ!」



カレンダー無いから、親に聞くしかないんだよなぁ……こどもの日か……前世なら。

……あぁね、卒業式の時に親が言うやつね。



「僕は、もう5歳だよ! 赤ちゃんじゃない!」



「えへへ、そうね! さ、ご飯だから座って」



今日の朝御飯は……サンドイッチ!! やったー! 久しぶりのサンドイッチだぁー!

朝食のメニューを見て、階段を駆け足で降りる。



「いっただっきまーす!」



はんぐっ、、、

う〜ん! 美味し! ……あれ? 父さんはまだ寝てるのか?



「お母さん。お父さんは?」



「あぁ、今日は早めに家を出たの。なにか、色々することがあるって言っていたような……」



へぇ。仕事かぁ。

特になにも思わないけど、引っ掛かるところがあるような気がするんだよな……

サンドイッチをひと口食べ、ミルクを飲み干した……





……なぁ、クロヒ……お前はいつ魔力が回復して俺に話しかけてくれるんだ?

お前が言った通り、魔法だって出来るようになったんだぞ! 始めは、ショボかったけど、お前が戻ってきたときにって、頑張ってきたんだぞ……!



お前は、もう俺の守神じゃないのか? もう、戻ってこないのか……?



3年間、俺が5歳になっても、顔を出してくれないじゃないか。

俺が、今どんな思いでお前を待っているか、知っているか? 一緒にいたのは、ほんの数日かもしれない。だけど、俺のこの世界での初めての友達だったんだぞ!!



いい加減、戻ってきてくれよ……

こんな、サンドイッチを食べながら言うことじゃないのかもしれないけど……!

……戻ってきたら、お前を殴ってやるからな!! 今までの分、全部返してやるからな!!





「ライル? 大丈夫? サンドイッチ美味しくなかった?」



「あ、うんん! 美味しいよ……! 僕、今日は食欲無いみたい……」



「無理しないでいいのよ」



「うん……ちょっと、外にいってくるね……」



寂しげな背中を残して、ライルは食卓の席をたった





チュンチュンチュン、チュン……





今日はどうしたんだろう……



「どうして、こんなことを……?」



何で、今になってクロヒのことを、思い出したんだ?

別に、クロヒが居なくても、寂しくなんか無いってのに……これじゃあ、クロヒがいなくなる日みたいじゃないか。



あのときも、俺はこんなふうに思い詰めてたんだっけ。

……あはは。何か、バカらしくなっちゃった。やめよう。いつも通りに過ごそう!

俺は、俺だ!!



「すみませーん! ライル君のお宅ですか〜?」



突然、家の正門から声が聞こえてきた。

俺? しかも、名前で呼ぶか普通?

不信感を抱きながら、とりあえず正門に向かう。



「僕に何か用ですか?」



「あ! ライル君だよね! これ。今年の9月に、入学式があるから、良かったら、来てね!」



「……」



入学式? 良かったら、行く?



「俺は、キア。ライル君の1つ上だよ! よろしくね! それじゃあ、俺はもう一件行かないといけないから! じゃあね!」



……え? どう言うこと?

Re: 転生を知らなかった俺は、転生させられて。 ( No.14 )
日時: 2020/06/07 17:06
名前: ふしおん (ID: OgxTksU5)

014







入学式……

え? 何の? 何かの学校の事ではあるんだろうけれど、どう言うこと?



「これは……封筒?」



さっきの男の子から、知らぬ間に封筒らしき物を貰っていたらしく、手の中には厚みのある白い封筒が握られていた。

いつの間に、、さっきのはキアと言ってたか? すんごい速さで通っていったけど、何者なんだ?

……とにかく、母さんに見てもらおう。







「お母さん! 何か貰ったよ! これ封筒だよね!」



「勢い良く戻ってきたと思ったら、一体何をもらってきたのかしら」



少し困った顔を見せながらも、ライルの持っている封筒を受け取った。



「学校、案内状? って書いてあるけど……」



「やっぱり? さっき男の子から貰ったの! 良かったら、学校に来てね! って言ってた!」



「良かったら学校に来て……って、どう言うことよ……無料なのかしら」



確かに。良かったら来てって、無料ですよって言っているようにも思えるよな。



「えー、この案内状は、都立魔法科学校の案内です。王都に住む、6歳の男女が無償で入ることができる、魔法を主に学習する学校です。」



おぉ! 魔法科学校! 魔法の勉強ができるのか! そして、無料! これは、前世で貧乏で、節約をしていた俺にはもってこいだな! 無料なら、大歓迎だぜ! ま、今は関係ないけど……



「年々、魔法を扱えるものが減っている今、どなたでも大歓迎! この学校には、寮があるので、保護者の方に負担をかけないよう精一杯やらせていただきます! だって! これ凄いよ!」



「寮か……確かに。楽しそう!」



年々、魔法を扱えるものが減っている……か、やっぱりクロヒが言っていた通り、魔法を使えるのは凄いことなのか。



「あ、まだ続きがある。……今年は、2人を招待しております。もしよろしければ、7月の学校体験にお越しください。入学式は9月を予定しております。……あら、2人しかいないのね。今年は」



「へぇー! もう一人は誰なんだろう?」



「行ってみれば分かるんじゃない?」



確かに行ってみればわかる! 興味はあるし、楽しそう! だけど……また、一人になったらどうしよう。前世みたいに、短気だ。なんだ。って言われたくない……



「……楽しそうだけど……」



ライルの様子を察したらしく、しゃがみこんで言った。



「行きたくなければ、いいのよ。家で勉強をしましょう? お母さんが、鍛え上げてあげるわ!」



母親は、微笑みながら、ライルの頭を撫でた。

……母さん。

よし! 俺は、学校に行ってみせる! 母さんが俺を応援してくれているんだ! ここでの幸せを、後で返してみせる!



「僕、学校に行くよ!」



「良かったわ! それじゃあ、パパが帰ってきたら、お話ししましょうね」



学校かぁ……きっと、魔法以外も勉強するん……!? 魔法以外……文字も!? 俺、文字だけは苦手なんだ……



この世界の文字は良くわからない。言葉は、前世と同じなんだけど、文字は漢字のようなそうじゃないような…… あぁ、それを勉強しないと。もちろん、魔法も……



「……僕、裏庭で練習してくる……」



そう言うと、トボトボと玄関から出ていった。

そんなライルを、母親は優しく見守っていた。



「行ってらっしゃい」







─────────────────────





「ちょっと! まだなの! 早くしなさいよ!」



「は、ハイッ! 只今、準備中でして、後5分で‼」



あぁもう! 遅い! 遅い! 早くしないと、あいつが学校に行っちゃうじゃない‼



でも、予想外だぞ。学校に行く気になるなんて。前世の記憶とどうやって戦っているんだよ!

俺なんか、もう10年あれを忘れたことはないのに!



まあ、これから最高に楽しいことがアイツには起こるんだから、今何をしたって遅いのだがな!



「テイメ様! 準備ができました。いつでもどうぞ!」



「今すぐにやれ!」



「はっ!」



『起動。……実行すると、神の規約に触れますが、よろしいですか?』



規約? 俺に規約なんてない。通用しないも同然だ。



「良いから、早く」



『了解しました。どうぞ』



やっとか。

椅子に座っていた女神テイメは、移動のために席をたった。



☆☆☆





「やあ、深鈴くん。調子はどうだい?」



「貴方は……誰でしょうか?」



「私は、女神さ。君を異世界に転生させる役割を担った」



「いせ、かい……?」

Re: 転生を知らなかった俺は、転生させられて。 ( No.15 )
日時: 2020/06/07 17:09
名前: ふしおん (ID: OgxTksU5)

015







「……なぁー! 新しい魔法を考えるとか、俺はどうかしちまったのかよ!」



あぁ、やべ。言葉遣いが汚くなってしまった。



はぁ。妹が言っていたように、アニメを見ておくべきだったか……いざ異世界でチート? だのを使うとなると、どうやってやればいいんだか分からない。そもそも、それが出来るのか?



……えと、うーん……確かイメージがどうのこうの言っていたような。





今、オリジナルの魔法を考案中。

どうして、こうなったのかというと、、、

学校に入るにあたって、魔法のテストがあるらしいのだ。そのために、何か印象に残るような魔法をぶっぱなしたい。

ということ。それで、いわゆるチートの考案。





「一番分かりやすくて、知っているやつ……んー……空を飛ぶとか?」



んん? 待てよ? それなら俺でも出来るんじゃ……!



「よし! そうと決まれば、練習に励むのみ!」





キッチンには、裏庭から聞こえる楽しそうな声を聞いて、微笑みを浮かべている母の姿があった。





「自分を浮かべるイメージで良いのか? そうなれば、付ける名前としては、浮遊魔法とか? いやいや、名前の前にその魔法を作らないといけないんだよ!」



浮遊……浮く。遊ぶ?

風を起こせば、浮くことくらいなら出来るだろうけど。それだと、どっかに飛んでいきそうだしな。

上手く風が操れれば……



『闇、炎、風魔法ですね!』



風魔法……そうか‼ 風が操れる属性を持っているんじゃないか! これならできるぞ!

誰でも最初に思い付きそうな事を、数分かけて導きだした。



「風魔法! 浮遊!」



……シュウウウウウウゥゥゥ……



一瞬、ライルの足元に風の渦ができたと思いきや、その渦は消えてしまった。



えぇー!? 今の駄目なの? 今のじゃ出来ないの? なんで!?



『ダメダメ、そんなんじゃ、オリジナルなんて無理だわい』



そんなぁ! じゃあどうすれば出来るってんだよ! ……?



「……え? クロ……ヒ……?」



『おん? なんじゃあ、そんなに驚いて。どうした?』



そこには、確かに3年間姿を現さなかったクロヒが浮いていた。



いやいや、どうしたじゃないでしょ‼ 俺がどんだけ心配したか分かってんの!?

いきなり、魔力切れで消えて、……3年も姿を現さなかっただろ! お前は、初めての友達といっても良いくらいだったんだぞ! 前世の俺は、友達が全くいなかったからなっ!! 嬉しかったんだよ! 本気で話せる奴が出来て……なのに、なのに!! お前は、3年も。3年も、会いに来なかったんだ!!



また会えたことの嬉しさと、何か心を刺すような気持ちでいっぱいのライルは、今にも泣きそうだ。

そして、突然現れたクロヒ。ライルに、怒鳴られたのも関わらず平然とライルを眺めている。



『あぁ。すまなかった。それでも、俺はお前のために……』



お前のために? 俺のために、何をしてたんだよ。



『お前のために……神界に行ってきた……もう何年も、交流を避けてきたってのに、お前の事を思うと……何でだかな。行かなきゃいけないって思ったんだ……』



神界……? 何の事を言っているんだ? 何で、クロヒが神界に行かないといけないんだよ!



『お前の守神だって、言ったよな。だからだよ』



……一体、何を言ってるんだよ。どういうことだよ?

俺がなんだってんだよ! どうなってるんだよ……!

Re: 転生を知らなかった俺は、転生させられて。 ( No.16 )
日時: 2020/06/07 17:12
名前: ふしおん (ID: OgxTksU5)

016







「ーール! ライル!」



「……んん」



「ライルってば、庭で寝ちゃってたのよ?」



……母さん。俺は……寝てたのか? ……クロヒ……じゃああれは夢だったのか……



「そろそろご飯にするから、手を洗ってきて!」



「う、うん」



足取りは重く、グダグダと洗面所に向かう。

クロヒ……お前は、一体何処に行ったんだ? 守神何だろう? 守る主を離れてどうするんだよ……



ふと、鏡に目をやった。



「……お前……あはは。変な顔! こんなんじゃ、やってらんないよ! あははは!」



鏡に写る自分を見て、笑った。それほどに、可笑しな顔をしていたのだ。

心なしか元気が出た気がする。そうだな。じゃあ、クロヒが帰ってくるのを待つんじゃなくて、自分で探しにいってみるか!



「よしっ!」





「ライル〜! 鏡とにらめっこしていないでよね〜!」



「あ! うん!」



手を拭いて、リビングに向かう。



「さぁ、召し上がれ」



「いただきまーす!」



今日の夕飯は、カレーライス。甘い……さすがに甘すぎないか?



「そう! 今日、魔法の練習していたのよね! 入学式まであとちょっとだし、頑張ってね!」



「うん! 順調だよ。今日は、風魔法で浮遊魔法って言うオリジナルを作ろうとしていたんだけど、上手くいかなくて……えへへ」



「そう。オリジナルを……じゃあ、イメージは大事よ。オリジナルなら尚更。魔法と言うのは、その人の創造力で無限に増えるの。だから、きっとライルなら出来るわ!」



母さんのこの笑顔は万能薬なのか……? 暖かいなぁ。





そのあと、甘いと文句を言ったカレーライスを2回おかわりして、2階へ上がった。



2階、さぶいなぁ。明日で、6月になるってのにこんなに寒くて大丈夫かよ。

そう思いながら、自分のベットに潜り込んだ。



入学式、必ず成功させてやる!



そう決意すると、深い眠りに落ちた。







9月2日。

魔法科学校、入学式会場。



『これから、入場を開始します』



今年は、二人だって聞いたけど、もう一人まだ来てないみたいだな。



「ライル、頑張ってね!」



母さん! 父さんも! 2度目の入学式なのに、緊張するけど、頑張ろう。うん。

あ、でもな。一人で入場は恥ずかしいぞ? 早く来てくれないかな。もう一人。



「ヤバイヤバイ! ごめんなさーい! ちょっと失礼します!!」



「うおっ! 誰だあの子!」



叫びながら、走ってくる女の子は、人の波を抜けてようやく、ライルのいる所までやって来た。



「なー! ま、間に合った! あ!あなたがもう一人の?」



「う、うん。僕だけど……」



なんじゃ、この子。

走りやすそうな、短パンに、長めのTシャツ、髪の毛を後ろで束ねている。髪の毛と瞳は、栗色。顔つきと、格好から何となく性格はわかる。



陽キャだ。

俺も、どっちかと言うと、陽キャに入るんだろうが、この子は正しく陽キャだ‼



「私、レミス! レミス・サーリビル・リヒソン! よろしく!」



いきなり、フルネーム! やはり、サッパリ系の活発女子だ! いや、さっきは陽キャとしかいってないか。



「よ、よろしく。僕は、ライル・リ・トリーユ」



「ライルね! 私の事は、レミスって呼んで!」



「う、うん」



ヤバイ! 調子がでない! レミスちゃんが、どんどん話を進めるから、相槌しかできない!!



『新入生の入場です!』



パチパチパチパチパチパチ……



ライルは、ステージに上がった。沢山の人の目が、ライルたちを見ている。



皆、ジャガイモ……皆、人参……皆、ジャガイモ…皆、人参……



「ちょっと、ライル! 退場よ!」



「え、あ、うん」



あぁ、俺は何をやっているんだ。緊張しすぎて、周りが見えなくなっていたのか!

入学式早々、典型的な陽キャに会うわ、緊張しすぎるわでもう、精神的にやられたぞ、これは……

Re: 転生を知らなかった俺は、転生させられて。 ( No.17 )
日時: 2020/06/07 17:14
名前: ふしおん (ID: OgxTksU5)

017







広い部屋。天井は3メートルは優にある。白く塗られた清潔感漂う壁、無意識に目に入ってくる赤いカーペット。

壁には、賞状やトロフィーが飾られている。



そしてその部屋の中央に、置かれた椅子2つ。

その正面には、長机。



緊張感が辺りを包み込む。



中央の椅子の1つにはライルが、もう1つにはレミスが座っている。

あぁ、こういうの嫌だな……無駄に広い場所もあんまり好きじゃないし。あれだ、入試だ。ここは、姿勢正しく、しっかりと審査員なる先生の目を見て……!



コンコン……



「失礼します」



ライルたちが入ってきた扉と同じ扉から、3人の大人が入ってきた。そして、正面の長机に座った。



「……そんなに、緊張していないでいいのよ。楽な格好で良いわ」



女性が言った。

……緊張しなくていいって言われてもな……まあでも、優しそうな人で良かった。



「これから、魔力を測ります。一人ずつ前に出て、魔法を発動させてください」



じゃあ、俺が、……!? 体が動かない! 手に汗が……俺、超緊張してる……?



「はい! じゃあ、私から!」



ライルの様子を察したらしく、レミスが最初にやると言って前にでた。

レミスちゃん……! ありがとうございます。

……これで、自分の番に向けて、イメージを強く持って!

そうだ、レミスちゃんはどんな魔法なんだろう?



「大地の命なる水よ、我が前に!」



……え? 何か唱えないといけないの!? えぇ、俺そういうの苦手なんだけど……



レミスがそう唱えると、部屋中に水滴が浮き上がり、レミスの周りに集まった。



「レミスさん。そのままキープでお願いします」



「あ、はい!」



まじか……え、それに、魔法陣とか出ないんだ? 俺、てっきり魔法陣を使って魔法を出してるのかと思ったんだけど。俺の場合無意識で魔法陣できてたしな……



「はい! レミスさん良いですよ。今、この学校で一番かもしれません‼」



「本当ですか!」



レミスが意識をそらした瞬間、周りに集まっていた水が、辺りに飛び散った。



!?



「あわわわ! ご、ごめんなさい!」



「いいですよ。気にしないでください」



うわぁ。俺の服が……最悪。

しょうがない。風魔法、、唱えた方がいい? いや、いいや。

とりあえず、この部屋と皆の服を乾かして。



シュウウウゥゥゥゥ……



「この風は……! ライルさんあなたの……!?」



前に座っていた女性が自分の服を見たあと、ライルの方に向き直した。その瞬間、女性は目を見開いて静止した。

え、何? 俺、何かやっちゃいけない事した?

何? なんで皆して、俺を見てるの?



「……ライルさん……あなた、自分が何をしているか自覚はありますか……」



「え、えと……魔法を発動させているだけだと……」



「そう、ですか……自覚はないんですね……」



自覚? 何の?



「あなた、王国魔道師並みの魔法を発動させているんですよ。その魔法陣が、何よりの証拠です」



「魔法陣……ですか……?」



この魔法陣が、王国魔道師並みの……?


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