複雑・ファジー小説

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聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】
日時: 2020/07/01 21:12
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 どうも、カキコで創作を投稿させてもらっているマルキ・ド・サドです(*^_^*)

 さて、この度はどうしても書きたかった新作を投稿しようと思います。
2020年と言えば、ジャンヌ・ダルクの列聖から、ちょうど100年が経った年でもあるのです。
その記念として彼女にまつわるミステリー小説を書きます。

※注意

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめて下さい。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るをクリックする事をお勧めします。


 物語のあらすじ

 ・・・・・・1920年5月16日。ジャンヌ・ダルクが教皇ベネディクトゥス15世によりカトリック教会の聖人に列聖される・・・・・・

 パリに事務所を構える私立探偵の『エメリーヌ・ド・クレイアンクール』と助手の『アガサ・クリスティー』。
2人は久々の休暇に羽を休めている最中、ある依頼人が訪れ、奇怪な仕事が舞い込む。
それは数世紀前に火刑により処刑されたジャンヌ・ダルクの本当の死の真相を突き止めてほしいと言う内容だった。
予想だにしていなかった依頼に困惑するエメリーヌであったが、依頼人の想いに心を動かされ頼みを承諾する。
数世紀前に埋もれた事件の真相を探るため、アガサと共にフランス西部に位置する湿地帯の孤島『ヴァロワ島』へと向かう。

Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.10 )
日時: 2021/12/01 18:06
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 ボンジュール!いつも、カキコの皆様にお世話になっているマルキ・ド・サドです<(_ _)>
この度、ジャンヌ・ダルクを題材としたミステリーノベルである『聖女の呻吟』の連載を再開する事を決定致しました。
体調不良が続いていたため、ページの投稿がままならず、気がつけば1年以上の月日が流れてしまいました。
私の作品にせっかく、時間を割いて下さった読者の皆様に深くお詫びを申し上げます。
あまりにも久しぶりの連載開始のため、あらすじを覚えていないはずでしょうから、これまでのあらすじを具体的にまとめます。
無作法な形になってしまいましたが、これからも、このマルキ・ド・サドをよろしくお願い致します<(_ _)>


 (これまでのあらすじ)

 1920年のフランス。
パリで事務所を構える私立探偵のエメリーヌとアガサの元に1人の依頼人が訪れる。
依頼人はクリスティアと名乗り、ジャンヌ・ダルクとその影武者"アメリア・クロムウェル"の血筋であるという素性を明かす。
エメリーヌは彼女から、ジャンヌの本当の死の真相を解明してほしいという捜査を依頼され、ジャンヌの指輪を渡される。

 依頼を承諾したエメリーヌとアガサは、フランス西部に位置するヴァロワ島へ向かう。
島の酒場で働くジョルジュと出逢い、"聖女の涙"という奇跡の果実の存在を知る。
翌日、エメリーヌ達はジョルジュの妹であるレイの元を訪れ、シシスというヴァロワ島特有の疫病神についての知識を得る。
しかし、事件の手掛かりになりそうな情報は掴めず、次の場所へと調査に出向くのだった・・・・・・

Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.11 )
日時: 2021/12/08 20:08
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 エメリーヌとアガサは捜査を続行し、島の西側へと足を運んだ。港の集落を過ぎ、しばらくかけて海岸沿いの崖に辿り着くと、1軒の廃墟が2人を出迎える。それは骨組みが剥き出しになった、何とも見るに堪えない教会の姿だ。建物は朽ち果て、内側が覗けるくらい破壊しつくされた酷い有様だった。

 かつては重要建造物として、扱われていたのだろう。門や囲いのものらしき痕跡も地面に残っているものの、綺麗に撤去されて影も形もない。代わり鉄棒と鎖の線が円形に1周して繋がっており、教会を包囲していた。

「エメリーヌさん。ここって・・・・・・」

 アガサの"まさか"と言わんばかりの問いにエメリーヌは頷かず、肯定した。

「ええ、ヴァロワ教会。ジャンヌ・ダルクの指輪が見つかった場所です。ここに重要な手掛かりがあるかも知れません」

 エメリーヌは唯一の手掛かりである指輪を取り出し、教会と重ね合わせる。

「でも、入っていいんですか?ジョルジュさんが証言していた通り、教会は閉鎖されてますけど?」

「まわりを見た限りでは、見張りらしい人の姿はありませんね。忍び込むには、いい機会でしょう」

 エメリーヌは捜査を優先して立ち入り禁止を意味する表示など、お構いなしに鎖の内側へと足を踏み込む。アガサも不安だらけで嫌がった顔を浮かべながらも、鎖の真下を潜った。


 外側が壊れかけなら、当然、内側も清潔感があるとは、お世辞にも言えない光景だった。聖堂らしき構造は残っているが、長い間、潮風や雨水に晒されたせいか、白い石材が黒ずんで品のない色に染まっていたのだ。床も歩くのに苦労するほど、雑草が好き放題に生え、建物の一部である瓦礫が散らばっている。神への信仰を集める場所らしい神聖な雰囲気が全く漂っていない。

「上下左右・・・・・・どこを見渡しても"酷い"の一言しかありませんね。神聖な教会をここまで荒らすなんて、神様に呪われますよ」

 アガサが教会の現状に苦い顔をしながら、腹立たしい愚痴を零す。

「かつては美しく、多くの信者が訪れていた頃の面影はどこにもありませんね。とにかく、手掛かりを探し出しましょう。アガサ、あなたはそちらに怪しい何かがないか、調べて下さい」

「分かりました。はあ、本当にここにいて大丈夫かな?」

 2人は手分けして、事件に繋がりそうな"何か"を探す事にした。

 アガサが瓦礫を退かして残骸を漁る中、早速、ある物にエメリーヌの探偵の知覚が反応を覚えた。跪いて、床に煤(すす)のような粉末を白い手袋をはめたまま、摘まんで取る。両目の間に寄せ、じっくりと観察した結果

「これは"銀粉"ですね。酸化が進み、完全に錆びている・・・・・・確か、ジョルジュさんはこの教会は大量の銀を素材に建てられたと証言していた。そして、銀は大戦に必要な資金にするために根こそぎ取り除かれたとも・・・・・・」

 昨日の証言を思い出し、助手に確認を取る。

「アガサ、何か見つかりましたか?」

「いえ、こっちはまだ何も。見ての通り、もぬけの殻ですからね。あるのは壊れた残骸だけ・・・・・・あ、いえ!待って下さい!何かあります!」

 アガサもちょうど、残骸に埋もれている何かを発見する。手作業で石や板の切れ端を退かし、隠れていた物の正体を露にした。砂埃を手で掃った事ではっきりしたのは、数世紀前を思わせる絵柄で描かれた男性の肖像画だ。

「この人は・・・・・・」

 その見覚えのある反応はエメリーヌよりアガサの方が早かった。

「アガサ。この絵の人物は・・・・・・」

「ええ、間違いありません。"ルイ・ド・ヴァロワ(ルイ11世)"。ジャンヌ・ダルクの活躍によって、フランス王となった"シャルル7世"のご子息です」

「確か、ルイ11世はジャンヌ・ダルクを心から愛していた人物でしたでしょうか?」

「はい。捕虜となったジャンヌ・ダルクを見捨て、火刑に追いやった父とは裏腹に魔女として一生を終えたジャンヌに対し、感謝の意を捨てなかった唯一の王族とも言われています。事実、ルイは2人の娘にジャンヌと名付けています・・・・・・もしかして、この方がジャンヌ・ダルクを殺害した犯人・・・・・・まさかね・・・・・・」

 根拠のない推理にアガサは苦笑し、エメリーヌも表情を合わせて簡単な推測を立てる。

「ルイはジャンヌを純粋に愛していたはず。それに加え、当時のルイはまだ幼子だった。犯行に及んだ可能性は極端に低いと判断できます」

「・・・・・・でしたら、この絵は手掛かりには繋がりませんね」

 アガサは少し残念な気持ちで肖像画を壊れかけの椅子に置き、改めて捜索を再開する。

 エメリーヌは聖堂の奥へと足を進めて行く。そこは3つの段差が低い階段となっており、その上の中心に聖書台があった。紙が破れ黄ばんだ書物が21章のページを開いたまま、置かれている。

「私はアルファであり、オメガである。最初であり、最後である。私は渇く者には、生命の水の泉から値なしに飲ませる・・・・・・これはヨハネの黙示録ですね」

 エメリーヌはページに記された文章の一部を読み上げ、独り言を呟く。本には対しては興味を持たず、聖書台の棚を確認した。

「ん?」

 すると、最下の棚に微妙だが穴が開いており、空洞になっている。何かがあるような、そんな予感がしたエメリーヌは隙間に指をかけ、板をずらす。底を覗くと期待は裏切らず、得体の知れない物体が隠されていた。

「エメリーヌさん。何かありましたか?」

 ちょうど、そこへアガサが足を運んでくる。事件に繋がる収穫を得られないせいか、やる気をなくしかけている様子だ。

「聖書台の下に不審な物を見つけました。今から回収してみようと思います」

「不審な物・・・・・・!?どれですか!?」

 興味をそそられ、即座に態度を一変させる助手を隣に置き、エメリーヌは発見した物を底から取り出す。

Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.12 )
日時: 2021/12/20 19:52
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 日の明るさで形がはっきりとしたその正体は小包みくらいの金属製の箱だった。オルゴール箱にも似たその箱は錆びて黒ずんでいるものの、見事な装飾が施され、一種の銀細工とも解釈できる。特に印象を受けたのは、頭上に小さく丸い窪みの存在だ。

「・・・・・・これ、何でしょう?」

 明らかに怪しい代物にアガサは真剣な口調で箱を凝視する。

「一見すると、宝箱でしょうか?錆びの色から判断して、恐らくこれは銀でできているみたいです」

 好奇心を胸にエメリーヌは早速、中身を確認しようとした。しかし

「おかしいですね。どういうわけか、蓋が開きません・・・・・・」

 蓋は頑丈に固定され、どんなに力を入れてもびくともしない。

「鍵がかかっているのでは?」

 アガサは施錠されているという考えを主張するが

「その鍵穴はどこにもありませんよ。ですが、仕掛け箱にも見えませんね」

 不審物を扱う術を知らず、困惑するエメリーヌ。しかし、箱を眺めているうちに彼女はある事に気がつく。

「さっきから気になっていたのですが、この窪みは何のためのものでしょう?もしや・・・・・・」

 探偵の脳裏にある予想が過る。その閃きの意味が分からず、顔を斜めに傾けるアガサに視線を向けずにある物を取り出す。

「エメリーヌさん。それ・・・・・・」

「私もあり得ないとは思いますが、物は試しです」

 エメリーヌはジャンヌ・ダルクの指輪を箱の窪みに入れ、はめ込む。すると、リングはちょうどよく収まり、数秒間回転を起こした後、カチッと音が鳴った。2人は互いに顔を見合わせ、次に箱を向き直った。

「エメリーヌさん・・・・・・!」

 あっさりと難題が解決した結果にアガサは歓喜と尊敬の意をエメリーヌに示した。

「どうやら、この箱は指輪を鍵として開く仕組みになっていたようですね」

「ジャンヌ・ダルクの指輪で開いたんですよ!?彼女の秘密に結びつく物が入っているに違いありません!早く、中に何があるのか調べてみましょう!」

 ついに事件の謎を解く第一歩に迫った確信に心を弾ませ、2人は箱を開ける。蓋が中身を露にした途端、黴臭さと埃が空気中を舞い上がった。入っていた物は、皮紙に包まれた得体の知れない板状の物だけが1つ。

 エメリーヌは皮紙を丁寧に省き、徐々に中身の姿を露にしていった。包まれていた物の正体は黒く分厚い1冊の洋書。一見すると古臭く、表紙に刻まれた傷が強い印象を与える。

「変わった書物ですね」

「何が書き記されてあるのでしょう?」

 エメリーヌは洋書の表紙を捲ろうとした。

 最初のページに書かれた不思議な紋章を視野に入れた瞬間

「ううっ・・・・・・!」

 エメリーヌの脳内に電流のような痺れが走った。耐えられない痛みに思わず、書物を落とし、頭を抱えて蹲る。

「エメリーヌさんっ!?どうしたんですか!?」

 突然の事態にアガサは顔色を変え、叫んだ。 しかし、その声は彼女の耳には届かなかった。


 ザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザ・・・・・・


 砂嵐のような音が脳に刺激を与え、目蓋を開けられない。頭痛で遠のく意識の中、ある映像が映し出された。はっきりとは映ってないが、微かに2人の少女の姿が確認できる。深刻で悩ましい表情を互いに見合わせ、何かを話し合っている場面が薄く見える。


 ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザ・・・・・・

『"--様が、私にジャンヌを----に連れて来るように申し付けられました。ですが、私はジャンヌの----が起きそうで心配なのです・・・・・・!"』

『"マリア。あなたは何を心配しているの?はっきりとーーーー?何をそんなに怯えているの?"』

『"--様の目に理性なんてなかった・・・・・・ーーーーの誘惑が奥に潜んでいるのが見えました・・・・・・!"』

 ザザ・・・・・・ザ・・・・・・

『"ジャンヌは、この事をーーーー?"』

『"いえ、ーーーーにはまだ、何も話していません・・・・・・!ですがっ・・・・・・!"』

 ザ・・・・・・ザザザ・・・・・・ザ・・・・・・

『"つまり、あなたの仕えている--様がーーーー知れないのね?"』

『"--様!私は一体、どうすれば・・・・・・!?"』

『"・・・・・・仕方がないわね。私がーーーーして、あの方にーーーー"』

 ザザザ・・・・・・ザザ・・・・・・

『"しかし・・・・・・それでは、あなた様が・・・・・・!"』

 ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザザ・・・・・・

『"あなたのーーーーとも限らない。もしもの事があってジャンヌをーーーー、フランスはーーーー・・・・・・それに彼女をあらゆる悲劇から守るのが、ーーーーである私の役目よ。あの--には私が--。安心して。あなたにも決して、危害を加えさせない"』

『"--様・・・・・・"』

 ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザザザ・・・・・・

Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.13 )
日時: 2021/12/27 20:51
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「うっ・・・・・・うう・・・・・・!」

「エメリーヌさん!」

 アガサの声がはっきりと木霊し、エメリーヌは我に返った。重く閉ざしていた目蓋をカッと大きく開き、苦しそうに激しい吐息を繰り返す。数秒後、今いる現実を自覚し、片手で頭を押さえながら自身を呼んだ助手に視線をやった。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・わ、私は・・・・・・?」

「本に触れた途端、エメリーヌさんが急に苦しみだしたから、凄く心配したんですよ!一体、何があったんですか!?」

 エメリーヌは脳内に流れた映像の事は口に出さず、目線だけを書物に向け

「ちょっと、目眩がしただけです。気分はもう、悪くありません」

 そう何事もなかったように答え、無理に呼吸のリズムを整えると、おそるおそる書物を指先で触れる。頭痛に及ぼす音は聞こえず、謎の現象も起きなかった。エメリーヌは書物を回収し、鞄にしまい込む。

「アガサ、教会を出ましょう。事件の手掛かりに繋がりそうな怪しい物を手に入れた事ですし。集落に戻ったら、ジョルジュさんの酒場に行って再び部屋を借りましょう」

「本当に大丈夫ですか?顔色があまり、よくないですよ?」

「お気遣いは無用です。さあ、帰って英気を養いましょう。今日はもう、酷く疲れました」


 奇怪な収穫を得たエメリーヌとアガサはヴァロワ教会から外に出る。どれだけの時間が経とうと、相変わらずこの島は晴れという天候を知らないらしい。太陽の光を遮る灰色の雲が空を埋め尽くし、今にも大雨が降りそうな兆しだ。

 集落へ向かおうと、鎖のラインを越えようとした刹那、力強い足が地面を踏みにじり、何者が立ちはだかった。2人は現れた者の威圧に負け 歩みを止める。

「お前ら。こんな所で何をしてやがる?ここはなぁ、関係ねえ奴が立ち入っていい場所じゃねえんだよ」

 見知らぬ背が高い青年。随分と殺気立った好戦的な口調。 目つきが獣のように鋭く、尖った八重歯を剥き出しにしていた。島の住民らしい汚らしい格好で、ボロボロになった穴だらけのパーカーを着ており、フードで頭上を覆っている。柄を左手に軽く叩きつけ、先端にある斧で威嚇をしているつもりのようだ。

「・・・・・・ひっ!」

 凶器の存在に怖気づいたアガサは、そそくさとエメリーヌの後ろに身を潜める。

「あなたは?」

 エメリーヌは冷静に青年の素性を聞こうとするが

「質問してる立場は、こっちだ。10秒の猶予をやる。俺がお前らの額を斧で叩き割らずに済む理由を教えろ」

 青年は敵意を抱いたまま、鎖を跨いでジリジリと間合いを詰めてくる。

「私達は決して、怪しい者ではありません。お互い暴力沙汰は避けて、冷静に話し合いませんか?」

「何だと?お前ら、この島の人間じゃねえな。よそ者が神聖な場所に無断で侵入している時点で怪しさしかねえじゃねえか!!」

 青年は千切れかけていた理性の糸を切らし、怒鳴りつけた。

「どうか、落ち着いて下さい。私達は私立探偵です。ある事件の調査のために、この島へ足を運んで来ました。誓って、この神聖な場所を穢すような真似はしておりません」

「ああ!?事件だと!?何の捜査をしてるんだ!?」

「申し訳ありませんが、お教えする事はできません。仕事上の機密事項ですので」

「答える気はねえって事か・・・・・・だったら!てめえらをこのまま帰すわけにはいかねえな!」

 青年は更に殺気を強め、斧を振りかざした。こちらに危害を加えようと、ドカドカと速いテンポでこちらへと突進して来る。迫りくる脅威にエメリーヌは引き下がろうとはせず、接近を許した。

「い、いやっ・・・・・・!」

 アガサは恐怖に耐えられなくなり、教会のある方へ走って逃げた。

 怒号と共に容赦ない勢いで振り下ろされる斧。鋭く厚い刀身はエメリーヌの額を叩き割ろうとした。彼女は素早く、体の向きを変え、無防備な姿勢をずらす。的を外れた斧が地面を抉る前に柄を押さえつけた。

「なっ・・・・・・!?」

 思わぬ反撃に驚愕の声を漏らす青年。エメリーヌは多少は加減し、青年の腹部に蹴りを喰らわした。痛みに怯んだところで、力を失った手から斧を奪う。瞬く間に刀身を柄から外し、解体した凶器を手が届かぬ場所へと投げ捨てた。

「がはっ・・・・・・!はあはあ・・・・・・!」

 青年は蹲り、蹴られた腹部を押さえながら、正面を見上げた。そこには、さっきと姿勢が変わらないエメリーヌが立ち尽くしている。

「暴力沙汰は避けたい。そう申したはずです」

「くっ・・・・・・クソがぁ・・・・・・!」

 青年は反抗的な態度を見せるが、武器を失い、殺意も喪失した。

「まずはお互いに名乗りましょう。私はエメリーヌ・ド・クレイアンクール。先ほど申し上げた通り、私立探偵です。あなたは?」

「うぐっ・・・・・・!アルノ・・・・・・この島の当主・・・・・・シャリュトリュー様に頼まれて・・・・・・この教会を・・・・・・見張ってんだ・・・・・・」

 青年は痛感が堪え、喋りづらさに苦労しながらも、何とか素性を明かした。

「アルノ。それがあなたの名前なのですね?手荒な真似をしてしまった事はお詫びします。しかし、人をよく判断せず、いきなり暴力に持ち込むのは善良な人のする事ではありませんよ?」

「うっ・・・・・・うるせえ・・・・・・!」

「アガサ。もう、危機は去りましたよ?いつまでもそこにいないで、酒場へと向かいましょう」

 アガサは慌てた返事をし、エメリーヌの元へ追いつく。アルノは当分、起き上がれそうもなく、鎖の内側で背を丸めていた。

「もう、ここで死ぬのかと思いました。エメリーヌさんの強さは知っていますが、下手をしていたら、間違いなく命を落としていましたよ。何故、あの人が襲い掛かろうとした時、銃で脅さなかったんですか?」

 アガサのごもっともな質問にエメリーヌは命拾いした震えもなく、平静さを保ちながら

「彼は斧を使い、こちらを脅迫してきましたが、犯罪者ではなかったようですね。島の当主に雇われ、ヴァロワ教会の守護を任されていた管理者だった。つまり、彼はこの島で真面目に働く正当な住人です。私は悪意のない人間を撃つつもりはありません。銃を抜かないで正解でした」

Re: 聖女の呻吟【ジャンヌ・ダルク列聖百周年記念】 ( No.14 )
日時: 2022/01/11 19:07
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 集落に戻ったエメリーヌとアガサはジョルジュの再び酒場を訪れ、部屋を借りる。教会での捜査以降、その日は外出する事はなく、事件に関するプロファイリングを優先した。時は川のように流れ、暗雲が晴れない孤島は夜の暗闇に覆われる。

 今日、2日目の仕事を終えた2人は食事を済ませ、暗い寝室に閉じこもっていた。夜も遅く、幼い体で疲れ切っていたアガサは先に寝床に就く。エメリーヌはまだベッドに横たわらず、机に腰かけたまま沈黙を保ち、何か深い考え事でもしているような様子だ。事実、彼女はある事が頭から離れずにいた。

(教会で見つけた書物に触れた途端に見えた幻影は何だったのだろうか?映っていた2人の女性は一体、何者だったのでしょう?身なりからして、どう見てもこの時代を生きる人間には見えなかった・・・・・・何か深刻な会話をしていたが、上手く聞き取れなかった。私が捜査している事件と関係があるのか?妙な胸騒ぎが治まらない。この島は奇妙な事があまりにも多過ぎる)

 いくら、複雑なピースを合わせても結論には至らず、疲労が溜まるばかりでエメリーヌにも睡魔が襲い掛かる。彼女はやる気を喪失した溜め息を吐き出すが、席を立たなかった。机に置いていたポーチから1枚の写真を取り出し、切ない顔で眺める。

「アルテュール・・・・・・」

 写真に写った人物の名を呟き、泣き顔を繕った時

「エメリーヌさん・・・・・・」

 ふいに背後から声をかけられ、我に返ったエメリーヌは一瞬、焦りを生じさせた。振り返るとショボショボした目を擦るアガサが立っている。

「アガサ。どうかしましたか?」

「いえ、別に。何故か、目が覚めてしまいまして・・・・・・エメリーヌさんは寝ないんですか?」

「私も今、ベッドへ向かおうとしていたところです。明日のためにも体力を補わなければいけませんからね」

「あの・・・・・・」

 すると、アガサは前々から胸に溜め込んでいた疑問を投げかける。

「いつも気になっていたんですが、エメリーヌさんはよく1人で写真を眺めている事がありますよね?何を見ているんですか?」

「写真?これの事ですか?」

 エメリーヌは隠そうとせず、素直に大事な写真を助手に手渡す。アガサは映っている人や景色を見て、大した反応は示さないで、ただ質問だけをした。

「エメリーヌさんの隣にいるこの男性は誰ですか?」

「彼は"アルテュール・ル・メヴェル"。私の最初の助手であり、恋人です」

「私が最初の助手じゃなかったんだ。しかも、その人がエメリーヌさんの恋人だったなんて・・・・・・」

 意外な事実を知り、アガサは少し真剣にながら、更に質問を重ねる。

「でも、私はこの人には出会った事がありません。アルテュールさんは今どこに?」

 すると、エメリーヌは落ち込んだ暗い面持ちを浮かべ

「彼は・・・・・・行方不明となりました・・・・・・」

「行方不明・・・・・・!?」

「昨年の事です。私に仕事の内容も告げぬまま、探偵事務所を出ていった切り、消息を絶って・・・・・・」

 エメリーヌは悩みを1人で抱え込もうとはせず、自身に降りかかった悲しい過去を正直に打ち明けた。

「彼の背中を最後に見たあの日から、私はずっと彼の帰りを待っているのです。"必ず帰って来る"・・・・・・そう去り際に言い残した言葉を信じて・・・・・・」

「詮索すべきではない事を聞いてしまいましたね。ごめんなさい・・・・・・」

 アガサのションボリとした素直な謝罪に、エメリーヌは暗黒が晴れたような笑みを浮かべた。

「謝る必要なんて、ありませんよ。逆にあなたに悩みを打ち明けた事で、心が幾分、楽になりました。アガサ。あなたは、私の助手になったばかりの頃の時より、モラルを弁えられるようになって、大きく成長していますね」

「えへへ・・・・・・」

 少女らしく、可愛く照れるアガサ。エメリーヌも愉快な気分を取り戻し、写真をしまって席を立った。蝋燭ろうそくの明かりを吐息で消し、ベッドに向かう。薄い布団を胸元までかけると、2人は互いに就寝の挨拶を交わし、深い眠りにつく。


 依頼を受けて3日目の朝を迎える。起床したエメリーヌとアガサは、服を着替え、身なりを整える。仕事に必要な準備を済ませると、借り部屋を出て、下階へと降り立った。

 時刻はまだ、早朝であるが、ジョルジュが既に店の経営に取り組んでいた。彼の酒場には、相変わらずみすぼらしい格好をした船乗り達が集い、見た目の悪い朝食を頬張る。陰気臭い雰囲気は、もう見慣れた。

「おお。あんた達か」

 ジョルジュは2人の存在を視野に入れると、頷くように一礼した。親し気な関わり合いは求めようとせず、やるべき仕事に専念する。

「おはようございます」

 エメリーヌは軽い笑みで挨拶を送り、カウンター席に座る。アガサも彼女の隣に並んだ。

「調査は順調か?事件はなるべく、ゆっくり解決してくれよ?金貨をくれる気前のいい客がいなくなるのは嫌だからな」

 ジョルジュは真面目らしさの欠片もないジョークを零し、苦笑した。エメリーヌは、その意外な一面に目を丸くするも、やがて破顔し、朝食を注文する。

「そう言えば、俺もあんた達に大事な用があったんだ」

「大事な用?どのようなご用件でしょうか?」

 聞き捨てならない発言にエメリーヌの表情が真剣になる。

「俺も正直、驚いているんだ。ついさっき、妹のレイがこの店にやって来てな。これを渡してほしいって頼まれたんだよ」

 そう言って、ジョルジュは2つの洒落た封筒をカウンターに置く。エメリーヌはその片方を手に取り、じっくりと眺める。アガサも一応は目を向けるも、大して関心を示さず、空腹を満たす事に夢中だった。

「・・・・・・これは?」

「ブランシャール家からの招待状だ。シャルロッテの御令嬢様があんたらに直接、お会いしたいって事だ」

 思わぬ人物からの誘いに驚愕し、アガサはむせて噛んでいた途中の海老を吐き出し、汚らしく咳き込む。エメリーヌは動揺せず、恐ろしいくらいに凛としていた。

「この島の統治者が・・・・・・しかし、何故、急に私達と面会など望んだのでしょう?」

 思った疑問を独り言にするが

「さあな。よそ者であり、風変わりな事件を調査しているあんた達に興味でも湧いたんじゃないのか?正直、羨ましい気持ちだよ。この島に住むほとんどの人間が姿すら見た事もない謎多きお嬢様の姿を拝見できるんだからな。この酒場に戻ったら、どんな人物だったかを詳しく聞かせてくれないか?」


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