複雑・ファジー小説
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- 児童捜弾員
- 日時: 2022/02/09 15:36
- 名前: 梶原明生 (ID: pkc9E6uP)
児童相談所には毎年数千件にも及ぶ児童に関する相談が寄せられる。その一つ一つに対処するのが児童相談員だ。しかし、全てにより良く対処できるわけではなく、何が深刻で何が深刻でないか判断するのは難しい。下手すると児童に被害者が出れば必ず槍玉に挙げられ、加害者扱いされかねない。福岡県福岡市某地区の児童相談所もその中の一つだった。ある日東京から福祉大学出身の長見正成58歳が天下りしてくることになった。東京で役所に勤めていたが、退職して福岡に転居したのだ。誰もが期待していなかったが、何故か彼のおかげであらゆる児童問題が解決されてゆく。その上人当たりも良く、回りの信頼を得ていくのだが。ある児童の問題を解決したことで、歯車が狂っていく。
- Re: 児童捜弾員 ( No.5 )
- 日時: 2024/08/07 17:12
- 名前: 梶原明生 (ID: 4.2P0hz.)
・・・「それで娘さんはお元気で。」「さぁな。30年前に家を出ちまってそれっきり。長男とは連絡取りあってるみたいだが、わしとは電話でも口を聞かんと。バッテンたった一人の娘たい。母ちゃんが死んだ時も顔を出さんかったから今でもあの事許さんのじゃろ。」「あの事、と言いますと。」「ワシも若かったんじゃろ。娘の夢を全否定したと。家出てってからそれっきり。ま、身から出た錆は錆じゃがのう。ハハハッ」笑って見せた顔にどこか悲痛を感じさせる。長見もまた写真を見つめてしまう。その頃、ビル街の小洒落たオフィスに今時珍しく綺麗にオールバックに髪を固めているシルバーの眼鏡姿の男性が座っていた。秘書らしき女がオフィスに入る。「社長、新井様がお見えです。」「うむ、通してくれたまえ。」メガネを中指で上げながら椅子をたつ社長。壮大な博多の街を見渡す。そこへホスト風の柄の悪い男が入る。「高嶋社長。何の御用で。」「また一人子供を調達してきてくれ。この子だ。」タブレットを投げ置く高嶋。「へい、それじゃ・・・げっ、こりゃ。」「何だ不服か。」「い、いや。ただ、身元がバレる家族持ちは狙わないんじゃねーんですかい。」「クライアントが是非にとね。金に糸目は付けないそうだ。跡継ぎの子供が臓器不全な上、血液型が特殊でね。やっと見つけ出したドナーが彼女だったんだよ。その前に。つい最近お前の手下の末端がコンビニで不祥事を起こしたそうだね。」「も、もうお耳に入ってたんですか。」「もうとは何かね。言ったはずだ。少しの刃毀れも許さないと。もし不祥事を起こしたら・・・わかっているね。」メガネを外して睨む高嶋に冷や汗を掻く新井。「わ、わかってますともボス。ご、ご安心を。」「そのボスとか言うセリフはやめたまえ。下品な。」「す、すみません。」「ところでお前のガキ共はサラリーマン風の中年男にやられたそうだね。誰なんだ。」「い、いや、それが警察も皆目検討がつかないと。」「気になるね。平行して調べなさい。」「は、はいボス。」「ちっ。」小さく舌打ちされてそそくさと逃げる新井。一方、細川刑事が署のデスクにいたとき、若手刑事の山本が急ぎ駆け込んでくる。「細川さん、やっぱどれも経歴は怪しめるものじゃないですよ。ただ。」「ただ何だ。」「児童教育研究室なんですが、知り合いの官僚に聞いたところ、長見なる人物は見たことはないとのことです。」「お、まさに大手柄だな。いよいよ旦那のアリバイがくずれたな。」・・・続く
- Re: 児童捜弾員 ( No.6 )
- 日時: 2024/08/09 15:24
- 名前: 梶原明生 (ID: z/hwH3to)
・・・「ええ。これでやつにかまかければ尻尾が出るかも知れませんよ。」「よっしゃ白井、今から旦那に会いに行くばい。」「はい。」二人は署をあとにした。その頃、杉田さんの見舞いを終えて搏谷の車に乗る長見。「あ、搏谷君。途中田楽さん家に寄ってくれないか。私の方から田楽梨乃についてお母さんに話しておかないと。」「は、はい。わかりました。」シートベルトを締めて発進する。意外と車で数分の場所だった。駐車場に停めて外に出た瞬間。小学生の女の子の声で悲鳴が聞こえた。普通なら子供のふざけた叫びぐらいにしか大人には聞こえないだろう。しかし長見は違った。「5階のベランダは田楽さんの部屋がある階。搏谷君、直ぐに警察に通報して。」「え、でも梨乃ちゃんはいたずら好きの女の子ですよ。」「いいから早くっ。」いつもの長見の紳士然とした口調から手厳しい口調になったのに驚き、慌ててスマホを取り出す。「ああ、長見さん、どこへ。」まごついてる間に彼は走り出していた。梨乃は隣家の緊急用避難幕を破きながらベランダからベランダへ逃げまくる。しかしついには行き止まり。「梃子摺らせやがってこのガキが。」「イヤーッ」腕を掴んだ刹那、後ろから鈍い音が聞こえた。「何だ。」四人居たはずの仲間は二人消えていた。代わりに見知らぬデカい男がいる。しかも初老ときてる。「な、テメー、下に突き落としたのか。」「お前たちも突き落とされたくなかったらその子を渡せ。そして警察に逮捕されろ。」「はぁ、ふざけるな。」スーツの脇からコルトガバメントを抜こうとした悪漢から、拳銃を掴み取り。反対に回転させて構える。「もう一度言う。その子を渡せ。」「できるかアホ。」パーンと乾いた音が鳴り響いた。「ああ、テメー正気か。ぐわー」肩を撃たれてへたり込むスーツ男。「お前はどうだ。渡すのか撃たれて死ぬのか、どっちなんだ。」「わかったよ。」掴んだ手を離す男。「長見さん。」走って抱きつく梨乃。「もう大丈夫だからね。すまないが部屋に戻ってお母さんを診てあげてくれないか。」「うん。」走り去る梨乃。「さぁ、ここで警察が来るまで大人しくするところだが、おれはお前たちの良心を信じたい。このコルト拳銃を今からお前に渡す。あの母親を撃った罪を償いたいならその拳銃を持ったまま警察に逮捕されろ。だがもし、俺を撃つなら。最悪の結末が待ってる。さぁ、お前ならどうする。」手が震えながら男はコルトを手にする。「シーフーっ。」男は深呼吸して外を見ながら拳銃を下げたた。「へ、何が良心だよ。くたばれジジイ。」撃った瞬間鉄槌で腕をへし折られ,拳銃は再び長見の手に。そして握把の底で顔面を殴り、下段裏足刀蹴り、縦拳を胸に叩き込み、そして足刀蹴りでベランダの壁に蹴りつけた。「ウグゥ、お、お前何者だぁ・・・」「ただの児童相談員だ。」警察官が駆けつけた時、下で大きな音が2回した。「何だ何だ。なが起こった。」下で転落した心配停止の男性四人が横たわっている。残りの警察官は5階に向かったのだが。「こ、これは細川さん。」「悪いな邪魔して。ここから先はうちでやるけん、あんたらは転落した奴を頼むばい。」「わかりました。」直ぐに向かう細川達。「やっぱりアンタか。アンタの助手の女の子の車があったからまさかと駆けつけたらこうだ。」田楽の部屋で腹の血を止めて処置している長見と梨乃がいた。・・・続く。
- Re: 児童捜弾員 ( No.7 )
- 日時: 2024/08/14 22:30
- 名前: 梶原明生 (ID: T3oqfZAk)
・・・「何の話です。私が駆けつけたらこんなことになってまして。」「嘘つけ旦那さんよ、下で柄の悪い男四人も死んどるばい。きさん以外誰がやるとか。靴跡調べとったら直ぐわかるたい。」「ああ、確かに。不審な男達が向こうのベランダで争ってました。私は梨乃ちゃんを保護して嗜めたら余計揉めだして。仕方なく四人をほっといて彼女の止血を優先させたんです。そうですか、あの四人転落したんですか。何とも不可解で物騒な話ですな。」「そんな言い訳が通用すると思うか。・・・だから後は俺たちが引き受けるばい。早く戻りな。」白井が驚く。「細川さん、いいんですか行かせても。」「構わん。そのかわり今回は貸しと言うことで。」「ありがたい。」そそくさと非常階段に向かう長見。「大丈夫。気をしっかり持つんだよ莉乃ちゃん。」「うん、ありがとう。」涙ながらに長見に言う莉乃。救急隊員とすれ違いで立ち去る長見。白井が耳打ちする。「いいんですか本当に。長見のあんな証言真にうける気で。」「そんなわけなか。ばってん、悪者でもないのもまた事実。長年の刑事の勘たい。それより下の連中調べるぞ。ただの強盗にしては手が込み過ぎとると。」不審に思いながら下に向かう細川。その頃搏谷の車に戻っていた長見。「搏谷君、今日ここへ寄ったこと、課長には内緒にしててもらえるかな。」「か、構いませんが、何があったんです。」「うん。不幸な飛び降り自殺。」「と、と、飛び降り・・・」「心配しなくていい。田楽さん達じゃないから。」「あ、ああーなるほど。・・てなわけないでしょえーーーっ」「耳が痛いよ搏谷君。心配はいらない。私達には関係ないんだし。早く車出して。」「は、はい。」ようやく車が回り始める。オフィスに戻ると、仕事をするふりしながら誰かにメールを打つ長見。「久しぶりだな井坂。早速で悪いが、最近博多で起こった児童行方不明事件を調べてくれ。」「おいおい、立場わかってんのか。お前のパシリじゃないんだぞ。先週も孫が産まれたばかりだ。」「わかってるとも。頼む。」「おい、俺はもう一等陸佐なんだぞ。頼み方間違えてないか。」「全くこんな時に上官風吹かせやがって。では井坂1佐殿。お願いいたします。こんな感じか。」「まぁいい。うーん、今調べたがそんな事件は一件もないぞ。第一途上国じゃあるまいし、そんな事件あったら普通大騒ぎになるだろ。」「そうなんだが。・・・ならここ最近居なくなった児童はいないか。消息不明な順から。」「そーれーならー。ああ、あったな。里親が海外赴任で一緒に国外へ出たケースならいくつか。」・・・続く。
- Re: 児童捜弾員 ( No.8 )
- 日時: 2024/08/23 13:41
- 名前: 梶原明生 (ID: 4sTlP87u)
・・・「それだ。その里親の共通点は。」「待てよ、AIの検索にかけるから。・・・そうだな。強いて言えば、全員がハッピーアースコーポレーションてとこの関係者ってとこかな。海外にも拠点を築いてる大手IT企業だよ。里親制度にも積極的に尽力してる優良企業だ。」「井坂らしくもない。お前がそんな綺麗事信じる気か。」「だな。恐らくだが、里親になるてのは表向きで、誰も探さない天涯孤独の子供を人身売買していた可能性がある。ましてや、戸籍のない子供なら初めから日本に存在しないわけだしな。」「なんて卑劣な。」「どうした長見。お前こそらしくないんじゃないか。これは警察か公安が本来暴くネタだ。我々とは畑違いだ。まさかあの作戦の後遺症か。」「ありがとう井坂、じゃあこれでメールは終わる。」スマホを裏返しに机に置く長見。「ハッピーアースね・・・」翌日休みをもらった長見は、ハッピーアース社の隣のビルにいた。貸しオフィスを貸し切って監視を始める。黒い布を被り、単眼鏡で窓の隅から覗いていた。新井が入っていく所を望遠カメラで収めていく。「IT企業に似合わない男だな。」時を待たずに中から社長が出てきて車に乗り込む。「ビンゴって言うよなCIAなら。高嶋CEO。お前だったのか黒幕は。」資料に目を通しながら高嶋を見つめる。「高嶋一尉、任務中に死亡。」と書かれている。「元教え子とは恐れいったぜ。」ビルの空きオフィスを片付けて立ち去る長見。その夜、自宅のコーポに戻る彼は、ドアを少し開けた後爪楊枝を拾う。財布から出したもう片方の爪楊枝の頭側と断面を合わせる。「なるほどね。手が早いな。」無論爪楊枝の断面が合うはずがない。と言うことは。・・・「せっかくのお客様だ。最高におもてなししなくては。」カバンを手前に構えてドアを開ける。「なるほど、まだ撃ってこないか。」心で呟きながら廊下を進むとトイレから一人が撃ってきた。しかし、セラミックプレート入りのカバンにはかなわず、長見のもう片方の手に持つシュアファイヤーライトで目をやられ、配下の男の一人はそのライトで殴られる。奥に潜んでいた残り二人もライトを目に当てられ、その一瞬の隙を突かれて拳銃を奪われてもう一人が撃ち殺される。脛蹴りを最後の一人に食らわして肘を入れる。「お、お、お前何者だ・・・」「何だ。教え子のくせに知らされてないのか。・・・人の家に土足で上がったのが運の尽きだな。」次に引き金を引いて最後の一人を撃ち殺した。しばらくすると慌てて部屋を出る長見。スマホで誰かに電話しながら歩く。「神部、ワケを話してる暇はない。俺のコーポは知ってるな。掃除頼む。サプレッサー付きの拳銃を所持してたから銃声はないが、誰かが通報したかも知れん。間に合えば掃除してくれ。」「ああ、その口調だとまた何か厄介なことっすね。」「何だ、不服か。」「そうじゃないですよ。ただ現役でない人のパシリはちょっとね。」「とにかくいいな。」「へいへいわかりやした。」電話を切ると、近くに隠し持っていた車をガレージから引き出す長見。黒の日産Xトレイルだ。「頼むぞ。」ハンドルを握りながら呟き、エンジンを吹かして発進する。・・・続く。
- Re: 児童捜弾員 ( No.9 )
- 日時: 2024/08/26 13:27
- 名前: 梶原明生 (ID: ciG5lJ4e)
「混闘」・・・・・・・搏谷は夜仕事を終えて帰宅した。「やれやれ帰ってきましたよ。さてさて、缶チューハイが私を待ってますよって。」呟きながらマンションの自室に向かう。「あれ、鍵空いてる。またお母ちゃん勝手に実家から掃除しにきたのかな。新幹線代バカにならないって。」独り言言いながら部屋に入る搏谷。「只今、もう母ちゃ・・・」母ちゃんが拳銃構えて待ってるはずないわな。言わずもがな、それは高嶋の配下である。「ギャーーーッ強盗。」奇声を上げて出て行こうとするも、外にはもう一人配下が。「お嬢ちゃん、悪いが黙って部屋に入ってくれないかな。」「ヒィー」怖気づいた搏谷はやむ無く部屋に戻ろうとしたのだが。サイレンサー付き拳銃を後ろから奪い取られて撃たれたのは配下のほうだった。「ヒィッ。」長く悲鳴あげられず引っ張り出される搏谷。「な、な、な、長見さん。こ、こ、これって何なんですか。」「説明してる暇はない。君が危ないから助けに来た。」「た、た、た、助けにって強盗から。」彼女の唇に人差し指を当てて黙らせた。油断したのか仲間の一人が玄関まで来る。まさか長見がいるとは梅雨知らず。「な、てめ・・・」ズキューンと額に弾を喰らう配下。後は闇の中、片付けられるだけ。無事部屋を出る長見。「すまないが。もうこの部屋にはしばらく帰られない。」「ど、ど、どう言うことです。警察に通報しますよ。」「通報すれば君が危ない。死にたくなければ私に従いたまえ。」「本当に本当に長見さんてな、何者なんですか。さっきも平気で強盗殺して・・ま、強盗だからいいか。じゃなくて・・・な、何故こんなことが鮮やかにできるんですか。普通の公務員ならできませんよ。」「ただの公務員さ。ただ、君達と違うのは武器を持つ側か、持たない側かの違いだけだがね。」キョトンとする搏谷。やがて走り回っていたのをやめ、某マンションに着いた。「さ、入りたまえ。ここは私のセイフハウスだ。」「えーっセイフハウスなんて、もしかして長見さん西島さんみたいな公安のスパイとか。」「え、西島って誰。」一瞬止まる間が流れた。「まぁ、とにかくそう言うことにしとこう。しばらくここで我慢してくれ。冷蔵庫の品は何でも好きなだけ使ってくれ。くれぐれも外に出ないように。いいね。」「は、はい。」恍惚な表情を避けるように長見は外に出て車に乗り込んだ。夜の博多の街を車で流す長見。ネオンがやたら眩しく感じる。そんな時ふと似つかわしくないカップルを見た。明らかにパパ活だ。本来なら無視するはずなのに。「私も歳かな。甘いな。」路肩に車を止めてサイドブレーキを上げる。彼がこの二人をただのパパ活と見なかったのは、若い女の子の方に明らかに違和感を感じたからだ。まだ男慣れしていないウブであり、嫌がっていたからだ。「どうしたサチ、こんなところで。探したぞ。」「おい、誰だあんた。」「この子の父親だ。」「嘘つけ、この子はさっきみゆと名乗ってたぞ。」「とにかく。彼女未成年だよね。君みたいな中年が彼女みたいな若い女の子とデートは不自然じゃないか。何なら今から警察に通報しようか。」スマホを出すフリを見せただけで男は「チッ」と舌打ちして立ち去った。やはり「それ」目当ての男だったのだ。女の子に振り返る長見。・・・続く。