複雑・ファジー小説

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アニマーレ
日時: 2025/02/06 22:19
名前: 長谷川まひる (ID: oQuwGcj3)

ライトノベル「アニマーレ」です。

主人公が殺人ギルドを抜け出した少女、という設定なので
暴力シーン多めです。

が!
よい子は、というか、
あくまでフィクションですので
どうか、これに感化されて暴力行為や奇行に走るとか
そういうことはやめてください。

お願いします。

長谷川

Re: アニマーレ ( No.9 )
日時: 2025/02/15 23:03
名前: 長谷川まひる (ID: 4J23F72m)

0009

猫と呼ばれたショートカットの、目を前髪で少し隠した子は、一目ヒサミさんを見ると、猫になり、フーフー唸りながら背中の毛を逆立てる。
「こっちじゃなくて、あっち。」
私をさす。
目が合う。
人に戻り。
「お前、あの時の!お前らのせいで!」
同時にとびかかろうとし、その場で膝から崩れる。
包帯のまかれた右腹を押さえる。
「ぐう、、、お前のせいで!」
顔は青白く、息が荒い。
軽くせき込む。
アイカはいたたまれなくなり、駆け寄る。
猫を抱き寄せる。
「ごめんね。」
猫はつゆ知らず、アイカの首根っこにかみつく。
「がうがう!」
それに耐える。
観衆は、あちゃーと声を上げる。
少し頭がクラリとした。

なんだ?
血が抜かれているみたいな。

それでも構わず続ける。
「ごめんね、助けられなくて。」
左腕に力が入らなくなり、ダラリと垂れ下がる。
と、急にアイカは突き飛ばされた。
猫は立ち上がると、腕と腹にまかれた包帯を乱暴に引きちぎる。
「だめ、傷が!」
アイカの制止をよそに、失われたはずの腕は生えていて、腹には傷ひとつなかった。
猫は軽くせきをする。
「治癒能力があるのかな?」
ヒサミさんは猫に向けたカメラをズームする。
猫は手のひらから銀色のナイフをつくり、アイカを地面にたたき伏せる。
肩にナイフをつきたてる。
猫の顔色は戻っていた。
「あ"!」
アイカは肩をおさえ、痛みに歯を食いしばる。
嫌な汗がふきだす。
猫は新たにもう一本、ナイフを用意する。
アイカは立ち上がる。
「待って!戦うつもりはないの!
ナイフを下ろして!何もしないから!」
猫は聞く耳を持たず、アイカに一歩近づく。
「敵じゃないの!お願い!」
猫は「猫の行使の許可。」とつぶやく。
「許可されました。」
猫はつづける。
「ブースト2」
少しせき込む。
ナイフを握り直し、一息に距離を詰める。
「氷鎖:付与 硬化5」
床を突き破り出現したのは氷の鎖。
付与により緑色に、不気味に光る。
アイカの首にまきつき、伸びた鎖は短く戻る。
アイカは頭から床に倒れる。
「痛っ!」
頭をおさえる。
猫はアイカに馬乗りになり、その顔にナイフをかざす。
「『敵じゃない』って。どの口が」
氷鎖を解く。
「そう。私はあなたの敵じゃない。」
猫は歯ぎしりをする。
「嘘つけ!」
「嘘じゃない!」
猫は目を血走らせた。
「嘘つけ!それ以上しゃべると__」
「なに?」
猫はアイカの胸倉を掴む。
「それ以上しゃべると殺すぞ!」
ナイフを軽く首にあてる。
「でも__」
「おい!」
「でも、あなたは。あのとき、殺さないでくれた。」
猫はナイフを振りかぶる。
「お前は!」
アイカを蹴り飛ばす。しかし、ひるまない。
「本当のことを教えて。あなた__」
「、、、」
「本当に、好きで殺しをしてるの?」
「何だと?」
猫は見透かされた気がした。
「付与:痛覚2倍!」
肩の痛みが強くなり、顔をゆがめる。
「疲れたような顔、してるよ。」
「痛覚3倍!」
うう!とアイカのうめき声が口の端からこぼれる。
「人を殺すのって、苦しいことでしょ?」
「そんなことない!好きでやってるんだ!痛覚4倍!」
アイカはたまらず、膝をつく。

「私は人を殺したことがないから、わからないけど、きっと苦しいんだよね。」
何だと。
「そうなんでしょ?」
なんだよ、コイツ!
「ねえ、本当のあなたの声が聞きたいの。」
、、、。
「つらいんでしょ?」
違う。
「本当は、やりたくないんじゃないの?」
うるさい。
頼むから、そんなこと言うな。
「ねえ。」
そんなこと、、、
「ねえ、本当は、、、」
本当は、、、

もう、耐えられなかった。
命乞いをされる分だけ苦しくて。
殺した分だけつらくて。
血が嫌いになった。
血を見ると吐き気がした。
本当は、ナイフなんか握りたくないんだ。
もう、人を傷つけるのは、血を見るのはもう懲り懲りなんだ。
本当は、そうなんだ。
けど、鯨は許してくれない。
許されない。
鯨は怒ると怖いんだ。
獅子と違って。
だから、怒られたくなくて。
自分を殺して、人を殺して。
鯨のお仕置きは怖いから。
自分を殺して、人を殺した。
その繰り返しで、生きている心地がしなくて。
でも、本当は僕は、、、。
だから、コイツを殺し損ねて。

「僕は別に!」
声にして気づいた。
僕は、泣いていた。

0010へ

Re: アニマーレ ( No.10 )
日時: 2025/02/16 08:10
名前: 長谷川まひる (ID: 4J23F72m)

0010

猫は泣いていた。
苦しそうに、辛そうに泣いていた。
だから、私は駆け寄り、力の入らない左腕をそのままに、子供のように泣きじゃくる猫を包むように、温めるように抱きしめた。
「苦しかったね。」
猫の背中をさする。
猫は泣き泣き、うなずく。
「つらかったね。」
猫は私にしがみついて泣いた。
あまりに泣くものだから、私も少しもらい泣きしてしまった。

しばらくそうしていると、猫は次第に泣き止んだ。
アイカは開口する。
「行く場所がないなら、うちにおいでよ。」
猫は鼻をすする。
「、、、ん。」
次は小さい女の子の姿に変身する。
どれが、本物の姿なのだろう?
ヒサミさんは飽きたのか、いつの間にかいなくなっていた。

0011へ

Re: アニマーレ ( No.11 )
日時: 2025/02/17 09:28
名前: 長谷川まひる (ID: 3mH.h3JL)

0011

2人だけの、静かな空間になった。
「あのとき」
猫は何の前置きもなく話を始めた。
「あの5秒のとき」
と付け加えられて合点する。
「うん?」
「なんで、あのとき、殺されようとしたの?」
「あれは、勝ち目なかったし。
私が殺されてなかったら、あなたが殺されていたかもしれなかったから。」
猫はしっくりきていないようで、「ふーん。」とどっちつかずの返事をする。
「あと、けがさせてごめん。」
猫はアイカの肩と首元の傷を能力で癒す。
じんわりとあたたかい。
「そういえば、名前はなんていうの?」
あの人は猫って呼んでいたけど、猫ちゃんでいいのかな?とアイカはつづける。
「僕の名前は、、」

僕は猫。名前はソマリ。
だけど、これはその昔、獅子からもらった名前だ。
僕は仕事を失敗して「アニマーレ」を追われた身。
なら、ソマリという名前とも、もうさよならしないといけないのかもしれない。
せっかくなら、ここで新しい名前を手に入れよう。

「名前は、ない。」
猫、無名ちゃんは少し考えたあと、そう答えた。
「そっか。」
無名ちゃんはアイカの治療を終え、アイカは上着を着なおした。
「名前さ、私がつけていい?」
「ん?」
「アオイってどう?」
「ん。」
アオイは少しくすぐったそうに笑った。

「はあ!?本気で言ってんの!?」
早朝、食前のミーティングでチカは頭を抱える。
「うん。私、アオイをメンバーにしたい。」
チカはあーもー!と唸る。
「なんで、こうなるかなー。」
そこにリーダーも加わる。
「アイカ、あのね。
その子、アオイちゃん?が「猫」って呼ばれていたことから察するに、
その子、アニマーレっていう殺人専門のギルドの団員なの。」
「そうだよ、アイカ!殺人鬼なんだよ、そいつ!」
「そんなこと言わないで!今まではそうだったかもしれないけど、、、」
「だから!今まで何人も殺してきたんだろ?自警団にそんなやつ、殺人鬼、入れるわけないじゃん!」
「チカ」
激昂するチカをリーダーがなだめるが、聞く耳をもたない。
「アイカ、馬鹿なの?人殺しなんだよ?」
「あんたらだって、今まで散々、殴るなり蹴るなり、切りつけるなりしただろ。」
「は?」
割って入ったのは、渦中のアオイだ。
「ちょっと、アオイ。」
今は黒猫に化けて、アイカのひざ元でくつろいでいる。
「正義だなんだって大義名分振りかざして、あんたらのやってることも僕と一緒だよ。」
「何言ってんだ、テメエ。まったく違うだろ。わたしたちは悪いことする奴らを、、、」
「僕もそうだよ。悪い奴らを殺した。頼まれて殺したんだ。」
「頭狂ってんな、倫理観バグってるよ、あんた。あんたとわたしたちを一緒にするな。」
チカはアイカを睨む。
「ねえ、アイカ。本当にこんなやつの、人殺しの肩もつの?」
「だから、もう殺しはしないって、、、」
「そんなの、わかんないじゃん。じゃあ、殺したらどうすんだよ。」
「絶対しない!」
「だから!」
「チカ!!」
リーダーの怒鳴り声が響いて、静寂につつまれる。
「アイカも!一度、落ち着いて。」
「落ち着いていられるか。」
チカは悪態をついて、ミーティングルームから出て行ってしまう。
「ご、ごめんなさい。リーダー。」
「ううん、みんな、真剣なのは解るから。
まあ、反省してるならよし。許しましょう。」
それに、とリーダーはつづける。
「メンバーに入れたいなら、アハト代表のハンさんにお伺いをたてないと。」

0012

Re: アニマーレ ( No.12 )
日時: 2025/02/18 19:25
名前: 長谷川まひる (ID: 4J23F72m)

0012

「やっほー、ミスグ!」
「うわあ!」
新メンバー加入のお伺いを立てた数日後、国家公認自警団アハトの代表であるハン・ククルが第8支局を訪れた。代表秘書を務めるクロコタも同伴である。
ハンからの突然のハグにたじろぐミスグ。
「会いたかったよー!」
「ハンさん、お変わりないようで、、、」
戸惑いながらも挨拶を忘れないのがリーダーである。
「あ!アイカ!久しぶり!」
続いてアイカに飛びつくハン。これでも23歳である。
アイカの腕に抱えられていたアオイはサンドイッチされる前に逃げおおせる。
「チカ!調子はどう?」
「ええっと、まずまず、です。」
「まだ馴染めないの?また、くすぐってあげようか?」
チカはくすぐりに弱い。
「結構です。」
「つめたーい!」
突然、わざとらしい咳払いが聞こえる。
「代表、要件を。」
クロコタがぴしゃりと言い渡し、その場を収める。
「ぶー、けち。」

「アニマーレの猫?」
この子が?とハンは興味深そうに黒猫の姿をしたアオイを見つめる。
「入隊させたいの、うちに?」
アイカは真剣な顔でうなずく。
ハンは一瞬、考えるようなしぐさをしてから開口した。
「いいんじゃない?」
「へ?」
「「待ってください!」」
肩透かしを食らったアイカの素っ頓狂な声と、クロコタ、チカ両名の待ったが重なる。
「殺人鬼ですよ、ハンさん!」
「彼女はアニマーレの団員です。関係のない自警団員や一般市民が巻き込まれる可能性も、、」
ハンはテーブルにつき、リーダーが運んできた紅茶を一口、含む。
「だって、可愛いし。」
「かわ、、、。いや、そうではなくて!」
「いいじゃん。いい機会じゃない?今まで散々アニマーレ解体を掲げてきたわけでしょ?」
紅茶に3つの角砂糖が投入される。
「彼女を餌にすれば、団員を誘導できる。うまくいけば、敵のリーダーも引きずり出せるかも。」
「しかし、、、」
「戦力になるんだよね?」
ハンはアオイの目を見る。裏切りや潜入の可能性を探っているように。
アオイはアイカ以外には興味がないのか、懐疑の目を向けられても意に介さない。
「猫、というと実戦経験豊富な、百戦錬磨の実力派。アニマーレの中でも指折りの存在と聞く。」
これを手放すわけにはいかないでしょ。と激甘紅茶を飲む。
チカは歯ぎしりする。
「それでも、私はこの猫が気に入らない。」
「私も同意見です。」
クロコタも同調の意を示す。
「失礼ながら代表、彼女はアハトにふさわしくない人材かと。」
ハンは長い溜息をつく。
「頑固だなー、二人とも。
まあ、いいけど。その意見を汲むほど、私の懐は深いからね。」
そうしたらね、とハンは続ける。
チカとクロコタだけでなく、アイカとリーダーも続く言葉に耳を傾ける。
「チカとクロコタが、手を組んで猫と戦う。」
「「え?」」
「合理的でしょ?自分たちが猫よりも優秀だと示せばいい。」
「わかりました。」と二人が言うより早く、ハンはそうそう、と言ってさらに言葉を続ける。
「負けたら解雇ね。」
二人は唾をのんだ。

0013へ

Re: アニマーレ ( No.13 )
日時: 2025/02/19 21:52
名前: 長谷川まひる (ID: vevJKpiH)

0013

また私は、あの飾り気のない部屋に立っていた。
目の前にはアイカとけんかをしていた人と、突然現れた知らない人がいた。
知らない人はいきなり走ってきて、力いっぱい私の腹を殴った。
痛い。
なんで殴るの?
「シールド:立方」
キューブ状のシールドの中に私は閉じこもる。
膝を抱えて、腹をさする。
なんで、みんなして私をいじめるの?
人を殺したから?

ああ、シールドが破られる。
今日は猫は使いたくないんだ。
朝から体のなかがズキズキするんだよ。
「コホ、コホ」
殴られる、蹴られる。
痛い、痛い。
やめてよ、静かに眠らせて。
獅子、私はやり直せなかった。

頭を抱えて小さくうずくまる。

「やめて!」
叫んだのはアイカだった。
「やめてよ、こんなの違う。」
アイカは傷だらけでぐったりしたアオイを抱き上げる。
「何が違うの?」
ハンはあくびをする。
「戦わないの、その子?
それなら、要らないんだけど。」
「2対1は卑怯だよ。ひとりにして。」
「うーん、一理ある。じゃあ、クロコタで。」
「は!?」
声をあげるチカ。
「私が!その殺人鬼を懲らしめるんです!ハンさん!」
「殺人鬼って言わないで!」
アイカは怒鳴る。
「お静かに。」
クロコタが制する。

「アオイ」
ハンはアイカに抱かれた猫に語りかける。
「どうしたい?」

「どうしたい?」
そう語りかけ、なでるその人はまるで。
まるで、、
「獅子」
あの日を思い出させた。
「つれてって。」

「つれてって。」
「どこへ?」
「アイカとなら、どこへでも。」
「なら、クロコタと戦ってもらおうか。」
ハンはクロコタを指さす。
「精いっぱい戦ってみろ。」

「なぜ、私とではないんですか。」
チカはハンをにらむ。
「なぜだと思う?」
「わかりません。でも、私はアオイと戦いたい。」
「なぜ?」
「懲らしめるんです。殺人鬼を。悪を断罪しないと。」
「誰のために?」
「え、それは秩序のためです。」
「自分のためではなくて?」
チカは一瞬、言葉に詰まる。
「でも、悪人を野放しには、、」
「動機を間違えてはいけないよ。」

自分のために何かをすることは悪いことじゃない。
日々のトレーニングも。
でも、自警団というのは、人を傷つける仕事じゃない。
悪者ならいじめていいわけではない。
悪者を懲らしめること、ムショにいれることは本質じゃない。
目的を見失っている人も、うちには必要ない。

猫とクロコタの戦いははじまっていた。
「お前はどうしたい?自警団として何を成したい?」
「私は、人を守ります。」
ハンは満足気に笑った。

0014へ


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