複雑・ファジー小説
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- アニマーレ
- 日時: 2025/02/06 22:19
- 名前: 長谷川まひる (ID: oQuwGcj3)
ライトノベル「アニマーレ」です。
主人公が殺人ギルドを抜け出した少女、という設定なので
暴力シーン多めです。
が!
よい子は、というか、
あくまでフィクションですので
どうか、これに感化されて暴力行為や奇行に走るとか
そういうことはやめてください。
お願いします。
長谷川
- Re: アニマーレ ( No.4 )
- 日時: 2025/02/09 22:48
- 名前: 長谷川まひる (ID: VmDcmza3)
0004
私を拘束する3人が警戒の色を見せる。
「それ以上、近づかないで。
さもなくば、この人か、あなたが傷つきますよ。」
軽く髪をまとめた女性が鯨へ向けて警告する。
「黙りなさい。そして、拘束を解け。
私は今、そこの捨て猫と話している。」
女性はゆっくりと私から手を放す。
「そう、それでいい。
さて、猫。罰を受けなさい。
抵抗も逃走も許さない。
舌を噛みたくないなら、歯を食いしばれ。」
猫は悔しさに杭地場る。
すぐに、横薙ぎのこぶしが、直立していた猫の左頬めがけて飛ぶ。
頬の骨を軋ませ、口の中を切り、猫は右のぼろ家へと突っ込む。
仰向けに倒れた猫に木の屑が降る。
鯨は猫へ向かって歩く。
「誰が寝ていいといった。
早く起きて、出て来い。」
その様子に自警団は茫然とする。
「、、ちょっと、何をしているんですか。」
立ち上がれない猫の腕を乱暴につかみ、そのまま通りへと投げる。
「猫をしつけているんです。
そして、部外者は黙っていてください。」
「そんなの、黙っていられるわけ、、」
「しつけられたいですか?」
瞬間、思い出した。
傷ついた少女が彼を「鯨」と呼んでいたことを。
その殺気は、巨大生物を前に立ちすくんだ時のそれと一緒だった。
体は動かなかった。
自警団には目もくれず、鯨は続けて、猫の腹に蹴りを入れる。
かろうじて立っていた猫が崩れる。
「ら、乱暴は、しつけではないです。」
自警団はそこではじめて、自警団に目を向けた。
「これ以上、その人を傷つけないで。」
「なら、お前ならどうする?」
鯨は猫を踏みつけながら問う。
「私ならチャンスを与える。」
鯨は首をかしげ、猫を手前へ蹴る。
猫が大きくむせる。
「ふむ。ところで、私はね、器が大きいのだよ。
だから、お前たちのような、頭の貧乏な生き物の意見を少しは聞いてあげようと考えているんだ。」
鯨は舐めるように猫を見る。
「そうだな。猫、聞いていたな。チャンスを与えよう。」
猫はふらつきながら、立ち上がる。
「5秒あげよう。
あのうちの一人でも殺せたら、無罪としてやる。」
猫は腰に付けたナイフを抜き、自警団へ向き直る。
「スタートだ。」
猫は姿勢を低くし、地面をける。
「猫の行使の許可。」
つぶやきながら、うちの一人に切りかかる。
「許可されました。」
猫は血を吐きながら続ける。
「ブースト3。」
ギアをあげながら、猫はほぼ動けずにいたその人の顔に左手のナイフをかすめる。
ほかの二人はそれに駆け寄る。
バランスを崩したその腕を右手で下へ押し込み、猫は馬乗りになる。
抵抗を見せる女性。
「、、あ。」
何かに気づいたように、その人は笑い「さあ、」といって、静かにその首を差し出した。
二人とも攻撃を止める。
「あと2秒だ。」
猫は両手でナイフを握りなおす。
「殺して。」
「1.」
全身の力を抜き、目を閉じた。
猫は
「終わりだ。」
殺せなかった。
0005へ
- Re: アニマーレ ( No.5 )
- 日時: 2025/02/10 20:05
- 名前: 長谷川まひる (ID: 4cNSRyfC)
0005
「猫の解除。」
静かに立ち上がると、鯨のほうへ向かう。
「さて、私は確かにチャンスを与えたぞ。」
鯨は腰の長い長い刀を抜く。
「右腕、左腕、右足、左足。
いらないのはどれだ。」
「左腕。」
鯨は無表情で刀を振り下ろす。
左腕は切り落とされ、猫は倒れる。
「プレゼントだ。」
鯨は倒れた猫の腹にナイフを刺す。
猫は痛がることなく、それを受け入れた。
気絶していた。
私たちはその恐怖に屈した。
その巨漢に屈し、目の前で人が害されるのを良しとしてしまった。
恐怖が蝙蝠と帰ってからも、私たちは立ち尽くしていた。
しばらく風景を見ていた。
夜道で左腕を切り落とされ、刺された若い女性が大量に血を流している風景。
それでもリーダーはリーダーだった。
3人のうちでいち早く我に返ると、支局と連絡を取る。
けが人がいる。手当の用意を。
続いて、2人の背をたたき、急いで。と耳打ちする。
リーダーであるミスグは自分の得物であるジュラルミンの巨砲を側へ置く。
バックパックからロープを取り出すと、左腕の付け根を縛り止血を図る。
チカは出動車の手配をする。
アイカは、何もできなかった。
私は何もできなかった。
ただ、リーダーとチカが彼女の応急処置をしているのを眺めていた。
巨大な恐怖の前で臆することなく意見していた私は、どこかへいってしまった。
私の提案では、あの子を救えなかった。
彼女は私を殺さなかった。
殺せなかったのだろうか。
あのとき、あの状況で、私だけには見えた。
けがではなく、そのほかの何かに苦しんでいるような、怯えるような表情。
私の首にナイフを立てた彼女の顔は、苦しみに歪んでいた。
0006へ
- Re: アニマーレ ( No.6 )
- 日時: 2025/02/11 22:22
- 名前: 長谷川まひる (ID: JJb5fFUo)
0006
支局に戻り、手当はヒサミさんに任せた。
リーダー、アイカ、チカはミーティングを終わらせた。
アイカは風呂へ向かう。
廊下ですれ違ったのはリーダーだった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ。
ドタバタだったけど、けがはなかった?」
「はい、大丈夫です。
ところで、さっきの子は?」
猫、捨て猫。
恐怖はそう呼んでいた。
「ヒサミさんが手当してくれてる。
心配なら、医務す津に寄ってみるといいよ。」
リーダーは「お風呂、一緒に行くよ。」といった。
「チカは?」
「まだ、トレーニング中。」
脱衣所へ入る。
アイカはまとめてあった髪をほどく。
「チカも努力家だよね、毎日トレーニングなんかして。」
「私たちは問題児ですから。」
リーダーは難しそうな顔をする。
この支局にいるのは問題児ばかりだ。
国家公認自警団「アハト」。
全8部隊からなる地区専属自警団。
中でもこの班は問題だ。
8班リーダーのミスグは父親が殺人犯。
アイカは無能力者で、潜在殺人犯だ。
チカは常人の半分程度しか運動能力を持たず、長時間の先頭に耐えられない体である。
「ま、でも。
曲がりなりにも自警団できてるし。
問題児っていうほどでもないんじゃない?」
リーダーは笑った。
0007へ
- Re: アニマーレ ( No.7 )
- 日時: 2025/02/13 09:52
- 名前: 長谷川まひる (ID: .tpzY.mD)
0007
リーダーは体を洗うとすぐに風呂を出た。
「まだ報告書書けてないんだよね。」
困ったような笑顔を見せて出て行った。
一人、脱衣所で体を拭いていると、チカが入ってきた。。
汗をたっぷり吸った服が肌に張り付いていた。
「お疲れ、チカ。」
「うん。」
そっけないチカ。
やっぱり苦手だな、と思う。
テンションの差が大きいほど話しにくい。
それにしても今日は一段とテンションが低い。
「何かあった?」
「、、あいつ。」
チカは少し俯く。
「うん?」
「あいつに何もし返せなかった。」
アイカは、はっとした。
悔しいのは、むなしいのは自分だけではないと知った。
リーダーは気丈にふるまっていたけど、隠しているだけだ。
目の前であんなことをされて。
「そっか、そうだね。」
ヒサミさんのもとへ向かう。
「今日はどうかした?」
「さっき、治療を頼んだ人に会いに来た。」
「ああ、あの子ね。隣の部屋で寝てるよ。」
「大丈夫なんですか?」
心配そうな顔をするアイカの頭をなでる。
「うん。怪我はひどかったけど、止血もできたし。
命に関わるほどじゃない。
すぐに止血してくれたリーダーに感謝ね。」
「様子、見てもいい?」
「あー、、。
今ならね。
起こしちゃダメよ。暴れるから。」
治療、大変だったんだから。とつづける。
アイカはそっと仮眠室の扉を開く。
足元が診療室の明かりに照らされるが、顔は見えない。
静かに眠っている。
運ばれてきて、腕に止血剤塗ってたら、飛び起きちゃって。
自分の怪我の程度もわからずに、医療班にとびかかってきて。
言いながら、ヒサミさんは爆笑していた。
何が面白いのか、、。
部屋に入ろうとすると、腕をつかまれた。
「入らないで。」
ヒサミさんの目は真剣だった。
それから扉をそっと閉め、「もう夕飯の時間でしょ。」と退室を促す。
時計は8時を回っていた。
リビングへ向かうと、風呂上りのチカが食事の支度をしていた。
リーダーは「報告書終わったー!」と喜んでいた。
「リーダー、お疲れ様です。
手伝い、お願いしてもいいですか?」
「あいよー。お。今日はシチュー?」
いい匂い。
「アイカ、どこで油、売ってたの?」
チカに睨まれる。
「す、すんません。」
「はいはい、ピリピリしないの。」
リーダーの仲裁により、場が収められる。
食事を終えて小一時間。
リーダーは「お先ー。」と声をかけ、自室に向かい、チカもそれの後を追った。
一人残ったアイカは再び、ヒサミさんのもとへ向かう。
「どうした、どうした。今日は回数が多いなあ。
はい、甘いの、あげよう。」
アイカが口を開けると、飴が放り込まれる。
「これは、はちみつレモン!」
「すっぱいと甘いって最強だよね。
これ考えた人は秀才に違いない。」
ヒサミさんも1つ、自分の口に運ぶ。
ヒサミさんの引き出しからは、いろいろな飴がでてくる。
「で、次は何の御用?」
「みんな自室に戻っちゃったので、逃げ込んできました。」
「で、独りぼっち、と。」
「ぼっち、っていうなー!」
アイカはヒサミさんに猫パンチを見舞う。
「まあまあ、プライベートルームには干渉しないって約束だし。」
よーし、よーし。
頭をなでてもらい、つづいてトランプでスピードをした。
「ヒサミさん、なんでみんなと一緒にごはん、食べないの?」
「私は派遣だからねー。正式にこの班に配属されてるわけじゃないから。」
えー、それ寂しいよ。
それに、とヒサミさんはつづける。
「一緒にいると、チカちゃんのストレスになるから。」
チカの大人嫌いはなかなか克服されない。
「私もあんまり人といるの得意じゃないし。」
ヒサミさんはようやくトランプの8をならべる。
今は七並べをしている。
「私が来るのって、迷惑になったりしてる?」
アイカは不安になる。手札のジョーカーが笑っている。
「それは少し違うかな、アイカちゃん可愛いし。」
「そ、そんな!かわいいなんて!」
待ちかねた8の隣にダイヤの9を置く。
「そこ、ダイヤじゃなくてハートだよ。」
あ、間違えた、そして、出せない、、。
と、ジョーカーに気づいて、ジョーカー、10の順番で並べておく。
「アイカちゃんが来てくれるのはうれしいよ。
息抜きになるし。」
そういいながら、すかさずジョーカーをとり、ハートの9にかえる。
「あー、ジョーカーが、、。」
「ざんねーん。」
こういうのは大切にとっておくものだよ。とヒラヒラさせる。
「じゃあ、これからは毎日きます!」
「そんなこと言わなくても、毎日来てくれてるよ、アイカちゃんは。」
ヒサミさんは引き出しを探る。
、、、あれ?毎日、来てたっけ?
昨日は黄金糖、一昨日はパイン飴、先一昨日はお土産のサルミアッキ。
サルミアッキって、好き嫌い分かれるよね。
、、、確かに、毎日来てるかも。
カランコロンという高い金属音に顔を上げると、、
「あー、それは!
昔懐かし、缶入りドロップ!」
アイカが口を開けると、飴玉がひとつ、口の中にはいる。
「むぐ!」
アイカは目を見開く。
「辛い!」
ハッカだった。
のたうち回っていると、ヒサミさんはにっこり笑う。
「ハッカが辛いなんて、おぬしも小童よのう。」
「今をときめくティーンエイジャーなんだから、丁重に扱ってよね!」
「七並べ、勝ったほうが相手にひとつ、いうこと聞かす。
私が買ったら、もうひとつハッカあげるー。」
アイカは口を押えて、飴をかみ砕く。
「私が勝ったら、、」
「おー、乗り気だねー。」
「私が勝ったら、あの子をこの班の仲間にする!」
「、、、。」
ヒサミさんは急に真剣な顔をする。
「それは私が勝たなきゃだね。」
0008へ
- Re: アニマーレ ( No.8 )
- 日時: 2025/02/14 09:06
- 名前: 長谷川まひる (ID: aOtFj/Nx)
0008
結局、負けてしまった。
今はハッカを食べて暴れているところだ。
「辛っ!
もー、ジョーカー残しといたのに!
手札に残ってたら意味ないよ!」
アイカはベッドの上でゴロゴロ転がる。
ヒサミさんは回転する椅子をアイカに向ける。
「それと、さっきの話だけど。」
「さっきの話?」
「うん。
彼女を仲間にする、っていう案。」
隣の部屋を一瞥する。
「私は諦めてないよ。」
「諦めな。」
静かな夜の部屋に、その声が響く。
冷たい空気が流れる。
「というか、やめておきな。
彼女は使い物にならない。」
「使い物って、、。
あの子は同じ人間だよ、物だなんて。」
「どうだか。
同じだなんて、少なくとも私と彼女は思ってないよ。」
ヒサミさんはスラリと長い脚を組む。
「起き抜けに言ってたよ。
人間の分際で、とかなんとか。」
あきれたように続ける。
「それに、命に関わらないといっても、動けるとは言ってない。
片腕ないし、腹の中はぐちゃぐちゃ。
それに、相当身体を改造してる。」
「そんな、、、」
「気になるなら聞いてみれば、本人に。」
「暴れられたら、ひとたまりもないから地下のジム室で起こすよ。」
コンクリートでつくられた飾り気のない四角い空間。
そこに2人と1匹はいた。
「さて、ハンデありの猫ちゃんと、武器なしのアイカちゃん。
どっちが強いのかな?」
「死ぬかもしれないですか?」
「どっちが?」
「どっちも。」
「そうだね。
普通に考えたら、0:10でぼろ負けだよね。」
「そんなに強いんですか?」
「話を聞く限りだけど、5秒で殺されなかったのが不思議なくらい。」
ヒサミさんは嬉々としてビデオカメラを回す。
「これが、アイカちゃんの最期になるかもしれないからねー。
雄姿はバッチリおさめておくよ。」
「証明します。私があの子を仲間にしたいってこと。」
ヒサミさんは猫をはたき起こす。
「おーら、朝だぞ。」
猫は飛び起きる。
0009へ