二次創作小説(新・総合)

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【ポケモン】Pokémon and 7 trainers
日時: 2020/11/25 22:46
名前: さぼてん (ID: ysp9jEBJ)

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─────────────────────
一つの死をきっかけに、七人の運命は交錯する
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─▼目次▼────────────────
序章………………………………………
第一章:ある獣の残骸…………………>>0037
第二章:闇に契る学徒…………………
第三章:水没都市の戦い………………
第四章:英傑・豪傑・女傑……………
第五章:伝統校防衛戦…………………
第六章:龍の極み………………………
第七章:原初と終焉の光………………
─────────────────────

─▼補足▼────────────────
注意事項…………………………………>>0038
用語解説…………………………………>>0030
登場人物一覧……………………………>>0014
─────────────────────

─▼挨拶▼────────────────
はじめまして、さぼてんと申します。
ポケモンの二次創作を悠々と書いていきます。
皆さまの暇つぶしになれば幸いです。
─────────────────────
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Re: Pokémon and the 7 Trainers ( No.32 )
日時: 2020/08/11 21:50
名前: さぼてん ◆FRQHwFT6AY (ID: KsKZINaZ)

▼謎の女剣士さん

どうもこんばんは~。

確かに今のところ原作にないモノばかりですね^^;

女剣士さんの
ゴーストの四天王がルイージっていうのが良いですね!
あ、なるほどって思いました。
最後の一人は誰なんでしょう……^^;
想像してみます。

なかなか行けず、申し訳ないです。
近いうちに必ず顔を出しますので、
気長にお待ちいただけると嬉しいです^^

 第二話「強者」 ( No.33 )
日時: 2020/09/22 19:18
名前: さぼてん ◆FRQHwFT6AY (ID: KsKZINaZ)

 
 *

 朝起きると脇目も振らず外へと飛び出した。
庭にある畑を越えて、裏門の柵をくぐり抜け、木が生い茂った林の中へと入る。
まるで自分が息を切らしていることに気付いていないかのように、全力で走る。

 すると木漏れ日が集中した、一つの大きな岩が見えたのでそこで止まる。
俺はその岩の前で手を合わせ、目を瞑って言葉を呟いた。

 しばらく祈っていると突然、瞼越しにでもわかるほどのまばゆい点滅が横切る。
目を開けてみると、直径一メートルくらいの光の塊がふわふわと岩の上に浮かんでいた。

 俺はそれを確認するとにっこり笑って、また林の中を駆ける。
それに合わせるかのように、光の塊も俺の後ろをぴったりとついてくる。
ときどき後ろを振り返りながら走っていると突然、近くの草むらが揺れる音がした。

 それに気付いた俺は、ズボンのポケットの中にあるモンスターボールに手を置く。
揺れた草むらの方を見つめていると、ひょっこり茶色い小型のポケモンが顔を出した。
それを確認するや否や、イーブイを出して攻撃を仕掛ける。

 いくつかの攻防が続いた後、対象が弱ってきたのでモンスターボールを投げる。
ボールは何回か揺れると、音を上げて静止した。

 光の塊は、まるで祝福するかのように俺の頭上を回り出す。
俺はそれを目で追いながら、腹の底から声を出して叫んだ。

「やった、初ゲットだ!」





 その直後、何かに気付いたかのように勢いよく上半身を起こした。そして周りを見渡す。
机、椅子、ソファ、ベッド──そこで眠っているエイジとリングマ。
ここが寮であることは間違いなかった。

「さっきのは夢、か………………」

 夢はそこで終わっていた。
外はまだ真っ暗だ。日も昇りはじめていない。
少し頭がボケーッとするが、昨日の頭痛はひいたみたいだ。

 立ち上がって、机の前まで歩く。
昨日見た俺の昔の写真。塔の前の少年の写真。
それを確認したとき、俺はなぜだか確信したモノがあった。

「…………そうか。あれは夢じゃないんだ」

 林を駆けていって、あるポケモンを捕まえた少年時代。
さっき見た夢は、昔の俺の記憶だった。不思議なことにそうとしか考えられない。
これは俺の記憶の断片なんだ。昨日感じた違和感の正体だ。
眠っている間に俺の脳はその違和感を解きほぐし、夢として見せてくれたのだろう。
 そしてその捕まえたポケモンこそが今、そこで寝息を立てて寝ている────

「リングマ、お前と出逢った記憶……」

 夢の中で草むらから出てきたのはヒメグマだった。
ヒメグマはリングマの進化前のポケモンで、尚且つ俺が初めて自分の手で捕まえたポケモンだ。
途端にリングマとの懐かしい記憶が溢れてくる。
 そういやお前とは何度も何度も勝負をしたな。夢で見たのは“敵”としての最後の戦い。
何十回と挑んだ挙句、やっとのことで俺を認めてくれて仲間になったんだ。
それを思い出した俺は、体の奥底から湧き上がる謎の力を感じた。





 今なら“やれる”かもしれない──





 確証はないがそう思った。
昨日とは間違いなく何かが違う。俺の本能というか、何というか……。
上手く言葉にはできないが、身体が火照って汗が噴き出してくる。

 とにかく昨日の分も取り返すために、今このときから勉強や練習を始めないと駄目だ。
エイジはまだ寝かしておいてやろう。
着替えて少しの間勉強を進めていたら、布団がもぞもぞと動くのが見えた。

「………………あ、あれ。……もう起きているんですか」

 エイジはそう言いながら欠伸をして、ベッドサイドにある眼鏡を手で探った。

「あ、すまない。起こしたか? ……俺は目が覚めちゃってな。お前はまだ寝ててくれ、一人で勉強するから」

 その言葉を聞いたエイジは、重力に負けそうな瞼を必死に持ちこたえさせ、覚束ない足取りでベッドから抜け出した。

「水臭いこと言わないでください。協力すると言った身ですし、今から一緒に勉強しましょう」

「エイジ、ほんとにいいのか? もう少し寝てても大丈夫だぞ」

「何言ってるんですか、今日は大事な日なんですから。……ボクは大丈夫です、気にしないでください」

 申し訳ないとは思ったが、そこまでしてくれるのは本当にありがたい。エイジの厚意に甘えよう。
彼はルームウェアから制服に着替えると、いつも持ってる大きめの電子端末を鞄に入れ、扉の方に近付いた。

「じゃあ、行きましょうか」

「え? どこに行くんだ」

「昨日、イツキさんが比喩に使った“知識の宝庫”です。そこで勉強しましょう」

 そう言われたのでリングマをボールに戻し、エイジについていく。
寮を抜け、スクールの回廊を通り、ある一室の扉の中に入る。
その先は地下へ続く階段があり、石造りの壁に手を当てながらある程度進んでいくと、ひらけた場所に出た。

「……なるほど、ここか」

 そこはありとあらゆる書物が置いてありそうな広い図書室だった。
ここは地下三階くらいだろうか。壁一面に本が埋まっており、それらは天井付近まで覆っている。
その天井の真ん中には、巨大な球状の砂時計とシャンデリアが垂れ下がっており、天窓からはまだ薄暗い外の景色も見えた。

「そうです、図書室です。トヤノカミ中央の図書室はいつでも開いてますから、勉強するにはぴったりの場所ですよ。……ボクはここで何度か寝落ちしたことがありますけどね」

 エイジは慣れた手つきで目につけた本を取ったあと、近くの席に着いてさっそく今日の対策について話し始めた。

「覚えていることもあるかもしれませんが、一応。……まず、ポケモンには十八種類のタイプがあります。これは属性のようなもので、ポケモン自身は多くて二つまでタイプを持っています。……また、ポケモンが使う技自体にもタイプを含んでいて、これらタイプはそれぞれ有利、不利の相性があるので、それを把握していないと勝負で勝つのは厳しいです」

 手元の本にはタイプの相性の関係表が載っている。
草タイプは水タイプに強く、炎タイプに弱い。
炎タイプは草タイプに強く、水タイプに弱い。
水タイプは炎タイプに強く、草タイプに弱い。

 このような関係が十八タイプそれぞれにある。
中には多数に効果が抜群なタイプがあったり、多数に耐性を持つタイプ。
自身と同タイプが弱点だったり、ある攻撃を無効にしてしまうタイプもある。
また、二つのタイプを持っているポケモンはこれらの相性が相殺されたり、ひどく弱点が生まれたりする。
タイプの相性は確実に頭に入れておかないと駄目だ。

「そして今日の対戦相手、リンさんですが。彼女はゴーストタイプの使い手です。彼女は何匹かポケモンを持っていますが、短時間での修行となると、相手の出すポケモンを見極める必要があります。……中でも一番のエース“ゲンガー”を繰り出してくると予想して、勝負の準備を進めることにしましょう」

「ゲンガーか……。なるほどな」

 ゲンガーは紫色のポケモンで、鋭い目つきと妖しい口元が特徴のポケモンだったな。
俺が脳内でイメージを膨らませていると、エイジが不思議そうに尋ねてきた。

「…………やっぱりイツキさんって、ポケモンの認識については、記憶喪失前と変わらないのですね。なんだかその部分だけ覚えているのも不思議だな、と思って」

 言われてみれば確かにそうだな。なぜそこだけ覚えているんだろう。
病院で目を覚ましたときも、遠くに見えたポケモンが小鳥ポケモンのポッポだ、って自然と理解できた。
自分の所持するポケモンこそ覚えていなかったが、確認さえすれば、そのポケモンが何なのかすぐにわかった。
ポケモンという生き物のことは忘れていない。
記憶喪失前に知っているポケモンのことは全部覚えている。
 それを指摘されるまで、何も疑問には思わなかった。

「何でだろうな……。俺自身も不思議だよ」

「そうですよね、何か記憶と関係があるんでしょうか。…………えっと、では話を元に戻しますね。イツキさんは何のポケモンでいきましょうか。ゲンガーはゴーストタイプと毒タイプを持ち合わせているので、草タイプのゴーゴートだと毒タイプの攻撃に不利です。リングマは休戦するとして、残るイーブイかピジョン、どちらで戦いますか?」

 俺の手持ちのゴーゴート以外の三匹は、ノーマルタイプを含んでいる。
そしてノーマルタイプとゴーストタイプは、互いのタイプ技が一切効かない対極の関係にある。
こちらの主力技は使えないが、相手の主力技も通らない。
よってゴーゴート以外でいくのはもちろんのことだが、エイジの質問は無意味だった。
今日使うポケモンはすでに決めていたからだ。

「どっちも使わない」

「え? まさか」

 一つのモンスターボールを見つめる。エイジもその中身に勘付いているようだ。
俺は少しだけ間を置いてから、口を開けた。

「そう。…………こいつ、リングマでいく」

「いや、でも。…………リングマはまだ昨日の実践バトルの傷が残っています。今は休ませるべきじゃないですか?」

 当然の疑問だろう。リングマの体はボロボロだ。
そして、負けたというショックで体の傷だけじゃなく心の傷も負っているかもしれない。俺と同じように。
でも、だからこそ。こいつでいかなくちゃいけない。

「今日、変な夢を見たんだ。いや、夢というよりかは過去の記憶といった方がいいか。俺がヒメグマと出逢った記憶、こいつと戦った記憶。……その影響で何となくだがリングマの性格や性質を思い出したんだ。今なら俺の力、そしてリングマの力を引き出せるような気がする。もちろん時間の許す限り、その自信が確かになるまで練習する。こいつの悔しさも晴らしてやりたい。…………だから、リングマを選ぶ」

「成程、記憶の欠片を取り戻したかもしれないということですね。…………わかりました。それならリングマでいきましょう」

 少し希望に満ちた表情のエイジに向かって頷いた。
ポケモンさえ決まればあとはどんな戦法を取るか、そしてその上でどんな技を選ぶかだ。
しかし万が一、他のゴーストタイプが出てきたときのことも考えないといけない。
でもいずれにせよ、ゴーストタイプの弱点は同じくゴーストタイプと悪タイプの二種類だ。
丁度リングマはゴーストタイプの攻撃技“シャドークロー”を覚えている。
これを最大限に活かす作戦でいくことにした。



 *



 それが決まったあと、ポケモンの“能力”や“特性”等について簡単に学んだ。
エイジは教えるのが上手だ。難しいことでも簡単に噛み砕いて説明してくれる。
そのうえ俺が以前には知っていたことなので、割と簡単に頭に入れることが出来たというのもあるだろう。
そんなこんなで勉強していると、朝の知らせを告げる鐘が鳴った。
休みの日だが、図書室にだんだんと人が増えてくる。
 校内の売店で買ってきた朝食を片手に、俺はエイジにある疑問をぶつけた。

「あのさ、エイジ。……どうしても聞きたいことがあるんだ」

「……ええ、何でしょう?」

 突然の出来事に戸惑いながらもエイジは開いていた本に栞を挟んで、俺の発言を待つ。

「いや、そんなたいしたことじゃないんだ。……気が早いのはわかっているが、もしも俺が代表に残れたとして、決闘試合一年の部で一番脅威となるクラスはどこだと思う?」

 何を聞かれるのだろうと身構えていた体を緩ませ、エイジは眼鏡を直した。

「…………難しい質問ですが、おそらくクラスAかクラスFだと思います。二クラスとも入学当初からポケモンバトルに秀でていると噂立っていましたし、他の生徒達もどちらかが優勝するのではないかと予想を立てていますね。当初はクラスBもその中に入っていたのですが、今はもうその声は上がっていないですね……。もちろん、その他のクラスも十分強いので結果はどうなるか分かりませんが」

「……そうか」

 やはりクラスAやクラスFは強いみたいだ。
まだ代表にいられるかもわからない俺がこんな疑問を持ったところで無意味ではあるが、なんとしても確認しておきたかった。
そして、あのポケモンのことも。

「なぁ。……あのクラスAのムツミってやつが出したポケモンを知ってるか? 俺は初めて見たんだ、あんなポケモン」

 俺は一定のポケモンは知っている。
記憶喪失前の俺がある程度強いやつだったことも踏まえて、それなりのポケモンは認識しているつもりだ。
それでもあのポケモンは見たことがなかった。
エイジはそんな俺の表情をうかがいながら鼻を掻いた。

「……あのポケモンは“タイプ:ヌル”です」

 図書室の静寂な空気の中でも、俺はその名前をはっきりとは聞き取れなかった。

 #4
 

Re: Pokémon and 7 trainers【ポケモン】 ( No.34 )
日時: 2020/08/22 21:45
名前: 謎の女剣士 (ID: .6mQrr9F)

どもです〜。

レッツゴーピカチュウ イーブイにもゴーストタイプはいましたねぇ。
私、思い切ってばちばちアクセルに頼り切りでした!
まだまだ勉強不足だなぁ、私。

ちなみに電気系は、飛行に強いそうです。
飛行は、虫タイプに有効らしいですからね。
しかし、エスパーは何が有効なんでしょう。
それでは。

Re: Pokémon and 7 trainers【ポケモン】 ( No.35 )
日時: 2020/08/23 21:28
名前: さぼてん ◆FRQHwFT6AY (ID: KsKZINaZ)

▼謎の女剣士さん

こんばんは~。

私じつは、「Let's Go! ~」の
ゲームはプレイしたことがないんです^^:
なので“ばちばちアクセル”って何だろう?
って思ったのですが、そのシリーズの専用技なんですね。

エスパータイプは、虫・ゴースト・悪が弱点で、
格闘と毒に強いです。
タイプ相性を覚えるのは、初めは難しいですよね……^^

 第二話「強者」 ( No.36 )
日時: 2020/09/22 19:18
名前: さぼてん ◆FRQHwFT6AY (ID: KsKZINaZ)

 
「な、何だって…………タイプ?」

「タイプ:ヌル。アローラ地方のノーマルタイプのポケモンです」

 再び耳に入れてみても、それがポケモンの名前だと判断が出来なかった。
ポケモンには似つかわしくない名前だな。そして、やはり聞いたことのない名だった。
固まる俺を見たエイジは電子端末を取り出して、そのタイプ:ヌルとやらが写った写真を見せてきた。
 
「ボクも名前が特殊なので覚えていただけで、詳しいことは分かりません。本で調べてもほとんど情報がないんです。一説によると、どうやら一種の“伝説のポケモン”の括りに入るとか……」

 伝説のポケモンだと。
確かにこのトヤノカミ中央では、見たことないポケモンを連れている生徒や職員がいたが、まさか伝説のポケモンまでをも持っているとは。

 もし代表に残ることができたとしても、英傑に向かう道程の途中では、クラスAとも戦うことになるだろう。……ムツミのタイプ:ヌルとも。
例え決闘試合に出られなくても、色んなポケモンの情報を知ることは、夢であるポケモンエンダーにとって必要なことには違いない。
俺も今後、どうにかしてタイプ:ヌルのことを調べる必要があるな。

「……そんなポケモンだったのか、ありがとう。話を断ち切ってすまない。さっきの続きを教えてくれ」

 エイジが閉じた本を開いたそのとき、誰かが俺の右肩を叩く。
その叩かれた方を向くと、一人の男が立っていた。
白髪が混じった黒髪をオールバックにしており、目つきは鋭い。目尻や頬には皺があり、年老いて見える。
また、グレーのチョッキにグレーのズボンを着用しており、どうやら教職員のようだ。

「休日にも勉強か、精が出るな。……でもその本の内容はあまりに生温くねぇか?」

 男はあらかじめ準備していた言葉を演技するかのように、低い声で言った。
そのあと何かを思い出したかのように続ける。

「そういえばお前は記憶を失くしたんだってな」

「……あなたは?」

 この図書室には場違いの声量で喋る男に、少し苛立ちながら訊いてみる。
ピリついた異変を感じ取ったエイジが、何とか場を抑えようと率先する。

「イツキさん、この方はオトギリ先生です」

 エイジに手を向けられたそのオトギリ先生は、軽く咳払いをしてから話しだした。

「そうだ、俺はオトギリ。一年のクラスAの監督で二、三年の実践授業を担当している」

 よりによってクラスAの監督か。そして実践担当なら合点がいく。
このオトギリ先生がクラスAのバトルの実力を向上させる一因なのだろう。

「……オトギリ先生。俺に一体何の用でしょう?」

「お前は“生まれたばかりのポケモン”と“戦闘経験を積んだポケモン”を戦わせるか?」

「……はい?」

 不意に質問を被せられ、戸惑って言葉が出ない。
この人は何が言いたいんだ。そして何のために俺のところに来たんだ。
オトギリ先生は、困惑する俺の表情など一切見ずに、天井の砂時計を眺めながら再度口を開けた。

「俺は戦わせねぇ。強いモンが弱いモンをなぶる様を見ても、見応えがねぇからな。…………だからそれを変えに来た」

 回りくどい言い方だが、皮肉めいた質問の意味が分かってきた。
どうやら俺がその“弱い”方なのだろう。

「イツキ。お前は指折りの強さを持つトレーナーであることには違いねぇよ。……でもそれは昔の話だ。記憶喪失になっちまったお前は、クラスAに完敗したそうじゃねぇか。それじゃあ面白くねぇ。勝負っていうモンは、まずポケモンとトレーナーが一心となり、そして相手とお互いに命を消耗して初めて形作られる」

 ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、淡々と語った。
眉根を寄せた俺の反応を意に介さず、オトギリ先生はポケットから手を出すと机に両手をつき、少し声を落とした。

「だから、イツキ。お前に一つアドバイスだ。…………勝負で大事なのは“敵の隙を突くこと”。ただそれだけだ。隙を突くのは腰抜けの小細工じゃねぇ。賢哲の方途だ。これを常に頭ン中入れとけ」

「……もし、相手が隙を見せなかったら?」

 つい我慢ならずに飛び出た言葉に、オトギリ先生は呆れながら頭を掻いた。

「イツキ、お前ならそんなことぐれぇ分かるだろう? 隙がねぇなら作れ。まぁお前のために一つ例を挙げるとすれば、“勝利を確信したときに生まれる隙”。これほど旨ぇモンはねェな。……お前にも覚えがあるだろ」

 言い方はきついが確かに正論を言われている。
実践バトルのことを思い返して、つい下を向いたとき、オトギリ先生でもエイジでもない別の男の声が入ってきた。

「オトギリ先生、うちの生徒に何か用でしょうか? …………クラスBの生徒には今後、私を通してもらえると有難いのですが」

 聞き覚えのある声に顔を上げる。オトギリ先生の横に見えたのは、本を大量に抱えたアゲラ先生だった。
アゲラ先生に詰め寄られたオトギリ先生は、さっきまでの固い表情を少しだけ緩ませた。

「ちょっとばかし談笑してただけだ。…………じゃあ、イツキ。あとは自分で考えてみろ。俺はもう行く」

 オトギリ先生はアゲラ先生に軽く会釈をすると、その場を後にした。



 *



「大丈夫か、イツキ。何か言われたか? ……不安なことや悩みがあれば、いつでも相談してくれよ」

「アゲラ先生、ありがとうございます。大丈夫です」

 こういう時の担任ほど頼もしいものはない。やはりアゲラ先生は甲斐性がある。
あのオトギリ先生が実際、俺の味方なのか何なのかはよく分からなかったが、為になることを言っていたのは確かだ。
 アゲラ先生が持っている本を机に置いたとき、ふと一つの質問が脳に浮かぶ。

「先生。やっぱり、一つ良いですか?」

「おう、何だ。何でも聞いてくれ」

「エイジ、さっきの画面を見せてくれ」

 そう言ってエイジに電子端末を開いてもらい、先ほどのポケモンが写った写真を見せながら尋ねる。

「このタイプ:ヌルというポケモンをご存じですか? 生態学のアゲラ先生なら、何か知っているかと思って」

 アゲラ先生が髭を撫でながら、画面を注視する。
少しばかり見つめた後に顔を上げたが、何とも浮かない表情をしていた。

「うーん、そうだな。俺も色んなポケモンの生態を調べてはいるが、このポケモンについては情報が少なすぎるんだ。俺から言えることは何も無いな、すまない」

「そうですか……。いえ、いいんです」

 タイプ:ヌルについて調べるには時間がかかりそうだ。
エイジに電子端末を返そうとすると、アゲラ先生は歯を見せて俺の手を止めた。

「ただ、“俺から”は何もないだけで、他に心当たりはある」

「本当ですか」

「来週、臨時講師としてやってくる“イリマ先生”だ。何でもアローラ地方の出身で、ノーマルタイプのエキスパートらしい。イリマ先生なら何か知っているだろう。俺もアローラのポケモンの生態を色々と教わるつもりだし、そのとき一緒に来ればいい」

「ありがとうございます。是非行かせてください」

 何と幸運なことだろうか。聞いておいて良かった。
これでタイプ:ヌルの問題は解決したが、肝心なのは今日のバトルだ。
一つ一つ乗り越えていかなければいけない。リンとの勝負に集中しよう。



 *



 それから二人でしばらく勉強を続けていると、エイジがおもむろに手を止めた。
時計を確認するや否や、俺に向かって声を掛ける。

「では、座学は終了です。ここからは実際にバトルをしながら、今習ったことを確かめていきましょうか」

 俺も時計を確認する。しかし、昼までまだ数時間はあるようだ。

「ミナと一緒にバトルの練習をするのは午後からじゃなかったか?」

「ほら。ボク、昨日言ったでしょう? バトルが苦手だから別の対策を考えておく、って。……実は“助っ人”を呼んでいるんです。ミナさんとの練習の前に動きを確認しておきましょう」

 まさか助っ人まで呼んでいるとは。
ちょっと大袈裟になってきたが、有難いことには変わりない。
そんなことを思いつつエイジに従って図書室を抜ける。
中庭を通り、学舎の一番西にあるスタジアムに入った。

 決闘試合が行われる“とこしえのスタジアム”と比べると多少狭いが、芝が美しく整備されていて開いた天井の日差しが気持ち良い。
そんな中を俺とエイジの足音だけが空へと抜ける。
どうやらその助っ人が、このスタジアムを貸し切りにしてくれたらしい。
そんな権限を持っている人なんて、一体誰だろう。なんだか怖くなってきたな。
 エイジが隣で口を開ける。

「あれ、まだ来ていないんでしょうか……」

 二人で辺りを見渡していると、客席の方からよく通る声が飛んできた。

「ようこそ、“うたかたのスタジアム”へ」

 声のする方を見ると、茶髪のひょろ長い男がいた。俺は突然の声掛けに驚きつつも、内心安堵した。

「ソウじゃないか」

「やあ、イツキ。……色々と話には聞いてる。バトルの練習をするんだろ。俺でよければいつでも相手になる」

「わざわざ休日にすまない」

 ソウは客席を飛び越して華麗に芝の上に着地する。
俺達の元まで歩いてくると、袖を捲った後に口を開けた。

「……じゃあ早速はじめるとしようか」

 俺の返答を待つ間も無く、ソウはモンスターボールを投げた。
いきなりの勝負に出遅れた俺もポケットからボールを出すが、その手をそれ以上は動かさなかった。

 相手が二匹のポケモンを出してきたからだ。
向かって左側は、青と黒の配色が特徴の、小型の二足歩行のポケモン“リオル”。
右側に見えるのは茶色い体毛に包まれ、首元に尖った岩が生えている四足歩行のポケモン“ルガルガン”。
何故二匹も……と呆気にとられていたが、この後のソウの発言で理解した。

「格闘のリオル、岩のルガルガン。……さぁ、イツキ。どっちと戦いたい?」

 俺に選ばせてくれるのか。
リオルは進化前のポケモンだが、ルガルガンは進化後のポケモン。
普通ならルガルガンと言いたいところだが、

「リオルで頼む」

 俺はリオルを選んだ。
理由は単純。ノーマルタイプの天敵、格闘タイプのポケモンだからだ。
苦手な相手こそ練習のしがいがある。
ソウはその答えを聞くと、ルガルガンをボールに戻した。

「進化前だからって油断はしないでくれよ。俺のリオルは一味違うからさ」

「わかってる」

 俺もリングマを出す。
リングマは出るや否や雄叫びを上げるも、まだ疲れが取れていないせいか少し心許ない。
その叫びを聞いてリオルの眼光が鋭くなる。

「エイジと勉強したことを今、実践でおさらいしていこう。……さぁ、イツキ。勝負だ」

 



 最初に動いたのはリオルだった。
芝をめくるほどの勢いで一気に加速し、こちらに迫ってくる。
左右にステップを踏んで自分の居場所を逸らしたかと思うと、瞬時にリングマの目の前に飛び出してきた。

 ……落ち着け。習ったことを実践すればいいだけだ。
何とかリオルの動きを目で追っていた俺は、ソウよりも早く命令を叫ぶ。

「今だ、“シャドークロー”!」

 リングマの両手の爪が黒い影を纏う。
まず右手を横に振り払う。しかしリオルはその下を掻いくぐる。
続いて左手を縦に下ろすも、後ろにステップを踏んで攻撃範囲から逃れる。
あと少しで届くような距離ではない。余裕で避けられてしまっている。

「接近戦の対処は、まずまずだ。……じゃあ遠距離の場合はどう出る? 距離をとるんだ、リオル」

 ソウの指示により、今度は遠くに離れていく。
ある一定の距離で止まったかと思うと、振り返り、手をこちらにかざした。

「“しんくう”」

 ソウの言葉と同時にリオルは腕を振ると、とてつもないスピードで波状の気が飛んでくる。
攻撃されたときは“避ける”、“防ぐ”、“相殺する”。この三つのどれかで対応すればいい。

「左にかわせ!」

 俺の声に反応してリングマは身体をひねり、辛うじて攻撃を避ける。
なかなか危ない。あと一歩遅れていたら確実に当たっていただろう。

 しかし、このとき確信したものがあった。
やはり“ポケモンたち”は動ける。
二ヶ月のブランクこそあるものの、俺の手持ちポケモンたちの強さは変わっていない。
俺がしっかり指示を出せば、それに応えてくれる。
……俺の指示さえちゃんとしていれば。

「もう一回だ」

ソウがまた命令すると、同じく“真空波”が打ち出される。
反撃の糸口を待て。そしてしっかりと技の軌道を見極めろ。自分に語り掛けるかのように鼓舞する。
ここだ、と思った瞬間に「かわせ!」と叫ぶと、身構えていたリングマも楽々と攻撃を避ける。

「流石だな。はじめから避けられるとは思わなかった。段々と技量を思い出してきたかい?」

 ソウが拍手をしながら嬉しそうに語りかけてくる。

「……でも、これならどうだろう」

 ソウが人差し指を俺に向けると、リオルは目を閉じて両手を前に突き出した。
動きが止まった。今が攻撃のチャンスだ。

「リングマ、突っ込んで“シャドークロー”だ!」

 言葉通りに駆け出し、リオルの目前まで迫ったとき、ソウが口を開けた。

「よし、先制攻撃だ。“真空波”」

「リングマ、避けてそのまま攻撃しろ!」

 三回目の“真空波”だ。勝手は解った。先制攻撃だろうが何だろうが、避ければ問題ないということも。
リングマも先ほどと同じように、難なく攻撃をかわす。
今度は逃がさない。リオルを挟むように両手を振りかざし、“シャドークロー”をお見舞いする──

 かと思ったそのとき、リングマは背中に衝撃を受け、その場で倒れ込んだ。

「何?! ………………“真空波”だと? 今、避けたはずじゃ……」

 困惑した俺の言葉を聞いたソウは、チッチッチッと人差し指を左右に振りながら声を飛ばした。

「直前に変化技の“心の眼”を使ったんだ。攻撃技を出すだけがポケモンバトルじゃない。この技を使えば、直後の攻撃はどんなに上手く避けようとも必ず当たる。……こういった必中攻撃に対しては“守る”等で技を防ぐか、技と技とをぶつけて相殺させて対処しないといけない」

 そうだ……。これは圧倒的な知識不足の中、展開している試合なんだ。
今さっき短時間で学んだことだけでどうにかなると思うな。
この試合の中でも学んでいけ。一つ残らず脳に叩き込め。

 そうしないと“彼女”には到底太刀打ちできないだろう。弄ばれるのが想像に難くない。
それを身をもって痛感した瞬間だった。

 #5
 


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