二次創作小説(新・総合)

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ダンガンロンパad lib0 ~こんにちは絶望学園~
日時: 2023/02/09 20:13
名前: アルズ (ID: 9s66RooU)
参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel7a/index.cgi?mode=view&no=2494

どうも。アルズと申します。
プロットはまだ固まってませんが(おい)。迸る筆記欲が抑えきれなくてスレ立てをしました。申し訳ございません。

この作品はダンガンロンパのオリジナル二次創作になります。
オリキャラ…皆様からのキャラクターを引用してオリジナルの展開を進んでいくことになります。


●注意事項

・原作とは何ら関係はないです。設定を引用しているだけですご了承ください。

・ad lib.シリーズ、ダンガンロンパシリーズのネタバレを含みます。観覧の際はこちらを先に読んでいただけると嬉しいです。

・荒らしはNGです。言いたいことがあるのでしたらブラウザバックしてチラシの裏に書いていただけると幸いです。


【目次】

chapter0
>>1 >>2 >>3 >>6-9

chapter1
>>16 >>17-18 >>21 >>24
>>25 >>28




【コメント返信】
大瑠璃音葉様 >>5 >>13
しゅんぽこ様 >>13 >>20 >>27
八雲様 >>13 >>23
デルタ様 >>15

chapter0 プロローグ ( No.7 )
日時: 2023/01/01 01:38
名前: アルズ (ID: 9s66RooU)

声が出なかった。
緊張していたんだと思う。
そんな私を見てみんなはきゃいきゃいと私を見て言う。


「おっ、可愛い子がまだ残ってんじゃん!」
「でも怯えてるみたいだよ?大丈夫かな?」
「わかりませんが…。一先ず、もう一度自己紹介してはいかがでしょう。
これで16人…。体育館に設置されている椅子は16個。この子が最後の生徒だと思いますよ。」
「そうだね!キミ、早くこっちおいでよ!」


言われるがまま、私は足を運んだ。
色んな人たちが、私を見る。
そうだ。自己紹介をちゃんとしなければ。
人には慣れてる方だが、こんなに緊張するのは初めてだ。
少し深呼吸をして、言う。

「初めまして。文月 詩乃です。
えーっと…。」
「ああ、キミが“超高校級のカウンセラー”、だね。
鬱になった子の社会復帰を一人で、しかも早いスピードでこなしたり、高校出たら資格習得も一発合格できるって。
居なかったからやめたのかと思ってたけれど、そんなことはなくて安心した。
よろしくね。」

そうパーカーにジャージを着た温和そうな男の子が“超高校級のカウンセラー”についての説明をしてくれる。
ふと浮かんだ言葉を私は紡ぐ。

「えっと、私そんなにすごくないよ?
人にできることをしただけだよ…。そんな買い被りして…恥ずかしいよ…。」

ともごもごとマフラーで口を隠す。
人にすごいと言われるのは、ちょっと恥ずかしいのだ。
と、こんなことをしてる場合ではない。

「えっと、みんなの名前も聞きたいな。」
「…そうですね。改めて自己紹介する…って話でしたし…。」
「準備できたら声かけてくれよ~!」

と、みんな提案してくる。
私はありがたく、その提案に乗るのだった。





私は、肩書について説明してくれた男の子に話しかけようとする。
白いパーカー、黒いジャージ。ぼさぼさの髪をしているのが特徴の普通の男の子だった。

「あ、ボクの名前が聞きたいのかな?」
「う、うん。君はなんていうの?」




「ボクは柚月ユヅキ アカネ
…希望ヶ峰学園には“超高校級の幸運”として呼ばれたんだ。」



…幸運?

「それって、年に一度…現役の高校生を一人だけ学園にスカウトするっていう…。」
「そう。その抽選に選ばれた…普通の生徒だよ。
ボクもまさか選ばれてここにいるだなんて、夢のようだよ。…不可解な状態が今起こっているってこと除けばね。」
「…校門をくぐったらいつの間にか中にいたり?」
「うん。」
「…窓が全部鉄板でふさがれていたり?」
「そういえば窓、全部ふさがってたね。そう考えると“入学式”って言うにはちょっと普通じゃないよね。
ドッキリかな?」
「わからない…。けれど、大丈夫だよきっと。なんとかなるよ!」

と笑顔で答えると彼は口を手で押さえながら

「そうだね…。なんとかなるよね。」

と答えた。
私の顔に何か変なものでもあったのだろうか。
そう思いながら首をかしげると彼は私に優しく微笑みながら

「ほかの人に挨拶してくるといいよ。
ボクにだけ時間をとるわけにはいかないからね。」

と送り出してくる。
同じ苗字に“月”が入ってるもの同士、仲よくしたいなあ。
こういうところから仲良くしていかないとね!




私は、水色のブラウスに着物を着ているいわゆる…今時あまり見かけない書生スタイルの男の子に近づいた。
何故なら、とある予感が私の中でひらめいたからだ。
彼は近づいてきた私に気づくとにこっと笑いながら、こういった。




「初めまして。イズミ 鏡也キョウヤと申します。
これからよろしくお願いいたします。」





と深々とお辞儀した。
嗚呼!やっぱり!やっぱりそうだ!

「ち、“超高校級の小説家”ですよね!?
わあ…!初めまして!文月詩乃です!作品読んでます!
『内科医』っていう作品が特に好きです…!あと…えっと…」
「そんなに焦らなくてもいいですよ。読んでくれてありがとうございます。
こうして読んでくれている方と話すのは嬉しいものですね。」

彼は“超高校級の小説家”。15歳で芥川賞を受賞し、『現代の文豪』『現代の泉鏡花』ともいわれる小説家。
3人に1人は彼の作品を読んでいるという程の人気っぷりで、さっきも言った通り私も彼のファンの一人である。
この学園に入学して彼と出会うことができるだなんて夢みたいだ。
軽く感動する。

「それに僕のことは敬語でなくても大丈夫ですよ。
僕のは…ちょっとした癖みたいなものなので治せはしませんが…。」
「じゃあお言葉に甘えて…。
それに、癖を無理やり矯正しようだなんて思わないよ。これかもよろしくね泉君。」

お互い笑顔になり、穏やかに自己紹介を終える。
とてもやさしい人だ。よかった。この人となら馴染めそうだ。
そうホッとしながら私は泉君と別れた。




次に私は、クールな顔立ちをしている金髪で青い目をした女の人に近づく。
近づかれた彼女は、表情を崩さず近づいた私を見て、淡々とこういった。




「私は、レイラ・アレクシスだ。よろしく頼むよ。」





彼女の名前を聞いて、肩書を思い出す。
“超高校級の会計士”。それが彼女の肩書だ。
なんと幼いころから両親の会社で会計を担当し、その会社ではならなくてはいけない存在だと言われているほど。
彼女のお陰で会社は回り、その培ってきた能力、素早い計算能力とお金のやりくりに関してはその辺の会計士より高く、正に“超一流”というに相応しい人物だ。
冷静そうな態度、口調。私は少し萎縮してしまう。

「えっと…。」
「文月さん、だろう?大丈夫だ。きちんと自己紹介は聞いていた。」
「あ、よかった…。」
「気を張らなくてもいいよ。私は君を取って食おうとだなんてしないし。」
「よ、よかった…。」
「え、私をなんだと思ってたんだ…?」

彼女は唖然とした後、クスリと笑い

「まぁ、何かあったら頼ってくれ。と言っても、カウンセラーのトップに相談されるだなんてこと、早々なさそうだけど…。」
「そんなことないよ!私だって人間だし、いろいろと相談できるのは嬉しいよ!」
「そうか…。じゃあ、私も何かあったら相談に乗らせてもらうな。」

とてもやさしい人…!
クールなだけで、冷たいという訳ではなかったし、絡みやすそうな人でよかった。
私は誰とでも仲良くなれるのが自慢なのだけれど、人と慣れ合うタイプではない人とでは時間がかかる。
レイラさんは人と慣れ合わない人でなくて安心した。
私は軽く会釈をしてレイラさんと別れた。





私は次に白黒のキャップを被った男の子に近づく。
彼は近づいてくる私に気が付くとにこっと笑いながらこう答えた。





「俺、戸田トダ 久遠クオンだよ~。よろしくね~!」




戸田 久遠。“超高校級のカードゲーマー”としてその業界では知らないものはいないほどの有名人。
世界を飛び回ってカードゲーム大会に出場してはかならず優勝をもぎ取ってくる。
そのため、彼はその他のカードゲーマーからは『カードゲーム界のスーパースター』だなんて呼ばれている。

「え~っと…確か~…」
「ふ、文月 詩乃だよ。好きに呼んでね。」
「文月だね~。よろしく~。
…文月はカードゲームやる~?」
「うーん、ゲーム自体あまりしないかなぁ。
私、そういうの疎いのもあって…。」
「じゃあ教えるよ~。面白いところいっぱいあるから覚悟してね!」

楽しそうな彼を見てふふっと笑ってしまった。

「うん。楽しみしてるね。」
「いつか俺と戦えるレベルになれるまで育てるからね!」
「それは…ちょっと厳しいかな…。」
「諦めたらそこで試合終了だよ!」
「そうじゃなくて…。さすがに戸田君と張り合えるレベルにはなれないかなぁって…。
私、頭の出来悪いからさ。カードゲームってそういう頭脳戦求められそうで。」

と、にへらと笑えば「そんなことないよ!」と否定が入る。

「慣れれば誰だってうまくなるしそういう知恵だって回りに回るんだよ!
文月、もしよかったら俺の遊び相手になってね。」
「遊び相手…。
うん!わかったよ!」

そう微笑めば、彼もやったーっといってほほ笑んだ。
「じゃあ、他の人と挨拶してくるね。」と笑って手を振れば彼もまた笑顔で手を振り返したのだった。

chapter0 プロローグ ( No.8 )
日時: 2023/01/04 08:00
名前: アルズ (ID: 9s66RooU)

私は戸田君と別れた後、一際顔が良い…良い意味で目立つ二人に近づいた。
片方は、ヘビーピンク色っていうのかな…? 薄い赤、けれど灰色が混じってるような、彩度の低い髪をした男の子。
片方は、深い青色をした髪をポニーテールにまとめている、背の高い女の子。
女の子の方は近づく私に近づき、男の子にポンポン、と肩を叩く。

「漆間!僕たちの番だよ!
こうやってペチャクチャ話してる場合じゃないよ!ほら、漆間から挨拶して!」
「…オレから?
…無理。豊馬から話して。」
「んと、口を挟んで悪いけど…二人とも同じ学校から来てたりする?」

と居ても立っても居られず、気になったことを聞いてしまった。
よく聞いて、その会話の用量を上手くまとめて、その答えを出すのが私の癖でもあったのだが…。
二人の会話に口を挟んでしまったことにむむ、とマフラーに口を隠してもごもごしていると

「そうだよ!コンピューター関係の学校でね!
そこから漆間の凄さを知って近づいたって感じ~!」
「…豊馬が勝手に絡んでくるんだ。」
「そうなんだ! 仲が良いっていいことだよ!
漆間君、だっけ?あまり邪険しちゃだめだよ。照れててもね!」
「…違う。」

む、とそっぽを向く彼。
それに気にもせず、彼の肩を掴む彼女の肝はすごく座ってると思う。





「遅れちゃったね!
僕は豊馬トヨマ 羽衣ウイ!ちょ~~可愛い~~~超絶天才!!
皆が絶賛する、疎むレベルで人生勝ち組!“超高校級のオペレーター”だよ!」

「…やめろ。その言い方。腹立つ。
…オレは漆間ウルマ アタルです。“超高校級のシステムエンジニア”、やってます。
…豊馬の言うことは気にしなくていい。聞くだけで人生の無駄だから。」

「いけず!!」





超高校級のオペレーター。
高校生という若さで様々な企業と組み、そのシステムの管理を牛耳る…いわゆるITオペレーター。
彼女の運用するホストコンピューターは一度も不備は起こしたことがなく、そのため“絶対に安全で安心に運用できる”とその業界では絶対的信頼をおいている。
硬そうな雰囲気かな、と思ったけど、非常に元気のいい彼女を見るとそうではないと安心して言い切れる。


一方、超高校級のシステムエンジニア。
とある企業の非常な無茶なニーズの仕事をいとも簡単にこなして、完璧なハードウェアとソフトウェア開発をこなしたその手の天才。
またの名を“超高校級のエンジニア”。
コンピューターに関することなら何でもできると本人でも豪語できる…みたい。
改めてすごい人と対面しちゃったなぁ…。

それにしてもこの二人、とっても仲が良いなぁ…。
私も友達は多かったけど、異性の友達でここまで打ち明けられているっていなかったし…。
年下に一応いたけれど、彼は多分先輩後輩だと思ってる…と思ってる。
と、私の身の上話はいいんだった。

「お二人って付き合ってるんですか?」

口走ってしまった。
やばい、と口をマフラーで隠すと豊馬さんは“ぱああ”っと明るくなって

「漆間~、僕達、カップルに見えるって~~!
付き合う~~!?」
「死ね。」
「ひどい!」

苦笑して彼、彼女のやり取りを見る。
異性を超えた親友って感じ。私からしたら、壁なく友達として接することができるの、すごいと思う…。
まあ、軽口の暴言はよくないと思うけれど…。



苦笑いしながら他の子に挨拶してくるね。と二人に言うと豊馬さんは笑顔で送り出してくれた。
漆間君は軽く手を振っただけだけど…。




次に私は、コック帽を被った可愛らしい子に声をかけることにした。
近づいた瞬間、彼女はにこっと微笑み

「初めまして!」

と声をかけてくれた。

「初めまして。文月 詩乃です。
えーっと…。」



「私、天宮アマミヤ イチゴ!“超高校級のパティシエール”なんだよ! よろしくね!」




彼女は教えてくれた通り、“超高校級のパティシエール”。
実は私、調べる前から彼女のお菓子についてニュースで色々と知っていたのだ。
若いながら色んなコンクールで金賞を取ったとか、世間は色々と囃し立てていたから…。
調べた今、わかっていることは今ではたくさんのパティシエやパティシエールが彼女に弟子入りを希望するほど有名で腕のいいパティシエールということ。
嗚呼…私も食べてみたい…。
甘いものに目がないから、彼女が入学するとわかってからは色々とお菓子について聞こうと思っていたのだ。

「あのね、早速聞きたいことがあって…。」
「うん?いいよ! なんでも聞いて!」
「私、お菓子作りに挑戦したことがあったんだけど…その、要領悪くていつも失敗しちゃうんだ。」
「うんうん。」
「だから、プロに聞くのもあれかな?って思うんだけど、教えてもらいたいなあ…って。
ご、ごめんね! いきなり初対面でこんな不可解な事態に巻き込まれてるのにこんなこと頼むなんて!」
「大丈夫、大丈夫! こういうの友達っぽくてなんかいいじゃん!
私の得意分野…それをここでもしっかりと活かせるなら任せてよ! 要領悪いって言ってたけどレシピ通りやっても上手くいかないとか?」
「あれしてるとこれしなきゃ。ってなると慌てちゃって手を抜いちゃうんだよね。
そしたらメレンゲがしっかり泡立ってなかったり、しっかり焼けてなかったり、オーブンの調整間違ってて逆に焦がしちゃったり。」
「改善の余地あり、だね!任せて! 一週間でちゃんとしたの作れるようにしてあげる!」
「う、うん! ありがとう!」

こうして私たちはお菓子作りを共にするという約束を取り付けて、別れたのだった。
仲良くなれそうな子でよかったぁ、とほっとしつつ私は次の子の挨拶へと向かった。






私が次に近づいたのは、赤いメッシュが特徴の銀髪の男の子だった。でもフードを被ってて綺麗な髪がわかりづらいなぁ。
誰とも近づかない距離感にいるうちの一人だったから気になって声をかけたのだった。

「あの…。」

と声をかけるとふ、とこちらを見る。
目を合わせるのが苦手なのか、顔を見たり、床に視線を落としたり、どこか落ち着きのない子であるのがわかった。

「初めまして。文月 詩乃です。
貴方のお名前は?」

と、なるべく、なるべく、優しく声をかける。
こういう子は人との接し方に慣れてないのだから、ゆっくり時間をかけて仲よくしようと思った。




「あの、えと…。
お、俺は…月村、スバル…。ち、“超高校級のゲームマスター”って肩書で…ここに来た…。」




“超高校級のゲームマスター”。今大人気ゲーム、脱出ゲームのEXITのゲームマスターを務めている…って聞いたことがある。
脱出ゲーム自体は難しいけれど、同行者と協力すれば難なく突破できる。とも言われているらしい。
このゲームのお陰で“友達が増えた!”とか“友達から親友に格上げした!”とか“絆が深まって楽しい人生が過ごせそうだ!”とかいっぱい賛同の声が上がってる。
そう言えば、このゲームのきっかけは母校の文化祭の出し物なのだとか、風の噂で聞いたことある。
すごいなあ。ここで才能を見出してここにいるって相当の実力者だよね。

と、彼の経歴を語るのはここまでにしよう。

「ゲームマスターってことは君が“脱出ゲームをやるゲーマー”だからじゃなくて“脱出ゲームを作る側の人間”だからってこと、かな?」
「…そう、だと思う。」
「すごいね!私そういうの得意じゃないから羨ましいなぁ。頭いいってことだもんね!」
「…………いや。」

と違う方向、というより人のいないほうを見て返事をする彼。

「…もしかして、人付き合い苦手かな?」
「……、人と話すのが、直接話すのが、苦手ってだけ…だ。」
「あー…、そっかそっか。ごめんね。いっぱいお話ししようとして。
でもね、いつかその壁を乗り越えてお友達になれたらいいな。」

と彼の目を見て話しかけた。
彼の方が背が高い。自然と上目遣いになってしまったのだけど、あざとい…ことはないよね?
彼はというと「あ、…」とか「う、…」とか言葉に詰まってるようだった。
私はニコリと笑い

「大丈夫。ゆっくり慣れていけばいいからね。」

というと、彼はふい、とそっぽを向いてしまった。

慣れてないんだろうなぁ。と思いながら「じゃあ、他の人と挨拶してくるね。」と微笑みながらが言うと「わかった」と声に出してくれた。





「なあなあ!」

と声をかけられたのでそちらを見る。
そこにはライトブラウンの髪でオレンジ色のメッシュをしている明るそうな男の子だった。

「えっと、そういえば自己紹介まだだったよね。えぇっと…。」
「詩乃ちゃんだろー?ちゃんと聞いてたぜ!
いやあ、それにしても見れば見るほどかわいいなぁ、儚い系っつーの?
こんな可愛い子に相談したら一発で治るかも…なんて簡単な話じゃねぇよな!ごめんごめん!」
「あ、はは…。」

大きな声でナンパ…かな?されて少しどうしたらいいかわかんなくてどうしたらいいかわからない。
そうだ。こんな時こそ名前を聞こう!私は名前ちゃんと聞けてないわけだし。

「え、と。名前聞いていいかな?
私だけ知られてるっていうのもあれだし…。」
「そう言えばそうだな!」

と、こほんと咳ばらいをすると




「俺は梶浦カジウラ 竜輝タツキだ!
苗字でも名前でも好きに呼んでくれよ!」




梶浦竜輝。彼は“超高校級のパルクール選手”だったはず。
高校生ながらプロのパルクール団体に所属するほどの腕を持っており、その上実力はその団体のトップレベル。
大会でも優勝経験を何度も重ねており、その道では彼はやはりというか、有名人である。
あの手のものは命の危険あるから、それを軽々とこなす彼は簡潔ながらすごいと思う。
動画、SNSに上がってたから見てみたけど、あれを無修正で行ってると思うとその培ってきた技術と潜在能力は並大抵のものではないと思う。

「なあ、ここって窓も封鎖、玄関も封鎖で外出させる気がないんだよな?」
「えーっと、そうなの?」
「おう! 俺目が覚めた場所が玄関でよー。
あそこ、すんげえでっけえ鉄の扉があってよ。開かねぇわ、かてぇわ…窓も開かねぇしかてぇし…。
グラウンド、開いてねぇんじゃねぇんじゃねぇかな?
つーなると身体動かせねぇなぁ。どうしたらいいと思う?」
「んー…。室内でも身体動かせることはあるからそれを倍こなすとかどうかな?
外より激しい運動できない分、その分有酸素運動…とかね。ここ、広そうだし周りに気を付ければ走れそうだし…。」
「なるほどなぁ!ありがとな!
可愛い上に優しい…モテるだろ詩乃ちゃん。」
「モテないよぉ~!」

と、私は言い逃げてしまった。
恥ずかしかったからだ。あぁ、言われるの初めてだったので…。つい…。







とん、とぶつかった。
その人は長いオレンジ色の髪。メイクをしているのが特徴の女の子だった。
大きな輪っかのピアスしてる…。
高校生なのに、もう開けてるのか…。

とか色々考えて惚けて、はっとする

「ご、ごめんなさい!前見てませんでした!
えっと…ふづ…。」
「詩乃でしょ?ちゃーんと聞いてたよ!
よろしく!」

と聞いて握手をしてきた。
私はそれにキュッと握り返すと、

「うん!よろしくね!
君は?」




「あたしは小深山コミヤマ 唯香ユイカだよ! よろしくね!」




“超高校級の美容師”、高校生だけれど、国家試験に特別に合格。その上各所から各業界の有名人が殺到するほどのカリスマの美容師。
特定の美容院は持っていないようで、来たい人は自ら足を運んで切ってもらうというスタンスを築いているらしい。
美容師に必要なコミュ力も高く、会話も楽しい…とのことでそれも人気の一つである。
頼めばメイクやネイルもしてもらえるらしく…。そう聞いただけでやってもらいたくなる。

彼女は私のことをまじまじと見た後

「詩乃ってすごいいい髪してるね! 何か特別なことしてる?」
「えっ…!? うーんと…ネットで見たケア方法をやってたりするよ?
あまりお金かけられないからいいトリートメントやシャンプーは使えないしね…髪質にあった奴使ってるって感じ…。」

と苦笑しながら笑えば

「そっか! よかったら私、いいトリートメントとかシャンプーあげようか?」
「えっ?! そ、そんな…悪いよ…。」
「駄目だよ!せっかくいい髪してるんだし、それを生かさなきゃ!
…長さもいい感じだし、いろんな髪型できそう! 今度色々試してもいいかな?」
「わ、私でよかったら付き合うよ…!」
「ほんとー!? ありがとー!」

と、キャッキャッと喜ぶ彼女は可愛らしく跳ねて喜んだ。
ヘアスタイルとかヘアアレンジが好きなんだろうな。
実際私も興味がないわけではない。可愛くなりたいならその努力は惜しみたくないし、そのためならその手に詳しいお友達の力を借りるのもいいと思う。
そう思って快諾した。実際Win-Winだったみたいだし、よかった。

小深山さんとは後で髪をいじってもらうと約束してその場を後にした。





そういえば、あまり話していない子がいないんだよね。
様子を見てるだけっていうか、みんなを見てにこにこしているだけっていうか…。
そこが気になったので私はその子に近づく。
中性的な顔立ちをしたその子は私が近づくとにこりとして

「あ、そういえば自己紹介、してなかったね!」

と言ってにこりと笑い、こほんとわざとらしく咳払いをすると



「俺の名前は一ノイチノセ 裕里ユウリ。伸びしろだらけの新人俳優です! よろしくお願いします!」

名前を聞いた瞬間、顔と一致してピンときた。
名前も、顔も聞いたことも見たこともある。
“超高校級の演劇部”。テレビで、ドラマで見たことがないと言ったら世間知らずと言われるほどの“俳優”…と言ったら彼に怒られるか。
あくまで自分は高校生で、新人だから出しゃばらない肩書が欲しいって至っての希望なのだと調べたら出てきた。
謙虚だなあ、と思いつつも、でもそれを許せるほどの才能をも持つんだなあ、とも思う。

「文月さんはカウンセラーだったよね? 思ったんだけど、芸能人のカウンセリングって受けたことある?」
「うーん…ない、ことはないよ。大人の人より、子供の…いわゆる学生の子や子役のカウンセリングとかやったことあるし…。
一ノ瀬君ももしかして希望だったりする、かな?」
「俺は全然大丈夫!聞いたことない? 俺、すごい明るすぎて心配されるようなこと全然ないんだ!」
「あ、そうなんだ。そういう子ってよく裏で色々抱えてたりするから…。
過去のことでもいいよ。何かあったらいっぱい話してね。私でよかったらいっぱい聞くからね。」
「大丈夫だいじょーぶ!もしもあっても詮索はNGで! なーんだろ。あんまり触れられたくないんだよねー。」
「そっか、言いたくないなら大丈夫だよ。無理に聞いても辛いだけだしね。」

とにこりと笑う。
それを見た彼は元から笑顔のところをより一層明るい笑顔にし、

「優しいな!」

なんて言った。
「私は人のためにやりたいことをやってるだけだよ。」と照れ笑いしながら話した。
なんだろう、彼は明るく、社交的でいい人なのだとわかるのに少し壁を感じる気がする。
少しでも仲良くなれるよう元々欲しかったサインの承諾をし、後で受け取る約束をした後、私は別の人の場所へと移った。






次に声をかけたのは黒い長髪が特徴の男の子だった。

「あの、こんにちは。はじめまして。」
「お、初めまして!」
「文月 詩乃です。えーっと君の名前を教えてほしいな。」




「俺は葉奈ヨウナ 京助キョウスケ、よろしくな!」



えーっと、確か“超高校級の科学者”で、小学1年生の頃の自由研究が目に留まって、そのころから理系の道に進み、今じゃ研究所からオファーが来るほどの人材…なんだっけ。
中学二年生から政府公認のサイエンティストとして認められ、今じゃ発明の裏では彼の名前が絶対に乗るほどの影の後継者…とかなんとか。
理系は難しくて、その手に詳しい友人に聞いたら『知らないのか…。知っといた方が得だぞ。』とか言って色々教えてくれた記憶が新しい。
まあ…ちんぷんかんぷんだったんだけど。

すこし気難しい人かとも思ったが、そうではなかったようで、意外にお話は乗ってくれるタイプらしい。

「葉奈君、科学者ってどんなことをするのかな?
…実際色々調べてきたのはいいけれど、文面だけでも言葉をつらつら並べられてもわからなくてね…。」
「じゃあ俺の説明聞いてもわかんないんじゃないのか?」
「うぅ…ごもっとも…。」

あまりの頭の悪さに愕然とする。今の彼は自然科学に熱を入れてる~とか、言われても
『じゃあ自然科学以外なにがあるの?』からはじまる。
あまりの質問の多さに友人は匙を投げた。これが現実だ。

「まぁ、いずれここで成功して更にその上を目指す…!それが俺の目標だ!」
「すごい!ちゃんと今でもしっかりとした目標を持ってるんだ!」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私は…“超高校級のカウンセラー”って言われても解んないし…でも人のためのお仕事とかしたいなって思ってるんだ!
頭悪いから…看護師とか医者とかの頭のいいところ行くのは難しいだろうって中学の頃言われてたけれどね。」

とえへへと笑えば「そうか」と私を無表情で見つめる。

「世間に認められた人のためになる仕事の道見つけてるじゃねぇか。」

と、彼は腕を組みながらそう言った。
それを聞いた私は自分でもわかるほどの笑顔になり、

「そうだね!確かにそうだよ!
みんなの心のケア、大事だもんね!教えてくれてありがとう!」

と、笑顔で言うと彼は「よかったな」と一言だけ発した。





彼とは別れた後、体育館で隅っこにいる女の子に声をかけた。

「…ずっとここにいるけど具合悪いの?大丈夫?」

と女子に聞けば彼女は

「いえ、…私なんかがみんなの中に入れるとは思えなくて…ついついここへ…。
入学式終わりませんし、始まりませんし…。」
「そう言えばそうだね…。
ね、ねえ。君の名前教えてくれるかな?
私、文月 詩乃。よろしくね。」

となるべく自然な笑みを浮かべる。
それにこたえてくれたのか、彼女はしどろもどろになりながらも



諏訪野スワノ 芽依メイ…、です。よろしくおねがいします。」



とたどたどしく頭を下げた。




“超高校級の園芸委員”。育てたことのない植物はないと呼ばれるほどたくさんの植物を育てた正にその道のスペシャリスト。それが彼女。
植物の品種改良の研究も行っており、その中には品種改良が不可能だと呼ばれていた植物の品種改良も成功したという実績を持つ…が。
当の彼女は「たまたまです」とか「この子たちが頑張ったからです」と自分の凄さを認めないところがあるという。


「…文月さんは…。」
「うん?」
「優しい方、ですよね…。」
「うぇっ!? そ、そんなことないよ!
怒るときは怒るし!」
「それも人のため…だと思うんです…。さすがカウンセラー…。
優しいだけでは人はダメになってしまいますから…。」
「…うん。優しいと甘いは違うからね。その辺りは気を付けるようにしているよ。
諏訪野さんはそういうところ、ちゃんと見極めているんだね。すごいよ。」
「…えっと、植物も同じところがあるので…。
例えばトマト…あれは海風などわざと厳しい環境に置くと甘くなる…と聞きますし。」
「えっ、そうなんだ!」
「…やったことはありません。ただ、私が育てた植物…作物も美味しいと言ってくれることもあります…。
それはあの子たちが頑張ったからで…。」
「そんなこと…あるけど、そういうことでもないよ!諏訪野さん、その子たちのために頑張ってるじゃない!
だから、その子たちの事育てたって自信もってね!」

と手を掴み言うと彼女は困ったような顔をしてしどろもどろしている。

「あっ、ごめんね!
…自信なさそうだったからおせっかい焼いちゃった。」

とえへへと笑えば彼女は

「さすが…です。やっぱり私はここにいないほうがいいんじゃ…」
「そ、そんなことないよ!」


と宥めた。





ひとしきり宥めた後、私は残りの子に挨拶するため別の場所に移ることにした。
また話していない子…、まだ話していない子…、


「失礼します。」

と後ろから声をかけられた。

「わあ!?」
「すみません。ちょっと気なったものですから。」
「気になる…?」
「はい。」

と言って彼女はマフラーを手を取り匂いをかぐ。
…きちんと毎日手洗いしているけど洗い足りなかったのかな?
と不安になっていると彼女は口を開いた。

「男の子、から受け取ったものですか?」
「えええぇぇぇぇぇぇ!?!?
な、ななななんでわかるの?!」
「なんとなく、そんな香りがしました。
…ボーイフレンド、ですか?」

ぽくぽくとマフラーの経緯を探り、心当たりがあると「ああ!」と言ってポンッと手のひらと手の拳を合わせたのだった。

「うちの近所に弟分がいて。その子の願望一緒に叶えようね!って話になってそれで買ったものだよ。
交換したから、その時に付いたものなのかも。
くれたの私の誕生日だったし、あげたのも彼の誕生日だったから多分温めてた時に匂いが付いたのかもね~。」

とふふ、と笑った。
それを聞いて彼女もふふ、と笑いながら

「微笑ましい経緯ですね。」

と言ったのだった。

「においに敏感ってことはもしかして“超高校級の調香師”?」



「はい。“超高校級の調香師”、牧里マキサト 梓音シオンです。
よろしくお願いします。」



彼女は“超高校級の調香師”。先ほどの嗅覚もそうだが、彼女は生まれついてこの方この職業が転職と呼ばれるまでの体質を持っていた。
なんと噂では常人の何百倍の匂いの嗅ぎ分けと記憶ができる。というのだ。その能力を使い、その人にあった香水を選び、その香水を使ったものは大満足しまたオファーをする…。
それほどの腕を持つため今では大手のブランドを持っている…とかなんとか。

「あなたは…」

彼女はすっと目を閉じ深呼吸をした。
彼女のことを調べたり聞いたらすぐわかる。これは匂いの分析をしているんだ。
私はどんな匂いなんだろう、とドキドキして待っていると、彼女はふと目を開いた。


「ふふ、落ち着くにおいですね。
…柔軟剤とアロマがいい感じにマッチしている感じです。」
「落ち着く、そうかな?」

嫌な臭いと言われなくてほっとしたが言われた言葉も信じきれなくて自分の制服の匂いを嗅いでみるが、よくわからない。

「子供には間違いなく好かれるでしょう。お母さんとして。」
「お姉ちゃんじゃなくてお母さんかあ~~…。」

そこはちょっとショックだった。




彼女と別れて別の子の元へ行く。
この子は割と他の子と喋っていて喋りかける機会がなかったのだ。今惚けてる今しかない。

「あの。」

と声をかければ彼女は「あっ!」と声をあげてこちらに近づく。
「詩乃やっとこっち来た~~!待ってたんだからね!」
「ごめんね。いっぱいお話ししてたから話しかけづらくて。」
「あぁ~、そうだよね。ごめんごめん。」

と笑顔で謝る彼女に笑顔で「いいよ」といった。





「名前名乗り遅れたね!私、野々坂ノノザカ 鈴奈スズナ!よろしくね!」




“超高校級のバトミントン選手”。それが彼女の肩書だ。
始めたきっかけは小学生かららしいが、中学生辺りから才能が開花。中学入って3年は連続で大会で優勝をもぎ取った“次世代のエース”。
シングルだろうがダブルスだろうが彼女が立てばそこは相手にとっての絶対に越えられない壁となる。
それが彼女の超高校級たる所以の一つだろう。



「詩乃~!これからよろしくね~!
運動とかする?」
「しないことはないけど、大会出るほどのハードワークはしたことないなぁ。
体系維持のジョギングぐらいで…。」
「詩乃痩せてるのにこれ異常痩せてどうすんの?!消えちゃうよ!!」
「き、消える?!」

ひょっと軽々と持ち上げられた彼女にそう言われた。
ふと思いついた話題を言ってみる。

「じ、じゃあ、あのね…。」
「うん?」
「もっと食べたら…胸大きくなるかな…?」

と、きいたら彼女はそっ、と下ろしにこりと笑顔を向けた。

「…。」


望みは薄かった。

chapter0 プロローグ ( No.9 )
日時: 2023/01/04 08:01
名前: アルズ (ID: 9s66RooU)

みんなと話し終わったよな?と周りを見渡す。





うん。話したこともない子はいないみたいだ。
…相も変わらず、人に慣れてない子は人と離れ場所にいるみたいだったけれども。
さて、と時間を見れば8時半になるような時間になっていた。
そりゃそうだ。私が付いたのは8時過ぎ。そこから自己紹介を始めていたのだから。
15人分の自己紹介、そこから派生する軽い会話。
これが一連の流れ。そりゃこれだけ時間もかかる。

それはそれとして、入学式はいつ始まるのだろうか。
それはほかのみんなも疑問に感じているようで、


「なんか、はじまるの遅くない? こっちは文月さんの紹介があったから助かったけど…。」
「放送がないのは不思議だよな! スピーカーの音すらしなったし…なんかあったりとか…ないといいな!」
「帰っちゃう? でも梶浦が出れもしないとも言ってたしなぁ…どうしようか。」


だなんて、軽口をたたいていた瞬間であった。


『プツン』



スピーカーからマイクのスイッチが入る音がした。

それを聞き逃さない私たちはそれを聞いた途端、喋ってた口は閉ざされ静かになった。
ガタン、ゴトン、と何かを準備している音が聞こえたと思えば、マイクからこんな声が聞こえた。


『あー、あーーーーー!
マイクテス!マイクテス!
…うんうん。聞こえてるみたいだねぇ!


皆さま!大変…たーいへんお待たせいたしましたぁ!
これからですが、“希望ヶ峰学園入学式”を開催いたしまーーーーす!』


まるで緊張感のない声。
生徒が、新入生に気を遣わせないためにこう言っているのだろうか。
しかし、いくら気を遣わせないため…とは言え…能天気すぎる。
一種の不気味ささえ感じていた。
そんな気配を感じたのか、柚月君はふと私を見て

「大丈夫?隅で休んでる?」

と、声をかけてきた。

「だ、だいじょ…」
「あー!お前詩乃ちゃんにそうやって点数稼ぎしやがって!
無自覚イケメンか?!気を遣えるアピールか?! 少し整った顔しやがってそうはいかないんだからな!」
「か、梶浦君だっていい顔…もとい、整ってはいるよ?」
「男に言われても嬉しくないんだよ!!」

少し気が楽になった。
声をかけてくれた、というのもそうだけど、こういった男子高校生特有のやり取りを見てすこし和んだのだ。
「ふふ」と笑った私を見て二人は「まぁ、言い争っても仕方ないか」みたいな雰囲気になった後


『無視するなぁ!
みんな!無駄話はここまでにして…お台場…、もとい! 演台にちゅーーーーーーもく!』


嬉しそうな、それでいて楽しそうな声がそう言う。
私たちはその声に従うようにその演台を見ると、



ぴょんっとそこから白と黒のカラーリングをした、天使と悪魔がセットになったような、そんなデザインの熊が飛び出てきた。
右側の白い方は愛らしい白い熊。左側は黒く、目は逆立った、赤い目で牙をむいている…子供が見たら一発で泣きそうなデザイン。
…左側の目、どこかで見たことある形なんだよな。とふと思ったことは胸にしまっておく。
大きさは解らないが、恐らく、私たちの膝上あたりまでの大きさ…かな? そこまで大きくないと、縁台の大きさからして推測できる。
熊は感情も声色も変えずに、私たちをわざとらしくキョロキョロと見渡して

「うーん、ぴったり16人!
というか16人て! まぁ、大事な大事な生徒なので人数は100人だろうが1垓人だろうが変わりません。」

「一垓って?」
「憶、兆、京、垓…と数える数の数え方です。まぁ、人類は最大約70億人ですのでそこまで人数はいませんが。」
「へぇ~~!」

「野々坂さん!泉クン!無駄話しないの!

…こほん。

えー、オマエラのような輝かしい希望はこの他にー…」

「ちなみにあなたはなあに?! ぬいぐるみ?!」
「ぬいぐるみだろうがなんだろうが、ばらせばなんだって同じだ。
中から綿だろうが“ワタ”だろうが豆腐だろうが、機械だろうが出てきても同じだ。そこから降りろ。器材がなくてもどうにかしてやる。」
「自己紹介を忘れてたね!ごめんね~~!

ボクは『モノクマ』。この学園の“学園長”!なのです!
ちなみに中は企業秘密だよ。ばらそうとしても校則違反で罰しますので中を見るのは不可能に近いです。やめてください。」

“モノクマ”。
そう名乗ったこのぬいぐるみのような彼は、口元に手を添え「うぷぷ」と笑う。
その言い方が癪に障ったのか、葉奈君は眉間にしわを寄せ、モノクマをじっと見た。
それを意にも留めないのか、彼はしゃべり続ける。

「では…。

オマエラのような輝かしい希望は、才能あふれる高校生は“世界の希望”!これ以外に言い表す言葉はありません!
そんな絶対的な希望を育て上げるため、ボクからの提案というか校則により…。

オマエラは“この学園の中だけで過ごして”もらうこととなりまーす!
この、学園の中で、共同生活を、送って、いただきまーーーーーーーす!」


そんな説明、穴が開くほど読んだパンフレットにも書いてなかったよ…?

そんな疑問を吐き出そうと口を開いた瞬間、彼はつかさず声を出す。


「共同生活の期限についても話しておかなきゃ。

期限は一切ございません!みんな、節度を守って永遠にこの学園の中で過ごしてね!」




その言葉に私たちの時は一瞬止まった。









「一生? 駄目だよ~~!そんなことしたら来週約束してる大会出られないじゃないか~~!」
「出れないので辞退してください。 それがこの学校の“義務”なので!」
「玄関があんだけ硬くて開かなかったのも“一生ここで過ごす”ためだってのか?!」
「そう!その通り! 窓も、ガラス割って出られないようにしているわけです。
なので物理的に壊そう、だなんて考えないで安心して暮らしていってね!」
「ネットワークは繋いでるの? 繋いでるんだったら漆間の手でどうにかできるんだけどさー。」
「繋いでるわけないじゃん! なんでわざわざそんなバカなことしなきゃいけないんだよ!」
「…そもそも、俺に頼るな。」
「ごっめーん。」

ぜえぜえと疲れたようなモノクマは、よっこいしょと演台に座ると私たちに向き直る。

「んもーう…そんなに出たいの?」
「当たり前じゃん! 今でも予約待ってる人、いるんだから!
学校にも通いつつ、あたしのヘアスタイリングを待ってる人に希望通りにやってあげるっていろんな夢語ってきたもの!
ここから出なきゃ約束守れないじゃん!」
「あー、はいはい。約束ね。約束…。
いいよ。出してあげる方法…教えてあげる。」
「…やけに嬉しそうですね…。声音が。」
「わかっちゃうー? うぷぷ…では、教えてあげましょう!ここから出る方法を!」



ばぱーん!と勢いよく立ち上がりくるくると回った後、キメポーズをする。
…いる?その動き。

「『卒業』!それがこの学園から出るルールなのです!」
「卒業ってことは俺たちの才能が認められたら出れるってことなのか!? 希望ヶ峰学園、やっぱり普通の学校とは違うな!」
「話は最後まできけーい!
卒業というのは、この世界…いわゆる『学園内』での秩序を破った者のみに与えられるものです!
卒業と任命された秩序破りの人間は学園から出ていく…すぐに考えればわかるルール…それが“卒業”です!」
「…秩序って?その秩序のなにを破ったら卒業になるの…?」

野々坂さんが聞くとモノクマは待ってましたと言わんばかりの顔をし、先ほどと変わらない声音で言った。











「“人”が“人”を殺すこと、だよ。」









手足が急激に冷えた感覚がした。
顔はこおぱって動きやしない。
今の顔がわからない。無表情なのかもしれない。笑顔なのかもしれない。でも泣いてはない。温かい液体が涙から流れていることも、目頭が熱くなることもなかった。
みんな固まる中。冷静に物事を進めた、というより話を進めたのは葉奈君だった。


「…。人殺しをすれば、出れる?そう言ったな?」
「はい。殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺斬殺呪殺…殺し方は問いません。
『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』。それだけの、たったそれだけの簡単なルールです。
最悪の手段で最良の結果が生み出せるよう、精々努力してください。」


「…そんなのって変だよ!」


今まで声も動くことさえできず息すらやっとだった私が咄嗟にこんな大声を出した。


「人を殺すだなんて、そんなの絶対あっちゃダメ!それを教唆させるだなんて、学園長としてどうなの?!
まずそのへんなぬいぐるみから腹話術するのやめて、本人が前からでてきたらどうなの?!
私たちはあなたの狂った箱庭じゃない!オモチャでもない!一人の人間なの!だから…」
「だからなぁに?」

心底『こいつ何言ってんだ』と言いたげな顔で首をかしげて私を見た。

「オマエみたいな生ぬるすぎる子にはわかんないとは思うけどさあ…。こんな脳汁ドバドバ、溢れるドキドキ感っていうのは鮭とか人間襲う程度じゃ味わえないんだよね。
オマエラみたいな『世界の希望』が、『希望』同士が殺し合って、『絶望』なシチュエーションが始まる…。
これは文月さんにはわからない感情だよねぇ~~? だってさ…オマエみたいなのがボクにとって一番嫌いな人種なんだからさ…。」
「お前、生徒に手を出す気か?!」
「手を出すわけないじゃん! “オマエラが手を出して”そうしてやっと意味があるんだから!
ボクは文月さんみたいな希望を掬いだして生きる糧見つけさせて世界を希望に変えていく人種が嫌いなの!
だから、そんな彼女が絶望する瞬間を期待してるね…。」


あーはっはっは!と高笑いするモノクマに固まる人が多い中、冷静なのが何人か。
いや、本当は色々と考え事をしているものかもしれない。
当の私は現実味のない熊に、モノクマに意味がわからない殺意を向けられてへたり込んでしまった。
誰もこの異様すぎる考え方をするモノクマに歯向かう者はいなかった。
何と言ったって口が上手い上に(単に私が丸め込まれやすい体質のせいなのかもしれない)、手を出す発言をした葉奈君に対してあの“校則違反”というものを盾に取るような言い方。
何されるかわかるのが丸わかりだ。

「柏浦さん、葉奈さん、あなた方あの熊どうにかできるんではありません?
梶浦さんが素早い動きで捕縛、その隙に葉奈君が解体解剖…そうすれば、あの熊は黙ってくれるかと。」
「無駄だやめとけ。どうせあの“校則違反”、竹刀で叩かれるだとかそんな体罰とかで済まされる問題じゃない。」
「俺だって反対だぜ!あれぜってぇ“なんでも”やるって!死にたくないぞ俺は!!」

予想通り、というよりも私と同じ考えで真っ向から否定してくれた。
モノクマはその様子を見てニヤニヤとしながら


「そうそう!二人とも危機感知能力が高くて助かるねぇ!
じゃなきゃ本当に死んでたよ。」

と、ギラリと爪をだして皆を睨む。
その様子を見て皆、凍り付いた空気をさらに凍り付かせる。
空気が重く、息がしづらい。

「まあ、卒業というルールを話したわけだし、みんなにこれを渡しておきます。

じゃっじゃーん! 『電子生徒手帳』~~~~!」


モノクマは一人、また一人と懇切丁寧にタブレットを渡す。
16人に渡し終えると演台に座り直し、パンパンと届かない手を叩き正面を向かせる。

「はい。では皆さん行き届きましたね。
『電子生徒手帳』。電子化された生徒手帳です。」
「…iPhon〇?」
「ちっっっっっがう! 話は最後まで聞け!
まずこれはこの学園生活に必要不可欠なものです!なくしたら復元できないので注意してください!
起動時に名前が表示されるので確認しておいてね。ちなみにこれ、他にも使い道あるからあまり軽視しないでね!
ちーなーみーに、これ完全防水、耐久性抜群、10tの重さも耐えられるとっても頑丈なものだからあまり乱暴にしちゃダメだけど、乱暴にしても壊れないから安心してね!
あとここに詳しい“校則”が書いてあるのでそれも読んでおいてね。

破ったらこの世にはいられないほどの厳しい罰が待ってるからね!

校則違反はダメだからね! ルールは人を破りはするけど人を守りもするんだ。社会にも法律がなきゃ平和が成り立たない…でしょ?
だから厳しく罰しなきゃなんだよー!わかったー?

では、これで入学式を終了致します。
みんなー!仲良く楽しく殺し合ってくださいねー! ではではー!」



そう言ってモノクマは演台から姿を消した。


その間、私たちは固まってしまっていた。
そんな中、沈黙を破ったのは、柚月君だった。

「あ、あのさ。」
「…んえ? 柚月君どうしたの?
…これからのこと考えなきゃ?」
「駄目だと思う。ここでずっと過ごすのも絶対ボク達のためにならないし。」

うん、とキリッとした顔で言う。
判断力は人一倍あるようで、どこか冷静なんだなと思わせるような人だった。

「ずっとここにいることに反対なのは私も反対です。
…具体的にはどういったことを考えているんですか?」
「…モノクマに提示された選択肢について考えておこうと思って。
一つ『この場所でずっと、一生ここで末永く学園で過ごすこと』
二つ『ここに集められた仲間を殺すこと』。」
「二つ目は絶対ありえないって! この中にそんな非人道的なこと、非道徳的なこと考えている奴がいるとは考えにくいぞ!」
「一ノ瀬クン…気持ちはわかるんだ。
ボクだって考えたくない。けれど…けれどね。」

ぐっと…握りこぶしを…手が白くなるまで握りしめて言葉を貯めている。

「ど、どうしたの? そんなに言いづらいこと?!
…無理して言わなくても…」
「いや、言うよ。これは言わなきゃいけない。」

すぅ、はぁ、と深呼吸した彼は「前置きとしてね」と付け加えたうえで話した。

「これはみんなとって残酷な結論になるかもしれない。
これはみんなにとって仲が裂ける結論になるかもしれない。

それでも言うね。」







「あの、モノクマの言うことを真に受けて、本当に犯罪を犯す人がこの中にいるかもしれないんだ。」




柚月君が声を絞り出して言った言葉は私たちを飲み込んだ。
柚月君が人のことを信じてないのかもしれない。
でも普通に考えたらそうなのかもしれない。
疑心暗鬼に陥るのは仕方ないのかもしれない。
この大人数の絶望を希望に変える言葉が思いつかない。



嗚呼……………







私、カウンセラーなんかじゃないよ。






一般的な高校生なんだよ。














こうして、私たちの華々しい学園生活が始まった。


華々しい?




そんな暖かくて未来溢れる言葉はない。



絶望的で、悪辣な学園生活が始まった。




私たちの『絶望的な学園生活』。




これが私の、運命の一歩だった。













chapter00 プロローグ END



~生き残りメンバー~


『超高校級のカウンセラー』 文月 詩乃
『超高校級の幸運』 柚月 茜
『超高校級の小説家』 泉 鏡也
『超高校級のパティシエール』 天宮 苺
『超高校級の調香師』 牧里 梓音
『超高校級の科学者』 葉奈 京助
『超高校級のカードゲーマー』 戸田 久遠
『超高校級のゲームマスター』 月村 スバル
『超高校級のパルクール選手』 梶浦 竜輝
『超高校級の美容師』 小深山 唯香
『超高校級のバトミントン選手』 野々坂 鈴奈
『超高校級の演劇部』 一ノ瀬 裕里
『超高校級の園芸委員』 諏訪野 芽依
『超高校級の会計士』 レイラ・アレクシス
『超高校級のシステムエンジニア』 漆間 亘
『超高校級のオペレーター』 豊馬 羽衣



残り:16名

Re: ダンガンロンパad lib0 ~こんにちは絶望学園~ ( No.10 )
日時: 2023/01/03 20:04
名前: 大瑠璃音葉 (ID: vaXSOZHN)

こんにちは!大瑠璃音葉です!
本家に負けず劣らずの個性豊かな超高校級の生徒達・・・!
続きがめちゃくちゃ気になります!
次回も楽しみに待ってます!

Re: ダンガンロンパad lib0 ~こんにちは絶望学園~ ( No.11 )
日時: 2023/01/03 22:29
名前: しゅんぽこ (ID: 3.eiOtcJ)

ども!しゅんぽこです!
コメント失礼します!

どのキャラも超個性的な生徒達ばかりですね!俺が応募したキャラも特徴をしっかりとらえていただき、ありがとうございます!
さて、プロローグが終わり次から1章が始まりますね。
果たして、どんな展開になるのか!?
それでは!

追伸:少し訂正があるのですが、>>8の諏訪野の下の名前は『芽依』です。>>9の最後の名簿の小深山の下の名前は『唯香』です。


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